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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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265話 芸名と事務所名が決定?

「はぁ…決勝で負けちゃったか、4次元海賊デッキにあんな展開の仕方があったなんて…」


「でも接戦だったじゃん、サイーチ君なら次は勝てるって」


「準優勝でも関東大会には行けるんだし問題ないよ」


 TCGプレイヤーである和藤才知、選手名サイーチはカード大会決勝戦で惜しくも敗北してしまった。


 この大会は地区大会、都大会、関東大会、全国大会という順序の構成で、全国まで行って3位まで入賞すれば世界大会への切符が手に入るという重要大会だ。


 サイーチはWBL公式ランク世界25位という位置付けであり、世界総合プレイヤー人数2000万人という歴史と人気のあるカードゲームで、サイーチは世界で25番目に強いという事になる。


 日本ランクでは2位で凄く強いのだが、先程の都大会で日本ランク1位の人物に負けてしまった。


 接戦の上で予想してなかった戦術で負けてしまい、かなり精神的ダメージを負ってる状態だ。


 カードゲームは多彩なカードや多くの戦術が織りなす深い戦略性があるゲームであり、世界というステージで勝負するには多くの時間と金とカード勉強が必要である。


 サイーチは最近はアニメ鑑賞などの時間を除けば寝る間も惜しんでWBLの事を考えており、大学の勉強やyour-tubeなどの自身のカードチャンネルの動画作成なども片手間状態になってる。


「しょうがないか…引きずってても良い事ないし、ちょっと気晴らしにそこの店にでも入ってみようか…」


「そこの店ってコスサウス? サイーチ君ってコスプレとか興味あったっけ?」


「プリコダのコスが出たら少し確認するくらいだよ、前にもコス衣装は買ったけど、鑑賞用だね」


「あ~、コスプレしないけどキャラ好きで衣装を買うってやつね」


 コスプレとは着てキャラになり切るなど以外にも、キャラ衣装を見て楽しむというコス鑑賞オタクなんかも居る。これはグッズとしてコスチュームを買うという感じだ。


「お、ギャラクシー空手マーメイドのコスある、けっこう良い出来じゃん」


「このバトルスーツはちょっと作りが甘いな、重厚感が足りないって言うか」


「プリコダの新コスは売り切れかぁ、まあ通販でコスサウスに予約してるから良いんだけど、店頭と通販だと特典が違うんだよな」


 サイーチはカード仲間とコスチュームを見てブラ付いて敗北の傷を癒す、特に大きな目的は無いがウィンドウショッピングは気晴らしに最適だ。


 アレコレと店内を見て奥に進んでいくと、どうやらコスチュームを試着してるグループが居るらしく、そっちに目が行った。


「!!!!?」


「ど、どうしたのサイーチ君?」


「あの人達がどうかした? あ、キッズレイヤーの子も居るっぽいね」


 サイーチはそのグループを見た瞬間に目を奪われる。


 そこには彼が信奉すると言っても過言ではないアニメ、魔法のメロディ少女プリコーダーズ……の次点に愛するアニメのキャラクター達が居たからだ。


 小学生の子達が結成したチアリーディングチームがチアダンスで全国を目指しつつ、応援というステージで活躍する少女たちを描いたアニメ『エール・エンハンス!』


 ファンタジー作品で、魔人族と戦う特別な戦力を育てるための帝立ガイアス学園の剣術科や魔法科を描いたアニメ『ガイアナラティブ』


 それらのアニメのお気に入りキャラのコスプレをしてる人達、それも最高の再現度の人達が居たとあっては、サイーチは黙って通り過ぎる事は出来なかった。




「おおっ、みんな良い感じじゃん!」


「そうだよねっ! これエール・エンハンスのエルナちゃんのチアコスチュームだよっ!」


「チア衣装って可愛いな、応援してもらいたくなっちゃうぜ」


 佳那美はチアリーダーの衣装を着ており、ノースリーブのトップウェアやララスカートというチアリーダー達が着用するスカート等を着てる。ハイソックスやシューズもアニメで使われてた物のようだ。


