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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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222/333

222話 起業で儲けるのは楽しいぞ♪

こんなタイトルですが今回からホラーに入ります、苦手な方はご注意下さい。

 アリエルの一件があった翌日、灰川事務所には神坂市乃、澄風空羽、春川桜の3名の姿があった。


 だが所長である灰川誠治の姿が無い、その理由はアリエルを連れて用足しに出てるからである。なのに何故に彼女たちは灰川事務所に居るのか、理由は簡単だ。


「ギドラー、また会えたねー」


「にゃん、にゃん、にゃ~ん」


「マフ子~…大好きだよ~、むふふ~」


「にゃん…」


「オモチ~! にゃー子ちゃん! 好きすぎる~!」


「なゃ~~」


「にゃーー」


 彼女たちは昨日に灰川が夜にやった、いつもの誰も来ない配信の時に猫どもが来てる事を聞きここに来た。朝に功が事務所に猫を連れてきて置いてったのだ。


 予約したペット可のホテルはペットだけを置いて外出する事が原則禁止であり、預ける場合は結構な金額が取られるため丁度良いのでこっちに連れて来た。


 彼女たちは土曜に午前に予定してた仕事は動画編集だったり、小説やコラムの執筆だったりという後に回せる仕事だったため、率先して猫たちの面倒見を買って出てくれた。


 テブクロと福ポンと仲の良い由奈は配信があるため来れないが、必ず会いに来ると鼻息を荒くしてたのは言うまでもない。


「やっぱカワイイなー、灰川さんの実家の動物たち」


「そうだよね市乃ちゃん、オモチの肉球大好きだよ!」


「なゃ~~」


「由奈ちゃん来れなくて残念だね~、テブクロと福ポンも手触り良くて可愛いな~、マフ子大好き~」 


「きゅ~」「ゆ~んっ」


「にゃぁ……にゃ…」


 3人とも思い思いに猫たちと過ごしつつ、Vtuber活動でのグチとか、最近あった良かった事とかを話し合う。


 OBTテレビでの2回目の収録は来週で、どんな感じにするか市乃と空羽が確認しあったりもする。


 桜はSNSなどを更新しつつマフ子と再び会えた事を喜び、にゃー子は誠治の事務所の中を歩き回って『何か面白いもんでもないかにゃ』と探してる。


 個人情報書類とか大事な仕事書類とかを収めた棚は鍵が掛かってるし、仕事用パソコンはパスワードが掛かってるので勝手に触れない。


 その辺は流石に市乃たちが相手だろうと、何か不測の事があってはいけないからセキュリティはしっかりしてる。


 そんな風に3人でくつろぐ午前だったが、事務所のインターホンが鳴った。


「はーい」


「え、ちょ、市乃ちゃん! ここ灰川さんの事務所だよ!」


「あっ!そうだった!」


 条件反射で市乃が返事をしてしまい、空羽が注意するが後の祭りだ。中から返事を受けた誰かがドアを開けて入ってきてしまった。


「……ぇ…? 市乃ちゃん……?」


「えっ? 朱鷺美(ときみ)ちゃんっ?」


 ドアを開けて現れたのは藤枝(ふじえだ) 朱鷺美(ときみ)、四楓院家で怪異が発生した時に知り合った子であり、市乃がSNSでメッセージのやり取りをしてる子であった。


 藤枝は市乃と同じ高校1年生の少女で、前髪で目を隠してしまう程に内気で人付き合いが苦手な子である。


「…ぁ…ぁゎゎ……」


 灰川の事務所だと思ったのに居たのは3名の同年代の子達で、友達が一人居るとはいえ藤枝にとっては結構な威圧感がある光景だった。


「こんにちは、市乃ちゃんの友達かな? 私は澄風空羽だよ、よろしくね」


「こんにちわだよ~、私は春川桜で、この子はマフ子~」


「にゃ……」


「…ょ…よろしく……っ…」


 空羽と桜も挨拶をし、すぐに藤枝がどんな性格なのかは察する事が出来た。凄く内向的な子だというのは誰でも分かる。


「会うの久しぶりだねー、灰川さんに用事?」


「…ぅん……ぇっと……」


 藤枝は知らない人が居るから帰ろうかと思ったが、事務所の中に入れられてしまう。


 事前に灰川に連絡して約束を取り付ければ良いのかも知れないが、藤枝にとっては誰かに電話する事やメッセージを送ることもハードルが高く、思い切って事務所に直で来たのだ。


