275話 お化け屋敷は怖くて楽しい!
「そろそろ順番だなっ、怖さのレベルはオリジナルにしとくか? これがスタンダードな怖さ設定って書いてあるしよ」
「えっと、うん。その辺りが良いかな」
「自分もそれで良いっすよっ、あんまり怖すぎるのもアレなんで」
空羽と来苑は怖さレベルは選ばせてもらえると思ってたが、少し予想と違ってしまった。灰川は看板の下の方に書かれてる『ラブラブカップル向け』のコースレベルには気付いてないらしい。
2人は自分たちが選んで受付係員にレベルを伝えるような、任せっきりタイプの選択を灰川はさせるだろうと予定していたのだ。
そのまま灰川が係員に怖さレベルをオリジナルで指定し、さあどうしようかと2人は悩む。
だが丁度良く受付係員が改札から出て何かをしに行ったため、空羽と来苑は『会社から電話が来ちゃった』とか言って入場待ちの場所から離れる。
「すいません! 17番のグループなんですけどっ、コースの変更をお願い出来ませんか?」
「え? さっきの3人組のお客様ですよね? それは構わないのですが、お連れの男性の方は了解されてるんでしょうか?」
「大丈夫です! そのくらいで怒る人じゃないんでっ」
係員は20代の大学生くらいの女性で、客からの予想外の申し出にも柔軟に対応してくれた。しかし恐怖度を上げる場合は男性にも了解を取らなければ受けられないと言われる。
過去にこのような形で恐怖度を上げたら気絶する人が出てしまい、今は男性と一緒の女性からの申し出に限り怖さを下げる方向なら受け付けるとの事だ。男は黙って怖がってろ。
「ではマイルドにしますか? それともスーパーマイルドでしょうか?」
怖さのレベルが下がるにつれて作動する仕掛けが少なくなり、動作するギミックも軽度な動きや音になるため恐怖感は下がるというシステムだ。
「えっと、ラブラブカップル向けレベルでお願いします」
「うぅ…その…、らぶらぶかっぷる向けで…っ」
「えっ??」
係員は男が1人で女の子が2人なのにカップル向けコース?と思うが、深く聞くような事など出来はしない。
見た感じだと目の前の女の子達は高校生に見えるが、男は年上のようにも見えた。男の方は少し大人びた大学生とかなのだろうか、とか思う。
「さっきの男の人は私たちの親戚の人なんです、彼女さんとのデートの下見に来たので、折角だからカップル向けにしておこうっていうサプライズです」
「そ、そうなんですよ! あははっ」
「あ~、なるほど」
係員がなんだか怪訝そうな気配を発していたのを察して空羽がフォロー、来苑が追随という形で事は収まる。
「てっきり可愛い女子高生の2人に、あのお客様が好かれて同時に彼女になろうとしてるのかと思いましたよ。そんな訳ないのにですよね」
「あ、あははっ、ですよね~」
「親戚ですって親戚!」
2人は一瞬ドキっとしたが特に問題なくやり過ごせそうだ。
「それにしても…お客様方、声が綺麗で可愛いですね~、どこかで聞いたような…」
「え? 初対面ですよっ、それじゃあ怖さレベルの方、お願いしますっ」
どうやら少し焦ったことで配信時に近い声が出てしまったらしいが、係員はVtuberファンではないので気付かれなかった。恐らくはネットとテレビのCMで声を聞いてたのだろう。
空羽と来苑はいそいそと入場口の方に戻って行き、係員は2人の声の事もすぐに忘れて業務に戻る。トランシーバーで怖さ設定をするスタッフにレベル変更を伝え、すぐに変更作業は終わった。
「そういえば今日はカップル向けレベルの要望が2組あったけど、なんだか出て来た時の様子がいつもと違ったような…」
カップル向けレベルの怖さは非常に低く、彼女が適度に驚きつつ彼氏に抱き着いたりとか、彼氏が良い感じに頼もしさとかを見せるのに適した怖さ設定だ。
