236話 ブリリアントジャーク問題
社会ホラー回です、幽霊とかは出てきません。
桔梗、コバコ、シャルゥ、ケンプスの4人をOBTテレビの専務に引き合わせた後、灰川は収録スタジオの近くまで戻って佳那美とアリエルを探す。
「木島さん、佳那美ちゃんとアリエル見ませんでした?」
「あ、灰川さん、2人ならスタジオに入って富川Pに撮影方法とか、番組収録の基本とかを実地で教わってますよ」
廊下にマネージャー帯同してきてるハッピーリレースタッフの木島が居たので話し掛け、2人は富川Pからテレビ関係の知識を教えてもらってるそうだ。
実は富川PことサイトウとアリエルはOBTテレビの局内で物騒な形で面識があるのだが、その事は出さずに表向きは初対面という事になってる。灰川は0番スタジオでアリエルに剣を向けられ、その時に顔は互いに見てる。
サイトウには後にアリエルは心は年齢並みの子である事を話し、後腐れなども無く今に至ってる。
「佳那美ちゃんもアリエルちゃんも可愛いですよね、演技も歌も凄いんですよっ」
「そうなんですか、俺もしっかり2人の仕事を取らないとなぁ。木島さんは破幡木ツバサ推しですよね、ツバサはスタジオ前部屋で出演者と親睦を深めてましたよ」
「ツバサちゃんが出る番組回は絶対に録画して保存します! 最近は前より可愛くなって、理由は分かってますよ灰川さん」
「そういう話はダメですって、居場所教えてくれてありがとうございます」
意味深な目つきでニヤニヤしながら木島が灰川を見るが、それは普通に回避して佳那美とアリエルの所に向かった。
「という感じで番組という物が作られていくんだ、ちょっと難しかったかな?」
「プロデューサーさん、教えてくれてありがとうございます! すっごく分かりやすかったです!」
「ボクも理解できましたっ、分科会から始まって色々やってから完成して納品という流れなんですねっ」
佳那美とアリエルは灰川が専務の所に行ってる間に、どのようにテレビ番組が作られてるかを富川Pに教えてもらっていた。
最初に分科会という数名の制作スタッフや担当番組作家の打ち合わせから始まり、どんな番組でキャスティングはどうするかなど大まかな事を決める。
分科会で決まった事を演出家にチェックしてもらい、行けるかどうかを判断する。決まらなかったら分科会はまたやるそうだ。
それらが決まったらリサーチなどをやって収録の仕込みなどをするそうで、外番組ならロケ地に良さそうな所などを調べて洗い出したり、スタジオ収録なら企画や演出を考えたり様々な業務があるらしい。
それからロケや収録をして、オフライン編集という映像の編集をして、スタジオでVTRを流して収録したりとか、更にそれを編集してテロップを入れたりとかして、オフチェック、一本化作業、試写してから納品!
これら以外にも色々な作業があるそうだが、全て合わせて大体60日くらいだとの話だ。制作日数は番組の種類などによっても変動は大きいらしい。
このように滅茶苦茶に手間が掛かりつつディレクターもADさんも、各スタッフさん達も超絶に大変な思いをして制作されるのがテレビ番組なのだ。
そんな大勢の努力の結晶が毎日に無数にテレビで流されてるのである、これは凄い事だ。
それがテレビに映されるのは再放送とかがあったとしても精々が2回か3回、なんと贅沢な事だろうか、少し怖い気すらしてくる。
「富川P、そろそろ2人を局内の見学に連れて行きたいんですが、お願い出来ますか?」
「はい、じゃあ行きましょう。明美原さん、アーヴァスさん、こちらの収録には後でまた来ましょう」
「分かりましたっ、富川P、広峰D、色々教えてくれてありがとうございましたっ」
「古原さん、加藤さん、アシスタントディレクターさんの仕事っていっぱいあるんですね、凄く勉強になりました」
「他の現場も色々と見させてもらって来てね、きっと勉強になるから」
new Age stardomの収録現場で色々と教えてくれたスタッフ達に2人は礼を言い、富川Pに連れられて別の箇所に見学に行く。
最初に向かったのはテレビ局の外、カルチャーシティお台場という大型商業施設で、灰川にとっては以前に空羽と一緒に買い物をした場所だ。
バラエティ番組でお台場の商業施設の紹介をするVTRが流されるようで、そのロケが近場で行われてるので見学させてもらえる話になってる。
