309話 砂遊と由奈、空羽と史菜の学校での話
灰川 誠治が福岡に行ってる火曜日の昼12時過ぎ頃、とある中学校の家庭科準備室という誰も来ない部屋に灰川 砂遊は居た。
今日は昼休み時間は友達と離れてVtuber関連のSNS活動をする。
「うしししっ、やっぱ私ってお胸がデカイなぁ~、妹属性だし顔もそんな悪くないと思うし、割とイケてる気がするぞぉ~」
砂遊は中学3年生で、身長は155cmくらいだが胸がそこそこ大きい。顔も悪くはなく、割と愛嬌がある感じのルックスだ。
そんな砂遊は家庭科準備室にある姿見の鏡に自分を映しながら、少しばかり自分の事を褒めていた。
「これで髪の毛モジャモジャじゃなくて、体から染み出るキモさが無ければモテモテだったなぁ~、残念無念っ、うししっ」
紺色のベストの夏制服姿で鏡の前に立って自分を見ていたが、やはり髪の毛のクセが強い事や、自分から滲み出てるキモさはどうにもならない。
美容院でストレートパーマを掛けた事もあったが、すぐに戻ってしまうし何度も行くのは面倒なので今は現状のままだ。
「にしても、学校のこういう部屋って大人向けゲームだったらイベント発生する部屋だなぁ~。主人公とヒロインが良い雰囲気になって、おっぱじまる感じのシーンの舞台になりそうだねぇ~」
この部屋は教室がある校舎から離れていて、昼休み時間には誰も来ない。家庭科授業に使われる裁縫の生地や、大きな鏡などが置かれている倉庫のような場所だ。
普通なら鍵が掛かっている部屋だが、鍵が古いため少し工夫すると開けられる建付けになってしまっており、その事をごく一部の生徒が知っている。
そんなどうでも良い事を言ってると、砂遊に鍵の秘密を教えた人物が入って来た。
「こんにちわ、砂遊先輩! SNSの使い方のお手本を見させて欲しいわっ!」
「お~、今日も元気だねぇ、ゲームだったらこっからイイ感じの雰囲気になって、イベントシーンがおっ始まるんだけどなぁ~、うししっ」
「イベント? 今日は学校行事とかは無いわよ砂遊先輩っ、でもイベントがあったら楽しそうねっ!」
来たのは同じ学校に通っている由奈であり、当然ながらイベントシーンはおっ始まらない。今日は由奈が砂遊にお願いして、SNSの良い使い方を教える約束をしていたのだ。
今日は砂遊が所属するユニティブ興行の実原エイミと織音リエルがバズった事で状況が動き、砂遊も急遽にデビューが今夜に決まったため様々な動きをしている。
砂遊のVtuberモデルは四楓院が直接に関与して一気に仕上げ、今夜にはVtuber配信が可能な状態になった。
そこに向けて砂遊はSNS活動をしているのだが、SNS自体は前から『デビュー前には名前とVモデルを明かします!』という感じでアカウント運用をしている。
そのアカウントでは中身が以前に業界でも名の通った配信企業、ぶりっつ&ばすたーに所属していた丑獅子イオスだと匂わせており、少しばかり話題になっていた。
ハッピーリレーのVtuberとして活動する破幡木ツバサこと飛車原 由奈が、砂遊はSNSの使い方が上手いという事を知り、良い使い方を教えてもらおうという事になったのだ。
「砂遊先輩のVtuber名は何て決めたのかしらっ? 誠治とも相談したのよねっ?」
「うししっ、お兄ちゃんとも相談したけど、センスが無かったから朋絵さんと相談して決めたよぉ~」
由奈は砂遊にも普通の口調で喋っている、砂遊に限らず仲の良い身近な先輩たちとは敬語を使わず話しているのだ。あまり面識のない人には敬語で話す。
砂遊の転生Vデビューは当初の予定では少し先だったのだが、状況を鑑みて早まった。そのため名前も急遽に用意する必要に駆られ、つい昨日にVネームを決定したのである。
「Vネームは“詞矢運 モシィ”にしたよ、やっぱ笑い声が独特だから“う、し”の字で名前を作った方が良いって話になってねぇ~。モシィのモはモテないのモだぞぉ~」
「砂遊先輩は変なオーラさえ抑えられたらモテモテになると思うわ! お胸もふっくらしてるし!」
「由奈ちゃんは優しいなぁ、モジャモジャ髪の毛もどうにかしたいとこだぞぉ、うししっ」
そんな詞矢雨モシィは今朝から名前とVモデルを公開している。
詞矢運モシィのVモデルは何処となくキモさを感じさせつつも可愛らしい見た目で、髪は少しクセっ毛っぽい感じにしつつの赤色、そこに少し紫のメッシュが入っている。
前世である丑獅子イオスのモデルをバージョンチェンジさせてグレードアップしたような感じで、砂遊のキャラ性を感じさせつつ人の記憶に残りやすい、それでいて可愛さもあるモデルに仕上がった。
