314話 騒動の中の休息
「はい、分かりました。元からそういう形で関わりましたもんね、俺は大丈夫です」
木村沢の別荘から博多市内に移って来たが、灰川もその他の者も仕事の電話とかが来て休まらない。
灰川にはユニティブ興行の旗揚げ配信は順調に行ってるという話もそこそこに、花田社長から2社の所属者の心霊系の動画制作などの手伝いを霊能者としてやって欲しいと言われる。どんな日であれビジネスの話は動いているし止まってはくれない、それは特別な日であっても例外ではないのだ。
元から灰川はそっち方面、オカルトが元で2社に関わっており、そっちの仕事を断る事は気が引ける。
心霊系の動画などは霊能者やオカルトに詳しい人がアドバイザーとして付くと、怪談やスポットに関する独特な情報を教えてくれて怖さも上がる事があり、エンタメ的な部分でも都合が良いらしい。
むしろ花田社長は最初は灰川の『一般人は知らないオカルト情報』が目当てだった、なんて事も前に少し聞いたりもした。
事務所の仕事に関しては2社のスタッフ協力や、四楓院関係が協力してくれる事となり、事務所運営には問題のないようにする手筈は整っていると聞かされた。
ユニティブ興行には灰川誠治、灰川砂遊、藤枝朱鷺美、アリエル・アーヴァスの4名の霊能者が居るため、霊能関係では何かが発生しても対処できる目算が高い。お祓いが出来るという部分だけを見れば、にゃー子と猫たちも居る。
動画界隈では心霊系は地盤が固い人気があるのだが、心霊系の動画投稿者は有名どころ以外では突然に動画投稿が止まったり、SNSで明らかに精神を崩してると思われる内容の文章を投稿する人が増えてるそうだ。
ハッピーリレーは夏の前に心霊系に力を入れると言い、怪談配信やホラゲー配信、撮影許可が簡単に降りる軽めの心霊スポット動画などを投稿していた。
その動きは今も継続しており、三ツ橋エリスや北川ミナミを筆頭にホラー配信はやっており、その甲斐あってホラー系の動画を出せる下地が整ったのだ。
花田社長や運営幹部は過去の失敗から学び、急激に事を起こすのは悪手という考えを持っている。
「藤枝さん、これから心霊系の仕事も増える可能性が出て来たから、その時はよろしくね」
「…ぇ…ぁ……はい……」
シャイニングゲートもサイトウからもらった謎カメラを使って心霊スポットにVtuberが行く動画とか、お化け屋敷に行く動画とかを撮影する企画が持ち上がっている。
シャイゲは『何をやっても視聴者は着いて来る』という下地があるため、ハッピーリレーよりは手回しは少なくて済むのだ。
ここからはユニティブ興行の仕事やオカルト仕事も増えて、稼ぐための土台は硬くなっていく筈だ。一層に皆のサポートに力を入れたいと灰川は思うが、その方面はプロの力を借りたいとも思う。
もちろん通常のゲーム配信やトーク配信もやって行くし、楽曲やボイス販売なども力を更に入れるとの事らしい。
こんな話がユニティブ興行の実質的な本格稼働開始日に来るのは意外だったが、ある意味では2社の社長から『どんな時でも気を抜くな』と教えられたような気もする。
「内藤先生から警護依頼? ならば周也にチームを組ませて当たらせるのが良いだろう。錬一も警護予定は空いていた筈だから声を掛けさせると良い、周也と相性も良いしな」
三檜はSSP社から仕事の電話が来ており、政治家か何かの警護の組み立てに助言と許可を出している。
木村沢一家も仕事の話をスマホでしており、契約がどうとか、物件取引の融資がどうとか言っていた。
灰川と藤枝は木村沢たちに商業呪術がどうだとかは言っておらず、まずはバイアスを抜きにして事を進めようと考えている。
「はぁ…まだ頭が痛い…」
「あんな疲れる除霊とか初めてだったかも…しかも失敗…」
霊能者の2人、悠燕と世理呼もこの場に居て、体に疲れを感じているようだった。2人に付いていた悪念は灰川が祓っており、今はオカルト的な問題は無くなっている。除霊は失敗だと灰川が教え、2人もそれを木村沢 永太の雰囲気から感じ取っていた。
やがてそれぞれの電話が終わって動き出す、現在地は博多駅からそこそこ近い天神エリアの栄えてる市街地だ。