 主人公のエルナの髪は黒のツインテールなので、佳那美の髪の毛をそのまま由奈みたいなツインテールにして纏めてる。


「私も衣装を着させて頂きました♪ ガイアナラティブの魔法科高等部のユアルです」


「史菜も凄い似合ってるなぁ、知的で優しい感じが出てて可愛い!」


「ありがとうございますっ♪ 褒めてもらえてとっても嬉しいですっ」


 ゆったりしたローブやスカートの衣装に、魔法書などの小道具もあって再現度が高い。魔法科指定の学生ブーツも良い感じに似合ってる。


 ユアルの髪は白なのでウィッグを着けてるが、きちんと自然な感じで史菜の元の黒髪のロングヘアを隠せているので、やはりこちらもナチュラルに纏まっていた。


「ボクもフミナさんと同じ作品のメインキャラクターで、剣術科の初等部のフェリアンっていう子のコスチュームだよっ」


「剣まで小道具であるんだな、アリエルもメッチャ似合ってるぞ、髪が長くなるとイメージが変わるなぁ」


「くふふっ、髪の毛が長いのって変な感じだけど、似合ってるって言ってくれてありがとうっ」


 アリエルはアニメの学園の剣術科の白い女子制服を着て、キャラと同じモデルの剣を携えてやってきた。剣を扱うには少し動きにくそうな服だが、作中では非常に軽くて動きやすいという設定になってる。


 セミロングの金髪のウィッグを着けており、普段のベリーショートヘアとは全く違った女の子らしい印象だ。


「すっごく絵になるコスですね~、社長に言ったらウチのフォトモデルになってくれって言われちゃいますよ」


「ありがとうございます、コスプレって面白いかもですっ。灰川さんはコスプレってお好きでしょうか?」


「いやぁ、やっぱ素材が良いからコスプレが映えるな、今まで興味は薄かったけど流石に関心を引かれたぞ」


 史菜の魔法学生衣装、佳那美のチアコスチューム、アリエルの剣術科学生衣装、どれも本当に完成度が高い。


「折角だからポーズとかしてみてはどうです? 写真も1枚ならハウスルールで許可なので」


「えっ、良いんですか? じゃあ撮影しようぜ!」


「うんっ! どのシーンの決めポーズが良いかなっ? えへへっ」


「えっと、ボクはこのキャラクターの事を知らないんだけど、どうすれば良いの? 普通の構えで良いのっ?」


「ユアルのポーズだったらワンドを構えて魔法を使う時のポーズが良さそうですねっ」


 実店舗で物を見る利点は、試着や試用が出来る時があるという部分だろう。実際に着てみたり使ってみたりして自分に合うかどうか見極められる、この利点は大きい。


 さっそく3人はどんなポーズにするか考える、佳那美と史菜はアニメ視聴済みだが良い構図のポーズが分からず、アリエルは未視聴でキャラがどんな構えや剣術を使うのか分からない。


 スマホで調べたり店員からキャラ情報を聞いたりしながら人物への解像度を上げて、どんなポーズを取れば良いか決めていった。




「よし、3,2,1、OK」


 佳那美はエール・エンハンスの主人公、千栄(せんえい)エルナのポージング、右腕を大きく挙げて左足を跳ねるように後ろに上げ、少しジャンプした瞬間の躍動感あふれる姿を撮った。


 史菜は1mくらいの魔法のワンドを引け腰気味に構え、真剣な表情を前に向けた所を撮影した。ちょうどその時にクーラーの風が当たって髪がなびき、良い感じに動きのある写真となる。


 アリエルはフェリアンというキャラが作中でよく使用する構え、両手持ちのロングソード(子供用)を頭の横に持って切っ先を相手に向ける、ドイツ流剣術でいう『雄牛の構え』をとって写る。


「うおっ、すっげぇ良い感じに撮れた! 驚くくらい見栄え良く撮影出来たぞ!」


「本当だ! ボクの構えってカッコイイんだねっ、くふふっ」


「すっごーい! 灰川さん写真が上手なんだねっ!」


「私もなんだか凄く良く撮れてます! 流石です灰川さんっ」


 佳那美はダンスレッスンによって幼いながらもインナーマッスルが鍛えらえており、ポーズに一切のブレが無い。笑顔も自然で可愛さと元気さをしっかり前に出す表情、そして躍動感あるポーズとの調和が素晴らしい。


 史菜はあまり写真慣れしてないせいか少しぎこちなさがある。それでも良い写真であり、キャラクター性がしっかり出せてる一枚だ。声優経験もあるから多少の演技の心得が生きたのかも知れない。


 アリエルはそもそも剣術家という一面があるため、構えが凄く堂に入ってる。まるで今にも素早い刺突攻撃が繰り出されそうな姿であり、表情なども真面目だけど少し茶目っ気のあるキャラ性が出てる。


