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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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220/333

220話 スカウト?オカルト相談?

 えげつない首の寝違えをしました…

 文章とか内容はいつも以上に不安定だと思います…

 ハッピーリレーのトレーニングルームという名のレッスンルームに行こうとしてる、小さめだがダンスレッスンなどが出来る場所だ。


 本来は動物は禁止だが、今回は動物たちにも見たい所があると言われて特別入室は花田社長が許可してくれた。


 昨今のVtuberは求められる技能の多様化が進んでる、特に企業勢は配信トーク力や配信ゲーム技能はもちろん、歌唱力や声優仕事なんかの技能も要求されはじめてる。


 マルチな技能が必要とされ始めてる状態だ、それは個人の努力や企業のレッスン等でもある程度は培える。


 しかし個別のプロには敵わないし、外部仕事が来るのは多くの場合は『名の知れたVtuberの看板パワー』が欲しいからである。つまり多少の難があろうと名前が売れてれば使ってもらえるのだ。


 そこにマルチで最高な才能を持った人が現れたらどうなる?


 Vtuberトーク技能、ゲーム実況力、役者演技、声優演技、ダンス、各種歌の歌唱力、素の愛嬌、その他、それらが揃っってるかもしれない人物が、芸能活動やネット活動を生業とする社長の目に留まったら?


 放っておける訳がない、囲ってしまいたいと考えるだろう、そう思わせる何かがあるか確かめようと思ってハッピーリレーに向かい、社屋に入ってレッスンルームに入った。




「アリエル君の演技とかダンス楽しみだねぇ、こんな可愛い子とか見てるだけで眼福だよぉ、うししっ」


「砂遊、あの子が頑張る時は黙ってるんだぞ、おめぇは変に騒がしい時があるからな」


 砂遊と功が何か喋ってる時、誠治はレッスンルームの片隅で愛純と朋絵とアリエルの事を考える。

 

 アリエルはMID7の隊員であり、免罪符のヴァンパイアが日本に渡らせてしまった機関の所属者だ。愛純と朋絵はそのヴァンパイアの被害が原因の一つとなり、終わった配信企業の所属者である。


 もしその事を互いに知ってしまったらどうなるのだろうか、もちろん事の経緯にアリエルに責任が無いのは分かる。しかし知ってしまえば本人は気にするだろう。


 愛純と朋絵はどう思うだろう?、そもそもヴァンパイアなんて信じるのか、アカシックベースに行った愛純はともかく、朋絵は信じられない可能性が高いだろう。


 もし事を知って信じたら2人はアリエルを恨むだろうか、恨みというのは理屈じゃない、大好きだった場所が消えた原因を阻止できなかった組織の所属者、恨む可能性は消しきれない。


 そもそも事の経緯が複雑すぎる、MID7どころか国家超常対処局の存在も誰にも言ってないし、言う訳にいかない。


 どうにもモヤモヤする心になるが、今それを考えたって仕方ないと判断する。少なくともアリエルの今を邪魔したくない、あの子は今は人生の中で有数の試練を与えられてるのだ。