テレビ局から出てカルチャーシティお台場に向かい、5階にある人気の雑貨屋に向かう。その店をテレビ番組で紹介するためのVTR撮影のロケが行われてる。
祝日のお台場はそこそこ人が多いが、まだ朝10時の開店したばかりの時間なのでカルチャーシティお台場も混みまくりという事は無かった。
「すいません、多分向こうの休憩スペースで準備してると思うんで、ちょっと話を通して来ます。灰川さん達はここで待ってて下さい」
「分かりました、佳那美ちゃん、アリエル、少し待ってような」
「「はーい!」」
富川が番組撮影のディレクターか誰かに話を通しに雑貨屋の周辺に向かい撮影班を探しに行く、灰川たちは休憩スペースで待つ事になり富川が帰って来るのを待つが。
「カメラこっちに置いといて、あと音声はスタンバイな」
撮影班と富川は入れ違いになってしまったらしく、こちらの休憩スペースに来て準備を始めてしまったらしい。見た感じだとすぐに準備は終わってロケに向かってしまいそうだ。
灰川は自分が行くしかないと判断して佳那美とアリエルに待ってるように言い、そちらに近付いて行った。
「すいません、モーニング・エブリーの撮影班の皆さんでしょうか? 今日に見学を~…」
「ああ、すいません。今から撮影ですので、一般の方は近づかないで下さると助かります」
「いえ、あのっ、今日に見学の…」
かなり忙しいらしく、ADっぽい人に止められてしまう。今日に誰かが見学に来るという予定は忘れてるのか伝わってなかったのか、上手いこと話が進まない。
スタッフ達にとって灰川は見覚えのない顔というのも大きいだろう、そこで富川の名前を出すが、それでも伝わらなかった。ついにはディレクターが出てきて、結構な威圧感がある言い方をして来る。
「一般の方は見学とかはお断りさせて頂いてるんですよ。芸能人の方に厄介なファンとかアンチとかが近付いちゃう可能性ありますから」
「あの、自分はこういう者でして、富川Pとさっきまで一緒に居たんですが…」
「入構証? ああ、最近は偽造の物が出回ってるからね、富川Pって素人さんの割には良く知ってるじゃん。まあ、今度はその富川さんと一緒に来たら良いんじゃない?」
時間が無くても富川に電話をして来てもらうべきだった、自分が話せば通ると思ったが甘かった。忙しい場所では事前の話が通ってないなんて話はよくある事で、今回が正にソレだった。
しかもディレクターの性格が悪い、明らか悪い。20代くらいの若いDだが、なんかネチネチとした物言いである。入構証は偽造と決めつけて確認しようとすらしない、灰川の事を『馬鹿な素人』みたいに見て下がらせようとして来る。
若くして大手テレビ局のDになったからプライドが高いとか、周囲を見下してる感じがある。そういうのが凄く伝わってくる奴だ、こういう奴を灰川は知ってる。以前にブラック企業で働いてた時に居た社長の親戚の若い奴だ。
社内でしか通用しない権力を傘に誰でもかんでも言いたい放題、少しのミスでネチネチと嫌味を言い、『なんでこんな事も出来ないの?』とか自分の教え方が下手なのは一切省みず、周囲を低レベルなバカと断じるタイプ。
仕事はできるタイプなのかもしれないが、部下などに良い影響を与えず離職させたりさせるような奴、そういう奴をブリリアントジャーク(優秀だけど有害な人)と言ったりする。
上から目線、チームワーク軽視、自己評価が高く自己中心的、他者に高いパフォーマンスの要求、礼儀を欠いて周囲を不快にさせる、そういった様々な嫌な性質で周囲のモチベーションを下げる。
離職率を高めたり部下の成長を妨げたりして会社に間接的ながら大きな損害を出し続ける人、それがブリリアントジャークと呼ばれる。
個人単位で見れば優秀だけど、チーム単位で見ると有害な奴という感じだ。その波動をこのDから感じる。
「とにかく、我々はこれから撮影があるんで近づかないで下さいよ、邪魔したらテレビ局は訴訟だってしますからね。もし見学したいなら一般人でも見させてもらえるレベルの番組の見学に応募して~~…」
(一般人が業界人に馴れ馴れしく話し掛けんじゃねぇよ! 俺はお前みたいなザコと違ってデカいバックがあんだよ! 素人向けのお遊戯番組の見学でも行ってろ!カス素人が!)
