237話 佳那美とアリエルの撮影見学
「明美原 佳那美ですっ、こんにちは!」
「アリエル・アーヴァスと言います、初めまして」
「こんにちは、OBTテレビの和藤というんだがね、灰川先生と一緒に居るという事は君たちはVtuberさんなのかい?」
佳那美とアリエルは和藤は挨拶を交わし、2人を見たOBTテレビ代表取締役社長のである和藤の目つきが少し変わる。
「えっと、私は少し前までVtuberをやっていましたが、今は役者さんとか歌手さんになれるようにレッスン中ですっ」
「ボクもカナミと同じですが、Vtuberをやった事はありません。今はハイカワの芸能事務所に所属してますっ」
「ほう……灰川先生の事務所のことは聞いてたましたが、この子達が所属者なのか…、ふむ……」
和藤はテレビ局の社長であり、誰が見ても可愛いと思える2人を見て心のアンテナが反応しまくってる。
佳那美という子は明るく元気な笑顔が凄く可愛い子だ、演技をさせれば何人もこの子に目が行くだろう。歌わせればこの佳那美の明るい声に多くの人が元気を分けてもらえるだろう、それが分かる。
アリエルという子はボーイッシュだが非常に整った容姿の可愛い子だ。元気で明るいが、どこか品がある笑顔。輝くような金髪に青い目、子供としての美しさが完成されてる。
巨大な黄金の卵と巨大なダイヤの原石が雁首揃えてやって来た、この2人は育てて磨けば1流俳優にも1流歌手にもなれる逸材、容姿も雰囲気も声も表情の柔らかさも最高レベルの子供達だと和藤は感じる。
和藤は今までテレビ局の重鎮として様々な役者や歌手に出会って来ており、その中には子役や児童歌手だって含まれる。
子役で超売れっ子になった役者はいっぱい居る、ドラマで高い演技力を見せて国民的人気を博して何本ものドラマや映画に出演し、日本の芸能史にその名を刻んだ男の子の子役。
圧倒的な可愛さと愛嬌で国民の心を鷲掴みにして、老若男女問わず大人気となり歌も流行、ドラマに出ればどんな脚本であっても高視聴率を叩き出した女の子の子役。
小学生の時点でアイドルとしてテレビに出て、優れたルックスや明るいキャラと歌でお茶の間を賑わし、中学生の時点でアイドルグループのセンターになったジュニアアイドル。
それらの子供芸能人たちから感じた印象と同等、いやそれ以上の輝く何かを感じる。
ドラマに出れば高視聴率、映画に出れば連日満員御礼、演劇舞台に立てば拍手喝采のリピーター続出、歌をやればロリ…オリコンズチャート1位、そんな確信が持ててしまう。
「明美原さん、アーヴァスさん、2人はテレビとか芸能の世界を目指してるのかな?」
和藤は2人に向かってニコやかな営業スマイルを崩さず、されどしっかりと真面目な雰囲気も混ぜつつ聞く。だが佳那美とアリエルは緊張などはせず、しっかりと普段通りに受け答えした。
佳那美はVtuber活動を通して緊張感という物に強い耐性が出来ており、アリエルはMID7の活動を通してやはり緊張感に強い心が備わってる。
それだけではない、佳那美はVtuber活動を通して凄まじい愛嬌を身に着けており、アリエルは聖剣の加護によって雰囲気まで可愛らしさを感じさせる何かを放ってる。それらの本領の一端が発揮されようとしていた。
「はいっ、興味がすごくありますっ、役者さんのお仕事とかやってみたいなって思って頑張ってますっ、えへへっ」
「ボクもアクターやシンガーのお仕事に興味があります、今はレッスン中ですけど、前に歌とダンスの先生に褒めてもらえましたっ、くふふっ」
笑顔が眩しい、この子達は確実に才能がある、努力も出来る子達だ。人から好かれる性質を有してる、それは成長する毎に高まると感じる、この子らは稀有で得難い才覚を持ったスーパーチルドレンだ!
