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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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288話 忍者・武士VS霊能者チーム

 タナカとサイトウは4層から上がって3層に居る。


 一気に片を付けようとして来た忍者の襲撃を未然に防ぎ、今は3層から上を警戒しつつ進んでいた。


「…………」


「……………」


 タナカは戦闘用散弾銃を構えながら前を進み、サイトウは拳銃で散弾を撃てるショットシェル弾を装填したハンドガンを構え後ろを警戒する。


 設置していた浄霊ライトは隠されたか破壊されており消えている、今は視界の確保のためにナイトスコープを片目に使用し、もう片方の目で霊視を行っている。


 2人の装備は特殊部隊などの装備とほぼ同じで、頑丈な防刃繊維の戦闘服、銃弾も防げるボディアーマー、頑丈だが軽量なヘルメット、高い防刃性と打撃攻撃力を持った戦闘用グローブ、それらが揃っているが警戒は一切怠らない。


 天井から油をぶっかけられて火を点けられる『火遁忍術』を使われるかもしれない、床や壁の隙間から訓練された蛇を放たれて装備の中に潜り込ませられる『傀儡忍術』が来るかも知れない。


 敵の攻撃だって完全には防げない可能性が高い、現に世界中の特殊部隊にだって殉職者は存在するのだ。


 防刃繊維は斬撃は防げても鋭利な物での刺突が防ぎきれない、恐らくは忍者なら武器に毒を塗っているだろう。為助は芥子の実を使ったのだから、やはり古くから毒矢などに使われたアルカロイド系の毒だろうか?


 実体存在型怪異だから実毒なのか呪毒なのかは分からないが、少なくとも戦闘不能にされる毒を用いてる事を前提に動くべきだ。


「………………」


「………………」


 タナカとサイトウは声を出さずに進む、意思疎通は軽いボディタッチで行った。既に目標は忍者の撃破と決まっているため、多くの疎通は必要ないのだ。


 恐らく敵は隙を伺っている、2人に隙が生まれるまでいつまでだって時間を稼ぐだろう。それが忍というものだ。


 忍者の中には他国の市井や武家社会に紛れて情報を収集し、忍者とバレずに何年、何十年も過ごす者達、『草』と呼ばれる忍者も居る。


 その忍耐力こそ恐ろしいものであり、優れた忍者ならば任務達成のために、どれだけ長い間でも耐えることを厭わない。


 つまり普通レベルの忍者でも忍耐力が常軌を逸した存在という事であり、あの怪異、暫定名称『暗黒忍者』も忍耐力は凄まじいと予測される。



  怪異・五角屋敷城の暗黒忍者

 

  実体存在型怪異Bタイプ

  予測被害ランク E  


 顔面が闇で出来た忍者の姿を持ち、隠密術や戦闘暗殺忍術を駆使して五角屋敷城の侵入者を始末する。

 実体存在型怪異であり、種別は人型の不特定人物であるためBタイプ。特定人物だった場合はAタイプに分類変更の可能性あり。

 予測被害ランクはEと最も下だが、五角屋敷城の悪念が最大レベルになった場合にしか顕現しないためと、城からは出られない可能性が高いからこそのランクである事を考慮の結果である。

 戦闘能力は高いと見られ、忍術や暗殺術を駆使して侵入者を排除する。



 城に関わらなければ何ともないが、内部に入って交戦している者からすれば大きな脅威だ。


 どこから襲って来るか分からないし、何処までも耐えて隙を狙って来る。


 だがタナカとサイトウには忍耐合戦に付き合っている暇はない、あと数時間で大災害が発生する恐れがあるのだ。素早い解決が絶対に求められる状況である。


「…………」


「……」


 互いの腰部分をノックしあって意思疎通し、忍者を排除するための行動に移ることが決まった。


 暗い廊下を進む、隠密法を使っているのか敵らしき気配はない、悪念が入り乱れて霊力の感知は不可能だ。


 経文浄霊は無理だ、方法は戦闘での排除しかない、そのためには敵を誘き出さなければならない。


 2人は細心の注意を払いながら1階層の大広間に行き、そこで今の環境に適した物を起動した。


 広間の中央で背中合わせに銃を構えて敵を待つ、銃弾は面制圧力の高い散弾だが、それなりの貫通力もある物を使用している。


  ドンッ!ドン!ドンッ!


