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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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331話 初ドラマ仕事開始

 火曜日、灰川は早朝からアリエルを乗せて渋谷に向かい、佳那美を拾ってお台場のOBTテレビに向かう。今日の仕事はドラマの顔合わせと台本合わせ、そして撮影も少し入る。


「アーちゃん! レックス君のセリフは大丈夫っ?」


「うん、カナミはアイナ(藍那)のセリフも演技もOKだって言われてたね」


「藍那ちゃん役、がんばるよっ!えへへっ」


 今日からOBTテレビ制作のドラマ“ゲームのプロと呼ばれたい!”の仕事が始まる。


 顔合わせや撮影が今日は入っており、まずは演者やスタッフと顔を合わせて友好を取るというような感じらしい。


 花田社長から聞いた話では撮影初日は大したことない場合が多いそうだが、ここでしっかり良い印象を持たれないと後で苦しい思いをすると聞いた。


 役者というのは知り合い同士の者も多く、面識はなくても共通の役者仲間なんかの縁で比較的だが楽に仲良くなれる場合が多いと聞いたのだ。スタッフは大体は撮影前から仕事仲間だし、そうでなくとも知り合い同士という人は多い。


 つまりは人間関係が元から出来上がってる場合も多く、仲良くなりやすい要素が既にある者同士が多いのだ。


 だから新人役者などは人間関係を作りにくいし、知り合いが全く居ない現場では居心地が悪く肩身の狭い思いをする場合があると言っていた。


「まず挨拶はしっかりだぞ、きちんとスタッフさんとか共演者の先輩役者さん方に、礼儀正しく尊敬の念を持って当たろうな」


「うんっ! 主演の佐嶋(さじま) 純輝(ジュンキ)さんと、主演女優のRIKAM(りかむ)さんにも、ちゃんと挨拶しようね!」


「ボクたちは新人だからねっ、まずはケンキョにしないと嫌われちゃうに決まってるさ」


 人気俳優や大御所俳優は忙しさの疲のストレスが溜まり、イライラして横暴になってる人が居たりするらしい。


 元から職人気質の凝り性で性格に難がある俳優も多いらしく、現場でスタッフやマネージャーに当たり散らす人も居るそうなのだ。


 花田社長からは子役のマネージャーは、所属者が元で起こるトラブルなんかは全ての責任を必ず負えと強く言われている。もちろん灰川もそのつもりだ。


 ほどなくしてOBTテレビの地下駐車場に到着し、最近に四楓院 英明から福岡の件の礼として頂戴したRV車を停めて中に入る。


 入局のための本人確認なども済ませ、その際に受付係の人から『ユニティブ興行様の実原エイミ様と織音リエル様、マネージャーの灰川様ですね、中にどうぞ』と言われ、全国テレビ局からしっかり事務所として扱ってもらえるんだ!と、今更に感動したりした。




「顔合わせは大会議室を借りてやるみたいだから、まずはそこまで行くぞ」


「うんっ、ちょっと緊張して来ちゃった…!」


「ボクもだよっ…! 伯父さんや叔母さんのように上手くできるかなっ…」


 2人は身嗜みもしっかりしており、佳那美は元気さが感じられる女の子らしい服装、アリエルは少しボーイッシュな服装、髪の毛などもしっかり綺麗で輝いていた。


 これなら格好が悪いとか言われる心配はないだろう、というか子供なんだから嫌味とか言われたりしないだろうし、そこまで厳しい事も言われない筈だ。


 灰川はOBTテレビの8階にある大会議室、今日は新ドラマの顔合わせ&台本読みの場として使われる部屋に向かう。


「ここだな、ゲームのプロと呼ばれたい!撮影会議って張り紙してあるし」


「そうだね、もうアクターやスタッフの人達は来てるのかな?」


「ちゃんと挨拶しなきゃっ、う~、緊張するよぉ~」


 まずは灰川がドアをノックしてから『失礼します!ユニティブ興行です!』と言って中に入る、そこからエイミとリエルも入室した。


 OBTテレビの大会議室は灰川の予想を大きく超えて広く、既に中には多数のスタッフや出演者が居た。ユニティブ興行は指定された時間である08:00時の30分前に到着しており、この時点では多くの人は居ないだろうと踏んでいたのだ。