表面上は普通に話してるのだが本心が見え見えだ、こういう『汚い心の内をそれとなく見せる』というタイプの有害な奴は多い。彼は立派なブリリアントジャークなのだろう。
「分かりました、失礼します」
「はいはい、じゃあお前ら始めるぞ。音声、マイク位置それで良いの? 俺は前に指示したよね?ちゃんと指示は守れって」
明らかに年上でベテランと見える音声スタッフにも強く当たる、局内権力がどうなってるのかは知らないが、完全に自己中の自己権力陶酔野郎だ。
こういう奴には関わらない方が良い、佳那美とアリエルは心配そうに灰川を見ており、これ以上2人にこういう嫌な奴を見せるのは教育にも悪い。
「ね、ねえ…あそこに居る2人の子、めちゃ可愛くないか…? 浜屋君、あの子達知ってる…? 子役…?ジュニアアイドル…?」
「い、いや分かんないっす…クソ野郎…あ、いや Dと話してた人が関係者っすかね…? 自分はリサーチしてないっす…」
灰川も見覚えのある番組に出演する芸人とADと思われる人がヒソヒソと話してる、しかし話しかける訳にも行かずそこだけの話に留まる。
佳那美とアリエルは段々と番組スタッフの目を引き始める、小学4年生の子達だが明らかに普通じゃない可愛さと人目を引く何かがある。2人が居るだけで悪い空気が薄れるかのような、そんな気さえする輝きがある。
灰川は『こんな奴の番組なんざ見る必要あるか!』という気持ちになり、そこから離れようとしたら。
「灰川先生、ここに居ると聞いて年甲斐もなく走って来てしまいましたよ! はぁはぁ」
「えっ? 和藤さん? どうしてここに」
「モーニング・エブリーのロケを見学すると聞きましてね、ちょっと思い出した事があって……えっ…?」
和藤が灰川の表情を見た瞬間に凍り付く、その理由は灰川の表情に明らかな不快感と嫌悪感が現れてたからだ。それはつまり嫌な事があったという事だ。
「灰川さん、すいません! こっちに撮影班が居たんですねっ、カルチャーシティでの撮影班の待機場所は向こう側って決まってる筈なのに」
そこに富川Pも到着する、スタッフ達は見覚えのある顔が2人揃った事で驚きを隠せない。少なくとも和藤と名乗った人の顔は見覚えがあり、この人は……OBTテレビの社長だ。
富川Pを知ってるスタッフも居るし、モーニング・エブリーに出演する芸人コンビの『すないぱぁず』は富川がプロデュースした番組に呼んでもらった事があった。
「あ、あの…この人って、社長のお知り合いの方とか…ですか?」
恐る恐るDが社長に話し掛ける、流石に自社の社長の顔は知ってるようで、本人かどうかを疑うような事は無かった。しかし和藤はDを無視して灰川に話し掛ける。
「は、灰川先生、当社のディレクターが何か失礼を……?」
「いえ、今日は番組収録を見学させて頂く予定だったのですが、どうやら話が上手く伝わってなかったようでして」
「ほう…それはどういう事だね戸村D…? その他にも何か失礼な事などは……」
社長が先生とか呼んでる、しかも明らかに社長は焦ってる。スタッフ達は『この人は事情持ちだ!』とすぐに勘づくが、流石に凄い家に通じる人物で、社長の息子の命を助けた人とは知る由もない。
「太田、このDは何か失礼な事は言ってなかったかね?」
「社長、お久しぶりです。ちょっとあっちで話しましょうか」
「ちょ、音声さん!」
ベテラン音声は社長にコソコソと話し、今あった事を全て伝えたのだった。この音声スタッフはベテランという事もあって局内では知ってる人も多く、和藤とも昔は仕事をした仲のようだったのだ。
音声から話を聞き、和藤の顔が青から赤に変わる。実はここに来た理由は職員から上がってきた情報に嫌なDが居るという話があり、そのDの番組に灰川が見学に行くという話が聞こえて来たからだった。
こういう業界の嫌な奴というのは想像を絶する事があり、そういう奴に四楓院に密接に繋がる灰川が何も知らずに会いに行くのは危険だと思い、他の仕事を秘書に回してまで自分から来たのである。
「戸村D、灰川さんに何か失礼な事を言ったようですね、この事はプロデューサー全員に広がると思った方が良いですよ。そもそも紫入構証の事を聞いてなかったんですか?」
「ちょ!そんな! 入構証なんて偽造がっ」
「局に問い合わせれば良い事ですよね、これから先は番組のスポンサー探しは全て自分でやる事になるかも知れませんよ、早く謝った方が~…」
「富川君、その必要はない…少しそちらのお嬢さん方を向こうに連れてってもらえないかね…? 頼むよ富川君…」
