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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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41話 ツバサの頼み事

 次の日、灰川は疲れが多少残ったままだがハッピーリレーの事務所に居た。


 ホラー配信で何かが発生したら対処する係だが、事前にお(ふだ)を配っていたし、そもそも何かが起こる確率なんて低いから、配信を見て感想を伝えるという仕事が主になっている。


 忠善女子高校の神隠し事件は空羽と史菜が上手く対処してくれて解決し、警察などにも偶然の発見として処理され聞き取り調査なども無事に終わったそうだ。


 この事は空羽と史菜のちょっとしたお手柄となり、警察や消防からも感謝され、学校からも夜まで校舎に残ってた事はお咎め無し、全部丸く収まった。


 しかも空羽と史菜は行方不明生徒の発見時に適切な対処をしてくれたという事で、表彰されるなんて噂もある。


「キリアコさんはゲーム中の叫びが面白いですね、敵にやられた時に”ッペピっ!”って声が出て来た時には笑いました」


「私の配信は叫びと断末魔が売りなんですよ~! そこを楽しんで貰えて嬉しいです!」


「クラゲンさんは怪談が凄く上手いですね、思わずゾッとしちゃいましたよ。中盤から終盤にかけての話し方が特に素晴らしいと思います」


「ありがとうございます、霊能者さんにそう言って貰えて光栄です」


 どんどん配信を見ては感想を伝えていき、配信者達に初見から見たイメージや印象を細かく言っていった。


「灰川さん、お疲れさまっ」


「佳那美ちゃん、いやルルエルちゃん、配信終わったみたいだね、今日も良かったと思うよ」


「見てくれてありがとう灰川さんっ! 今日も頑張ったよ」


 時刻は午後3時で、ほぼぶっ続けで配信を見ており流石に疲れが出てきた所だ。


「ルルエルちゃんの配信は3回目だけど、かなり慣れてきた感じあるね、笑いやすいっていう性格も良い方向に働いてると思うよ」


「そうかなっ、笑いすぎて視聴者さん達に失礼になってないかなっ?」


 ルルエルちゃんは配信でも非常によく笑う、楽しそうな笑い方、面白そうな笑い方、驚いた笑い方、全体を通してよく笑うから自動的に明るい空気の配信になる。


「さっきのアクションゲームも普通じゃ笑わないような所でも良い感じに笑って、視聴者さん達も釣られて笑ってたし、凄く良い事だと思う」


「ほんとっ? ならもっともっと笑わなくっちゃだねっ!」


「でも笑いすぎて何言ってるか分からない所もあったから、そこは少し気を付けた方が良いかも」


 視聴者の人達はルルエルちゃんの中身が本当に子供だということには気付いてる人も多いだろう、言葉や振る舞いという部分にはどうしても子供という部分が出てしまう物なのだ。


 それでも順調に今の所は進んでる、SNSなどでの情報発信も会社が主導でやってるから個人情報が漏れる事も無い、安全面も大丈夫だろう。


 幼い子をネットの海に出すのは危険な部分もあるが、それを差し引いてもこの子の才能は捨て置くには惜しい。視聴者登録数も現在は5000になったのを見ても才能は確かにある。


「ありがとう灰川さんっ! 明日も頑張るねっ」


「おう、頑張れルルエルちゃん、配信楽しみにしてるよ」


 佳那美はそろそろ帰らなければならない時間だ、法改正で児童労働規約が変わったとはいえ縛りは依然多い、大人のように働かせる訳には行かない。




 その後も配信を見つつ感想を言っていく、ここからは成人配信者が主になり話題もそれに準拠した内容となった。


 それはある程度のセンシティブな内容を含んだ配信である、別に配信者やVtuberが意図してセンシティブな配信をしてる訳では無いが、そうなってしまう事は多々ある。


 ルルエルちゃんのような子供やツバサのようなタイプだったら、意味が分からずスルーしてしまう事も多いが、大人はそうは行かない。


「江尾野さんはセンシティブになりがちな、自身のフェチの話を面白おかしく話してたのは凄いと思いました、簡単な事では無いですよね」


「いえ、前からこういう内容は想定してたので上手く行って良かったです」


 フェティシズムという自身の性癖に関する話など、どうあがいてもセンシティブな内容になる。それを嫌う視聴者も居るから内容は吟味しなければならない。


 時には笑いに変えて、時には意外性で視聴者を驚かせ、面白おかしく話す技量が求められる。それが出来てこそ大人の配信者という物だ。


「るっぴぃチャンネルさんは女性の下着を偶然見てしまった話を、センシティブさを感じさせずに話してたのは凄かったです、ちょっと羨ましいと思っちゃいましたよ」


「あれ本当の話なんすよ~、いわゆるラッキースケベって奴っすね!」


 性の事を含む内容の話は扱いが難しい、笑い話にして話すのが一番だが、それこそが難しいのだ。性に関する事を性を感じさせずに話す、矛盾してることである。


 悲しいかな、人間は生きてる限りは性の事から逃げられない。人間の3大欲求の一つである事象は普通の日常会話ですら度々に話題に上がるのだ、配信者はどこかで触れざるを得ない話でもあるだろう。


