表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/332

52話 四楓院家の怪異 4

「いだいっぃっ!! いだいよぉっっ! たすげてぇぇ~~!!」


「八重香っ! やえかぁっ! お願いです!苦しめるなら私にしてっっ!!」


「もう止めてくれぇ!! なんでこんな酷い事をするんだぁっ! 八重香はまだ5つなんだぞぉっ!」


 苦しむ娘に寄り添って父と母が必死に懇願する、その思い(むな)しく、強すぎる怨念と恨みを抱いた存在には届かない。


 この怨念はかつて四楓院家に殺された人達の念だ、ある者は戦場で無念の討ち死にをしたのだろう、ある者は米を奪われ家族全員が極限の飢えの中で絶望の内に死んだだろう、ある者は渇きに耐えかね毒の水を飲み苦しみの内に死んだだろう。


 それらの四楓院家の被害者の中には女子供も居たはずだ、八重香と同じ年の子が苦しむ姿を見ながら死なせるしかなかった親の念もあるだろう、因果応報、かつての報いが子孫に回って来たのだ。


「灰川さんっ! どうにかしてあげて!」


「ああ、待ってろっ」


 それでも今苦しんでる八重香に罪は無い、報いを果たすべき者はもうこの世に居ないのだ。子々孫々に渡って恨みを果たしたい気持ちも分からないでもない、灰川とて同じ事をされたら同じように恨みを抱くかもしれない。


 だが自分は生きてる人間だ、四楓院家に恨みはなく八重香を憎む気持ちも無い。ならば死霊の怨念と化した者達の味方は出来ない、これが今現在の四楓院家の者が起こした事が原因だったら考えは違ったのかもしれないが、少なくとも罪の無い子供が苦しみと死の報いを受けるべきではない。


「市乃、俺のお札は持ってるな?」


「うんっ、ちゃんと持ってる」


 市乃には灰川が作った魔除けのお(ふだ)を持たせてあるから、ある程度は邪気に耐えられる筈だ。家の者も他の霊能者が作った魔除けの品を持たせられてるそうで、それが力になって今も屋敷の中に居ても耐えれてるらしい。


「すぅ~~…はっっ! せいっっ!!」 


 霊力を強く込めて灰川は印を結ぶ、しかし…その時に印を結ぶ手が一拍だけ遅れた、それはハッピーリレーで昼間にマッサージを施術したため、手の筋肉が強張っていたからだった。


 マズイと咄嗟に感じる、これでは効果は半減だ……と思った時だった。


「オンッッ!!」


 まだ10代と見える腕に包帯を巻いて片目を長い前髪で隠した少女が強い気迫を伴った声を発する、その声が八重香の部屋に響き、それに続いて。


「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子~……」


 流信和尚が汗を流しながら般若心経を唱えてる、他にも霊能者は居たはずだが後ろを見ると過労からか倒れてしまった様子だ。  


「どうにかうなされる程度には落ち着いたようじゃの…灰川(はいかわ)(うじ)、印を結ぶのに失敗しなさったな、半分の成果も出せておらなんだ、それでも見上げた強さだがの…」


「申し訳ありません…ご助力ありがとうございます…」


 流信和尚には失敗を見抜かれ包帯の少女からも、無言で非難するような目を向けられた。


「ち、違うんですっ! 灰川さんは昼間に仕事でマッサージをして手が疲れててっ…!」


「ならば印呪法ではなく、言霊(ことだま)呪法や呪歩法などに切り替えるべきでしたな」


「おっしゃる通りです…言葉もありません…」


 灰川は目の前で酷い苦しみようを見せた八重香に心を乱し、自分の身体的な疲労などを鑑みず咄嗟に得意な印呪法を頼ってしまった。自分の未熟さが嫌になる。


「幼子を助けようとする心持は立派ですがな、己の状態を見極め選ぶ事も大切ですぞ」 


「はい…ご忠告感謝いたします、流信和尚」


 灰川は土壇場での失態を反省し、己を(いさ)めてくれた流信和尚に感謝する。


「どうやら残った霊験者は3人だけのようですな、我々で話をしようかの」


「はい」


「………」


 流信和尚はどうやら最初の方から屋敷に来てたらしく、上手く力をセーブして倒れないよう努めてたらしい。


 そのまま灰川たちは大広間へ行き話の場を設けた。




「まずは自己紹介からかの、ワシは流信雲寺という寺で住職をやっておる流信和尚、本名は佐藤浄命(じょうみょう)


