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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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310/333

310話 依頼の受諾

 木村沢 永太に追い返された日の夕方、灰川はホテルの部屋で仕事のメールを見ながら内容を確認し、佳那美の両親やアーヴァス家にも連絡を取って仕事の許可をもらったりしていた。


 もちろん自分の実家にも連絡して、功と芳子に今夜に砂遊がVtuber転生デビューをする事も報告している。


 英明から送られてくる仕事の内容は全て明確かつ条件が良く、素人の灰川でも『これは凄い!』と感じるようなビジネス戦略に基づいたものだった。


 本人や両親達にも仕事契約の書類データを送り、意思を確認した上で仕事を受けたり許可を出したりして時間が過ぎ、気付けば夕方になっている。


 少しSNSを見たら昨日に放送されたnew Age stardomの第3回目も好評だったようでトレンドに上がってたし、雲竜コバコと飛鳥馬 桔梗も順調に伸びてる。かなり順風満帆な感じだった。


「今夜は砂遊のデビュー配信ってか、皆の総出演配信をじっくり見れそうだな! やったぜ!」


 灰川は今夜は自分の事務所の配信、ひいては妹の砂遊が 詞矢運(ししうん)モシィとしてデビューする姿を、リアルタイムで見れるとあって上機嫌だ。


 少し前に久しぶりに会った砂遊は以前とは変わった感じになっていたが、思えば昔からあんな感じの片鱗はあったように今は思える。


 砂遊が小学生低学年、誠治が高校生だった時に街の本屋に行った時、砂遊が色っぽい漫画の表紙をじーっと見てた事があった。きっと今のようになる素質は昔からあったのだ。


 とはいえ灰川にとって砂遊は大事な妹である事に変わりなく、そんな妹が自分が所長をさせてもらってる事務所でVをやってくれるのは嬉しい。


「配信は8時からで、明日の朝は佳那美ちゃんとアリエルがOBTテレビの“モーニングドンドン”に出るし、何か俺まで緊張して来たな…!」


 英明が直に指揮棒を振り始めたら、全ての事が急速に良い形で進み始めている。嬉しい事この上ないが、少し悪い気もしてきた。


 自分は何もしてないし、今も離れた場所で別の仕事をしている。だが何も無ければ明日には帰るだろうし、戻ったら自分も気合を入れて仕事をしようと思う。


 だがその前に、今夜の夕食は高級な水炊き鶏が良いな~とか考える。木村沢が代金を持ってくれるし、遠慮なく高級な店に行っちゃいたいな~とか思っている。どうせ金持ちなんだし、そのくらい良いだろう。


 皆を説得して水炊きが有名な店に行きたいとか考えていたら、三檜から電話が入った。 




 午後5時過ぎの時間、灰川、藤枝、三檜、三梅の4名は車に乗って木村沢の別荘に向かって移動していた。


 三檜に木村沢から、灰川という霊能者をすぐに連れて来て欲しいという連絡が入ったのだ。どうやら何かが起こったらしい。


 ハイヤーは今は運転手に急な仕事が入ってしまったため、車は四楓院グループの会社から借りた車で、運転は三檜がやってくれている。


「何かあったんですかねー? 帰れって言っておいて呼び出すとか、あり得ないって思っちゃいますよ」


「金持ちの傲慢って言いたい所だけど、まあ仕方ないって」


 こういった理不尽とかは社会に付き物だが、流石に今回の事はどうなんだ?という気持ちが早奈美にはある。


 三檜は今まで様々な要人を警護してきたため、世の中には色んな性格の人が居る事を知っている。権力者や資産家にも謙虚な人も居れば傲慢な人も居るし、嘘吐きも居れば信頼できる人も居る。


 謙虚さが功を奏して財を成した人も居るし、傲慢さが良い方に働いて人からの信頼を勝ち得た人も居た。嘘を吐きまくるが、その嘘を実現する事で成功した人なんかも三檜は見て来ており、人は簡単ではないのを知っている。


「灰川先生、差し支えの無い程度で今回の件に何があるのか、少しだけでも教えて頂けませんか? 警護に必要な情報にもなり得ますので、もちろん絶対に他言は致しません」


 どのような事があったのか、関わる件に何があるのか、少しは理解して聞いておかなければ危険な事に繋がることもある。


 もちろん完全に秘密だと言われたらそれまでだし、そう言われたら三檜としてもそれ以上に聞くような真似はしない。


 だが、彼は知らないと知っているとでは、たとえ少しの違いであっても、必ず違いが出る事を知っている。だからこそ聞く、聞かなければ警護失敗の可能性が上がるため、聞かなければならなかった。