「さて、じゃあ夕ご飯としますか。これも木村沢さんの奢りで良いんですよね?」
「はい、もちろんです。お世話になりますので、何でもお好きなように食べて下さい…」
「父さん、少しでも食べた方が良い。最近は食が細くなってるって聞いたしよ」
ここに居るメンバーは、灰川 誠治、藤枝 朱鷺美、三檜 剣栄、三梅 早奈美、木村沢 永太、金保志、銀上、悠燕と世理呼という異色の組み合わせの9人だ。
こんな人数になるとは思っておらず、灰川としてもどう対応して良いのか迷う。しかし夕食を摂らずに時刻は夜の9時になってしまっており、空腹が強くて限界だった。
悠燕と世理呼もオカルト依頼を受けており、今日の所は依頼主から離れないという契約になっているらしい。彼らも一行に今夜は着いて来る事となる。
「腹減ったよね藤枝さん、何か食べたい物とかある?」
「…ぇと……私は…とくに……」
「これまでけっこう博多名物は食べちゃいましたもんねー、やっぱり豚骨ラーメンですか?」
藤枝は自分の要望を出さないが空腹なのは確かなようだ、たまに腹の虫が鳴かないように力が入ってるのが見て取れる。
早奈美も空腹なようで夕飯を摂りたいと言うし、三檜だって腹は空いてるだろう。ここに居るほとんどの者がそれなりに空腹なようだった。
「ならば皆さん、近くに屋台が集まってる通りがあるから、そこに行ってはどうでしょうか?」
そう言ったのは木村沢の長男である金保志で、博多の天神には屋台が集まる名所のような場所があるらしい。そこに行く事になったのだった。
博多天神の煌びやかな街の中、屋台が集まる場所があった。歩道にはラーメン屋台、おでん屋台、焼き鳥、鉄板餃子、変わったものではステーキとか焼きラーメンとかの屋台なんてものもある。
「屋台かぁ、けっこう当たり外れが多いのが定番だけど、博多の屋台は外れが少なくてレベル高いんだよな」
「え、そうなの? 悠燕さんって博多に詳しいの?」
「あー、まぁね、今は広島に居るけど前は博多に居たし、その時に屋台やってた知り合いの手伝いとかしたんよ」
灰川は悠燕と少しばかり打ち解け、多少は会話が出来るようになっていた。最初は悠燕と世理呼に詐欺野郎みたいな目で見られたが、今はそういう感情は向けられていない。
灰川が霊能力を持っている事は世理呼は感じ取ることが出来ており、その事を銀上に話して今はひとまずの信用はされている。
悠燕は毒性霊力とも言うべき霊力を有しているが、霊能力は無いため感知や霊視は出来ない。そもそも幽霊とか信じていなかったのだが、先程に別荘で除霊行為の真似事をした時に怖い思いをしたため、今は少し認識が変わっていた。
「うそっ、マジ!? 朱鷺美ちゃんって感知力が高いの!? 良いなぁ~、私はそっちがからっきしでさぁ」
「…ぁぅ……はぃ………」
世理呼は人と話す事が苦にならない正確なため、藤枝とも自分から喋る形で話しており、藤枝としては少したじろぎながら会話に応じている。
世理呼はyour-tubeで自分のオカルト系チャンネルを運営しており、登録者は40万人ほどだ。除霊も出来る霊能力者ではあるのだが、特殊な体なのが原因で感知力が灰川より低く、先程に会った時は灰川や藤枝を霊能者と看破できなかった。
30分ほど前に相当に強く集中して霊視したところ、灰川と藤枝が霊能者と知る事が出来たため、今は対応も違っている。
「あ、おでんと焼き鳥の屋台のテーブル席が空いたぞ、待ちも居ないしそこにしましょうや灰川さん」
「良さそうっすね! 美味そうな屋台っぽいですよっ」
「よくあんな離れてるとこの屋台に気付いたな銀上、丁度良かった」
「兄さんは細かく席の客とか見過ぎなんだよ、どのくらいで席を立ちそうかとか見ても、待ってる時間が惜しいだろうや」
「じゃあ私が席ゲットして来ますねー」
銀上がおあつらえ向きの席が空いた事に気が付き、早奈美と三檜が9人で入りたい事を店主に言ったら迎え入れてくれた。
路上に設置された簡易テーブルと折りたたみ椅子の席だ、屋台ではおでんから焼き鳥、博多ラーメンなど色々なメニューがある。
一行はアレコレと頼んでいき、ワンドリンク制なので各自にアルコールやソフトドリンクなどを頼みもした。
「三檜君、九州の焼酎は美味いぞ、君も飲むと良い」
