272話 明日の予定が決まる
「さて、行くかなぁ」
翌日、灰川は赤坂の高級ホテルで目覚めてチェックアウトの準備をしていた。
高層階から見る風景は気持ち良く、窓から差し込む朝日が体を起こす。
昨日は色々あった上に酒に酔ってバーで寝てしまったらしく、起きたらホテルのベッドの上だった。英明とSSP社の人達には謝罪のメッセージを入れて謝り、気にしないでと返って来た。
その後にタナカに連絡をして昨日の礼を言い、一連の事件の黒幕はまだ判明して無いことも伝えた。
国家超常対処局もこの件は異様だとの判断により、超常現象への対処機関としてではなく諜報治安機関として介入をしてるらしい。
影武神のリーダーは四楓院に任せた方が情報は取れると判断し、灰川への義理立てとしても引き渡すのが良いとタナカが上司に言って納得させたようだった。
「花田社長にも今日明日は休んどけって言われたし、遠慮なく休ませてもらうか!」
そんな訳で灰川は休みとなるが今日は完全に平日、気晴らしに何かするにしてもイベントとかはやってない。
ちなみにアリエルはきちんと事務所の隣の部屋から学校に行ったらしく、特に問題なく過ごしたらしい。
灰川はそのままレヴァールホテルを出て駅に向かう、チェックアウトの時も灰川が支払った金は0円だった。
英明や陣伍は既にチェックアウトしており、他の会議出席者も同様だった。あの中に居た者では灰川が最も遅くチェックアウトしたらしい。
「どっか行って時間潰すかなぁ、でも疲れもあるんだよな」
せっかく休みになったのだし何かしようかとも思うが、考えつくのはスロットとかだけだ。それでは普段と変わらないから止めておこうかと思う。
電車に揺られながら何となく家の方面に向かってるが、そこで車を買おうかと思ってた事を思い出す。今の灰川は中古車を買えるくらいには余裕がある経済状況だ。
車を買えば行動の範囲も広くなるし、ボランティアの念祓いなんかもやりやすくなる。それに渋谷に行くのにバスを使わなくて良くなるのも利点だし、アリエルをアパートから学校に送るのにも使えそうだ。
良い機会だしカーショップに行って良さげな車を見ようと思い、スマホで調べて車を見に向かったのだった。
「うへぇ~…思ってたより高いなぁ…」
灰川が来たのはアパートの徒歩圏内の中古車販売店で、乗用車は軽トラからワンボックスカーまでそこそこ取り揃えられてる店だ。
5~7年落ちの軽から普通車の中古車で60万円くらい、それより新しいのだともっと高いし、それより古いと使用可能年数が心配になる。
一応は20万円くらいで売ってる車もあるにはあるのだが、そっちは車検切れの古い車だったりで、車検料や修理費や部品交換費用で逆に金が掛かったりしそうな予感がする。
「一応だけど新車のコーナーも見てみるかぁ、やっぱ高いわなぁ…」
新車なら軽自動車で100万円台後半から、4~500万円台の車もあって幅が広い。総じて高いが長く乗れるし、調子が悪い車とかを掴まされる心配が非常に薄いという利点がある。
新車は高いから中古車かなとも考えるが、ピカピカの新車を見ると良いなぁ~と思ったりする。しかし自営業だとローンは組みにくいって言うし、やっぱり少し無理すれば一括で買える中古だろうか。
しかし1日で軽く決められるような物でもないし、もう少し考えなければと思って店を後にした。
車を買うというのは購入費以外にも考えなければいけない事もあるし、割と面倒なものなのだ。車庫証明とかも欲しいし、自動車税とか車検料とか燃料費とかも考えなければいけない。
