244話 特別キャンプ地に当選!?
土曜日の午前11時頃、澄風空羽こと自由鷹ナツハは雑談配信をして視聴者を楽しませていた。
明後日に自分たちが出演する新番組のnew Age stardomが始まるとか、ほぼシャイニングゲートが制作してると言っても良い雑誌のV STYLEに新情報が載るとか、宣伝告知しながら今日も面白おかしく配信してる。
その中で今日は元から予定していた内容があり、それはシャイニングゲート事務所がある渋谷でキャンプするイベントの中継配信の同時視聴だ。
「そういえば今日って、渋谷でキャンプするイベントの当日なんだよね。渋谷でキャンプって凄いよね、ふふっ」
コメント:あー、あれか
コメント:渋谷で?マジ?
コメント:ナっちゃんも参加して配信して!
コメント:your-tuberも何人も参加するっぽい
コメント:ナツハちゃんの声最高!!!
今日もコメントが滝のように流れてくがナツハは自室で普段通りに配信する、今日も予測通りに視聴者の人達を楽しませられてる事に満足だ。
普段から欠かさないボイストレーニングや様々なネタ仕入れが配信で生きている、今日のトレンド話題のイベントに触れるのも欠かさない。
タウンキャンプ in 渋谷はテレビでニュースにも取り上げられてるし、キャンプ好き界隈以外でも巷の話題に上ってるのだ。こういう所に触れれば無難かつ話もしやすい。
「イベント会場の中継やってるねっ、ちょっと見てみようかな」
コメント:参加者っぽい人以外にも見物客とかも結構居るな
コメント:うげぇ~、人多過ぎ!
コメント:行きたかったけど抽選漏れた
コメント:こんなイベントあるんだ
コメント:小路ちゃんとまたコラボして!!
「すごいな~! 本当にスクランブル交差点が通行止めになってる! しかもキャンプ場みたいな地面になってるねっ」
予想通りに視聴者も同じ中継画面を開いて見物し、面白そうな映像を見てしれぞれの反応をコメントに書き込んでる。同時視聴者数も減ってないし良い手応えだ。
イベントの中継を見て視聴者に感情豊かにリアクションを見せ、視聴者もテレビでよく見る都会の交差点がキャンプ場のようになってる光景に驚くが。
「ふふっ、こういう特別感のあるイベントって良いよねっ、私も……んん?」
配信前に決めていた流れで都会キャンプの中継を見ていたが、ここでナツハに予想外の事態が発生した。
『こんにちは、タウンキャンプ in 渋谷の参加者の方ですよね? 抽選に受かって嬉しいですか? やはりキャンプはお好きなんですか?』
『は、はい、もちろんですよ! へへへ……』
『手に持たれてる一斗缶は何かにお使いになるんでしょうか?』
『えっ!? あ、いや! こ、この一斗缶はイザという時のための消火用の水を入れとこうかな~…なんて…?』
『なるほど! まさか渋谷キャンプで一斗缶を焚火とかに使う訳ないですもんね! はははっ』
『そ、そ、そんな事するわけ無いじゃないですかぁ~! や、や、やだなぁ~! あははっ!』
なんなよく知ってる男性が一斗缶を脇に抱えて、スクランブル交差点に特設されたキャンプ会場でインタビューを受けてる。
このイベントに参加するなんて聞いてない、自分たちに言うような筋合いも無いかもしれないが、言って欲しかったなとかナツハは思う。
しかし何か様子が変だ、額に汗が浮かんでるし挙動がおかしい。そもそもキャンプが好きなんて聞いた事が無かったし、キャンプとか陽キャのバーベキューとかのイベントは好きじゃないって聞いた気がする。
「凄いね! ここでキャンプするんだね! どんな感じになるんだろうねっ」
コメント:渋谷のど真ん中でキャンプか
コメント:面白そうだよね、キャンプ興味ないけど
コメント:ナツハ最高!かわいい!
