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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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297話 自撮りで次世代型念写チャレンジ!

 自撮りとは自己顕示欲を満たす以外に何の役にも立たないと灰川は思ってきたが、最近は考え方が少し変わって来た。


 自撮りをよくやる人は自己肯定感が強かったり、自分磨きをする人も多いなという印象を持つようになってきたのだ。


 もちろん悪い方に向かえば他人否定ばかりの性格になったり、自分は磨かれていると感じて過剰なプライドを持つようになってしまう人も居るだろう。


 だが自己肯定感や自分磨きは大事なことだし、自分に自信を持つ事は悪い事じゃない。


 男が鏡を見て『あれ?俺ってちょっとイケメンじゃね?』と思って身嗜みに気を付けるようになったり、女性だって自撮りとかで自分を良く見せる見せる方法を学ぶのは良い事だと思う。


 その学びが次の学びを得る機会に繋がり、探求心の連鎖になっていくのだろう。


「じゃあ最初は自撮りの基本のスマホの持ち方は知ってる? こうして、こう! 小指と人差し指で表の両端を支えて、中指と薬指で裏側を支える持ち方だよん」 


「後は親指で撮影ボタンを押すんだけど、撮影する時は手がブレないように、周りに壁とか台がある時は肘を置くと良いかも」


「確かに慣れてる子達はみんなその持ち方をしてるわね!」


「そういう持ち方なんですねっ、勉強になりますっ」


 華符花と優子による自撮り講義が続き、由奈と真奈華が興味深そうに聞いていく。


 自撮り棒の使い方、スマホ用三脚の使い方なども華符花と優子が持っている物を使って教え込む。


 その中で由奈と真奈華は自撮り棒を何処で買ったのかとか、スマート三脚はどんなのが良いかなんて事も聞いていく。


「あと加工アプリはいっぱいあるけど、使い過ぎちゃダメだね! アプリに甘えたら可愛さは上がらないからさ」


「アプリは使っても、アプリに使われるなっていう事よ。加工するために写真を撮るようになったら本末転倒だからね」


「分かったわ! 盛り過ぎたら本当の自分が分かんなくなっちゃうものね!」


「アプリは使っても使われるな…確かにそうかもしれません…!」


 世の中には盛り過ぎて元の人物と写真とで、かけ離れたルックスになってしまっている写真が割とあったりする。


 そうなってしまえば(むな)しい気分になるのは自分ではあるだろうが、SNSでイイネをもらうためには盛るしかないからやっているなんて事情もあるかも知れない。


 もちろん加工の技術を上げて加工の達人になる道もあるかも知れないが、それはまた別の話になるだろう。


 由奈と真奈華の目的は上手く自撮りや写真を撮って、周りや今時の流れに置いて行かれない事だ。まずはアプリとかより上手く撮れる方法が先決である。


「あと基本的には自分を画面の中心に置かない、焦点は中心から少しずらして撮影だねっ」


「写り方の焦点は片方の目の上か下が良いかな、顔の自撮りだと基本はそれで良い感じに撮影できると思う」


「確かに良い感じね! 優子先輩の髪の毛ってキレイなのね!黒髪のロングって良いわよね、わははっ!」


「由奈ちゃんも髪を解いたら黒のロングだもんね、ふふっ」


 優子が撮影例の自撮りを見せて教え、由奈も真奈華も納得しながら講義は続く。


 やがて実際に自撮りをしたりしつつ進んで行き、呑み込みの速い2人に気を良くした華符花と優子は次々と撮影の仕方を教えて行った。




 そんな中で灰川は仕事のやり取りをスマホでしたり、今後の予定とかを確認したりしてる。


 佳那美とアリエルの今後の予定、朋絵が提案した企画の確認、砂遊のV転生デビューの確認、そんな事をしつつハッピーリレーからのメッセージなども読んだりしていた。


 その間も『1mくらいのニシキヘビの霊がのんびりしてるな~』とか思ったが、やっぱり特に害は無さそうなので放っておく。というかかなり良い霊であり、祓う必要性は全く無い。