「あのっ、服はこれで良いんですか? スポーツウェアみたいですけど」


「構わないよ、サイズは大丈夫みたいだね。では試しに少し演技をしてみよう、台本を少し覚えて欲しいんだが日本語は読めるかね?」


「はい、読めますよ。ここからここまでを覚えれば良いんですねっ? お芝居って初めてだからワクワクするなぁ」


 日本語は読み書きも出来るらしく、台本を読んでアレコレと花田社長がどのようにやれば良いか等を教えていく。


 赤いジャージを着て演技をするようだが、スタイリッシュさの無いジャージを着てても絵になる子だ。


 アリエルは真面目に教えを聞きつつイメージをしてる、どのようにやれば良いか、演技とはどのように声を出せば良いのか、それらを逡巡していく。


「すいません灰川さん、少しオカルト方面の事で相談したい事があるんですが」


「え? ガゼッスさんが?」


 レッスンルームに来てそう言ってきたのはハッピーリレー配信者のGAZ-ES、彼は成人の配信者で大学卒の人で配信歴は個人勢含めて7年である。


 視聴者登録は現在は8万人、本業はアパレル店員で男性向けファッションのチャンネルをやってる動画投稿者でもある。


 イケメンで性格は派手好き……というのは配信で作ってる顔で、実は割と普通の性格だ。しかし男のオシャレの事になると老いも若きもなく早口になる。


「ハピレさんの配信者さんですかぁ、今なら3人の灰川の中から選べますよぉ~、うししっ」


「息子が世話になってます、誠治の父の功です」


「えっ? 灰川さんのご家族さんですか? 初めまして、ハッピーリレー所属のガゼッスです」


 オカルト相談を男に持ちかけられるのは珍しいなと思いつつ、廊下で話を聞く事になるがレッスンルームに居る人達に話はしておくことにする。 


「社長、アリエル君、ってか皆、少しオカルト相談を持ち掛けられたから抜けますね。アリエル君頑張ってな」


「えっ? ハイカワ、ボクのお芝居見てくれないのっ? それにオカルト相談っ?気になるっ!」


「お芝居は後で見にこれるかもだからさ、オカルト相談は気にしないこと、今からやる事に集中してな」


「灰川さんって本当にオカルトの相談とか来るんですね~」


「私はアリエル君の演技に興味あるから見てますよ、灰川さんも頑張って来て下さいね」


 こうして誠治は久々のハッピーリレー所属者からのオカルト相談に乗る事になり、ルームを抜けて廊下に出たのだった。




「おいおいっ、どうして父ちゃんと砂遊も来てるんだよ! プライバシーとか個人情報とか色々あるんだからよ!」


「いや誠治、だってガゼッスさんが俺らにも相談に乗って欲しいって言うしよ」


「私はアリエル君見てたかったけどねぇ、でもこっちも気になるんよぉ」


 どうやらガゼッスは功と砂遊にも霊能力の有無を聞いたようで、その上で相談を頼んだようだった。


「相談ってのは自分の事じゃなくて、俺の配信者仲間のことなんですよ」


「外部の人? 個人勢の人かぁ、それでどうしたんですか?」


 相談したい事はガゼッスの知り合いの動画投稿者の事で、その人物はドゥーア・カムナギという男性のyour-tuberとの事だった。


 ドゥーアはyour-tubeの他にtika tokaなどでも動画投稿や配信を行ってる個人勢であり、フォロワーはyour tubeでは30万人、tika tokaでも同じくらいらしい。ミドルインフルエンサーという感じだ。


