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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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49話 四楓院家の怪異 1

 玄関先で尋常じゃない光景を見た後に屋敷の中に入っていくと、中は夜の10時にもなろうという時間なのに騒がしく色んな人たちが動き回ってる。


 そんな中で灰川と市乃は女中さんに声を掛けられ、座布団とテーブルのある部屋に通されお茶を出された。


「市乃の本家ってこんな凄い家なんだな、驚いたよ」


「うん、でも私のお母さんの実家だから神坂の家は分家だし、分家は多いから私はそんなに覚えてもらえてないと思う」


 市乃の母親は兄弟姉妹が多く、そのため親戚は多い。一応は挨拶に何度か来てるそうだが、祖父や祖母にそこまで構ってもらった覚えもないそうだ。


 それでも少しは親戚付き合いもあり、先程の叔母も覚えていた。そんな説明を受けてる内に部屋の中に人が入って来た、その人物は70代くらいの男性で、まだまだ若々しさを感じる老人だった。


「久しぶりだね市乃ちゃん、ワシの事は覚えとるかね? Vチューバーというのをやっとるらしいな、ワシは詳しくないが」


「もちろん覚えてるよお爺ちゃん、私の方が忘れられてるって思ってたくらいだもん」


「そうか、孫達にはあまり構ってやれんで申し訳なく思っとった、すまんな市乃ちゃん」


 市乃と祖父は仲が悪い訳ではなく、むしろちゃんと祖父は孫の事を心配してくれてたみたいだ。同時に元気に育ってくれて嬉しいと感じてるのが分かる笑みをたたえてる。


「お爺ちゃん、こちらは灰川さん」


「おお、こんな時間にすみませんな、ワシは四楓院(しほういん) 陣伍(じんご)といいます」


「いえ、自分は灰川誠治といいます、屋敷に入った時から危ない存在の気配は感じましたが、何があったんですか…?」


 簡単に自己紹介を済ませて本題に入る、灰川としてはこんな嫌な気配を感じてるのは久方ぶりだった。


 質問をした瞬間に市乃の祖父の陣伍の顔つきが変わる、それを見て灰川は面接(・・)が始まるのだと理解した。


「灰川さんは何を感じてますかな…?」


「何も感じませんね、なので帰って良いですか?」


「は、灰川さんっ!??」


 まさかの手の平返し発言に市乃が驚いて目を丸くする、たったいま自分から嫌な感じがしてると言った矢先の発言だ。


「灰川さん何言ってんのさ! さっき凄い嫌な感覚がするって言ってたじゃん! そうとうヤバいって!」


「いや無理だコレ! 市乃の本家は一体何しでかしたんだ!? 神社か寺でも燃やしてバーベキューでもしたのかよ!? 物凄い祟りと呪いの気配がするぞ!」


 そんなレベルの祟りの気配が漂ってる、ここまで酷い祟りの気配は初めてかも知れなかった。


「やはり祟りとお気づきですかな、灰川さんは本物の霊能者の方のようですな」


「いやニセモノなんで、自分じゃお役に立てないっていうか~」


「お爺ちゃん、灰川さんは凄い霊能者だよ、八重香(やえか)ちゃんに何があったか知らないけど、灰川さんが来たならもう安心だから」


「おい市乃! 俺は何かするなんて言ってないぞ!」


 本物だという事はすぐにバレてしまった、孫娘である市乃が証言した上に、今までも本物の霊能者は状況を言い当てるか、自分は役に立てないとかニセモノ霊能者だと言って帰ろうとしたそうだ。


「灰川さん、まずは話だけでも聞いて下さらんかね?」


 陣伍は灰川と市乃に今までの事情を話すと言い、順を追って話し始めた。



 四楓院家は戦国時代にとある武将に仕えた武家で、戦果をいくつも上げて大変に重用された家だったそうだ。


 しかしそんな四楓院家も戦果を上げれば上げるほど敵からは憎まれる、しかも時には農民から米や物資を取り上げたり、敵軍が使うであろう井戸に毒を放り込んで様々な人たちを巻き込んだとされている。


 戦争で受ける敵からの憎しみは現代を生きる我々では想像できないほど苛烈な憎しみだ、農民から米を奪うなど命を奪うに等しい事である、井戸に毒など敵軍以外にも多くの被害者が出たはずだ。


 それらの憎しみは呪いとなって四楓院家に降りかかった、当時の当主はある日突然に気が狂って池に飛び込み溺れ死に、その子供たちも次々に不幸が訪れる。 


 次期当主の長男は屈強な体自慢の男だったが謎の病で瘦せ細って死に、次に跡継ぎになった次男は剣術の達人だったのに自分が振った刀で足を傷つけ死んだ、三男は大変な戦の策士だったが病に掛かり文字すら読めなくなって廃人に、まるで当人たちの人生をあざ笑うかのごとき最後を迎えた。


 四楓院家にはその時に他家に出されてた四男が居て、彼が呼び戻された時に高名な僧侶に頼んで鎮魂と慰霊をしてもらい祟りは収まったそうなのだが、全てが終わった訳ではなかった。


