302話 ドライブと散歩は続いてく
土曜の夜、和藤 才知は自宅でTCGのワールド・ブレイブ・リンクの動画作成のためにパソコンに向かっていた。
「はぁ~、WBL全国大会の決勝で負けたのは痛かったな、あそこでアドバンスド・プリコーダーが場に出せてればな~…」
勝負は時の運、あまり重大に考えないようにしてるが、全国大会の決勝で負けたのだから悔しいのは当然だ。
しかし世界大会への切符は手にしている、そこに向けて対策を立ててデッキを組んで行こうと決めていた。
大学の学業などもあるが、今は心の比重はWBLの方が遥かに強い。才知のyour-tubeのチャンネル『サイローチャンネル』も、カード人気の過熱でチャンネル登録者が増えている。
世界中にファンが居るWBLの日本と世界ランカーなのでチャンネル登録者は30万人と多めで、TwittoerXのフォロワーも同じくらいだ。
才知の動画チャンネルはそこまで投稿頻度は高くなく、動画の内容はWBL関連が6割、魔法のメロディ少女プリコーダーズ関連が3割、その他が1割という雑多なチャンネルである。
収益化もしているが動画収益はそんなに高くはなく、趣味の延長線でやってるような感じだ。才知はあくまでWBLに本腰を入れているカードプレイヤーであり、インフルエンサー志望ではない。
「動画制作も疲れたし、ちょっと息抜きでもするか。プリコダの新情報は特に無しか、まあ3時間前にも調べたし当たり前だね」
才知はWBLの情報とプリコーダーズの情報は日に何度も調べている。WBLとプリコダの公式SNSや公式サイトは目を閉じていても目的のページに飛べるレベルだ。
アレコレと調べつつ、才知は最近になってそこそこ調べているワードを打ち込んだ。そのワードは『ユニティブ興行』だ。
コスプレ衣装の店で出会った子達が所属する芸能事務所だが、ここはまだ公式サイトも存在しない新規の事務所である。まだ誰からも注目されていないが、才知は絶対にこの事務所を応援すると決めていた。
「やっぱユニティブ興行の新しい情報は出てないか、親父にも聞いてるけど、まだ事務所は本格稼働してないって……あれ? なんかあるぞ、ザーム出版? カルチャー雑誌のアグリット?」
SNSで検索したら知らない出版社のアカウントの投稿にユニティブ興行の名前があり、そこにはなんと。
「っっ!! 実原エイミちゃんと織音リエルちゃんが表紙の雑誌!? しかも書籍なら表紙の全体像ポスターも付くだって!?」
アグリットは先日に佳那美とアリエルがモデル撮影の仕事を受けた雑誌であり、その発売が明後日の月曜日なのだ。
雑誌の販促宣伝の投稿であり、表紙の写真も掲載されている。そこには輝くような可愛さと綺麗さの2人の女の子が写り、才知は目を奪われる。
白いワンピースシャツを着た2人の柔らかな笑顔、あまりの可愛さに目を奪われて釘づけにされる。見れば見るほど心が浄化されるかのようだ。
なんて可愛さだ、背景の晴れやかな美しさの湖が霞んで見える、平和や優しさの尊さ、柔らかで無邪気な愛が感じられる一枚、目まで浄化される思いだ。というか視力が良くなった気がする!
こんなに美しく、可愛く、優しく、柔らかな写真など見た事が無い。完璧だ、完成された写真だ、なのに未完成だ。この2人はまだ上がある!
