261話 天家一門と挨拶
土曜日の午前、今日は番組収録で帯同という形でOBTテレビに来ていた。
市乃や空羽たち出演者はスタジオで収録しており、佳那美とアリエルは収録見学をしている。
「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子~~……」
一方で灰川は西B区画の0番スタジオに一人で来て浄霊に当たってる。
今日は富川Pは別の仕事でテレビ局には来ておらず、単独でのオカルト仕事だ。地下なので相変わらず暗いのだが、今は電気を通してもらってるため少しは照明が使える。
この場所の存在は吸血鬼事件の時にアリエルに聖剣を向けられた場所でもあり、自分も手伝うと言っていたが見学を優先するように言ってある。
今は以前より浄化が大分進んでおり、今回も特に問題なく念仏供養や線香などを焚いて霊的な浄化を進めている。悪念なども前よりは溜まりにくくなってる環境だ。
「このくらいにしておくか、思ってたより順調だし、良い感じだ」
本来なら何十名という霊能者を集めて数十年がかりという浄霊を一人で数か月でやれてしまう、灰川は霊能力は相変わらず凄いし前より磨きが掛かってる。
ここ数か月は皆と出会って様々な経験をして灰川も成長しており、その成果は霊能力の使い方の方面で出てる感じだ。配信には全く出てない。
西B区画からOBTテレビの本局内に戻り、スタジオの方に向かう途中でハッピーリレーの花田社長に会った。
「灰川君、そちらの用事は済んだかね。私は詳細は知らないが、厄介な仕事なのだろう?」
「まだ途中ですけど順調ですよ、収録の方は順調ですか?」
「こっちも順調だな、特に今日はエリス君の調子が良くて、思った以上に良い画が撮れてるのだよ」
花田社長は0番スタジオの事を知らないと言うが、実際には噂程度には知ってるらしい。メディア業界に居た人だからそういう話も入って来てるそうだ。
しかし灰川の0番スタジオの仕事は秘密であり、その事を鑑みて知らない体を取っている。
収録も順調でナツハとれもんは変わらず良い仕事をしてくれて、司会を務めてくれるドラグンガールズの人達とも良好な関係を築けてる。
エリスは昨日に気分転換も出来たからか調子が良いらしく、ミナミもそれに釣られて調子がいつもより良いらしい。
「灰川君、おかげさまで番組制作も収録も順調だ。ネットでの話題も高まってるし、世間での認知度も上がりつつある」
「全国ネットのテレビ番組ですもんね、やっぱネットとは別格の広報力があるんですね」
新番組は若者を中心に話題となっており、それに伴ってファンも増える兆候が見え始めてる。
しかしテレビ番組という高度に編集された作品ともいえる物と、配信という無編集の生放送が基本の媒体とは視聴感に違いがあるだろう。
そのエンターテインメント的な齟齬をどのように埋め合わせるのかは課題だ、配信と番組では大きな違いがある。
「そこら辺は早めに考えないとですね、テレビ仕事を増やせば金は相当に入って来るでしょうけど」
「そうだな、太いグループや企業の関心を買いやすくなるし、CM仕事のような大きな収入になる仕事も取りやすくなる」
テレビ出演は大物芸能人ならギャラは1時間番組で100万円とか300万円らしく、知名度がそこまで高くない芸能人でも20万円くらいはもらえるらしい。
それがもし毎日やる平日昼間のような番組だったら週5回×何十万円と、かなりの収入になるから芸能人はレギュラー番組を欲しがるという訳だ。
もちろんテレビ番組に出て知名度は上がるだろうし、金銭以外の副次的なメリットも非常に大きいから芸能人はテレビ出演を狙う。
「ちょっと下世話な話になりますけど、市乃たちの取り分ってどのくらいなんですか?」
「取り分は変動制になってるんだが、基本的には事務所が6割で演者4割という形にしてる。これは業界では普通の形なんだ」
ハッピーリレーは6・4の割合だがシャイニングゲートは7・3らしい、これにはサポート力や営業力の違いがあるためだ。
