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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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273話 カクヨムとなろうで100万PV達成しました!読んでくれてありがとうございます!

「オモチ~、肉球もお腹も柔らかで最高っ! 大好きっ!」


「にゃぁ~、なゃん~」


「にゃー子ちゃんもフワフワなのにスベスベで最高っ! お土産の高級キャットフード、いっぱい食べてねっ!」


「にゃーん、にゃにゃ」


 翌日の朝、空羽は馬路矢場アパートに早く訪れて猫部屋で思う存分に戯れた。写真や動画をいくつも撮り、オモチとにゃー子から得られる元気成分を存分に吸収したのだった。


「空羽、そろそろ行こう。来苑のこと待たせたくないしよ」 


「そうだね、名残惜しいけど行こっか。オモチ、にゃー子ちゃん、またすぐ来るからねっ」


「にゃ~~、なゃ~ん」


「にゃん、にゃぁ~」


 にゃー子とオモチは空羽と灰川をドアの所まで見送り、にゃー子は灰川に『デートってやつかにゃ? 楽しんで来いにゃ!』とか言ってる。


 そんなにゃー子の声は訳さず、猫たちの統率を任せて灰川と空羽は出掛けていった。室温や水も確認したし、何かあっても砂遊とにゃー子が居るから安心だ。




「待ち合わせ場所には電車で行った方が良いな、来苑は千代田区に住んでるから移動とか楽そうだよなぁ」


「学校が文京区だけど事務所は渋谷区だから、最初は新宿区にしようかと思ってたらしいよ。でも一人暮らしするなら千代田区しか許さないって両親に言われたんだって」


「そりゃそうだよな、治安とかも千代田区の方が良いんだし。でも来苑の両親は東京住んでるだろ? なんでわざわざ一人暮らしなんてしてんだろうな」


「来苑の配信の声がうるさくて追い出されたんだって、れもんって配信の時に凄い笑うし騒がしいから」


「なるほどな、納得」


 配信は声を出すものであり、それに伴う家族や近隣の迷惑なども発生する場合がある。


 竜胆れもんはボーイッシュで明るいキャラであり、笑い声とかも大きいから家族の迷惑になってしまったのだろう。


 大きな声を出しても問題ないほど防音設備がしっかりしてる家や部屋など限られるし、Vtuberや配信者というのは騒音に関しては気を払わなければならない。


 来苑の家は子供に音楽や声楽を習わせるという伝統があり、防音はそこそこしっかりした家だったようなのだが、竜胆れもんの元気な声は突き抜けてしまったようだ。


「よし、到着だ。5分前だし良い感じの時間だな」


「もう来てるかな、たぶん居ると思うよ」


 待ち合わせの場所に選んだのは来苑のマンションから最寄りの駅前で、住宅地の駅なので祝日の今はそんなに人が居なかった。平日だったら通勤ラッシュがあるのだろう。


 良く晴れた絶好の行楽日和だ、駅のホームを歩く人たちの表情も明るく見える。


 改札から出て辺りを見ると、来苑らしき人が正面に見えたが、少し何かが違うようにも見える。


 そう言えばと灰川は思い出す、昨日に電話で空羽が『明日に来苑と会ったら驚くかも』と言っていたのだ。その時は意味が分からなかったが、この後に理由が分かる事になる。


「おはよう来苑、灰川さんも一緒だよ」


「おはようございまっす、灰川さんっ、空羽先輩っ」


 来苑にしっかりと挨拶されたのだが、灰川はそれまで『この子、本当に来苑?』と少しだけ考えてしまって挨拶が遅れた。


「おはよう、えっと…来見野 来苑さん…? だよな…?」


「そ、そうっすよ! えっと…やっぱ変ですかね…っ? うぅ…」


「あははっ、やっぱり驚いちゃったね灰川さん、私も最初は驚いたんだよね」


 今日は空羽も来苑も私服であり、オシャレで良い感じの服を着こなしている。


 長いとも短いとも言えないくらいの膝丈スカートで、色は紺で柄もあるタイプだ。そこに黒のニーハイソックスに黒のショートブーツ、上は水色で無地の薄青色ブラウスシャツというファッション。


 シンプルながら空羽に凄く似合っており、シンプル故に空羽の元来の綺麗さや可愛さが際立つ。というか空羽なら何を着ても可愛さも綺麗さも損なわれない気がする。


 スレンダーで全体的に細いが健康的、何事にも真摯なのにイタズラっぽさも感じられる振る舞い、すれ違う者の目を引いてしまう整った顔立ち、優しさや落ち着いた明るさが感じられる全体像。