 流信和尚は代々に渡って寺の家系だそうで、霊能力は仏門の修行中に開花したそうだ。それ以来は寺の業務をしつつ、彷徨える魂を成仏させる事に従事してるらしい。


 和尚は名前を名乗ったが、問題は無いようでそのまま灰川と市乃もちゃんと自己紹介をした。


「自分は灰川誠治です、霊能者の家系に生まれましたが、職業ではありませんでした」


「私は神坂市乃です、四楓院家の分家に当たる家の者です」


 名乗りを上げてから3人の目が腕に包帯を巻いて髪で左目を隠した少女に向く、年の頃は市乃とそう変わらないように見える。


「…………藤枝…」


 ボソッと何かを言ったが灰川は聞き取れず、もう一度聞こうとした所を和尚が代わりに説明してくれた。


「この子は藤枝(ふじえだ) 朱鷺美(ときみ)というそうでな、あまり人と喋りたがらん性格のようだ」


「………」


 どうやら意思疎通にかなり難がある子のようだ、霊能者はたまに人から煙たがられて人間嫌いになってしまう者もあり、どうやらそのタイプらしい。


「では2人ともよろしくお願いします」


「よろしくお願いします、八重香ちゃんに手を貸してあげて下さいっ」


 灰川と市乃が挨拶を終えて、さっそく今までのオカルト方面での対処の話を聞いた。 


「それについては四楓院家の纏めた文書があるぞ」


 流信和尚から書類を受け取り目を通す、そこには今まで実行したオカルト的な処置が書かれていた。




  布津宮神社 神主様の祈祷


 様々な祈祷やお祓いをしてきた実績のある布津宮神社の神主を呼び、八重香を見てもらった所、非常に良くないモノ、怨念や呪いと呼ばれるモノが取り憑いてると言われた。


 医者の先生方には反対されたが、関係者の中には嫌な気配を感じてる者が多かったため、そのまま祈禱とお祓いをお願いし実行してもらう。


 祈祷をして貰った所、祝詞を読んで頂いてる時に八重香の容態が多少の落ち着きを見せる。呼吸が依然早いものの苦痛は少し和らいだようで、表情も多少の落ち着きが戻る。


 20分程経過した所で神主様の顔色が悪くなり、突如として吐血、倒れてしまい病院へ搬送。その際に神主様から「とにかく祓える力を持った人を探せ」との旨の事を言われ、霊能力者やお祓いを受けてくれる人を続々と探し始める。




  霊能力者 中島 真子


 都内在住の占い師兼霊能力者の中島先生を呼び見てもらう、その際に「死相が出てる…怨念も強すぎる…」と絶句した様子が見られた。


 すぐに八重香の前に座り怨念との交信を試み、何が望みかを聞かれた。八重香から他人の物としか思えない声で「我らは四楓院家に殺された、この家の者を皆殺しにする」という旨の言葉が発せられる。


 中島先生にも八重香にも四楓院家の過去の因縁の事を話しておらず知らない筈であり、それを口にした時点で悪霊の仕業と断定した。


 続いて中島先生がお経を唱え始めるが、部屋の電灯が割れて戸や窓がガタガタ動き、お手伝いさんの数人が恨みの籠った声や視線を感じて体調に異変をきたし倒れた。


 中島先生は「とても私の手に負えない」と語り、その直後に倒れて搬送された。




  霊能Your-tuber メラメラファイヤー


 視聴者登録数8万人の人気動画投稿者で動画撮影の許諾を条件に除霊を請け負い、スタッフを連れて四楓院家の屋敷に来たところ、敷地に一歩入った途端に全員が目と耳から血を流し救急搬送される。