それでも出演料はやはりシャイニングゲート所属者の方が高く、三ツ橋エリスと北川ミナミは自由鷹ナツハと比べると半額くらいの出演料らしい。
花田社長は口にはしなかったが、灰川の見立てではナツハは一回の出演料は100万円を超えるくらいだと思う。
それを事務所と分ける形になるから取り分は30万円前後、金額で見たら大金が動く業界としては少なく感じるが、今までテレビに出た経験がゼロと言っても良い者達にこの待遇は破格である。
そもそも番組はシャイニングゲートとハッピーリレーが制作に大きく関わっており、元からそんなに実入りの良い仕事ではないことは承知の上でやってる。むしろ知名度アップやファン増加などの副次効果がメインみたいなものだ。
それに最初から大きな出演料を取ると業界内で『アイツら何なんだよ!』みたいな目で見られる危険性もある。
new Age stardomは有力スポンサーも付いてるし、番組が当たって平均視聴率を高い位置で保てればギャラも上がるだろう。
「他局の仕事やイベント仕事も視野に入れてる。飼い殺しにされずに動けるのは灰川君のおかげだ」
「飼い殺しとかって本当にあるんですか…? なんか怖いっすね…」
「テレビ局やスポンサーから飼い殺される事もあるし、金の問題に性の問題に権力の問題、ヤクザ問題にスキャンダルにハニートラップ、その他様々目白押しの世界だぞ灰川君」
「うへぇ~…嫌になりますねぇ…」
当たれば凄まじく大きい稼ぎが得られる世界、だが裏は人間の欲望と権力と嫉妬、黒い影が蠢く魑魅魍魎の世界だ。
金が集まる所には様々な裏が集まる、それは避けようのない事なのだろう。人気商売とは太古の昔から大きな金を産んで来た、現代でもそれは変わらない。
それ故に生き残るのも難しい世界であり、名を上げて有名になれるのは1%とか2%という世界だ。千両役者なんて呼ばれるような人には滅多になれない。
ほとんどの人は一度すら名を上げられず消えていくのが当たり前、テレビに毎日のように出る有名人はほんの一握り以下の存在という事だ。
「灰川君も既に気付いてると思うが、我々のような裏方は所属者や会社の名を上げつつ、守って行かなければならない」
「そうですね、名前が上がれば妙な奴が近付く確率は上がりますもんね」
エンターテインメント事務所の所属者とは看板であり商品であり大事な人材、通常の会社とは違った側面が多い。
自分の事なんて自分で守れるという所属者も居るが、実際には黒いモノが渦巻く業界でそれは簡単な事ではない。
目的のためなら手段を選ばない者も多いし、そういう奴が上に行ったりする世界だ。圧力、金、騙し、エサ撒き、脅し、弱みを作らせる工作、そういった事が今でもある世界だ。
「今まではそういった事とはあまり関りが無かったが、これからはどうなるか分からん。そういったものから身を守るためにも伝手や金が必要なんだ」
広いように見えて狭い世界、この業界はそんな場所なのだと花田社長は言う。
有名人同士は知り合い同士の人が多いし、有力者は他の有力者と繋がってる。そういったネットワークが裏も表もなく情報の共有に繋がり、時に互いを守り合う防御網になったりする。
その網は何も芸能人だけには留まらない、名前が売れて金を持つようになると資産家や企業とも深い仲になったりする。そういった人脈が力の源になったりするそうだ。
早い話が金と権力と伝手という話で、これはエンターテインメント業界に限らず人間の世界では昔から大きな力を発揮してきた物だ。
「灰川君には大きな後ろ盾があるとはいえ油断はしないでくれ、後ろ盾にバレないよう我々を潰そうとする勢力は必ず出て来るだろうからな」
「新人潰しとかライバル潰しですか…本当に油断できないっすね…」
フリーのパパラッチを張り付かせる、暴力団などの反社会的勢力を使ってライバルを排除、スキャンダル捏造、そういった手段で陥れる手段がある。