 収益は月に総合平均で現在70万円くらいだったらしいのだが、何か異変が起きてるそうだ。


「ドゥーア君って少し前にタトゥーを新しく入れたんですけど、そこから上手く行ってないそうなんです」


「タトゥー? ああ、そういえばドゥーアって名前は聞いた事あるな……元ヤンキーの強気系配信者でしたっけ?」


「そうです、良く知ってますね灰川さん」


 ドゥーアという配信者は元はヤンキーでケンカも強く、動画や配信でもかなり強気な事を言ってる人物である。


 視聴者に対して『弱い奴とか生きてる価値ねぇんだよ!』とか『回転寿司しか食ったことねぇとか生きてて恥ずかしくねぇの?』とか言ったりする尖り過ぎ配信者である。


 何度も炎上してるし界隈でもヤバイ奴と言われてるようで、あまりお近づきになりたくない類の人物だ。


「ガゼッスさん、こんな奴と知り合いなんですか? 危ないから近寄らない方が良いですよ、ハピレは犯罪者とかと関わってるってなったら即日で契約解除ですしね」


「ドゥーア君とは配信者の集まりで会ったんですけど、オシャレとかにも詳しいから情報交換はしてたんです。他にも色んな裏事情とか知ってるからタメになりますし」


 いわゆるヤンチャ系とか言われる人たちは情報通な人も多いらしく、ドゥーアという人はオシャレなんかも詳しいから付き合いがあったそうだ。


 ガゼッスは30才だがドゥーアは24歳だそうで、少し年は離れてるが話なんかはしやすいタイプのヤンキー系だそうなのだ。


「でも大麻とか振り込め詐欺とかやってそうだし、そのうち人も殺すだろうから関係は切った方が良いですよ。過去にイジメとかしてただろうし、恨みも買ってるでしょうしね」 


「ちょっ、彼は犯罪者じゃありませんって! ヤンキー系はあくまで系であって、あれはキャラ付けなんですって!」


 実はドゥーアのヤンキー系はキャラ付けであり、実際にはケンカも出来ないし飲み会の場でも酒も1杯飲んだら顔が真っ赤だったという。


 大麻や詐欺など出来る性格ではないのだが、配信で1回だけヤンキーキャラをやったらバズってしまい、そこからヤンチャ系として生きる事を決意したのだという。


 タトゥーを彫ったりして配信で色々と強気な発言や、弱者を見下すような発言をしてるが演技との事だ。バズが原因で方向性が決定づけられてしまった人らしい。


 しかし本人としては今の自分に満足してるらしく、今後もこの性格を続けたいとの事だ。


「でも最近はタトゥーを新しく入れたら運が悪くなったとしか思えないとかで、ちょっと見てくれませんか?」


「良いですよ、スマホに写真あります? ちょっと見てみましょう」


 タトゥーはオカルト的に見れば運気を変えたりすると言われるし、タトゥーを入れる事で受ける精神効果もバカに出来ない。


 オカルトで見れば体の表面のオーラの流れが変わって運の向きが変わる、守護霊が影響を受けて霊気が変わるとかの話がある。


 精神効果で見れば自信の向上などが得られて明るくなったり強気になったりするし、個性の表現という形で性格の個性が強くなったりする。


 悪い面だけではないが良い事とは日本ではあまり受け取られないが、タトゥーに憧れる人も多いのは事実だ。タトゥーを入れてればヤンキーっぽく見えるし、ドゥーアはそれを見越して彫ったのだろう。


 スマホを灰川親子3人で見る、どんな絵柄が出て来るのだろうか。ドラゴン、人物画、カッコイイ文字、独特な模様、そんな感じのが出て来ると思ったら。


「「ぎゃはははっっ!」」


「うしししっ!!」


「これ見たら、やっぱそうなりますよね」 


 写真を見るとドゥーアの背中と思われる所に、ギッシリと漢字が書かれてるのだ。それらの文字は物騒な文字ばっかりだ。


 破、壊、殺、害、悪、魔、爆、弾、堕、落、などなど一文字づつヤバイ漢字が並んでる。


「背中でクロスワードパズルでもやるのかよ!! ぎゃはははっ!」


「コイツやばいっ! うしししっ! こんなの運気下がるに決まってんじゃん!」


「ヤンキーの漢字辞典にでもなりたいのかよっ! がはははっ!誠治より短絡的だ!」


「やっぱり運とか下がってるんですか?」


 ドゥーアという奴の背中はヤンキーっぽい文字がビッシリ書かれた状態だ、なんだか不良漢字の欲張りセットみたいな感じである。


「ぎゃはははっ…はぁはぁ…、まあ運気は下がってるんじゃないですかね、ぶふっ…」


「ついでに知能も下がってそうだな、ははっ、コイツは誰かに相談とかしなかったのかよっ」


「うししっ…見事に試練を呼び寄せる文字ばっかりだねぇ、こりゃ消した方が良いと思うぞ~」


 これはもう素人が見ても運が下がると分かりそうな背中だ、悪念を引き寄せるに決まってる。


「オカルトがどうとか以前の問題ですよ、元がどんな人物だったか分かりませんが、こんな背中にするんだから演技とやらに人格が引っ張られてますって」


「そうですかね、注意した方が良いんでしょうかね」


「いえ、そっと距離を置いて縁を切った方が良いでしょう。前も炎上してたし、人格的に危ないです」


 炎上しやすい奴に寄っていったら危険しかない、言っても聞かないだろうし損得を考えるなら近づかない方が良い。そこまで仲が良いとも見えないから、やはり距離を置いた方が良いだろう。


 悪い人間は元から悪く生まれた訳じゃない、何かの要因があって悪に傾く。その傾きがドゥーアという人物にあるのが分かり、ガゼッスもその事に気付いてるから相談に来たように見える。


 オカルト的な原因があるから悪くなってるという気休めが欲しかったのかも知れないが、それは言えない相談だ。


 タトゥーを入れたから性格が変わって尖りが増えて上手く行かなくなったのか、元からそういう気質があったのかは知らない。しかしドゥーアという人物は良くない方向に向かってるように見える。