 由奈と真奈華はしっかり自撮りに関する知識を教えてもらっており、今はかなり奥の深い事柄を教えられているようである。


「画像の4領域の視線誘導と、影の使い方は分かってくれたよねっ。じゃあ次は高度なオリジナルテクニックを教えちゃうぞー!」


「視線の始点と終点を意識した写真は綺麗になるから、上手く使ってみてね」


 画像は左上から見て右下に視線が向かう事が多いという、グーテンベルク・ダイアグラムの4領域という考え方だ。


 その他にも細部を見る際にも4領域は適用される事や、陰影や色によっても視線誘導が出来るなんて事も教えている。


 余白による視線誘導、形による視線誘導、被写体の視線による誘導、黄金比率螺旋による誘導など、華符花の美術家志望としての応用が簡潔に説明されていた。


 もちろん詳しく知るためには由奈と真奈華が自分たちで更に調べないといけないが、入り口部分はしっかり理解している。


 2人は教えられた事を吸収し、次なるステージに踏み込む事となる。料亭の客室の中で学びの場が開かれていた。


「じゃあ次は普通は写真じゃ伝わらない事を伝える方法を教えちゃうぞー! 大サービスだぜ!」


「すごく興味あるわ華符花先輩っ!」


「どういうことなんでしょうかっ?」


 写真とは視覚情報が全ての物であり、少なくとも閲覧した第3者にとっては見たものが全てである。


 しかし撮影した当事者にとっては違う場合があり、写真を撮った時の気分、感情などの思い出が想起される物でもある。


 時には周囲の音や触っていた物の感触、その時の香りや食べていた物の味なんかも思い出す事だって少なくないかもしれない。


「今からやるのはね、写真を見た人に感触とか匂いとか味とかをリアルにイメージさせちゃう方法なのさぁ! わっはっはっ!」


「声とかもイメージさせちゃう方法でもあるし、音楽とかをイメージさせる方法なんかもあるわね。写真って奥が深いものなんだよ」


「もちろん見た人の全員に効果がある訳じゃないけどねっ、そこは注意だよん!」


 由奈と真奈華はキョトンとしてるが、とりあえずは聞いてみる事にする。


 感触とか匂いとかが視覚情報で伝わる事は確かにあり、野球ボールを写真で撮ればどんな感触なのかは想像が付く。リンゴの写真を撮れば匂いや味がイメージ出来るから伝わるだろう。


 しかし華符花と優子が言っている事は何か違う気がする、そう2人は感じていた。


「正直に言っちゃうと難しいんだよね、感覚的なモノが凄く大事になるっていうかさっ」


「こういうのはマニュアル化は難しいかも、私と華符花もやり方が違うみたいだし、口で説明できるような技術じゃないんだ」


 それらの技法は個人によって方法も違い、主に感情や心の持ちようが大事になると講師の2人は語る。


「これが伝わって欲しい、こんな風に受け取って欲しい、そういう想いを強く念じるのが大事かな。うーん…なんて言えば良いんだろ?」


「華符花は配信でもよく使ってるけど、私は華符花ほど上手く出来ないの。こういうのって向き不向きもあるんだと思う」


 この方法は何も写真撮影だけに限った方法ではなく、他の事にも応用が利く方法だった。


 例えば政治経済について喋ってる時に『パイナップルの味』を相手に想起させたいと思ったら、そのイメージを声に乗せて喋ると相手はパイナップルを食べたくなる。みたいな感じだろうか?


