表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

223/333

223話 話を聞かなきゃ始まらない

「ふぅ~~、手続きとか面倒だったな~」


「ありがとうハイカワ! 全部上手くいったから安心できたよっ」


 灰川とアリエルは役所や学校への編入などの手続きを終えて事務所に帰ってくる、手続きはいっぱいあったが今はネットで出来るものもあり、手早く済ませる事が出来たのである。


「ただいま、猫ども見ててくれてありがとな。 あれ?藤枝さん?」


「こんにちは、留守番をありがとうございました」


 アリエルの紹介は3人には朝に済ませてたのだが、予想外の人物が事務所に居た。


 朝に紹介した時は市乃と空羽は『可愛い!!』と絶賛し、桜は『声が凄く良いね~』と褒めていた。やはり3人からしても凄く優れた容姿や声のようだ。


 最初にアリエルは女の子だと説明した時は普通に『そうなんだ』で済んだが、もし灰川と同じような出会い方をしてたら勘違いしてたかもしれない。


「…ぁ…ぅ…、灰川さん……こ、こんにち…」


「こんちは藤枝さん、どうしたの?」


「アリエルです、よろしくお願いします。ハイカワ、ボクは部屋で片付けをしてるからねっ」


 アリエルは隣の部屋である自室に片付けをしに行った、本格的な生活空間にするにはやるべき事は多いのだ。


「灰川さん、実は○○が△△で~~……」


「ふむふむ、なるほどなぁ」


 口が回らない藤枝の代わりに市乃が経緯の説明をしてくれて、藤枝も内容に間違いはないと首を縦に振る。


「うっし、じゃあ助けに行くかぁ」


「えっ!? そんな軽い感じで!?」


「いや、まぁ、助けられるかどうかは実際に見ないと分からんけどさ」


「灰川さん、被害者の人って顔も知らない人なんだよね?」


「おう、たぶん向こうも俺のこと知らないと思うぞ」


 灰川としては危険な怪異が発生してる可能性があるなら見過ごせない。今日は休みでヒマだし、功と砂遊もそろそろ灰川事務所に来るとメッセージが来てた。功にも協力を仰げるだろう。


 しかし市乃たちは灰川が見ず知らずの人を危険を冒して助けに行こうとするのは、流石に人が良すぎるのではないかと感じてしまう。


「おいおい、逆にここで俺が“へ~そうなんだ”で済ませたら、皆からスゲェ嫌な奴に見られるじゃん。そんなの嫌だっての」


「そんな風には見ないよ灰川さん、だって知らない人だし、灰川さんが助ける義理は無い人だよね?」


「俺が助ける義理は無いけど、助ける価値が無いって決まった訳じゃないだろ? それに藤枝さんがヤベェ怪異って感じたんなら祓うべきだと思うしよ」


 被害者に義理は無いし、助けた所で1円にもならないだろう。しかし誰かが怪異で不幸になってる現状があるのは見過ごせない。


 それに聞いた所によると不幸の量が過剰だ、いくら調子に乗ってた人が被害に遭ってるとはいえ、そこまで不幸にさせられる筋合いは無いだろう。


 話を聞いてしまった以上は黙ってられない、これが自分ではなく他の人でも助けられるというなら灰川は別に率先しては動かない。しかしオカルト関係となっては助ける事ができる人間は限られるのだ。


 今の状況は崖から落ちそうになってる人が居て、助けられそうな人が自分しか居ないという状況に少し似てる。実際には少し違うが。


 藤枝でも助けられる可能性はあるだろうが、コミュニケーション能力が不足し過ぎて単独ではお祓いに支障をきたす可能性がある。


「お、誠治も帰ってきてたか、皆さん猫どもの世話ありがとうございます」


「父ちゃん、実はかくかくしかじかで~~……」


「おっ、マジか! じゃあ助けに行くか、ついでにドン底になった金持ちがどんなツラになってるか見に行こうや!」


「私も行くよぉ~、調子こきインフルエンサーの末路とか見たいしねぇ~、うししっ!」


 こんな会話を聞いて市乃たちは『この親子ども……』『灰川さんの家族ってこんな感じなんだ…』とか思わないでもないが、助けようという気持ちはあるのだから立派だとは感じる。