コメント:!(^^)!(≧▽≦)
コメント:ビルの屋上は抽選で一組なのか、スゲェ
「あっ、今から抽選イベントが始まるみたいだよ、特別な場所を独占できる権利の争奪戦みたいだね、ふふっ」
中継動画では、今から50階建てのビルの渋谷クロススクウェア屋上展望台で、独占キャンプが可能になる権利を賭けたジャンケン大会が始まろうとしていた。
ナツハは何も言ってくれなかった灰川に少しイラっとしたり、まさかテレビ放送までされてる中継で灰川を見て面白くなったりしてる。もちろん配信での感情には出さない。
しかし中継は終わってしまったので話はそこまでになり、視聴者に向けての雑談に戻るのだった。
スクランブル交差点に設けられた特設キャンプ場で灰川は焦ってた、理由は午後3時くらいまでに最低でも3人を追加で集めないといけない事だ。
しかもキャンプ用品なんて持ってないし、必須のテントすら持ってないのだ。持ってるのは道の途中でもらった一斗缶だけである。
「灰川さん、どうする? テントとか買って来ます?」
「レンタルとか無しだもんなぁ…周りはみんな立派そうなテントっぽいし…、しかも朋絵さんも居るから最低でも2つのテントが欲しいよな…」
さっきはインタビューでキャンプが好きとか言ってしまったが、実際にはキャンプには興味がない。なんでわざわざ外で寝なきゃいけないんだとか思ってしまう。
周りはとても楽しそうにしてるし、テントなどの設営はまだ始まってないが凄いのを用意してる事は想像に難くない。
ここで一人だけテント無しの一斗缶で焚火とかしたら顰蹙を買うに決まってる、かと言ってキャンセルしたら凄い金が掛かる。
誰かを呼んで参加してもらうにしても誰か来れる人は居るのか、参加料は1人に着き3万円と高めの値段である。この金額設定は冷やかし防止の狙いもあるのだろう。
一応は灰川は最近の収入は上がったため、ある程度は支払える。それでも払いたくない額のキャンセル料だ。
「皆さーん! 今からクロススクウェア屋上の独占キャンプの権利を賭けたジャンケンをしまーす! お集まりくださーい!」
「おっしゃあ! 絶対にヒノックス・キャンパーズChが勝つぞ!」
「50階のビルの屋上を独占してキャンプ…負けられん!」
「こんなに熱の入るジャンケンってそうそう無いよな、勝つぞぉ!!」
全員参加のジャンケン大会が始まる、勝利者は渋谷どころか東京を見渡せる高度のビルの屋上でのキャンプ権利だ。そんな所でキャンプする事など金輪際は不可能だろう。
その特別過ぎる経験を手にするために参加者が色めき立って緊張が走るが、灰川は別の部分で緊張してる。
どうやって人を集めようとか考えながら朋絵に押し出されてグループ代表として参戦する。他の参加者を見るとyour-tuber風の奴とかキャンプガチ勢とか、そういう人ばかりが集まってるように感じられた。
「じゃ~んけ~ん、ぽん!!」
最初は3人一組でジャンケンをして、勝者が次のジャンケンをしてみたいな感じで進行していった。
負けた者からは本気で悔しがる声とか、笑って「負けちゃったぁ!」とか言ってるけど拳を握って悔しさに耐えてるような姿が見える。
そして最後の一人が残り、勝者となったのは。
「おめでとうございます! 渋谷クロススクウェア屋上のキャンプを手にしたのは、こちらの参加者様です!」
「ははは…いや~…」
勝ったのは灰川だった、こんな時にだけジャンケン運が良いというのは運が悪いという事なのか。
これに勝った事によって一時的に注目を集めるが、所詮は無名であるから視線はすぐに外される。この屋上キャンプ権利は不正防止のため譲渡は出来ず、本人グループと招待客しか使用不可だ。
しかし逆に言えば人目に付かずに参加できるのだから、やはり運が良いと言うべきなのだろう。
「灰川さん凄いじゃん! まさか勝つって思ってなかったし!」
「勝った所で状況は変わんないよ…どうすっかな…」
灰川は既に方々にSNSメッセージや電話をしてるのだが、忙しい人だったり寝てたりする人、配信中などの理由で誰にも連絡が付いてない。
「凄い場所でキャンプ出来んのは良いけどさぁ…テントとかどーするよ朋絵さん…」