「あら、誠治? 今日はお休みだったのねっ」
「お兄ちゃん、どしたん? こんな昼間に」
「由奈と砂遊? 学校はどうしたんだ?」
アパートに向かってると由奈と砂遊に出会った。
なんでも今日は中学校は午前授業の所が多いらしく、同じ中学に通ってる2人は早く帰って来たということらしい。
「明日は旗日だからちょうど良いわっ、休みの前の日は学校が短い方が気分が良いものねっ! わははっ!」
「旗日って古い言い方だなぁ、そういや明日は祝日で休みなんだっけか」
「お兄ちゃん、カレンダーあんま見てないなぁ~? 私なんか休みの日は完璧に把握してるぜ~、うしししっ」
明日は祝日で休みなので、そこに合わせて由奈と砂遊の中学校は代半休か学校の施設修繕か何かが入ってるらしい。
「誠治、今から砂遊先輩と一緒にウチでお昼ご飯を食べる事になってたわ! 誠治も来なさいっ、美味しいご飯を御馳走してあげるわ!」
「もうこんな時間だったのか、じゃあお言葉に甘えさせてもらうかな」
「小っちゃいツインテJCのご飯を御馳走になれるなんて、私もお兄ちゃんも運が良いねぇ~、うししっ」
「お前も中学生だろ…それとたぶん貴子さんが作ってくれる料理だと思うぞ」
結局そのまま飛車原家でお昼を頂く事になり、灰川はアパートで少し着替えてからお邪魔して昼食を頂いた。
やっぱり家には貴子が居て料理を作ってくれて、由奈も得意料理の卵焼きを作ってくれて美味しく食べさせてもらう。
砂遊は飛車原母娘の料理の美味しさに驚いたり、灰川も美味しくてご飯をお代わりしてしまったり、昼食は賑やかに過ぎてった。
「車を買おうと思ってたんですか、良い車はありましたか?」
「いえ、車の良し悪しとか分かんなくて、まだちょっと見た程度ですね」
「車を買うのね誠治! だったら皆で乗れる車が良いわっ、その方が便利よっ」
「お兄ちゃんが車かぁ、あったら便利そうだぞぉ~」
食後に貴子も交えて車の話になり、どんな車が良いとか、便利だし買えるなら買った方が良いという話をしたりする。
貴子は車を運転して渋谷に由奈を迎えに来たりしてるし、灰川よりは詳しいだろう。
「前に父ちゃんに電話して相談したりもしたんですけど、田舎と都会は車事情が違うかもだから、周りの人に聞いた方が良いって言われたんですよね」
「そうなんですね、でも道路を走るんだから田舎も東京も変わらないとは思いますけど」
田舎は未舗装に道とかもあるが最近は少ないし、農作業に出るなら軽トラとかで出る事が多い。
舗装された道を走るなら基本的に車は何を選んでも大きな違いは無いだろうし、後はサイズとか安全性とかで選ぶのが良いだろう。
「統計データで事故割合が多い車とかは止めといた方が良いって、漫画に描いてあったぞ~」
「それとタイヤとかも安いけど擦り減りが早いのは逆にお金が掛かるって、レースゲーム配信の時にリスナーさんがコメントしてたわ!」
「中古車だと駆動系に前のオーナーの運転の癖が付いてたりするから、最初は慎重に運転した方が良いって夫が言ってましたよ」
「なんか由奈と砂遊まで俺より詳しいかもだな、どーしよっかなぁ~」
男でも車に詳しい人ばかりではない、灰川はその典型例で車に関しては一部の高級車とか、CMで有名な車くらいしか知らなかった。
一応これからは四楓院関係からの芸能仕事もあるので収入が増える見込みはあるし、無理をしなくてもそこそこの車は買えそうな気がする。