「でもさ~、その人が何処に居るとかって分かるの~?」 


 「「あ……」」


 桜に言われて4人で唖然となる、何処に居るのか分からない。藤枝も分からないそうだが高校の入学式の日に同級生の何人かと電話番号を交換したらしく、その人達に当たってみるよう頼んだ。


「…ぁの……もしもし…っ……」


『藤枝さん? うわ珍しい~! どうしたのっ?』


 藤枝は同級生に電話する事を渋りに渋ってたが、遂には折れて電話をした。そのまま藤枝は『親戚の人が青島(あおしま)先輩について聞きたいと言ってる』と言って電話を代わった。


「すいません、朱鷺美ちゃんの親戚の者です。実は青島さんが保険関係で困ってると聞きまして、朱鷺美ちゃんの同じ学校の先輩だからコンサルタントとして悩みを解消できないかなと~~……」


『そうなんですか? でも青島先輩の家は燃えちゃったし、話題にはなってたから連絡先も知ってますけど~~……』


 その後は少しの間だけ青島は実は嫌われてたとか、転落人生になって清々してる人が多いとか話を聞く。藤枝から聞いた話からしても調子に乗ってたようだが、実際にはあれでも甘いくらいの調子の乗りようだったらしい。


『青島先輩って、有名になってからは裏じゃあんまり先輩のこと良く思ってる人は居なかったですよ』


 どうやら有名になってからはあまり関わり合いになりたくないタイプの性格だったようで、周囲の取り巻きたちは似たような性質の者とか、イジメられないように仲良くしてたとかの理由が多いように見えたそうだ。


 居場所については分からないが電話番号とかSNSは校内で拡散されてたらしく、同級生の子から楽に聞く事が出来た。


 後は藤枝に電話をしてもらったが出てもらえず、電話番号にメッセージを送ってもらった。



 メッセージ


 都立池矢倉高校の後輩です

 先輩を助けられるかもしれない人が居るので

 出来たら連絡ください



「これで連絡が来なかったら話はお流れだな、その時は喫茶アウド村に猫どもと一緒に行くかぁ」


「えっ!? 私もギドラと一緒に行きたい!」


「私もご一緒するよ~、もちろんマフ子も一緒~」


「そうなったら私がお支払いするね、オモチも幾らでも食べて良いからね」


 「「にゃ~ん!にゃ~ん!」」


 少しの間だけ待って連絡が来なかったら諦めようという事になったが、少ししたら藤枝のスマホに電話が来た。


 最初は藤枝が出たが話が全く上手く出来そうになかったので、すぐに灰川が変わって話をする。


「こんにちは、藤枝さんの親戚の者なんですが、何かお困り事があるようなので電話させて頂きました」


『あの…どういう事でしょうか…? ちょっと意味が……』


「率直に聞きますね、人生が凄く上手く行き始めた辺りの時にスマホに何か変化はありませんでしたか? 見覚えのないアプリが入ってたとか、そのアプリが自分にしか見えてなかったとか」


『~~!! ど、どうしてそれをっ…!』


「そのアプリは非常に危険な物だと思います、今なら親戚の先輩という事で無料でご相談に乗りますが、どうされます?」


 結局は(わら)にも(すが)る思いで相談に乗ってもらうという話になり、渋谷の繁華街からは外れた場所である灰川事務所……の下の1階にある『(ワン)中華店』で話を聞く事になった。