「公式サイト見なきゃ! なになに?、子供服ブランドのモデル写真アリか、エイミちゃんとリエルちゃんがモデルかは分かんないっぽいな、でもポスターは付くのは確定か」
表紙のポスターはザーム出版の編集部が2人の写真の綺麗さに心を打たれ、急遽に付ける事を決めた折込の付録であった。もちろんユニティブ興行には許可は取ってある。
「今はちょっと金欠気味だけど絶対に買う! 問題は何冊買うかだよなぁ…電子版も買わなきゃだし」
電子版には特に付録とかは無いが、才知は即座に買う事を決めた。そのくらいの衝撃を表紙の写真に受けたのだ。
これは1冊を買うだけじゃ満足できない、無限収集したいくらいの気持ちに駆られるが流石に同じ雑誌を無限に買うとか置き場所に困る。TCGだったら無限収集する人も居るが、これは流石に話が違うだろう。
「まず発売日に書店で5冊は買いたいな、出来れば20冊は欲しいから店頭で買えなかったら通販しよう! あとはこの情報を拡散だな!ハッシュタグは~…」
才知は1人でかなりの数の冊数を購入する事に決め、次にSNSでの拡散に勤しみ始める。更に動画か配信でも情報を広げようと動き出すのだった。
実は同じ頃に複数の人達が明後日発売のアグリットの表紙写真の出来栄えに感銘を受け、同じように拡散している状況がある。
その中にはカメラマンを務めた佐伯夫妻はもちろん、夫妻の情報を見たプロの写真家が2人の表紙を見て驚いて拡散したり、他にも灰川が関わった業界の人などからも拡散が行われている。
この表紙写真は本当に凄い出来栄えで、多くの人の目に留まっていたのだ。アグリットの定期購読者からも『今回の表紙の子カワイイ!』などの投稿が相次いでいる。
1枚の写真が波を起こす事も世の中にはある、そのような例に2人がなれるかはまだ分からない状態だ。
夜の21時過ぎ、灰川たちは首都高速に入って都心環状線の内回りを走っている。夜景を楽しみながらトークしたり、普段とは一味違う楽しい時間を過ごしていた。
道路のすぐ脇に立つ高いビルの谷間の道路を抜けながら、綺麗な夜景を見ながら、夜の首都高の音を聞きながら走って行く。
時間的に道は空いてるのでスイスイ進めるが、首都高はカーブも多く見通しは良いとは言えないし、車線が行き先によって変わりまくるので安全運転を心掛ける。
空いてるとはいえ他にも車は普通に走っているし、気を抜き過ぎた運転はどんな時間でも無理なのが首都高だ。
「夜の街って綺麗だよねー、今までも普通に見た事あったけど、なんか今日は違って見えるかもっ」
「家の車に乗って見る風景とは違いがあるよね、私も雰囲気が違って見えますっ」
「私は景色が見えるとかの感覚は分かんないけど~、夜の香りとかが感じられて楽しいよ~」
夜の外出特有の解放感、いつもとは違う雰囲気、こういうのは高校生でも大人でも関係なく楽しめるものだ。
街の灯りや首都高速の過ぎ行く景色、時折に入るトンネルも何だか楽しく感じる。夜の都会ドライブは独特な楽しさがあった。
こういう時は話なども弾むもので、3人は活動の事や学校の事など話して更に打ち解けていく。
「そういえばさー、灰川さんって何で教師にならなかったの? 教育学部は卒業してるんだよね?」
「私も気になっちゃうな~、灰川さんって教師とか向いてそう~って思う~」
「え? ああ、まあ教職ってブラックだって有名だしよ、そういうのは嫌だなって思ったんだよ」
いつもと違う雰囲気に当てられて、いつもとは違う話を市乃たちに切り出された。
「授業の準備に会議や講習会など大変だそうですね、部活動とかの顧問になると更に大変だと聞きました」
「モンスターペアレントとか生徒を注意しただけで攻め込んでくるって聞いたし、実際に大学の先輩とかも大変過ぎて1年で辞めちゃった人とかも居たんだよ」
大学に通っていた時は当然ながら先輩も居て、卒業した人達から色々な話を聞いたり、どんな事になったのかとかも灰川は聞いた。
