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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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42話 ツバサの家にお邪魔します

「こんにちわ、由奈(ゆな)がお世話になっています、母の飛車原(ひしゃはら)貴子(たかこ)です」 


「こんにちわ、灰川誠二です、よろしくお願いします。あとツバサ、お前の本名って飛車原 由奈って言うんだな」


「そうよ! 良い名前でしょ!」 


「ああ、良い名前だ、凄くその性格に合ってると思うぞ」


 高飛車で生意気な性格のツバサに良くあってる、とは口に出して言わないが少し笑いそうになってしまった。 


「ママ、誠治ってスゴイのよ! こっちが何も言ってないのにバンバン色んなこと言い当てちゃうし、幽霊とかも追い払えるの!」


「おいツバサ…外でそういう事を大声で言うのはよぉ…」


「まあ凄いですね、詳しくは車の中でね由奈」


 ツバサの母は娘より大分落ち着いた性格のようで、落ち着いた母親の風格を持った女性だった。年齢は30代だろう。


 車に乗せられ飛車原の家に向かう、その道中に多少の話をした。


「外ではツバサって呼ばない方が良いか? エリスやミナミも外では本名で呼んでるし」


「どっちでも構わないわ! 由奈もツバサも気に入ってるわ!」


「そうか、じゃあ外では由奈って呼ぶかな、Vtuber名で呼んだら危ないかもしれんしな」


 破幡木(はばたき)ツバサの3Dモデルは飛車原由奈に非常に良く似てる、もしかしたらツバサと呼んでたら身バレする危険があるから由奈と呼ぶことにした。


「灰川さんの噂は娘から度々聞かされました、凄いお力を持った凄い人だと」


「いえ、とんでもないです。今時には古臭い時代遅れの能力です、社会生活に役に立たない…ってことも無くは無いですね、ハッピーリレーにはこの力を見込まれて誘いが来てるんですし」


「ふふっ、私にはそういう能力が無いので、少し特別な感じがして羨ましいです」


「自分としては幼少の頃から修業させられて迷惑この上なかったですよ、はははっ」


 由奈の母とも会話はしてるが、やはりと言うか胡散臭い目で見られてるのは感覚で分かる、だが信頼してる娘の手前で灰川に何事かを追求するのは気が引けてるとも感じてるようだ。


 霊能者は疑いの目で掛かられる事に慣れている、霊能力があると言っただけで詐欺師扱いされる事なんてしょっちゅうあるのだ。灰川も例外ではなく、なるべく能力の事は隠すようにしてるが今回のような場合は隠しようが無い。


 こういった時は霊能力で何かを言い当てればよいと言われる事もあるが、それをすると気味悪がられるし、いつも都合よく何かが分かるような事も無いのだ。ライクスペースであったようなケースの方が少ない。 


 そんな時はただ普通の人間だということを分かって貰うしかない、超能力者のように人の心が分かる訳でも何でもないのだ。そういう部分がなかなか分かって貰えない場合も多々ある。少なくとも嘘つきと思われてる現状は何とかしたい気持ちだ。


「着いたわ! ここが私の家よ!」


「ここって……」


 飛車原の家に到着すると灰川は驚いた、なんとそこは……。


「俺の家、こっから100mくらいの所だぞ」


「えっ、そーなのっ!?」


 灰川の家は電車で渋谷に行くと微妙に時間が掛かるが、車なら短い時間で行ける距離なのである。


「まさかこんなに近い場所がツバサ…いや、由奈の家だったなんてな」


「アタシも驚いたかもっ、でもそれなら都合が良かったわねっ!」


 飛車原の家は結構立派な一軒家だった、地価は都心中央と比べたら高くは無いかもしれないが、それでもかなりの値段のはずだ。見た感じだと築10年くらいといった感じであり、飛車原家は結構裕福な家なのだと知った。


「入って良いわよ誠治!」


「ああ、お邪魔します」


 由奈に言われて家に入ると、他人の家の香りがフワリと立つ。慣れない感じのこの感覚が久々だ、人の家に上がったのなんて久方ぶりだった。


 中に入ると飛車原家は都会の家なのに広くて立派な家だった、掃除も行き届いておりフローリングの床もピカピカである。


 そのままリビングに通されソファーに座らされる、隣には由奈が座り向かいには母親の貴子が座った。


「灰川さん、改めて娘がお世話になっております、騒がしくて(やかま)しい子でしょう?」


「いえ、とても優しく思いやりがあって、Vtuberとしても視聴者の皆さんに愛されてる、凄く良い子です。事務所の人達からも凄く好かれてる子です」


「きゅ、急に褒めるじゃないのっ…! ぅぅ…ちょっと照れるかも…」


 灰川は会話に備える、これは雑談ではなく面接だ。親族の問題、そして何より娘に関わらせる以上は変な奴を受け入れる訳には行かない、ここで信頼されなければ由奈の頼みは聞けない事になる。


