表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

319/333

319話 誘われたり、車で学校に送ったり

「はぁ~、今日の配信も誰も来なかったなぁ、でもスパムアカウントは来たから良いか!」


 アパートに帰って猫部屋の掃除などをしてから配信したが、今夜の灰川配信は誰も来なかった。1人で黙っってゲームしたり、たまに「うおっ!」とか叫んでただけで終わってしまったのだった。


 事務所からの帰りは灰川がもらった車にアリエルを乗せて来て、車に乗ったアリエルの感想は『耐久性が高そうだ!』という少し斜め上のものだった。


 いつもの夕食や継続的な祓いが終わった後はアリエルは自室に戻り、今夜も学校の宿題をしてから日本の漫画やアニメを楽しんでる。アリエルは日本での生活を送りながら、小学校に行ったり社会勉強をしたり、本格的な芸能活動に向けてレッスンしたり、漫画や甘いお菓子なども楽しんでいるのだ。


 誰も来ない配信も終わって今夜は寝るだけになり、明日のために体をしっかり休めようと布団に入ろう思う。朋絵と砂遊は今が配信中なのだが、やはり仕事のためにも睡眠は必要だ。


 手風クーチェと詞矢運モシィの配信に問題ないかは、シャイニングゲートの自社Vの配信に問題が無いか見ている『配信セキュリティ部』が見てくれており、安心できる環境がある。


 しかし、寝る準備をしていた時にスマホに電話が入って通話ボタンを押す。


「もしもし、来苑?」


『あっ、え、えっとっ! こんばんわっ、灰川さんっ』


「こんばんは、どうしたんだ? さっきまで配信してたっぽいけど」


『み、見てたんですかっ!? うぅ、恥ずかしいかもっす…』


「いや、恥ずかしがることないだろって、立派に面白い配信やってたじゃん」


 竜胆れもんは先程まで配信をしており、今しがた終わった所で電話を掛けて来た。灰川は自分の配信終了後に、終了直前の竜胆れもん配信を少し視聴していた。


 流石に皆の配信をフルタイムで全て見る事は出来ない、ヒマがあったらたまに見るくらいという、今までと同じスタンスで行こうと灰川は考えている。そのくらいが丁度良いというものだろう。


『そ、そのっ、えっと…ですねっ…、うぅ…』


「そんなに緊張しなくて良いって来苑、電話って面と向かって話すのと違うから緊張するの分かるけど、俺が相手なら何言ってもOKだからよ」


『あ、あははっ…、灰川さん以外の人だったら、こんな風にならないんですけどねっ…、あ…その…灰川さんが相手だと、何で緊張するかも言った方が良いっすか…っ?』


「いや、それは興味あるけど聞いたらヤバそうだから話さなくて良いぞ。ところでどうしたのさ?」


 来苑は灰川が相手だと電話でも対面でも、他の人と話すより強く緊張してしまう。時間が経てば普通になるのだが、大体は最初はこんな感じで会話が始まるのだ。


 理由は来苑が灰川に強い好意を抱いてるからで、話し始めはどうしても心臓が早くなって顔が暖かくなってしまう。


 配信では明るいボーイッシュキャラで才能も実力もあるし、普段もスポーティーな印象を周囲から持たれてる来苑だが、内面は年齢通りの16歳の高校2年生でる。普段は外面的には異性とも普通に喋りはするが、過去のトラウマもあって男性に対する内面的な免疫は低いのだ。


 灰川に対してだけ外面が取り繕えなくなるのは、まだ治り切ってはいない。その緊張感ゆえに変な事や大胆な事を口走る時があり、そういう所にも灰川はたまにペースを乱されたりもする。


『あ、あのぉ…本当はもっと早く言いたかったんすけど…っ、灰川さんって今週末は空いてますか?』


「空いてるぞ、休日は基本的に仕事は入れないしな」


『じ、じゃあ、そのっ…学詠館祭(がくえいかんさい)に来ませんかっ? 自分の学校の学園祭なんすけどっ…!』


「え、マジ? あっ、そう言えば前に少し聞いたような」


 来苑は文京学詠館という幼稚園から大学までのエレベーター式スクールに在籍しており、ここは音楽関係の有名人を多く輩出している私立学校なのだ。


 学校の名はそこそこ有名であり、小学校から入学する生徒も居るし、中学校や高校で入学する生徒も居る。高校と大学は音楽校のようなくくりで、音楽界を目指して学詠館大学を受験して入る者も多い学校だ。