 企業所属でネット活動をする以上は交友関係だって完全な自由にはならない、危険な人間と関わると言うなら首は切られる可能性は高くなる。


 相手が配信者じゃなければ話は変わったかもしれないが、同じ土俵に居る者となれば近くに居れば危険だ。


「実は帽子ブランドのwin-capから当事務所にモデル案件の依頼があったんです、ガゼッスさんにお願いしようかと思ってたんですが、こういう繋がりはちょっと困ります」


「ええっ!? モデル案件!? しかも俺に回してくれるって…!」


 このブランドは新ブランドだが有名デザイナーの弟子が立ち上げたとあって、少し話題になってるらしい。


 その師匠が四楓院系列と関りがあるらしく、その伝手で灰川事務所に仕事の振りが回ってきた。もはや2社への広告紹介事務所みたくなってるが、右から左に話を回すだけなので手数料は非常に低い。


「炎上しやすい危ない繋がりがあるようなので、win-capの仕事はボルボル君に回す方向に~~……」


「ドゥーア君とは距離を置きます!今後は連絡しません! 俺に回して下さい!」


 時には美味しい話をぶら下げて所属者の心を変えるような真似もするようになってきた、むしろそういう事をしないとやって行けないのが分かってきた。


 やはりドゥーアとはそこまで親密な仲という訳でもないらしく、すぐに関係は見直すことを約束してくれた。


 配信者とかVtuberにも人によっては責任感や立場の認識が甘い人が居て、それ故に迂闊に仕事は回せないという事情がある。


 本気で『この人はダメだ』と思った人や、会社から『この所属者はこの仕事は危ない』という判断をされた人には仕事は回らない。


 ガゼッスはそういう類の人物ではなく、順当に仕事をしっかりやる性格なのだ。彼のオシャレに関する情熱は逃がすのは惜しいし、繋ぎ止めたい人材だと誠治は思う。だからこそこういう手を取った。


「危ない人とは付き合わないようにして、今ハッピーリレーは大事な時期なんですから」


「はい、気を付けますっ」


 こうしてささやかなオカルト相談は終わり、結局はタトゥーなんて自己責任、危ない奴には近寄らないという事で落ち着いた。


 タトゥーが悪い訳じゃなく、明らかに世の中に不適切な文字とかを入れる人とかは危ないという話だ。殺の文字とかオカルト的にも悪いし危険人物だと自分から触れ回るような物である。


 20才を越えれば社会人としての責任が出る、個人配信者であれば何かして視聴者や収益が減っても他人のせいには出来ない。


 他人を頼ろうとしても『関わりたくない』と思われたら話はそこまでだ、そもそも今回の件はオカルトがどうとかより本人の精神面の問題だ。あんな文字を入れるのだから精神が変な方に向かってるのは見て取れる。


 ガゼッスにはドゥーアに『背中の文字は消して、心療内科でカウンセリングを受けなさい』とアドバイスでも人づてで伝えて、やり取りは今後は控えるように言っておいた。


 誠治は基本的には所属者側の味方だが、他の所属者に迷惑や火が及ぶような危険性がある場合は言い含めるようにしてる。


 配信を始めとしたネット業界は大きな夢がある場だが、同時に大きな絶望もある世界である。


 しかも配信者や動画投稿者には既に逆風が吹き始めてる、ここから先を生き残るには業界から1歩でも10歩でも先んじなければならない状況だ。


 そんな中でつまらない事で炎上したり飛び火を受けたら被害は想像を超えるかもしれない。今の界隈から先んじようとする2社にとっては、所属者のプライベート人間関係だって気を付けなければならない。




「オカルト相談って言うから悪霊でも出たのかと思ったぞ、前みたいによ」


「そんなのあんまり無いっての、だいたいは思い過ごしとか軽いものって父ちゃんも知ってるだろ」


「あのヤンキー漢字辞典男、これからどぅするんだろ~ね、うししっ」


 見た目のインパクトだけは凄い背中だったが、オカルト的には解決手段はタトゥーを消すというアドバイスくらいしか出来ない。


「でもよ、配信者だってデジタルタトゥーみたいなもんだから気を付けないとだな」


「そだね~、これはヤバイ!って思っても後の祭りだもんね」


 体のタトゥーは今は消せるそうだがネットに刻まれたタトゥーは消えない、炎上するような行為や発言、そういったものは今時はすぐ拡散される。ネットの絶望の一つこそデジタルタトゥーだろう。


