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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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43話 家に呼ばれる 1

「貴子、由奈ちゃん、この度はうちの娘がお騒がせして……」 


「ごめんなさい…貴子おばさん、由奈ちゃんもごめんね…っ ぐすっ…」


「ううん、姉さん良いのよ、真奈華ちゃん大変だったわね」


「そうよ! 真奈華お姉ちゃんは悪くないわ! 誠治が証明してくれるんだからっ!」


 飛車原家の寄り合いでは異物である灰川を尻目に、騒ぎの謝罪を済ませて自己紹介に移った。ちなみに父親は飛車原家と同じ会社の同僚でパートナーして働いており、一緒に海外へ行ってて来れないらしい。


「それで…この方は誰なの貴子…? お知り合いでしたっけ…?」


「申し遅れました、自分は灰川誠二と言います、由奈さんの所属する配信者事務所のアドバイザーを短期間ですが担当してます」


「誠治は今度、ハッピーリレーの私たちのマネージャーになるのよ! 霊能力も凄いんだから!」


 由奈がそう言うと黙っていた真奈華の母親が少し混乱したような顔をする、しかし貴子さんの姉と言う事もあって霊能関連は少しは理解がある素振りを示してくれた。


「か…神岡(かみおか) 真奈華(まなか)です…、よろしく…」


 由奈の従妹(いとこ)の真奈華はよそよそしく灰川に挨拶をする、その様子を見て灰川は「由奈に似てるな~」と思っていた。


 中学3年生としては低い身長、髪形も由奈と同じツインテールだが、こちらは後ろ側で二つに髪を分けた大人しい印象を受ける髪形だ。


 顔は由奈に落ち着きを与えて生意気さを取った感じの可愛らしい子だ、しかし今は自分がしてしまった何事かに落ち込んでる様子で、元気さは感じられない。


「そうでしたか、でも今回はそういう方面ではなく、娘の真奈華(まなか)が疲れて間違ってしまっただけなので……」


 灰川の紹介も終わった所で真奈華(まなか)の母親が喋る、娘の恥になるから詳細は語れないが、それでも感じ取れるものはある。 


 しかし今の状態では話をしても耳を素通りしてしまうだろう、それほどまでにこの場の空気は重く暗かった。中学生の女の子が警察の世話になったのだから無理もない。


「あー、真奈華ちゃんだったよね、実は俺も警察のお世話になった事あってさ、今は落ち込んでるだろうけど元気出してよ?」


「えっ…? そうなん…ですか?」


「えっ? 誠治も何かしちゃった事あるのっ!?」


 こういう時は自身のあまり明かしたくない同種の過去を明かすと少しは元気になってくれたりする、それを期待してのカミングアウトだった。


「俺の罪状は器物破損、転んだ先に居酒屋の看板があって壊しちゃったんだよね、それが騒ぎになって留置所行き、ありゃキツかった~」


「そ、そうなんですかっ…? その、ご愁傷様です…っ」

 

 真奈華は話に食いついてきた、こういう時は不幸を分かち合うのが一番だ。


「しかもその時の刑事(デカ)が超怖い人でさ、ツイてなかったよねマジで」


「わ、私の時は優しく聞いてくれましたっ…」


「羨ましいねぇ、こっちは怪我はするし怒られるし賠償はあるしで最悪だったよ、はははっ」


「運が悪かったんですね……っ」


 期せずして警察の世話になった者同士の会話で少し打ち解ける、まだ会話は続いていた。


「まあ、あんま落ち込まない方が良いよ、警察の世話になる人なんて結構居るんだから、俺が中学の時も何人か引っ張られてたし」


「そ…そうですかっ、そうなんですね…っ」


「大丈夫、大丈夫、不安になるだけ損だよ~? 前の職場の同僚なんて週末は酔っぱらって、取っ捕まって留置所入って、次の日に出て来るの繰り返してたんだから、ホテルかよって話だよ」