 他の霊能者の先生に話を聞いたところ「アイツら罰当たりなこと散々やってる連中で、それまで憑いてた怨霊が屋敷に入って活性化した結果」とのこと。


 少し調べるとお墓に落書きしたり、心霊スポットにゴミを撒き散らす等をしていたようで、これ以降は四楓院家に呼ぶ霊能者の人は厳選する事となる。




 この他にも何名も霊能力者を呼んでは倒れるを繰り返してるようで、最初の方はインチキ霊能者も多数呼んでしまってたらしい。


 しかし結果は本物だろうがインチキだろうが倒れて病院行き、今は回復してる者も多いようだが、中には耐えすぎて重症になった人も居るらしく、回復してない者も居るようだ。


 朝花寺の怨霊祓い住職、教会のエクソシストの認定資格を持つ神父、何人もの人を霊能力で呼び出してきたイタコ、その他にも様々な霊能者と思しき人達の名が連ねられていた。


 中には、霊能料理人とか霊媒画家、悪霊キックボクサーなんて人まで来てたようだ。


「悪霊キックボクサーってなんだよ…悪霊じゃねぇか…」


「………ぶっふっ…!」


「灰川さん、その人知ってるの?」


「いや、知らない」


 藤枝と名乗った寡黙な少女が灰川の言葉に噴き出した、それは皆で見なかった事にして話に移る。


「とにかく色んな霊能者や祓い屋が来ては倒れて行ったのう、かく言うワシも限界が近い…」


「……私も…そろそろ………」


 流信和尚も藤枝朱鷺美も限界は近いらしく、もう体力的にも厳しいらしい。さっきの八重香の発作を抑えるのにも精神力を使ってしまったため、二人では次に大きな発作が来たら抑えられないとの事だ。


「見たところは灰川氏はかなり強い霊験をお持ちのようだ、先程の失敗の呪法ですらワシや藤枝嬢の本身に匹敵する力にお見受けした」


「…………うん…強かった…」


 灰川の霊能は強い、しかしそれを持ってしても八重香に取り憑いてる怨念は祓えない。もし真っ向からのぶつかり合いだったなら勝算はあった、しかし人に取り憑いてるとなると話は変わってくる。


 怨念が人に取り憑いてしまってる場合は、無理に祓えば被害者の精神に多大かつ不可逆的な影響を及ぼす場合もあるし直接的な身の危険もある、今回であれば5歳の子だから精神も体も未発達で、その可能性は爆発的に上がる。


「文書を一通り読みましたが、有効だった手法はお経や祝詞、その他にも騒がしい祈祷などだったみたいですね」


「うむ、他の手法も試したが効果は薄かった、直接的な言葉や音を用いる儀式が有効だったぞ」


 お祓いには色んな方法がある、呪い被害者に滝浴びさせるなどの苦行系や、とにかくお経を唱えるなどの耐久系、お祓いをする者が踊ったり歌ったりなどの舞踏儀式系、その中でも今回は大きな音が出る系統のお祓いが効果を出していたらしかった。


 先程も灰川が真言を唱えたり、大きな声や呼吸をした時には明らかに発作は弱くなった。もちろん灰川の霊能の強さに寄る所も大きいが、それでも効果は見て取れた。


「じゃあ大きな音が出るお祓いをすれば良いってこと?」


「それも難しいな…そういう儀式って沢山の祓い師とか巫女が必要になるし、お坊さんを何人も集めてお経を読んでもらうのとかも難しい」


 人に取り憑いた強い怨霊を祓うには大きな儀式が必要になる、しかし今の時代に強い霊力を持った神職や仏門の人間は多くないし、そもそも霊とか信じてない神職仏職の者も非常に多いのだ。


「流信和尚さんっ、知り合いのお坊さんとかは紹介できませんかっ?」


「すまんな…既に呼んで全員倒れてしまった」


 市乃が聞くと流信和尚の知り合いの仏職や神職の人は全員に声を掛けたらしい、既に人脈は使用済みだ。藤枝にも市乃が聞いたが「………友達…居ないよ…」と返って来た。


 八方塞がりといった空気が流れ始める、一応の光明は多数の霊能者を集めて大きな儀式を行うという手法が有効そうだという事が分かった程度だが、そんな事は和尚も藤枝も考えてたらしい。


 しかし現実的では無いのだ、大きなお祓い儀式というのは、例えばお経を唱えるにしても同じリズムで同じ読み方をするお坊さんだけを集めなければならない、呼吸や読み方がバラバラになれば怨霊にまで響く事はない。


 舞や祝詞を用いるにしたって、やはり熟練した技能が必要になる。そんな人たちを探してる暇は無いし、見つかったとしていきなり来てもらえる訳がない。


 しかもその人たちには怨霊に対抗するための霊力や呪力が必須、それが無くては幾ら対抗しようと、このレベルの怨霊には意味を成さない。


「あっ、そうかっ…! アレがあった!」


 灰川が何かを思いつき、和尚と藤枝と市乃に話を持ち掛ける。



「今まで使う事なかったから忘れてたけど、俺は陽呪術で人に簡易的な霊能力を一時的に持たせる事が出来ます」


 「「!!?」」



 この一言は救いに繋がる、少なくとも『霊能力がある人間が多数必要』という条件のクリアに繋がるからだ。


誤字報告を下さってる方々、凄く助かってます、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 某女神が転生してないゲームだと、ハマ系じゃなくてカジャ系ですもんね、バフはお手の物ですか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