今までこの怖さ設定で入ったカップルが出て来た時は『○○君、頼もしい!』とか『俺が居るから大丈夫だったろ?』とか、良い感じになって出て来たものだった。
しかし今日のカップル向けレベルの利用者は顔が青ざめており、まるで最恐絶叫すら超えるような体験をしたかのようだった気がする。
度を越えた怖がりの客なんかはスーパーマイルドでも泣いたりするし、今日の2組のカップル利用者はそのタイプだったのかも知れない。
「バイトの私が考えても仕方ないか、仕事しなくちゃだし」
カップルの全てがカップル向けレベルを利用する訳じゃないし、実は怖さレベルはスマホからの申し込みでも変えられる。
先に入った2組は自分の知らない所でレベル変更したのだろう、そう考えて係員は仕事に戻ったのだった。
2人が戻って来て順番待ちのベンチに座り、少しの間だけお化け屋敷『真夜中の戦慄学校』の紹介や構成ストーリーを見ていった。
「最新技術を盛り込んだお化け屋敷か、最近はこういうのが主流だし怖くて面白いんだよな」
「デジタルギミックが多いみたいっすよ、モニターとか使ってる感じなんですかねっ」
「人形とか風とか音のギミックも沢山みたいだよ、どんな感じなんだろう? 楽しみだね」
内部は驚かせ係は居らず、全てが人形だったりヴァーチャルリアリティ映像、その他のデジタル技術などを駆使した無人お化け屋敷だそうだ。
もちろん救助スタッフなども常駐してるが、内部は一本道で迷いようが無く今の所は問題などは発生してない。
「VR映像ギミックかぁ、そういうのがあるってなると、その内にVtuberが驚かせ役になってるお化け屋敷とか出て来るかもな、ははっ」
「あっ、それ良いかも。シャイニングゲートのホラーハウスとかファンの人達が喜んでくれそう」
「なんかのイベントとかでやったらウケそうっすね! シャイゲだったら7人ミサキとかも出せそうだしっ」
お化け屋敷の空間を設置して作り込み、Vtuberが等身大ディスプレイなどで驚かせ役などで出演、なかなか面白そうだし方法によってはリピーターなども得られそうな気がする。
可愛いVtuberや推してるVが扮する幽霊や妖怪に驚かされる、なんだかVtuberファンならば驚きつつ喜べるような良い体験が出来そうだ。
「サイドストーリーも本格的だぞ、東京にある小学校が舞台みたいだな」
「生徒とか教員に行方不明者が出てる江古町小学校が舞台で、そこの謎をホラーとして見せていく形式なんだね」
「学校には昔から怖い噂があって、マミコちゃんって子に会ってしまったら行方不明になるみたいっすね。学校の7不思議とかもあるみたいっす」
近年のお化け屋敷はストーリー仕立てになってる事も多く、舞台は学校や病院や廃墟など多岐に渡る。
ここもその形式で、架空の小学校で発生する事件を主軸にしたストーリーがあり、そこに順じた様々な怖さを演出するとの事だ。
こういう所のストーリーは複雑だと感情が入り込めないし、10才以上の子供なんかも来るようだからシンプルな話が多い。
そういったテーマ形式ホラーハウスは人気があり、中には映画になった所もあるくらいだ。
「お客様、学校の鍵が開きましたので中にお入りください……無事に出て来れる事を願ってますよ、くっくっく…!」
「お、順番が来たぞ。準備は良い?」
「うん、じゃあ行こう。怖そうだからエスコートして欲しいな、ふふっ」
「うぅ~…色んな意味でドキドキしてきたっす…!」
灰川は怖さはオリジナルレベルだと思ってるが、実際には空羽と来苑がラブラブカップル向けレベルに変更してる。
江古町小学校と書かれた入場口を潜って3人で中に入る、少し古い感じの小学校の内装がどこか懐かしく、それでいて怖さが際立つ雰囲気になっていた。
「コンクリート造りの校舎内って感じだな、昭和末期から平成初期に建てられたっぽい雰囲気が良い感じだぜ!」
「私が通ってた小学校もこんな風だったよ、なんだか懐かしいかもっ」