 予想通りに出演者はまだ全員は揃っておらず、初ドラマ仕事で遅刻しなかった事に灰川は内心で安堵した。


「あっ、ユニティブ興行さんですね。メイキング撮影担当の佐藤です、初めまして」


「おはようございます、ユニティブ興行のマネージャー兼所長の灰川です」


「お、おはようございますっ! ユニティブ興行所属の、み、実原エイミでしゅっ!」


「お、おはっようございますっ! 織音リエルですっ!よ、よろしくお願いしますっ!」


 灰川はどうにか取り繕えたが、エイミとリエルは緊張から言葉を噛んでしまった。


 佐藤はドラマ撮影スタッフでもあるが、今日はメイキング映像などを撮影する係でもあり、顔合わせの風景を撮影したりもするらしい。


「しかし演者もスタッフも凄い顔ぶれですね、人気俳優に実力派俳優、ディレクターはヒットメーカーの時宗監督、メインカメラマンも美術スタッフも腕を買われてる人達ですしね」


「はい、こんな豪華なドラマにウチの俳優が出演させてもらえて光栄ですよ」


「その言葉は監督に言うために取っておきましょう、エイミさんとリエルさんの噂は聞いてますよ、凄い子役が現れたって」


 ゲームのプロと呼ばれたい!はOBTの直制作ということもあり、相当に力を入れた作品だ。


 しかも作中で題材となるテレビゲームは話題作や人気作が出される予定で、これは話題を呼ぶだろうとの事だ。もちろんOBTテレビのスポンサーに付いているゲーム会社の作品が多数だ。


 そして作中ではカードゲームも題材になり、OBTテレビがアニメ作品を放映してきたTCG『ワールド・ブレイブ・リンク 通称WBL』が使われる。


 このドラマの作中で出て来るテレビゲーム題材の多数は、世界的にも知られる大企業『ライトリー』の作品が使われる。


 ライトリーはゲーム事業展開30周年記念、WBLのグランドワールド・チャンピオンシップ開催決定と、第1弾パック発売30周年記念。


 これらの記念を飾ると同時に更なる躍進を懸けたドラマであり、出演者もスタッフも豪華な所が集められたのだ。そこに実原エイミと織音リエルも出演する。


「あっちに監督と演者さん達も居ますから、ささっと挨拶すると良いですよ」


「ありがとうございます、今日からよろしくお願いします」


 佐藤と挨拶を交わしてエイミとリエルもちゃんと挨拶をしてから、その場を離れる。


「あっ、君たちが実原エイミちゃんと織音リエルちゃんだよね? よろしく、火浦(ひうら) 海翔(かいと)役の佐嶋純輝です」


「初めまして、今日からよろしくね。宇良末(うらすえ) 伊都美(いつみ)役のRIKAMです」


「おはようございますっ! 森町(もりまち) 藍那(あいな)役の実原エイミですっ」


「えっとっ、こんにちわっ! 楽亜(らくあ) レックス役の織音リエルですっ」


 流れで灰川も主演の2人に挨拶し、普通に笑顔で対応されて安心する。


 超人気俳優の佐嶋純輝、23歳にして今話題の人気俳優であり、主演作は既にドラマ2本、映画2本と既に凄い芸歴である。役者デビューは中学生の時で、当時から既に演技は素晴らしかったらしい。


 イケメン、高身長、爽やか、声も良し、演技も上手い、まるで役者かアイドルになるために生まれて来たかのような男だ。


 灰川が入手した情報だと、彼のドラマ出演料は主演で1話につき現在300万だそうで、普通は主演は100万から高くても200万の間くらいなのだそうで、佐嶋のギャラは相当に高い部類に入る。1クールで3000万円以上のギャラだ。


 カリスマ的女優のRIKAM、22歳という年齢で既に様々な作品へ出演しており、高い演技力や美貌とスタイルが評価されて人気を集めている話題沸騰中の若手カリスマ女優だ。


 元々はアイドル志望で、大手のグループの練習生として小学生時代から加入していたらしいが、そこでコーチに演技力の高さを見出されて俳優業に移った。中学生の時には既に映画出演を果たしている。