教師の業務は非常に多岐に渡り、学習評価や成績処理、学級経営、生徒指導、部活動指導、学校行事、会議、事務作業、保護者やPTA対応、地域連携、その他にも多くの仕事があり滅茶苦茶に大変だ。
そこに加えてITの活用法とかも学んで行かなければならず、隠されたイジメへ目を光らせたり、不登校生徒への対応などもある。
しかも教員同士での不仲からの職場イジメや、生徒からの心無い言葉や態度、全体的な人間関係もギクシャクしてる学校は珍しくないらしい。
労働時間は12時間を超え、頭も滅茶苦茶に使う職業かつストレスも高く、凄い体力や情熱が必要な職業だという。しかも基本的に残業代などは出ない。
それなのに責任は重大で重労働、そういう情報が嫌というほど入って来て、灰川は教職の道を諦めた。とても責任を負い切れないと強く感じたのだ。
「イジメ事件とかがニュースになったりするだろ? それで学校や教師は気付きませんでしたって言ったりするけど、それって本当のパターンも多いらしいぞ」
「そういうもんなのっ? でも確かにイジメとかって教師にバレたら注意されるだろうし、当たり前なのかも…」
「生徒が誰からイジメを受けているとか教師に簡単に分からないように、教師が別の教師からイジメを受けてるとか生徒に分かんないだろ? それと同じようなもんだって聞いたな」
「生徒の立場からすると、先生の間でイジメがあるとかは考えた事もありませんでした。それと似たような感覚なんでしょうか」
先生には良い態度を取ってるけど裏ではヤバイ生徒……なんて事例は腐るほどあるらしい。どんなに気を付けて見ていたって気付けないものは気付けない。
イジメ問題は教育現場の大きな課題だが、教師単体では全てを見極める事は難しい現状があるらしい。もちろん見て見ぬふりをする悪い教師なども居るようだが、そういうのは問題外だ
生徒間でのイジメがあるように教師間でもイジメがあったり、これらの問題は決して簡単には解決できないのだろう。
「もちろんやり甲斐も高い職業ってのは教えられたけど、俺はちょっと教師としてやってく自信はなかったんだよな」
灰川は高校生の時に進路を決めた際、そこまで深く考えずに教育学部に進んだ。その時は教職がブラックだとかはそんなに気にして無かったし、そこまで深く調べたりもしてなかったのだ。
安定してそうだし大丈夫だろ、そんな風に考えていたが現実を知るごとに自分では無理だと感じた。
「私も進路とか決める時はちゃんと調べなくちゃ、こういうのって他人事じゃないしっ」
「そうした方が良いぞ、Vtuberをやってくにしても大学とか行く可能性はあるんだしな。相談ならいつでも乗るからよ」
「ありがとうございます、まだ先の話ではありますが、ちゃんと考えておかないとですね」
「私は出来る事が限られちゃうから~、皆以上に考えなきゃかもだよ~」
灰川は将来の事などをそこまで真面目に考えずに高校時代を過ごしており、進路に対する自分なりの調査なども欠いた状態で決めてしまったのだ。
その事を後悔もしたが、同時に大学でもそこそこには思い出も作れたから全てが悪い過去じゃない。
灰川のような人は他にも割と居て、経済学科に進んで銀行員になったが職務が合わず退職して別職業に就いた人、法学部に進んだけど全く違う職業に就いた人、その他にも色んな例がある。
学んだ事が全て進路になる訳じゃない、これもまた多様性というものだろう。
「ブラックを辞めた後は塾の講師のバイトでもしようかとも思ったんだけどよ、結局は別のブラックに行っちゃったんだよな」
「資格があれば何かあった時に安心なんだね~」
世の中には国家資格から民間資格まで様々な物があり、それらを持っている人は多い。
澄風 空羽は高校生にして複数の国家資格や民間資格を持っており、近い内に行政書士と宅地建物取引士、管理業務主任者の国家試験を受ける予定だと聞いた。
更には合格率3%と言われる司法書士の試験も高校在学中に受けれるらしく、家で空羽がやった模擬試験では普通に合格ラインに入れたとの事だった。