SNSフォロワーは前世パワーもあって既に3万人を超えており、今朝に開設したyour-tubeのチャンネル登録者は今は1000人を超えている。
実は丑獅子イオスには隠れファン、チャンネル登録して無かったけど見ていた層が割と居たらしく、まだ何も配信も動画も出して無いのに3000人という登録者を獲得できていた。
この数字にはユニティブ興行の事務担当である前園も驚いており、花田社長や渡辺社長も驚いていた。
しかもモシィは絶賛バズり中のユニティブ興行所属という情報を明かしていない、昨日に開設された事務所公式サイトでも明かされていないのだ。それなのにこの数字は大きい。
「割と数字取れてるなぁ~、何もやってないんだけどね、うししっ」
「砂遊先輩はSNSを上手く使っているのね! あっという間に少し前の私の登録者数を越えちゃったわ!」
「今時はyour-tubeで、どんな配信をしてても埋もれちゃうからね~、SNSを上手く使わないと新顔は波に乗れないんだよねぇ」
家庭科準備室の椅子に座りながら砂遊がスマホを操作し、その様子を由奈が覗き込む。
その際に由奈が『なんだか砂遊先輩って誠治の妹さんなのに、匂いがけっこう違うのねっ』とか思っていたりする。これは霊嗅覚の方面の匂いであり、兄とは違った香りを感じていた。
とはいえ砂遊の香りも由奈は好きであり、やっぱり兄妹なんだなと思っている。だが今はSNSの事に集中する時間だ。
さっそく砂遊は由奈に、自分がどのようにSNSを使っているのかを、操作しながら教えて行った。
「ツバサちゃんのSNS見たよ、フォロワーさん5万人くらいだったよねぇ」
「そうねっ、TwittoerXのフォロワーさんは7万人くらいで、your-tubeの登録者さんは今は15万人よ!」
破幡木ツバサはここ数か月で急速に伸びており、4000人以下だった登録者が今は30倍以上の数になっている。
しかし、人気の指標の一つであるTwittoerXは思った程は伸びておらず、現在のチャンネル登録者の3分の1くらいの数で落ち着いていた。
ツバサを含めた配信や動画投稿者のプラットフォームは1つとは限らない、your-tubeはもちろんtika toka、towitvh、Instar gram、など様々な場所でネット活動者は動いている。
TwittoerXも重要な活動の場として活用している者は特に多く、Vtuberや配信者でTwittoerXを利用していない者は少数派だろう。宣伝にもファンへの情報告知などにも凄く便利なのだ。
だがハッピーリレーはともかく、シャイニングゲートなどはSNSの投稿は完全な自由にはならず、事務所が確認してから投稿される。ハッピーリレーも未成年と確認希望者は確認される決まりがある。
「ツバサちゃんのTwittoerX見たけど、文章があんまり良くないねぇ~。ハピレさんの講習で教わった事を無難に使ってるって感じがするねぇ」
「SNSの講習だと、興味を引く情報、面白いこと、共感される文章がバズるって聞いたわ! そこに気を付けて投稿してるつもり!」
ハッピーリレーでのSNS運用の講習では、人の興味を引いて登録に繋がるような文章を投稿しようという事を教えている。
これらには以前にはトレンドネタを擦るだけとか、他にも様々な攻略法とも言えるやり方があったのだが、現在では乱用され過ぎて効果を失っている方法も多い。
「まずは誰をターゲットに投稿するか私は決めるよぉ~、ファン向け以外の投稿は特に」
砂遊は投稿を幾つかのターゲットを絞って行っており、高校生男子に向けて、暇な大学生に向けて、社会人の映画好きの人に向けて、など投稿を細分化している。
投稿した文章に添える画像や文章もしっかり考えており、見た人が興味を持つような投稿をする事を心掛けていた。
この方法もネットから仕入れた知識の1つではあるが、砂遊にとっては上手く出来る方法だったのだ。
「ちょうどツバサちゃんが私と同じアニメの感想を投稿してるねぇ、見比べてみよっか」
「野球拳部最強のマサキの感想ね! 野球部の話と間違えて視聴して、ビックリした人が続出したアニメだったわ!私も野球部の話だと思ってた!」
このアニメは野球部と間違えて野球拳部に入ってしまったマサキという男子高校生の話で、かなりギャグに寄せたアニメだ。主人公のマサキは男相手には勝率100%、女性相手には勝率0%である。
破幡木ツバサ@ハピレ(料理修行中!)