「由奈、お客様にお茶を淹れてきて、ちゃんと熱いお茶を淹れるのよ」


「うん、分かったっ! 誠治はちょっと待っててねっ!」


 由奈はお茶を淹れに席を立つ、リビングには母親と灰川の二人になった。


「今はアルバイトをされてるという事ですが、何かご希望の就職先などはあるんですか?」


 ほら来た、と灰川は思う。社会的な立場が無い者は白い目で見られる、それにしても直球に来たなと思ってしまった。


 ここまで直球だと失礼に当たる事象だが、娘が心配な母親としてはオブラートに包んだ言い方よりも、直球で圧を与えた方が速いと思ったのかもしれない。


 今は由奈は母親に言われてお茶を淹れに行ってるから今は1対1の面談だ、場の空気が張り詰める感覚が漂っている。


「今はハッピーリレーさんとシャイニングゲートさんから就職の誘いが来てます、他にも道はあるので今は迷い中ですが、近々決めないといけませんね」


「そうですか、業界ナンバーワンのシャイニングゲートさんからも誘いが来てるんですね、凄いですね」


「いえ、運が良かっただけです」


 当たり障りのない答えをしつつ、ハッピーリレーとシャイニングゲートに感謝する。この名前が出なかったら信用の一歩目は出なかっただろう。


「ハッピーリレーさんではどのようなお仕事をされてたんですか?」


「ホラー配信のお付きの霊能者って感じで雇われたんですが、アドバイザーの仕事の方が多いです、他にも配信者さんに初見感想を伝えるなどしてます、そろそろ期限が来て終わりですけどね」


「もしハッピーリレーのマネージャーさんになったら、どのようなお仕事を?」


「もしなったらですが、配信者さんの側に立ってスケジュールを管理、調整したり、企業案件等の擦り合わせ、配信者さんやVtuberさんの会社への要望を伝える橋渡しなどを任されるそうですね」


「それは由奈、いえ破幡木ツバサにもそのように接して貰えるという事でしょうか?」


「当然です、ツバサさんは中学生ですから、学業に支障が出ないようスケジュールを調整して、企業案件が来た場合も内容を精査して、ツバサさんの意思を尊重して受けるか受けないかを決める事になると思います、会社の側に立たずツバサさんを尊重しますよ」


 会話という名の面接が続く、そこで灰川は違和感を感じていた。何か今までと経験してきた疑似面接染みた会話とは違うと感じ始めていたのだ。


「シャイニングゲートさんに行かれる意思はどのくらいあるのでしょうか?」


「現状では何とも言えませんね、仕事内容に関してはコンプライアンスがあるので言えませんが、適性があるかは分かりませんし」


「ではハッピーリレーに入社する可能性が高いと考えて良いのでしょうか? その場合はツバサちゃんの傍に今のように居て下さると言う事でしょうか?」


「え…? はあ、まあ…そうなりますかね、まだ未定ですが」


「じゃあ灰川さんはハッピーリレーに入られると考えてよろしいのですね?」


「え、いや、ちょ……ど、どうしたんですか? まるで俺がハッピーリレーに入って欲しいかのような…」


 誘導尋問みたいな真似をされた、普通ならこういう時は娘に近づくなとか、詐欺師が関わるなと言われるのが常なのだ。


「はい、私としては灰川さんのような方に娘の近くに居て貰いたいものでして」


「え…? そうなんですか? それは光栄というか何というか」


 意外な答えだった、灰川は痛烈な否定の言葉が来ると思って身構えていたのだ。娘の近くに居て貰いたい理由を聞くと、また興味深い話が聞かされた。


「実は娘は赤ん坊の頃から悪いモノを引き寄せてしまう体質のようで、度々悩まされて不安にされて来たのです」


 母親が言うには由奈は昔から霊媒体質のようで霊や良くないモノを引き寄せてしまうそうなのだ、それは時に母親である貴子にも見えたり感じたりするそうで、それは一度や二度ではないらしい。


