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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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262話 オタク文化の街

 天家一門と挨拶を済ませ、その後は帰ってそれぞれに解散だったり仕事だったりという形になる。


 佳那美とアリエルを灰川事務所所属の子役タレントみたいな感じで紹介し、一門の弟子たちは2人が特別可愛い子達だと思うのと同時に、美味しい仕事の話なんかがあったら声を掛けると約束してくれた。


 その時に佳那美がテレビの大喜利番組が好きで落語も知ってて天家一門の人達を知ってたり、アリエルも日本語の勉強として落語を聞いてて冬椿師匠の事を知ってたりなど驚かれた。


 それどころか2人は……。


『アリエルですっ、冬椿師匠はステージで出来るネタを70席も持ってるなんてスゴイです! 前座の頃の噺を大事にしてるのもスゴイ落語家さんだ!って思いました!』


『佳那美ですっ、両有さん、清紺さん、九算さん、それに荷物積みを手伝ってもらった前座の鯉梨(こいり)さんの噺の“関所の茶碗”も好きですっ』


 と語り、まだ小学3年か4年くらいに見えるのに、そんなに色々と知ってるのか!?と益々に驚かれた。ついでに灰川も驚いた。


 それが元で天家一門の人達から気に入られてしまい、灰川に大きな恩もあるし、芸能ごとや他の事でも困ったらいつでも相談に来てくれと言われた。


 佳那美が知らなかった弟子の2人はまだ前座になれてない『前座見習い』のため、落語家の名前をもらえてないらしく目下修行中だそうだ。


 前座見習いの2人にも佳那美とアリエルは、無邪気で尊敬と応援の気持ちが籠った笑顔で。


『小田河原さんと佐藤さんの落語も楽しみですっ、デビューしたら絶対に聞かせてもらいますねっ。えへへっ』


『ボクたちも修行中だからっ、一緒にガンバりましょう! ボクもスゴイ人達に追いつけるようにガンバります、くふふっ』


 という感じで互いに頑張りましょうと声を掛けたら、前座見習いの2人は辛い修行を忘れたかのような笑顔で『一緒に頑張ろうね!』と言ったのだった。


 ついでに帰り際に灰川に『佳那美ちゃんとアリエルちゃんのグッズとか無いんですか!?』と聞かれたが、デビューすらしてないので無いですと答えると、凄く残念そうな顔をしたのだった。

 

 成り行きで本名を名乗らせてしまったが、そこは芸能の世界、全員から絶対に本名は広げないと約束された。とはいえ芸能活動してる人の本名は隠しても流れてしまう事が多い。


 そういう本名流出などを防ぐために芸名なども早く考えなければならないだろう、どの道に2人のデビューは決まってるような物なのだ。


 ちなみに今日のアリエルはいつもの白い装服ではなく、白のハーフパンツと同じく白と青のフォーマルブラウスの女の子と分かる服装なので、男の子と間違われる事は無かった。




「じゃあ俺達は出掛けるか、佳那美ちゃんもアリエルも準備は良い?」 


「うんっ、ジャパンのサブカルチャー、楽しみだよっ!」


「欲しい漫画本あるのっ! 売ってるかな~」


 灰川と佳那美とアリエルはOBTテレビで皆と別行動になり、サブカルチャーを学びに行くという段取りになってる。


「空羽、来苑、収録お疲れさま。この後は打ち合わせみたいだけど、頑張ってな」


「ありがとう灰川さん、今夜も配信だから打ち合わせは短めだから。灰川さんは佳那美ちゃん達と出掛けるんだよね?」


「お出掛けっすか! 自分もどこか行きたい気分だよ~、うぁー! 今日もお疲れさまでした灰川さんっ!」


 空羽と来苑はこの後も仕事が入っており、土曜日だが休めないスケジュールだ。もっとも配信者という職柄では休みは不定期、それでも会社としてはキッチリ休みは入れる方針である。


「市乃、史菜、お疲れさま。市乃は昼配信が入ってるんだよな、RPG配信の続きだっけ?」


「そうだよー、でも結構ムズくてさ、レベル上げとか裏でやってるから思ったより大変なんだよね」


「あ~、市乃はそういうのスタッフさんに投げたりしないもんな。でも調子良いって聞いたし、花田社長も今日のエリスは凄ぇ!って褒めてたし大丈夫だろ」


「えっ!花田社長が褒めてくれてたの!? ちょっとビックリかもっ」 


 花田社長は今はあまり所属者と率先して話す事は少なく、市乃と史菜とその他数名の所属者と仕事関係で話すくらいしか接点はないらしい。忙しいし過去の事もあるから仕方ないだろう。