 彼ら以外にも売れっ子俳優や実力派が揃っており、スケジュール調整とかが大変そうだと灰川は感じた。


「2人はこれがドラマの初仕事でして、何かと分からない部分もあるかと思いますが、共演よろしくお願いします」


「こちらこそ、マネージャーさんですか? 名刺を頂けると嬉しいのですが」


「はい、もし良ければ佐嶋さんとRIKAMさんの名刺も~~……」


 そんなやり取りをしつつ挨拶や紹介をして、監督の所にも早く行かなきゃと思っていた時だった。


「なんだか凄い数の撮影開始祝いの品物が送られているそうですよ、監督たちが驚いてるんです」


「そうなんですか、やっぱりRIKAMさんや佐嶋さんみたいな人気俳優が出演するドラマは凄いんですね」


「いや、俺なんてまだまだです。現場では監督やカメラマンさんに注意されてばっかりですから。ははっ」


 まだ緊張に慣れ切ってないエイミとリエルに代わって灰川が軽く雑談し、主演の2人への挨拶を終わらせてから大会議室の奥に向かう。


 その中で灰川は思う事があった、やっぱイケメンだし美人だったな~という感じの事だ。


 佐嶋はイケメンだしRIKAMは美人だ、人気俳優だし当然の事ではあるが、灰川としては彼らのような人達はテレビでしか見れない雲の上の人だと思っていた。


 そんな2人に生で会って会話した、なんだか嬉しいとかより怖さを感じるくらいの出来事だったのだ。


 少し前までそんな人達と少しでも関わる事などないと思ってたが今は違う、それがまだ現実として飲み込み切れてないのかも知れない。




 時宗監督や出演者、スタッフ達に挨拶をして回り、エイミとリエルをよろしくお願いしますと紹介していった。


 2人は礼儀正しく挨拶して仕事仲間になる人達に悪くない印象を与えて行く。


 その際にも色んな話を聞けて、やっぱりこのドラマには相当に力が入ってるとか、台本変更があったとか、色んな話が聞けた。


 元々はゲームのプロと呼ばれたい!は子役俳優を使う予定は無かったそうなのだが、急遽に脚本が変更されてストーリーも大きく変わったらしい。


 このドラマのオーディションには多くの人気俳優や実力派が参加し、キャスティングの際は激しい役の奪い合いがあった。このドラマで佐嶋とRIKAMが取られたので、全国テレビ局ヨンナナ放送は人気ドラマの2期の制作を延期する事になったそうだ。


 色んな話がそこそこに聞こえてくるが、やがて顔合わせのキャスト紹介が始まり、実原エイミと織音リエルも参加して自己紹介をしていった。


「皆さーん、顔合わせの紹介お疲れ様でした。次は記念撮影の後に衣装合わせに入ります」


 監督が音頭を取りながら進行していき、次は出演者の衣装合わせが始まり、出演者は衣装スタッフに連れられて大会議室から出て行く。


 これは撮影全シーンの衣装を決める作業であり、監督や助監督、衣装スタッフやメイクスタッフが作品や場面のイメージに合った衣装を決めて行くというものだ。


 エイミとリエルは撮影もあるため、衣装合わせのために衣装スタッフに別の部屋に連れて行かれ、灰川とは一時的に別行動となる。


 灰川は他事務所のマネージャーの人達と名刺交換をしたり、顔を覚えたり覚えられたりといった仕事もしていく。色んな人に話し掛けていくのは意外とストレスが掛かるものだが、これも慣れれば負担にはならなくなるんだろうか。