 改めて空羽を見ると凄い美人だし可愛いと灰川は感じるが、そんな事を詳細に本人に語れる筈もない。


 しかし、空羽にはアパートで会った時に『すっげぇかわいい…』と驚いて口にしており、本人からは嬉しそうに『ありがとう、灰川さんっ』と笑顔で礼を言われた。


「うぅ~…あんまジロジロ見ないでほしいっすよっ」


「わ、悪いっ、ゴメンっ」


 来苑の今日のファッションは、下は明るい色合いのマドラスチェックの膝上プリーツスカートで、空羽のスカートよりは短い。スラリとした足に目が行ってしまいそうな感じがする。


 プリーツの折り目が良い感じに際立っててオシャレであり、普段のボーイッシュなイメージと少し違うが、意外性もあって新鮮で凄く可愛い。


 靴下は普通の白いもので、シューズは動きやすさとオシャレを兼ね備えた白のスニーカータイプのシューズ。


 上は厚い感じのグレーのブラウスシャツ、その上には薄手のジャケットを羽織ってる。


 全体的に爽やかな可愛さの中にスポーティーな魅力もあるファッションで、来苑に良い感じに似合ってるコーディネートだ。


 来苑はボーイッシュなイメージがあるが、実際には普通に女の子っぽい服が似合う可愛さがあり、高校の制服姿を見た時も可愛くて驚いたという事が灰川にはあった。


 だが問題はそれらのファッションではない。確かに灰川の目の前に居るのは来見野 来苑なのだが、印象というか何というか……ファッションとは別に普段とは違う部分があるのだ。


「ふふっ、来苑って意外と胸が大きいんだよね。羨ましいな~」


「ちょ! そ、空羽先輩! 灰川さんも居るんすよっ」


 驚いたのは正にそこだった、灰川としては来見野 来苑はそんなに胸が大きいイメージは無かったのだが、今は何だか大きく見えるのだ。成長したのだろうか?


「うぅ~…自分、普段はスポブラ着けてるんでっ…」


「あ、いや、別に言わなくて良いからよっ!」


 来苑は着痩せするタイプのルックスであり、その上で普段はキツめのスポブラをしてるので胸が小さく見えてたようなのだ。


 小学生の頃は真面目に陸上に取り組んでおり、将来的にはオリンピックだって目指せるかもしれないと目されたが、体格が陸上向きではなくなって上を目指すのを断念したという過去がある。


 身長が思ってた程には伸びず、筋肉の質も来苑が志した短距離走に向いた瞬発力のある筋肉が思ったより付かず、陸上面での成長に著しい難が出て陸上成績も下がり、早くに引退という運びになった。


 引退後は普通の生活だったのだが、そこから見る見るうちに胸が大きくなったのである。これは陸上トレーニングで燃焼していた脂肪分が燃焼されなくなった結果である。


 だが来苑は胸の大きさが少し鬱陶しく感じており、普段はキツめのスポーツブラを着用して抑えてる。


 その上で本人の雰囲気や振る舞いなども胸の大きい人のソレではなく、そういった原因もあって灰川は来苑の事を『胸は普通か、ちょっと小さいくらい』に無意識に判断してたのだ。


 今の来苑は普通のワイヤーブラを着用しており、無理に押さえられる事の無いナチュラルな状態で居る。


「来苑って、相対的な大きさだと桜ちゃんと市乃ちゃんの間くらいかな? やっぱり灰川さん驚いたね、ふふっ」


「空羽、あんまり人の胸の事をどうこう言うなって」


「うぅ…ちょっと恥ずかしいっすよ…、灰川さんだから別に良いっすけどねっ…」


 空羽と来苑はシャイゲのナンバー1とナンバー2で同年代という事もあり仲が良く、こういう話とかも普通にする仲らしい。


 来苑は見知った相手に驚かれるのは苦手だが、相手が灰川なら良いと思ってる。それにスポブラ派ではあるがノーマルブラも嫌いじゃないし、少しづつ着用頻度を増やしていきたいとも思ってるのだ。


