26話 ネタ配信は難しい?
配信にマリモーが来た!でも誰だか分からない。
『マリモー:ふん、なら誰だか当ててみなさい』
「マリモーさん、昨日俺と会って突っかかって来た子でしょ? 分かるよ、牛丼ちゃんあたりにこの配信聞いたんだろ」
『マリモー:正解よ! 超バズって色々と増えた、あの超話題のVtuberよ!』
「個人情報あんま出しちゃ駄目だぞ、今のコメント消しとくからね。あの後グッスリ寝れた?」
『マリモー:ぐっすりだった!』
灰川の配信にルールは無いが特定されそうなコメントは流石に駄目だ、人が来ないとはいえ念のために消しておく。マリモーがツバサというのはすぐに分かった、コメントが口調そのままだ。
『マリモー:これがメビウスの配信なのね、画面とかスッキリしすぎじゃない?』
「おいおい、そっちと比べてくれるな。俺は個人勢で金もセンスもねぇんだから、これが限界」
『マリモー:そう? メビウスなら良いの作れそうな感じするけど』
「なんかマリモーってネットだと少し変わるな、丁寧っぽい感じになるっていうか」
『マリモー:メビウスも配信だと少し変わってると思うけど』
コメントと実際の人物とでは色々違うのはよくある事だ、配信と普段とで立ち振る舞いが違うのもよくあること。
ツバサはネットだと実際にあった時の騒がしさが伝わらないため、少し大人しい印象になる。コメントだと個性というのは出しづらい物だ。
『青い夜;お疲れ様、灰川さん』
「青い夜さん来てくれたんだ! お疲れ様!」
『青い夜:今日は何の配信するの?』
「まだ決まってないんだよな~、何か良い感じの無い?」
『マリモー:ハウスクラフト3はどう!? 伝説のVtuberがバズったゲームよ!』
マリモーがハウスクラフト3を勧めて来るが却下だ、昨日の配信でプレイしたけど誰も来なかった。
ツバサはハウスクラフト3で一躍話題になったが、それは彼女の面白さのおかげであって灰川では生かせないだろう。
『青い夜:灰川さん、同じゲームを続けるのも大事だよ? 何度かやってると気になって見に来る人も居るんだから』
「それも分かってるつもりなんだけどさ、自分に向いたゲームじゃないと楽しく出来ないって言うか」
『マリモー:メビウスはバカね! 自分がしたいゲームじゃなくて、視聴者さんに楽しんでもらえるゲームをするのよ!』
青い夜とマリモーから手厳しい意見が入る、二人は視聴者の事をとても考えて配信するから、こういう部分は妥協しない。
視聴者に楽しんで貰えるゲームというのは難しい。クソゲーであっても面白く配信する人はいっぱい居るし、どんなゲームでも配信者のファンなら楽しんで見れるだろう。
この二人は視聴者を楽しませる事に重きを置いて配信するから、ゲーム選びも慎重にする。エリスも一見すると同じに見えるが、あちらは『どんなゲームでも面白い配信をする』に主眼を置いてる節がある。
「でもなー、俺には肝心の視聴者が居ないからよぉ」
『『ごめん』』
真の底辺配信者の元にどうやったら人が来るのか、青い夜ことナンバー1Vtuberの自由鷹ナツハであっても分からない。同じゲームを続けてても灰川の元に視聴者が居付いた事が無いのだ。
『牛丼ちゃん:お、やってるねー』
『南山:こんばんは、灰川さん。今日も楽しく視聴させて頂きます』
「牛丼ちゃん、南山さん、来てくれてありがとう。今日は何するか決まって無いよ」
『コロン:こんばんわ~』
「コロンさんも来た! 灰川チャンネルがフルメンバーだ」
5人の視聴者が来た、そのメンバーが凄い。全員が差はあれど有名Vtuber、コロンこと佳那美だけはデビュー前だが小学4年生にして企業Vtuberとしてデビューが決まってる。
『牛丼ちゃん:マリモーちゃん来たんだね、これで灰川配信仲間だねー』
『南山:これからも仲良くしようね、マリモーさん』
『マリモー:そうね! 負けないわよ!』
何に負けないんだか知らないが、あの件でツバサはエリスとミナミとの距離がグっと縮まったようだ。
「とりあえず何すっかな~、FPSって気分じゃないしな~」
FPSをやっても良いのだが、あの手のゲームには大概が年齢制限がある。佳那美とツバサが見に来てる状態ではプレイは憚られる。
『牛丼ちゃん:ネタ配信で良いんじゃない? 灰川さん面白いこと言えそうだし』
『南山:灰川さんのネタ配信! ぜひ後学のために見せて頂きたいです!』
『コロン:見たい!』
ネタ配信に票が集まる、結局全員がネタ配信を希望したので、成り行きで決まってしまった。
「じゃあネタ配信するぞっ! みんな準備は良いか!」