佳那美とアリエルの屈託のない笑顔で和藤は完全に気付く、子供の笑顔は大体が可愛らしいものだ。だが2人の笑顔には人の心を溶かしてしまう甘くて柔らかで、お日様のような温かみがある。
「灰川先生、後で深谷会長を交えて少しご相談したい事があります、お時間はよろしいですか?」
「あの、和藤さん、その…元から午後は和藤社長と深谷会長とお話の場を設けて頂く予定でしたが…」
「あっ!そうでした! いや、すいません灰川先生っ」
今日は午前中にロケ見学なんかをして、午後に社長や会長に2人を紹介して何か仕事をもらえたらな~みたいな話をして、その後にnew Age stardomの収録を見に行く予定だったのだ。
和藤は2人の可能性の光を見て予定を一瞬だけ忘れてしまい、自分の方から灰川に話の場を設けてもらえるよう話をしてしまった。それ程までに2人に尋常じゃない『大勢から好かれる力』を感じたのである。
その後は予定通りに富川Pに連れられて、ロケやテレビ局の仕事を見て回っていく。和藤は仕事があるためOBTテレビの社長室に戻っていった。
和藤は嫌な性質の部下に降格の引導を渡した後で気分は良くなかったが、今はその気分を吹き飛ばすほどの逸材を見つけた。しかし目に狂いが無いか調べて考え、確かめるため時間を使う。
チャンスが本当にチャンスなのかを見極めるのも経営陣の勤めなのだ。
カルチャーシティお台場での出来事は終わり、灰川一行は次の場所に向かうのだった。
「ここではテレビドラマ、“ラスト1秒の恋”のシーンが撮影されてます。今度こそ話が通ってるので皆さんで見学しましょう」
「「はーい!」」
ラスト1秒の恋というドラマの主役は女性で、偶然にイケメン上司の弱みを握ってしまい、そこから何やかんやあって恋愛に発展していくという話だ。ラスト1秒に何かあるのかは知らない。
撮影場所はお台場のレインボーブリッジが見える公園で、ロケーションは良好だ。時刻は午前で晴れており、良い感じに撮影が出来そうな状態である。
そこにスタッフが撮影準備をしてたり、俳優が椅子に座って台本を読んでたり、演技の段取りをしてたりといった光景が広がっていた。
「お疲れさまです富川P、この子達が見学希望で、こちらの方はマネージャーさんですか」
「そんな所ですよ牧岡監督、今日はお願いしますね」
「初めまして、マネージャーのような者の灰川です。お世話になります」
「こんにちわっ、明美原 佳那美です。お勉強させてもらいますっ」
「アリエルです、ドラマの撮影を初めて見ますっ、宜しくお願いします」
ラス1恋の監督はベテランであり、OBTテレビにて月曜9時のドラマの監督を何度も担当してる人だ。年齢は50代くらいという感じだろうか。
月曜夜9時のドラマ枠はOBTテレビにとって特別な番組枠で、40年以上もこの曜日の時間帯にドラマが放映されて人気を博し続けてる。そういう歴史ある番組枠である。
この枠のドラマは総じて高視聴率であり、ここで主役をやった俳優は知名度が上がるため、役者の登竜門みたいな扱いもされてる。ここにメインで出られれば仕事が安定して取れる確率は高くなるのだ。
人気アイドルや人気芸人などが俳優として起用される事もあり、そっちの界隈でも出演や抜擢に憧れる芸能人は多いらしい。
だが大抜擢によって演技力の無い人が主演クラスに選ばれ、身の丈に合わない抜擢によって大根演技を披露してしまい、結果として名を落としたり顰蹙を買ったりする者も居る。
芸能人にとっては登竜門であると同時に運命の岐路みたいな感じの番組枠であり、名を上げれば様々な仕事が舞い込むので天国だが、名を落とせば後々にまで響く経歴の傷が残る怖い番組でもある。
「ドラマを作るのは凄く沢山の人が関わるんだ、テレビ局の編成さん、脚本家に出演俳優の人達、PにD、ADの人達はロケ地の手配や各種の用意、他にもメイクに美術デザイナー~~……」
監督の牧岡から様々な話をされ、佳那美とアリエルは真面目に聞く。その間に富川が話の補足をしたりして、良い感じに子供にも分かりやすく説明が進んでいった。
企画や制作会議を重ね、打ち合わせや顔合わせに台本合わせ、リハーサルをしてカメラ割りやコンテを決めて、数種類の目的別リハーサルを行い、本番撮影、そこから各種のチェックをして編集。