 配信者やVtuberとして活動というステージに立ったら、そういった物を含めて覚悟する必要がある。1回のミスがその後の人生に響くほどの取り返しの付かない事になったりするのだ。


「砂遊もVを続ける気なら覚悟はしとけよな、もちろん炎上とかしないのが一番だけどよ」


「私はネットでしか生きられん~! リアルで生きるの無理なんだよぉ~! お兄ちゃん何とかしてけれ~!」


「砂遊がこんな風に育つとか思ってなかったぞ、俺ぁ」


 そんな事を言いながら少しばかり功に今後の事の相談したり、外部に連絡を取るなど用事を済ませレッスンルームに戻る。




「す、凄いぞアリエル君! 演技もダンスも想像の遥か上だ! 歌も素晴らしいじゃないか!」


「花田社長、落ち着いて下さいって! アリエル君がビックリしてますから!」


「アリエル君って何処の子なんですかっ!? あんな凄いの見た事ないです!」


「猫と演技するのも出来るなんてっ…歌もダンス踊りながらでも全く乱れないしっ…!」


 4人が驚きながらアリエルのお試し演技やダンスを見て反応してる、残念ながら既に全て終わってしまってたようだ。


「そんなに良かったですかっ? くふふっ、お芝居とか歌とか初めてだったけど、褒めてもらえてウレシイなっ」


「初めてでアレなのか! アリエル君、親御さんに相談がある、君をスカウトしたい!」


「えっ!? scout!? えっと…っ」 


 アリエルは今日一日で発生してる出来事の数々に翻弄されてる、しかしそれらは自分で処理して対処しなければならないのだ。


 9才だろうが大人だろうが時間は待ってくれない、チャンスの到来も待ってはくれない、どう対処して試練に向かうかは自分で決めなければならない身となった。


 しかし流石に酷である、今日だけでいきなり異国の地にほっぽり出され、何処に住むかも決まってない、何かを成し遂げると言っても何をすれば良いのかは決まってない。


 聖剣の加護とかがあるといってもアリエルは子供なのだ、MID7で隊員をしてたからと言って生活や社会インフラの事なども理解は出来てない。


「花田社長、アリエル君は今日は色々とあって疲れてるし、親御さんは海外です。その辺の話は明日以降にしましょうよ」


「そうなのかねっ、すまないアリエル君! 私とした事が少し熱くなってしまったようだ…佳那美君と組ませたらどうなる事か…」


「あ、いえっ、ボクもお芝居とか歌とか興味ありますのでっ」


 最高の才の片鱗を見せられた花田社長が熱くなり、渡辺社長や朋絵も驚いて言葉を失っていた。


 どうやらそれ程にアリエルの輝きは凄かったようで、灰川としては現場を見れなかったのが悔やまれる。ついでに功と砂遊も残念がってた。


「アリエル君、とりあえず家だけどジャックさんが俺のアパートの隣の部屋と、灰川事務所のビルの2階に居住可能部屋があってさ、そこを借りたから使って良いからね」


「えっっ? ハイカワっ、良いのっ!? ありがとう! でも何で2つの部屋を借りるの?」


「それはホラ…聖剣がちょっとさ…」


「あ……」


 灰川はジャックからアリエルの身の回りの事を整えて欲しいと言われ、オカルト相談を受けてる間や後に当面の住居を手配したのだ。


 灰川事務所は雑居ビルの2階にあり、事務所が入ってる廊下の一つ奥には住居に使用できる部屋があって、そこを管理人に連絡して借り上げた。


「でもハイカワっ、もう一つのアパートの部屋は?」


「聖剣のパワーの充填が出来る場所っての、俺の自宅アパートの部屋なんだよ。今後は充填も必要になるだろうし、あのアパートは安いから借りるようジャックさんに連絡したんだ」