 実際に有名なVtuberでも配信を見てると多少のエロネタや、何らかの形で性を感じさせる話は出て来るものだ。逃げてばかりも居られない、時には受けて立つ覚悟も必要になる話題である。




「誠治、ちょっといい?」 


「ツバサ? どうした?」


「ハッピーリレーのマネージャーになるって話、どーするのっ?」 


 灰川が仕事終わりの夕方に休憩ルームで休んでると、配信終わりのツバサが話しかけて来た。


 バイトの期限は今日を含めずあと三日、そろそろ進退を決めなければならない、それは灰川自身も分かっているが決めあぐねてる状況だった。


「そうだな、そろそろ決めないとなぁ~」


「そうよ! 早くマネージャーになってアタシのこと、もっと応援しなさいよねっ」


「おいおい、専属マネージャーを持つには早すぎるだろ」


 ハッピーリレーのマネージャーになった場合は誰かの専属マネージャーではなく、複数名のVtuberや配信者のマネージャーとして働く事になると言われてる。


 労働内容を聞く限りでは簡単ではないが出来ない事も無さそうで、Vtuberや配信者の予定管理、予定組み立て、悩みや要望の相談、その他の雑務や会社と配信者の橋渡し的な役割を任される。


 その際には社長からは必ず「会社の側に立たず、配信者達の側に立って仕事をして欲しい」と言われてる、そうでなければ過去の二の舞になってしまう恐れがあるのだ。


「ライクスペースからの誘いは無かった事になってるけど、シャイニングゲートからの誘いはまだ詳細なこと言われて無いんだよ」


「だから決めてないのね? だったらシャイニングゲートに聞けばいいじゃない?」


「簡単に言うなって、こういうのは待つ姿勢も大事なんだ」


 自分から聞くのは気が引けるし、そもそも詳細な条件が決まってない可能性の方が大きい。今週は忙しいから、それどころじゃない可能性が高いのである。


「連休終わってから決める確率が高いだろうな、とにかくこういう事は気軽には決められないんだよ」


「そうなの? アタシはVtuberになるって決めたらすぐ応募したわよっ」


「ツバサは単純そうだしなぁ、羨ましいよ」


「バカにしてんのっ?」


「違うよ、自分は物事を複雑に考えるようになっちまったなって思っただけ」


 大人になれば人生に関わる決断には慎重になる当たり前のことだが、結局はやってみなければ分からない。それでも考えて動かなければ、より深い後悔に悩まされる事になるだろう。


 灰川は今が正に人生の岐路なのだ、ハッピーリレーのマネージャーか、シャイニングゲートのオカルト相談窓口か、他の職業か、選べることは多くても何が正しいのかは分からない。


「とにかくっ、誠治はハッピーリレーのマネージャーになってアタシを~……」


「あ~、その前に良いかツバサ? 何か知らんがお前さん呪いの影響受けてるぞ? 呪われた場所か呪われた奴に近づいたな、祓ってやるから静かにしててくれ」


「えっ??」


「すぅぅ~~~……せいっ! 終わったぞ」


 灰川は短めの印を結んで呼吸に気を乗せ、ツバサが貰っていた呪いの断片を祓った。呪いの残滓ではあったが、放っておくと怪我か不幸はあってもおかしくない程度には力のある呪いだった。 