 そんなサブリミナル効果を及ぼすイメージらしく、かなり奥が深い技術のようだった。


 だが簡単ではなく習得には才能が大きく左右するようで、個人によっても音を想起させるのは得意だが、感触を想起させるのは全く出来ない等、振り幅も大きいらしい。


「えっと、その…由奈ちゃんの先輩なのでVtuberさんというのは何となく分かるんですが、配信とかでも使えるものなんですか?」


「うーん、調子にもよるけど、私はVモデルの感触とか匂いをリスナーさんが、ほんわかとイメージ出来る感じを心掛けてるよっ」


 華符花は配信の時は中の人、本人をイメージさせるのではなくVモデルの赤木箱シャルゥの感触や香りを、軽くイメージさせる感じで配信に臨んでいるらしい。


 軽くというのがミソであり、この部分を強くしてしまうと視聴者に『もっと!』という感情を持たせられない。そこら辺を上手く使って視聴者を獲得してるとの事だ。


 だが万人に伝わる訳ではないし、配信自体が面白くなかったらファンは増えない。そもそも正しく伝わってるかなんて分からないし、応用できる人は限られそうだ。


 シャルゥもその事は分かっており、配信や芸術方面への向上心も持っている。赤木箱シャルゥの武器は決してこれだけではない。


「こうして、こうして、こんな感じかしらっ?」


「私には伝わらないけど、由奈ちゃん上手そうだね! もっと柔らかさをイメージしながら優しい感じの赤色を想像すると良いかもだよ!」


「えっと、こうでしょうかっ? う~んと…」


「もうちょっと緊張感を良い意味で高めた方が良いかもね、真奈華ちゃんは緊張が可愛さに繋がる所がありそうだから」


 段々と仕上がって行ってるようだが、そう簡単には習得が出来ない技術である。


 そんな中で灰川はスマホで仕事を組んだりしつつ時間が過ぎ、相変わらずニシキヘビがフワフワしてるな~とか思いながら、あまり写真講義の方は目を向けていなかった。




「やっぱ簡単には上手く行かないかー、でも感覚は掴めたでしょっ?」


「そうねっ! 私は配信とかでは使えないかも知れないけど、伝えたい人には伝わるよう頑張ったわ!わははっ!」


「ありがとうございましたっ、これで上手く写真が撮れると思いますっ」


「後はアプリとかを使って明度の調整とかも工夫してみてね、私も配信にもっと活かせるように頑張ってみるわね」


 この技法は華符花と優子は空羽たちにも教えてはいるそうなのだが、使用できる人は少ないらしい。


 教えたとしても上手く理解出来なかったり、効果を出せなかったりする事も多いため、そこまで真剣に取り組む人は少ないとの事だ。


「さーて、灰川さん。そろそろ判定お願いしますねっ、本当は皆の写真が気になってましたよねっ? わっはっはっ!」


「誠治! 先輩たちにいっぱい教えてもらったわ! 渾身の写真も取れちゃったわよ!わははっ!」


「えっ、ああ、じゃあ見てみるかぁ」


 誠治は自分のスマホとにらめっこしてたような状態だったので、そんなに皆の方は向いていなかった。


 特に後半は仕事関係のやり取りをメッセージでしていたため、由奈たちの方は全く見ていない状態だ。


「じゃあ最初は基本の前から撮りですよっ、由奈ちゃんと真奈華ちゃん良い感じですよねー?」


「おおっ、凄い可愛いじゃん! 加工アプリとか使わないでコレかぁ、レベル高いな!」


「わははっ! 驚いたでしょ誠治!教わったら上手に出来るようになったわ!」


「そのっ…、かわいいって言ってくれて、ありがとうございますっ…!」


 少し中心からずれて写りつつ、焦点はしっかりと人物が持って行き、背景となる和室の落ち着いた雰囲気も混ざって凄く良い感じに撮影されていた。


 由奈の活発で自信がある感じの笑顔が可愛らしく、ツインテールヘアの髪の毛の輝きも綺麗である。