「史菜は午後からは動画編集だったよな、あんまり頑張りすぎないようにな」


「あ、いえっ、実は動画編集はスタッフさんと相談して事務所が全部請け負ってくれる事になったんです」


 史菜は最近は配信や仕事が詰まって来て、学校の勉強なんかもあるから人任せに出来る仕事は回しなさいとハッピーリレーから言われた。 


 基本的にはハッピーリレーは所属者の動画編集などは格安料金で編集代行するのだが、北川ミナミは時間的に余裕が少ないため会社が無料で請け負う形となった。


 無料とは言っても実際にはミナミの稼ぐ金額が上がったからで、これからも稼いでもらいたいからの待遇だ。こういった特別扱いは普通の業界である。


「そうだったのか、じゃあ午後は配信?」


「配信は昨日の夜にしましたので、どうしようかと思っています。掃除とかもしちゃいましたし」


 どうやら史菜は午後の予定は空いてるらしく、何をしようか迷ってるらしい。学校の勉強でもしようか、配信のためのトーク勉強をしようかとか、アレコレと迷ってる。


「じゃあさ、今から佳那美ちゃんとアリエルを連れて出掛けるんだけど、もし良かったら史菜も来てくれない?」


「えっ? どこかに行くんですか?」


「実は2人にサブカルチャーの勉強として~~……」


 秋葉原に行くか池袋に行くか、他の街に行くかなど迷ってることとかを話し、サブカルチャーの勉強もしてる史菜も一緒に来て2人に色々と教えてあげて欲しいと頼んだ。


「俺もアニメとか漫画は好きだけど、そんなに詳しく話せるくらいじゃないんだよ。だから頼むよ、助けてくれっ」


 灰川は秋葉原とか池袋に行った事もあるし、ある程度は立地も分かる。前には桜と少し降りて買い物をした事もあった。しかしサブカルに凄く詳しい訳じゃないから満足に教えられない可能性が高い。


 一方で史菜は現代を生きる女子高生で、Vtuberとして活動してる身だ。漫画もアニメも好きだし、何ならアニメに声優として出演した事まである。


「はいっ、ではご一緒させて頂きますねっ、灰川さんから何かを頼まれるのって珍しい気がします、ふふっ」


「おおっ、ありがとうな! じゃあここから直行するから、車組とは分かれる感じになるな」


「えー! 史菜イイなー! 私も行きたかったー!」


「市乃も午後に配信がなけりゃ一緒に行けたかもな、残念」


 こうして史菜も来てくれる事になり、OBTテレビで一行とは別れて行動する事になったのだった。




「まずはアキバと池袋のどっちに行くかだよな、皆はどっちが良い?」


 OBTテレビのロビーで座って軽めの昼食を摂りながら何処に行くか話し合う、今日は良い天気でロビーに差し込む日光が眩しいくらいだ。


 秋葉原は言わずと知れたサブカルチャーとオタク文化の街、池袋は大衆型商業施設が多いがアニメショップなどのサブカルチャーの店も多く、オシャレからサブカルまで押さえられる街だ。


「ボクは分からないけど、面白い方の街に行きたいなっ」


「アーちゃんに面白いっ街ってどっちだろっ?」


 アリエルは日本の街の事はあまり知らないから意見を出しようが無く、佳那美はアリエルの意思を優先してる。


「アニメや漫画などの事を知りたいなら、秋葉原の方が良いと思います。街の見た目でも思い出に残りやすいと思いますし」


「やっぱアキバだよな、電気街は駅から近いし、サブカルの店が集まってるもんな」


 秋葉原は1㎞四方くらいにアニメショップなどが集まってる街であり、池袋は店が少し分散してる。子供の足の事を考えると秋葉原の方が良いだろうという意見を史菜は出してくれた。