♯野球拳部最強のマサキ ♯破幡木ツバサ ♯ハッピーリレー
野球拳部最強のマサキ、すごく笑った
ジャンケンに負けて服を脱ぐ競技の話なんて初めて
だったから楽しかった
男子に勝てるけど女子に勝てないのも笑ったわ
2期があったら見る!
見てない人にもおすすめよ!
コメント 23 イイネ 370 リポスト 45
詞矢運モシィ@???(Vtuber準備中)
♯詞矢運モシィ ♯野球拳部最強のマサキ ♯アニメ
野球拳マサシ、メチャおもろかった~!
イケメンが多いのも私みたいなのには嬉しいね!
マサシも可愛いけど、ヨウイチもイケメン!
でも原作漫画に出てたジョニー先輩も出して欲しかった!
コメント 78 イイネ 1201 リポスト 48
まだ活動もしていない詞矢運モシィの投稿の方がコメントもイイネも多い、その理由を砂遊は説明した。
「私は検索とかに引っ掛かりやすい言葉を入れながら、原作ファン層に向けて文章を書いたのさぁ。うししっ」
これは砂遊がよく使うSNS運用の手法の一つであり、最も基本的な手法として広く出回っている。
更に砂遊は何度かに分けて投稿をしており、○○のキャラのシーンが良かったとか、鍵括弧を用いた文章で興味を引く手法、漢字が多めの文章、カタカナ語が多めの文章など、様々な投稿をしてる。
その結果として漫画とアニメの野球拳部最強のマサキのファンのSNS利用者には、男女問わず詞矢運モシィの投稿が目に付きやすくなる。
「画像とか動画を載せるのも重要だねぇ~、目に付きやすくなるしさ。あと長すぎる文章とかは読んでくれない人が多いよね~、うししっ」
「つまり見た目も文章も分かりやすくて、なるべく短い文で興味を引けるように書くのねっ!」
「それと、どの層に向ける投稿なのか考えるのもだねぇ、テキトーだと人目に付く可能性は低いままだかんね~」
SNSでの活動は視聴者の呼び込みに強く運用されている、ここを上手く使えるかどうかで大きく先が変わると言っても良いだろう。
だが、SNSの運用法はフォロワーの数や視聴者登録数によっても変わると砂遊は付け加え、この手法はあくまで自分のような登録者がそこまで多くない者が使うべき手法だとも説明した。
自由鷹ナツハや竜胆れもんは既にブランドが確立しており、そこまでSNSに頼って活動をする必要はない。
ナツハたちは現在は1日に1度か2度のSNS投稿という頻度であり、誰かの投稿のリポストだけしかしてない日もある。SNSでの動きが全く無い日ですらあるほどだ。
「SNSでバズりたかったら、ターゲットを決めて、そこの人達の心に響くような投稿とか、共感してもらえる投稿を考えるのが良いかなぁ」
「ちょっと難しそうねっ、でも練習してみるわ! ありがとう砂遊先輩!」
「うししっ、可愛いツインテロリちゃんに頼まれたら断れないぞぉ~、今夜の初配信の投稿もしとかなきゃだねっ」
砂遊のSNSの使い方はこれだけではないのだが、基本的にはターゲットを決めて情報や内容を選び、文章もターゲットに合わせて書き、画像なども汎用の物ではなくあまり見ない物を使うというのが基本にしている。
もちろん全ての投稿が多くの人の目に触れる訳ではないが、それでも結果は出ており、既に3万というフォロワーを獲得している。
この方法は使用者のセンスも大いに試される質のものであり、言うほど簡単には使いこなせない。トライ&エラーは必須になるだろう。
短くて興味や共感を引く文章を書く能力、短い言葉で視聴者に分かりやすく物事や感情を伝える能力、どちらも何か繋がる物がある気がする。
ネットで成功するには『分かりやすさ』『情報伝達能力』『様々な意味での想像力』、というものが大事なのかも知れないと砂遊は言った。
しかし、SNSの使い方やバズり方に絶対の正解など無い、それを踏まえてそれぞれに適した方法を見つけて行くしかないのだろう。
「私もまだまだ出来てないけどね~、自由鷹ナツハさんなんて投稿したら何でもバズるしねぇ~」
「さっき砂遊先輩がナツハ先輩たちとはSNSの使い方が違うって言ったばっかりよ!?」