 学校の方針としては生徒の音楽活動や芸能活動は歓迎しており、来苑もVtuberとしての活動は学校からしっかり認められている。もちろん竜胆れもんである事は一部の者にしか明かしていない。


 来苑は幼稚園の頃から学詠館に入っており、高校までエスカレーターで上がって来たという感じだ。小学校の頃は陸上競技に精を出していたが、体の成長によって陸上競技向きではなくなってしまい、今はV活動に精力的である。


『そ、そのっ…! 前に自分の制服が可愛いって言ってくれたんでっ、自分も学詠館祭では制服っすからっ…、え、えっとっ、自分は何を言ってっ…! あゎぁ…っ!』


「落ち着きなされって! もちろん行くって、誘ってくれてありがとなっ、楽しみにしてるって」


『来てくれるんすねっ! あ、ありがとうございますっ、仲の良い皆も来てくれるかもしれないんでっ』


 どうやら市乃たちにも声を掛けているらしく、何も無ければ皆で文京学詠館高等部の学園祭を見物しに行けるだろう。


 本来なら来苑はもっと早く灰川に話をするつもりだったのだが、SNSでメッセージを送るのも電話をするのも緊張してしまい、今になってしまったという事情がある。


 その後は暫定の予定を話したり、竜胆れもんの配信予定を聞いたり、雑談を交えつつ電話は終わったのだった。




「じゃあ行くかアリエル、今日からは自家用車で送ってくからな。四駆のSUV車で!」


「ありがとうハイカワっ、マイカーを手に入れて嬉しそうだっ」


「そりゃ嬉しいって、行動の幅も増えるし便利だしな! 学校の帰りは今はタクシー使おうな、話題が収まったら歩いて下校してして良いからよ」


「うんっ、そうするよっ。ハイカワが嬉しそうだとボクも気分が良くなっちゃうねっ、くふふっ」


「うししっ、ランドセル姿のアリエル君はやっぱカワイイなぁ~、私はもう少しゆっくりしてから学校に行くねぇ~」


 いつもの馬路矢場アパートの朝の風景を送りつつ、昨日にクイック契約した近くの契約駐車場に車を取りに行ったのだった。


 朋絵は既に高校に向かってアパートを出ており、猫たちは運動不足にならないように今日も動いたりとかするのだろう。


 アリエルは助手席に乗ってシートベルトを締め、座ると同時にズボンや上着を軽く直す。こういう所が品がある育ちだよなと灰川はいつも感心してたりする。


「そうだハイカワっ、ボクのモデルデビューのお祝いの電話で、ママがボクとハイカワの事を聞いて来たんだ。仲は良くなってるかとか、ちゃんと言いたい事が言える間になってるかってね」


「そうなのか、まあ仲は良くなってるし問題ないだろ、最初は剣を突き付けられて怖かったけどな~、はははっ」


「そ、それはソーリーだよっ、あの時はゴメンっ、ハイカワっ! うぅ…」


「おいおいジョークなんだから気にするなって! こっちこそ変な冗談言ってゴメンて!」


 灰川はジョークで言ったのだがアリエルは最初にあった時の事を、実は心の中で悔やんでいたらしい。前にちゃんと謝罪も受けたし掘り返すつもりもなかったのだが、変な感じになってしまったなと思っていたら。


「くふふっ、最後のは演技さっ! ビックリした? ボクもハイカワがあの時の事を気にしてくれてないの、ちゃんと分かってるよっ」


「うおっ、騙された! やってくれるじゃんかアリエルぅ!」


「くふふっ、演技も上手くなってるのが実感できたよっ、ありがとうハイカワっ」


「おうよ、でも今考えると聖剣を向けられた事がある男って何かカッコイイな、ゲームの魔王みたいな感じでよっ」


「デーモンキング? そういえば小っちゃい頃に読んだ絵本の魔王はスゴくイジワルな奴だったよ」


 その後も小学校に向かう車内で雑多な会話が続き、聖剣ファースのエネルギー充填はしっかりやっておいたとか、小学校では絵本に出て来たデーモンみたいなイジワルも居るとか、そんな話をしていった。