 しばらくしてから青島 理実亜が到着し、灰川たちと合流して店に入る。


「灰川チャン、なに注文するネ? どーせ今の時間は客なんて来ないからゆっくりして良いアルよ」


「ありがとうっす王さん、こっちの2人は俺の父ちゃんと妹で、こっちの2人は知り合いみたいな感じです」


「そうなのネ、今日は良いプーアル茶がアルね、心も落ち着く良いお茶だからお勧めヨ」


 灰川事務所の下で店を出してる王さんはコテコテの変な中華日本語を使う人として少し有名だ、料理も美味しいし灰川もハッピーリレーの人達も割と来てる店である。


「改めまして灰川といいます」


「こんにちは」


「どうも~、灰川 砂遊ですよ~」


「あ、ど、どうも……」


 青島は一目見ただけで疲れと焦燥と精神的重圧に潰されそうな顔になってる、あんな事があったのだから無理もない。


 藤枝から聞いた調子に乗ってる奴という風貌は今は一切なく、顔も雰囲気もげっそりとしてる。髪もボサボサで目の下には色濃いクマが出来てる。


 この変わりように驚いたのは藤枝だ、1か月前に少し話した時は生きる希望と喜びに溢れ、将来も約束されギラついたプライドが天にも昇るような人だった。


 それがこの変わりよう、1週間で10キロ以上も痩せたんじゃないかという感じすらある。もはやオシャレとかで取り繕う気力もないのが伺える、全てを失った者の顔だ。


 家は燃え、会社は霧散、財産は差し押さえ、両親は逮捕、人脈はリセット、色々な支払いとかもある。もはや生きる気力すらあるか疑わしい状態である。


「早速だがよ嬢ちゃん、幽霊とかオバケって信じるかい?」


「え…?」


 功がいきなりそっち方面に切り込む、誠治としてはもう少し会話を重ねて歩み寄りの体勢を作らせてから話すつもりだった。


「いえ…あの、カルトとかの勧誘ですか…? 私そういうの信じてないんで~…」


「カルトかぁ~、そう思われても仕方ないよねぇ~」


「青島さん、もう言っちゃいますけど俺ら一家は霊能者なんです。青島さんにはオカルト方面で問題が起きてるとしか思えない事態が~…」


 何処かでは切り出さなければならなかった話だ、早い事に越した事は無いが誠治としては早すぎると感じてる。実際に早すぎたらしく、青島は精神を爆発させてしまった。


「ふざけないでよ!! どいつもコイツもアタシのことバカにして! 人が大変な目に遭ってるのがそんなに面白いのかよ! うぁぁーー!!」


 溜まりに溜まってたものが爆発する、水が入ってたコップは倒れバッグは床に落ち、大きな声で叫びながらボロボロと涙をこぼす。


「…せ…先輩…、おちついて……っ…」


「お前誰だよ!! お前なんか知らねぇよ! アタシのこと助けるんじゃなかったのかよ!!」


 青島は藤枝の事など覚えてなかった、絶頂期には様々な出会いがあっただろう。その中で数秒だけ話した後輩の事など頭の片隅にも記憶を置いてなかったようだ。


「アタシが作った会社に居た連中は金欲しさにヤバイ配信してアカ消し喰らって! 親は酒飲み運転で逮捕!」


「アタシに擦り寄ってきてた奴らはもう見向きもしない! 前は遅くても20秒でSNSメッセージ返ってきてたのに今は誰も返さない!」 


「家も無くなって財産も差し押さえ予定! 昨日は弁護士を名乗ってきた奴に金払ったら、そんな弁護士居ないって言われるし! なんなんだよコレぇ!」


 泣きっ面に蜂、弱り目に祟り目、踏んだり蹴ったり、もう良い事が何一つ起こってない。どうやら詐欺被害にまで遭遇したようだ。


 落ちぶれるとはこういう事、助けても得が無いから誰も見向きもしない、むしろ最後に残った金が消える前に搾り取ろうという奴が寄ってくる。


 追い詰められた人は騙しやすいというのが世の常だ、追い詰められた人間を騙す専門詐欺師すら居るくらいである。そういう輩が今の青島に寄ってきてるらしく、なるべく知らない人間とは会わないようしてるようだ。


「アタシを助けるって言って金だけ取ってった奴、これで3人目だよ! 昨日なんてアタシが面倒見てやった愛美(らぶみ)が紹介してきた男に騙されたし!」


 もう落ちるとこまで落ちてる、浪費も酷かったらしく金も大部分は使ってしまってる。残った金である1千万円くらいも騙されたりして今は消えかかってるらしい。そこに来年は2億円くらいの税金が圧し掛かるだろう。