「いえ、私は下戸ですので」
「じゃあ俺は飲みますよ、九州の焼酎がどんなもんか試したいしっ」
「俺のお勧めは熊本の米焼酎だよ、屋台ヘルプしてた時にハマっちゃってさ」
「九州ワインもあるんだ、コレにしよっと」
九州は酒が有名であり、特に焼酎は美味しいと全国的に評判だ。藤枝や早奈美は未成年なので飲めず、三檜は職務中という理由もあって下戸だと言って断りを入れた。
どんなに辛い日であろうと、どんな事があった日でもいずれは腹は減る。様々な謎や不安が解消されなくても、腹を満たさなければ何事も始まらない。
灰川としては木村沢に今回のオカルト依頼に関する事を聞きたい気持ちはあるが、人数も多いので聞ける状況ではない。
「乾杯! 久しぶりに屋台に来たな、外で飲む酒もたまには良い物さ」
「金保志、醬油を取ってくれ、味付け無しの炭火焼き鳥には醤油が一番だ」
「父さん、塩分は控えろって医者に言われてるじゃないか、まったく」
木村沢一家も今はイザコザは控えて食事の席に着き、屋台の料理や酒を一般人と変わらないような風体で摂っている。
三田丘という人物の事も今は忘れるよう灰川が言い、明日に心が落ち着いた状態で改めて聞くという形にした。
今は人数も多く、これがかえって心の落ち着きをもたらしている様子だった。不安感や自責の念もあるのだろうが、それらの感情も今は少しは落ち着いてるようだ。
「灰川さんってどういう関係の人なん? ゴツい人と可愛い金髪JKの護衛?、なんて付くなんて普通じゃないよね?」
「おいおい悠燕さん、オカルト界隈じゃそういう事を聞かれるの嫌がる人が多いから止めとけって、別にヤクザ稼業とかじゃないからね」
「世理呼さんってyour-tuberなんですよねっ? かなり稼いでるんじゃないですかー? 警護とか必要だったら良い会社紹介しますよ、にししっ」
「まあ、そこそこには稼いでるわよ。まだまだ上に行きたいって思うけど、これ以上は難しいかもって思うし」
「……おでん……おいしぃです…もぐもぐ…」
それぞれに会話をしたり屋台料理を楽しんだりしながら時間が過ぎる、悠燕と世理呼も話してみれば悪い奴という訳でもなく、普通に会話が出来ている。
「兄さん、大分県の山林開発の事業はどうなってるんだ? あそこら辺の権利者ってアレコレうるさいだろ?」
「上手く行ってる…とは言い難いな…。ウチらは港湾利権の方に力を使ってたからな、大櫛組の横槍が入って話がこじれてるのは知ってるだろ? それが更にこじれそうでな…」
「銀上、大櫛組はKMIグループがリストラした社員を拾って育てた会社だ。我々に対する恨みも強い社員が居るし、KMIのやり方も熟知してる。手強いんだ」
木村沢たちは仕事の話をしつつ、料理を取り分けたり酒を注ぎ合ったりしており、さっきまで兄弟が『殺してやる!』なんて怒号を飛ばし合ってたのが信じられない光景だった。
普段は兄弟同士で会長の座を巡って争い合ってるが、この場ではそういう面は出さない。息子たちは40歳を超えているが、やはり仕事以外で家族で集まれば普通の顔が出るのかもだ。
いがみ合ってる面さえ出ないのであれば、まだ家族としてやっていける感じがする。その風景に灰川を始めとした一同は意外だなと思う顔を向けていた。
「家族内で会長争いをしてる兄弟が普通に話してるのが意外ですか? はは、無理もないですね」
「そりゃそうだよな、特に世理呼さんには俺らがどんなに仲が悪いか話したしな」
九州の美味い酒の力もあるのか、屋台という普通とは少し違った場所が心を普段と違くさせたのか、皆の視線に気付いた兄弟が答えた。
兄弟の表情には、どこか自嘲的な笑顔が浮かんでいた。これまでの経緯だとか、仲良く出来ない事への反省だとか、反省したとて変えられない今を笑うしかないのか、そんな表情だ。
「金保志と銀上、ここには居ませんが銅がいがみ合う原因は、間違いなく私にありますたい…そこそこに裕福な家に生まれさせて、大きな金が動く会社に入らせて、嫌なものを見させ過ぎましたばい…」
「父さん…まあ、確かに嫌なものは見て来たさ」
「俺だって父さんに何一つ思う所が無い訳じゃない、恨んだ事もあったが、今はそうでもないさ」