和藤の顔色が青から赤に変わってる、さっきまでは四楓院に繋がる灰川に何か失礼があったら大変だと思ってたが、音声スタッフから話を聞いて『もう既に事があった後』というのが分かった。
灰川は気にしてないし問題にする気もないという雰囲気を出そうとしてるが、不快感とかは隠しきれてない。そもそもこのDは現場のスタッフからの評価は最悪であり、正にブリリアントジャークそのものである事が音声スタッフの戸村の話で明らかになった。
少し調べると、見学アポを聞いて無かったのはADが伝え忘れてたからだそうだ。
しかし戸村は過去にADに対して自分が同じようなミスをした時に『聞いてませんでしたなんて通用しないんだよ!』と怒ってる、つまり彼にも聞いてませんでしたは通用しないが当てはまってしまう。
「戸村…お前がDに昇格してから2年でADが6人も辞めてるよな…? どういう事だ…?」
「あ、あのっ、撮影がっ…」
「そっちは心配するな、音声の太田が代理Dを兼任してくれるからな…あと富川Pも撮影に協力してくれる事になったぞ」
音声の太田は長年の経験で現場Dの代理はやれるようになってるらしい、どうやるかは知らないが頼れる人なんだろう。富川も撮影班に加わり、佳那美とアリエルはそっちの見学に行ったようだ。
「今時はADに厳しく当たらないというのが常識になってるだろう…お前のスタッフからの評判は最低以下だぞ、社員の声を聞いてないとでも思ってるのか…?」
「い、いえ…そんな筈は……っ」
優秀だけど害のある奴というブリリアントジャーク問題、チームの士気を下げたりメンバーを委縮させたりして最悪の職場環境を作るという問題点が指摘されてる。
だが個人で見れば優秀な成績だから会社も何も言わなかったり、短期的に見れば優秀だから称賛する会社だってある。しかし長期的に見れば最悪の欠損を会社が認識できない形、離職率の上昇や優秀な人材の流出、部下が辞めるため人が育たないという形で出し続け、集団の環境を悪化させる。
有害な有能は何にも勝る害悪と論じる人もおり、その危険性は近年では認知されつつある。
和藤は灰川に会ってから下から上がってきた報告書を時間を縫って読むようになっており、今の現場には狡猾で性格の悪い奴が割と多い事に気が付いたのだ。
「今は退職した佐々庭というADは6年も根気強くやってたが、お前のADになってから1か月で体調を崩して退職したそうだな…」
「そ、それはアイツがミスをっ…!」
「ミスしたからって、それを何日もネチネチ言われたら人がどう思うのか分からんのかっ…!」
怒りの余り場所もわきまえず和藤が語気が荒くなる、和藤だって完全無欠の人間ではないが、部下に対して小さなミスを何日も怒るような真似はしない。カルチャーシティお台場の休憩スペースにて、灰川たちの周囲から人が居なくなる。隠し撮りとかはされてないようだ。
「2番目に付いた小形というADは、お前にスタッフ達の前で長々と人格否定されたという話が、複数人から上がってきたぞ…そんな真似されたらどんな気持ちになるか、大馬鹿でも分かるだろうがっ…!」
「そ、それは…っ」
大馬鹿でも分かる、だからこそコイツはやるタイプの奴だと灰川は思う。ネチネチと言ったり人格否定して気持ち良くなるタイプの奴だ、そういう奴は世の中には意外と多い。権力や地位を見せつけて過剰に気持ち良くなってしまうタイプだろう。
しかし本当に人の気持ちが想像できない奴だって居る。この程度はやって当たり前とか思ってしまうタイプで、やって良い事とダメな事のラインが明らかに普通じゃないタイプだ。
その後も次々と戸村の悪い部分が出て来る、ADやスタッフの成果を独占して報告してる事や、それらの成果は全て自分あってこそのものだと思ってる節がある事。
ベテランの音声やカメラマンにも当たりが強く礼儀を欠き、仕事を頼むというより仕事を回してやってるという意識がある事。
自身の能力は高いが、そのレベルを周囲にも要求し、あまつさえ1週間程度で全ての業務をマスターして当たり前とすら思ってる事。
スタッフに対して批判的な事しか言わず、全ての業務が自分の完全な思い通りにならなければ怒り散らす事。
撮影後は反省会と称してスタッフに点数付けをして、最低最悪の空気を作り出してる事。その他にも色々とあるらしい。
戸村はいわば『個人仕事をしてる時は優秀だが、人の上に立つと途端に有害物質に変わる』みたいな性質があるようで、ブリリアントジャークに該当する人物と言える者だった。