「そ、そのっ、灰川さんは…どっちが良いと思うっすかっ…?」


「え、いや、どっちも良いと思うぞっ、服も可愛くて良い感じだしなっ」


「灰川さん動揺しちゃってるね? 私もバストアップしたいって思ってるんだけど、遺伝とかも大切みたいだから難しそうかな」


「空羽は凄い均整が取れてるから気にしなくて良いと思うけどな」


 灰川からしたら空羽も来苑も滅茶苦茶に可愛いと思うし、いつもと違うガーリッシュなファッションの来苑も可愛さがアップしてて良い感じだなと思う。


「じゃあ行こっか、灰川さん今日は両手に花のデートだね、ふふっ」


「そうだなぁ、こんな日が来るなんて少し前だったら考えても無かったよ」


「えっとっ、今日は3人で楽しみましょうっす! えへへっ」


 こうして3人で朝から出掛ける事となり、灰川としては空羽と来苑という美人で可愛い子と一緒に居れて嬉しいとも思う。2人とも高校生とはいえ、やっぱり美人と一緒なのは男としては嬉しいものなのだ。


 好意を向けられてるのも知ってるし、最近の空羽は割と遠慮なくアプローチをして来るようになってる。


 来苑も普段と違う服装で来たが、それは灰川に明確な好意があるからで、灰川は少し驚いてしまってたが来苑としては驚いてくれて少し嬉しいとも感じてる。 


 空羽と来苑は今日も灰川にアプローチを掛けるつもりだし、それは既に始まってる。その最初が来苑の服装だったというだけだ。


 2人とも清楚さや元気さがあるファッションであり、透けブラ防止シャツやパンツ見え防止の3分丈オーバーパンツ着用によって、動いても大丈夫なように対策してる。人の多い都会ではこれがマストだろう。


「最初は空羽の行きたがってた遊園地だな、東京ドームの近くの所で良いんだよな?」


「うん、よく漫画とかアニメで高校生が友達と遊園地に行ったりしてるけど、私は休みとか放課後に友達と行った事がなかったから憧れてたんだ」


「それ分かるっす! 自分も学校の友達とテーマパークとか行ってないんですよっ」


 テーマパークとか遊園地は入場無料な場所もあったりするが、基本的には金が掛かる場所だ。


 気楽に行けない場所にあったり、他に安価な遊び場所があれば高校生ならそっちに行く事も多く、高校時代に友達と一緒に遊園地に遊びに行った事がない人は割と多い。


 だが、様々なアトラクションやイベントが目白押しな場所であり、高校生が行ったら楽しいに決まってる場所でもある。


 灰川達は電車に乗って後楽園に向かって行く。


 野球好きならお馴染みの場所ではあるが、実は様々な観光スポットがあり若者からアダルト世代まで人気の地域だ。


 電車内は祝日の朝という事もあって混み具合はそれほどでもなく、3人で余裕で座る事が出来た。


「そうだ、遊園地の開園まで少し時間があるから、近くの神社に3人でお参りしないかな?」


「10時開園なんすね、確かにちょっと早かったかもですよ」


「神社? もちろん良いぞ、ってなると近くの神宮が良いかもな。あそこは有名だし涼しいしな」


 遊園地に入る前に近くの神社に行こうという話になり来苑も頷く。目的地の近くに穴場だけど有名な神宮があり、最初にそこに向かう事となった。


「そういや今日は桜は来れないのは残念だったな、出版社からの仕事が詰まってるし配信の予定もあったから仕方ないけどさ」


「灰川さん欲張りだねっ、シャイゲの1番から3番を連れてデートしたいなんて、ふふっ」


「おいおい、でもそういう事になるよなぁ。改めて考えると凄い豪華な2人を連れてるんだもんな」


「桜ちゃんカワイイし優しいっすもんねっ、前にコラボ配信したとき桜ちゃんの雰囲気に当てられて、疲れが吹き飛んじゃったっすよっ」


「豪華なんて言ってくれてありがとう、私としては自分のことは特別視しないように気を付けてるけどね」


 自由鷹ナツハと竜胆れもんを連れて遊園地に行く、そんなの2人のファンやシャイニングゲート箱推しの人に知られたら、呪い殺されるくらい嫉妬されるかもしれない。


 2人の身バレ防止もしっかり気を配りつつ行こうとも思うが、そういう部分に関しては2人の方が灰川よりよっぽど分かってる。そんなに心配しなくても良さそうだ。


「桜ちゃんも行きたがってたけど、マネージャーさんに絶対ダメって言われちゃったから、仕方なく諦めちゃったみたいだよ」


「桜ちゃんの今のマネージャーさん厳しいっすもんね、自分も前は厳しいマネージャーさんだったから大変でしたよ」


「シャイゲはマネージャーが結構強いしなぁ、ハピレはマネージャーは居るような居ないような感じで緩いんだよな」


 シャイニングゲートは仕事は割とシビアでスケジュールは詰め気味だし、会社が所属者に対して締め切りとかはしっかり守るよう言っている。それが人気や信頼を維持できてる秘訣なのかもしれない。