『牛丼ちゃん:良いよ~』
『南山:はい!』
『コロン:うん!』
『青い夜:どんな感じになるんだろ』
『マリモー:アタシを笑わせなさい!』
灰川は探索メインRPGを起動してネタ配信に挑む、気合を入れて笑いを取りに行こう!……と頑張ったのだが…。
「……俺って面白くねぇのかな?」
『牛丼ちゃん:元気出して灰川さん! 悪くはなかったよ!』
『南山:私は灰川さんのお声が聞けるだけで満足でした♪』
『コロン:思ったより笑えなかったかも』
『青い夜:ネタ配信に慣れてない感じ出てたね』
『マリモー:アタシの方が面白い配信できたわ!』
結果は散々だった、自分でも滑ってる事が分かったし、何か面白い事を言おうと意識すると逆に何も出て来ない。
致命的だったのは灰川が配信における『コメントのラグ』を意識して無かった事だ、何かを言ってもコメントで反応が来るのに遅れが生じて心を乱される。普通の会話をしてる訳じゃないから、そこは最初から考慮に入れておかないといけない。
人が来る配信に慣れてない、コメントが来ることにまだ慣れてない、その結果が今回の敗北に繋がった。
そもそもネタ配信は事前に面白い事を考えて、それを配信中にタイミングを見て言って笑いを取る人だって居る、そのくらい難しい物だ。灰川にはまだ早かった。
『青い夜:ネタ配信って難しいよね、ウチではお笑い配信って呼んでるけど、笑いを取れると思ったネタで全然ウケなかったり』
自由鷹ナツハのコメントに一同が同意した、こんな人気tuberですらネタ配信という物は難しいらしい。
コメントのラグや多少の滑りはそのうち慣れるし、用意ネタも段々と洗練されていくらしい。だが本格的に滑った時や実力が出せない精神状態の時は、何をしたら良いのか今でも分からないそうだ。
結局は視聴者のコメントで秀逸なものを拾って笑いに変えたり、コメント欄に励ましの言葉がマシンガンのように打ち込まれて、それが笑いに変わったり等して場を凌ぐとのこと。
つまり視聴者頼りの事でしか乗り越えられない、それが続くと「また同じ流れか…」と飽きられるし、会社からも小言を言われるらしい。そういう所は例えナンバー1であっても変わらないそうだ。
『南山:私もネタ配信は苦手です、エリスちゃんのように笑いが取れなくて、配信前はいつも緊張してます』
ミナミは性格的に積極的に笑いを取りに行く性格ではなく、ネタ配信は用意ネタとコメント拾いで乗り切る事が多いらしい。しかも用意するネタは会社の人に考えて貰う時まであるそうだ。
『牛丼ちゃん:私は得意! でも配信の初めの方が問題かな、エンジン温まってないと難しいっていうか』
三ツ橋エリスはスロースターター、これはファンの間でも言われてる事らしく、エリス自身も自覚がある。
熱くなってくると笑いをバンバン取れるが、最初の方が滑ったり思うように笑いが取れず難儀する。
『マリモー:アタシは得意よ、笑いの神はアタシの味方ね』
『コロン:わたしは練習中だけど、会社の人にはまだまだって言われるよ~!』
ツバサはネタ配信は好きで楽しくやれるそうだが、喋りが止まったりするから笑いに持っていくための場の流れを作る事に気を注がなければならない。本人が気付いてるかどうかは微妙だ。
佳那美は自身がよく笑うタイプだから笑いを取るための流れは作れるだろう、しかし小学4年生という年齢で大人たちの笑いを取れるかは未知数だ。まずは数をこなすことが一番だろう。
「俺の問題は何なのかな、やっぱ面白過ぎて一周回って面白くなくなっちゃってるのが問題か?」
『牛丼ちゃん:自意識過剰だよ! さっきのゲームで武器強化失敗した時に`うわ~`の一言で済ませた時は正気を疑ったよ!』
灰川のネタ配信は問題が無い場所が無いというくらい酷い、笑いを取る以前の問題だ。
「まぁ良いか! 何度かやりゃ慣れるだろ!」
『牛丼ちゃん:その気楽なとこ見習わなきゃなー』
『南山:そうです! その意気です!』
こんな感じで今日の配信は終わり解散となった、灰川は配信は切ったがパソコンで動画を見たり調べ物をしたりして時間を潰す。
彼も自分の配信を面白くするために色々と学ぼうとしてるが、どれも空回り気味だ。
そろそろ寝るかなと思い布団を敷く、ここから布団の中でスマホを触る時間だ。まさにネット漬けの現代人である。
明日は仕事は無いのでゆっくりと配信でもするかと思ってると、スマホにSNSメッセージが届いた。差出人は市乃で、メッセージの内容は。
『市乃:明日デートしようよー』
と書かれていた。