そんな大変な作業を重ねて制作されるのがテレビドラマだそうだ。テレビ局スタッフや俳優はもちろん、俳優の所属事務所もスケジュール合わせとかで忙しくなるだろう。
色々な人が忙しく動き回ってやっと完成する、そうやって全国に放映されるレベルの作品が出来上がるようだ。
「ドラマも映画もそうなんだけど、脚本を書く前に主役とかのメイン出演者を決めて、その人のイメージに合った話が作られる事もあるんだ」
「そうなんですかっ!? すごーいっ、それってその人のためのお話って事ですよねっ」
出演者ありきで話が作られる事だって多々あるらしい、その他にも俳優のスケジュールに合わせて脚本を変えたり、どうしてもロケ地が押さえられなかった時にも脚本が変わったりするそうだ。
「今日は本番撮影を見てもらうから、撮影中は静かにね? 休憩中も俳優さん達は台本読みながらイメージトレーニングしてたりするから、話し掛けるのは遠慮してもらいたいかな」
「分かりました、よろしくお願いします」
撮影本番は緊張感がある、役者にとっては大事な場所なのだ。こっちから話し掛けるような事はしないと灰川たちは約束した。
「あと富川P、俺の後輩Dの番組で企画段階の話があるんだけどさ、ちょっとイイ所とか紹介してやってくれないか? 頼むよ」
「スポンサー紹介ですか…今の時勢は出資者を掴むのは難しいですからね、もちろん今回に見学を受けて頂いた恩もあるので了解ですが、私の掴んでるスポンサーも懐事情が芳しくないんですよね…」
「頼むよ富川、本当に予算取れるかどうか怪しくてさぁ、絶対に損はさせないって仲の良い企業に言っといてくれよ~」
「分かりましたよ、もちろん担当Pに紹介します。絶対に成功させてくれって言っといて下さいね牧岡監督」
どうやら今回の見学を急遽に受けてくれたのも事情があったらしいが、灰川にそれは聞こえてない。佳那美とアリエルに撮影中は静かにするよう、念のためもう一度言い含んでる。
ちなみに先ほどの性格の悪いDの番組は、ADにも出資者を探しておけというDの指示が出され、そのADの相談を受けた富川がイイ所を紹介するという条件で見学を申し込んだ。しかし色々あってあんな結果に終わってしまった。
スポンサーを探すのは楽な事じゃない、出資企業の方向性に合った番組じゃなければスポンサーは金を出したくないだろうし、方向性が合ってたってスポンサーになってくれるかは別の話だ。
富川としては灰川に成功してもらった方が自分のためにも良いのだ。国家超常対処局員としても灰川には生活の安定を享受してもらわなければ、彼が精神の均衡を乱して霊力が乱れる可能性がある。
そうなったら超貴重とも言える霊能力の逸材の協力を逃す事になりかねないし、テレビ局プロデューサーとしても灰川が繋がる人達は魅力的な資本源なのだ。
四楓院はもちろん、シャイニングゲートとハッピーリレーの2社、この2社は行く末次第では更に大きな会社になるだろう。そうなれば所属者の出演交渉なんかも他のPと比べて楽になる筈だ。
富川ことサイトウだって打算的な部分はあるし、どちらの仕事も大事なのだ。灰川の力とかも良い意味で本人に益が大きいように立ち回ろうという気持ちを持ってくれている。
「あ、そういや富川、コンビ芸人のマッシングの沖玉の女関係スキャンダル、そろそろ週刊誌から出るそうだぞ」
「やっぱ出ますか、程々にしておけって周りから言われてたそうですけど、聞く耳なかったそうですもんね」
「あとイケメンアイドルグループのand Dzのタクミのスゲェ話が入って来たんだよ」
「凄い話ですか? 興味深いですね」
富川と牧岡監督の話がスキャンダルっぽい業界話方向に振れた時、急にスタッフの動きが緩慢になり、折り畳み椅子に座って台本とか呼んでた俳優たちも何か雰囲気が違くなる。聴覚の方向が絶対にそっちに向いてる。
and dzは大手の事務所が最近に売り出してる若手アイドルグループで、タクミというのはそのグループのメンバーだ。どんなスキャンダルが飛び出すのかと思ったら。
「タクミが新宿のスロット屋で25000枚出したらしいぞ! 朝からずっとAT入りっぱなしで止まんなかったそうだ」
「それは確かに凄いですね、ははは」
その話が出た瞬間、スタッフ達は『あー、忙しい』とか言いながら足早に歩き始め、俳優たちは台本に目を落として『ここはこう演じた方が良いかも…』とか言い始める。皆が期待してた話と違ったようだ。
