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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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35話 エリスとミナミの怪談配信

  開かずの間


 Aさんの家には庭に大きな2階建ての倉庫があり、子供の頃から荷物を置いてあまり入る事は無かった。


 高校生になったある日に倉庫に用があり荷物を探してると、2階の奥に小さめのドアがあることに気が付いたが、鍵が掛かってて入れない。


 両親や祖父母に聞いても30年前に中古で買った時からあるけど、鍵もないし壊すのも嫌だから開けなかったと聞いた。


 Aさんは中身が気になって仕方なく、何度も頼み込んだが壊すのは嫌だから開けるなと言われてしまう。それでも気になってしまい、どうにか鍵を開けれないかと何度か足を運んだ。


 何度めかにいつものように工具箱を持って鍵開けに挑戦しに行くと、その日は何故かドアの向こうから湿ったような空気というか、嫌な雰囲気を感じたらしい。


 今までとは何かが違う、何か気配がする、背筋が寒くなるような感覚に襲われ立ち尽くしてると、鍵が掛かってるはずのドアが……少しだけ開いてる、そこから目がこちらを覗いてる。


 逃げよう、もう関わらない、近づきたくない……一瞬でソレに関わってはならないと全身の感覚がざわめきだつ。それなのに体が動かない、怖くて力の入れ方を忘れたかのように動けなくなってしまった。


「おまえもこい…おまえもこい…おまえもこい…………」


「や…やだ! うぁぁーー!!」 


 その声が聞こえてやっと動き出すことに成功した、Aさんは全身をガタガタに震え上がらせながら逃げ出したそうだ。


 その数年後に家は建て替えで取り壊すことになり、倉庫も壊すことになったのだが、その時に工事業者の人が確認のために開かずの間の鍵を壊して中に入ったのだが、特に何かが見つかる事は無かったそうだ。


 しかし不可解な事があった、工事業者の人が言うには鍵は中からしか掛けられない作りになっており、だとしたら誰が鍵を掛けたのか?


 結局は真相は何も分からず終いになってしまったが、今でもあの時のことを夢に見て飛び起きる事があるそうだ。 




『っていう話だったんだけど、私この話がすごい怖くってさ! 皆にも恐怖のおすそ分けー』


コメント;開かずの間怪談か、王道で良いよね!

コメント;俺んちにも開かずの間あるよ

コメント;ウチは天井裏が開かずの間だわ

コメント;エリスちゃん結構怖い話上手かった


『どうやって部屋の中から鍵かけたのかって考えてゾっとしたよ、みんなはどうだった?』


コメント;普通に怖かった!

コメント;エリスちゃんが可愛かった

コメント;取り壊されてなきゃ行ってみたかったな



 かなり好感触のコメントが目立つ、上手くいった空気感もあるし話の内容も怖すぎず退屈でもなく良い選択だった。


 しかし思ったより視聴者の数が少ない感じはある、予定ではもう少し来るかと思われたが、内容がホラーという人を選ぶ物である上に、他社の催しが凄いから人が流れてるのだろう。


 それでも悪くない出来だった、今回の怪談は切り抜きにもなるから、あとはそれらがどのくらい伸びるかで今後が変わってくる筈だ。


 エリスはそのまま次の話に行き、灰川はそれもまた聞く。次の話も良い出来であり、視聴者も満足のいく配信だったようだ。




 エリスの怪談配信が終わって雑談配信に切り替わる、そこでミナミの怪談が始まったのでページを移動した。



  怖い話をします♪


  北川ミナミ


  登録者80万人 同時視聴者21000人


『皆さん今日は来てくれてありがとうございます、怖い話は初めてですが聞いてって下さいね』


コメント;聞いてくよ~!楽しみにしてた!

コメント;ミナミちゃんが怪談するなんて思わなかった

コメント;怖いの期待

コメント;震えさせてくれ


『ハッピーリレーのホラー枠一回目ですから、気力を込めてお話ししますね』


コメント;家事終わった!じっくり聞くよ

コメント;どんな話が飛び出すかな~

コメント;よっし、トイレ行ったからOK



 こうしてミナミの怪談配信が始まった、普段より少し緊張気味だが、配信には慣れてるから大丈夫だろう。


 


  空地の廃自動車


 Bさんの引っ越し先の近所には空き地があり、一台の廃自動車が放置されてるそうだ。けっこう年季の入った廃自動車で10年くらいは経ってそうな外観だ。


 しばらくは気にも留めず空地の前の道を使ってたが、ある日に夜中にコンビニに行って買い物をする時に変な物を見た。


 その廃車の中に誰かが居る、男とも女ともつかない誰かが後部座席から窓に顔を向けてこちらを見てたそうだ。今まで廃車の中に人が居たのなんて見た事もない。しかも夜中の12時、Bさんは気味悪くなって通り過ぎた。