「空羽先輩、桜ちゃん、朱鷺美ちゃんって灰川さんと同じ霊能者なんだよー」


「えっ、そうなんだねっ」


「そうなんだ~、霊能者さんって結構いるんだね~」


「…ぁ……ぅん…」


 藤枝は霊能者だが今日は別の用事で灰川事務所に来た、しかし肝心の灰川が居ないためどうしようか考えてる。 


「朱鷺美ちゃん、灰川さんに用事って、もしかして前に言ってた先輩が高校生で会社を起業したって話っ?」


「……うん…」


「え~? 凄いな~、どんな会社なの~?」


 藤枝は高校1年生で、通ってるのは渋谷から少し離れた場所にある共学の公立高校だ。


 偏差値は少し低めでスポーツも盛んではない、いわば何処にでもある普通の高校で、通う生徒も中流家庭の者が多い。


「…ぃ…Instar gram…イングラとtika toka、ティッカのインフルエンサーの会社…」


 「「!!」」


 イングラ、ティッカ、それは若年層から圧倒的な支持を受ける動画や情報発信サイトであり、様々な人達が動画を投稿してインフルエンサーになる事を目指してる。


 動画一本あたりの尺は短めで、ダンス、化粧、料理の写真、その他様々なオシャレなコンテンツが人気を博す。


 イングラマーと呼ばれる人たちの男女比は大きく傾いており、女性が90%とすら言われる程の偏りだ。


 tika tokaも似たような物であり、同じようなコンテンツが並んでるが毛並みが違うという感じがある。


 こちらは男女比はイングラほど傾いてないが、それでも若年女性の利用者が多い。投稿者はティッカーと呼ばれてる。


「凄いじゃん! 高校生で会社立ち上げるなんて、憧れるー!」


「私も凄いと思うよ、イングラもティッカも人気だもんね」


 イングラとティッカはフォロワーが仮に10万人居たとすると、動画の投稿本数にもよるだろうが月に10万円から30万円を稼げるとされてる。


 その他にもライブ配信機能もあって、投げ銭があれば稼ぎは増えるだろう。Vtuber配信なども出来るから、シャイニングゲートやハッピーリレー所属者も進出してる者が居るプラットフォームだ。


 ここに居る3人もアカウントを持っており、こちらのサイトからも収益を得てる。しかし彼女たちの本格的な活動の場はyour-tubeであり、イングラやティッカからの収益はyour-tubeには及ばない。


「朱鷺美ちゃんも所属してるのっ? だとしたらアカウント教えてよー、視聴アカでフォローするからっ」


「私は……そういうの…やってないよ…、怖いから……」


 藤枝はネット活動などを積極的にやるタイプではなく、動画サイトもあまり見ない。例外的に友達である三ツ橋エリスだけは見ており楽しんでるのだが、それ以外は自由鷹ナツハの名前すら知らない。


「でも、灰川さんに何の相談なのかな? 正式な仕事だったら灰川さんはシャイゲとハピレの仕事以外は受けないと思うよ?」


「…ぇ…? そぅなん…ですか…? ぅぅ……」


 藤枝は前髪で目を隠してる状態ですら人と目を長く合わせられない、初対面の空羽に対しては喋るだけで精いっぱいだ。


「藤枝さんの先輩の会社で何かあったの~? 高校生実業家のお話、聞いてみたいな~」


「ねえねえ朱鷺美ちゃんっ、話してよー。私も聞いてみたいっ」


「私も興味あるなっ、話しても大丈夫な事だったら聞きたい」 


「…ぁぅ……ぇっと…」


 3人とも女子高生であり、こういう話に興味津々の世代の真っただ中である。


 会社がどうとかの話はコンプライアンスとかあるだろうが、藤枝は所属者でもないのだから関係はない。それに藤枝は実はその先輩とは知り合いでも何でもなく、ただ少し事情を感じ取っただけという経緯がある。


「…ぇと……皆さんは…、…怖い話とか…大丈夫ですか…?」


「えっ? オカルトの相談なの?」


「朱鷺美ちゃんだけだと解決できない案件とか?」


 実質的には先輩が起業した会社に関する話というより、オカルト方面の相談なのだ。話しても構わないだろう。


 3人はオカルトの話もOKと言い、藤枝は話し始めた。




 藤枝は実はあまり学校に行ってない、人見知りが激し過ぎて友達も作れず、まともに学校生活が送れないのだ。高校は最低限の出席日数を満たして卒業する事が目標であり、学校に行く日は少ない。