「学詠館の初等部はもっと新しい感じだったっすね、それにしても暗いっすねー」
真夜中の戦慄学校と言うだけあって中は暗く、お化け屋敷独特の『見えてるけど見えにくい』という視界になっている。
最初の順路は小学校の廊下風に作られているが、お化け屋敷として作られてるため曲がり角が多く、角を曲がった先に何かが居そうな恐怖感が楽しめる作りになっていた。
「先頭は灰川さんが良いな、頼もしい所を見せて欲しいかも、ふふっ」
「良いのかっ? じゃあ遠慮なく先頭はもらっちゃうぞ! 特等席を譲ってもらっちゃって悪いな!へへへっ」
「怖がるどころか喜んじゃってるっすね!」
お化け屋敷では男は女に良い所を見せようと前に行くものだが、お化け屋敷ファンにとっては先頭は特等席、灰川は前に行ってと言われて普通に喜んでる。
「確かに怖いけど、この怖さが良いんだよ! 久々のお化け屋敷、楽しませてもらうぜっ」
「あ、あはは…頼もしいんだか変わってるんだか分からない感じっすねっ」
ホラー映画だと真っ先に死にそうな奴っぽい事を言いながら、灰川が先頭に立って内部を進んでいく。
入り口付近の学校の昇降口を過ぎて廊下に入り、少し進むと隠しスピーカーから『キーンコーンカーン!』と学校のチャイムの音が鳴り響く。
「うおひゃおっ! びっくりしたなぁ!こういうのが良いんだよな!」
「あはは…、灰川さん、凄く楽しんでくれてるね」
「自分もビックリしたっす…! いつも学校で聞いてる筈なのに、お化け屋敷で聞くと全く違って聞こえますねっ」
カップル向けレベルは怖さが大幅に抑えられており、オリジナルレベルだったらチャイムの音に混じって『来ないでぇっ!』など、ストーリー性を感じさせる音が入ったりする。
最恐レベルだったらチャイムの音は大きくなり、窓に仕込まれたモニターギミックに幽霊が映されるなど、更に凝った怖さが楽しめるようになってる。
「けっこう作り込まれてるし不気味さとかもあって良いなぁ! 思わず変な叫び声出ちゃったぜ!」
「うおひゃおって言ってたよ、ふふっ」
「なんか変わった叫び声っすね! そんな叫び方する人なんて他にいな~……びゃっこっっ!!」
笑ってた来苑の横の窓枠モニターに幽霊が映し出されて叫んだ。
「来苑も変な叫び声出てんじゃねぇか! 白虎って言ったかっ? はははっ!」
「言ってないっすよ! ちょっと驚いただけっすもん!」
そんな風に楽しく怖がりながら進んで行くが、空羽と来苑は灰川の手を握ったり、驚いてちょっと身を寄せたりするタイミングが掴めない。
灰川はビクビクしながら楽しんでおり、思ってたより灰川はお化け屋敷に高揚してる。それもあって思ってた感じの展開に持って行けてなかった。
「結構驚いて怖がってるみたいだけど、灰川さんもやっぱりお化け屋敷は怖いの?」
「そりゃ怖いって、幽霊とかと違って客を驚かせるための場所だからな。こういう所の怖さと本物のオカルトの怖さは別物なんだよ」
ここにあるのは全てニセモノの幽霊や怪奇現象であり、客に恐怖感という非日常を安全に楽しんでもらうために作られてる。
本物の悪霊や呪詛のような危険なものではなく、怖いもの見たさの客に恐怖を提供するという目的の場所だ。
「怖がらせようって全力で来るんだから怖いに決まってるって、でも怖くて叫んじゃったり心臓がビクってなるのが楽しんだよ」
「何となく分かるよ、本物のオカルト体験とは違うし、こういうのは良い怖さだよね」
「自分も本物の幽霊とかは怖いって思いますけど、こういうのは良い意味の怖さがあるっすよね!」
安心して怖がる事が出来るというのは楽しいと思う人も多く、灰川はそのタイプの人間だ。
だから怪談とかも好きだし、霊能者ではあるが『実際の霊は○○で、こんな感じじゃない』とか言って否定したり馬鹿にしたりもしない。