そうこうしてる内に砂遊がトイレを借りに行き、そこを見計らったかのように貴子が喋り始めた。
「私としては大きめの車を購入した方が良いと思いますよ、その方が灰川さんは便利だと思いますしね。ふふふっ」
「便利ですか、確かに荷物とか載せるのに良いし、仕事で使うにも便利ですしね」
もし買ったら仕事で使うこともあるだろうし、その場合は荷物を多く載せれるボックスカーなどが便利だろう。
「大きな車だったら誠治の事が好きな皆で一緒に乗って遊びに行けるわっ! そうしたら絶対に楽しいわね!」
「お、おい由奈っ、そういう事は貴子さんの前で言うのはだなっ…」
「大丈夫よ誠治っ、ママは皆の事を知ってるし、桜ちゃんと史菜先輩はママにどうやったら誠治がガマン出来なくなっちゃうか相談してたわ! もちろん私もよ、わははっ!」
「ええっ!? そ、そんなことが…」
そういうのは話しちゃいけないのではと思うが、なんかOKらしい。むしろ機会があれば本人に話す事によって心を強く向けさせる、マインド駆け引きみたいなものかもしれない。
「灰川さんの場合は由奈を含めて最低でも、6人の女の子を乗せれる車が良いでしょうからね、ふふふっ」
「ちょ! そんなんで選ぶ理由は付けませんて!」
「それに大きな車の方が、色々なお楽しみとチャレンジが~~……」
「ストップ!ストップ~! 由奈も居るんですから!」
「私も誠治と色んなお楽しみとチャレンジがしたいわねっ! 同級生の子もなんか色々チャレンジしてるって言ってたわ! わははっ!」
由奈は意味が分かって言ってんのかと思うし、同級生の子のチャレンジはダンスバズのチャレンジとかだろ!と思う。
それに複数人と関係を持つのを許容するとか、冗談にしてもハデだなとビックリした。
そんな感じでいつもの飛車原母娘とのドタバタな会話をしつつ、砂遊も戻って来てしばらく車の話とかして時間が過ぎ、由奈は夜に配信があるため帰る事になったのだった。
砂遊と由奈はキャンプの時に知り合って以来仲が良いらしく、互いに配信について語ったり学校の事で話したりしてるようだ。
「そういや砂遊、学校で友達とかとは仲良くやれてんのか?」
「普通だよ~、オタク友達も出来たし、あんまり目立たないようにしてるしねぇ」
「そうなのか、地元の学校とこっちだと雰囲気とか違ったりすんの?」
「うぅ~ん、そんなに変わらんかなぁ。大して可愛くない奴が彼氏居るってだけで、スゲェ上の女みたいな雰囲気を出してたりするぞぉ~」
「そ、そうなのか…まあ、中高だとそんな感じになるよな」
砂遊は自分なりに学校では普通にやれてるようで、特に問題は無いらしい。
なんだか昔はもっと明るかったような気がするが、これはこれで元気という感じなんだろう。
「それとデビューの準備しとけよな、そろそろ砂遊のモデルも完成するからよ」
「うししっ、お兄ちゃんありがとね~。デビューしてバズって登録が増えたら、給金たんまり期待してるからね」
灰川事務所の芸能事務所部門のユニティブ興行も形になってきたし、後は本格始動まで秒読み状態だ。
朋絵もショックから立ち直って配信も前のような雰囲気でやれてるし、佳那美とアリエルの仕事の話も進んでる。
後は愛純がまだ親の説得が出来てない状態だが、そこまで焦るべき事じゃないだろう。
「じゃあ後は猫どものエサと水の確認してから掃除して、夕食までは用足しとかしとこう」
「買い物も済んでるし、猫部屋の用足しが終わったら私はホモゲーでもやってるよ。お兄ちゃんも一緒にやるかぁ? うししっ!」