 灰川の依頼人が『何も言わないでくれ』と言ったのは知っている、だが三檜としては灰川の依頼人より灰川の身の方が大事だ。


 灰川は四楓院の最高客人であり、万が一にも危害が加えられる事は許されない。他にも理由はあるが、とにかく事の経緯に全く無知で居る事は危険に繋がる場合がある。


 なので灰川に、依頼人との約束を破らない程度に、ほんの少しで良いから情報を教えて欲しいと言った。


「そうですね…じゃあ、少しだけですが言います。ですが誰にも言わないと絶対に約束して下さい、早奈美ちゃんもね。ですが質問とかには答えませんので、そのつもりでお願いします」


「もちろんです、灰川先生の名前に傷を付けるような真似は致しません。あくまで警護面での判断材料にしか用いません」


「私も約束します、灰川先生。絶対に他言しません、この警護任務以外での情報の活用は絶対にしないとお約束します」


「……ぇ……ぇ…と…、…ゎ……私は……っ…」


「藤枝さんは見たから分かってる筈だよ、それに藤枝さんはお祓いを頼まれたら聞く事になるかもだし、今から言う程度の事だったら大丈夫だから」


 三檜は硬く約束し、絶対に灰川が口にした事を漏らさないと誓う。早奈美も普段のようなおちゃらけた感じではなく、しっかりとした言葉で他言しないと約束した。


 彼らは四楓院直属の警護士であり、その口の堅さは折り紙付きだ。その事を踏まえた上で、灰川は言っても問題ない情報を口にする。



「あの人は、人に借金を売ってしまった。それも複数の形で……言えるのはこれだけです」


「ありがとうございます、警護の参考にさせて頂きます」



 三檜と早奈美としては灰川の言っている事の意味が分からなかったが、質問はしないという約束なので聞き返す事もしなかった。


 とにかく灰川は譲歩してくれて、自分たちを信頼して、今の言葉を言ったのだ。ここから先は自分で考えようと三檜は考える。


 借金を売る、債権回収会社に債務権利を売却したという事だろうか、それもあるのかも知れないが複数の形でとも言った。


 オカルト的な意味で何かあるのかも知れないし、霊能者には分かる何かの言葉なのかも知れない。三檜にも早奈美にも分からない部分が多いが、まずは目的地に無事に送り届けるため進む。




 午後6時過ぎ頃に木村沢の別荘に到着し、秘書の坂戸に中に入れられ応接室に入らされた。


 中には木村沢 永太だけが居て、灰川たちは4人で入室する。


「先程は失礼しました灰川さん、あんな態度を取ってしまったのにも事情がありまして」


「いえ、あんな値段を最初に聞いたら驚くのは普通だと思います」


 まだ依頼をされた訳ではないため当たり障りのない言葉で応対しているが、声の質などの空気感は少しキツい感じにしていた。


 灰川としては四楓院関係の事という事もあり、木村沢からの依頼は受けておきたい所だ。しかし先程にはあんな事もあったため、依頼されるかどうかは未知数な部分がある。


 だがわざわざキープした上で再度の呼び出しをされたのだ、依頼される確率は高いだろう。


「まずは市内から遠い場所まで日に2度も来させてしまって申し訳ない、その分の謝礼は依頼とかには関係なくお支払いしますので」


「分かりました、受け取らせて頂きます」


 滞在費用は木村沢が全てを持つ事になり、キープ料金や呼び出し料金も払ってもらえる事となった。


 商売上では普通の事とも言えるが、こういった事は金持ちじゃないと難しいだろう。灰川としてはこれ程の遠距離出張のお祓いは初めてであり、こういう事に慣れていない。


 だが、慣れていないという事に感づかれたら藤枝に対しても恰好が付かないので、しっかりと平静を保って話を聞く。


 その会話の中で灰川は、少しなりとも怒っているという雰囲気を出している。怒鳴られて出て行けなどと言われ、不快だったという感情を少し意図的に滲ませていた。


 ああいった態度を取られて全く気にしていませんという態度だと舐められてしまう、その事はブラック企業で散々に学ばされた。毅然と対応する事が大事な場面だ、今は卑屈さを感じさせる訳にはいかない。