「お前が原因で辞めた佐々庭は他局に入社して、OBTでの経験を活かしてDに昇格して人気番組の“地球喫茶”を作ったぞ…!」
「ですがっ…OBTでやってけるような奴じゃ…!」
「小形は地元の地方局でプロデューサーになって、色んな企業から資金を引っ張って地元局を立て直したそうじゃないかっ…!」
「アイツはOBTが相手にするような企業は引っ張れませんよっ…!」
彼には他人の有能な部分を見る目が無かった、無能な部分や苦手な事を探る力はあったが、人を育てて活かす力が全く欠けてる人物だったのだ。
優秀と言っても色んな形がある、駄目な部分や悪い部分を細かに見れる彼の目は確かに優秀なのだ。しかしその優秀さは使い方を考えなければ簡単に人を離れさせる。
有能とか無能とか昨今はよく語られるが、人間なんて有能な部分と無能な部分があって当然だ。簡単に断じれる物では無いし、現場向きの人や指揮官タイプ、経営者タイプ、そんな感じで色々だ。
一見すると仕事が出来なくても、場の空気を和ませて良い雰囲気やチームワークを作るのが得意な人とかも居る。
戸村は今日の運勢は最悪だったようだ、和藤は今までの報告を聞いて彼にムカっ腹が立ってたが、その嫌な部分を向けた人は局の運命を握る人の最も大事な客人だったのだ。
そして何より、息子を助けるための全力を尽くしてくれた恩人であり、その灰川に嫌味な態度を取ったのが許せない。例え嫌な気持ちにさせた相手が灰川じゃなかったとて普通に怒ってただろう。
息子を助けるために協力してくれた熱きカードゲーマー達のような一般の方々に誇れる会社にしたい、今は本気でそう思えていた。
あの時に感じた一体感、見知らぬ者達と、息子の仲間たちと共に危機を乗り越えた感動は和藤の心を変えていたのだ。
「戸村、ADから出直せ。お前は優秀だが人の話を聞いて、気持ちを想像できるようになれ。それが出来てないからモーニング・エブリーのVTR映像はイマイチ面白みに欠けるんだ」
「そんなっ! 社長!」
「言いたい事は分かる、だが周囲に同じ考えや同じ意識を求めるな、今のお前では一本道のエンターテイメントしか作れん。もっと様々な人の意見や考えをしっかり吸収してこい」
「………………」
「お前は優秀だ、だからその年でDに昇格出来たんだ。だからこそ今は初歩に戻って自分を見返してみろ」
有無を言わせぬ物言いだった、リーダーとしての資質を磨いて、人の心を知れるようになってから再挑戦しろと社長に言い渡されたのだ。
これは四楓院がどうとか灰川の気分がどうとかの問題じゃない、彼自身の人格の問題だ。リーダーになって良い人格を備えてから人の上に立たないと、人によっては害をバラ撒く存在になりかねない。
戸村がブリリアントジャークから脱せられるかどうかは彼のこれから次第だ、優秀ではあるのだから自分の欠点の本質に気が付ければ変わる可能性はあるだろう。
もともとテレビ局のADなどは離職率が高いキツイ仕事だ、それもあって幾人のスタッフを退職させたことは起きてしまった事だから仕方ないと判断を下す。
しかし和藤は今までの事を不問にはしない、戸村の実質降格という形で今までの事に収まりを付けた。それを受け入れるか退職という道を選ぶのかは分からない、反省できるかどうかだって才能の一つなのだから。
その後はロケを終えてテレビ局スタッフ達は引き上げていき、佳那美とアリエルと富川は灰川と和藤の居る休憩スペースに戻ってきた。
その直前に和藤は灰川に『当局の社員が大変に失礼致しました、よく言って聞かせましたので』と謝り、灰川も気にしてませんよと言って場は収まったのだった。
「ハイカワ!凄かったよ! コメディアンの“すないぱぁず”凄く面白かった!」
「テレビの収録の芸人さんって、あんな風に笑わせるんだねっ。勉強になったよっ」
「お、そうか、なら良かったな。2人ともこちらの人は和藤さん、OBTテレビの代表取締役社長さんなんだ」
佳那美とアリエルに和藤を紹介し、2人はしっかりと挨拶をしてお辞儀する。
灰川は次は和藤に2人を紹介して、あわよくば良い感じの仕事とかもらえないかな~、なんて考えてる。
「…………ふむ」
和藤の目つきが先程までと変わってる、その目はテレビ局の社長としての目であった。
才能の光が見える、普通とは違う芸能才覚、容姿も子供としては最高、声も素晴らしい。和藤は一瞬でそれらを感じ取る。




