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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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57話 金色の地獄への切符 2

 まず四楓院家は本家と分家にハッキリ分かれており、分家は特に影響力や何かがある訳ではなく、本家から目は掛けられるが普通の家庭か少し良い暮らしをしてる程度らしい。それがお家の古くからの決まりらしく、ハッピーリレーの三ツ橋エリスは分家の子だ。


 本家は古来から由緒ある家で、戦国武将の武家に(たん)を発し、その後から今に至るまで多大な財を築きつつ、日本の経済にも関わって来た家だそうだ。


 四楓院家は会社を持つ際は四楓院の名は出さず、普通の名前を付けて経営するため家自体はそこまで有名ではないらしいが、上流階級の世界では非常に名の知れた家なのだそうだ。


 金融系に強い力を持ち、企業への融資や貸付を行う会社を経営していたり、銀行などにも強い影響力があるという、時には相場のコントロールなどもやってると噂があり、その影響力は渡辺社長でも全容は分からないらしい。


 そしてメディア業界にも強い影響力を持つそうだ、テレビや新聞、今はネット関連の四楓院系企業も多く、芸能事務所や大手の劇団にも大口の出資をしてるらしい。それ故に四楓院が推した芸能人は必ず売れるし、逆に四楓院に嫌われた者は業界から去る事もあったそうだ。


(あの爺さん! なんでそういう事を説明しなかったんだ! 怨念があそこまで強くなってたのは芸能関係の人達の念もあったのか!)


 灰川がそう思ってる間も話は続く、こんな逸話を聞かせてくれた。




  性格が変わる復讐


 かつて四楓院の分家の人で大手のテレビ局に入社してアシスタントディレクターをしてた人が居た、その人は優しい人だったが上司のディレクターに肩がぶつかったという理由から壮絶なイジメが始まったそうだ。


 他の人たちが見てる前で大声で馬鹿だの無能だの罵られ、仕事に関しても無茶な仕事を押し付けたり、テキトーな説明でミスをさせて罵倒したり、とにかく酷い扱いを受けたらしい。


 その様子を見た当時有名な売れっ子男性アイドルが居て、そのディレクターの番組の常連だった彼も分家の人のイジメに加担したそうだ。


 自分の前を通って気分を害したとかいうフザケた理由で土下座を強要して頭に水をぶっかけて笑い者にしたりと、調子に乗った芸能人が如何に悪質な存在かを見せつけるかのような有様だった。


 彼はテレビ局を退職しようとしたそうだが、その段階になって突然に件のディレクターが人目も(はばか)らずに番組制作の場で土下座して謝って来たらしい。


「ごめんなさい!ごめんなさい! もう二度としません!俺には家族が居て娘は今年高校に行くんです!家のローンも車のローンも残ってるんです! 許して下さい!!」


 などと言って来た、しかしその分家の人には既に本家から通達が来ており、彼を許すかどうかは自分で決めなさいと言われていた。その結果は。


「……知らないですよ、車と家を売れば良いじゃないですか、娘さんの高校だって義務教育じゃないんだし行かなくても良いと思いますよ?」


 分家の人は壮絶なイジメを受けて優しかった性格が変わってしまい、ディレクターを許すことは無く、ディレクターはその日限りでテレビ局に来ることは無くなった。それまで人気番組を作ってた輝かしい経歴と共に、メディアの世界には二度と足を踏み入れる事が出来なくなったそうだ。


 イジメに加担した芸能人は芸能事務所に所属する人間全てがテレビ局に来て、分家の人に土下座したそうだが、その日からその芸能事務所に所属する芸能人はテレビどころか地方巡業ですら見かける事は無くなった。 


 一時期は人気アイドルが消えたことでファンが騒いだが、すぐに騒動は収まり忘れられた。芸能界は『お前の代わりなど幾らでも居る』どころか『お前の立ち位置は俺が、私が奪ってやる!』という世界だ、入れ替わりは激しい。




「金融関係の逸話もあるが、政治関係も凄いんだよ…」


 政治の世界にも四楓院家は影響力を持つ、四楓院家には政治家も多数出入りしており、与党野党問わず影響があるそうだ。


 とある議員は四楓院家に気に入られ、予想では最下位落選だったのが四楓院の力で当選させたという話がある。


 その時も当主の陣伍がその候補者が所属する党の党首に「○○議員(・・)君のこと、よろしく頼むよ」と、まだ当選してない人物の事を議員と呼ぶ事によって『党がバックアップして当選させろ』と伝えたなんて話もあるそうだ。


「う、嘘でしょう…? そんな凄い家なんですか…?」


「灰川さん、そんな凄い家の人と関わってるんだ…」


 大きな名家だとは思ってたが、そこらの小金持ちとは違う巨大な権力者だ……金だけではなく各所にパイプを持って、力を持つのは本家だけという制約を持って目立つ事なく情勢に関わる、まさに政商、フィクサー、影の権力者といった出で立ちだ。


(怨霊が力を付ける要素モリモリじゃねぇか! 知ってたらちゃんと用意してお祓いに行ったっつーの!)