 少しすると富川Pが話し掛けて来た、当然ながら今日は富川も顔合わせに参加していたのだ。そこから事前に予定していた仕事に移る。


「じゃあ行きますか、灰川さん」


「ですね、でもウチの2人は大丈夫ですかね…? 何かあったらと思うと…」


「大丈夫ですよ、衣装スタッフは信頼と実績のあるベテランですし、信頼ある人ですから。女性なので変なことが起きる心配もありませんしね」


「あ、いや、セクハラとかは心配してないんですけど、この服はヤダとか言ったりするんじゃないかとか」


「大丈夫ですよ、そういう意見を言う役者も多いですし、衣装とかでも事務所NGが出たりしますから、気にする事はありません」


 灰川は富川Pと一緒にOBTテレビ社屋の西に行き、人が来ない場所へと向かって行った。その場所は西B区画、0番スタジオである。




「0番スタジオの浄化はほとんど終わりですね、流石は灰川さんです。国家超常対処局の人員だけでは、ここの浄霊は無理でしたよ」


「自分でも予定してたよりスムーズに行ってるなって思います、ここでも色々とありましたよね」


 テレビ局の地下にこんな淀んだ霊気が溜まった空間があると知った時は驚いたし、ヴァンパイアと戦ったり、アリエルと初めて会った場所だとか、ここでは色んな事があった。


「歌手の管巻峻一は成仏しましたし、ラジオスタジオに溜まっていた悪念や悪霊気も浄化されましたね。杉浦和シノエの霊魂も悪念は取れて今は良い霊になっていますよ」


「サイトウさんはスギシノさんのファンでしたもんね、安らかな状態になってくれて良かったです」


 ここでは富川の事をサイトウと呼んで霊能者として仕事に当たり、そんな中でアレコレと話しながら浄霊活動に2人で勤しんでいた。


 もう電気も通るようにしてもらい、以前のような真っ暗な状態じゃない。誰かが入っても危険は無い程度に浄化が出来ている。


 悪徳事務所に入って過労死した俳優の字谷空也、B2階の大部屋楽屋に居た彼の悪霊は灰川の浄化活動によって憎しみが晴れ、生前と同じハンサムな笑顔を浮かべて灰川に一礼をしてから成仏していった。


 事務所の経営者変更によって苦汁を味わった白林スアンの生霊は、B2ー1スタジオをしっかり浄化して生霊が良念を取り戻して自身の元に戻って行った。そんな白林スアンは今度のドラマで佳那美とアリエルの共演者になる。


 撮影中の事故で亡くなった撮影スタッフの悪霊は、スタジオで灰川が『今はこんな凄い機材がある、だから悪霊になんてなってないで輪廻の輪に乗り、来世でもっと良い物を作りましょう』と説得して成仏させた。輪廻転生というものがあったのなら、彼はきっと来世でもテレビマンになる気がする。


「地獄顕現型空間がこんな短期間で浄化されるなんて、やっぱりチートですね灰川さん」


「はははっ、そのチートを上手く活用できないから霊能力で食っていけないんですよねぇ」


「私も工業技術のチートじみた能力がありますが、同じく上手く活用が出来ないんですよ。仲間ですね、ははっ」


 サイトウは工業ギフテッドだが、製品化が難しい物や、使用に際して強烈なデメリットがある物を作ってしまうため、あんまりそっち方面では活躍できないそうだ。


 そもそも危険な物も製作できてしまうため、工業ギフテッドという事は国家超常対処局以外には知られないよう立ち回っている。タナカがここで使ったニードルガンなど、危険な発明の最たるものだろう。


「あ、そうだ、それと共演者やスタッフなどの最新情報なんですけど、軽いゴシップ関係の話とかもあるんですよ」


「ゴシップですか? え?主演の佐嶋さんのもあるんですか? 超売れっ子人気俳優なのにですか?」


「はい、まあ別に亮専建設関係のような危険なゴシップではありませんし、小粒のネタですが~~……あ、スギシノさんの霊が微妙な距離まで寄って来ましたね…」


 ちょっと向こうを見ると人気アイドルだったスギシノの幽霊が、微妙に話が聞こえるであろう距離まで寄って来ている。ゴシップとか好きだったんだろうか?


 そんなこんなで灰川とサイトウで0番スタジオの浄霊を進めつつ、芸能ゴシップを話すごとにスギシノが近寄って来たりしつつ、本日の霊能作業を終わらせていくのだった。




「おいおい…なんだい、こりゃあ…?」


「監督、今日は予想外の事がありまくりですね…」


 午前10時頃になると、ドラマの初回顔合わせや出演者説明の会場になっている大会議室に、多くの撮影開始祝いの品が届いていた。


『佐嶋純輝様 主演おめでとう! 倉木産業』


『RIKAM様 主演祝い ドラマ“ルッキズムルーム”監督 忠岡 修司』


『鵡川 ガルフ様 OBTメインドラマ出演おめでとう! 戸倉企画一同』


 そう書かれた箱やら花束やらが置かれている。監督宛て、俳優宛てと色々あり、送り主も企業や芸能人や業界人など様々だ。

 

 やはり主演の純輝とRIKAM宛て、ドラマ自体に送られた祝い品が多い。それだけ色んな所からの期待が向けられているという事だろう。


 芸能人仲間、事務所、出版社や新聞社などからもドラマ撮影グループに向けて祝いが送られており、かなりの数である。出版社とかは『取材させて下さい』という下心なんかもあるだろう。