 滞在費用などは全て持つと自分から言った事から、色々な意味で驚いた事を抜きにしても、自分にも非はあったと認めている事を態度で示している。


 そこを見ずに責め立てれば木村沢の顔を潰す事になる、互いの意思表示は済んだのだし、前話はこの位にして次に進む。


「それでなんですけど、息子さん達や他の霊能者の人達はどうしたんですが? 姿が見えませんが」


「……それが、大きな問題が起こったようでして…」


 どうやら何かトラブルがあったらしく、木村沢は全員で来てくれと言って灰川たちを2階の奥にある部屋に連れて行く。


 奥の部屋と言っても開かずの間とかではなく普通の部屋らしい。しかし奥に行くにつれて、異常な霊気の気配が強くなっていく。


 2階に向かう途中、灰川は今回の件について考えを巡らせる。


 木村沢が話したオカルト被害の内容は、正直に言ってありきたりで、よく聞く類のものだった。




  木村沢 永太が話した霊的被害


 KMIグループの会長である永太は、2年ほど前から自宅や他の場所でも幽霊のようなモノを見るようになってしまった。


 自宅でトイレに行く際に、廊下の奥を誰かが横切る。木村沢エステートの社長室にいる時に、30階の窓の外に誰かが立っているのが見えた。


 そういう感じの体験ではあり、これは怪談などでもよくあるパターンの被害である。しかし本人からすれば非常に怖く、特に自宅での怪奇現象の発生率が高いため、自宅には帰らなくなってしまっている状態だ。


 最初は幽霊や怪奇現象など存在しないと考えていたため、気のせいだと自分に言い聞かせていた。幽霊がどうだとか真面目に言ったら、頭が変になったと思われると考えていたのだ。


 その内に気のせいでは片付けられないほど幽霊のようなモノが見えるようになったため、神社や寺にお祓いを受けに周囲に秘密で行ったらしいが、効果は無かった。


 家に幽霊のようなものが出る事が多いから自宅に神主とか坊主を呼んで、清め祓いやお経を上げてもらったりしたが、やはり効果が無い。


 お祓いが出来る霊能者を密かに探して来てもらったり、除霊の効果がある御札などを買ったりもしたのだが、どれも効果は無かった。


 精神的にも負担が掛かり、事業面でも最近は上げ止まり状態、後継者問題は過熱する一方で、全方面で風向きが悪い状態が続いている。


 その事を関東の名家の人物に商談の際にポロリと言ってしまい、そこから凄い霊能者が居ると紹介された。




 灰川から言わせれば、こういう事例はお祓いとか除霊の相談にはありがちな内容、これ自体はそこまで注目するべき部分は無い。幽霊が出て怖いから解決してくれ、一言で言ってしまえばそれだけの話だ。


 だが問題は『何故そのような事が発生するようになったか?』である。


 心霊現象に遭遇する理由には、偶然に悪霊や悪念に遭遇して怖い目に遭ったり、少し遊び気分で心霊スポットに行って何かを連れて来てしまったりという、偶発に近い類のものは多い。


 その場合は強い影響がある事は少なく、一時的に怖い目に遭ったり運気が少し下がったりする程度だ。そういった場合は少しお祓いをするか、寺や神社に行った程度でも緩和される事が多数である。


 しかし、自分の業が影響しているものや、強い悪念や恨みの念が元になっている現象は、オカルト的に厄介な事になる場合も見受けられる。


 木村沢からはその気配がしていた、永太には幾つかの悪念が憑いており、その念から受けたイメージや見えたものからは『借金を売る』という感覚を受けた。その意味は灰川も藤枝もよくは分からない。


 木村沢 永太に憑いていた悪念は、恐らく最初は酷い霊障や運気低下を及ぼす程の力は無かったはずだ。そういった気配があったが、とある理由から念の強さが上がってしまっている。