 八重香にとり憑いた怨霊が何故あんなに力を付けたのか、どんどん理由が明かされる。それはそうとして渡辺社長の話は続いてる。


「そして灰川君が貰った金名刺だけどね、それは四楓院家に多大な助力をした人が貰える特別な名刺なんだ」


 四楓院家の金名刺には3つのランクがあり、下から『金名刺』これは単に金名刺に誰宛に渡した物かを示す字が書かれた物で、四楓院家に深い関りがある事を示す物らしい。これですら渡される者はごく限られた人だそうだ。


 次点で『当主判付き証明』これは四楓院家当主の判が押してある物で、四楓院家のお抱えの大切な人に渡されるらしい。


 最上位が『当主判付き拇印(ぼいん)押し証明』で、これは四楓院家の当主の命の危機を救ったとかレベルの人に贈られるとか。


 しかもそれらの物は当主や家の人間が、渡す者の人格や考え方を見た上で渡す物らしく、ならず者や人格が悪いと判断された者は受け取れないそうだ。


「僕は関わった政治家先生から存在を教えられて写真で見せられた」


 上流階級の四楓院と関りのある人間には四楓院家から金名刺の種別を表す写真と、どこの誰にどの名刺を渡したという通達が来るらしい。まだ渡辺社長はそのクラスに達してないようで、その写真とやらは貰ってないそうだが、それでも四楓院家がどのくらいの力を持ってるかは人伝(ひとづて)で知っている。


 そして何より怖いのは渡辺社長がどのくらい知ってるかを、四楓院家が知ってるという事だろう。写真を見せた政治家から伝わったのか、思いも付かない手段なのかは知らないが恐ろしい情報力だ。


「灰川君が渡されたのは最上位の当主判付き拇印押し証明だけど…どうやら更に上があったみたいだね」


「更に上って…これがですか…?」 


 だんだん持ってるのが怖くなって来た、これは明らかに分不相応という物だ。灰川は霊能力以外は普通の一般人と変わらない。


「それには判子と拇印押しがしてあるけど、拇印は二つ、当主と次期当主が揃って押してる上に…その拇印、たぶん血判(けっぱん)だよ…」


「~~!?」


 血判とは強い意志を示すために古来から用いられて来た物で、絶対に違わぬ、絶対に裏切らないという強く硬い意思を示す物だ。


「灰川さんはたぶん、当主と次期当主の命より大事な何かを守ったんじゃないかな? 僕にはそれが何なのか分からないけど、多少なら予想は付くよ、お子さんを助けたとか」 


「…………」


「貢献したっていう以外にも、どうやら相当に気に入られたようだね。これがあれば基本的に四楓院家の力をいつでも借りれると思うよ…凄いパワーを持った名刺なんだ」  


 この金名刺があれば多大な力を持つ四楓院家の力がいつでも頼れる、確かに凄いだろう。しかし。


「俺じゃ持ってても意味無いですね、政治家なんて出来る訳も無いし、金融関係とか頭脳的に無理ですし、芸能界に入れるルックスもないですしね~」


「灰川さん、それは短絡的すぎるんじゃないかな」

 