実際に大きな後ろ盾が居る人物でも罠に泣かされた人は多いらしく、警戒を怠った時こそが道の分かれ目になるそうだ。
所属者はそういった危険に晒される可能性があり、それらから守ったり注意喚起するのも事務所の勤め、そして守れる力を持つのも大事な勤めなのだ。
そのために金と権力と伝手が欲しい、裏切られず切り捨てられないくらいのパワー、それが無ければ必ず何処かで壁にぶち当たる。
灰川もアパートに盗聴器などを仕掛けられそうになった事があり、今は四楓院が注意を払って各所に示威圧力を掛けてくれている。それでも全てを防ぎきれるかは分からない。
バレなきゃ何やっても良い、そういう節理がまかり通る場所だ。
「現状ではハッピーリレーにもシャイニングゲートにもそこまで大きなパワーは無い、だからこそ灰川君の伝手が必要なのだよ」
「俺だっていつ愛想尽かされて見捨てられるか分かんないっすよ、自分が有能じゃない事は分かってるっすから」
灰川はビジネス面で凄い優秀という訳ではない、たまたま霊能力関係で良い縁があったというだけだ。
強い資産家との縁も偶然が重なったという考え方だし、灰川としてはとても過信できるような環境ではない。実際には四楓院は灰川に強く感謝してるから、切り捨てられる危険は無いだろう。
金が怖い、権力を持って精神が変わるのが怖い、ブラック企業経験から社会嫌悪の性格もある、これらの性質は少しづつ治ってるとはいえ今もある。
「灰川さーん、収録終わったよー」
「お疲れさまです灰川さん、今日も上手く行きました」
「お、収録完了か、お疲れさま皆さん」
仕事が終わって近くのスタジオから出て来た所属者やスタッフ達が楽屋に戻る、その道中に灰川と花田社長に挨拶していった。
「空羽と来苑は個室楽屋だったよな、市乃と史菜もか」
「うん、でも私は史菜の楽屋に行ってるよー、1人だと台本確認とか不安だし」
「今日は4回目の収録だから出演者の数も落ち着いてるし、大部屋楽屋も広く使えてるよ」
空羽と来苑も大部屋に行って他の所属者との交流などもしたようで、今日はコミュニケーション面でも良い空気が作れたらしい。
その後は帰る準備をしてからスタッフの人達に礼と次回もよろしくお願いしますと挨拶周りをして、OBTテレビを後にする事となった。
2社の者達はスタッフの人達に必ず挨拶をしており、現場ではディレクターからADの人達に至るまで評判が良い。
撮影スタッフから嫌われれば仕事が円滑に進まないし、2社の人間は嫌な奴だと業界で広まってしまうだろう。
そもそも人から嫌われて良い事なんか少ない、良い仕事をするためにも良好な人間関係は大切だ。
自由と非常識を履き違えるようになったらエンターテイナーとは呼べなくなる、大きな顔をすれば必ずしっぺ返しが来るものだ。
「機材が多いっすね、このPCはボックスカーに積んで良いですか?」
「悪いね灰川さん、この後にスタジオに機材を運ばなきゃいけなくてさ、載せ替えもあるから面倒だね」
「事務所に帰る人はRV車に乗って下さい、ナツハさんとれもんさんは歌の打ち合わせがあるんで~~……」
「渡辺社長、ディレクターさんからウチのVの小路ちゃんはどうしても呼べないかって聞かれましたよ」
「私も荷物積むの手伝いますよー、コレってシャイゲさんの荷物ですか?」
テレビ局の地下駐車場でアレコレとやって作業する、ここで荷物を整えて次の仕事に向かう者達も多いようだ。
今日は空羽と来苑は忙しくて灰川は一言二言くらい挨拶した程度だ、あんまり外で仲良くしてる感じは見せるべきではないし、仕事面では適度なビジネス的距離感というものを大事にしてる。
そうこうしてると2社の一団に近付いて来る6名ほどの着物姿の男性グループが見えた、年齢は40歳くらいが3人と20代半ばが3人で、男が5人と若い女性が1人という一団だ。
それを察してシャイニングゲートのマネージャーが前に出て、用があるなら最初に話し掛けられる形を取った。