 現在は朝に来た時よりも力が増している気配がある、いったい何があったのか灰川と藤枝には想像が付くが、それは口には出さない。


「なんだか廊下とか階段が1階より暗くないですかっ…? ちょっと寒い気もしますしっ…!」


「コレは霊能力が無くても分かるレベルだね、悪い気が濃い場所って、どんなに明るくても暗い感じがして来るものなんだよ」


「八重香お嬢様が酷い目に遭った時も屋敷の中はこのような感覚を受けました、やはりオカルトというのは存在するんでしょうね」


「…ぇっと……すごく…嫌な気配が強い……」


 木村沢には聞こえない程度の声で灰川たちは話し、気味が悪い感覚がしているという意見で一致した。


 暗い場所で感じる怖さは恐怖が強いが、明るい場所や多人数が居る場所で感じる怖さは不気味さが強くなる。


 この別荘は全体的に明るいし、照明には何も問題はない。だからこそ感じる不気味さというものがあり、その怖さは決して弱くはないものだ。


 2階の奥には防音設備がしっかりしている音楽ルームとシアタールームがあるらしく、そこから少し声が漏れて来ている。叫び声のような(うめ)き声みたいな音だった。



ぎんぎょお(銀上)ぉぉっっ!!! じゃま(邪魔)ばかりしやがってぇぇ~~!!! こおすぅぅっ!!」


「こぉひてやるぅっっ!!! きんほし(金保志)ぃぃっっ!!! しねっっ!!ひねぇっっ!!!」



 シアタールームと音楽ルームと思われる部屋から、殺してやるとか死ねとかといった酷い言葉が聞こえて来る。


「息子たちが連れて来た2人が除霊をしたら、このような状態になりました……」


 病院に連れて行く事は当然ながら考えたのだが、オカルト現象だと感じる心が強いらしく、最初に『言い当てられたくない事を言い当てた』灰川に頼もうと判断したそうだ。


 灰川を呼んで処置のしようがないと言われたなら、その時は病院に連れて行くしかないと感じていると語る。


 金保志と銀上は永太と坂戸と悠燕と世理呼でどうにか縛り上げ、タオルを噛ませて監禁しているらしい。


 猿轡(さるぐつわ)をされてもこんなに叫び続けている状態だ、もし入院となったら治療に長い時間が掛かる可能性があるだろう。


「すぅ~~、せいっ!!」


 「「!!?」」


 いきなり灰川が大きな声を出しながら、複雑な形で手を動かした。思わず他の者達は驚いてビクっとなってしまう。


「灰川せんせー! いきなり何ですかっ!? めっちゃビックリしましたよ!」


「ゴメンて、でも木村沢さん、息子さん達は正気に戻りました。声も止まりましたし」


「!! ほ、本当だ! 金保志!銀上! 無事か!?」


 息子の2人は気を極限まで乱され、酷い錯乱状態が祓いをするまで続くというような状態にされていた。


 その元となったのは父親である永太に起こっている事であり、そちらをどうにかしなければならないが、まだ依頼を受けた訳ではない。


「木村沢さん、今の分はサービスです。食事代のお返しとでも受け取って下さい」


「息子たちに何があったんですかっ? いったい何をされたんですかっ!? 陣伍さんが凄腕と言っていましたが、何が何だか……!」


「息子さん達は木村沢さん…永太さんに憑いていた悪念に当てられていました。もう祓ったので今は大丈夫ですが、今後はどうなるか分かりません」


 朝に来た時よりも明らかに悪念や悪霊気が強まっており、何かしらのトラブルがあったのだろうと灰川は考える。


 そもそもこの悪念は、朝の時点でも不相応なレベルの強さがあった。


「まずは息子さん達を解放してベッドに寝させましょう、もう解いて大丈夫ですので」


 息子2人は拘束を解かれて三檜と灰川がベッドのある部屋に運んで行き、その後に応接室で話をする事になった。




「まず先にお聞きしたいんですが、依頼はしますか? もしするならば3000万円は絶対に必要になります、正確な金額だと3000万円と幾らかだった気がしますが」


「3001万と710円ですね…その金額は絶対に忘れられない金額です…。正式に依頼します」


「分かりました、お受け致します」


 まずは依頼を正式に受け、そこから話を聞こうと思ったのだが、灰川は何から聞けば良いのか混乱してしまう。


「先に言っておきますが、3000万円はお祓い料金じゃありません、お祓いに掛かる費用です」


「分かっています、そうだろうとは思っていました…」


「それとは別に、出張費用やお祓い費用といった諸々の料金もお支払い頂きます、交通費や宿代などは含まず今の所5万円です、ご希望ならクーポンもお渡しします」


「分かりまし……安いですね?」


 今回は日を跨ぐ上に遠距離出張であり、藤枝にもバイト代を出したいから少し多めに取らせてもらう。どうせ金持ちなのだし、そこは遠慮せずに灰川は提示したのだった。


 本来ならもっと取っても良い祓いではあるが、高額なお祓い料を取れば自分の霊力が濁るという確信がある。今回も低額料金での仕事になるが、その代わりに事務所とかに良い感じの仕事とか回してもらえんかな、とかも思っている。


