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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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33話 佳那美のデビュー配信

 遂に注目の一週間が始まった、各社がこぞって目玉企画を打ち出し、業界全体が盛り上がる週間だ。各社のVtuber達は朝の時間から配信を開始し、既に大きな盛り上がりを見せている。


 ハッピーリレーの本格的な配信開始は朝の9時、あと数分にまで迫ってる。最初はまずハッピーリレーの期待の新人Vtuber新米天使ルルエルちゃんのお披露目だ。


 ルルエルこと佳那美が配信ルームに緊張しつつ新人配信者サポート役のスタッフと一緒に入って行くのを、灰川は励ましつつ見送り、5階のミーティングルームでパソコンを付けて配信画面を覗く。


 サポート役の人は一切声を出さずに身振り手振り、あるいはメモなどで佳那美をサポートする役の人だ。ハッピーリレーは新人配信者には希望したら付ける事になってる。コンプライアンスなどに違反しないためには良い取り組みだと思う。


 やがて新米天使ルルエルちゃんの配信待機画面に動きがみられる、既に待機してる視聴者は800人で、これは興味本位の人も含む数だから最後まで見てくれるかはアテにならない。


 ルルエルの視聴者登録数は現在は3000人だ、やはりハッピーリレーの悪評が祟って登録は少ない。コメント欄には早く『ルルエルちゃん見たい!』『楽しみ~』とかコメントが流れてる。


『こんにちわ! 今日デビューの新米天使のルルエルちゃんだよ! みなさんよろしくねっ!』


コメント;来たっ!

コメント;可愛い!

コメント;待ってたよ~


 画面にはニッコリ笑顔の金髪の子供天使美少女の3Dモデルが映し出されてる。


 佳那美本人は短めのセミロングの明るい黒髪でストレートの髪形だが、ルルエルはロングヘアの金髪だ。音符のような髪飾りのアクセントが可愛らしいデザインであり、背中には天使の羽根がある。


 エリス達より遥かに子供っぽさがあるデザインだ、実際に中身は小学4年生の女の子なのだから間違ってはいない。本人と同じく背も小さく体の凹凸もほとんど無いデザインだ。


『ゲームの配信とか、歌配信とか色々予定してるよっ、みんなこれから見に来てねっ!』


コメント;視聴者登録決定!

コメント;この子超カワイイ!

コメント;応援してるよ~


 視聴者からのウケも良い、ルルエルの話し方も緊張感は感じられるが流暢だ。


 コメントの数も良い感じだし、視聴者も開始直後から400人ほど増えている。視聴者登録も500件ほど増えた。


『今日は短めの配信だけどっ、次からも頑張って配信するねっ! みんな来てくれてありがとうございました!』


コメント;本格配信楽しみにしてるよ!

コメント;これから頑張ってね

コメント;SNSで拡散するからね~


 初回は緊張やトラブル防止のために30分程の配信で幕を閉じた、灰川もサブアカウントの『圧縮布団』の名でコメントしたが、緊張で気が付かなかったようだ。ちなみに圧縮布団のサブアカウント名は皆に教えてる。


「き、緊張したよ~!」


 配信ルームから佳那美が出て来ると、初配信を労うために集まってたスタッフ達が拍手と共に迎えてくれた。その中には灰川の姿もある。


「初配信おめでとうルルエルちゃん!」


「お疲れ様でした、ルルエルちゃん」


「疲れたでしょ? こっち来てジュース飲みなさいな」


 スタッフたちが温かくルルエルを迎え入れる、そこには佳那美と呼ぶ人は居なかった。これは本当の意味でハッピーリレーからVtuberとして認められた証だ。


 しかし一人だけルルエルを佳那美と呼ぶ人の姿がある、それは今日の配信のために駆けつけてくれた、佳那美の母親だった。


「よくやったわね佳那美、立派だったよ」


「……! ぐす……うんっ…!」


 その言葉で佳那美は目に涙を浮かべる、ここまで頑張って来た苦労が本当に報われた瞬間だ。そこを見計らって灰川が声を掛けた。


「ルルエルちゃん、お疲れ様」


「~~! ぶふっ…! 灰川さん見たらっ、酸素のカフェ思い出したっ! あはははっ!」


 「「…………」」


 本当に笑いのハードルが低くてツボが不可解だ、感動的な場面からいきなりの爆笑に皆はちょっと引き気味で「酸素のカフェって何だよ…」という声が漏れ出るが、次の配信者が控えてる。


「次は俺たちの時間だな! 小学生に負けてらんねぇぜ!」


「そうですね、先輩の実力を見せてあげるとしますか」


「クックック、血が騒ぐなぁ!」


 彼らは佳那美の後に配信を始めるお笑い系男性配信者グループ『ブラックボルト』だ、本社配信の実質的な次鋒(じほう)を務めるグループである。彼らはホラー配信には本格参加しないが、ライトなホラーゲームで(にぎ)やかす配信をするようだ。


 今日のハッピーリレーの配信は自宅配信と本社配信があり、本社配信は期待株や人気上位グループが集められてる。もちろん本社配信が終わってから自宅配信をする者だって多数だ。