 これが現実だ、金がある内は良いが無くなれば全てが消えるのが資産家だ。高校2年にして青島 理実亜は全てを失った。


 資産家は金が無くなったら誰も助けてくれない事を知ってるから隠し金を作るのだろうか、保身や保険のための金すら失った時、資産家は彼女のようになるのかも知れない。


 正しい形で人脈を作れなかったのが痛いのか、全てが怪現象による被害なのか、どちらにしてもあんまりだ。


「もう死ぬしかないじゃん! 何で誰も助けてくれないんだよ! クソがっ! クソがぁーー! うぁぁーーん!」 


 灰川家と藤枝は何も言わず、店主である王も他の客が居ない事もあって店を閉めて一行に対応してくれた。この状況ではとても店など開けれない。




「落ち着いた? まずお茶でも飲みなって、お金とかはさっき言った通り俺が持つからさ」


「ぐすっ……すいません…」


 しばらくして青島は泣き止み、どうにか精神が落ち着いたようだ。泣き過ぎて目は腫れてしまって鼻も赤くなってるが、思い切り叫んで涙を流した事によって少しストレスも消えたようである。


 功はこうやって精神を落ち着けさせる事を狙ったのだ。先程は見た目上は平静を保ってたが、実際には話をするというような状態ではなかったのを見抜いてた。


 今は見た目的にはアレだが、精神的には先程より落ち着いてる状態だ。精神爆発の危険も今は低いだろう。


「嬢ちゃんすまねぇな、でも霊能者ってのは本当なんだ」


「そうですか……騙すとかないですよね…、お金とか払うつもりないですよ…」


「構やしねぇよ、起きて半畳、寝て一畳、飯を食っても2合半、それで足りてるわな」


 いつの間にか会話の中心地が誠治から功に移ってる、この相手は誠治よりも功の方が向いてる相手だろう。オカルト関係でも相手との相性とかはあり、ここが合わないと話なんかもしづらい物である。


 誠治も功も砂遊も灰川事務所では落ちぶれた奴の顔でも拝もうなんて言ってたが、実際には笑うような気持ちは無かったし、ちゃんと解決するつもりだ。


 物事を進めるには、まず信じてもらうことが大切だ。家族で来た事や同じ学校の後輩の知り合いという事もあり、今はほんの少しだが灰川家を信じる心が芽生えたようである。


「ちょっとばかしケータイ見せてくんねぇかい? 今時はスマホって言うんだったか」


「はい…見せるくらいなら…」


 そう言って青島はバッグからスマホを取り出すと……。


 「「「………」」」


 霊能者から見たら『真っ黒な空間』とでも言うような何かがバッグから出される。これはスマホなのか?、持ち運びが出来るブラックホールか何かじゃないのか?というくらい黒い何かが出された。


 ヤバい、これはヤバい……これの効果を受ける対象になってしまったら、どれだけ運気が下がるか分かったもんじゃない。これはもう生きてる限りは良い事など発生しないと言い切れるくらいの物だ。


 その時、店の外から何かが聞こえる。どうやら歩いてた人が何かを感じ取ったらしい。


「おえぇぇーー! 野球で100連続デッドボールを出したピッチャーの心の中みたいな匂いがするぅー! うげぇぇーー!」


「人の店の前で何してるアルか! 100連続デッドボールとか、ピッチャーより相手チームが心配アルよ! 吐くなら向こうの大鳳中華飯店の前か店内で吐くネ!」


 どうやら霊嗅覚を持った人が通りがかったらしく、この禍々しい何かの匂いを感じてしまったらしい。由奈が居たらヤバかったかもしれない。


「こりゃヒデェ……スマホどころか手が見えねぇ…」


「これは…ちょっと…、まぁ、試しに祓ってみるか」


「うひゃ~、私もこんなの初めて見たよぉ~…」


 灰川家が見た所、もはや疑いようもなく呪いが発生してるのが分かった。こんなの持ち歩いてたら不幸になって当然だ、


 試しに3人で『灰川流陽呪術・邪気霧消×3』を使ったが。


「だめだ…1秒もしないで元に戻りやがる…」


「一応だけどスマホってのは分かったな、父ちゃんも見えたろ?」


「すぐに効果が戻っちゃうタイプだねぇ~、キモイなぁ~」


「…あんなの……祓えない……」


 藤枝も同意見であり、大本の部分をどうにかしないと解決には至らない怪異のようだ。モヤも酷くてスマホに入ってるであろう怪異アプリも霊能者たちでは確認できない。


 どうやらバッグとかポケットに入れてると呪いなどは隠れ、一定以上離れても感知は難しくなるらしい。店の外の人の反応を考えると10mちょっとくらいの距離だろうか?


