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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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279話 気合を入れてキッズモデル撮影

 佳那美ことエイミと、アリエルことリエルは着替え終り、スタジオにて撮影に入る。


 最初に2人はカメラマンの佐伯夫妻から指示を聞き、しっかりと頭に入れて自身でも指示の意味や、どのように表情を作れば良いのかを考えていく。


 エイミの服は元気さを表に出したかのような明るい色の可愛い服、リエルは動きやすさを重視しつつ子供の可愛さを引き立たせる感じの服だった。


 2人はメイク係でもある康江から、ほんの少しの化粧とヘアメイクもされて準備は万全。むしろメイクによって2人の良さが下がってないか心配するほどだった。


 撮影する衣装は幾つかあり、まずは最初に難易度が低そうな物で慣らしてから表紙などを撮影するらしい。

 

「エイミさんの服のテーマはデザイナーさんは決めていないけど、明るい系のコーディネートだからフルショットで元気さが出るように~…」


「リエルちゃんの服は動きの感じられる写真が良いわね、シャッタースピードを上げて~…」


 アレコレと話して指示を伝え、2人はプロフォトグラファーである夫妻の言葉をしっかり聞く。


 言葉の意味を自分たちの中で深く繰り返し考え、デザイナーがどんな気持ちを込めたか、この服の良さをどのように引き出すか、どうすれば綺麗な写真になるか等を考える。


 2人はレッスンで写真撮影の講義も受けており、コーチは写真の腕前も高い人だったので、2人はズブの素人ではない。


 しかし深い所までは教わっておらず、分からない事の方が多い。その『分からない』を自分で考え、自分で答えを探す。

 

 芸術分野や表現分野に明確な正解など存在しない、だから個性が出る。その個性を出すために自身で考えることは重要な事だろう。


「じゃあ撮影して行こう、楽しむつもりでリラックスしてやって良いからね」


「はいっ、お願いしますっ!」


「ガンバってポーズしますねっ、くふふっ」


 こうして撮影が始まり、エイミが明るい笑顔でカメラに向かう。リエルも柔らかさと躍動感のある雰囲気を醸しながら表情を作る。


 カメラ目線で手に丸みを帯びているようなポーズ、目線をカメラから外して窓の外を興味深く見ているかのような表情、泰三の指示に従ってテーマ性を前に押し出したポーズ。


 そのどれもが佐伯夫妻の予想を超える出来だった。


 アシスタントをしている康江は、どのようにミラーを配置すれば最も良く写るかを探る。


 カメラを向ける泰三は2人の表情やポーズの柔らかさや躍動感、可愛さが溢れる笑顔を撮影するのに夢中だ。


「はい、良い感じだよエイミちゃん! 明るい笑顔で斜め立ちポーズをお願いね」


「はーい! えへへっ」


 スタジオのセットを変えたりルームを変えたりして、洋室風のフローリングのスタジオセット、和室風の畳床セット、アンティーク調のセット、バルコニー、モダンルーム、様々な背景を使って2人を撮影する。


 上半身を強く写すアップ撮影、背景も写して全体調和を良く見せるロングショット撮影、カメラから見て左側から撮影する下手撮影、その他にも様々に撮影していく。


「リエルちゃん、次は目線ナシで椅子に座って躍動感を出してくれる?」


「はいっ、こうで良いですかっ?」


 素晴らしいと夫妻は思う、ルックス、全体容姿、ポージング、表情、全てが想像の上を行く。


 それどころか撮影している間にも2人は更に良くなっており、2人のモデル撮影に対する理解度や考察力が高まっているのが分かるのだ。


 更にそれ所か、2人は写し手である夫妻の機微を読み取り、撮影者のクセすら読んで細かく最適なポーズと表情をカメラに向ける。


 もう普通にモデルポーズの指示を出しても理解してくれるようになり、指示を出せば期待以上の写りを寄越してくれる。


  向こうが成長するどころか、こちらが成長させられている!


 基本となるモデルポーズの斜め立ちやS字立ちとは、こんなに美しいポーズだったのか!と改めて気付かされる。


 サムズアップポーズで服を引き立たせるには、雰囲気と表情のバランスがこんなにも重要だったのか!