 コンビニの帰りにもう一度その廃車の空き地の前を通りかかると、車の中に人は居なかった。さっきのは何だったんだろうと思いながら帰ろうとすると、車の方から『ウィィーン』という機械音が聞こえ振り向くと。


 後部座席のパワーウィンドウが作動して窓が開いてたのだ、あんな廃車の窓が開く訳が無い、バッテリーなんてとっくの昔に上がってる筈、ここに居たらマズイ! そう感じたBさんは走って自宅に帰った。


 後日に近所の人に空き地の廃車は何なのか聞いてみると、あの車は以前は近くの人が持ち主だったが心臓発作で車の中で亡くなってた所を発見されたそうだ。


 あの誰かの正体が車の持ち主の霊だったのか、持ち主を祟った何かなのかは分からない、それ以降はBさんは空き地の前は通らなくなった。




『このようなお話を聞かせて貰いました、私としてはなかなか怖かったのですが…』


コメント;面白かった!

コメント;ミナミちゃんの怪談が新鮮だったよ

コメント;私の家の近くに空き地あるけど廃車は置いてないな~

コメント;いい感じだった


『皆さんコメントありがとうございます、これからもハッピーリレーは怪談やホラーの配信をしていくと思いますので、よろしくお願いしますね』


コメント;また怖いの期待してるよー

コメント;ゲーム配信も忘れないでね!

コメント;ミナミちゃんの雑談配信も楽しみにしてるよん

コメント;また来るよー!



 こうしてミナミの怪談配信も終わり、その後はスパチャ読みなどもしてエリス達の長時間配信も終わったのだった。朝から夕方まで通して実に8時間の配信だ。


「お疲れ様、エリス、ミナミ」


「ホントに疲れたー!」


「灰川さんもお疲れ様でした…」


 二人はスタッフ達から一通り労われてから灰川の方に来た、エリスは普段通りな感じだがミナミが少し元気がない。


「ミナミは少し怪談を話す雰囲気の作り方に失敗しちゃってたな」


「はい…その通りです…」


「ちょ、灰川さん!?」

 

 怪談というのは時には話の内容より雰囲気の方が大事な時がある、ミナミはそれを作るのに失敗した。


 配信の雰囲気は怪談を聞かせるというよりは、どちらかと言うと緊張感のあるゲームをするような感じになってたのだ。


 小さな違いに思うかもしれないが、怪談会というのは独特な雰囲気で、怪談をするという雰囲気が出来上がってないと話す方も難しい物なのだ。


「でも話自体は噛む事も無かったし、上手かったと思う。さすが人気Vtuberだと感じたよ」


「お褒め頂きありがとうございます…ですが、失敗は失敗です」


 そもそもミナミの配信は優しい雰囲気が売りで怪談配信には少し向いてないと灰川は思う、だがミナミは何でも完璧にこなしたいという高い向上心がある子だ。


 こう見えて負けず嫌いでチャレンジスピリットがある子なのだ、そうでなければ配信業は続けられなかっただろう。


「ミナミ、次だってあるし大丈夫だよっ、私も反省する所あったしさ」 


「うん…でもエリスちゃんみたく、雰囲気は作れませんでした…」


 こういう子には『完璧じゃなくて良い』と声を掛けてもダメだ、完璧でなければ前に進めないと感じてるからこそ完璧主義なのだから。


 ミナミの精神は思ったより落ちてしまってる、お(しと)やかに見えて意外と浮き沈みも激しい子なのだ。このままでは次の配信にも響いてしまうかもしれない。 


「じゃあ初ホラー配信も終わった事だし、俺が昔やった失敗談でも話すとするか」


「灰川さん? そこは何か良い励ましとかじゃないのー? 大人なんだし」


「別に良いだろ? 人の失敗談を聞いて(かて)にするのも大事だぞ」


 こういう時は何か美味しい物でも奢るというのが大人の対応なのだろうが、灰川は金が無いしミナミは雰囲気が暗い。誘っても心からは楽しめないだろう。


 5階からはスタッフは既に居なくなっており、配信ルームもチラホラと空きが出てきた頃合いだ。


 ミーティングルームに移動してドリンクバーからジュースを持って来て、今日は灰川の失敗談を(さかな)に小さな打ち上げをする事になった。


ショート怪談が好きなんですが、書くの難しいです!

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