 真奈華の自撮りは内気さの中に可憐さがあり、涼やかな温かい笑顔が良い写真だ。


 由奈と真奈華が2人で写っている自撮りも良い感じで、親戚だが対照的な性格のツインテールヘアの子が並んで笑顔なのは、なんだか凄く微笑ましい。


「上から撮影と下から撮影も上手く行ったわね! 横顔撮りはちょっと失敗しちゃったわ!」


「私は横撮りは上手く行きました、でも下からの写真はちょっと失敗しちゃったかもです…」


「私は真奈華ちゃんの下から撮りも良いと思うよ、もう少し光が当たってたらもっと良かったと思うけどね」


 自撮りと言っても角度や方向など色々あり、その他にも手押しシャッターや音声シャッターでも違いが出るそうで、タイマーシャッターなどでも微妙に違って来る。


 2人の自撮りは主に手押しであり、それが2人の最もやりやすい方法との事だ。


「どれも良い感じだなぁ、本物と写真だと違った良さがあるんだな。あっ、もちろん写真の方が良いなんて事じゃないからな」


「分かってるわっ、写真と実物だと違う良さがあるって私も分かる気がするものっ!」


「私もっ…そのっ、良く撮れてると思いましたっ…!」


 写真とは実物とは違った魅力があるもので、2人の自撮りもまた可愛らしい魅力がある物に仕上がっている。


「こうして見ると由奈って美人なんだな、真奈華ちゃんも美人だし、ってか家系的に美人が多いのか」


「いっぱい褒めてくれて嬉しいわね! ありがとう誠治! もっと色んな自撮りを見せちゃうんだから!」


「えへへ…ありがとうございますっ」


 灰川は由奈の事は普通に可愛いと思っているし、真奈華だって同じように可愛く見える。


 しかし2人は背が小さくて同年代からはそこまでモテないらしく、由奈ともなると騒がしい部分があるから男子からはあまり見られない。


 実は男子には2人の事を可愛いと思う同級生なども割と居たりするのだが、そんな事は本人には言えないので2人は知らない。


 中学生の男子には背が小さい子を可愛いと言ったりすると、仲間内から馬鹿にされたりする事があり、それもあって由奈や真奈華を可愛いとは余計に言いづらい雰囲気もあったりする。


「色んな自撮りがあるんだな、ちょっと甘く見てたかもなぁ」 


「自撮りを笑う者は自撮りに泣くってヤツだねっ、わっはっはっ!」


「別にそんなんじゃないと思うわよ華符花、でも写真は芸術の一つでもあるから、自撮りだって奥が深いんです」


 芸術写真コンテストだっていっぱいあるし、写真とは立派な芸術分野として確立されている物である。


 先日に仕事で行った佳那美とアリエルの写真撮影だって、カメラマン夫妻も本人達も気合は相当に入っていた。


 ポーズをとってシャッターを押すだけ、言葉にすればそれだけなのだが、その単純な事の中には無限の芸術が内包されている。


「誠治、ちょっとこっちに来てほしいわっ」


「え? 由奈、どうした?」


 灰川は由奈に連れられて少し離れた位置で何事かを話される、その内容は思ってたより強い好意を示されるものだった。


「さっきねっ、華符花先輩と優子先輩に教わって、見た人に色んな事が伝わっちゃうお写真の撮り方を教わったわっ」


「なんかそう言ってたよな、どんな感じなのか分かんないけどよ」


 視覚情報以外のモノが伝わる写真がどうとか言ってたが、そこら辺はあまり灰川は覚えていなかった。


「次に見せちゃうお写真は誠治に色んな事が伝わるようにイメージして撮影したわっ、どのくらい伝わるか分からないけど、伝わって欲しいって思ってるのっ」


「お、おう、そうなのかっ…」


 由奈の雰囲気がいつもと少し違う、気付くか気付かないかくらいに普段より距離が近く、目線をしっかりと合わせて灰川を見ていた。そもそも由奈は普段から灰川に対しては距離が近い。