 他にも秋葉原はどちらかというと男向け、池袋は女性向けのサブカルの街で、特色なんかも結構違う。 


 どちらが子供が楽しめる街かは意見が分かれる所だろうが、やはり知名度的にも秋葉原に行った方が得る物がありそうだという話になった。


「じゃあアキバだな、こっからだとモノレールに乗って~~……」


 お台場から秋葉原まで大体30分の距離で、時間的にも丁度良さそうな感じだ。


「カナミっ、アキハバラってどんな街なのかなっ? すごく楽しみだよっ」


「アニメも漫画もVtuberのグッズとかもあるんだよっ、いっぱい見ようねアーちゃん!」


 駅に向かいつつはしゃぐ2人を見守りつつ、史菜にどんな順路で回ったら良いかを相談しながら現地に向かって行った。




「スゴいっ!! アキハバラってこんな街なのっ!?」


「驚くのは早いってアリエル、まだ駅のホームだっての」


「あははっ! アーちゃんは初めてだもんねっ」


「佳那美ちゃんは来た事があるんですね、私はちょっと久しぶりかもです」


 秋葉原駅は山手線や総武線、京浜東北線、その他の地下鉄などにもアクセスできる乗換駅としても重要な駅だ。


 駅構内は意外と複雑で階段がいっぱいあり、慣れない人はどの階段を上ったり下りたりすれば良いのか、路線案内看板を見ても不安になる。


 観光客やサブカルファンが集まる街なので人も多く、今日は土曜日という事もあって駅構内には沢山の人が歩いてる。


「かわいいイラストの看板がいっぱいあるよっ! こんな駅は初めて見たよっ!」


「あっ、市乃お姉さんがやってたゲームの看板だよ! 面白そうだったな~!」


 秋葉原は駅のホームの時点で他の街との違いが感じ取れる。


 アニメ、ゲーム、漫画のイラストが大きく描かれた駅看板がそこかしこにあるのだ。


 こんな特徴を持つ駅は世界のどこを探しても秋葉原だけであり、正に唯一無二の街として外国にまで名前が知れ渡る場所でもある。


 階段を降りて改札口に向かうが、その道中でもアリエルは興味深そうにあちこちを見回してる。その度に佳那美が『あれは○○のゲームだよ!』とか解説してあげていた。


「灰川さん、電気街口に行くんですよね? それならこちらから行った方が良いですよ」


「お、ありがとうな史菜」


 史菜は秋葉原にもそこそこ詳しく、分からない部分をちゃんと教えてくれてる。


 子供が楽しめそうなショップなども教えてくれて、街巡りの準備は整えてくれた。もう既に史菜を誘って良かったと灰川は思ってる、1人だったら絶対にグダグダになってただろう。


「史菜はアキバとかって行ってたの? Vtuber始める時に機材買ったりとかさ」


「私は漫画もアニメも好きなので、前は遊びに来てました。今は少し忙しくなってしまったので、前ほどには来れてません」


 史菜はVtuber活動に必要な機器はネットで買ったらしく、秋葉原などの街にはグッズなんかを見に来てたらしい。


「駅の中にもお店がいっぱいある! 大きさだとウォータールー駅の方が大きいけど、騒がしさはアキハバラが上だねっ」


「アーちゃんの国の駅なんだよねっ? 私も行ってみたいな、えへへっ」


 秋葉原は有名ではあるが東京の駅の中では大規模ターミナルという訳ではない、新幹線も止まらないし重要施設が近くにある街でもない。


 それでも駅も相応の大きさはあり、若者を中心に様々な年代の多くの人達が利用する駅だ。


「ふわぁ! デジタル看板の全部がアニメーションとコミックだ! シャイニングゲートの宣伝もしてるっ!」


「アーちゃんっ、あっちの看板にプリコダが映ってたよっ!」


 駅の改札を出るとサブカル色が更に強くなる、駅舎の構内の柱にはデジタルサイネージ看板が並び立ち、ソシャゲやアニメやその他の宣伝が至る所で流れてるのだ。


 何処を向いても煌びやかで可愛いイラスト、目をつぶってもアニメソング交じりの宣伝音声、凄い街である。ここまでサブカルやアニメ漫画文化に特化した街は絶対に他ではお目に掛れない。