 そんな中、業界歴の長い監督やベテランスタッフさえ見た事が無い光景が広がっている。それは新人子役の2人と所属事務所に送られた物の数々だった。


『実原エイミ様 織音リエル様 ゲームのプロと呼ばれたい!ご出演おめでとうございます 株式会社シャイニングゲート一同』


『実原エイミ様 織音リエル様 全国テレビ局ドラマ出演祝い 株式会社ハッピーリレー一同より』


『ユニティブ興行様 連続ドラマ出演祝い 株式会社ジャパンドリンク』


『ユニティブ興行様 テレビドラマ“ゲームのプロと呼ばれたい!”ご出演おめでとうございます。 株式会社ルーツKIY』


 上陽広告、株式会社SSP、KMIグループ会長 木村沢永太、木村沢エステート代表取締役 木村沢 保志、木村沢エステート副社長 木村沢 銀上、その他にも有名な銀行やデパートなんかからも祝いが届いている。


 その多くは四楓院家関連ではあるが、英明や陣伍からはテレビ局には届いていない。四楓院家はあくまで表には目立って出ない主義の家である。


「海外企業からも来てるやんか…なんだよこれ…」


「そんだけ人脈が広くて凄い事務所なのか…? でもユニティブ興行さんて所属者4人とかだったよな…?」


「所長と所属者が只者じゃないんすかね…海外からはヨーロッパの企業が多いっすよ…」


 A・U・Kファンド、ヨーロッパの大きな投資ファンドから祝い品がユニティブ興行に送られている。日本ではそんなに有名ではないが、大きな資本を持つ会社だ。灰川とアリエルが悪魔祓いしに行ったホテルの親会社であり、アリエルの家が実権を完全掌握している会社である。


 他にもヨーロッパの鉄道運営グループ企業、外資銀行、証券取引会社、大型IT企業といった会社から『ユニティブ興行、実原エイミ、織音リエル』に宛ててフラワーアレンジメントや祝い品が届いていた。


 それどころか出演者やスタッフの人数分に充分に足りる数の高級なギフトセット、高級酒や高級なお菓子ギフト、海外有名ブランドの高級バスタオルセット、凄い数の凄い金が掛かった祝い品が送られている。


 ユニティブ興行関連から撮影スタッフや出演者の全体に向けて送られた祝い品は、金額と質と数が圧倒的高い。それだけの金をポンと出してくれる後ろ盾が、彼らに多く付いているのが嫌でも分かった。


「これ…相当に強いバック居ますよ…。エイミちゃんとリエルちゃん、そして灰川って所長…どんな人なんすかね…?」


「元から後ろ盾は強いって聞いてたけど、予想の20倍はデカいバック付いてるみたいだな…」


「俺はnew Age stardomのスタッフもやってるから、シャイゲさんとハピレさんから送られてくるのは分かってたけどよ…」


「九州の木村沢グループからも経営一家全員から個別に来てるっすね…ここ怒らせたらカイザー芸能の俳優と歌手は、使わせてもらえなくなるかもっすね…」


 この贈り物は単なるプレゼントではない、ドラマの出演者たちの演技力や俳優力以外の力が示される『パワーアピール』の場でもあるのだ。人脈やバックが示されるという感じだ。


 これらの贈り物には『ユニティブ興行の2人をぞんざいに扱ったら、どうなるか分かるよな?』という意味合いも込められている。


 一定以上の俳優となれば演技力や華、人気や話題性などあって当然の物であり、演技が上手いとか華があるとかは特別に褒められるような事ではない。それがプロというものだ。


 演技など出来て当然、ましてやキー局の本気ドラマに出演するなら1流の演技、どんな演技にでも合わせらる技量、それらがあって当たり前、そんな世界らしい。


 だからこそ後ろ盾の強さが物を言う時があり、後ろ盾が無ければ時には出番は減らされるし、下手をすれば理由を付けて途中降板なんて事にもなりかねない。


 売れっ子や人気俳優や大御所となれば後ろ盾が強いのは当然だし、○○社は俳優の○○さんと懇意なんて話は珍しくもない事だ。


「エイミちゃんとリエルちゃんがどんなNG出しても、絶対にイラついた雰囲気なんて出すなってスタッフ達に強く言っておけよ…」


「当然っすね監督…ジャパンドリンクがOBTに金の出し渋りとかするようになったら、俺らの首は飛び回っちゃいますって…」


「ルーツKIYと上陽広告に悪い印象持たれたら…想像するだけでゲロ吐きそうっすよ…」


「…ってか、OBTの会長と社長と専務から、絶対にユニティブ興行さんを怒らせるなって言われたっすもんね。紫入構証がユニティブ興行関係に配られてるんだし…」


 全国テレビ局のドラマ撮影には様々な事情や力関係が働く、その上で監督やプロデューサーは面白いものを作らなければならない。


 時宗監督はベテランのヒットメーカー監督だが、今回の仕事は大手ゲーム会社や世界的TCGの周年記念コラボ作品でもあり、話題性も大きくなっていくのが目に見えている。


 出演者やパワーバランスに気を使いながら、それぞれの役を立たせて面白い作品を作らなければいけない。そこに謎の巨大なバックを持った事務所が参入してきた。


 胃が痛くなる思いだが、これはスタッフ達にとってもチャンスである。この状況は逆に言えば『注目度が高く、成功すれば一気に上に行ける可能性が高い』という事でもあるのだ。