 内緒ウインクのポーズは女の子の可愛さを引き立たせるが、同時にキュートなミステリアスさがここまで際立つのか!


 そんな新たな気持ちを受け、夫妻は10年ぶりかとも思えるほどに強い新鮮な気持ちで仕事に当たっている。


「よし! 次はリエルちゃん、芯を通したまま足を下げて、可愛く背中を強調してポーズして!」


「えっとっ、こうで良いですかっ? ボクならこれが良いと思うんですが」


「凄く良いよ! 困り顔パターンもお願いね!」


「レフのミラーはもう少し下げた方が良さそうねっ、白ホリ撮影も出来れば多めに撮っておきたいわ!」


「アーちゃんのポーズ、すごく可愛いっ! 私も同じポーズしたいな~」


 夫妻のインスピレーションがバチバチに刺激され、自分たちが20代の頃に戻ったかのような気持ちさえ覚える。


 あの頃は手探りで撮影の技術を上げ、良いモデルの撮影を任された時は舞い上がり、写真賞を受賞した時は涙すら流しそうになった。


 自分たちはどこまで行ってもカメラマンだったと自覚する、こんなにも良い被写体に出会えた事に感動しているのだから。


「じゃあ最後はバックペーパーの撮影、背景合成をする表紙写真の撮影をするからね」


「2人セットの撮影だから、さっきのフレアスカートの撮影の時みたいにしようか」


 「「はいっ!」」


 指示をしっかり聞いてくれる上に期待以上の成果を示してくれる、キッズモデルの撮影という事もあって最初は軽く思っていた部分があった。


 会社からは『重要な撮影だから、くれぐれも失礼の無いように』と言われていたが、この実力の高さなら納得だ。この子達は必ず上に行くと夫妻は確信している。




「最後は2人で楽しい感じでの写真が欲しいんだけど、どうすれば良いか悩むなぁ」


「小物を使うとかどうかしら? 表紙はファッション重視じゃなくて見栄え重視の方が良いし」


 最も大事とも言える表紙撮影は、予定では疲労の少ない早い段階で行うつもりだったが、エイミとリエルの撮れば撮るほど良くなる場面を目の当たりにしてラストに回された。


 佐伯夫妻がアレコレと話し、ザーム出版編集部の意向を反映しつつ2人の良さを引き出し、カルチャー雑誌の表紙に相応しいものになるよう撮影する事となった。


「エイミさん、リエルさん、表紙は2人の上半身アップ撮影にするから、こんな風にしてくれるかい?」


「はいっ、優しい感じで柔らかくて、見た人が綺麗な気持ちになれるような表情ですねっ」


「じゃあボクが目線を中央に誘導する形で、カナミの雰囲気が明るくなるよう雰囲気を作れば良いかなっ」


 ラストは服装は落ち着きのあるワンピースシャツで、撮影背景はグリーンバックだ。


 どんな背景にするかは後から決めるそうだが、綺麗な背景になる事は間違いないだろう。


「よし、撮影するよ。まずは~…」


 2人はグリーンバックの前で体を固定して動かさず、話し合った通りに表情と雰囲気を作って撮影に備える。


 その瞬間に佐伯夫妻と灰川の目の前に風景が広がる、それは『晴れやかな湖のほとりで幸せな思い出を作る女の子たち』という風景。


 2人が手を取り合い、平和と優しさの尊さを表現するかのような、柔らかな情愛を世界に向けるかのような、そんな風景であった。


 人物写真なのに風景写真として完成されている、風景写真なのに人の持つ善性や情愛を表現している、それはカメラマン泰三にとっての『完成された一枚』に他ならなかった。


 気が付いたらシャッターを押していた、声も掛けずに写真家としての本能でシャッターを切ってしまったのだ。


「えっとっ、こんなふうで良いですかっ?」


「もうちょっとボクが大きく笑った方が良いですか? 後は立ち位置とかは」


「え……あ、ああっ、じゃあ何枚か撮影するから、パターンをお願いね」


 気が付いたら目の前から湖の風景は消えて無機質なグリーンバックが写る、思わず『今まで湖に居たはずなのに』と思ってしまう程にハッキリと背景が見えていたのだ。


 その後も佐伯夫妻は驚かされる、2人にカメラを向ける度に違った風景が見えて、そのどれもが最高の出来栄えだった。


 こんな体験は初めてだ、専属モデルになって欲しい、自費で金を出してでもこの子達を撮影したい……いや、この子達は近い内に自分たちの今の技量では表現しきれない存在になる。