「ぷっ、くすくすっ…! すごい人なんですね」


「そうそう、あんな所はちょっとした休憩場所って思っときゃ良いのさ、その方が気が楽よ? 俺なんて全然気にしてないもんね~」


「くすっ、あはっ、あはははっ! 灰川さん、由奈ちゃんが言ってた通り、面白いですっ」


 ここで暗かった雰囲気に光が差した、普通では聞けない大人の警察話を聞いて、よくある事だと少しは感じてくれたようだ。


「運が悪かったと思って忘れた方が良いよ、色んな人が経験してるんだからさ」 


「あはははっ! あははっ、ぅぅ…ぐすっ…! うぇぇーーん…! 怖かったよぉ! お母さんとお父さんに嫌われるって思ったよ~~! うぇぇーーん!」


 灰川の話に緊張感が取れ、溜まっていた怖さとか警察の世話になった悲しさ、情けなさが溢れ出て来たのだろう。真奈華は思い切り泣いてしまった。


 これも灰川の思いやりの一つであった、真面目で優しい子がこのような体験をすると、自己の内に感情を溜めてしまって、より酷い心的外傷後ストレス障害、トラウマになってしまう事がある。


 特に中学3年生という年齢で、真面目な普通の女の子がそんな経験をしてしまったら、酷い記憶として後々まで引きずるのは目に見えている。


 そうならないためには心の緊張を早めに緩めてあげて、溜まった物を吐き出させた方が良い。少なくとも灰川はそれが一番の対処だと思ったからそうした。


「真奈華…っ! 怖かったよね、辛かったよねっ…! お母さんもお父さんも真奈華を嫌いになったりしないわよっ…! うぅ…っ!」


「そーだよ真奈華お姉ちゃんっ! アタシだって嫌いになったりしないわよっ! アタシがVtuberになるの応援してくれたもんっ!」


「真奈華ちゃん、安心してね? 私たちはいつだって真奈華ちゃんの味方よ」


 こうして真奈華は家族や親類は味方だとちゃんと知る事ができ、立ち直るための一歩目を踏み出すスタートラインに立てたのだった。




 その後、真奈華はたっぷり30分泣いてから落ち着きを取り戻し、話に入る事が出来た。


「真奈華ちゃん、何があったか話してくれるかな?」


「誠治が来たからには安心して良いわ真奈華お姉ちゃん! ハッピーリレーとアタシが認める霊能者なんだから!」


「お母さん、灰川さんに…話しても良い…?」 


「真奈華の好きにしなさい、灰川さん、聞いてあげて頂けますか?」


 こうして灰川は真奈華にある程度は心を許され話を聞く事となる。




  入りたい家


 中学3年生の真奈華は学校と部活が終わった後に下校してると、帰宅途中にある一軒の家の前で立ち止まった。比較的に新しい一軒家で2階建ての白い普通の家だ。


 その家は少し前に住人が引っ越して売られる事になり、今は空き家になってる家だった。真奈華は今まで特にその家に興味は無かったし、まじまじと見る事も無かった。


 でも何故かその日はその家に強く興味を引かれ立ち止まって、数分の間もその家をジっと見てしまった。


 次の日も、その次の日もその家に興味を引かれる、明るい時間には閉じたカーテンの隙間から見える家の中を歩道から必死で見ようとし、暗い時間に通りかかった時は明かりの無い真っ暗な、人気(ひとけ)のない家をジッと見る。


 そんな事が1か月以上も続いたある日、真奈華は遂に我慢が出来なくなり家の敷地に入ってしまう。暗くなった夜の7時に庭を通って、ドアが開いて無いか確かめ、窓が開いて無いか確かめる。


 この家に入りたい、入りたい、入りたい!!その思いが強くなり止める事が出来なかった。一階のドアや窓は全て閉まってる、これでは入れない。しかし2階に上がれる外階段があり、そこから外2階に上がり調べると窓が一つ開いていた。この時に真奈華は心から嬉しい感覚があったらしい。


 窓から中に靴を脱いで侵入し、電灯もライトも無いまま家の中を探索する。まずは2階の和室、なにも無い、階段を上がった先の部屋、なにも無い、中間の部屋、なにも無い。


 2階を探索しても何も無かったが、とても楽しい気分だった。そのまま一階に降りて探索を続ける、空き家だからなのか歩く度にミシッとかキィとか家鳴りがするが、それすら楽しい。空き家だから床は埃があって靴下も汚れるが、全く気にならない。