 日本の学校の勉強にもアリエルはしっかり付いて行けてるらしく、友達もいっぱい出来たらしい。それを聞いて灰川は安心し、楽しく生活できてるようで何よりだと思う。


 家とも連絡はある程度は取っており、母のエリカから色々な事を聞かせてもらってるらしい。前に話した時にアリエルの母親は割と変わった人だと分かったので、灰川は内心で変な事とか教わってないだろうな?と少しだけ不安にもなる。


「ジャパンのマンガってスゴイよね! アドベンチャー(冒険物語)作品もコメディも、ラブストーリーも上質な物が多くて面白いよっ」


「そうだろ? でも俺はホラー漫画を読みがちなんだよな、もちろん冒険モノとかギャグ漫画とかラブコメとかも読むけどな」


「ホラー作品は苦手だよぅ! ジャパンのホラーはボクの苦手なタイプなんだ!」


 アリエルは最近は紙媒体書籍を購入したり、電子書籍を買って日本の色々な漫画を読み漁っている。勉強や芸能レッスンや剣術のトレーニングなどもしており、凄いバイタリティーがある子だ。


「ハイカワはホラーが好きなんだよねっ? なにか最近は面白い怖い話とかは見つけたの?」


 アリエルは日本のホラーは怖がるのだが、オカルト事象に対処するためにも怖さには慣れておかなければならない。聖剣の担い手としてホラーが怖いですなどと言う事は許されないため、たまに怖い話なども見たりしてるようだ。


「面白いもんがいっぱいあるな、例えば前に見た実話系ホラー漫画の話だとよ」


「う、うんっ、どんなお話なのっ?」


 ちょっと怖い気持ちを押さえつつ怪談を聞く事にアリエルは決め、助手席でランドセルを抱きながら持つ手に、ぎゅっと力が籠る。


 そんな中で灰川はあまり怖がらせないように気を付けつつ、怪談を披露するのだった。




  子供の頃のオルゴール


 40代の女性のAさんと家族は、ある日に家の中の何処かからオルゴールの音がしてる事に気が付いた。


 夫や2人の息子と家の中を探すのだが、どうにも音の出所が分からない。1階にも2階にも無く、そもそも家にオルゴールがあるという心当たりが誰も無い。


 しばらくして音が止んだので探すのは諦めて、そのまま日常に戻った。Aさんも家族もオカルトなどは信じておらず、変な事があるもんだと笑い飛ばし、気にする事もなく日が過ぎて行く。


 そのまま何か月も過ぎてオルゴールの音の事などすっかり忘れていたのだが、ある日の昼間にAさんが家に1人で居た時、またオルゴールの音が聞こえて来た。


 Aさんは何か月か前にも同じ事があったと思い出し、今度は見つけてやろうと家の中を探し回る。


 音が反響してるようなのだが音量は小さく聞き取り辛い、注意深く家の中を見ていくと物置部屋から音がしている事に気が付いた。


 Aさんは探してる途中でオルゴールの音楽に聞き覚えがある事に気が付いていた、あの音は小学校の工作の授業で作ったオルゴール小物入れの音楽だった。


 実家の何処かに置いてある筈、ここに持ってきた覚えはない、どうして家にあるのか分からない。


 だが自分が忘れてるだけで持って来てしまったのだろう、音が鳴ってるのは壊れて誤作動してると考えてるため、気味が悪いとは思わなかった。


 子供の頃の記憶が蘇る、仲の良かったBちゃんと授業で楽しみながらオルゴールの箱を作ったとか、あんまり仲の良くなかったCちゃんが騒がしかったとか、微笑ましい思い出だ。


 懐かしさを感じながら物置部屋に入り、少し探すとオルゴールを発見した。やはり子供の頃に作った物で箱には花の絵が描かれている、こんなの描いたなと思い出して微笑みながら箱を開けると、中には1枚の紙が入っていた。