 負けてられるか!、こちとら10歳の時から夫婦でカメラ小僧だったんだ!、そんな思いが湧き上がり、年甲斐もなくエイミとリエルにライバル心が芽生えた。


 モデル撮影とはカメラマンとモデルの戦いだ、その事を佐伯夫妻は改めて感じさせられた思いだ。


 モデルの表現をカメラマンは写し、カメラマンのイメージをモデルは形にする。そこには商業的な目的と並行して、芸術と表現という戦いも含まれる場なのである。




「エイミちゃんとリエルちゃんは凄いですね、まるで10年分の仕事をしたかのような気分ですよ」


「褒めて頂いてありがとうございます、凄く良い写真ばっかりですね」


 灰川と泰三はスタジオのテーブルに座って写真の確認をしつつ、エイミとリエルは康江にモデルのポージングの指導をしてくれている。指導には熱が入ってるが、2人は興味深く聞いて学んでくれていた。


「それと所長さん、モデルさんとか演者さんは現場では必ず芸名の方で呼んだ方が良いですよ、もちろんモデルさん同士もね」


「!! 気を付けますっ、ご注意ありがとうございますっ」


「私と妻は本名は聞かなかった事にしますよ、もう忘れちゃいました。絶対に漏らしたりしませんので」


 灰川は自分の不注意を深く反省し、後で佳那美とアリエルにも現場では芸名で呼び合うよう言っておかなければと思うのだった。


 泰三は非常に人間性が良く、撮影中にこのような事を所属者の前で注意したりなどはしなかった。それをしてしまえば所長の面目を潰してしまう事になるし、恨まれて仕事NGを出されて自分が嫌な思いをする事もある。


「しかし本当に2人は凄いですよ、所長さんもお若いのに、よくあんな才能の塊のスーパーキッズを見つけられましたね」


「運が良かっただけですよ、初仕事でベテランプロの佐伯夫妻に撮影してもらえたのも、凄く運が良かったですし」


「そう言ってもらえて私も嬉しいですよ、何より素晴らしく満足できる写真が撮れたのが嬉しいです」


 だが反面に泰三は悔しさもあると語り、その理由は表紙写真の背景合成では完全に満足の行く背景は作れない可能性があるからだそうだ。


 表紙には1枚目に撮影した湖のイメージが色濃く広がった写真を使う予定だが、果たしてあのイメージのように美しい背景があるか怪しいとの事だった。


「まあ、そこは負けん気で頑張らせてもらいますよ、あんな素晴らしい写真を撮らせてもらったんですから、こっちも若い頃を思い出して全力でやらせてもらいます」


「まだ全然お若いじゃないですか、でもやっぱり駆け出しの頃とかは苦労したんですか?」


「はははっ、苦労なんてもんじゃないですよ、貧乏過ぎて借金取りと税金取りから逃げ回ってましたから」


 泰三はザーム出版の専属カメラマンになったのは5年前だそうで、それ以前は写真賞を受賞しても生活は普通に苦しかったそうだ。


 消費者金融から借金して撮影機材を買ったり、金がないから食事を摂らずに居たら倒れそうになったり、康江と結婚の約束をしていたけど入籍するまで何年も掛かったり、苦労が絶えない生活だったと語る。


 格安アパートには借金の催促と、税金類の滞納の督促状がギッチリ。金回りでは何度頭を下げたか分からないレベルだったそうだ。


 何度もカメラを捨てて堅い職業に就こうと思ったが、それでも写真家の道を諦めきれず、その努力が実を結んで今に至ると言う。


 実は妻の康江は写真のライバルだったそうで、よく写真の事でいがみ合ってたらしい。それは結婚の約束をしても変わらなかったが、同時に愛も深くなっていったそうだ。喧嘩するほど仲が良いという奴だろう。