永太は昨日今日と色々と思う所があり、少し心の内などを話したい気分だったのかも知れない。
「そもそも不動産業の木村沢エステートに、最初から入社させるのが間違いだったのかもしれんな…」
「それを言ったらお終いでしょう父さん、まあ言いたい事は分かりますけど」
金保志がそう答える、どうやら何かしら訳があるらしい。
「木村沢エステートに入るなら良いじゃないすか、だって大きな不動産会社だし。俺みたいな大学も出てない奴とか、入る事すら出来ないじゃないすか」
「そうですよー、木村沢エステートって言ったら本州でも知ってる人居ますよ。そんな会社だったら息子さんとかも入れるの普通じゃないんですか?」
そう言ったのは悠燕と早奈美だった、悠燕は酒が回り始めて舌が回るようになって来たらしい。さっきまで除霊の真似事をしてトラブルに遭遇した割には元気だ。
「表面だけを見ればそうかもしれんたい、でも不動産業は人の心を蝕む魔窟みたいな面もあるばい…」
「けっ、全くだよ。客や取引先と問題やトラブルがあって当然、若手だろうがベテランだろうが時間に余裕がないしよっ」
「役員になってからもクレーム対応するなんて私は思ってなかったよ…営業部に居た若手の時は客は悪魔に見える時期もあったさ…」
不動産業は長時間労働は珍しくなく、家族や友人と疎遠になる人も多いらしい。
そしてクレームは当たり前であり、マンションなどの賃貸物件では管理会社でハズレを引いてた場合は、不動産会社が苦労する事も珍しくないそうだ。
事故物件系のクレームも普通にあるらしいが、告知をしていてもクレームが来るから、客のワガママさにも嫌気がさすらしい。
灰川の知り合いの不動産屋には『幽霊が出ないぞ!』なんてクレームが入る不動産屋が居るが、そんなクレームは普通の不動産屋には来ないだろう。
「金はあるのに賃料未払いの奴とか、3日に1度はクレーム入れる奴とか、隣人トラブル製造機の奴とか、そういうのいっぱい見て来たからなぁ」
「役員になった後はクレーム対応する相手が客から取引先に変わっただけだよな、木村沢エステートだけじゃなくてグループの仕事もあるから忙しいし」
どうやら不動産業は忍耐力とストレス耐性が強い人じゃなきゃやってけないらしい。離職率も業界を通して見れば高いらしく、ノルマとかもあるためキツイようだ。
役員になってからもストレスは多いらしく、取引先とのトラブルや有力権利者との話し合い、その他の様々なストレスの多い仕事があるらしい。
「営業部から施設運営部に回った時は、営業ノルマから解放されるって思ったけど、今度は権利関係でタコ殴りだったばい」
「あの時の銀上は怒りで電柱殴って骨折してたな、私は熊本支店の支店長になった時は胃潰瘍で倒れて緊急入院したけど、実はやっと休めると安堵してたよ」
いがみ合う兄弟なのに何だか普通に喋って昔話をしている、その光景は骨肉の争いをしている家族の仲が少しは良い方に向かうかのような感じが見えた。
「こんな風に不動産業は人の嫌な面を見る機会が多いんです、グループの会長の息子という事もあって、人の嫌な面は多く見させてしまった自覚もあります…」
KMIグループは九州で幅広い事業を行っているグループだ、そこの息子として様々な物を兄弟は見て来ただろう。
「でもそれって、会長さんも同じじゃないですか? 良いトコ生まれだし、育ちも似たような物だったんですよね?」
そう聞いたのは世理呼だ、境遇は永太も息子たちと似たり寄ったりではないかと聞く。
「確かにそうですが、私が若い頃は景気も良くて経済はイケイケの状態でしたばい。昨今の時代とは事情が違ってきます」
酒が回って来たのか博多弁が少しづつ出ている。
世の中が変われば世間や社会の雰囲気も変わる、永太としては厄介な時代に息子たちや、その下の世代の人達は生きていると感じていると言う。
「マジで厄介な時代だよなぁ…、今は霊能者として稼げてるけど、これが無かったら施設育ちで伝手も無くて、大学も出てない俺じゃ生活するのもキツイ仕事しか無かったからなぁ…」
「私のお父さんとお母さんも、私がネットで成功してなかったら…今も私の移植手術の料金を払ってたと思う…。景気が上向いてるとか言うけど、そんな実感ないし…」