 それは自分が子供の頃に書いた『大人になった自分へ』という手紙で、こんなの書いたかな?と思いながら開けてみる。


 字は確かに小さい頃の自分の字で、ナスは食べれるようになった?とか、結婚して幸せになってるよねとか、なんだか自分が書いたような記憶が蘇って来た。


 しかし最後に書かれていた自分へのメッセージにAさんはゾクっとしたそうだ。


『大人になった私へ、その家にいる3人目の子供には気を付けてね』


 これで手紙は終わっており、何の意図があってこんな事を書いたのかは覚えていないし、書いた覚えがない。


 しかしAさんの子供は2人、偶然か?、それとも……。


 Aさん一家は現在もこの家に住んでるが、これ以降のAさんは何となく気味の悪さを感じるようになったと言う。




「うぅ~…コワかったぁ…、こんなコワい話するなんて、ハイカワのイジワルっ」


「おいおい、この位には慣れておかないと後が大変だぞ? オカルトに関わるんだしな」


「そうだねっ、弱点を治すためにも大事だもんね、聞かせてくれてありがとうっ。怖かったけど面白かったよっ」


「おうよ、じゃあちゃんと勉強して来るんだぞ~」


 怖い話を披露していたら渋谷東南第3小学校に到着し、学校の前で停車してアリエルを降ろす。


 近辺の歩道には登校中の小学生の姿が多いが、芸能活動をしている子達は親の車などで送迎されている子も多いようだった。朝は近辺の道路は送迎の車で混む時とかありそうで、子供の飛び出しや急停車に気を付けて運転しないとなと灰川は感じる。


「じゃあ行って来ますハイカワっ、放課後に事務所で会おうねっ」


「俺が事務所に居なくてもしっかりレッスン行くんだぞ、じゃあ気を付けてな」


「うんっ、あ、そうだっ」


 ドアを開けて降りようとしたアリエルが何かを思い出したらしく、灰川の方を向く。


「ボクねっ、イチノさんやソラハさんたちのチームの仲間にしてもらったんだっ、だからこれから覚悟してね、くふふっ」


「え? それって、まさか…っ」


「行って来るねハイカワっ! 送ってくれてthank you!」


 そう言ってから車を降りて、急いでランドセルを背負い直しながら学校に入って行くアリエルの顔は少し赤い。


 まさかそのチームっていうのは、例の絶対に外に言えないチームの事じゃないよな?、と思い、念のために空羽にメッセージを送ったら正にそのチームな事が判明し、灰川は頭を抱える。


 いくら何でも小学生を入れるなよとか思いもしたが、空羽からメッセージで『本人の意思と皆の合意の上で加入だよ、私たちチームは年齢差別はしてないの』という文章が返って来たのだった。


 そこは流石に差別しろよとか、そこまで行くと嫌悪とかないのかとも聞いたが、『嫌悪感情とかは一切ないかな、本気だって思ったし、同じ志を共有する仲間として迎え入れたよ。もちろん灰川さんに対する嫌悪感情とかも一切ないよ』と返って来た。


「文章だとちょっと本心が見えなくて怖い…どうすりゃいいんだ…」


 灰川が悩んでも仕方ない事なのだが、入ってしまった事には仕方ないと諦めるしかない。


 親に言われて無理に好きになろうとしてるなら止めなさいとも言えるが、それも分からない状況だ。妙な勘繰りをして濡れ衣でも着せてしまったら、互いの信用が揺らいでしまう可能性もある。


 とりあえずは何も無いよう、波風を立てないように今まで通りに過ごすしかないだろう。


 子供はいつ何をするか分からないもので、子供に関する様々なトラブルは今の時代だって沢山ある。生活面や活動面でアリエルに何かあったら灰川は自分が前に出ると決めてるが、精神的な部分においてはどうしようもない。


 



「では所長、お先に失礼します。クーチェさんとモシィさんのネットCM案件も纏めておきましたので」


「ありがとうございます、お疲れさまでした。近くで工事が始まりましたんで、あっちの通りは今は通行止めでしたよ」


「そうなんですか、分かりました。教えてくれてありがとうございます」


 午後になってしばらくして前園が仕事を上がる、今週に片付けなければならない仕事は既に終わっており、時間にも余裕が出来た。


 灰川は事務所の仕事全般はこなせるようになったのだが、事務職を長くやって来た前園には速さと正確さの部分で負けている。これらは経験や性質が物を言うようで、まだ灰川は所長職に完全には慣れ切ってない面があった。


 灰川の役目は依頼された仕事を所属者に受けるかどうかを聞いて渡す、契約をしっかり確認した上で要望などがあった場合は先方に伝える、事務所や所属者のスケジュール管理、各種の届け出の処理など結構あったりする。