佳那美とアリエルは機材とかカメラの位置とか見つつ、どんな感じなのか現場の実態や雰囲気を見て行った。
「本番5秒前~! 4、3、……」
本番が始まり俳優たちが演技をする、その様子を佳那美とアリエルは静かに真面目に見つつ、吸収できる事を全て自分の物にしようと撮影や演技を見ていた。
場所はお台場の海が見える公園で、イケメン先輩の弱みを握った女の主人公が何やらやるというシーンだ。
主人公の俳優は倉鋪 イユという人気の美人女優、イケメン役は上瀧 現都という売り出し中のイケメン俳優だ。
「嫌だったら良いんですよ~? 扇原先輩の秘密をバラしちゃいますから」
「や、止めてくれ! そんな事されたら俺は生きていけない!」
「だったら分かってますよね~? 早く海に飛び込んで下さい」
「お、おい! 止めろって! スマホ落としたんなら買えば良いじゃん!」
「仕事のメッセとか入ってるんですから! そもそも先輩が石につまづいて私にぶつかったのが悪いんですからね!」
「や、やめっ! うわぁ~~!」
そんな感じで俳優は落とされる振りをして撮影は終わる、どうやら本当に落とす訳じゃなく、後から効果音でも入れて映像を作るようだった。佳那美とアリエルは今に見た風景を頭の中で整理しながら自分に落とし込んで行く。
俳優たちの演技はあまり上手くはなかった、倉鋪イユは声を荒げて大きくして演技力が低いのを誤魔化してる感じがした。上瀧は今からスーツ姿のまま海に落とされるというのに緊迫感が薄い演技だった。
2人はなぜに演技が悪かったのかを考えて自分なりに落とし込み、主演俳優の2人の演技の良かった部分をしっかり見つけて吸収しようと頭を巡らせる。
その後も同じ場所で撮影する映像を撮り、どんどん撮影が進んでいった。NGを出したり機材トラブルがあったり、俳優たちもスタッフも真剣に撮影に取り組み、無事に全シーンの撮影が終わったのだった。
2人はそこから多くの事を学んだ、どういう風に演技をすれば良いのか、カメラの映像などを見て『こういう風に映るんだ!』というのを知り、その他にも様々な事を学んで自分の中に落とし込んで行ったのである。
スタッフ達も見学に来た子達が凄い可愛いというのに気が付いてたが、話し掛けるべきではないという風潮があるようで2人に話し掛ける事は無かった。
それでもDからは色々な為になる話を聞けて、大いに勉強になったのである。
「ドラマの撮影すごかったね、アーちゃん!」
「うんっ! みんな凄く真面目で、凄く緊張感があったよ!」
テレビ局に戻って局内の喫茶店で昼食を摂る、佳那美はナポリタンとオレンジジュースで、アリエルはサンドイッチとパフェを食べた。少し早めのランチである。
シャイニングゲートとハッピーリレーの撮影組はスタジオ弁当が出るため心配ないし、向こうは向こうで順調に行ってるというメッセージが花田社長から送られて来た。
特に飛鳥馬桔梗と雲竜コバコ、赤木箱シャルゥとケンプス・サイクローの気力が充実しており、そこに引っ張られるようにハッピーリレー組の気力も上がって良い感じになってるらしい。
「ボクもあんな風にお芝居してみたいなぁ、そのためにもっとレッスンしないとねっ、頑張ろうカナミ!」
「うんっ、私もアーちゃんとお芝居したり歌ったりしてみたいっ、一緒にガンバろーねっ。モーニング・エブリーもスゴかったよねっ」
佳那美とアリエルはすっかり仲良しになっており、先程に見学したモーニング・エブリーやラスト1秒の恋のロケの話をしてる。
「やっぱり演技ってハッピーリレーの講師の先生が言ってたように、心を込めないとダメなんだね」
「アーちゃんもそう思うんだ! 上瀧さんと倉鋪さんも気持ちが籠ってる時とそうじゃないって感じの時、すごく違ったように見えたよねっ?」
「上瀧さんは体が演技に向けて鍛えられてないのが分かる演技だったね、体の動きのせいで声の大きさがバラついちゃってた気がする」
「倉鋪さんはキャラの性格を出して勢いよく喋る事に気持ちを置いてたようだったけど、その勢いが後にまで続いちゃってた感じがしたよ」
何やら2人して小学生としては高度な分析をしてる、演技レッスンをするとこういう感じになる物なのだろうか?