「さ~て、今夜のユニティブ興行所属者4名のコラボ配信について、どんな風に情報隠して追加宣伝しようかなぁ」
今夜は砂遊のVである詞矢運モシィのデビュー配信だが、そこに手風クーチェも出演し、実原エイミと織音リエルも配信に顔出しで出る。
その時にモシィとクーチェもユニティブ興行の所属という事を明かし、公式サイトが公開された事とか、色んな事を告知する予定だ。
デビュー配信という名のユニティブ興行の決起配信みたいな感じになる予定であり、プロが書いた配信脚本も用意されている。脚本は元ライクスペース運営だった前園がチェックして手直しした。
「私も視聴者登録が増えたらツバサちゃんとコラボ配信したいね、3社で良い感じにやってくって話だからね~」
「もちろん私もモシィちゃんとコラボ配信したいわ! わははっ!」
中学校の家庭科準備室で行われているSNSの利用法の話をしつつ、今夜の動きや今後の事に夢を含めて話していく。
ユニティブ興行は実質的に今日から本格稼働という事になり、朋絵、砂遊、佳那美、アリエルの4名はそれぞれの思いを胸に道を行く事となる。
「これって…凄いですよね空羽先輩…! 佳那美ちゃんとアリエルちゃんが、雑誌と新聞の影響で更に有名になっています…!」
「しかも今夜に砂遊ちゃんのデビュー配信で、そこに手風クーチェがユニティブ興行に所属してる事も表にするんだって。しかもエイミちゃんとリエルちゃんも出演するって」
「スポンサーパワーと話題の波を使って一気に押し上がる算段ですねっ…! 流石は灰川さんですっ…!」
ここは忠善女子高校の校庭の外れ、そんな場所の目立たないベンチで昼時間に澄風 空羽と白百合 史菜は会話をしている。
空羽は佳那美とアリエルの表紙のアグリットを持ち、史菜は新聞の中面を贅沢に使って2人の大きな写真広告が載った、全国紙の新聞の『全報新聞』を持って来ていた。
空羽は昨日の朝に大型書店で残り2冊になっていたアグリットを購入し、史菜は今朝にコンビニで新聞を購入した。間違えて似た名前の競馬新聞を買いそうになったのは秘密だ。
「TwittoerXでは流石にトレンド上位から今は外れましたが、まだ2人の事が話題に上がり続けています」
「それに釣られてユニティブ興行の名前も広がってるよ、今頃は事務所に問い合わせのメールとかが沢山来てるかもだね」
昨日の時点でユニティブ興行の公式サイトオープン、そこに実原エイミと織音リエルの芸能プロフィールも掲載。
だがVtuber部門のページには肖像が隠された2名が載っており、1名は活動中という記載がある。これが話題を呼んで『○○じゃないのか?』『最近に出た、あのVに違いない』という声が上がり続けている。
そもそもVtuber部門があるのかと驚いている人たちが多く、あんな美少女の女児2人を有する事務所のVはどんな感じなのか、そういう部分でも話題になっていたりする。
現在のユニティブ興行の作戦としては、今夜に佳那美とアリエルが砂遊のデビュー配信という名のユニティブ興行の配信に出演。
明日の朝にOBTテレビの朝のニュースバラエティ番組で、『ネットで話題急上昇の2人にインタビュー』という形で2人がテレビに出る。
そこからも様々な広報が考えられているが、まずは今夜の配信がどのような結果になるかを見てから英明は方針を考えるようにしていた。
佳那美とアリエルの明日のテレビ出演は今日の夕方に、近場の喫茶店のアウド村を貸し切りにして、簡易スタジオのようにして使わせてもらって収録する。
その前にお台場の高級美容室のレミアム・オーセンに美容師出張サービスを依頼し、最高の状態に2人を整えてもらう事が決まっている。
「ユニティブ興行が上に行くための地盤は、とっくに出来ていたんだもんね。各所に伝手も通っていたし、売り出すための後ろ盾も完全に陣形が整ったんだ」
「そのようですねっ、灰川さんは各所に強い協力者の網を構築していたのを、初めて確信しましたっ」
空羽は灰川と四楓院の関係は知っていたが、史菜は少し事情が違う。以前に四楓院の警護チームに助けられたが、その時は事情もあって灰川は詳しくは話していなかった。