 一般人が普通に生活するのに有力な政治家の力が必要だろうか?金融関係の職に就いて無い者が金融界の有力者と繋がってても一般人には特に意味はない、しかし……。


「これは参った事になったぞ…灰川さんを何としてでも我が社が獲得しなければならなくなってしまったんだからね」


「えっ?」


 芸能界は話が別だ、目の前にいる渡辺社長はシャイニングゲートの芸能界進出を狙ってるし、隣に座ってる澄風空羽こと自由鷹ナツハはその尖兵だ。


「そんな大袈裟な、渡辺社長は今の話を全部真に受けるって言うんですか? 絶対に誇張とか入ってますって」


「どうなんだろうね…僕自身も全部が本当なのかは少し疑わしいと思ってるけど…」


 渡辺社長の顔は真剣だ、灰川とは見て来た物が違うのだ。信じるに足る何かを知って、見て来てるのだろう。


「灰川さん、ここは是非にシャイニングゲートにお付きの霊能者兼相談役として~……」


「社長、少し灰川さんと二人でお話ししても良いですか?」


 空羽が社長の言葉を遮って話す、最初は渡辺社長は急ぐような素振りを見せたが、空羽の真剣な面持ちに圧され頷いた。社長にも頭を冷やす時間は必要だろう。




 少しだけ静かな部屋の中でお茶を啜る、唐突な大きい話に驚いてた間にお茶はすっかり冷めてしまっていた。


「灰川さん、これからの事は凄く良く考えた方が良いと思うの」


「おいおい、空羽まで…」


 灰川は本当は担がれてるんじゃないかと言おうとしたが、空羽の真剣な面持ちに気圧されて黙ってしまった。


「社長は嘘は言ってないと思う、たぶんその名刺は凄い効果があるんだよ」


 この金名刺には権力という力が詰まってる、これの力を使えば政治家にだってなれるだろうし、灰川ですら俳優になれたりもするだろう。


「私個人としては、その名刺の力はあんまり使いすぎない方が……」


「最悪だ………」


「えっ?」


 空羽は灰川にあまり権力に寄って力を行使するのは良くないと諫めてくれようとしたようだが、灰川は俯いて小さく呟いた。


「金と権力と名声に溺れた霊能者の末路は悲惨な物だよ、ロクな死に方しない…」


「………!」


 灰川家はかつて富と権力に溺れて没落した家系であるが、それは灰川家以外にも多くの前例がある。自身がその例のようにならない特別な人間だとは、灰川にはとても思えない。


「空羽はナンバー1のVtuberとして高校生ながら多額の金銭と名声を得てるよな…? でもそれって裏を返せば凄く破滅(・・)に近いって自覚はあるか…?」


「それって、どういう…」


「さっき渡辺社長が話したテレビ局のディレクターの話を思い出さないか? 調子に乗った奴は痛い目を見る」 


「あ……」 


 空羽は自由鷹ナツハとして富と名声を得てるだろう、それは一般人が手にするより大きな金額であり、名声を手にすればするほど特別な存在になる。


 だが若い者が、ましてや高校生が多額の金と名声を手にし、権力者からの顔覚えも良かったらどうなるか……大抵の奴は調子に乗る。


「で、でも…私は調子になんて…」


「そうなる可能性は普通の人たちより高いって話だ、俺もその一人になるスタートラインに立たされた」


 調子に乗ってる者は自分が調子に乗ってる自覚なんて無い、無意識に他人を傷つけ、無意識に謙虚さという物を忘れてるものだ。


 力に溺れ、自分は凄い、自分は偉い、自分は何をしても良い、そういった事をナチュラルに考えるようになり、その考えが当たり前の物として染み付いていく。灰川は親から口酸っぱく教えられて来た。


 さっきの渡辺社長の話のイジメをしたディレクターや男性アイドルとやらが典型だ、調子に乗ってたと気が付いた時には家族や周りを巻き込んで破滅、最悪である。


 ドラマや映画、小説の世界には『ざまぁ』というジャンルがある、主人公を虐げてた者達が何らかの形で報いを受けたり没落したりする話で、シャルル・ペローの物語のシンデレラという話に代表されるだろう。


 世の中の人達はシンデレラが成り上がり、意地悪な継母と義理の姉たちが痛い目を見るストーリーに溜飲(りゅういん)が下がるだろうが……自分が継母と義理の姉と同じになってないか?と疑う者は少ないように思える。話を読んで自分がざまぁされる側の人間になってないか?とは考えない人が多い。


「刀を持てば人を斬りたくなるって言葉がある、それを証明するように江戸時代には辻斬りという通り魔が横行した…人ってのは簡単に調子に乗っちまうもんなんだよ…」


「…………」


 空羽は神妙な顔で灰川の話を聞いていた。自分は調子に乗ってないか、自分は金銭や名声に溺れてないか、自身に問いかけるような表情だ。


「私も…もしかしたら調子に乗ってた所があるかも…」

  

 灰川を諫めてくれようとしていた空羽にも何かしらの心当たりがあったらしい、若くして才能と容姿が認められ、多くの金銭を稼ぎ、業界ナンバー1となった高校3年生、全く調子に乗るなという方が無理だろう。

 

 調子に乗った者は指摘されたって聞きはしない、もし何かしらの時には誰かが空羽に注意したとしても、その時の精神の状態によっては聞き入れなかった可能性はあるだろう。しかし今は灰川の深刻な顔を見て自らを振り返った。


「調子こいてたのは俺かもしれん、今まで霊能力は人生において無い物として考えてきたんだ、この金名刺だって似たような物と考えるべきだろうな」


 霊能力なんていくら強かろうが不確かなものだ、もしかしたら寝て覚めれば無くなってたっておかしくはない。解明されてない事象なのだから、人生において無い物としてカウントするのは普通の事かも知れない。最近はその不確かな物に頼りっきりだった。


 この金名刺だって同じだ、所詮は他人の力であり、何でも思い通りになる権力を一般人に与えるなんて危険極まりない。灰川はこの金名刺の威力がどの位の物かは知らないが、先の話を聞く限り自分が無暗に使えばロクな事にならないという自覚がある。


「これの事は秘密にしてもらう、幸い四楓院って家が凄い事はあまり知られてないしな」  


「そっか、その方が良さそうだね」 


 こうして金名刺はいざという時に限り使うと暫定的に決める、渡辺社長にも金名刺は持ってない物とカウントして貰わなければならないだろう。そうでなければシャイニングゲートに自分が入るのは危険だと灰川は感じてる。


 復讐系怖バナと権力系怖バナを混ぜてみましたが、書くの難しいです。

 たぶん何かしらの書き足りてない部分や齟齬があると思いますが、おおめに読んで下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 両方の会社の外部顧問(オカルト重視)が収まりが良さそうだよね。
[一言] 過ぎたるは及ばざるが如し、ここで自制出来るのはさすがです。
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