「私はテントとか持ってないんで、何処かで買うしかないですけど……ショボイのだったら運営から白い目で見られそうかもですね…」
連絡出来る所には連絡した、SNSメッセージで渋谷キャンプに当選したから参加お願い!みたいなの送っておいた。
だけどテントも無いしアウトドアグッズも無い、どうしようか迷いながら灰川と朋絵はスタッフに連れられ、渋谷クロススクウェアの屋上の特設キャンプ場所に向かうのだった。
渋谷クロススクウェア、ここは商業施設や会社オフィスのテナントが入ってる総合ビルだ。地下3階から25階まではファッションや雑貨を初めとした様々な商業施設が入り、26階から45階までオフィス、それ以上は展望施設とかが入ってる感じである。
「すっごーい!本当に貸し切りじゃん! 眺めスゴい!」
「ではお客様、14時までに5名以上の方が揃わなかった場合はキャンセル料のお支払いという事で」
「だ、大丈夫ですって! 来ますからホント!」
焦る灰川を放っておいて朋絵ははしゃぎだす。それもその筈で、普通だったら観光客でいっぱいの地上250mくらいある展望台が貸し切り、これは興奮するという物だ。
中央には普段は緊急時のためにヘリが着陸できるヘリポートがあるが、今は特例でポートには芝生マットが敷かれてテントなどが使えるようになってる。
ヘリポート部分以外でも芝マットを敷けばバーベキューとかテントを使って良いらしい。
展望台の床部分はウッド材で温かみのある環境、四方はしっかりと強化ガラスなどで囲まれて安全性も確保されてる。風はあるがガラスのおかげで意外と守られるから、突風でも吹かない限りは寒さなんかも大丈夫そうだ。
「はぁ…どうすっかなマジで…」
そんな声が漏れた瞬間にスマホにメッセージが入る、それはキャンプの招待メッセージを送った者から『今向かってる』とい文章だった。
14時前になって展望デッキには数人の人物が集まった。参加費を払うと言ってくれてるし、この人数ならキャンセル料は発生しない。
「キャンプのイベントに応募してるなんて知らなかったな灰川さん、言ってくれたら良かったのに」
「灰川さん渋谷キャンプに受かってたって聞いて無いよー! 昨日に言ってよー!」
「悪いって市乃、実は事情があってさ」
「こんにちは、灰川さんの事務所に所属する事になった朋絵です」
言わなかった事情とかを市乃と空羽に説明しつつ、朋絵の紹介などもしていく。これで4人であり最低人数には1人足りない計算だが、実はもう一人がこの場に来てる。
「うぉ兄ちゃん! やっと東京に来れたって思ったら、なんだこれぇ~!」
「砂遊、連絡もナシに来たお前が悪い。今日はキャンプだ」
「こんなトコをキャンプ地にするバカがあるか~! ちくしょお~!」
なんと砂遊が東京への転校手続きとか終わらせて上京してきた、しかも引っ越し先は馬路矢場アパートであり、荷物とかも運び込んでるらしい。
まさかの連絡なしであり、両親は息子が知ってる物だと思って連絡せず、砂遊は両親が連絡したと思って連絡して無かったという感じだ。
「あとお兄ちゃん、猫どもも明日に到着するぞ~、にゃー子も来るよ」
「にゃー子達も!? おいおい…そういや馬路矢場アパートはペット可なんだったな…」
砂遊はぶりっつ&ばすたー時代に割と稼いでたようで、金銭に関しては今の所は問題ないらしい。両親としてもイザとなったら誠治が居るから大丈夫だと判断したようだ。
中学3年生で完全な一人暮らしは少し不安だが、近くに兄が居るから一応は問題ないだろう。灰川家の両親は稼げる算段があれば中学生でも一人暮らしさせても良いと思ったらしい。
「灰川さんの妹ちゃん!? しかもにゃー子ちゃん達も来るってことは、オモチとかもなのっ!?」
「こんにちはぁ~、灰川砂遊ですよぉ。お姉さん美人さんですね~、うししっ! オモチのこと知ってるんですね、着いて来てますよぉ~」
「よろしくね砂遊ちゃん、私は神坂市乃だよ。ギドラも居るのっ?」
「初めまして、ギドラも来ますよぉ~」
どうやらマフ子とテブクロと福ポンも来てるらしく、市乃と空羽のテンションが上がる。
灰川家の猫たちはにゃー子の統率もあって手が掛からず、東京に連れてきても大丈夫だと灰川家は考え、猫たちも行きたいと感じてるとにゃー子が伝えて来たので連れてくる運びとなった。