 ハッピーリレーも締め切りとかは守るよう言ってるが、大半の所属者は忙しくないので強く言ったりせずとも大体は問題は起こらない。


「2人は仕事は溜まってたりしないのか? 企業案件とか宣伝コラボ案件とかのボイス収録とかよ」


「自分らが何もしない案件とかも多いっすよ、パッケージにVイラスト載せるだけとかだったら会社がやってくれますし」


「グッズとかも会社がやってくれるのが多いかな、所属者は確認だけっていう形も多いし。ボイス収録とか歌の収録は少し違うけど」


 シャイニングゲートは忙しい所属者が多いし、仕事案件を全て自分で処理するのは難しい。


 イラストなどはプロに任せた方が確実だし、その他の仕事も所属者が下手に口出ししても良い事が無いことも多く、基本的には商業的な部分や宣伝的な部分は会社に委任してる部分が多い。


 空羽はたまに口出しするそうなのだが、その意見はプロさえも『なるほど!』『その方向があったか!』と考えさせられるものが多く、やはり全方面に才覚が抜きん出てるようだ。


「そろそろ到着だな、涼しくなってきたけど熱中症とかには気を付けて行こうぜ」


「うん、水分補給もしっかりしないとだね」


 季節はそろそろ秋口だが暑さは油断できないくらいには残ってる、熱中症などは夏の終り頃も気を付けないと痛い目を見る事があるので注意が必要だ。




 駅から下りて神宮に向かい歩く、少し狭い道もあるので灰川は車道側を歩きつつ交通に注意を払ってる。


「灰川さん、これから行く神社ってどういう所か知ってる?」


「おうよ、今は違うけど元は明治初期に総理大臣をやった人の邸宅があった場所に建立された所でな、主祭神も凄い神様だぞ」


「そういう方面は私は知らなかったけど、そういう神社なんだね。やっぱりこういう方面は灰川さんの方が詳しいみたいだね」


「ちなみに俺は気にしないんだけど、今から行く所は神社じゃなくて神宮なんだ。神宮の事を神社って呼ぶと凄く怒る人が居たりするから、配信で喋る時とかは注意した方がいいかもだぞ」