「やる訳ないだろ! 妹とBLゲーやる兄なんて嫌だろが! こんにゃろ!」
「おわぁ~! 髪の毛モジャモジャすんなぁ~! Vのガワ被ってても髪の毛モジャモジャしてそうってコメントされちゃうだろぉ~!」
そうこうしてる内にアパートに到着し、猫たちにエサをやったり掃除したりしておく。
しばらくしたらアリエルがハッピーリレーの木島さんに車に乗せてもらって帰宅し、3人で夕食を摂って1日の動きは終わりとなった。
「さて、配信するかな!」
夜になって特にする事もなく、先程に休んだから体力も余り気味だ。こういう時は配信して少しでも視聴者稼ぎだとか思ってる。
「今日はダウンロード販売で90%OFFだったアクションゲームだな! こういうゲームはニッチな需要がありそうだし!」
さっそくゲームを起動して、いつものように無駄に元気な挨拶して灰川配信が始まる。
「敵の歩くウニは避けて、竜巻を出してくる医者はダッシュアタックで~~……お、誰か来たか?」
今日は意外と早く視聴者が来たようで、同時視聴者が増えていた。
『青い夜:こんばんは、久しぶりに灰川さんの配信に来れたよ。配信してくれてありがとう』
「おおっ、青い夜さんいらっしゃい、お礼を言うのはこっちだって! 忙しい中で見に来てくれてありがとう!」
『牛丼ちゃん:こんばんわー、作業BGM代わりに聞きに来たよー』
「おっ、こんばんは牛丼ちゃん、最近よく来てくれるね。マジ感謝!」
空羽と市乃が配信を見に来てくれて、少しネットを見てみると来苑と桜はコラボ配信しており、由奈も史菜も配信中、佳那美はアリエルとSNSでもやってそうな感じがする。
「このゲーム知ってる? 俺は知らなかったんだけど今なら90%OFFで買えるよ」
『青い夜:配信映えはしなさそうだけど面白そうだね』
『牛丼ちゃん:敵にやられた時の声が大きい! 気になって作業できないー!』
「じゃあ作業妨害してやるぜ! オラオラぁ!」
いつものように誰も来ない配信をしつつ、空羽と市乃はたまにコメントしたりしながら自分の作業をしたりで進んでいく。
空羽は喉のケアをしたりしつつSNS更新して、ミュージックビデオとプロモアニメの構成の要望を書類に書き込んだりしていた。
市乃は今度に配信するゲームのアバター制作をしつつ、新たに発売されたシャイゲとハピレのVtuberのイラストカードが付録するウエハース菓子の反響を調べたりしてる。
灰川は変わらずつまらない配信のお手本みたいなゲーム実況配信を続け、静かになったり急に喋ったりしながら時間が進んで行く。
『青い夜:灰川さん、明日ってヒマかな?』
「え? 明日は仕事は休みになってるし、猫どもの部屋の掃除もしちゃったしな、やる事って言ったら自分の部屋の片付けくらいか」
『牛丼ちゃん:そんなの今度で良いじゃん、猫ちゃんたちの部屋がキレイならダイジョーブだって』
「おいおい、まあそんなに汚れてる訳じゃないから良いんだけどな。あ、ギドラとオモチが窓からこっち見てる」
『青い夜:オモチの写真をすぐ送って! にゃー子ちゃんもお願い!』
『牛丼ちゃん:ギドラ居るの!? 声聞かせてよー!』
「はいはい分かったよ、覗き見ネコの写真送っといたぞ」
そんなやり取りがあった直後にスマホにメッセージが入り、送信者を見ると空羽からだった。
澄風 空羽
明日に灰川さんと私と来苑でお出掛けしないかな?
3人でデートって感じで
オモチの写真ありがとう!ギドラちゃんたちもカワイイ!
にゃー子ちゃんの写真が無かったのは残念!