明日にはペット引っ越し業者が連れて来るらしく、いきなりではあるがアパートに住む事になったのである。
「とりあえずは人員は確保できたし、後はテントとかどうすっかだよなぁ…何円くらいすんだろ…」
「灰川さん計画性なさすぎだよー、ここのモールにもアウトドアショップ入ってるから、そこで買うとか?」
「私が買おうか? カードもあるから大丈夫だと思うよ」
流石は視聴者が多いVtuber、多少の出費程度なら痛くも痒くもないらしい。
灰川としては女子や妹の手前、格好付けたい気持ちもあるがお金が今はそんなに無いので頼りたい気持ちになる。
「そういや誘ったのは俺だけどさ、皆は時間とか大丈夫なんか? 色々と忙しいんじゃないの?」
「私は大丈夫だよー、最近は配信が続いてたから会社から休めって言われてたしさー」
「私も取りあえずは大丈夫かな、さっき配信したし今日の予定は編集された動画の確認だったから外でも出来るしね」
市乃と空羽は都合は付いてるようで、朋絵と砂遊は特に緊急で済まさなければならない事は無いらしい。
後の心配は男が居る中でキャンプとか大丈夫なのかとも思ったが、1対1という環境でもないんだし、身元もハッキリしてるのだから大丈夫だと言ってくれた。何より信用してると言われ、そこが嬉しくなる。
「よっし!じゃあテント買いに行くかぁ!もちろん俺が払うぜ! あとバーベキューとかも出来るらしいし、セットとかも買って来ようぜ!」
「ええっ!? 灰川さんあんまりお金ないじゃん! ケチなBBQになったらイヤだから食材は私と空羽先輩で買うよ!」
「おっし!じゃあそっちは任せるぜ! 後は参加枠が埋まったからメッセージ送っとかなきゃな。解決しましたと打ち込んで~~……」
その時だった、メッセージを送った人が展望台に現れる。その人物たちは一括送信に含まれてた人達であり、予想外の事が起きてしまった。
灰川は色々あってスマホにメッセージが返って来てたりしたのを見逃していたようで、予想を超える人数が来てしまったのである。
「こんにちは灰川さん、お誘い頂きありがとうございますっ」
「誠治! ここでキャンプするって本当なのっ? スゴイわね、わははっ!」
「灰川さん、こんにちわだよ~、むふふ~」
「どうもです灰川さん、皆も来てるんすねっ!」
「おーす灰川さん! こんなトコでキャンプとかマジあり得ねぇって感じだなっ! はははっ」
「こんにちは、コバコちゃんが迷ってたから一緒に来ました」
「どうもー! シャルゥちゃんですよー! ここでキャンプってマジです!?」
「灰川さん、先日はありがとうございました」
「ハイカワ! SSP社の三梅さんに案内して連れて来てもらったよ!」
「こんにちわ灰川さんっ! レッスン終わったよ!」
「どうも灰川先生、一昨日ぶりですね~、にししっ」
まさかの勢揃い、現時点で灰川と仲の良かったり世話になった事があり、その上で連絡を受けた女性陣が揃ってしまったのだ。
灰川はボルボルや枝豆ボンバー、花田社長や渡辺社長にも連絡を入れたのだが、そっちからはまだ返って来てない。
現在の展望デッキには灰川からの招待メッセージが無ければ入れないのだが、ここに居る者達は全員が送られてる状態だ。
「ちょ…灰川さん、これ多過ぎじゃない…?」
「朋絵さん…こんなに来ると思ってなかったっての…! みんな忙しいだろうから下手すりゃ誰も来ないと思ってたんだって…!」
今日明日は来週からの書入れ時に備えて仕事をセーブしてる者が多く、そうでなくとも他の所属者と配信時間が過度に被らないよう、それぞれが調整した結果が今に繋がっていた。
ハッピーリレーは配信は自由にやって良いというスタイルだから、元から時間は取りやすい環境だ。シャイニングゲートは少し融通が利かないが大体は同じである。
いま地上50階展望デッキに特設されたキャンプ地に、灰川、砂遊、朋絵、市乃、史菜、由奈、空羽、桜、来苑、コバコ、桔梗、華符花、優子、アリエル、佳那美、早奈美という大所帯のメンバーが揃ってしまったのだった。
この人数でもキャンプは可能だそうだが……まさか全員が宿泊する訳がないと灰川は思う。
現在めっちゃ体調崩してます……