 真奈華は一階を探索する、洗面所、浴室、トイレ、リビング、各部屋、どんどん見て行き、何も無い空き家の中を探索していった。最後に一階の畳敷きの和室に入り、畳の上に座り込んで楽しい気持ちを噛み締めるように物思いに(ふけ)っていると……心の中から違和感がザワザワと大きくなり始めた。


 なんで自分はこんな事をしてる?…なんでこんな何も無い暗い空き家に一人でいる?…なんで楽しいって思ってたの?……急に意識が現実に戻って来たかのようになり、怖さが体と心から一気に湧き上がる。


 全身が震えて動けなくなる、怖い、怖い、動けない!頭が混乱してどうすれば良いのか分からなくなる。その時に座ったままの自分の背後に強い気配を感じた。振り向いてはいけない……そう感じた瞬間に咄嗟に体が一つの行動を取った。


「いやぁぁぁーーーー!」


 全身全霊で叫び声を上げ、その声に気が付いた近隣の住民が通報、真奈華は住居不法侵入の現行犯で捕まってしまったのだった。




「なるほど、そりゃ酷い体験したね、めっちゃ怖かったでしょ」


「はい…今思い出しても、なんでそんな事をしたのか…」


 怖い思いをした上に警察の世話になる、二重の意味で最悪な出来事だ。しかしまだ最悪な事は続いてる。



「真奈華ちゃん、その家に今も行きたいって思ってない? 正直に答えて」


 「「!?」」



 灰川の問いかけに場に居た全員が驚いた顔をする、そんな訳はない、反省した筈だ、真奈華が二度とそんな事をするはずが無い、そう信じてるからだ。


 問いかけに真奈華は答えない、いや答えられないのだ。もしハイと言ってしまったら失望される、家族を裏切ることになる。だがイイエの声も出せずに居た。


「話の内容から`呼び家`っていうのは分かるんだ、呼び家って言うのは人を呼び寄せて中に入らせて、何か悪いモノを憑かせたりする家の事、よく怪談でも出てくる」


 廃墟や空き家に必要以上に好奇心を引かれる場合は呼び家である確率が高い、そういう家は各地にあるが真奈華が掛かってる呪いは明らかに強い。それは不安にさせないために本人には伏せる。