 本社配信のメリットはネットワークトラブルの確率が極端に下がる事である、それだけ強いネット環境を有してるから、今日のように負荷が掛かる恐れがある時には強いのだ。 


 今日は配信階の配信ルームは全て使われてる、中には長時間配信をする者も居るから開いてるルームは計画的に使うようになっていた。


「中谷部長、やっぱりウチも他社の配信者も自宅配信は今日は画面が止まりがちですね」 


「やっぱりか、念を入れて良かったな」


 ネットワーク負荷が今日は強く、回線が弱い配信は画面が止まってしまう事態が多発してるようだった。


 もちろんこの事は他社も予測済みの所が多く、主力になる配信者は回線の強い自社で配信をしてる者が多い。自由鷹ナツハもそうしてるみたいだ。


 エリスとミナミは朝から長時間配信だ、最初は怪談配信ではなく雑談配信からやってるようで、エンジンを温めてる際中といった感じである。


「あ、ブラックボルトの配信が始まったな、灰川君、君も見てみてくれ」


「はい、でも俺が見なくても彼らは人気なんじゃ」


 正直に言うと灰川は男の配信者なんかよりエリスかミナミの配信を見たい、しかし初見目線でのアドバイスを求められてる以上は従うしか無いだろう。



  

  ホラーアクションやるよ!みんな怖がれ!


  配信者;ブラックボルト(若手配信者グループ・顔出し配信)


  視聴者登録;12万人 同時視聴者2000人


『行くぜぇ! 付いて来い!』


『手強い敵、私は待っていますよ』


『まずはお手並み拝見と行こうかぁ!』


コメント;はよ進めや

コメント;騒いでねぇで行け

コメント;言ってる事だけは強そう


 普通に面白い配信をする男性グループ配信者だ、怖い部分も面白さに変えていく。


 彼らはゲームが大して上手くないが、そこが持ち味で笑いに変えられるのが強み、コメント欄も段々とwwが増えていく。


『げぇ! 進めねぇ! 追い詰められた!』


『なかなかやりますね、歯応えがある』


『結構おもしれぇじゃねぇか! もっとやろうぜ!』


コメント;ザコどもがwww

コメント;序盤で詰んでんじゃねーよww

コメント;ばかじゃねぇのwww


 彼らの配信は最初から最後まで笑いがあった、とても雰囲気が良く、空気の作り方も慣れたものだ。 


 男性配信者だが男性視聴者が多いのも頷ける、しかし彼らも脱ハッピーリレーがほとんど決まってるらしく、配信企業のサワヤカ男子から声が掛かってるらしい。



 その後もどんどん配信者が続いてく、灰川はそれらの配信を見て初見者の感想を投げかけて行った。


「Max・ストライクさんは凄く面白かったです、特に間違えてゲームオーバーになった所は笑いました」


「ありがとうございます、でも欲を言うともっと笑いコメントが来ると良かったんですけどね~」


「アカネルさんは見た目と予想してたキャラがけっこう違くて驚きました、でも慣れると凄いしっくりきて違和感なかったです」


「初見さんにそう言って貰えるの嬉しいです! でもこのままの路線で行くか迷ってて~~……」


 色々な人の配信を見て感想を言っていく、基本は面白かったと褒める感じだ。灰川からしたらどの配信者も自分の配信よりは面白いし見所があるなと思ってる。


 そして遂にあの子の番が来た、配信後に緊張が取れるまで休んで貰ってたルルエルの番だ。


「灰川さんっ、私の配信どうだったっ? 面白かったっ?」


「もちろん面白かった、こりゃリピート確定だな」 


「~~! ありがとっ、灰川さんっ!」


 当然ながら褒める、子供らしくニッコリと笑う佳那美の笑顔が可愛らしい。


「あ、でも視聴者さんに緊張が伝わっちゃってたぞ、最初だから普通だろうけどね」


「やっぱりか~、そうだと思った! だってすごく緊張したもんっ! サポートしてくれた鈴島(すずしま)さんが居なかったら喋れなくなっちゃってたかも!」


 初めての配信の感想をルルエルちゃんはメッチャ語る、よっぽど嬉しくて緊張して、そして楽しかったのだろう。


「凄い可愛くやれてたと思うし、視聴者さんも楽しんでくれてたと思うよ、俺もコメントしたしね」


「うそっ! 灰川さんコメントくれてたんだ! 気付かなかったよ~!」


 流石に最初からエリスやミナミのようには行かないだろう、直すべき所はいっぱいあるが上々の滑り出しに思える。


「これから頑張ってくれよな、応援してるぞルルエルちゃん」


「うんっ! 灰川さんもハッピーリレーに残って一緒に頑張ろうね! 約束だよっ!」


 一緒にという言葉がチクリと心に刺さる、選ぶ道によっては灰川はハッピーリレーを離れてしまうのだ。


 その後もどんどん配信は続く、そしてツバサの配信の番がやって来た。


「誠治! 見てなさいよね、呪術が無くたってアタシは人気だってとこ!」


「おう、その意気だぞツバサ」  


 ツバサは灰川に宣言する、この子は呪術があろうが無かろうが全力だ。こんなひたむきな部分があるから陽呪術がよく効いたのかもしれない。悪態をつく事もあるが、子供っぽい背伸びしたがる性格なのだろう。


 配信ルームに胸を張ってツバサが入って行く所を見ながら……灰川は寂しさを感じていた。


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