 そんな藤枝だが周囲の話は聞こえて来るし、誰かの噂話とかに全く興味が無い訳じゃない。そういう部分はやはり年頃の少女である。


 1か月ほど前に学校に行った所、クラスの男子と女子が集まって何かの話をワイワイやってた。


理実亜(りみあ)先輩スゲーよな! イングラとティッカの事務所?、高2で立ち上げて4か月で何千万も稼いだんだろ!?」


「そうそう! しかも所属したいって子が他の学校からもどんどん来てるらしくってさ!」


「この前は赤坂の高級バーとかのパーティーに行ったんだって! プールバーとかでも人脈どんどん広げてるんだってよ!」


 どうやら高校生で、しかも同じ学校で会社を興した先輩が居るらしく、藤枝は心の中で『すごいなぁ…』とか思う。


 しかし自分には無理だ、会社とかよく分かんないし、そんなコミュニケーション能力なんて無い。羨ましいとは思いつつ所詮は他人事だ。


 自分は子供の頃に霊能力があるって言って周囲から引かれたトラウマもある。それが元で今のような性質になった。


 実は藤枝も高校生の身でありながらお金を稼いだ事がある、それは霊能力者として頼まれた案件だ。


 何件か怪現象を解決してるし、少し有名な霊能力者の人と知り合いで、その紹介で少し前にお金持ちの人の家に発生した怪現象の解決に当たって50万円ほどの謝礼を頂いた。


 そのお金は母に渡したけど、母からは『危険に首を突っ込むな』と注意された。普段の両親は子供に関心は無いけど、心配はしてくれてると感じて嬉しかった。


「……ぇ…?」


 そんな事を考えつつ放課後になり学校から帰ろうとすると、廊下の前の方から歩いてきた5人程のグループに異様な気配を感じた。


「理実亜先輩、今日ってネットニュース“現代勝ち組の真実”の取材の後、六本木のパーティーでしたっけ? 良いなぁ~!」


「高校生で会社作って、自分もインフルエンサーで4か月で会社の利益5000万円って、もう才能の塊すぎますって!」


「私も理実亜の会社に所属したら1か月でフォロワー50万人だし! 投げ銭で200万も儲かったし最高なんだけど!」


「人脈も凄いし! 六本木のイケメン社長5人から付き合わない?って言われてるんですよね! 私もそうなりたいなぁ~!」


「全然大した事ないって、私たったの4億しか合計で稼いでないんだよ? 全然貧乏人だから」


 そのグループは件の高校生実業家の先輩の者達で、どうやら派手に稼ぎながら遊んでるらしい。 


 理実亜という人は謙遜という名の自慢をしまくり、凄い悦に浸ってる。もう気持ち良くて仕方ないだろう。


「今度はセンター街に事務所作ろうかって思ってるんだけど、良い物件がなくってさ。どこか良い場所知らない?」


「事務所!? しかもセンター街!? 勝ち組過ぎますって!」


「だったらクラブの隣とかラウンジの隣とかに事務所作ろうよ!」


「もっと稼いで高校生の内に自社ビル持ちましょうよ! 先輩なら出来ますって!」


 学生起業、若者の一種の憧れだ。大学生の内に事業を起こして稼ぐ、高校生の内に起業して同級生とは一線を画す存在になる。そういう憧れを持った事がある人は多いだろう。


 しかし現実は厳しい、社会を知らない学生が商売やビジネスの世界に入っても勝てる見込みは低い。同業者に潰されるか、そもそもビジネスが立ち行かなくなり廃業が殆どだ。


 人に使われるのが嫌だから起業するとか、雇われて少ない給料で使われるのがバカバカしいとか、自分は他人とは違って有能だとか、そういう労働嫌悪や自己過大評価で起業したりする者も居るが大概は失敗する。