 なんだがいつもの由奈より雰囲気が濃いとでも言うのか、前に空羽からアピールされた時と似たような感覚を覚える。


 だが空羽の時とは違って雰囲気は濃くも幼さがあり、なんだか小さいのに強い何かにジワジワと距離を詰められる緊迫感のようなモノがある気がする。


「誠治にもっと興味持ってもらえるように、すっごくガンバっちゃったわっ…! 誠治のこと、いっぱい考えながら撮影したのよ、ふふんっ」


「そ、そうなのか…ははっ…、そりゃ嬉しいなっ」


 灰川としては心がたじろいでしまうが、それ自体は滅茶苦茶に嬉しい。好きと言われて嫌な気分になれるはずが無い。


 ここ最近は由奈を含めて、皆の自分への好意は本当に思春期の一時の思い違いか?、と疑問を持つようになってしまっている。


 由奈にしたって霊嗅覚で灰川との相性は最高だと言っているし、ここ最近は自分に向ける由奈の好意は凄く大きい気がしているのだ。


 デートっぽいお出掛けをした時だって、疲れたような顔とかは見せず一貫して凄く楽しそうで、一緒に居れること自体が嬉しいと感じてくれているのが凄く分かった。


 今だって由奈は何だか普段とは違う笑顔を灰川に向けており、その表情がなんとも言えない感情をくすぐる。、


「今から見せるのは練習のお写真だけど、これからもっと上手く撮れるように頑張るわねっ」


「ちゃんとした自撮りが出来るようになるための練習って感じか、頑張ればもっと良い自撮りが出来るようになるかもだな」


「そうねっ、もっとしっかり撮れるようになったら、誠治にもっともっと色んな事が伝わっちゃうお写真を送ってあげるわねっ」


 由奈の雰囲気は普段より明らかに濃く、灰川にだけ見せる写真をいっぱい撮れるように頑張ると言ってくれる。


 今の雰囲気だって灰川以外には見せない由奈の側面の1つであり、そういった側面を切り取った写真を撮れるように頑張りたいそうだ。


「誠治にしか見せないお写真、いっぱい練習するわねっ。ぜったいにドキドキさせて、スマホに穴が開いちゃうくらい見ちゃうようなお写真とか撮っちゃうんだからっ」


「ま、まあ、楽しみにしてるけど、無理はしないで良いからなっ…!」


「ふふふっ、じゃあ誠治だけに色んな事が伝わっちゃうお写真を見せてあげるわねっ」


 由奈の声が灰川の心臓を早くさせる。


 普段と違う質を持つ由奈の声が、特別な感情を持って自分に向けられているのが何とも言えない感覚だ。


 いつもはあまり女の子として意識していない由奈だが、こういう感情を向けられるとどうしても意識してしまう。


 とはいえ由奈は身長も小さいし、自分はそこまで妙な感覚を持つ事はないだろう……と灰川は思っている。というか思いたいと思っている。


 写真で声も言葉も感触も、香りすら伝わるなんて事はあり得ない。そんなのは高度な霊能技術である『念写』を超えた何かだ。


 しかし赤木箱シャルゥとケンプス・サイクローは、何らかの方法でそれを応用している。絶対に出来ないとは言い難い。


 由奈がスマホを操作して写真を表示させる、真奈華たちは向こうで写真の見せ合いやレッスンを続けていて、こっちの方は見てないようだった。


「じゃあ見せてあげるわねっ、これが誠治にだけ見せちゃう練習写真よっ、わははっ」


「お…おう……」


 灰川は何だか凄く予想外な写真を見せられるような気持になってしまうが、そんな筈はない事は分かっている。


 由奈はみんなと一緒に撮影していたのだし、あくまで純粋な魅力を切り取った1枚だ。


 そう思って由奈が差しだした写真を見ると。


「おっ、可愛く撮れてるじゃん! 可愛いってよりキュートって感じだなっ!」


「そうよねっ!わははっ! 時代は可愛くてキュートが最先端ねっ!」


 可愛いとキュートは同じ意味な気がするが、なんだかニュアンスが違う気もするから不思議だ。


 由奈が撮った写真は全体像の写真であり、写真の左上に顔が来て、少し腰を軽くかがめて体の左側が写り、ロングスカートの後ろ側が見えつつ表情もバッチリ写る姿勢だった。


 少し熱っぽい視線や、それに合う笑顔、ツインテールに少し躍動感があって凄く可愛らしい1枚である。