「皇室に近い所は神宮で、そうじゃない所は神社なんすよね。自分も前に親に教わりましたっ」


「そうなんだっ、教えてくれてありがとう灰川さん。来苑も知ってたのはちょっと驚いたかも」


 こういう部分は気を付けてないとポロっと言ってしまう事があり、そこから火のない所に煙が立って、偏った思想を持ってるとか言われて炎上したりする恐れがある。


 2人はファンは凄く多いがアンチも居るし、こういう所は気を付けるに越した事は無いだろう。


 来苑の家が昔は霊能力の家系だった事もあり、こういった神社関連の事情を少し知ってるのかもしれない。 


 やがて神宮に到着して鳥居をくぐって境内に入る、参道は短いので気軽にお参りできる場所だ。雰囲気も凄く良いし、澄んだ霊力が感じられて気持ち良い。


「ここってね、縁結びの御利益で有名な所なんだ。あの人と結ばれますようにとか、お付き合い出来ますようにとか」


「……! そ、そういやそうだったな。前に来た時に聞いたような気がするぞ」


「縁結びっ…! じ、自分らにピッタリっすねっ、空羽先輩っ」


 この神宮は縁結びと恋愛のパワースポットとして人気があり、わざわざ遠くから参拝者がやってくるほど御利益があると言われてる。


 SNSにも彼氏彼女と参拝したなんて投稿も見かけるし、ここに参拝したら意中の人と付き合えたなんて投稿も見かけたりする場所なのだ。


「何をお願いするかは言っちゃいけないらしいけど、灰川さんなら私たちが何をお願いするか分かるよね? ふふふっ」


「自分も…そのっ、空羽先輩と同じことをお願いすると思うっすっ…! うぅ…」


「ま、まあ、叶う事を俺も願うよ、ははっ…」


「私たちのお願いを叶えられるのは、凄く近くに居る人だけなんだけどね。お願いが叶うよう頑張らなきゃ」


「あ、賽銭箱に到着したっす、灰川さ…好きな人と100%のご縁がありますようにってことで、105円のお賽銭が良いんでしたっけ?」


 そんな一幕がありつつ参拝を済ませ、境内にある御守りなどを売ってる所に向かってみた。




 あれこれと御札やお守りを見て回り、それぞれ幾つかの物を購入して神宮から出る。


「空羽、来苑、この前に桔梗さんとコバコのデビュー配信にゲストで出てくれてありがとうな。お礼にコレをプレゼントさせてくれ」


「仕事運と厄除けの御守り? ありがとう灰川さん、凄く嬉しいな」


「ありがとうございます! なんか凄く御利益ありそうな感じするっす!」


「お礼としてはちょっと値段は安い気がするから、後でもう少し何かプレゼントするからよ」


 仕事運と厄除けの御守りは2人には丁度良さそうな御利益だ、喜んでくれたようだし灰川としても嬉しくなる。


「じゃあ私たちからも普段お世話になってるお礼として、御守りをプレゼントさせてね。はい、どうぞ」


「自分からもコレっ、受け取って下さいっすっ!」


「これはっ…あ、ありがとうなっ!」


 2人からプレゼントを渡され、空羽からは恋愛成就の御守り、来苑からは縁結びの鈴守りを渡された。


 空羽と来苑は先程に店先で灰川に隠れてコソコソ話をしており、恋愛関連のお守りをプレゼントしてドギマギさせようなんて相談してたのだ。


 来苑は顔を赤くしてたが空羽はイタズラっぽい笑顔で、灰川は2人からのアプローチだと流石に気付いて内心では少し焦ってる。


「もちろん私も灰川さんに渡したのと同じ御守りを買ってるよ、意味は分かってくれてるよね? ふふっ」


「じ、自分もっ…そのぉ…、同じの買いましたっ…。お、お揃いっすねっ…!えへへっ…」


「そ、そうなんだなっ、ははは…っ」


 意味は分かるし、焦りもあるが凄く嬉しい。だが返答には困ってしまう。


「それと2人で絵馬も書いて掛けて来たよ、私たちが絵馬に書いたお願い見たら、灰川さん喜んでくれるかな? ふふっ」


「うぅ…灰川さんにはあんまり見られたくないっすけど…、どうしてもって言うならっ…書いた絵馬のとこまで案内するっすよ…っ」


「いや、絵馬というのは神社に奉納したものだから、あまり人のを見るのはいけない事なんだ。御利益も薄れるって言うし、そこは見ないのがマナーっていうものだな」


「そこは譲らないんだね、灰川さんらしいや」


 その他にも恋愛おみくじを引いたら2人は超大吉と大大吉を引いたらしく、意中の人は既に心を射止めたも同然とか書いてあったそうだ。


 もちろん、おみくじは当たるも八卦当たらぬも八卦、そこを含めて心の拠り所にして物事を頑張るというものだ。そこを忘れてはいけない。


「そろそろパークの開園時間だな、チケットはネットで買ってあるし、急がずに行くとするかっ」


「そうだね、修学旅行以外だと遊園地なんて久しぶりだし、好きな人と一緒に来れて良かったって思ってるよ」


「自分も学詠館の校外レクリエーションで行きましたけど、それとこれとは違うから楽しみっす!」


 神宮から出て遊園地に向かい、3人で談笑したり仕事の笑い話をしたりしながら移動する。


 空羽も来苑も既に灰川にアプローチする気概は持っており、灰川に自分たち皆を好きになる心を植えようと画策してる。


 その方法は空羽と来苑以外の物む含めた6人で色々と話し合っており、もう方針は決まってるのだ。


 そんな中で灰川は変な気を起こさないよう、2人の気持ちは青春期特有の一時的な勘違い恋愛だと強く心に言い付ける。


 しかし空羽と来苑は凄く可愛い上に声も良く、その上で自分に気を向けてくれてるという事もあって、天井知らずに魅力的に見えてる。


 空羽の『状況や環境を楽しみながら、灰川の心を本格的に自分たちに向けさせる』という、本気かつ容赦のない駆け引きに平常を保てるか。


 来苑の『恥ずかしいけど、好きだから頑張る』という、ひたむきな姿勢を見て心を動かされないか。


 それらはまだ分からない。

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