悠燕と世理呼も完全な普通人ではない人生だったようで、景気が良くて明るく希望に溢れた時代という物も体感してきていない。
彼らは灰川と大体同年代であり、格差が拡大していった時代を肌で感じて来た世代だ。
「昔って皆で仲良くみたいな時代だったんじゃないんですかー? 私たちは何だかマウントの取り合いみたいなこと、高校でやってる人とか多い世代ですけど。 ね?藤枝さん」
「…ぇっと…、…自分以外…みんなバカ…、…みたいに思う人も多いかも…みたいです……」
「今ってそういう時代なのか? 三梅もマウント取ったり、周囲はバカとか思うものなのか?」
「思う訳ないですよ主任! そういう人が増えてるかもって話ですって!」
「警護する人がマウントとか取ったら依頼が来なくなるぞ三檜君、ははっ」
世の中は時代によって変わるもの、それぞれの時代に良い部分があって悪い部分もある。
生まれや育った環境、体験してきた事でも考えや性格は変わるし、その過程で性格や人格の良い部分や悪い部分が形成されていく。
その後も10代から70代までの、色んな年代の者が集った雑多な集まりの会話が続いた。
永太は仕事が忙しくて家族に構う時間が少なかった事を悔やんでおり、仕事面でも人間関係やビジネス面で後悔が多い人生だと語った。それでも会長を退くまでは精一杯にやろうと思ってると言う。
金保志は実は過去に父が進めた政略結婚的な婚姻が元で離婚歴があったが、その後に妻とよりを戻して今は家族で仲良くやってるなんて話をした。一見すると冷たそうな印象を受ける人物だが、実はそうでもないようだ。
銀上は仕事で様々な場所を回って、福祉関係の公益財団法人を設立したいと考えるようになったと明かす。老人福祉や児童支援福祉、貧困問題の解決や拡充を今の時代が欲していると熱く語った。粗暴っぽい言葉遣いの割に心根は良い奴らしい、しかし現実には金の問題が大きすぎるのも分かってるそうだ。
悠燕は家庭の金銭問題で児童福祉施設の育ちだと明かし、金が無い事の辛さ、金が無ければ人はどうなってしまうのかを身をもって知って来たと言う。今の時代は金が無い奴は何の価値も無いなんて言う奴とも付き合いがあるが、実はそういう奴らが大嫌いだと語った。酒が入ってるから口が回ってしまうらしい。
世理呼は幼い頃に心臓移植手術を受けており、手術は海外で受ける他なく多額の金が掛かったとの事だ。そのため移植医療や人工臓器の開発に興味があり、もう少し稼いだらそっち方面に儲けとか度外視で投資をしてみたいと語る。
灰川は小規模な芸能事務所の所長をしていると明かし、今は所属者に見限られないようにするので精一杯なんて話をした。誰が所属してるのかも聞かれたが、有名人は居ないから事務所名はカンベンしてくれと言っておく。
三檜は警護職として様々な経験をしてきたが、最近までオカルトとか幽霊は信じてなかった事を明かす。今は色々あって信じているが、正直に言うと話に頭が着いて行かない事があると語った。そこに灰川や世理呼が『それが普通ですよ』と言ったりする。
早奈美の高校では髪色などに縛りは無いから金髪に染めてるが、それだけでスケベっぽく見られる時があって『なんだかなぁ~』とか思う時があるそうだ。そんな話を皆で笑いながらすると、三檜が『金髪は見習いの内だけだからな』と言い含めたりしていた。
藤枝は自分からは何も喋らなかったが、隣に座る世理呼とアレコレと話したり、木村沢一家から博多の地元民しか知らない美味しい物の情報を聞いたり、悠燕が話す面白い話などを聞いて雰囲気を楽しんでいる様子だ。
依頼や仕事の中で体験する人との出会いや親睦、これもまた楽しい時があるものだ。
博多の屋台、見上げればビルの谷間の夜空、肌には外の風、普段とは違う雰囲気の食事は、陰鬱なオカルト現象の雰囲気を一時だけ忘れさせてくれた。
明日は依頼解決のために話を聞いて動く事になるだろう、一件が終わるまで陰鬱な気持ちだったのでは嫌な心になってしまう。今は心を休められる良い時間になった。明日はきっと忙しい日和になるのだろう。
その間、実はユニティブ興行は結構な勢いで話題を広めていたのだが、その事は灰川はまだ知らないままだ。