 由奈の女の子らしさが凄く出ている写真であり、普段はあんなんだけど大きな魅力がある子なんだなと強く認識させられる。だから配信でも伸びているのだろう。


 どうやらスマホをクリップで立ててテーブルに置いて撮影したらしい、タイマー撮影で撮ったようだ。


「えっとねっ…気持ちとか感触とか伝わってるかしらっ?」


「え~と、いや、流石に伝わらんって! はははっ」


「残念ねっ! だったら誠治にしっかり伝わるように、もっと練習しなくちゃいけないわねっ、わははっ!」


 写真からは由奈の感触とか温度とか、そういった物は伝わって来なかった。それを言うと由奈は少ししょんぼりしたが、すぐに立ち直って練習をいっぱいすると言ったのだった。


 しかし真実は少し違い、実は灰川には2枚の写真が見えていたのだ。


 1枚はもちろん由奈の全体像の自撮り写真だが……そこに重なって見えたのはニシキヘビの動物霊のドアップ写真だった。


 のんびりしているニシキヘビがドアップで写っている写真、中々にシュールである。


 そして実は灰川には感触や香りなども伝わっており、新たな念写法とも言える技術を凄く理解させられた。


 ツルツルした柔らかい感触が手の平に再現されたのだが、人の肌とかじゃない感触、手触りの良い蛇の肌の感触だったのだ。


 由奈と真奈華が撮影中にニシキヘビの霊が横切った時に『濃いめ・硬め・多めのシャボン玉のような匂いがする』と言ってたのだが、何となくそれと同じと言えるような匂いがしている。


 もう明らかにさっきから居るニシキヘビの良霊だ、由奈が写真に乗せた念写か何かの技法はニシキヘビの良霊にジャックされてたらしい!


 もちろん感触も香りも本当に存在する訳ではなく、第6感みたいなもので感じるような、そんな不思議な感覚である。


 もしニシキヘビが写って無かったら、本当に由奈の様々な情報が写真から感じていたのかも知れない。不思議なものだと灰川は思う。


 そんなニシキヘビの動物霊だが、邪魔したお詫びなのか何なのか、良い感じの運気を由奈と真奈華に与えて部屋から出て行く。


 どうやらニシキヘビはゆっくり休めたようで、出て行く時は元気溌剌!、という感じだった。


「そろそろ時間も遅いし、帰りましょうか」


「はい、ごちそうさまでした貴子さん! すっごい美味しかったです!」


「真奈華ちゃん、また会えたらお喋りしようね、ふふっ」


「はい優子さんっ、すごく勉強になりましたっ」


 時間は夜の12時近くになっており、流石に未成年が外出していて良い時間とは言い難い。


 だが由奈と華符花と優子は企業系Vtuberであり、時には仕事や仲間との付き合いの都合でこんな時間になってしまう事もあるだろう。シャイゲの2人はこういう時間になってしまう事は以前にもあったようだ。


 真奈華としては蘭月は自宅みたいなものだし、特に問題はない。


 蘭月の女将にも灰川たちはしっかり挨拶をして感謝の言葉を述べ、真奈華にも『また今度』という挨拶を皆でして店を出た。


 高級感がありつつ嫌味の無い落ち着く空間、料理も素晴らしかったし、これは是非にまた来店したいと思える料亭だ。しかし予約はけっこう埋まってるらしく、簡単には入れそうにない。


 今日は貴子の伝手で入れたようなものだし、今度は俺の奢りで皆にご馳走してあげたいと、灰川は心の中で思う。


「じゃあ私と華符花はタクシーで帰りますから、今日は色々とお騒がせしてすいませんでした」


「いや、凄くありがたかったよ、また今度に仕事で会うだろうから、その時はよろしくね」


「由奈ちゃん今度にコラボ出来たら私たちとしようねっ! なんか面白い配信できそう!」


「私も先輩たちとコラボ配信したいわ! 絶対に先輩たちに登録者数も追い付いてみせちゃうんだから!わははっ!」


 華符花と優子は女将にタクシーを呼んでもらって乗って行き、灰川たちは車で帰宅する事になる。


 今日は由奈の仕事の頑張りを見て、赤木箱シャルゥが妙に心にチクリとするセンシティブな配信が出来るかの一端を見た気がした。あとケンプス・サイクローもサポートが上手いんだと思う。


 それと今週末は車は借りれる事になっており、駐車場代だけ出せばガソリン代もハッピーリレーで持つと言ってもらえた。正直に言えば今から渋谷に行くのは面倒だったので凄く助かる。