空羽と来苑が明日は休日が被ってる上に学校も休みで、灰川も休みだと聞いてお出掛けのお誘いが来たのだ。
来苑は今は配信中だが話は何かの形で通ってるらしく、後は灰川が頷けば決まりらしい。
「おお、マジか! 俺はOKだぞ、じゃあ配信が終わらせて連絡するからよ」
『青い夜:うん、じゃあ待ってるね』
『牛丼ちゃん:誰も来ない配信ってこういうの出来るから良いよねー』
「まあ、青い夜さんからの暇聞きコメ入ってから指定メンバー以外は配信見れない設定に切り替えたしな」
誰も来ない配信だったら少しくらいプライベートな話はしても良いし、モード切替をすれば特定の人しか見れないようにも出来る。
これがナツハやエリスだったら普通は出来ないが、灰川のような個人勢の無名配信者なら気軽にやれる。そこは自由度が高いと言って良いだろう。
『牛丼ちゃん:私は明日は忙しいんだよね、羨ましいなー』
「俺としても2人にお礼がしたかったしさ、丁度良かったよ」
そうして配信は終わり、その直後に市乃からSNSメッセージが届いた。
神坂 市乃
私は灰川さんとけっこうデートしてるけど
空羽先輩と来苑先輩は少ないよね?
明日はいっぱい楽しんで来てねー
デートと言うと語弊があるが、思えば市乃と史菜とはオフの時に何度か会ってるし、由奈ともお出掛けしたしさっきも家にお邪魔した。桜とも何度かプライベートで会ってる。
しかし空羽とは忠善女子高校に侵入した時とか実家に連れてった時とかはプライベートで会ってるが、それ以外だと仕事関係とかで一緒に何かやってる記憶が多い。
来苑は皆の中ではネットでの出会いは一番最初なのだが、顔を合わせたのは一番後というのもあり、市乃と来苑と一緒にデパートに行ったくらいしか無いかもしれない。
その他にはキャンプとかで多人数で会ったりしたが、シャイニングゲートは灰川事務所から少し離れてるし、市乃たちと比べると会ってる回数は少ないのだろう。
『もしもし、灰川さん? 明日のお出掛けOKしてくれてありがとう、来苑にも配信が終わったら連絡しておくね』
「いや、誘ってくれて嬉しいって。でもよ、なんつーか…今をときめく大人気Vtuberが男と出掛けるとか、今更だけどやっぱ危ないんじゃないか…?」
『心配してくれてありがとう灰川さん、でも大丈夫だよ。変装もするし、実はこういう時のためのマニュアルとかもあるから』
「えっ? マニュアルって、所属者が誰かと出掛ける時に注意する事とか書いてんの?」
『うん、好きな男の人とデートする時の注意点と緊急時の対処とか、お付き合いしたい人に秘密を守ってもらうために言うべきこととか』
「……! お、おう、そうなのかっ…そんなのあるんだな、知らなかった…」
『ダメって言っても止めようがないしね、だったら最初から注意点を告知して、対処法を組んでおけば最悪の事態は防げるって考えだと思うよ』
今の空羽は心が浮いてしまうような含みのある言葉を明け透けに使って来る、これは少し前に皆から好意を伝えられた時から完全に顕著になった。
灰川としては嬉しいが、やっぱり皆は多くの視聴者を抱えるVtuberだし、自分と皆は仕事仲間のような関係だからそういうのはどう受け取るべきなんだ?という感情がある。
そして何より年齢差があるし、そこが最も気になってしまう。
仮にそれらを度外視しても誰かを選ぶなんて…と思ってしまうし、今までこんなに好意を寄せられた事が無いから、どうすれば良いか分からない。
どうするのが正解なのか分からないし、皆を遠ざけるのはしたくない。仕事面でもマイナスになるし、正直に言うと皆のような慕ってくれてる人を遠ざけて嫌われたくないという気持ちも大きいのだ。
『来苑も桜ちゃんもマニュアルは把握してるし、灰川さんは安心して良いよ。会社も実は所属者を守る方法は幾つも持ってるんだから、ふふっ』
「そ、そうなんだなぁ、ははっ…」
『うん、だから先輩の所属者さん達は、隠れてお付き合いしてる人とか居るんだよ? 灰川さんも気にしなくて良いと思うな』