 人に使われた事が無い人はどのように人を使えば良いのか分からない事が多いし、少ない給料と言って労働を無条件にバカにする人はお金の重みなどを知らない事が多い。


 自分は他人とは違って優秀という自惚れは誰だって持つものだが大概は勘違い、いつかは現実に気付く日が来る。


 しかし例外は何処にだって居るものだ、それが藤枝の学校の先輩の学生起業した理実亜という人物だ。


「ってか騒ぎすぎ! 今時フツーだから!高校で1000万も稼げないとかあり得ないから!」


「だよね~! イングラかティッカでちょっと踊れば金が飛んで来るし!」


「バカなオジ相手にちょっとブリっ子すれば金くらい稼げるし!」


 高校2年にして既に多額の金を稼ぐインフルエンサーであり、校内では有名人、ネットの世界でも現実でも既に勝ち組の存在である。


 才覚があった?凄い美人でファンが大勢ついた?投稿する動画や配信が凄い?、それらは藤枝には分からないが自分には関係ない、しかし人見知りな彼女でも見過ごせない部分が理実亜という先輩にはあった。


「…ぁ……ぁの…っ」


「ん?誰? 先輩の友達? 上履きの色は1年だよね?」


「理実亜は忙しいんだっての、気安く話し掛けんなってのにさ」


「あんたフォロワー何人? 10万人以下は先輩は相手しないって決めてんだけど?」


 もう調子の乗り方が半端じゃないが、そういう気質は10代の子では持ちやすい物だ。


 藤枝は勇気を出して話し掛けたが、どう言えば、どう話せば良いのか分からない。


「……その……スマホ…っ、…あんまりっ……良くないのが…っ…」


「ハッキリ喋れや陰キャ女! アタシら株式会社rimia-zに文句あんのかよ!?」


「ひっ……」


 元から陽キャ気質のグループの取り巻き連中が藤枝に強く当たる、この学校ではネットでのフォロワー数が多い奴が偉いみたいな風潮が出来ており、そのカーストの頂点に立つ彼女たちの気位は想像を絶するほど高いのだ。


 藤枝が怖がってると、グループの中心にして株式会社rimia-zを立ち上げた高校生実業家、『株式会社rimia-z代表取締役社長 インフルエンサー統括総合事業推進会長』という、何か偉さを誇示したいような肩書の理実亜が藤枝に話し掛ける。


「ゴメンね、アタシさ、一般人とかとは話さないポリシーあるからさ。しかも陰キャとかって生理的に無理だから、今後は話し掛けないでくれる? アタシの価値が落ちるじゃん?」


「…ぁ……ぅ………」


「どうしてもアタシと話したいって言うなら、動画サイトのアルフィックMで10万は投げ銭して私のランキング上げに貢献して。そしたら1分は話聞いてあげても良いから」 


 こうして理実亜は藤枝を取り巻きとともに散々にバカにして去って行った、こんな性格の奴でも配信で上手く猫被ってれば稼げるのが怖い。


 その後は先輩が怖かった上にけんもほろろに袖にされたから藤枝は関わらないようにして、また学校を休みつつ生活してる内にその事は忘れた。




「ちょ! 凄い嫌な奴じゃん!」


「関わりたくないな~、配信収益が生んだ化け物だね~」


「漫画に出て来そうな人だね、でも実際にそういう人って居るもんね」


 稼いで人格が変わるとか、金を持ったり地位が高くなって調子に乗る者なんて古今東西の何処にだって居る。むしろそういった環境になって一切の精神影響を受けるなと言う方が無理だろう。