「でもな、やっぱ教師になっときゃ良かったって思ったこともあるぞ。一部の学校教師だけが見れるって噂の“SO文書”ってのが見れたかもだからな」
「何それっ? 学校教師の人達の仕事のマニュアルとかっ?」
「いや、スクールオカルト文書って名前らしくてよ、学校関連のオカルト事件とかが載ってる文書らしいぜ。まあ都市伝説だよな」
学校関係には昔からオカルトに関連する秘密文書が出されているという噂があり、もし灰川が教員になって出世していったら見れたかも知れない。
「今となっちゃ過ぎた話だけどなっ、それより行ってみたい所とかあったら早めに言ってくれよ? 首都高だから早めに言ってもらわないと反応できないかもだから」
「分かりましたっ、もう少し話して行ってみたい場所を決めますね」
首都高環状線のジャンクションや過ぎ行く車を灰川は見つつ、環状線の面白そうなスポットって何だろう?と考えた。
だが3人の方が東京には詳しいため、灰川は特に口出しやアドバイスはせず答えを待つ。そうして決まった行き先は、灰川が思ってなかった少し意外な所だった。
「灰川さん、芝公園に行ってみたい! この時間なら空いてるっぽいしさ!」
「芝公園? 東京タワーのとこか、すぐそこにインターがあるから下りるぞ」
行き先は東京の名所の一つである芝公園、ここは明治6年に上野、深川、浅草、飛鳥山などと一緒に日本最初の公園として指定された場所である。
東京タワーのおひざ元で、増上寺という有名な寺の境内が元々は公園だった。今は政教分離の影響から公園と境内は別となっていて、東照宮などもあるので寺社仏閣ファンも好きな歴史ある場所だ。
増上寺は初詣の時などは殺人的な人数が集まるが、平日はデートカップルや家族連れ賑わう公園だ。夜などは人も少なく散歩には良い場所のようだ。
首都高から下りて適当なコインパーキングに駐車し、灰川が桜を介助して夜の散歩となる。
涼しい気温が心地よく、天気も良いので散歩には適した状態だ。港区で芝公園地域も治安が良く、そういう意味でも散歩には適した場所と言えるようだ。
「芝公園って初めて来たけど良い場所だねー、静かで落ち着くしっ」
「夜だと人が少ないんだな、散歩してる人も居るし安心して歩けそうだぞ」
「涼しくて歩きやすいですね、芝や木の香りが気持ち良いです」
「音も静かだね~、車とかの音も気にならないよ~」
公園内には散歩道が背日されており、芝生のグランドや池などもあって心地いい。
「芝って歩くとフワってして気持ち良いね~、マフ子と一緒に歩いてみたいな~」
「少ししたらコンクリの道に戻るからな、アパートの近くに公園あるし今度に猫ども連れてってやっかな」
灰川は桜に腕を掴んでもらって安全に気を付けながら歩く、芝生の広場を歩く桜は足元の感触に癒されている。
「夜の公園の雰囲気って良い感じだねー、マンションの近くにもあったら良いのにー!」
「渋谷にこういう公園とかあったらヤンキーの溜まり場になりそうだぞ、ちょっと怖いって」
「リアルなこと言うなー! 確かにそうなっちゃう気がするけど!」
気分転換にも丁度良い場所だ、灰川としても皆が喜んでくれて楽しい気分になるし、皆も普段の活動などから解放されてストレス発散も出来ている。
「わっ、ごめんね灰川さん~、ちょっとヨロけちゃった~」
「謝んなくて良いっての桜、足は大丈夫か?」
「うん~、何ともないよ~」
桜が少し何かに躓いたようでバランスを崩すが、灰川に捕まっていたので問題なく済んだ。
桜はこういう事は慣れているので、介助が無くても転んだりはしなかっただろう。
今は少し灰川と近い距離にいたため、胸が灰川の腕に少しだけ当たってしまった。灰川は気にしないようにしているのだが……その柔らかさを感じてしまうと、やはり少しだけドキっとはしてしまう。
「あー、灰川さん、桜ちゃんとくっつけて今ちょっとドキっとしたでしょ? 桜ちゃんと手を繋げてウレシイもんねー? あははっ」
「おう!めっちゃ嬉しいぞ! 桜の手ってめっちゃ温かいし、繋いでもらってると逆にこっちが安心するような感覚だぜ!」