 3発の銃声が響き、その直後にズドドドンッッ!!と連続して銃声が響き渡る。


 天井が銃弾によって破損され、そこから2体の何かが落ちて来た。彼らの手には目潰し薬が入っていると思われる印籠と、刺突特化の鋭い金属武器が握られている。


 床からも1人の黒装束の忍者が出て来た。敵は3人であり、その事をタナカとサイトウは看破していたのだ。


 床下に居た忍者に対してはサイトウがもう一つのハンドガンを瞬時に抜いて射撃、こちらの弾丸は大口径弾であるマグナム弾を使用してあり、畳と床板をぶち抜いて致命傷を与えるに至った。


 2丁拳銃で当てられるかサイトウは不安だったが、陽呪術によって高められた集中力によって無事に命中させる事が出来た。


 床下に居た忍者は1mも無いくらいの手槍を持っており、天井の2人がしくじった場合に虚を突いて襲う策だったのか、同時に出て策の成功率を底上げするつもりだったのかは分からない。


 天井に居た2人の忍者は完全に致命傷だったのか、既に霊的実体を失って消えている。だが床下から出て来た3人目はまだ少し意識を保っていた。


「……言い残す事はあるか…?」


「………なぜ……わかった……?」


 その言葉を発した直後に忍者は霧散して消え去った。


 気配は完全に消せていた筈、標的に隙は無かったが捕捉はされていなかった筈、こちらは捕捉されていなかった、有利は動かない筈だったというような感情が、消滅の直前に巡ったのかも知れない。


「超音波ピンガー…こういう形で役に立つとは思いませんでしたね…」


「ああ、元々は五角屋敷城に隠された部屋とかがないか探るために持って来た物だったからな」


 超音波ピンガーとは複数の物があるが、2人が使ったのは音波を発生させて物体からの音波反響を受信して、地形や障害物の形を測るというタイプの物だ。


 本来なら水中などで使用する物なのだが、地上での使用例もあり、その装置をサイトウが小型化して携行を可能にした物を使用した。


 サイトウは洞窟などで発生している怪奇現象の調査などに使えないか研究していたのだが、小型化の弊害で反響範囲が狭く、使える任務は限られてしまう物になってしまった。


 しかし今回のような隠し部屋などがあるかも知れない場所では有効であり、実体を持った敵が7m以内に隠れている時なども有効であると判断して戦闘での索敵に用いたのだ。


 音波情報はヘルメットに付けられた装置から聞こえるのだが、かなり慣れないと正確な地形情報は読み取れず、今回のように動くものや障害物越しのモノを察知する事も出来なくは無いのだが難しい。あまり実用や一般使用には向かない品だ。


 もし忍者が、国家超常対処局に属している霊忍戦隊が特殊任務で着用する、音波吸収素材のような衣服や霊体だったならマズかった。しかし、その場合は他の策も考えてはいたのだ。


 階の移動中にピンガーを使用して有効である事が分かり、その上で灰川やアリエルの戦闘音が聞こえない上層に来て動きを止め、不自然にならない程度に疲弊を演じて敵の接近を待ったのである。


 もしこの場所が本物の江戸城に近い構造だったなら索敵は失敗していた可能性がある。江戸城本丸の1階層の天井の高さは9m、反響収音の範囲外なのだ。


「急いで灰川さん達の所に向かいましょう!」


「警戒は解くなよ、4人目が居ないとも限らんからな。復活の可能性もゼロじゃない」


 国家超常対処局にとってオカルト存在との戦闘は珍しいものではなく、不利な状況や動きが制限される環境での戦い方も熟知している。


 特にタナカは元々は傭兵であり、闇霊能者として裏社会にも居た事があり、危険や危機的状況に対しての対応力が高い。


 サイトウはテレビ局員の顔も持ち、様々な情報を収集する能力が高い。工業ギフテッドでもあり様々な工学に関する知識が深く、即席で機材の使用方法を変えて状況に対処する柔軟性もある。


 通常の霊能任務では経文除霊などをして心霊被害の発生を防いだりしているのだが、今回のような戦闘になる事も多く、今回もしっかりと対処したという形だ。


 2人は急いで4層の能楽堂に向かい、灰川とアリエルが無事であってくれと願う。戦闘が継続していたなら即座に対応できるようにも構えている。




 能楽堂の中は緊張感で満たされていた。


 アリエルが剣を構え、同じく刀を構える怪異武士の正面に立ち、灰川がアリエルよりは少し距離を取って怪異武士の斜め左に陣取る。


 灰川がアリエルの左に居る事を選んだのは、片手持ちに変えた際に剣の操作を邪魔しないためだ。それでいてイザとなったら怪異武士の右手側を素早く抑えられる位置でもある。


 以前にタナカから言われた『敵を右側に置け』という言葉を、敵の右を取るという形で実行した。


 アリエルの聖剣ファースは片手持ちと両手持ちのどちらも対応しているタイプの西洋剣で、片手剣と両手剣の中間に位置するバスタードソードという分類に入る。


 大きさは現在のアリエルの身長の135cmくらいの体格に合わせてあり、刀身は軽く頑丈な白い合金を使っているようだ。


 その剣をアリエルは両手で持ち、構えは日本で言う正眼の構え、中段に剣を構えて切っ先を敵に向けているが、体の捻りが日本剣術とは違う。持ち手も若干に左に寄っている感じがする構えだ。