 灰川と由奈と貴子も車に乗り、すぐ近くの飛車原の家に向かう。駐車場は近所の安い所を利用するつもりだ。


 この時間は流石に交通量は少なく運転しやすい、この調子なら問題なく到着するだろう。


「ごちそうさまでした、凄く美味しかったです貴子さん」


「あらあら、喜んで頂けて嬉しいわね由奈」


「そうねっ! 私もとっても美味しかったわ!」


「由奈もとっても美味しかったのね、それなら何よりだったわね、うふふっ」


 料亭の料理ってあんなに美味しいのかと驚いた程で、灰川としては感動ものの美味さだった。


「由奈ちゃんを美味しく頂いちゃったようで、うふふっ」


「ちょ、そんな訳ないでしょうに!」


 そんな訳ない事を普通に言って来る、それが飛車原 貴子という人物だ。相変わらず破天荒でぶっ飛んだ人だと灰川は思う。


「誠治! 今度に見せる自撮りはあんなもんじゃないわよっ、誠治がビックリして腰抜かしちゃうくらい、スゴい自撮りを見せてあげるわねっ! わははっ!」


「おう、楽しみにしてるからな、ははっ」


 さっきみたいな可愛らしい写真なら大歓迎だ、また微笑ましく見させてもらおうと思うが。


 灰川は由奈が教えてもらった新しい形態の念写は、感触だの感情だの何だのが様々に伝わってしまうものだと頭から抜けていた。ニシキヘビのせいである。


「由奈ちゃん、今度は灰川さんに色んな事が伝わっちゃうように頑張れると良いわね、うふふっ」


「そうねママ! 私のことが誠治に全部伝わっちゃうくらいガンバるわ! わははっ!」


「ちょ、まっ…!」


 この人が言うと何だか不安になる、最近は冗談なのかマジなのか分からなくなってきた。


 由奈と灰川が一緒になれば、とても良い形での一生の幸せが絶対に約束されるそうで、その場合はどんな事をしようとも崩れる事は無いそうだ。


 もちろん灰川が異常な行動を起こさない精神を持っているからであり、それを霊嗅覚でしっかり感じ取っているから分かる事である。


 この上なく相性が良い相手を感じ取った場合、それは預言(よげん)じみた的中率になるようだ。


 例えばそれは『机の上に本がある』という状態を目で見た場合、机の上に本があるという状況を頭で認識するくらい当たり前に分かるらしい。


 由奈だって女の子であり、相手の事を知ったり自分の事を知ってもらったりすると好感が高くなる事が多いのは、本能で分かっているようだ。


「貴子さん、さっきの話を少し聞いてたんすね…。流石に何か変なコトまで伝わっちゃったら、由奈が嫌がりますって。由奈も冗談で言ってたんでしょうし」


 感触とかがリアルに伝わったら問題があるだろう、しかもそれを喜んだりしたらキモがられると相場は決まっている。


「あら、由奈は灰川さんに色んな事が伝わっちゃうのは嫌かしら?」


「ぜんぜんイヤじゃないわねっ! 誠治には私のことで知らない事はないってくらい、知って欲しいわっ! 絶対に私のことを大好きにさせてやるんだから!わははっ!」


 好意の無い人に自分の様々な事を知られるのは怖いだろうし気味が悪いと思うだろうが、個人差はあれど好意がある相手には自分の事を知って欲しいのが人間の精神だ。


 こういうことは相手が好きか嫌いかで大きく感情が分かれるものであり、嫌いな相手や知らない人だったらこういう感情は湧かない。


 由奈にとって灰川は特別な好意を強く寄せる相手であり、そこに年齢は関係ないとナチュラルに考えている。母が通って来た道なのだし、そうなるのも当たり前なのかもしれない。


「灰川さん、お写真で由奈ちゃんの色んな事が伝わった後は、それが間違ってないか確認しないとダメですよ? うふふっ」


「間違ってないか確認って、いや、ちょ…」


「具体的には感触や香り~~……」


「ちょ!待ちなされ!」


「誠治ならいくらでも確認して良いわよっ! デートで手も繋いじゃったんだから、そのくらい今更よねっ! わははっ!」


 そんな不穏な会話をしながら飛車原の家に到着し、由奈と貴子を降ろして今日は終わったのだった。


 後は近くに車を近所に停めてゆっくり寝るだけだ。

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