「よし、じゃあ着替えて帰るとするか。本当は買ってあげたいくらい似合ってるけど、金がないんよ」


「いえ、そんなの悪いです灰川さん。でも、もしまた着て欲しいと仰られるなら、自費で買っちゃいたいと思いますっ」


「カナミのコスチューム、すっごく似合ってるよ! 本当のチアリーダーみたいだ」


「アーちゃんのコスプレもすごいね! 剣を持ってたのカッコ良かった!」


 後は着替えて帰ろうかと思うが、ここまでしてもらって何も買わないというのは少し気が引ける。ここは少しばかりグッズを買って店の厚意に報いようと思う。


「ところでお客様達って、やっぱ何処かの芸能事務所とかに所属してるんですか?」


「え、あ~いや、なんて言うかそのぉ」


 店員としては何気なく聞いた事だった、コスプレ店には芸能関係の人や事務所所属の人なども来るので、割と普通に聞いて来たのだ。


「私とアーちゃんは事務所に所属してますっ。まだデビュー前だけど、これから頑張って有名になりたいなって思ってますっ」


「そっか、じゃあ頑張って活動してね。君たちなら絶対に有名になれちゃうよ」


「ありがとうございますっ、ボクもいっぱいガンバって色んな人を楽しませたり、感動させたりできるよう努めますっ」


 史菜は顔出しNGなので多くは語らないが、店員も深く聞いたりはしない。そういう暗黙の了解があるようだ。


 だがここで思わぬ人物が灰川に話し掛けて来た。


「あの、すいません灰川さんですよね!?」


「え? あっ、サイーチ君!?」


 唐突に話しかけられて驚いたが、そこに居たのは灰川が以前にお祓いをした才知ことサイーチだった。


 彼は皆のコスプレ姿を見て感動して話し掛けて来たのだ。カード仲間に止められたが知り合いの人が連れ立ってるのを見て、話し掛けても大丈夫だと感じたという訳だ。


「あ、その……こんにちは、灰川さんのお友達ですか?」


「えっと、初めまして」


「こんにちはっ」


 3人も挨拶するが、史菜は少し下がり気味になる。コスプレ姿で誰かに会うのは気が引けるし、そもそも灰川以外の男性と直で話すのが得意ではない。


 アリエルも少し下がってしまう、普段は社交的なアリエルだが、実は人見知りな部分がある子だ。明るい子ではあるが感受性が高く、友達の友達みたいな感じの人には初対面では上手く対応できない。


 佳那美は普通に明るく挨拶する、初対面だろうが年が離れてようが明るく元気に応対するし、人見知りはそこまでしない性格なので誰にでも良い印象を残せる性格だ。


「この人はサイーチ君って言って、WBLの世界ランカーなんだよ。前にちょっと仕事で一緒になってさ」


「こんにちは、実はそこのカード大会に参加してたんです。灰川さんには前にお祓いしてもらって命を救われたんですよ」


 あれこれと話して身の上や関係などを説明するが、OBTテレビの社長の息子だとかは話さないでおく。お祓いの話なんかも避けて、あまり互いの深いゾーンには踏み込まないよう対応しておいた。


「さっきチラっと聞こえたんですけど、皆さん芸能関係の事務所に所属してるんですか?」


「はいっ、まだデビュー前だけどっ、これから頑張ってこうって思ってますっ、えへへっ」


「私は少し違って、何と言いますか、2人の応援と言うような感じです」


「えっとっ、ボクもガンバりますっ」


「~~!」


 サイーチはエルナとユアルとフェリアンと話せた事に内心で心を躍らせる、可愛い、カワイイ、かわいいっ!!


 思わず写真を撮らせて下さいと言いそうになってしまうが、それはNGだ。購入してないコスを他人が撮影するなんて駄目な事だ。


 心の中ではエルナちゃんの子にチアダンスをしてもらいながら応援して欲しい!、出来るならエルナのように応援に混ざって若干精神に来る煽りの言葉なんかを言ってもらいたい!


 ユアルに回復魔法の詠唱をしてもらいながら優しい声で包み込むように、生活態度や授業態度、金遣いの荒さや思慮の浅さを、温かく慈しむように罵倒して欲しい!


 フェリアンにはアニメで主人公が剣術科初等部の教練相手になった時に、教えるの下手だと指摘した時の再現をして欲しい!