「気にするって…高嶺の花が過ぎるっての…」
『灰川さんって割と女の子のこと褒めるの上手だよね、そう言ってくれて喜ばない人って居ないよ』
灰川は25歳だが女性の扱いに慣れてる訳ではなく、モテる人のようにどんな場合でも正しく異性に対処できるような男ではない。
たったいま言った事も本心でありお世辞を言った訳ではない、実際に灰川から見れば空羽たちは高嶺の花が過ぎる。
教育学部では生徒との正しい距離感とかは多少は教わったし、その知識は自分では生かしてたつもりだった。
しかし彼女たちとの関係性は生徒と教師というものではないし、教わった知識は絶対ではない。個人によって距離感も対応も変わるのが普通である。
そもそも灰川は異性から好意を向けられる事など考えてなかったし、皆のような1流の活動者が自分に好意を持つなんて最初は考えてすらなかった。
つまり灰川の距離感の保ち方というのは『自分が皆を好きにならないようにする感情制御』であり、基本的に相手から向けられる想定外の感情を制御する事は不可能だ。
「ま、まあ、それはさておき、来苑も一緒なんだよなっ? 何処か行きたい場所とかあるとかか?」
『まだハッキリとは決めてないんだけど、私は高校生が行って楽しい感じの所に行きたいかな』
「高校生が行って楽しい所? ゲーセンとかファンシーショップとか?」
『そういう感じの所なのかな、灰川さんのことだから心霊スポットとかって言うのかと思っちゃった』
「心スポだったらいっぱい知ってるけどよ、俺が行ったら大体は心霊スポットじゃなくなっちゃうんだよなぁ」
『あははっ、灰川さんが行ったら幽霊の方が逃げ出しちゃうんだねっ』
「対処しないと霊は戻って来るし、またすぐ心霊スポットになっちゃうんだけどな」
行く場所はまだ決まって無いようだが、とにかく3人で出掛ける事は決定した。竜胆れもんの配信が終わったら来苑からもメッセージか電話が来るだろう。
「待ち合わせ時間とかどうするよ? 俺は何時でも良いけど」
『明日は8時くらいが良いなって来苑と話したよ、待ち合わせ場所は後で決める感じになると思う』
「8時か、じゃあ待ち合わせ場所は来苑と相談してだな」
『それなんだけど、私はちょっと早く灰川さんのアパートに行って良いかなっ? オモチとにゃー子ちゃんに会いたいっ!』
「良いぞ、オモチも喜ぶと思うしな」
『休みの日は絶対にオモチとにゃー子ちゃんに会いたい! それだけは譲れないっ』
空羽はペット可のマンションに引っ越してるのだが、忙しくて満足にお世話が出来ない可能性があるため、今はオモチを連れて行くという判断が下せずにいる。
今は泣く泣く手を引いてる状態だが、決して諦めた訳ではない。空羽のオモチ家族化計画は今も進行中、あわよくばにゃー子もとか思ってる。
『あっ、それと灰川さんが明日に来苑のことを見たら驚くかもしれないよ』
「え、何で? 今まで来苑を見て驚いたことって無いぞ?」
『それは見てのお楽しみかな、驚くかどうかは分かんないけどね』
なんだかよく分からないが、来苑がなにかあるらしい。
その後は何処に行くかとかの候補を話したり、少し仕事の話もして時間が過ぎる。
『もうこんなに電話しちゃってたんだ、灰川さんと話してると楽しくて時間があっという間だねっ。長電話になっちゃってゴメンね』
「いや、こっちこそ悪い、じゃあ明日は空羽は早めに来てオモチたちと戯れるってことで、また明日な」
『うん、楽しみにしてるね。おやすみなさい、灰川さん』
こうして明日は3人で出掛ける事になり、配信が終わってから来苑からもメッセージが来て予定は決まったのだった。
色々と思う所はあるが、灰川としても2人には桔梗とコバコのデビュー配信にゲスト出演してくれた礼をしたいと思っていた所だ。丁度良いとも言える予定となった。
明日はお礼を兼ねて出掛ける事になり、2人にも日頃の忙しさを忘れて楽しんでもらえるよう振舞おうと灰川は思ってる。