 これらは事業所内外の信用に関わる事であり、事業継続に無くてはならない仕事である。所属者、職員、取引先、連携する企業、ファンなど、様々な方面への信用を守るための大切な事なのだ。


 依頼された仕事案件を所属者へ丸投げに出来るはずもないし、企画書や趣旨説明などを読み込んだ上で相談して方針を決めたりなど、そういう方面も2社のスタッフに教わって出来るようになりつつある。


 むしろ事務職よりそちらの仕事の方がこれからは大事になっていき、灰川は信用や成果に関わる業務が増えて行くだろうと花田社長から言われた。


 しかしそこまで時間が掛からない作業も多いし、所属者も少ないから充分に回せる業務内容だ。今日も業務は片付いたので、午後3時過ぎには暇な時間になる。


「朋絵さんと砂遊の配信を見るか、どんな感じなのかしっかり把握しなきゃな」


 パソコンで昨日の配信のアーカイブ、手風クーチェのアクションゲーム配信、詞矢運モシィのアニメとゲームのイケメンor可愛いキャラ発掘配信を見ていく。


 どちらも良い配信であり、面白みや個性がちゃんと出ている。クーチェは明るく配信しつつもゲームのイライラポイントではしっかり反応したり、モシィは特徴的な笑い声を出しながらアニメやゲームのイケメンキャラなどに反応していた。


 登録者が一気に30万人にもなったから腰が引けてるかと思ったが、むしろ嬉しそうに良い波に乗った配信をしている。


 コメントの流れも良いし、視聴者の反応も上々だ。荒らしコメントなどもたまにあるが、2人とも気にする様子もなく配信をしている。裏ではセルフでコメント禁止機能を使って弾いたりしながらやってるようだ。


 朋絵は元々は登録者が80万人も居たVであり、砂遊は前世Vでは短期間で20万登録の数字を出した経験がある。バズは初体験ではなく、それもあって現状にしっかり対応できているらしい。


 話題性の影響もあって2人とも同時視聴者2万人以上の時間が多かったらしく、同じ時間に自由鷹ナツハが配信してた事を鑑みれば相当に良い数字だ。


 念のために自由鷹ナツハの同時刻の配信を調べると、向こうは特に視聴者数の変動は発生して無かった。やはりナツハ達は別格なのだろう。


「面白い配信だなぁ、後は配信時間とかをブラックにさせず、活動露出しながらリスナーを維持しつつ増やしてい行きたいけどなぁ」


 2人には最低でも週に1日は休むように言ってあり、砂遊は『もっと休ませてくれて、ギャラは多くしてもらっても良いよ~』なんて言ってたが、休みたかったら自由に休んで良いけど収益は下がるぞと言っておいた。


 朋絵の方は不満を隠しきれない雰囲気があったのを感じている。朋絵は活動志向が強く、どうしても心の何処かで『とにかく配信してリスナーを増やしたい』と思ってしまうタイプなのだ。