 というのも母親もその体質を持ってるそうなのだが、今は娘ともどもたまに神社や寺などにお参りして事なきを得てるらしい。


 その体質は娘の由奈の方が強いらしく、以前から酷く悪いモノを呼び寄せて体調を崩したり、高熱を出したり不運に見舞われたりしてるとのこと。


「霊能力関連の事は最初から信用して貰えてたんですね…身構えて損しましたよ」 


「ごめんなさいね、娘から話を聞いて本物の方というのは分かってました」


 そんな娘を心配してたが、そこに都合よく強い霊能力を持ち、お祓いや除霊ができ、更には陽呪術という物まで使える人間が現れた。


 しかも娘はその人物に大層に懐いており、その人物も娘の事を悪しからず思ってくれている。これを逃がす手はない。


「もし灰川さんがハッピーリレーに残って娘の傍に居てくれたら安心です、私としては灰川さんのような方に娘とお付き合いして欲しいとも思ってますよ~」


「ははっ、ご冗談を、ツバサ…由奈さんが嫌がりますって」


 冗談めかして雑談が出来るくらいには信用して貰えた…という事で良いのだろうか?灰川は少しまだ不安がある。


「いえ、娘は灰川さんの事を、とっても良い香りがするっていつも言ってます、私の旧姓の家の女が良い香りと感じた男性は、とても良い方という言い伝えがあって、事実その通りですから」


 貴子さんの家の女性は代々、香りで男性を見分ける事が出来る体質なのだそうだ。良い人間か、自分との相性は良いか、運気、人格、性格、それらの物が香りを通して理解できる。


「霊嗅覚の一種ですね、俺にはありませんが凄い能力だと思いますよ」


「ふふっ、ありがとうございますね」


 さっきは霊能力なんてないと言ってたが、実は同じような種別の力を有していたようだ。疑われてると思ったのも灰川の早とちりの先入観だったと判明した。


 貴子さんが言うには娘の話を聞く限り、これほど相性が良い相手はそうそうおらず、まさに一生に一度会えるかどうかというレベルらしい。


 由奈は日を追うごとに灰川への好感は上がってるらしく、今だって灰川のために美味しいお茶を淹れようと頑張ってくれてるみたいだ。


「霊嗅覚のこともあってか、私の実家の女は大体が匂いフェチですの、私も最初は夫の香りに魅かれてお付き合いをして、それからどんどん好きになって行きましたから」


「そ、そうなんですか、それはまた…はは」


「夫は今は海外出張で長い間家を空けてますが、灰川さんのような方が現れたとなれば、すぐにでも娘とお付き合いして欲しいと言うと思いますよ」


「はは…いや~、はは…」


 灰川は困ったような笑い声しか出せないでいた、まさかの母親公認で中学2年生の女の子とカップルになって欲しいなんて、冗談交じりとはいえ言われるとは思ってなかったのだ。

 

「年齢の事ならお気になさらず居て下さいね、私も夫と付き合い始めたのは中学1年生の時で、夫は27歳の時でしたから」


「ちょ! それは…また、何というか…凄い話ですね」


「はい、私が一人暮らしだった夫のアパートに侵入…押しかけて、夫の靴下の匂いを嗅いでるのを見られたのが付き合い始めた切っ掛けです」


「ぶっ! アグレッシブですね!?」


 大人しそうに見えて大胆な人だった、しかし貴子さんの家系はそういう物なのかもしれない。


「そうだっ、灰川さんも由奈の匂いを好きになっちゃえば良いんですね、今なら洗濯機の中に由奈の脱ぎたて靴下がありますよ?」


「ん?」


「甘くて酸っぱい思春期の香りと、由奈の靴下のツンってしたちょっぴり酸っぱい香りを知れば、きっと灰川さんも由奈に夢中になっちゃいますよ、夫もそうでしたから」


「いやそれ、変態……貴子さんの趣味なんじゃ…俺は興味無いですし…」


「あ、洗濯機は洗面所にあります、中から鍵を掛けられるので由奈ちゃんの靴下を安心してクンクンすーはー出来ますよ~」


「いや、ぽっと出の男に娘のそんなもの差し出しちゃ駄目でしょ!? 自分の(へき)を娘の知り合いに押し付けるのもダメですって!」


「誠治、お茶入ったわよ! ありがたく飲みなさい!」


 そんなこんなで灰川はツバサこと由奈の母にも信用され、危うく娘を差し出されそうになったが事なきを得た。なかなかぶっ飛んだ母親だ。


 その後は雑談をしながら時間を過ごす、由奈の母親は声優業をしてるようで、様々なアニメや映画の吹き替えをしてると聞いた時には驚いた。 


 そんな職業をしてるから娘にも自由に道を歩ませてあげたいと思い、企業Vtuberになる事を許可したらしい。


 しばらく話をしてると『ピンポーン!』とインターホンが鳴り、遂に飛車原家の親戚の真奈華と、その母親が来訪したのだった。 

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― 新着の感想 ―
ツバサちゃまの母親……思ったよりヤバい奴が出てきましたね……。
[一言] こういう霊嗅覚のデメリットってなんだろう?でもメリットは大きい気がしますね
[気になる点] 作者さんが匂いフェチなのか気になるw
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