 改札を出たらすぐに駅の外に出れる造りで、改札から向かって左側の電気街の出口から街に出る。


 アリエルは初めて見るタイプの街に興奮を隠しきれず、佳那美はそんなアリエルの様子に釣られて楽しそうにしてる。


 2人は以前から大人に混じって仕事をしてた身であり、アリエルに至ってはオカルト関係で命すら掛かった場所で仕事をしていた。


 そんな生活の中で子供らしい感情の動きを変わらず持ち、冷めた目で物を見ない心を持ち続けてるのは凄い事だ。それはエンターテインメントに向いた『楽しむ心』というものの一端なのだろう。


「ハイカワっ、フミナさんっ、どこに行くのっ!? なんだか入ってみたいお店でいっぱいだよっ、くふふっ」


「アニメショップとかゲームセンターとかいっぱいあるよっ、全部見たいねアーちゃん!」


 アリエルが目をキラキラさせながら、佳那美はスカートを揺らしながら楽しい気持ちになってる。今にも駆けだしそうなくらい気分が上がってる様子だ。


 色々と目移りしてしまう街だが、まずは駅の近くを散策して街の雰囲気を見てみようという事になった。


 アニメショップやTCGショップ、飲食店にゲームセンターに免税店やPC家電屋など種類が多い。


 今は外国人観光客も多く外国語もあちこちから聞こえ、アニメファンから親子連れまで色んな組み合わせの人達が歩いてる。


「これでも以前よりはアニメやゲームの色は街から薄まってるらしいな、もっと前まではこんなもんじゃなかったらしいぞ」


「そうなんですかっ? 今より凄いとなると完全にアニメの街だったという状態だったのでしょうか」


 今はオタク色が低くなって以前よりつまらない街になったという声もあるが、それでもアニメ色やゲーム色は非常に強い街である。


 時代によって街だって変化するものだし、都市開発には様々な力や思惑などが反映される。それらが今の秋葉原という街を作ってるのだろう。


 それにオタク文化も昔とは大きく変わっており、昔はアニメや漫画にゲームやライトノベルが主流だったが、今はそこにソーシャルゲームやVtuberやTCGなどが大きな勢力として加わってる。


 現代は通販で買い物をする人が多く、電子書籍やダウンロード販売が一般的になり、秋葉原もその煽りを受けてアニメショップ等の実店舗型の商売は劣勢を強いられてる状況だ。


 しかし、やはり実店舗でグッズやフィギュアなどを実際に見て買うのは、ネット通販とは違った充足感があって楽しいものだ。その楽しさを求めて街に来るアクティブオタクは今も秋葉原には多い。


 進むビジネス街化やオタクショップの形の移り変わりを感じられる街だが、今もマニアックな電気部品や怪しいジャンクパーツが売られており、どこかアンダーグラウンドな感じもある。昔はハッキングツールとかも普通に売られてたそうだ。

 

 治安が悪くなったという声もあるが、実は昔からあんまり治安が良い街ではない。オタク狩りやパチ屋の換金所狩りが出る街とされ、オタクやギャンブラーは警戒して歩いてたという歴史もあった。