 それからも四楓院家に恨みを持つ怨念が当主の夢に現れ、必ず復讐を続けると言い続けられて来たそうだ。



「それが今だったって訳ですか? よくそんな昔話を信じましたね」


「灰川さんもお分かりの通り、屋敷の中には凄まじい嫌な気とでも言うモノが満ちてます、他にも様々な現象が起こっていますのでな」


 本家の人間はある日に同時に同じ夢を見たそうだ、それは凄まじい形相の男とも女ともつかない者に『貴様らの家を根絶やしにする』と言われる夢だったそうだ。


 そこからは本家の者は体調に異変を発症する者が続出し、今は奥の間で寝かせてる八重香という人物が最も重い症状が出てるらしい。


「とにかく一度、八重香の様子を見て下され、そしたらワシが言ってる事が嘘ではないと分かる筈です」


 そう言われて灰川は取りあえず、その人物を見る事にした。玄関口近くの客間を出て陣伍に案内されて屋敷の中を歩いていく。


 嫌な気配が漂いながらも解決のために様々な客を呼んでるから屋敷の中は活気がある、広い屋内を人が行きかう様は大きな親戚行事でも執り行ってるような感じすらした。


「しかし広い屋敷だな、市乃の家もこんな感じなのか?」


「私の家は普通の一軒家だよ、四楓院本家は特別だって」


 中庭も前庭にも見事な手入れがされており、これぞ純日本家屋といった出で立ちだ。しかし建て替えられてまだ10年も経ってないのか造りは新しい。


 あちこち見ながら進んで行くと嫌な気配が色濃くなる、件の人物が居る屋敷の奥の部屋に行きついたようで、陣伍が扉を開けると室内は凄い事になっていた。


「うっ……!」


「なにこれ…」


 まず部屋の戸を開けた瞬間にあまりに強い邪気と邪念が部屋から溢れ出してくる、もはや霊嗅覚など無くても嫌な匂いとして感じ取れるレベルだ。


 部屋の中に黒い(もや)が掛かったように見えるし、電灯はたまにチカチカと明滅してる、そしてとにかく気配が凄い、部屋の中央から凄まじい怨念が感じられた。


 灰川は四楓院家の人達が怪奇現象だと判断した理由が即座に分かった、これは霊能力が無くたって『呪われてる』と判断するに足る感覚だった。


「オン・カーン・ウン・キリーク・ウン・ア~~……」


「ああぁぁあっっ! おとうさんっ!おかあさんっ゛!たうけてっ!あぁぁぅぅぁ==!」


「八重香っ! しっかりして! 負けないでっ!!」


「お願いだ! 八重香の体から出てってくれっ! 俺ならどうなっても良い!!」


 梵字真言を汗を流しながら正列で唱える壮齢の僧侶と、しめ縄で結界を張られた部分の周りで娘を励ます両親の姿がそこにあった。


 結界の内側には布団が敷いてあり、そこに苦悶の表情でうなされてる人物を見て灰川は驚いた。その子はまだ幼稚園くらいの幼い子供だったのだ。


「弱くて呪いやすい幼児を狙ったな…可哀想に…」


「八重香ちゃんっ…あんなに苦しそうにっ……」


 もはや苦しみ以外の感覚が残されてない程に苦しむ幼い子を見るのは居たたまれない、真言を唱えてる僧侶も邪気に負けないよう必死に唱えてるが完全に押し負けてる。 


 灰川は何も言わず部屋の中に踏み込み、そのまま僧侶の横に座り背筋を伸ばして合掌してから、僧侶が唱える真言に合せて口を(おごそ)かに開いた。


「オーム ア モー グァ ヴィー ロー チャー ナ マ ハー ムッ ドゥラー マ ニ パッ ドゥマ ジュヴァ ラ プラ ヴァ ルッタ ヤ フーム」


「オーム ア モー グァ ヴィー ロー チャー ナ マ ハー ムッ ドゥラー マ ニ パッ ドゥマ ジュヴァ ラ プラ ヴァ ルッタ ヤ フーム」


 僧侶は最初は灰川の事を(いぶか)し気に見ており、経文を唱えてる最中でなければ怒鳴って追い出してただろう。


 しかし自分と全く同じ呼吸で同じ真言を唱え始めたのを見て、同類だと判断して真言を唱える事を継続した。


 すると部屋の中の空気が軽くなり、黒い靄が収まり、八重香を包んでいた邪気が軽くなった。


「君は誰だね? 光明真言を唱えられる所を見ると~……」


「自分は灰川といいます、名前の方は邪のモノの前ですので勘弁して下さい」


「ふむ…灰川という(あざ)を聞いた事は無いが、神通力(じんつうりき)は強いようだの、アレを収めるとはな…」


「僧侶様の真言あればこそです、僧侶様こそとても困難な修行を積まれたようで」


 悪い存在は名前に取り憑く事があるから名乗りはしない、灰川はチラと結界の中に寝かされた八重香を見ると、今は落ち着きを取り戻して眠りについていた。


「ご両親、今は灰川(はいかわ)(うじ)の助力のおかげで娘さんは落ち着いておられる、少し休むが良いでしょう」


「見張りの方は付けておいた方が良いです、緊急的な物でしたので長持ちはしません」


 僧侶と灰川は両親を部屋の外に出し、長時間も邪気に晒されて両親の体に蓄積された邪気を祓った。


「ありがとうございます! 娘がやっとっ、落ち着けましたっ…!」


「あ、ありがとうございます、流信和尚! そちらの若い方は…?」


 八重香の両親は何度も僧侶と灰川に頭を下げる、年齢は灰川より少し年上くらいだろうが、その顔は既に娘を心配し助ける事を願う親のそれだった。


 誰か?と聞かれて灰川は少し困る。自分は僧界に籍を置いてる訳でもなく有名な霊能者でもない、1000年前に没落した家系の生まれで現在の肩書は配信企業のアルバイト、有難(ありがた)みも何もあったもんじゃない。


英明(ひであき)伯父さん、晴美(はるみ)伯母さんっ、この人は灰川さんっ! 凄い霊能者さんなんだよっ!」


「お、おい市乃っ……」


 市乃は灰川の活躍に胸が熱くなったのか、頼まれても無いのに灰川の紹介をしてくれた。


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