「まずは、えっと…何から聞いて何から話せば良いんだろう…? ちょっとややこしい事情とかありますよね?」


「はい…少しばかり外には言いたくない事情や、思い出したくない事が関係していると思われます」


 今回の件はとにかく情報が少ないが、四楓院関係だから情報が少なかれ、頼まれた以上は受けないという選択肢はない。


 身の回りで怪奇現象が続発するようになり、それが元で今に繋がっているという事くらいしか分かっていないのだが、推測する事は出来る。


 灰川は藤枝が感知した複数の情報を聞き、依頼に活用してくれと言われていた。その情報を元に灰川と藤枝は話し合って推測を立てている。


「永太さん、恐らくですが今までに依頼した霊能者の人とかに、事情をきちんと説明してないんじゃないですか? 見えるようになった幽霊の正体とか、本当は分かっているんじゃないですか?」


「~~!」


「それと多分、詐欺霊能者にも引っ掛かってます、金目当ての人とかに見た目は立派だけど中身はテキトーな除霊をされて、状況が悪化したりしてる気配があります」


 詐欺霊能者は思い過ごしを気にし過ぎたための勘違い霊現象などには効果があるし、大した力のない悪霊などには効果がある場合もある。


 しかし本物の恨みや憎悪などが元になった強い心霊現象は解決できない場合が多く、それが金銭目的や名声目的の気が濁った人物が行えば悪化する事もあり得るのだ。


 霊能力や祓いの力が無くとも、『憎しみに囚われた魂に救いを与えたい』『苦しんでいる人を助けたい』と思う心が強い人だと、たとえ詐欺でも強い悪霊や悪念でも清める事が出来る場合もある。


 だが木村沢 永太は悪どい精神を持った詐欺霊能者に引っ掛かってしまったらしく、事態を悪化させる事になったと灰川と藤枝は見立てた。しかも騙された回数は1回じゃなさそうだ。


「それと朝にお会いした時に私と助手の藤枝が永太さんに見たイメージ、借金を売るとでもいうイメージが見えたんですが、これに関しては思い当たる事はありませんか?」


「っっ!!」


 永太は3000万と言われた時より大きく体を震わせた、やはり何かしらあるらしい。


 とにかくしっかりと話を聞いた上で祓いをするしかない、強制的に祓う事も灰川には出来ない事もないが、それは出来る事ならやりたくない。この依頼からは(ごう)の匂いがしてならないからだ。


 金持ちがやった何かの業を自分が背負うなんて御免だ、もし金銭目的や保身のために何かをしたなら、しっかりと対価を支払うべきだと灰川は考える。


 ここからはしっかり話を聞いていく、それが最低条件だ。



 何故こういった事になっているかの心当たり。


 借金を売るって何なのか、¥30,010,710円とは何なのか。


 悠燕と世理呼はどうなったのか、今までに依頼した霊能者は何をやったのか。



 他にも聞かなければならない事が出てきたら随時に聞いていく。


 そして灰川の方も成り行きが良い物ではないから説明が不足している、灰川側もしっかり説明しつつ依頼を進めて行かなければならないだろう。


 依頼を受けて話を聞き、説明しつつ対処をしていく。言うは簡単だが、これが様々な要因で簡単ではない場合があるからトラブルは発生する。


 今回は既に依頼者の息子が狂乱状態になるというトラブルが発生しており、しかも悪念や悪霊気が朝より増しているというのもトラブルの一つだ。


 今夜はオカルト依頼の聞き込みに時間が掛かりそうだ、ユニティブ興行の皆の配信は見れそうにない。


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― 新着の感想 ―
せいって掛け声聴くと某白石ワールドの霊能者を思い出すんでが、まさか灰川流と龍玄先生関係があったりするのだろうか?www
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