表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/333

44話 家に呼ばれる 2

 灰川は一旦自宅に戻り用意を整え近くの公園に戻って来て詳細な住所を聞いたり道順を案内してもらい終えた、時刻は夜の7時30分頃で、既に飛車原母娘と神岡母娘は集合していた。

 

「誠治、ちゃんと戻ってくるのよっ」


「灰川さんっ、お願いしますっ」


「おう、任せとけ二人とも」


 灰川の服装は至って普通で、近所のコンビニにでも行くようなラフな格好だ。


「じゃあちょっと行ってきますんで、真奈華ちゃんの中からあの家に行きたいって気持ちが消えたら成功です」 


「お願いします灰川さん、真奈華ちゃんを助けてあげて下さいね」


「娘をよろしくお願いいたします」


「ちゃちゃっとやって来ますんで、お茶でも飲みながら家で待ってて下さい」


 軽口を叩いてから灰川は歩き出し、教えられた家に向かって行った。そこは灰川のアパートからは500m以上離れており、灰川の霊的な感知力では気が付かない距離だ。


 場所は教えられたが現地に行くのはこれが最初で、真奈華がまたあの家を見たら入ってしまう危険があるし、そうでなくともトラウマを刺激する事になりかねない。 


 灰川は普通を装って歩く、コンビニに今夜のビールでも買いに行く青年と変わらず、近所の自販機にジュースを買いに行く住人と変わらず、普通に歩く。


 しかし上着やズボンのポケットには少し普通ではない物が入ってる、もし通報された時のために酔っぱらってたと言い訳するためにウイスキーの小瓶が入ってるし、上着の内ポケットにはお(ふだ)に使う紙や筆などの物が入ってる。


 見つかった所で捕まるような物では無いが、明らかに普通の持ち物ではない。そういった怪しさを感じさせないよう普通に歩いて表情も普段と同じだ。


 曲がり角を曲がって直進し、スマホを触ったりしながら歩いてまた曲がる、少し進むと明かりの点いて無い白い家が見えてきて、周囲に一瞬だけ目配せをする。


 誰も居ないか?近隣の家の窓から誰か見てないか?声はしないか?それらを確かめ素早く敷地に侵入し、目立たない所に移動して家屋への侵入路を探る。


 真奈華の情報によると一階は全ての侵入路が潰されており、唯一のルートは外階段を上がった2階の窓だけ、そこを目指して音を立てないよう階段を上がって移動し、真奈華が侵入したと思われる窓に取り付いた。


「……鍵掛かってるな…」


 2階の窓には鍵が掛かってる、しかし少し強く押してみるとカコッという音が鳴って窓が開いた。そこの窓は留め金が壊れてるようで、鍵が完全には掛からないようになってしまってるようなのだ。


 よく見ると少し変だ、まるで何度か開けられてるような痕跡があるし、暗くて分かり辛いが窓のフチは何度も触られてるかのように汚れが無く綺麗な部分がある。恐らくは真奈華以外にも多数の人間が呼ばれて侵入してるようだ。


 そんな事を気にしてる場合じゃない、灰川は手早く窓から侵入して家の2階に降り立った。カーテンは閉められており多少のライトな付けても大丈夫そうなので、懐から小さな弱めのライトを取り出して点灯した。


 家の中は聞いてた通り何も無い、2階を調べても各部屋には何も残されておらず、多少の埃が溜まってるだけの普通の空き家に見える。 


「真奈華ちゃんの話だと売りに出されてるって言ってたけど、たぶん売られてはねぇな」


 売り物件は不動産屋が来て掃除をして内見客に良く見えるようされてる事が多い、しかし埃があるし掃除されてる雰囲気も無いから売り物件では無いのだろう。怪談事において話された事と事実が違うことはよくある。


 灰川はそのまま一階に降りる、すると雰囲気が変わった……誰かに見られてるような、歓迎されてないような雰囲気を感じる。


 しかしそれは別段には気にならない、そんな程度の物に怖がるほど灰川の霊能力は弱くはないのだ。


 それでも空き家の中の暗がりというのは雰囲気がある物で、全く怖くないという訳ではない。階段を降りた先で曲がった時にホラー映画に出てくるような幽霊が居たら、祓う事が出来るとはいえ驚くし怖いに決まってる。