疑似的な心霊体験により、まるでホラー映画の登場人物になったような感覚を味わえる。それがお化け屋敷の魅力だと灰川は思ってる。
「お、最初の見せ場の教室に来たぞ、6年3組の教室だってよ」
「ここにも仕掛けがあるんですかね? うぅ、ちょっと怖い感じするっすよ…っ」
「教室の前に張り紙風の説明文? みたいなのがあるね」
教室前の掲示板みたいなギミックがあり、6年3組にまつわる話が書いてある。
この掲示はデジタルタブレットなので暗い中でも読む事ができ、怖さレベルによっても書いてある内容が違うらしい。
灰川はオリジナルレベルだと思ってるが、実際にはカップル向けレベルなので、カップルで楽しめる内容になってると2人は係員から聞いていた。
「なるほど、6年3組で行方不明になった女子生徒が居て、仲の良かった男子が探して学校内で無事に見つけたってことか」
「でも原因は分からないし、行方不明だった子も事件の記憶が無くて真相は謎って感じなんだね」
このストーリーはオリジナルレベル以上だと行方不明の子は戻って来なかったという作りになるが、マイルドレベル以下なら女の子は助かる話になる。
3人は順路である6年3組に入って中を見ながら進む、もちろん先頭は灰川だ。
中は小さ目ながら小学校の教室が再現されており、真夜中という設定もあって暗いので不気味だ。
「学校机とか懐かしいなぁ! 俺が座る机は何故かいっつもボロいのだったんだよな」
「忠善女子高校に入った時に同じ机は見たと思うけど、高校のよりサイズが小さいね。私もちょっと懐かしいかも」
「学詠館は2人分の机が一緒になってるタイプっすね、自分はこういう机は馴染みが無いかもです」
机と椅子、窓とカーテン、黒板と教壇、灰川としては懐かしさを感じる内装だが、ここはお化け屋敷、何かが起こりそうという怖さが満ちている。
「なんも起きないのか? まだ最初だから手加減してるってことか、大した事な、うあふひっっ!!」
「灰川さん、そんな油断してるといきなり何かが~~……くるみなぁっ!!」
実は黒板の真ん中ら辺がモニターになっており、そこから人影が勢いよく近づいて来るホラー映像が流れたのだ。驚いた灰川と来苑が叫び声を上げる。
「あははっ、灰川さんも来苑も叫び声が面白いねっ」
「ふぅ、来苑がいきなり自分の先祖の字名を名乗ったからビックリしちまったぜ」
「灰川さんが先に叫んでましたっすよ! 昔の家名が出たのは偶然っすから!」
カップル向けで怖さは抑えられてるのだが、来苑は割と怖がりで驚きが大きいし、灰川は『驚いて怖がるぞ!』という心が出来上がっており、良いムードにはならない。
あくまでカップル向けは2人組のカップルに向けた物であり、露骨なムーディ構成はしてない。
しかしカップルの雰囲気やデート気分を害さないよう作られてるため、怖さを楽しみつつ親睦を深めるには丁度良いレベルであり、3人は凄く楽しみながらお化け屋敷を進めてる。
灰川はカップル向けレベルにされてると思ってないので、ムードとかを意識したお化け屋敷の立ち回りもしておらず、どうしてもデートといった雰囲気にはなってない。
「まだ俺が先頭で良いのかっ? 譲れって言われたら譲るけど、良いって言ったら遠慮なく居座るぞ? 良いんだなっ?」
「うん、良いよ。なんだか変な頼り甲斐があるね」
「自分も怖いの苦手っすから、先陣はお任せします! 頼りにしてますんで!」
「よーし、じゃあどんどん怖がるぞ! 丁度良い怖さで面白いなぁ、オリジナルを選んだ俺ってセンスあるな!はははっ!」
自分が描いた絵じゃないものを自画自賛してるような感じになってる、これじゃカップル向けレベルにしたのを言いづらい。
空羽と来苑は結局は黙っておこうという話に落ち着き、そのまま進んでいく。
流石にここまで楽しそうにされるとムードとかアピールという雰囲気ではなく、純粋にお化け屋敷を3人で楽しむ方向に切り替えた。