「真奈華お姉ちゃんは、その家に呼ばれたってことかしら?」


「たぶんそうだな、真奈華ちゃんには現に何らかの悪意ある呪いが掛かってる、呼び家の呪いに掛かった人間は程度の差はあるけど何度でもその家に行きたくなるんだよ」 


 呼び家は心霊スポットなどに多く、何かの(いわ)くがある家に多い。大概は空き家か廃墟で、真奈華が入ってしまった家も空き家だ。


「実は…行きたいと思ってる感じがするんです…っ、私は行きたくなんてないのにっ、気を抜いたら勝手に足が向いてしまうようなっ、そんな感覚がするんですっ…!」


「真奈華…そんな、何でっ…!」


 正直に打ち明けてくれて、その告白に母親も驚くが灰川は真面目に、かつ不安にさせないよう堂々と自信を持った態度をしながら話を続けた。


「話してくれてありがとう、呼び家っていうのはそういう物だから真奈華ちゃんは一切悪くないよ」


「……! …ぐすっ…はい… ありがとうございます…っ」


 灰川はあくまで真奈華は悪くないと強調し、言い聞かせて分からせるように話していく。


「それで誠治っ、真奈華お姉ちゃんの呪いはお祓いできるのっ? どうなのっ?」


「まあ待てって、もう少し説明させてくれ、真奈華ちゃんとお母さんが納得できんだろうし」


 理解して貰えるかどうかは別として、説明はするべきだ。


「呼び家には結構な種類があって、恨みが原因とか、何かの未練が原因とか、無差別に人を呪いたいとか、色々あります」


 その他にも霊が自分が死んだことに気が付かず生前と同じように人を招いてるとか、誰かに何かを伝えたくて呼び家になってるとか、物によって様々な原因がある。 


「手っ取り早い対処は家を取り壊すことです、家が無くなれば残留した念も消えますから」


「ですがそれは……」


 所有権の無い家を勝手に壊すなんて無理だ、そんな事したら本当に逮捕されてしまう。


「2つめの対処は呪いを受けた人をお祓いするという物ですが、お勧めできません。すぐに同じ状態に戻ってしまうでしょう」


「そうなのね……じゃあどうすれば良いのかしら?」


 貴子さんが聞いて来た、この方法ではこの方法では一時的な解決すら見込めない事が多い、今回のケースは必ず元の木阿弥(もくあみ)に戻ってしまうと灰川は判断した。


 その前例は非常に多く、数々の相談を受けた霊能者も呪い被害者を祓うだけでは元に戻るを繰り返してきた。


「3つ目は、その家に行ってお祓いをするという方法で、犯罪に当たる行為ですが一番現実的なのがこの方法です」


 「「!!」」


 呪いの元凶となってる建物に行ってお祓いをする、これが最も早く解決する方法だ。実はこういった事を専門で請け負う霊能者もおり、その場合はリスクも高いため高額な報酬を払う可能性が非常に高い。しかもそういう事を請け負う霊能者は倫理観が欠如してる事も多く、詐欺師同然の輩も多い。


「娘を…そんな家に、また行かせろと言うんですか…? そんな事は絶対にっ…!」


「ああ、行くの俺一人ですよ、だから俺以外は安全です。警察とかには黙ってるのと、例の家に俺以外は近づかないって条件は付きますがね」


「それって誠治だけ危ない目にあうってことじゃない! そんなのっ…!」


「良いも悪いもない、別に死ぬ訳じゃねぇんだし、捕まってもすぐ出て来れるって」


 捕まった際の言い訳は酒を飲んで酔っ払って入ってしまったが良いだろう。


「という訳で準備をしましょうか、俺もその家に興味あるし暇潰しには丁度良いですよ」


「そんな…でもっ…! もし捕まったら…っ」


「さっき言ったでしょ? 俺は警察に捕まったって休憩場所くらいにしか思ってないって、それに全然気にしないしね」


 これは嘘だ、本当は捕まりたくなんて無い、しかしもし捕まった場合は真奈華や由奈が自分たちが頼んだせいでと自己嫌悪に陥ってしまうだろう。そうならないための精神的な保険だ。


 灰川は個人的にツバサ、由奈のことを気に入ってる。会って間もないが懐いてくれてるのは分かるし、生意気だが優しい所も気に入ってる。そんな由奈の力になってあげたいと思ってしまった。


 それにこの一件には真奈華という子の将来が懸かりかねない件でもある、何度も不法侵入を繰り返せば本当に社会的に危険な立場に立たされてしまうかもしれない。それを見過ごすことは出来なかった。


「灰川さん、どうか…よろしくお願いします、御恩は必ずお返ししますので」


「そうね、よろしくお願いしますね灰川さん、真奈華ちゃんの呪いを解いてあげて下さい」


「いえいえ、俺としては興味本位なだけですよ」


 真奈華の母と由奈の母の貴子さんが灰川に頭を下げる、灰川が真奈華を庇ってると気付いてるのだろう。


 灰川としては由奈の姉同然の子である真奈華を助けてあげたいし、社会的地位が無いに等しい自分なら捕まった所で痛くないという短絡的な思考もある。


「誠治…捕まったりしないでよねっ…! 無事に帰ってきなさいよっ…!」


「おう、任せとけ、心霊スポットに侵入するのは初めてじゃねぇから、たぶん楽勝だろ」


「灰川さんっ、よろしくお願いしますっ…! ぐすっ…!」


「うんうん、任せときなさい真奈華ちゃん」


 こうして灰川は件の家に突撃する事になり、そのための準備に取り掛かる。


 飛車原母娘と神岡母娘に待って貰ってる間に、灰川は100mほど離れた自宅に必要になりそうな物を取りに行き、近くの公園で待ち合わせる事にした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろすぎてここまで一気読みしちゃいました! 投稿がんばってください! [一言] 深夜に読んだせいで部屋の電気を付けないと安心できなくなりました
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