 西洋剣術の体系である事は間違いなく、ドイツ剣術の開祖のヨハネス・リヒテナウアーや、イギリス剣術のジョージ・シルバーの流れを汲む剣術なのだろうと灰川は考える。


 だが灰川は西洋剣術のイロハが分からない。映画で見るようなダブルタイムコンバット、攻撃と守りを繰り返すような動きのイメージしか無いのだ。


 そんな都合の良い戦いなど存在しない、フェンシングだって決着は数秒だし、日本剣術だって真剣勝負で打ち合いになれば決着は数秒が大半だろう。つまり打ち合いが始まるまでの探り合いの攻防が大事ということだ。


 アリエルと武士は今、双方とも間合いと隙を測っている。


 少しでも有利な立ち位置、あらゆる攻撃に対応できる距離、必中のタイミング、それらを測り合っている。


「…………」


「…………」


「……………」


 灰川の見立てだと武士が優勢で、アリエルは押されている。


 武士のフィジカルは恐らくはアリエルと同等かそれ以下であるが、体格の差から生まれる間合いの違いが向こうの優勢を生んでいる。


 灰川の見立てではアリエルは『対等の戦い』をした事がなく、『己の命を脅かす存在』とも出会って来なかったと感じた。


 偏った加護を受けているとはいえ、聖剣の加護の力は強いため並の相手では脅威にならない。しかし今は違う、あの武士の剣は強い実体力を有しており、攻撃を受けてしまったら体にダメージを与えられる。


 それでも逃げる訳にはいかないが……死ぬかもしれない、怖い、負けたら死ぬ! そういった思いがアリエルに芽生え始めているのが灰川には分かった。


 武士の刀は設置されたライトの光が反射して怪しく光り、もはや妖刀とすら言えそうな殺気を放っている。


 アリエルの額には汗が伝い、徐々に呼吸を乱されている。このままでは汗が目に入り、致命的な隙が生まれるだろう。それは時間の問題だ。


 恐怖心に完全に侵食されてしまったらお終いだ、勝てるものも勝てなくなる。


 過剰な恐れというのは正常な判断も、普段通りの動きも封じるものだ。だからこそ打ち合う前に相手の正常な判断を乱す必要があり、その仕掛けあいでアリエルは不利な状況に追い込まれつつあった。


 だが武士にとっては2対1の状況であり、実際には灰川とアリエルが有利である。現に武士はアリエルに対しては押し気味だが、灰川にも警戒を向けなければならないため攻め出す事が出来ていない。


「…………!?」


「~~! 隙ありだっ! やぁぁーーっっ!!」


 突然に武士に大きな隙が発生し、構えていた刀が灰川の方に小さく傾いた。


 それを見たアリエルが加護を発動したフィジカルを最大に発揮して、鋭い刺突剣戟を放つ。


「………が…はっ…」


 怪異武士が崩れ落ち、聖剣の強い浄化能力によって強制的に掻き消される。


 あの武士に口は無かったが、最後の瞬間だけ顔面の闇が消えて顔が見えて声が聞こえたような気がした。その表情や最後に発した霊気からは、強い悔しさや悲しさを含んだ念を2人は感じ取った。


「なんでっ……サムライに隙ができたんだろうっ…、はぁ…はぁ…はっ…」 


 あまりに強い緊張感から解放されたアリエルは、呼吸を荒げて小さな肩を上下させる。抑えられていた汗が一気に噴き出し、ハンカチを使うことも忘れて白い装服の袖で汗を拭っていた。


「これを使った、小さい鏡を使ってライトの光を反射させた光の除霊の力を高めさせた上で、敵の右目の位置に当てたんだ」


 灰川のスーツの中には多数のお祓い道具が入っており、その中には手に収まるサイズの小さな鏡もあった。鏡は霊的なお祓いに使われる事は多いが、当然ながら光を反射するという特性がある。


 鏡を使った光浄霊では怪異武士に致命打は与えられなかったが、意識を乱す事には成功した。その上でアリエルが隙を縫って刺突攻撃を加えたのだ。


 武士の顔は闇だったが、アリエルと灰川には明らかに『視覚情報による認識』をしていた。


 そのため目はあると判断し、右目の位置に強い浄霊効果を持った光を当てた。その策は成功したが、これが失敗していた場合は全身に強い陽呪術を掛けて特攻しようかと思っていた所だ。


「ケガはないかっ? どこか痛くないかっ? 調子は崩してないかっ??」


「だ、大丈夫だよぅ! ハイカワはっ!? どこかケガをっ……あれっ…?」


「お、おいっ、大丈夫かっ!?」


「う、うんっ、ちょっと…震えがっ」


 アリエルは真剣勝負の緊張に当てられて気付かない内に疲労が溜まっており、死ぬかも知れなかった恐怖も今更になって表に出て震え出す。


 足元がおぼつかなくなって倒れそうになるアリエルを灰川が支え、床に横にならせて休ませる。後はタナカとサイトウが勝利して戻って来るのを待つだけだ。


 

 アリエルは先程の戦いの事を思い出し、戦いという物に恐怖を感じている。


 それと同時に、目の端に映っていた灰川がどれだけ自分をサポートしてくれていたのか、もし灰川が居なかったら自分がどうなっていたか……その事にも意識を巡らせていた。

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