「借金取りと税金の催促ってエゲつないですよね、特に年金の取り立ての電話は、俺も超イヤな思いをしましたよ」


「おっ、所長さんも分かります? あの見下しきった早口と高圧的な話し方、メッチャ頭にくるんですよね!」


「泰三さんも来た事ありましたか! あの国から委託されてる業者、すげぇ嫌な感じですよね!? 見下してんのが誰にでも分かるような話し方っすもんね!」


 灰川もブラック企業を転々としていた時期には、給料未払いや社内罰金などを取られたりしており退職後は金が無かった。


 失業保険も待期期間という物があったり、申請に必要な書類が勤めていた会社から送られて来なかったりで、金に困っていた時期が割とある。


 こういった事は体験した者でないと分からない部分が多く、灰川と泰三は意外な部分で話が合った。


「灰川さんは役所から赤い封筒は来たことあります? アレは本当にゾっとしましたよ」


「最終通告みたいなやつですよね? 差し押さえ一歩手前のやつ!」


「それに消費者金融の返済が出来なくなると、段階的に借金取りがキツくなっていくのとか」


「泰三さん、甘いですね…俺の場合は消費者金融が金貸してくれなかったです。審査で落ちちゃいました、はははっ」


 貧乏話に花が咲き、スタジオの一角が変な感じに明るい空気が流れる。


「思えば貧乏な環境があったから写真家の感性も良くなったのかも知れません、今日は何だかあの頃のハングリーさを思い出した気がしますよ」


「冗談抜きでハングリーだったようですね、お互いに」


「ははっ、今はうちの子がお腹を空かさないよう仕事を頑張ってますよ。ですが向上心が目覚めさせられちゃいましたから、また上を目指せるように腕を磨くつもりです」


 芸術の世界で上を目指すのに年齢は関係ない、熱に目覚めた時が上を目指す時だ。


 自分の満足いくものを作るため、多くの人に認められる作品を創るため、目標は様々だ。その目標に向かって立ち止まっていられなくなった時が動く時なのだろう。


「そういえば写真家の怖い話とかってあったりしませんか? 実は自分、そういう系の話が好きなもんでして」


「怖い話ですか、色々ありますよ。写真の世界は幽霊話とか多いですからね」


 灰川が何の気なしに聞いてみると、泰三は怖い話を披露してくれた。




  あるスクープの話


 10年以上も前、写真家の佐伯泰三は貧乏しながらも写真を撮影しまくる日々を送っていた。


 カメラマンと言っても色々あり、スクープを狙うフリーカメラマン、絶景を写真に収める風景写真家、スキャンダル狙いのパパラッチ、沢山の種類があるらしい。


 泰三は人物写真家ではあるが、フリーでスクープ狙いのカメラマンをやっていた事があった。スクープ写真は良い値段で売れると写真家仲間から聞き、借金で首が回らないので試してみるかという気分になったのだ。


 ある時に出版社の者から芸能人の女性問題スクープがあるかもと聞き、とあるホテルの前で待ち伏せをしてみた。ほとんどパパラッチと変わらないが、金のためと思いカメラを握る。