マネージャーが3人と何やら話をしてから灰川の方に来た。
「灰川さん、落語家の天家一門の方達が灰川先生に挨拶したいって言ってますよ…?」
「天家一門…? あ……っ」
「落語家ではありますけどマルチタレントの3代目天家両有、俳優業務がメインになってる天家清紺、そして次期天家冬椿を襲名する可能性が一番高い天家九算ですよっ…!」
「すいません、ちょっと行ってきますんで荷物お願いしますっ…!」
落語家の天家一門、その屋号には覚えがあった。以前に四楓院家の依頼でオカルト解決に当たった時に関わった名前なのだ。
その時は天家冬椿のライバルとも言える鈴湯亭黒治から依頼を受けており、直接に天家一門の人に会った事は無い。
天家も鈴湯亭も古典芸能の落語の一門であり、弟子、孫弟子などまで含めると結構な数の一門になる。
弟子の中には芸能界で様々な活動をしてる人も居て、学んで来た知識や話し方を活かしてコメンテーターとして活躍してる人、俳優として活躍してる人なんかも居る。
「ど、どうもっ! 灰川です! この度はどうも!」
慌てながら挨拶をしに行く、灰川は落語家の世界が恐ろしく厳しいものだと後から聞かされ、かなり腰が引けてしまった。
一応は四楓院の紹介の仕事だったし、お祓いも上手く行って解決した。しかし芸能界というような世界では完全に超格下の存在、ここは下手に出るのが得策だと思って駆け足で挨拶に行ったのだった。
「灰川先生でしょうか? 以前に鈴湯亭黒治師匠のご紹介で冬椿師匠をお助け頂いたようで」
「ハッピーリレーと灰川という名前が聞こえて来たので、こんな所で不躾ですが、ご挨拶をと思いまして」
「冬椿師匠の弟子の天家両有です、初めまして灰川師匠」
「いやいやっ! 先生とか、ましてや師匠なんて身分じゃありませんっ、こちらこそ依頼終了後にご挨拶にも行かず~~……」
恐れ多い感じで挨拶をして、波風を立てないようにしようと思っていたが。
「「「あの節はお世話になりましたっ!!」」」
3人が灰川に向かって深く頭を下げ、響き渡るような声で礼を述べたのだ。
「おかげさまで師匠は先日に無事に退院出来ました! ありがとうございます!」
「灰川さんがご協力下さらなかったら、師匠は今でもあのままだったかもしれません! 何とお礼を言って良いのかっ!」
「金も取らない、恩に着せない、話も広めない、3拍子揃った良い若者だって聞き及んでますよ」
あの一件は最初は天家一門から消えた失伝演目に関する怪現象かと思ってたが、実際には文部科学部門省に関する現象が原因だという、あまりスペクタクル性は無いオチが付いた依頼だった。
しかしあの裏では実は相当な騒ぎがあったらしく、天家一門はもう終わりかも知れないという騒ぎになっていた。
大黒柱の冬椿師匠が頭がおかしくなって倒れ、一番弟子は落語家の中では凄く上手いが冬椿師匠には遠く及ばない、少なくとも冬椿の屋号を襲名できる実力の者は居ないから天家一門は窮地に立たされてたそうだ。
一門の真打の落語家もタレント活動をしてる者も多いが、やはり最大の屋号が居なくなれば打撃は凄まじく大きい。
一門の終わりは流石に言い過ぎだとは思うが、少なくとも屋台骨はズタズタになって、きっと天家の芸は変わってたと思われる。
「おい!お前ら! 大師匠の恩人の灰川先生の同僚の皆さんがお荷物積みしてんだろうが! ボサっと突っ立ってんじゃねぇ!手伝わせて頂け!」
「はい!師匠っ! お手伝いさせて頂きますっ、重い物は任せて下さい!」
「い、いえっ、悪いですって! 1流落語家さんたちのお弟子さんに荷物積みさせるだなんて!」
「我々の世界では師匠の言うことは絶対ですので、手伝わせて下さい、お願いします」
落語家の世界は非常に厳しい世界だ、師匠や兄弟子に逆らうことは許されない。超縦社会であり、横の繋がりも非常に大事な世界である。
しかし、この場面は師匠が弟子たちに『少しでも顔を広げておけ』という、そんなメッセージにも見えた。