 しかし体を壊したり、疲れから失言をして炎上したりなどのリスクがあると説明し、朋絵はこれまでの自身の反省を踏まえて納得した。


 これからも色々と起こるだろうが、まずは所属者や2社の重要メンバーの活動への理解を深めて行った方が良いのだろうと考えたりもする。


「灰川さん、こんにちはー、バズってるのに暇そうだねー?」


「いらっしゃい、ハピレに来てたんだってな市乃」


 要所のアーカイブ視聴が終わる頃に市乃が事務所に入って来る。事務所に客が居なかったら寄りたいとメッセージが来ていたので、大丈夫と返していたのだ。


 市乃はいつものように事務所に入って来てソファーに座り、今週末の事を聞いてきた。


「灰川さんさっ、来苑先輩から学詠館祭に誘われてるよねっ? 来苑先輩、絶対に灰川さんを誘うって言ってたし!」


「今週末だよな、俺は行くけど市乃は来るの? 来苑は皆を誘うって言ってたけど」


「私も行くよっ、だって学詠館祭だしっ!」


 予定とかあるのだったら来れなかっただろうが、どうやら行くようだ。


「あっ、メッセージ来てた! みんな行くって灰川さんっ、やっぱ学詠館祭だしねー」


「皆ってどのメンバー? 空羽とかも来るのか? 忙しいだろうによ」


 来苑の学校の学園祭に行くメンバーは、市乃、史菜、由奈、空羽、桜、の5名だそうだ。


「それとさ、アリエルちゃんと佳那美ちゃんも誘おうよっ? ゼッタイ楽しいしさ、誘ったら行きたいって言うに決まってるしっ」


「佳那美ちゃんとアリエルも? まあ週末は2人とも予定ないけど、行きたいか聞いてからだな」


 今週末は佳那美もアリエルも予定は入っておらず、レッスンも無いので完全に休日なのだ。


 佳那美とアリエルが高校の学園祭に行きたいかどうかは灰川には分からない、疲れて休みたいと言う可能性だってある。


「市乃の話しぶりだと学詠館祭って凄そうな感じするけどよ、有名だったりするの?」


「そりゃ有名だって! 灰川さんって教師になろうとしてたのに知らないのっ?」


「うーん、学詠館は知ってるけど、学園祭のことは分かんないぞ、少なくとも覚えてはないな」


「ここの学園祭って凄いんだよっ、めちゃ賑わうって有名だしっ!」


 市乃が言うには文京学詠館の学園祭は生徒の音楽活動のアピールの場でもあり、音楽界の者も来るそうで生徒の熱量も総じて高いらしい。


 音楽に力を入れている学校なので、当然ながら音楽ステージなどもある。生徒の歌唱や演奏のステージやオーケストラが催されたり、クラシックからモダンミュージックまで様々に披露されるのだ。


 その他にも様々に賑わうらしく、一つの学校の学園祭としては有名な部類に入る祭典である。


「学詠館祭は条件あるけど外部の人も入れるんだよね。私の第2高校の学園祭ってショボイしさー、史菜と空羽先輩のとこの忠善女子は外部の人は入れないんだって」


「そうなのか、来苑の所は学校に許可された所の人か、生徒に招待された人と身内は入れるって感じなんだな」


 どうやら学詠館祭は学校方針や活動内容の事もあってセミオープンタイプの学園祭らしく、親睦のある他校の生徒なども入るようだ。市乃たちの学校の文化祭とは違ったルールやスケールらしい。


「じゃあアリエルと佳那美ちゃんにも声を掛けとくか、これからの活動の学びにもなるかもだしな」


「うん、たぶんアリエルちゃんは灰川さんが行くって言ったら喜んで着いて来ると思うよっ」


「お、おう、まあ、たぶん来るでしょ」


 こうして暫定的に学園祭に行くのは、生徒である来苑を筆頭に、灰川、市乃、史菜、由奈、空羽、桜、佳那美、アリエルという所帯となった。


「灰川さんと皆で他の学校の学園祭に行くのとか楽しみっ、どんな感じなんだろ?」


「ちょっとネットで調べたけど、本当に活気のあるイベントなんだな。音楽も真面目なものばっかじゃなくて、流行曲とかゲーム音楽とかも演奏されたりするっぽいし」


「高校生のフェスだしねー、やっぱ硬いステージだけじゃ堅苦しいもんねっ」


 学詠館祭の盛り上がりは決して『たかが高校生の文化祭』と舐めて掛かれるものではなく、個性的な催しやイベントなどが多くて評価が高いとの事だ。


 音楽に力を入れてはいるが、それと同じように歌劇などにも力を入れて活動してもいるらしく、伝統芸能から現代芸能まで様々に生徒は打ち込んでるらしい。


「じゃあ夜に配信の準備とかあるから、またね灰川さん。皆で一緒に楽しもうねっ」


「なんか俺も楽しみになって来たなぁ、なんだか懐かしい気持ちになっちゃうかもな!」


「あははっ、じゃあ懐かしくて寂しい気持ちになっちゃったら、私と史菜が慰めてあげるよー」


「そうなったら頼むわ、寂しくなる暇もなく楽しむつもりだけどな!」


 今週末は来苑の学校の学園祭に行く事になり、灰川としても誘ってもらえて嬉しいやら楽しみやらで心の張りが出た。


 その後は市乃は帰宅し、灰川は佳那美とアリエルに声を掛けに行って学詠館祭に行く事が決まったのだった。もちろん佳那美は両親に許可をもらっての参加だ。


 久々の学校文化祭、なんだか元気を分けてもらえそうな気がして来る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