「俺の世代だとオタクって割と普通の存在みたいな感じになってたけど、もっと前はどんだけ迫害しても構わない存在みたいに言われてたらしい」


「えっ、そこまで酷かったんですかっ!?」


「高校生とかでアニメ見てるって知られたら、翌日には学校中に広まって馬鹿にされたなんて人の話もあるんだよ」


 オタクという言葉はかつては蔑称以外の何物でもなかったが、現代では昔より遥かに一般化した言葉になってる。


 自分はアニメオタクだと公言するスポーツ選手や芸能人も多いし、大ヒットしたアニメなどはオタクではない人も見てる事が多くなってきた。


 昔はオタク=気持ち悪いというのが当たり前であり、当時のオタク趣味愛好家たちは陰に潜んで己が求める作品を探したり、創作したりする勢力が多かったらしい。


 それが今や迫害してた側の者達もアニメを見たりしており、元から線引きが曖昧だった『オタク』という言葉の意味が大きく変わった。


 アニメを見てればオタクと言えるのか、Vtuberが好きならオタクと言えるのか、どのくらいの知識の幅と深さがあればオタクなのか、今は昔より分かりにくくなってる。


「日本サブカルの海外人気もあってオタクの地位の向上も出来たけど、逆に隠れて楽しむ良さを知らないのは勿体ないって言う人も居たりするらしいぞ」


「隠れて楽しむですか…そういうのもあるんですね」


 昔から『酒とタバコは隠れてやるのが一番美味い』なんて言ったりするそうだが、それに繋がるものがある気がする。


 秋葉原の街でマイナーな漫画を探し、誰かが同じ物を買って行った時の『仲間だ!』という妙な満足感。


 欲しい物を探して歩き回り、普段は行かない店でようやく目当ての品を見つけて購入できた時の幸福感。


 普段はヤンキーぶってる男子が、クラスでは1軍の女子が、オタク街に来て好きな作品を購入するという何とも言えない背徳感。


 オタク趣味は無かったのに可愛いキャラに一目惚れして漫画を買ったら、そのキャラは実は男だったという大ショック。 


 そういった感情が幾つも生まれては多くの人の思い出となっていった街であり、きっとそういった事は今でも溢れてる街なのだろう。時代が変わっても人に感情がある事は変わらないのだから。


「ネットが発達してるからそういうのは少なくなってるんだろうな、現代はオタクっていう存在は何処にでも居るのに、何処にも居ないって感じかもだよ」


「居るけど居ない、何だか不思議な感じがしますねっ」


 今の時代は隠すべきものは裏アカとかに移り変わってそうだ、時代によっても隠すべきものは変わってくるんだと思う。


「ハイカワっ、大人のデパートっていうお店があるよっ、入ってみたいなっ!」


 「「そこはダメ!」」


「あははっ! そのお店はエッチな本とか売ってるお店だよっ、アーちゃんエッチさんだ~! あはははっ!」


 サブカルチャーにはエロ、グロ、ナンセンスが付き物だ。もちろんそういう場所には2人はまだ早いし、史菜だってまだ年齢的に入れないのでストップだ。


 言葉を濁そうかと思ったが佳那美は少し知ってたのでバレてしまった、まあ仕方ないだろう。どんな物が売られてるのかは知らないのだから問題ない。


 無邪気にエッチだとか言って笑えるのも子供の特権だ、誰しもこういう時間があった物だろう。


 目に見える物や聞こえるものを全力で物事を楽しむ子供、その在り方は全力で作品を楽しんだり、全力で誰かを推したりするオタクというものと、何処か通じる部分がある気がする。


 SFオタクに端を発すると言われるオタク趣味、今ではアニメオタク、特撮オタク、Vtuberオタク、鉄道オタク、ドルオタ、ゲーオタ、BLオタ女子、果てには健康オタクや格闘技オタクなんて種別もあるようだ。数を上げたらキリがない。


 もしかしたらオタクとは『何かを楽しむ心を忘れない人』という存在なのかもしれない。


 灰川はそんな事を考えつつ、俺はオカルトオタクなんだろうな~、なんて思ったりしてみたり。


「このお店って前に来た事あるっ! いっぱい漫画とかフィギュアがあってスゴいんだよアーちゃん!」


「そうなのっ!? ハイカワっ、ここに入ってみたいなっ! 良いよね!」


「ゲーマッチョかぁ、昔からあるショップで有名な店だな」


「前に市乃ちゃんと買い物に来ました、あの時は市乃ちゃんがクジ引きでお金を使い過ぎちゃってましたね、ふふふっ」


 秋葉原は言わずと知れたオタク産業を代表する街、移り変わったとはいえ街としての勢いは変わらない。


 そんな街で今まで大衆的サブカルチャーというものに触れて来なかったアリエルと、アニメも漫画も好きな佳那美を連れてショップに入店するのだった。


 

 アニメの街、秋葉原にも怪談の類は以前から存在してる。


 アキバメイドの幽霊の話とか、神田川に掛かる橋の下の用途不明の立ち入り禁止空間に幽霊が居る話、アキバ近くの紅梅坂という所の近くには幽霊坂なんて呼ばれる場所もある。


 だが一部の霊能者やディープなオカルトオタクには知られる都市伝説もあったりする場所だ。


 全国に数か所存在する『処刑マンホール』と呼ばれる物の一つが秋葉原にあると言われてる。


 時計マニア垂涎の品が揃ってるが、その店は本当は存在せず、もしそこから時計を買ってしまったら酷い目に遭うという『絶望時計館』。


 見た目は普通のアニメショップだけど、特別な常連になると裏ショップという所に案内されるという噂の『裏アニメショップ』。


 そんな隠れたオカルトの話がまことしやかに囁かれる街であり、オカルトを含めたサブカルチャー全般の魅力的な街でもある。

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