 この呪いを片手間に祓えるのは実は結構凄い事だ、実害が出るレベルの呪いは並みの者だったら時間を掛けなければ祓えない。


「どんな…呪いだったのっ…?」


「たぶん誰かが受けた呪いが伝染したなこりゃ、元になった奴が誰だか知らないが割と酷い目に遭うぞこれ」


「…………」


 ツバサは黙ってしまった、灰川は思った事と祓った呪いから予測した事を正直に言っただけだ。


「……誠治、お願い、アタシの親戚のお姉ちゃんに会ってほしいのっ…!」


「ど、どうした? ツバサが俺に頼み事なんて、らしくないぞ」


 ツバサの表情はいつになく真剣だ、いつもの生意気な性格は鳴りを潜め、何かに本当に困ってる様子が伺える。


 思えば今日のツバサは少し変な部分があった、いつもは騒がしいくらい生意気なのに、今日は元気がなかったような落ち込んでるかのような感じがあった。


 配信でミスでもしたのだろうと思って深くは聞かなかったが、どうやら原因は他にあるようで、ツバサは言いにくそうに口を開く。


「親戚のお姉ちゃんがっ…ぐすっ…! 警察に逮捕されちゃったのっ…!」


「それは俺にはどうしようもないって、どうせスピード違反とか路上でイザコザがあったとか、ケチな理由だろ?」


 子供は警察のお世話になると結構な確率で逮捕されたと口にする、実際には交通違反で切符切られたとか、酔っぱらって路上で寝てて留置所に運ばれたとか、そんな話を大袈裟に捉えてしまう物である。


「………ぐすっ…」


「……話せない内容か、無理して話さなくて良いぞ」


 どうやらケチな違反の線は無くなったらしい、明確に何かの罪を犯してしまったというように灰川には見えた。


 ツバサは親戚のお姉さんがそうなった原因は、オカルト的な何かが関わってると信じたいようだ。


「一つだけ聞かせてくれ、親戚のお姉さんは何歳の人なんだ?」


「私の一つ上……中学3年生よ…」


「そうか、交通違反も飲酒雑魚寝も無いわな」


 中学3年生で警察の世話になるのは理由が限られる、それにツバサと仲の良い親戚の子だそうで、犯罪行為に手を染めるような子ではないとの事だった。


 何故捕まったかは今は言いにくいらしく、ツバサはそれを教えようとはしない。口に出したらその子が犯罪をしたと自分まで認めてしまうようで怖いのだろう。


 ツバサは生意気だけど優しい子だ、ハッピーリレー事務所の近くの横断歩道を渡る時に老人が歩いてた時に、ツバサは信号が変わっても老人が安全に歩けるよう、黙って老人より遅く歩いて車が動かないようしていた。


 ハッピーリレーで仕事が上手く行かず落ち込んでた職員が居た時に、何も言われてないのに「アタシの配信を見れば暗い気持ちなんて吹き飛ぶわ!」と言って、職員を元気づけていた。


 この子はよく周囲の事を見てる子だ、だから老人が横断歩道を渡る際の危険に気が付いたし、職員が落ち込んでる事にも気が付けた。そして困ってる人や落ち込んでる人に手を差し伸べる事が平気で当然の事と思い実行してる子なのだ。


 生意気で騒がしい性格なのは元からで、人に突っかかる事もあるけど、悪気はあっても悪意はない。基本的にまだまだ優しさも性格もお子様だ。


「まあ詳しい話は会ってからするさ、いつ会えば良いんだ?」


「~~!」


 そんな子を灰川は嫌いな訳もなく、頼みがあったら聞いてあげたい、困ってる事があったら助けてあげたいと思ってる。甘いようだが、これが普通の心の動きだろう。


「今からよっ! アタシがママに言って会わせてもらうからっ!」


「今かよ!? 俺は良いけど、向こうは大丈夫なのか?」


「問題ないわっ、今日に真奈華(まなか)お姉ちゃんと会う予定だったからっ!」


 どうやらツバサと親戚のお姉さんは近所に住んでるらしく、事件が起こったのは最近で、ツバサの家に騒がせて心配を掛けた詫びを言いに来るそうだ。


 そんな所に居合わせて良いのか灰川は迷うが、ツバサは母親に電話をして説き伏せたようで、結局は今日に会う事になってしまった。


「誠治はママの車に乗ってアタシの家まで一緒に来てもらうわねっ! 夕ご飯もアタシの家で食べていっていいわよっ! わははっ!」


「おう、じゃあ遠慮なく」


 ツバサは安心したようにいつもの調子に戻ってくれた、灰川が頼みを聞いてくれた事で安心したのだろう。


 それに灰川がツバサが何事かを切り出す前に呪いの事を言ったのも大きい、親戚のお姉さんが法に触れるような事をしたのは呪いのせいだという希望が強くなったからだ。


「解決できるかどうかは分からんからな、でも努力と出来る限りの事はしてやるよ」


「うんっ! それで良いわっ、ありがとう誠治っ!」


 頼れる人を見つけてすっかり元気になったツバサは、いつものようにツインテールを揺らしながら笑顔で灰川に礼を言った。


 こうして灰川はツバサの自宅にお邪魔する事になり、ツバサの親戚の子にも会う事になった。


誤字報告を下さった方、ありがとうございます!

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