そうこうしてると富川の仕事携帯に電話が来る、どうやら和藤社長からの電話のようだった。何やら驚きながらあれこれと受け答えをして、午後の事を灰川たちに伝えた。
「灰川さん、明美原さん、アリエルさん、午後に少しお願いがあるんですが…」
「なんですか富川P? 何か予定の変更でも……?」
予定では午後に和藤社長と深谷会長に2人を会わせ、何かしらの小さな仕事でももらえればなという、灰川の考えがあった、コネを使って2人に何かしらの仕事を持って来ようという算段だったのだ。
それが何か予定変更になってフイになってしまう可能性が出て来た、それはなるべく避けたい事だが。
「午後にお二人にOBTテレビの有力プロデューサーや実績のあるディレクター、それと芸能会社の専属スカウトマンなどが集まる場所で、演技などを披露してもらいたいとの事なんです…、出来そうですか…?」
「「!?」」
まさかの言葉だった、2人が芸能界に一気に踏み出せる可能性が向こうからやって来たのである。
「す、すいません富川P! 代わってもらえますかっ? もしもし、灰川です!」
『灰川先生、実はお願いがありまして、明美原さんとアーヴァスさんの事なんですが~~……』
和藤社長は先程に佳那美とアリエルを見て最上級の才能や才気を感じ取り、それが間違いでないか確かめる場を設けたくて今回の申し出をした。
もしかしたら逸材かもしれない、その可能性が高い事を灰川に説明する。
もし現場組や大手芸能事務所のベテランスカウトなどから太鼓判を押されたら、その場でドラマ出演とか番組出演の仕事を是非にも回したいと思ってると言われる。
「で、ですが少し早すぎるんじゃないでしょうか…? ウチの所属者を評価して頂けるのは嬉しいんですが…」
『灰川先生、こういう話はスピードが大事です。あの2人は素晴らしいモノを持ってます、まずは試してみるのはどうでしょうか? 現場の評価が良くても灰川先生がダメだと感じたのなら仕事は断ってくれても構いません』
この事を灰川は佳那美とアリエルに話し、その申し出に2人は戸惑いながらも『やるっ!』と意気揚々と答えた。
チャンスというのは逃がしたら次はいつやって来るか分からない、次のチャンスなんて無いかもしれない、その事を2人はV活動やMID7の任務を通して本能的に知ってるのだ。
もしかしたら大きな舞台に立てるかもしれない、テレビで見たようなドラマに出れるかも知れない、歌を多くの人が聞いてくれるステージに行けるかもしれない。
そういう場所を目指すならチャンスは逃がす訳にはいかない、そして何より……すごく楽しそうだ!
「芝居の台本とかは局で用意してくれるってさ、だから用意するものは無くて良いって。あと緊張せずに楽しんでやってくれれば良いってさ」
つまり気負わずやってくれという事だ、降って湧いたような話なのだから、失敗したとしても気にする必要は無いよと言ってくれてる。
「楽しみだねカナミ! ボクがんばるよっ、ボクもさっきの役者さんたちのように、お芝居してみたいっ」
「私も負けないよアーちゃんっ、一緒にガンバろうっ! えへへっ」
突然の話に混乱する事もなく、アリエルは白い服までキラキラするかのような眩しい笑顔を放つ。佳那美は長めのセミロングの髪が揺れるくらい喜んでる。
2人とも精神力は大人以上かもしれない、むしろ子供だからこそこういう風に喜べるのかも知れない。
「じゃあ午後に向けて身嗜みを整えに行くかぁ、レミアム・オーセンっていう美容室があるから、予約入れて良い感じにしてもらうぞっ」
まだ約束の時間までは余裕があり、灰川はチャンスを掴むために2人を高級美容室に連れていく事にする。
灰川は以前に行った高級美容室のレミアム・オーセンの会員であり、ランクはオーバーSSSとかで、どんな時でも予約を入れられる客なのである。
そこに行けば今以上の可愛さにに仕上げてもらえるだろう、身嗜みはこういう業界では最も大事といっても過言じゃないだろう。
「じゃあ私がお送りしますよ、というか灰川さんレミアム・オーセンの会員なんですね」
「お願いします富川P! このチャンスはモノにしちゃいたいっすから!」
「くふふっ、美容室に行けば可愛くしてもらえるかなっ? 男の子と間違われないようにして欲しいなっ」
「アリエルぅ~、それは本当にスマンかったって! よし行くぞ!」
「私も可愛くしてもらいたいなっ、灰川さんよろしくねっ!」
こうして午後のチャンスに向けて灰川一行はテレビ局を抜けて美容室に向かう、そこでしっかりと整えてもらってから業界人の前でのパフォーマンスに臨むつもりだ。
佳那美とアリエルの演技の確認にはOBTテレビが用意した台本を使って、軽い感じで有力PやDが2人がどんな感じか見る。忙しい人達を無理に揃えたから予定時間は短めだ。
台本は資料倉庫とかにある過去の台本とかを使ってやる予定で、その準備を何名かのスタッフが整えてる。
「コレとコレと、あとコレとか~~……」
子供向けの演劇の台本とか、過去の子役起用ドラマの台本とかが幾つか選ばれて箱に詰められていく。
その中に和藤社長が家にあった謎の個人製作の冊子を何かの拍子で局に持って来てしまい、そのまま倉庫に入れられてしまった『謎の台本』も紛れ込んだ。
その表紙には作者名の部分に『作・サイーチ』と書かれてる、これが使われてしまうかどうかは分からない。