 そんな考えは隠したままサイーチは話を続ける。


「芸名とかは決まってるんですか? もし良かったら教えて下さい、絶対に応援しまくるんで!」


「あ~、芸名かぁ…」


 芸名も考えなければならないが未だに決まってない、これでは仕事にも差し支えるし、早く決めなければならないだろう。


「灰川さん、私たち芸名のこと考えてたんだけどねっ、ちょっと聞いてほしいかもっ」


 佳那美とアリエルは学校やレッスンの時に芸名のことなんかを話してたらしく、そこで使いたい名前なんかを決めてたらしい。佳那美は両親とも相談して候補は決めてたようだ。


 それを聞いて灰川は暫定的でも良いから決めてしまおうと思い、2人から聞いた芸名を今から使う事にする。


「芸名決めちゃいました! 実原(みはら) エイミですっ」 


「ボクは織音(おりおん) リエルです」


 これが2人の芸名として決まった、佳那美がエイミ、漢字で書くと笑衣美、笑顔が服を着て歩いてるような人という意味だ。苗字の方は実名ベースにしてある。


 アリエルは名前の方を実名ベースにして、苗字は好きな星座から取ったという感じだ。


「教えてくれてありがとうございます、事務所名は何でしたっけ?」


「事務所は芸能の名前としては“ユニティブ興行”にしようと思ってるよ、名前も色々と制約があってさぁ」


 この名前は灰川と藤枝が姓名判断占術を使って暫定的に決めた名だが、まずはこの名前で行こうかと思ってる。芸名も事務所名も何か違うと思ったら変えれば良いだけだ。


「分かりました! 絶対に応援しまくりますんで! 特に今日に会った3人は絶対に何があっても応援します!」


「えっと、私は灰川さんの事務所の所属ではないので…」


 サイーチはエイミとリエルが前に小舞台で見た子達だと気付いてる、あの時はプリコダのコスだったし、今は髪型なんかもウィッグで違うけど気付いた。


 欲を言えばこの場で2人にプリコダのコスをしてもらって、100枚くらいポーズ写真を撮影させてもらいたいが、そんな事は流石に口に出せない。


 こんなに可愛くて華のある子達を応援しないなんて出来ない、デビューしたら必ずSNSや自分のチャンネルで取り上げて拡散する。


 前に小舞台でプリコダのナナと富良乃を見た時は、現実の世界に2人がやって来てくれた!とすら思った。


 そして今はエール・エンハンス!のエルナが、ガイアナラティブのユアルとフェリアンが目の前に居る。


 これらの感動は口に表せない程に深く、サイーチはすっかり彼女たちのファンになってしまったのだ。


 特にエイミとリエルがドストライクで、このまま3日くらい眺めてたい気分だ。ファンとしての立場や距離感などは父がテレビ局の社長という事もあって理解してるが、それでも思わず握手を求めてしまいそうになる。


「じゃあ頑張って下さい灰川さん、皆さん、メッチャ応援してますんで!」


「ありがとなサイーチ君、お父さんによろしくね」


 こうして何事もなく偶然の遭遇は終わり、後は着替えて帰る事となる。


 芸名も事務所名もあっさり決まったような感じだが、大きな事であっても決まる時はあっさり決まる事だってあるものだ。

 



「サイーチ君、まさか本当に行くと思ってなかったよ…」


「イケメンなのに小さい女の子好きってのがなぁ…」


「はぁ…はぁ…! あの子達っ…破壊力がありすぎるっ…! 反則だろっ、あの可愛さっっ…!」


 サイーチは3人の子、特にエイミとリエルという芸名の子に完全に骨抜きにされてしまった。少し話しただけで息切れを起こすくらい精神を持ってかれたのだ。


 呼吸するのを忘れるくらい可愛かった、あの笑顔を間近で見たら息の仕方を一瞬だけ忘れてしまった。


 あのままだったら『死因・呼吸方法忘却性窒息』とか書かれて、前代未聞の馬鹿として人類史に名を残す所だった。


「でもさっきの子達、確かに可愛かったよね。俺はアニメにしか興味無いんだけど、それでも可愛いって思ったよ」 


「そうだよな!俺も思った! 芸能事務所に入ってるって聞いて、やっぱりな~なんて思ったくらいだし」


 そんな会話をカード仲間がしてるが、サイーチの耳には届かない。奇跡的な容姿を持つ子達との出会いのショックから立ち直れてないのだ。


 サイーチは以前から3人のキャラに自分に向かって言って欲しいと思ってた作中セリフを、頭の中で思い返してしまっていた。


 魔法科のユアルのコスをしてた中学生か高校生くらいの子に。


『決闘お疲れさまでした、回復魔法で癒しますね♪ お強いのは素晴らしいのですが、生活態度は悪いし授業も寝ちゃってますし、浅い考えでお金の無駄遣いも多いし、本当にダメダメさんですね、ふふっ』