「まあ、今回も上手く立ち回ってチームワークで良い物を作ろう! 頼んだぞ皆!」


「はい、やってやりましょう!」


「もし2人の出番にテコ入れしなきゃいけなくなった時は、スポンサーと同時に絶対に本人と所長の許しを得てからじゃないとな…」


 こうして意気込みを新たに、監督を始めとしたスタッフ達は気合を入れるのだった。


 勝った負けたの世界、選ばれた選ばれなかったの世界は甘くない。勝って選ばれるためには幾つもの強いモノを持っていなければならないのだ


 平和で平等な世の中は素晴らしいけど、現実には人間の欲や力の関係がビジネス環境に影響するのが世の常であり、それは昔から変わらない。そして力の形は多くある。


 多くのファンが居るという収益や視聴率に繋がる力、強い後ろ盾や人脈があって継続的に仕事が取れるという力、協調性が高く人から言われた事を要求以上にこなすという人から使われる力。


 そういった個人力や資本力といったパワーがせめぎ合う世界だ、大きな夢がある世界だが甘い場所ではない。


 知り合い同士も多いが、それは同時にライバルも同じ数だけ存在するという世界、人情と金と人気が交錯する深くて暗くて、神々しい程に明るい世界だ。




 別室の衣装合わせルームにエイミとリエルは居て、しっかりと衣装を合わせた後に2人で椅子に座って休んでいた。


「衣装も決まったし、次は台本読みとドライリハーサルとカメラリハーサルだね。ボクもエイミもセリフは覚えたし今の所は安心かなっ」

 

「うんっ、アーちゃんの衣装カッコイイねっ! 男の子の役も楽しそうっ」


「ボクとしては女の子の役がしたかったよっ、ハイカワも一緒なのにぃ…ぅぅ…」


 アリエルは最近はますます灰川の事が気になっており、本人の前ではそういう部分は出さないが、相当に好感は高くなっている状態だった。


 灰川も見てるのに男の子役なんて屈辱的だ!と最初は思っていたが、DやP、そして何より灰川の説得もあって役を受ける事を決断したのだ。


 それと、アリエルは灰川に男の子に間違われた時のショックは今も覚えており、男の子の役をする事になって『このままだと本当に男子と間違われちゃうんじゃないか!?』という、謎の危機感もあったりする。


「……こうなったら、ハイカワにボクが女の子だって、しっかり分からせてあげなきゃだよねっ…!」


「えっ? アーちゃん何か言った?」


「な、なんでもないさカナミっ! そろそろ行こうかっ」


 アリエルは少し前に実家と連絡を取り、母のエリカと話をした時間があった。その時に様々な駆け引きとか、どうやって意中の人の心に自分という存在を植え付けるか、様々なことを聞いたりしたのだ。


 その時のアリエルは終止に渡ってドキドキしっぱなしであり、男の子役を演じる事によって灰川が自分の事を本当に女の子として見なくなっちゃうんじゃ!?、という不安を感じていたアリエルに勇気をもたらした。


 9歳の子供としてはマセてるような気もするが、この不安自体は子供らしい不安といった感じだろう。それでも本人にとっては不安な事は変わらない。


 以前まではアリエルは自分がこんな気持ちになるなんて想像した事も無かったが、意中の人が出来たらこういう感じになる者も居るものだ。精神の活動とはどんなものでも、心や考えの変化や成長をもたらす物なのかもだ。


 もし今にMID7のジャックやグレッグ神父とかが灰川の事を考えてるアリエルを見たら、前とは全く違う女の子らしさに驚いてしまうかも知れない。


 そんなアリエルは心の中で『やっぱり、あの方法が良さそうだねっ』とか考えながら、少しばかり計画を練りつつ、同時に演技のイメージトレーニングなんかをしている。


 そして、市乃や空羽たちといったメンバーも、もっと灰川に自分たちの存在を強く感じてもらおうという計画を考えてたりもしているのだった。

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