 無理して買った高性能なデジタルカメラを握るが、冬の寒い日に外で長く待つのは辛いもの。しかしやっとターゲットがホテルから出て来た。


 ターゲットは売れっ子俳優で、女癖が悪いと前から評判の男だった。どうやら噂は本当だったらしく、隣には美人な女性を連れ立っている。


 彼にカメラを向けて影からコソコソと撮影し、来週の週刊誌の見出しは『売れっ子俳優のH氏! 爛れた夜の生活を激写!』とかになるかなんて思うのだった。


 翌日に出版社に行って得意げに写真を見せると、編集部からは思いもよらぬ声が帰って来た。


「この俳優Hと女……なんで喪服なんて着てるんだ…?」 


「え……?」


「そもそも通行人とかも全員が喪服じゃねぇか…」


 写真を確認してみると、撮影した時は普通の服装だった筈なのに、何故か写真に写ってる全ての人間が喪服だったのだ。


 そして数枚目の写真、俳優と女が出て来たホテルを写した写真を見た時に更に驚く。


 ホテルの入り口に死に装束の集団が入って行く写真だったのだ、もはや意味が分からない。


 結局はそんな写真が使える筈もなくお蔵入りになり、金はもらえなかったそうだ。


 後で聞いた話だが、そのホテルがあった場所は昔に大きな事故があり、多数の死者が出た場所だったらしい。ホテル内でも幽霊の目撃談が相次いでるとも聞いた。


 寒さに耐えて撮影した写真が1円にもならなかったし、翌日には返済期限の借金が控えてる。その事がある意味では一番怖かったそうだが、翌日の借金取りからは逃げれたらしい。




「私からすれば貧乏と借金より怖い物なんて、そうそうないと思ってますよ。本当に金回りでは苦労させられましたしね」


「カメラマンは機材とか移動費とかも凄そうですもんね、駆け出しの人とかは金を持ってるイメージも薄いですし」


 あまり聞けない類の怪談を聞けて灰川は満足だ、やっぱり怖い話は良いものだとしみじみ思う。


「灰川さんっ、康江さんから色んなこと教えてもらったよっ! すっごくお勉強になった!」


「動きながら写真を撮ってもらう時に気を付ける事とか教えてもらったよ! ありがとう康江さん!」


「ふふっ、また撮影させてもらえるのを楽しみにしてるわね」


 こうしてユニティブ興行の実原エイミと織音リエルの初仕事は終わり、佐伯夫妻からは絶対にまたモデルになって欲しいと頼まれた。その口ぶりはお世辞ではない本気の意思が感じられたのだった。


 結果としては大成功、ザーム出版からも良い写真が撮れたと礼のメッセージが来て、後はアグリットが発売されたら急いで買いに行こうと3人で話ながら事務所に戻るのだった。




 佳那美は母が迎えに来て帰っていき、その際に灰川が撮影の仕事は大成功だったと伝えた。


 もちろん母は娘を褒めて、佳那美も嬉しそうに今日の仕事のことを母に語る。きっと今夜は明美原家は佳那美の武勇伝が細かに語られるのだろう。


「さて、腹も減ったし今日は何か食いに行くかぁ、アリエルも今日はフードサービスは無いんだろ?」


「うん、今日はお仕事で遅くなるかもしれないからキャンセルしたんだ。パフェが食べたいなっ」


「ならファミレスかな、今夜はユニティブ興行の初仕事記念だな、好きなものを好きなだけ食おうぜ!」


「やったぁ! クリームパフェとチョコレイトパフェと、ストロベリーパフェも欠かせないねっ」


「パフェばっか食うなって、もっと肉も野菜もだな~…」


 近くのファミレスまで行こうとすると、アリエルのスマホに着信が入る。


「はい、え? それって…うん、……なるほど、分かったよっ」


「何の電話だったんだ? 家族からか?」


 掛かって来た電話はアーヴァス家からのものだったようで、アリエルの表情がキリっとした張り詰めた色に変わる。


「ハイカワ、ボク今からオカルトの…」


「ん? 俺も電話が来た、タナカさんからだな。ちょっと待っててなアリエル」


 灰川も電話が来たので応答し、タナカから飲みの誘いか何かかと思ったら違う要件だった。


「え…? ピラミッド…?電子ドラッグ…? それって…はい、え? マジですか…」


 タナカからの要件はオカルト関係であり、緊急事態が発生したのですぐに迎えに行くとの事だった。


「アリエル、すまん。今から仕事が入って奥多摩に行かなきゃいけなくなった……パフェは明日にでも~…」


「ハイカワっ、オカルトのコマンド(指令)が出たから、オクタマっていう場所に行かなくちゃ……ファースを持って来ないと~…」


 予定変更を口にした瞬間に『ん?』と顔を見合わせる、どうやら今から何かがあるらしい。

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