 霊能者なら感じ取れるだろう?と言われる事もあるが、だったら『お前は生きてる人間を気配だけで完璧に感じ取れるのか?』と聞いてやりたくなる。霊能力は万能ではない、感じ取れる事もあれば感じ取れない事もある、そんな物である。


 しかし…それでも灰川は嫌な気配はさっきから感じてる、呪いの気配や濁った念の感覚、それらの発生源を探すために真奈華が座り込んで背後に気配を感じたという畳敷きの部屋に向かった。


「念は感じる…呼び家ってのも分かる…でも怨念や恨みの念は感じない… これは……欲か…?」


 霊能力を使って探っていく、この家は不特定多数の者を呼び寄せるタイプの家だ、しかし灰川は歓迎されてない。恨みや憎しみといった念も感じない、霊は居るのかもしれないが灰川を恐れて出て来ない可能性の方が高い。


 灰川は霊能者だが悪霊や怨霊を目にする機会は少ない、彼自身が祓う力を持ってるし、強い能力を有してる事に感づいた怨霊は自ら近づいてくるような真似はしないのである。なので実は灰川は視覚的な霊に対しての耐性は低かったりする。


「なんだろう…何が目的なんだ? 人を呼び寄せて何がしたいんだ…?」 


 更に霊能力を深く使って家の目的を探る、真奈華には確かに呪いは憑いていた、ツバサにも影響を少しながら与えていた。それらを加味して探っていくと、一つの場所に念が集中してる事が分かって来た。


 そこに向かい歩いていく、そこは洗面所だった。


 灰川は注意深く見ていく、洗面台、風呂場、洗濯機を置くための水場台、そこそこ広い洗面室に広めの浴室をしっかり見ていくが、怪しい部分は無い。


 もう面倒になり、陽呪術を使って祓って終わらせるかと考え、お(ふだ)の紙に筆に墨を付けて、邪気や念を祓う文字を書き込んでいく。


 その段階で家の中の気配が強くなり、灰川に抵抗して来るが気にも留めない。この程度では灰川には効果は無いのだ。


「あ、お札落としちまった」


 拾おうと思ってしゃがみ、床に手を伸ばすと妙な感覚を覚える。それは床下から洗面室と風呂場を包むような、何か偏執(へんしゅう)的((かたよ)った意識)な何かの念を感じる。


 灰川は水場の工事や修理のため床下に入るための床にある蓋を開けた、そこから家の床下特有のカビ臭い匂いと共に、異常な念を感じ取った。


「色欲の念…? なんで床下からそんなもの…」


 色欲とは性的な事に対する情念であり、普通なら床下から感じられるような代物ではないが、確かに灰川は感じていた。


 そちらに対する注意を怠っていた。灰川が探っていたのは恨みや憎しみといった、呼び家にありがちな念だったから、色欲の念の探知はしてなかったのだ。


 床下に降りて屈んでライトで周囲に変な所は無いか探す、夜の空き家の床下なんて流石に不気味で怖いが、根本解決の確率を高めるためには探査は欠かせない。


「なんだよこれ……」


 少し床下を探すと異常な部分はすぐに見つかった、それは幾つかの不自然なスペースだった。床下に人が一人立てるくらいの狭いスペースが洗面所や浴室の壁の中に何個かある。


 そのスペースの下には踏み台のような物が置いてあり、まるで『ここに立て』とでも言わんばかりの構造だ。最初は水回りの何かを直す時のために使う部分かと思ったのだが、どうやら違いそうだ。


 それは位置的に見て洗面台や浴室の洗い場の壁の中……つまり鏡がある場所だったのだ。灰川はそこに立ってみると、この家が呼び家になった理由がすぐに理解出来た。


「マジックミラーかよ……嘘だろ…?」


 その家は洗面所や風呂場の鏡の裏から中が見える造りになっていたのだ、これは明らかに覗きをするために作られた家であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 幽霊じゃなくてもヤベェ奴www [一言] 斜め上のホラー展開キターwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