「ここは理科室か、ここで女性教師が行方不明になって、男性教師が3日間も真夜中まで捜索して女性教師を助けたって書いてあるな!」
「オムニバスだけど話が繋がってる感じっすね、マミコちゃんは理科室にも出るって噂があったみたいっす」
「マミコちゃんに会ってしまったら行方不明になっちゃうのは確定だね、こういう噂って私の小学校にもあったよ」
「空羽は高校でマジ行方不明の子が出たもんな、あの子達って元気?」
「うん、新学期になってから勉強も部活も頑張ってるって言ってた」
雑談を交えつつ理科室に入り、どこから何が飛び出してくるかワクワクしながら辺りを見ていく。
水道付きの理科室机が幾つか並び、室内の張り紙なんかも理科室のソレだ。
「そういや空羽は叫び声を上げて無いよな、こういうの得意な方とか?」
「うん、すごく面白いけど私はお化け屋敷とかで叫んだりしないタイプかな。本当の幽霊とかだと怖くて叫んじゃうかもだけど」
「人それぞれだよな、俺は叫んで驚いて楽しんじゃうもんね! こういう怖さは楽しいからなっ」
この部屋にはどんな仕掛けがあるのか怖がりつつ進むと。
「理科室って独特な匂いがあったよな、焼き肉屋の匂いって言うか、ハンバーグみたいな匂いって言うか~~……おっふぁあっっ!!」
「理科室でそんな匂いしないっすよ! 実験用コンロで誰かお肉を焼いてたんじゃ~~……なまにくぅっっ!!」
「灰川さんが子供の頃は実験で使ったのはガスバーナーだったんだよね、私たちの世代だと~~……きゃっっ!!」
なんと理科室の机の下に等身大のホラー人形が隠されており、いきなり出て来て3人は驚いてしまった。
どうやら過去に理科室で行方不明になった別の教師を模した人形のようで、驚いても叫ばないと言っていた空羽も驚いて悲鳴を上げている。
「はぁ、はぁ、これは怖かったな! 上手く隠してあるし、タイミングも良い感じだし」
「あははっ、叫ばないなんて言ったばっかりだったのに叫んじゃった。私かっこ悪いね」
「自分なんてお肉を焼くとか何とか言ってたのに、生肉!って叫んじゃったっすよー!」
そんなこんなで次々と進んで行き、学校に隠されたマミコちゃんの謎や、過去の真実などが匂わせ程度ながら明らかになっていく。
マミコは20年前に小学校で行方不明になった児童で、姿を消した真の理由は学校に巣食う悪霊が原因だったのだ!
その悪霊を退治しなければ行方不明者は増え続ける。
放っておく訳にはいかないと感じた先程に出て来た男子生徒と救助された女生徒、男性教師と女性教師が手を組んで除霊に乗り出す。
「ここが最後のエリアの図書室か、本棚とか小学生の時は大きく見えたよな」
「最後の場所ってだけあって不気味さが高いっすね! 何が起こるのか怖くなってきたっすよ…!」
「来苑は最初から怖がってたでしょ、それにしても暗いね」
灰川を先頭にして、腰の引けた来苑、涼しくも楽しそうな顔をした空羽が続く。
悪霊の正体は学校が立ってる場所に存在した処刑場の罪人の幽霊で、今も生前のように人を攫っているとの事だった。
マミコは今まで悪霊から逃げていたが、少し前に囚われて手先にされてしまってる。
その罪人が処刑された場所は現在の江古町小学校の図書室の場所であり、そこに居る悪霊を倒さなければマミコは成仏できず、被害は止まらない!
4人で力を合わせて図書室の何処かにある悪霊が宿った本を探し、それを燃やすというのが物語の詰め部分だ。
「おっ、小学校の時に読んだ爆破探偵シリーズが置いてある! どんな事件も最後は爆破して解決っていうのが良かっ~~……ほぁっひぃっ!!」
「最後は爆破って、新しい事件を自分で作っちゃってるじゃないすか! 大丈夫なんですか、その探て~~……いたりあぁぁっ!!」
「灰川さんも来苑も叫び声が本当に面白いねっ、あははっ」
今度は床がモニターになっており、足元に恐怖映像が映し出された!