「むふふ~、ありがとう灰川さん~、私は灰川さんに介助してもらえて、すごく安心だよ~」
「ふふっ、桜ちゃんって雰囲気も柔らかくて、近くに居るだけで和やかな気分になれますよね」
少し茶化されたって灰川は特に動揺しない精神が今はあり、夜の芝公園で明るい雰囲気のまま散歩は続いていく。
ライトアップされた東京タワーの足元の公園、なかなかにムードもある場所なのでカップルとかともすれ違った。ここは隠れた夜散歩スポットのようだ。
「あっ、なんかイチャイチャしてる人が居ますっ、私たちもイチャイチャしましょう灰川さんっ」
「なんでそうなるんだ史菜、普通に楽しもうぜ。普通にっ」
「私も灰川さんとそういうことしてみたいかもっ、あははっ」
「むふふ~、私はも~ちょっと灰川さんとくっつきたいな~」
突然の皆からの言葉に灰川は少し驚くが、正直に言って嬉しい。そこはやはり男としては避けられない性だろう。
3人は今だって灰川には特別な気持ちを寄せており、ちょっとくらい大胆な事をしてみたいと思ってたりもする。
灰川と一緒に居るとスマホを触って無くても退屈じゃない、一緒に居ると視聴者登録数がどうとかの活動への不安な気持ちを薄くさせてもらえる、自分たちをしっかり見て尊重して尊敬してくれている、その他にも色々な部分に惹かれた。
だが、灰川は簡単には自分たちに心を本気では向けないのが悔しくもある。
それは自分たちの事を考えてという気持ちだったり、若さゆえの一時の気の迷いだと思っているからこそ本気にしない、そういう気持ちも理解している。
その気持ちはありがたいし嬉しい、そのように自分たちを大事に考えてくれる人だから好きになった。薄くて軽い気持ちで何かをする人じゃないのも、市乃たちの好みな部分だ。
それでも何だか悔しい気持ちはあるし、自分たちの好意は本気だから振り向かせたいという気持ちがあるのだ。
だが自分たちが灰川を困らせてしまうほどアピールするのは申し訳ないし、彼には自分の意志で私たちの好意を受け止めて欲しいと感じる心もある。
こういう感情は理屈で語れるものではなく、それ故にたまにムシャクシャしたりするものだ。
「なんかカラオケ行きたいかも! 最近あんまり行ってなかったし、歌ってスッキリしたいっ」
「ミュージックトレーニングはあるけど、自由には歌えないもんね。私も行きたくなっちゃいました」
「カラオケって楽しいよね~、私も夜のカラオケに行ってみたいな~」
「カラオケかぁ、22時以降は高校生って保護者同伴でも居られない所が多いんだよな」
「えー? ガッカリなんだけど!」
基本的に高校生はカラオケなどの場所に深夜は入れない条例の地域が多く、市乃たちは漏れなく該当してしまう。
「高校生とかって夜遊びできる場所が限られるんだよな、ゲーセンとかも警察がパトロールしてるしよ」
「そうなんですね、何だか残念です」
「まだお外で遊びたいな~、いつもだったら元気に配信してる時間だしね~」
3人はまだ体力が有り余っており遊び足りてない、このままでは不完全燃焼になってしまう。
しかし高校生が入れない所が多くなる時間に差し掛かっており、動きは制限されてしまう時間がやって来る。
カラオケなどは警察が巡回に来る事もあり、高校生が補導されている場面も珍しくない。そういった事は避けるのが吉だ。
ドライブも楽しいが、皆は車の中というよりは外で何かをしたい気分なのが灰川には分かった。桜もそんな雰囲気の言葉を発している。
「じゃあ高校生が行っても怒られない場所に行くか? ちょっと変わった感じになるけどな」
「えっ? 灰川さん、そういうの何か知ってるのっ?」
「おう、まあ市乃たちが楽しいかどうかは分からないけどよ」
「興味ありますっ、どんな所なんでしょうかっ?」
「灰川さんのことだから危ない事とかの心配はないね~、私も興味津々だよ~」
こうして灰川の提案により夜のお出掛けは続く事になり、芝公園を後にして車に向かったのだった。