だが今は流石に灰川には強い後ろ盾がある事を確信している、今までだって何か強い伝手を持っているのかもと思う事は、何度も史菜にはあった。レミアム・オーセンに行った時だってそう思った。
しかし本人の暮らしぶりが、どうにも『財力や権力の匂い』を感じさせなかった。灰川の金銭に対する恐怖の事を知っていても、尊大な部分も無いから凄い後ろ盾とかの確信は持てなかった。
今は違う、史菜は『灰川さんはやっぱり凄い人だったんだ!』と感じている。
「ここからは私たちも含めて状況が一気に動くと思う。ミナミちゃん、気を抜かずに活動して行こうねっ」
「はい、ナツハ先輩、シャイニングゲートさんと灰川さんのユニティブ興行、それにハッピーリレーで手を取り合って行きましょうっ」
灰川がコンサルタント名目の個人事務所を持ち、英明と陣伍がグループ内の各所に灰川の名を広げ、その間にもシャイニングゲートとハッピーリレーの運営内部にも灰川の後ろ盾の影響力の強さを示していた。
テレビ番組が実質的には四楓院の力で成立していたり、シャイニングゲートから2名が灰川の口利きでデビューしていたり、実は灰川の影響は強い状態となっている。
しかし灰川は出世欲や金銭欲が低く、強権を振るって何かをしたり、内部を掻き回したりしないため、2社は骨抜きにはなっていない。これは灰川が居なくても2社の運営は普通に回るという事を示す。
そうしている内に良い波が発生して今回に至り、今は一気に名を上げるための動きを取っている状態だ。
しかし、そんなユニティブ興行に空羽と史菜は不安材料があると感じている。
「ですが…所属者4人でどうしようって言うんでしょうか…、そこが不安です…」
「考えはあるんだろうけど、流石に私も心配かな。灰川さんはシャイゲのアカデミー生の引き抜きは、頑張ってるアカデミー生に失礼って言って反対してるしね」
ユニティブ興行には所属者が現状で4人しかおらず、シャイニングゲートとハッピーリレーとは人数の釣り合いがどうしても取れない。
こうなると会社間のコラボが盛んになった場合などに、どう足掻いても存在感が薄くなる。少数精鋭では乗り切れない部分は存在するのだ。
「大事な仕事で福岡に出張されてると聞きましたが、今頃は向こうの仕事とこちらの仕事で忙しくしてらっしゃるんでしょうか」
「事務代理の人達とハピレさんのスタッフさん達が手伝ってくれてるらしいから、たぶん大丈夫だよ。ふふっ」
様々な心配や不安材料はあれど状況は進む、その時にはトラブルも起こるものだが、灰川の後ろ盾たちはトラブルの発生はあり得ないというレベルにまで地盤を固めていた。
こちらの方面では不測の事態が起こる確率は低く、起こったとしても英明や陣伍が力を振るってくれる環境だ。
とにかく状況は動き出しており、ユニティブ興行は今までに溜め込んだ力を四楓院 英明の裏からの主導の下で発揮している。
英明とメディアスペシャリスト達の仕事っぷりは凄まじく、財力や各所への力によってユニティブ興行の名前を急速に広めている。波が来た時のための事前の話し合いも、彼らは欠かしていなかったのだ。
流行コントロールも上手く行っており、突如として現れた2人の少女への大衆の関心は薄れていない。
まだこの流れは始まったばかりだが、無為に燃え上がらせる訳ではなく、高いレベルで長く続く炎を構築しようという作戦だ。その事は灰川も知っているし賛成だ。
そんな中で所長である灰川誠治は現在、福岡県でアレコレと仕事の確認と許可を出しつつ、アグリットが売り切れていて仕方なく電子書籍を買ったり、新聞も売り切れていたのでコンビニ巡りをして全報新聞を探したりしている。
灰川は福岡にオカルト依頼で出張しているのだが、東京の事務所で今の雰囲気を直に感じていないため、まだ自分がどのような環境の中心に居るかの自覚は非常に薄い状態だ。
そして灰川の方は既に、オカルト依頼がキャンセルされたが、訳あるようでキープされてるというトラブルに見舞われている。