灰川は後から調べて分かったが天家一門は凄く厳しく、鈴湯亭一門は業界の中ではマイルドな方だと分かった。出来る事なら鈴湯亭黒治師匠の弟子たちと居合わせたかったと思ってしまう。
市乃たちは顔を見られるのは好ましくないため、手伝いなどは止めてスタッフに車に乗せられてる。
「こんにちは、ハッピーリレー事務所の代表の花田と言います。あと清紺師匠、お久しぶりです」
「おおっ!花田さん!? 栄道制作さんを止めたって聞いてたけど、テレビ業界に来たのかい!?」
「初めまして、株式会社シャイニングゲート代表の渡辺です。まさか天家一門の方達にお会いできるとは」
「どうも、灰川先生にお世話になりましてね、偶然とはいえお会いしたものですから挨拶にと。シャイゲって自由鷹ナツハさんの事務所ですか!?」
何やら花田社長は知り合いが居たらしく、渡辺社長は灰川が困り気味な様子を見て援護しに来てくれた。
そこから少し話をするが、天家一門にあった出来事は秘密にするよう口裏を合わせ、双方とも黙ってる事にする。
「そうでしたか、灰川さんが何かを助けたという事なんですね。我々も灰川さんには大いに助けてもらってます」
「渡辺社長、そんな大それた事じゃないですって」
「いやいや、ウチの師匠も感謝してますよ。黒治師匠が依頼したら、その日の内に症状が和らいだって言ってたんですから」
「顔を合わせるのは初めてですが、師匠が入院してた時に少し電話で話しましたよね。あの時は何が何だか分かりませんでしたが」
後ろでスタッフの人達が作業してる間に礼を言われたり、今度に改めて師匠と一緒に礼をしたいと言われる。
弟子の恩は師匠の恩、師匠の恩は弟子の恩という、厳しいながらも人情のある一門のようだ。もっとも厳し過ぎて弟子が務まる人は限られるらしいが。
「花田さん、今はVtuberとかの事務所やってんのか。ネット界隈は大変だわな、どんな大きな話題でも一瞬で過去のものになっちまうもんな」
「そうなんですよね、苦労して準備した企画がコケて落ち込んだ時も何度もありますよ、清紺師匠」
「最近は落語をVtuberでやりたいって奴も落語界に出てきてますよ、伝統芸能をデジタルでやろうっていう話も出てきてますしね」
芸能だって時代によって大きく変わる、古典芸能家も今はネットを活用する時代だ。詳しくはないようだがVtuberなんかの媒体も知ってるらしい。
Vtuberという媒体は本来の意味での芸能を新たな媒体でやれる場として見る動きもあり、舞踊、歌舞伎、狂言、落語、講談など、少しづつ考えられ始めてるようだ。
もちろん全員が先鋭的な考えを持ってる訳ではないから反対する人も多いし、実行したとて芸能が持つ芸術性の全てが表現できる可能性は低い。
だが、新たな芸術的境地が開けるかもしれないし、現にスーパー歌舞伎という現代の人気漫画や有名キャラクターを使った歌舞伎や、3Dモデルを使った歌舞伎舞台が実際に演じられて人気を博してる。
それらをするには伝統芸能の高い技術と近代テクノロジーが必要だし、配信企業がやるには簡単な事では無いだろう。それでも界隈で少しづつ前向きには考えられて来てるらしい。
もしナツハなどの3Dモデルを使ってプロの芸能家を呼んで舞踊などをしてもらったら、なんだか面白そうな感じはする。
「ところで灰川さん、花田さんの会社に勤めてるんですか?」
「いえ、実は今は芸能事務所をやってまして、花田社長と渡辺社長とは凄く懇意にさせて頂いてると言いますか」
「えっ!? 芸能事務所!? 霊能力者っ……あ、いや、まさかそっち方面だと思ってませんで」
「事務所名は何て言うんですか? 所属してる人とかは」
事務所名は現状では『灰川コンサルティング事務所』で、芸能事務所としての名前はまだない事を明かした。
急遽に立ち上げて間もない事を説明して、所属者についても聞かれたので紹介できるタイミングだと思い、2人を呼んで挨拶を済ませたのだった。