 そうこうしてると中華店の入り口の扉が開く。


「な!なにこの気配っ! レジェンダリー・ブラックオーガでも出現したのっ!?」


「あ、アリエルだ」


 急いで入って来たのはアリエルだった、聖剣もケースに入れて持って来てるが大急ぎで着替えたのか服が乱れてる。


「アリエル君も気付いたか、まあ当然だろうな」


「今日もアリエル君が見れて眼福だね、うししっ」


「ボクは女の子です! あと霊能力もありますから、こんなの感知できます!」


 結局は藤枝と青島、あと(ワン)にも霊能力者だと明かしてしまったが問題は無い筈だ。とくに藤枝は見ればアリエルが霊能者だと分かっただろう。


 ここで誠治が誰でも思いつきそうな事を提案しようと、アリエルを店の奥に連れてって頼み込む。


「なあアリエル、ちょっと聖剣で試して欲しい事あんだけど、このスマホの悪念モヤを斬ってみてくれないか?」


「うわっ! これスマートフォンなの!? 元が何なのか見えないよっ」


「頼むって、ファースって凄いんだろ? 何かしら効果あるかもだし」 


「わかったよ、えいっ」


 店の奥の半個室でソードケースから聖剣を取り出して斬ってみるが。


「ダメだな…やっぱ元に戻るか」


「こういうのは元を斬らないと効果が無いよっ、それにデジタルフェティッシュは剣じゃ斬れないんだから」


「デジタルフェティッシュ? 電子呪物って事か?」


「そうだよ、最近は割と出て来てるらしいよ。ネットのイラストが呪物の力を持ったり、そういうネット呪物さ」


「それってどんな風に対処するんだ?」 


 アリエルが言うにはデジタル呪物は厄介で、スマホやパソコンを変えたとしても当然のように入ってる事が多いらしい。破壊しても効果は続くし、実質的に対処が出来ない物もあるそうだ。


「対処するには聖なる力を持った何かを機械に入れることだよ、MID7は聖なるアプリの開発をしてるけど上手く行ってないんだ」


「でも上手く対処できた事もあったんだよな? そういうのってどんな事をしたんだ?」


「う~ん、一回で効果が終わっちゃう単発怪異も多いし、ほとんどは対処する必要が無いくらいの被害だけど~…」


 アリエルから聞き出した情報は意外と単純な事だった。




「青島さん、まだ俺達の事を信じられないかも知れませんが、何もかも上手くいくようになった前後から今までの話をしてもらえませんか?」


「え…はい、分かりました…」


 青島はまだ灰川たちを信じてはいないが、もし解決の可能性が1mmでもあるならと思い話し始める。


 以前の調子に乗った雰囲気は今は完全に無く、藤枝も少し安心する。ついでにアリエルと王も席に着いて話を聞いていた。


 王は霊能力者じゃないが色んな事に詳しい感じの人で、灰川が霊能者だというのも知ってる。


「私が色んな事が上手く行くようになったのは、今年度が始まるかくらいの時だったんですけど…」


 そこからは青島の人生が一気に好転した辺りの話が始まった。




  人生の好転


 理実亜はある時期から人生が一気に良い方向へ向かった。


 両親は元はヤンキーだったとかの話は聞いたが今は普通の勤め人であり、都内に一軒家を持てるくらいに稼ぎがある家庭である。


 そんな理実亜もヤンキーに片足を突っ込んでおり、彼氏もヤンキーで学校とかもサボったりする。そんな理実亜は高校2年に上がった直後には『成績確認テストが面倒だな』とか思ってた。


 新学期が始まった辺りに見覚えのないアプリがスマホに入ってたのを覚えてるそうだが、特に気にせず削除もしなかったらしい。


「えっ? 数学で97点!? 私の平均点数96点じゃん!?」


 最初に感じた異変はそのテストだったらしい。普段は赤点ギリギリの30点前後が当たり前だったのに、テキトーに書いたと思ってた答えが殆ど正解してたのだ。


 その時は『こんな事ってあるんだ』くらいにしか思わなかったが、その時から毎日のように1万円札を拾ったり、趣味のソシャゲの無料ガチャでSSRを一発で引いたりする。


 そんなある日、学校をサボって見てたイングラで何となく見た配信でギフト(お金)がポンポンと飛んでいた。


 最近の自分はツイてるし、自分も同じようにやったら稼げるんじゃ?