「でもその先輩がオカルトと何か関係あるのー? 嫌な気配がしたって言ってたけど」 


「…うん……その先輩…、1週間前から…すごくイヤな事ばかり起こってるって聞いたの…」


「えっ…?」


 その先輩は1週間前から次々と苦難に見舞われてるそうで、藤枝が聞こえて来た話だと。



・立ち上げた会社の所属者全員がキワドイ動画や配信をしてるという事で、全員が即アカウント削除


・同じ日に両親が2人とも飲酒運転で大事故を起こして逮捕、飲酒運転は保険が効かない


・即座に人脈だった人達からバッサリ切り捨てられる


・自宅が全焼、しかも火災保険が期限切れで更新して無かったらしく保険金は出ない


・地位の無くなった彼女から取り巻きたちは離れ、メッセージすら送ってない


・両親の貯蓄などは事故の賠償で全て差し押さえられる模様、しかも本人は税金の事を分かってなかったから来年は恐ろしい額の徴税が来る


・その他大小様々



「な、なにそれっ…! 怖いっ…!」


「調子に乗ってたからって、流石に可哀想…」


「心の病気にならないと良いけど~…」


 人気インフルエンサーがネットの名声を全て失った、それだけでも人によっては自殺すら頭によぎるショックだろう。


 しかしその先輩の境遇はそれ以上だ、ネットの名声どころか両親は逮捕され資産は消える予定、家まで無くなった。どんな精神になるか想像が付かない。


「その先輩……スマホから…、凄くイヤな気配があったの……たぶん…怪異…」


 「「!!」」


 怪異というのは灰川から軽くだが3人は説明を受けており、厄介なオカルト現象の総称みたいなものだと聞かされてる。


 スマホに宿る怪現象の事をオカルト展覧会の時に藤枝は灰川に聞いていた、それは『幸せのアプリ』という物だ。(133話)


 スマホにいつの間にか入ってる本人しか認識不能のアプリで、利用者に大きな幸運や利益をもたらす利益付与型怪異であるとされてる。


 しかしアプリの霊的な改竄が簡単に出来てしまい、それどころか使用者の霊力や生命力の影響を受けて、数か月でアプリが悪い意味で変化してしまうそうなのだ。


 藤枝はその怪異が同校の先輩に降りかかったと睨んでる。


「灰川さん、午後前には帰って来るから相談しよっ? その方が良いよ朱鷺美ちゃん」


「うん…ありがとう……、市乃ちゃん……」


 とりあえずは灰川が来るまで猫たちと戯れてようという事になり、藤枝もオモチの肉球を触ったりしながら過ごす。


 そんな中で一匹だけ考え込む猫叉が居る。霊力などは猫叉陽呪術で完全に隠し、藤枝の高い霊能感知力を搔い潜って普通の猫のフリをしている。


 利益付与型怪異の皮を被った悪質な怪異が最近は増えてる、でも簡単には見つからないし、厄介にゃんだよにゃ、とか考えていた。




 パチンコにおいて確率変動という特定の状態を指す言葉がある、当たりを引きやすくしてプレイヤーを勝たせて楽しませようという状態だ。


 それに類似した現象が人生において発生したらどうなるだろうか?


 1%の努力で120%の成果が得られ、100円の投資が100万円になり、ちょっと配信で喋るだけで投げ銭が飛び交う。


 この世の春だ、世界は自分を中心に回ってる、金も贅沢も思いのままだ!ちまちま稼ぐなんてバカがする事だ!


 そんな状態が長く続くだろうか?、大した努力も無く特別以上に優れた何かが無い人が、都合よく全てが上手く行くだろうか?


 パチンコでは特殊な状況下や特殊な台でない限りは自分が確変状態だと分かる、台がピカピカ光りながら派手な音が鳴るし『確変です』と表示されるから打ち手は『確変だ!』『特別な状態だ!』と分かるのだ。


 しかし仮に人生において発生したらどうだろう?、音も鳴らないし確変だと告げられる事もないから、自分が確率変動状態にあると分からないだろう。


 そもそもそれは本当に確変なのか?、重大な何かを犠牲にしたり、決して前借りしてはいけない何かを使って当たりを引き寄せてるだけじゃないのか?

 

 最近のパチンコにはリミット機能という物がある、一定以上の出玉が放出された台はストップが掛かり、それ以上は打てなくなって止まるという機能だ。それが人生に適応されたら?


 現代に溢れるスマホアプリ、便利で楽しい数々のアプリがいっぱいだ。ゲーム、音楽、買い物、漫画や小説、映画に動画に配信に、数え切れないほどアプリが出回ってる。


 そのアプリは安全だろうか?、個人情報を抜かれる、詐欺の標的にされる、ウイルス、違法ギャンブルアプリ、そんな危険の他にもオカルト的な危険がある物が出回るかも知れない。


 もし入れてるだけで幸せになるアプリがあったらどうでしょう、利用者に幸せをもたらす天使のようなアプリです。


 天使が天使のままでずっと居られる確率はどのくらい?、天使が悪魔にならない保証はありますか?、天使だと信じてたものが悪魔だった時どうしますか?


 人生確率変動アプリ、沢山の幸せをお届けします!


 リミット到達?、これ以上は出ない?、では打ち止めです。


 今日から当店は回収日、当たりは一切出しません!、軍資金は貴方と周囲の『不幸』でどうでしょう?


  ※軍資金とはギャンブルに使うお金の俗称です。

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自業自得だね、この娘助けるくらいならヤンキー漢字辞典助けてほしいね。 個人の感想ですw
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