 こんな感じで罵られながら回復されたい!、とか思ってしまう。


 人生最大級の衝撃を受けた千栄エルナのコスの子、実原エイミちゃんには。


『ガンバって!お兄さんのセンスはちょっと独特でスッゴく変わってるだけだよっ! だから挫けないで! 修学旅行で北海道に行ったのに、お土産でシーサーの置物を買って来たお兄さん! ガンバれ!ガンバれ!おにーさんっ!』


 こんな感じで応援してるのに心を抉ってくるエールを送られたいとか思ってる。


 同じく最高に可愛くて最大の衝撃を受けた外国人かハーフ思われる子、剣術科のフェリアンのコスの子には。


『先輩って高等部なのに、初等部の子にもまともに教えられないくらい、教えるのが下手クソなんだねっ。それってバカだからなんだと思います! なので先輩は今日からクソバカに改名してください! でも…教えてくれてありがとうっ、クソバカ先輩っ』


 というシーンを再現して欲しいと思ってる。


 とにかく心に直球ストレートをドストライクされてしまった、これはヤバイと自分で感じるほどだ。


「どちらを1番推しにするか迷う……ってか選べない、でもダブル最推しは~~…いや、プリコダは6人推しだから今さら~~……」  


「サイーチ君、すっげぇ悩んでるじゃん」


「いつもの事だって、漫画喫茶行ってWBL反省会しようぜ」


 才知は今日の感動を忘れない、2人がデビューしたら必ず拡散して1人でも多くのファンを増やしたいと思ってる。


 WBLに懸ける情熱と同じくらいアニメやサブカルチャーも好きだ、そんな和藤才知が灰川の芸能事務所のファン第一号になったのだった。




「灰川さん達とお出掛けできて楽しかったです、誘ってくれてありがとうございました」


「お礼を言うのはこっちだって、色々助かったよ史菜」


「ハイカワっ、後でコミックの読み方教えてね。初めてのマンガだよ、楽しみだな~」


「秋葉原おもしろかったねっ、アーちゃんの漫画も面白そうっ!」


 帰りの電車で会話をしつつ、明日はしっかり休んでから来週も皆で頑張ろうという心持になる。サブカルチャーの実地勉強ではあったが、良い気分転換になった。


 ここからは色んな仕事を取りつつ名前を上げて、皆や職員が満足の行く待遇が出来るように稼いでいこうと灰川は思う。


 きっと苦難もいっぱいあるだろうが、それでも手回しを含む下準備は充分にやれたから心強い状況は整ってる。


「よしっ、ひとまずは佳那美ちゃんとアリエルの仕事の話を詰めて、朋絵さんのV活動もサポートして、砂遊のV転生もやって、明後日はコバコと桔梗さんのデビュー~~……」


「ひとまずって言った割にやる事が多いですね、ちゃんと休まないとダメですよ灰川さん」


「ありがとな史菜、でも今は前園さんと藤枝さんも居るから大丈夫だ。今までも仕事なんて何個か並行してやるのが多かったしな」


 やるべき事は多いが今は1人じゃないし、2社の手助けなども引き続き受けられる環境だ。困ったら相談しろと言われてる。


 これから忙しくなるのだろうなとか考えるのだが……電車の少し離れた席で誰かが何かを話してる、その内容は灰川達には聞こえていなかった。


「おい、なんか最近ヤバイ連中が好き放題やってるって噂があるらしいじゃん、暴力事件とか滅茶苦茶な脅迫とかよ」


「想像以上に危険な連中らしいよな、人の命も人生も知ったこっちゃねぇみたいな奴らだってよ」


 世の中は一般人や善人ばかりではない、中には想像を絶するような人間性の者や、金になるなら誰がどうなっても良いみたいにナチュラルに考えてる者も居る。


「噂だと渋谷にも目を付けて裏で荒らしまわってるそうだぞ…一般人もヤクザもお構いなしだってさ、企業とかも標的にされてるってよ」


「本当かよ? だとしたら危なすぎるな、影武神とかって名前だっけ?」


「お、おい口に出すなってっ」


 世の中には悪事で大金を稼ぐ者達が居る、ヤクザとかマフィアがその代表例だろう。


 しかし近年では反社会的勢力も多様化し、暴力団以外にも多くの形をとるようになって久しい。

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