 そう思って試しにすぐに配信を始めて見たら……。


コメント:かわいい!

コメント:面白い!

コメント:すげえ!


 飛ぶわ流れるわギフトの嵐!たったの1日で100万円の稼ぎになった。


 その配信では特別な事なんて何もしなかった、エロ系でもなければスゴ技系やキレッキレのダンスや歌もない、ただ少し喋ってるだけの配信だ。


 それが配信後にはTwittoerXのトレンドにイングラマー名であるリミアの名が1位に輝き、登録者爆増、憧れの有名イングラマーからコラボの誘いが来る、ネットニュースに載る、即座に信じられない事態となった。


 夜にもう一度配信してみると、視聴者は2万人超えでギフトが雨と見紛うほど降り注ぐ。しかも複数の有名イングラマーから『お前には負けたよ』『イングラ四天王の入れ替えか』なんてコメントまで付いて更に盛り上がる。


 昨日までは普通のJKだったのに一夜明けたら時の人になってる、学校に行ったら同級生や先輩後輩から取り囲まれ『凄い!凄い!』の絶賛の嵐!まるでシンデレラだ。


 自分は才能があったんだ、自分って美人だったんだ、自分のトークって面白いんだ!私って凄い人間なんだ、他の奴とは違うんだ!


 高校2年の者にそう思わせるに充分な出来事だ、その後もどんどん成功していく。


 有名インフルエンサーとコラボ、tika tokaで配信したら即バズ、投稿した動画は全て100万再生超え、広告収益もギフト収益もあっという間に1億なんて金額になる。


 そんな折にネットで学生起業家の話を見て、自分も高校生で会社を興して有名になりたい!と思う。その数分後に大手の起業支援会社から『起業モデルになって欲しい、代金は無料』という話が来た。


 tika tokaとInstar gramの配信や投稿に特化した会社を興して、所属者は学校の知り合いでイングラやティッカをやってる者を誘い、これも大成功。


 ティーン雑誌に『高校生企業家現る!大成功の秘訣!』とかのインタビューが載る、ネット番組にインフルエンサー代表として呼ばれる、少し前の自分からは考えられない躍進だ。この時点で付き合ってた彼氏はフった。


 六本木や赤坂といった高級な街で開かれるパーティーに呼ばれるようになり、若くてイケメンで優しい王子様みたいな金持ち社長5人から付き合ってくれなんて言われる。


 ブランド物のバッグや服、アクセサリーが毎日のように沢山家に届く、もう何をやっても成功する。疑いようが無い、自分は神に選ばれた人間だったんだ!


 


「なるほどなぁ、そんな体験したら誰だって多かれ少なかれ、そうもならぁな」


「俺だってそうなるって…だから欲目ってのは怖いんだ…」


「私もバズった時は脳ミソ融けたからねぇ~、でも流石にそこまでのバズは体験した事ないよぉ」


「……そういうの……よく分からない…」


「ボクもよく分かんないけど、ちょっとの間にアイドルの人達みたくなったって事だよねっ?」


「ワタシのお店もバズって欲しいアルよ!」


 それぞれの反応を示し、大なり小なり同じようになるだろうとの話が出た。


 大勢の人に影響力を持つという気持ち良さ、大金を得た高揚感、何人もの人が凄いとか格好良いとか言って寄って来る、こんな環境に居たら絶対に性格が変わってしまう。


 話を聞きながら何となく推察すると、この怪異は総数は多くないようだ。もし総数が多かったら大変な騒ぎになってるだろうし、変なアプリの噂はもっと広まってても良いはずだ。


「でも…今思うとその辺りからアタシ、性格がヤバい事になってたと思う…」


 青島はそこから先の事も語り出したのだった。


 自分は特別ではない事に気付くという時に、手遅れや取り返しの付かない事になって初めて気付くことになる場合もあるかも知れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