しかも天井から強めの風が吹き、最後の仕掛けとして派手なものを用意していたらしい。
お化け屋敷の物語としては悪霊を祓う事には成功し、男子生徒と女子生徒、男性教師と女性教師はその後に付き合う事になったというオチが付いた。
やはりカップル向けのストーリー展開であり、仕掛けも怖すぎず驚かせ過ぎずという塩梅だ。カップルには丁度良さそうな感じの怖さレベルだろう。
オリジナルレベルではストーリーは怖さに振った物が用意されてるが、マイルドレベルなどでは救いのあるストーリーになっている。
「さて、じゃあ行くか、楽しかったな!」
「怖かったけど楽しかったね、こういうのって面白いかもっ」
「そうっすね! 自分も~…あれ? なんか本棚の向こうから変な感じが…」
来苑が何かに気付き、それに釣られて灰川と空羽も視線を本棚の隙間から向こうに向ける。
「「「!!?」」」
その隙間から見えたのは……本棚の向こう側からこちらを見つめる10人くらいの子供の顔、しかも青白くて生きてる感じはしない。
「で、で! 出たー!! 幽霊だー! 2人とも先に逃げろー! 霊能者を呼んでくれー!」
「うひゃーー! 怖い!こわいー! なんすかアレー!」
「霊能者は灰川さんだよっ! あの子たち本物の幽霊だよね!」
灰川は霊能力は完全に切ってた上に『ビビって楽しむモード』に入ってたため、本物の幽霊が居る事に気付けなかった。
今の灰川は本気でビビってる状態で、幽霊が近くに来ても灰川の霊気で消えたりする事は無い状態になってる。
来苑は気付いたがお祓いは出来ないし、空羽は霊能力がそもそもない。
お化け屋敷のような神経が普段より過敏になる場所では普通の人も幽霊を見る場合がある、だから空羽も見えたのだろう。
「お疲れさまでしたー、次の方どうぞー」
3人は青白い顔をしながらお化け屋敷から出て来て、係員は『またカップル向けレベルで入った人が青くなってる』と不思議に思ってる。
「まあ、さっきの子供たちは悪霊じゃないし、強い霊でもないから放っておいて大丈夫だな。学校っぽい空間で怖そうで楽しそうな念があったから集まって来たんだろ」
「みたいっすね、驚いたけど嫌な感じはしなかったっすから。ちょっと遊びに来たって感じだと思うっす」
「少し寂しくなって出て来ちゃったのかな、イタズラのつもりだったのかもね」
灰川としては先程の子供たちの幽霊は除霊やお祓いをする気は無く、自然に旅立つ日が来るだろうという目算の元で放置する。
何でもかんでも祓うのは気が引けるし、何もせずに旅立つならそれが一番良いと思ってる派閥だ。
さっきの子供達は今日にお化け屋敷に来て、何故かは分からないがカップル向けレベルの時にしか出て来ないようだ。そのため今日はカップルが青い顔で出て来ていたという理由があったりする。
お化け屋敷を後にする時に3人で心の中で合掌し、子供たちが現世で少し幽霊の体験を楽しんでから成仏できるよう祈っておく。悪くない幽霊に対しては、このくらいの対処で十分なのだ。
「うわっ、もう結構な客の数になってんな~」
「観覧車にも乗りたいって思ったけど、待ち時間が凄いね」
「1時間待ちですか、ちょっと長すぎますね」
都心にある遊園地の祝日なんて込み合うに決まってる、今はウォータースライダーも観覧車も待ち時間は長い状態だ。
「じゃあ遊園地はここまでか、もうランチタイムだしな」
「うん、そうだね。何処で食べるかも決めなくちゃ」
「自分は灰川さんか空羽先輩の食べたい物で良いっすよ!」
しっかりと遊園地の雰囲気を味わい、ジェットコースターとお化け屋敷を楽しんで園内から出て行く。
本当は空羽と来苑はお化け屋敷で驚いた時などに、灰川に軽く抱き着いたりしてアピールするプランだったが、思ったより灰川が楽しんでいたので出来なかった。
来苑も結構ビビって声を上げており、ムード的にもそういう感じにならなかったというのも大きい。
お化け屋敷の後に観覧車に乗って、少し強めにアピールする策もあったが待ち時間が長くなっていたので諦めるしかなかった。
事前に立てた計画が思い通りに進む事なんて少ない、2人のプランは少しばかり遅れが出てる状況だ。
「ねえ来苑、午後はちゃんと出来るように頑張ろうねっ、私ももっと頑張らなくちゃだし」
「うぅ…お化け屋敷で怖がりまくってスイマセンでしたぁ…、あんなに叫んで恥ずかしいっすよぉ…」
「来苑の叫び声、すっごい面白かった。白虎とか生肉っ!とかっ、ぷっ、ふふふっ…!」
「そんな笑わないで下さいよぉ! 配信でバラしたりしないで下さいねっ、本気で!」
楽しく話しながら遊園地を後にし、午後に向けての体勢も整える。まだ2人のプランは終わっていない。
最初は今話はホラー要素を強めにして書こうと思ってたんですが、最初に書いてたものが非常に嫌な質のホラーになってしまったので、ゆるめのホラーに変更しました。