 事務所の住居は小学校に通うための住所置き用と実用のための場所だ、小学校はこちらの学校に通わせた方が良いという話がアリエルの家から出たらしい。


 この場所は佳那美の通う渋谷東南第3小学校の学区であり、場所ゆえなのか第3小学校は生徒の都合などに相当な融通を利かせてくれる。


 芸能活動をしてる生徒や、特別教育を受けてる子などが居て、授業の免除や公欠などが比較的簡単に出来るそうだ。


 アリエルは勉強は特に問題なく、ここから先はアーヴァス家の試練などの要件で学校を休む可能性があるらしく、こちらを選んだとの事だ。


「とにかく明日は休みだから、色々な手続き代理とか生活に必要な買い物とか、手伝ってあげるから」


「本当っ!? ありがとうハイカワっ、どうすれば良いか分からなかったからスゴく助かるっ」


 誠治は流石にアリエルを放っておく事が出来ず、ジャックと連絡を取ってアリエルの生活に必要な物などをある程度は聞き出した。これで買い物などは問題はないだろう。


 功も砂遊も数日は東京に居るそうだから、仕事外で暇な時間が出来たら何かしら手伝ってもらえる筈だ。


 アリエルのちゃんとした住居は後から決めるしかない。とりあえずは灰川がすぐに話を付けられる場所を急遽にジャックに紹介して、代金などはアリエルの家が迅速に支払うらしい。


「愛純ちゃん、朋絵さん、この際だから言っとくね。灰川事務所は総合芸能事務所みたいな事を始めるから2人をスカウトしたい。返事は月曜日までにくれたら嬉しい」


「ええっ!? 突然すぎますよ!」


「灰川さんが芸能事務所? Vtuberも募集してるんですかっ?」


「募集ってか小規模な試金石事務所だからさ、信用できる知ってる人しか入所させられないって感じ。上手く行くかも保証は出来ない」


 もうアレコレを済ませるために手早く話をしていく、ゴチャゴチャした事は苦手だから一気に片付けたいのだ。


 考えるべき事は色々とあるが、とにかく動きを優先させる。そのために声だけは掛けておくが、今から始める事務所に2人が来るかどうかは分からない。


「お兄ちゃぁ~ん、私はいらんかね~? 視聴者20万Vだったんだぞ~?」


「砂遊はちゃんと言うこと聞くのか? 炎上とかゴメンだぞ、ハピレとシャイゲとも関わるんだから迷惑を掛けないって約束できっか?」


「するする、うしししっ! じゃあ私もスカウトって事でよろしいね~」


 所属者は場合によっては佳那美一人になるだろう、後は事務関係などをやってくれる人とかも探さなきゃいけない。


 愛純と朋絵と砂遊の3名は個人ではVtuberは出来ないだろう、自己マネジメントが不得意だったり出来なかったりするからだ。


 愛純はVtuberとして自分が目立ちたいという目的があり、朋絵は東京で一人暮らしする生活費を稼ぎたい、砂遊はオタク活動とかを潤沢に出来る稼ぎが欲しいという目的がある。


 それぞれ本気度も違うが、少なくとも情報を外部に漏らしたりする性質じゃないのは分かり、一応は安全だというのは分かるのだ。


 砂遊は炎上の危険性、愛純は煽り過ぎて反感を買う、朋絵もコメントなどに過度に反発する可能性などはある。しかも愛純と朋絵とアリエルには見えない確執がある。


 しかし完全無欠の人間など居ないし、その条件を満たして、なおかつ良い配信や動画活動が出来る者だけを集めようとしたら何年も掛かるだろう。


 当初の『2社のVtuberの活動の裾野を広げる』という目的に向かうという所を見れば、そんな時間は掛けてられない。1週間でも長いくらいだ。


 その目的の布石を打つために佳那美の灰川事務所への移籍はほぼ確定事項だ、Vtuberをやりながら役者活動や子役モデル、本格的な歌唱能力なども見せてエンターテインメント界隈に斬り込んでいくという目論見だ。


 今の時代のエンターテインメントは非常に厳しい、娯楽が溢れてる今の世は人を楽しませるという事のハードルが上がりに上がってる。


 テレビや動画は最初の3分が面白くなければ切られる、ゲームは傑作以外はクソゲー扱い、漫画や小説は数ページ読んで少しでも面白くないと思われたら切られる、配信や動画投稿も少しでも炎上すれば即デジタルタトゥー。


 これらのハードルを乗り越えて身を立てるのはコネや伝手だけでは絶対に無理だ、才能も努力も支援も必要になる。

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