表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/333

219話 揃って話し合い

 灰川事務所に人が集まったが、スペースが完全にキャパオーバーなので場所を移す事にした。


 近くのハッピーリレー事務所の会議室でも使おうかという話になったが、先程まで合同会議が行われていて両社のスタッフ達が残ってるらしい。今頃は社長のグチでも言い合ってそうだから止めておこうという話になった。


 そこで近くにある喫茶店の『アウド村』に行こうという話になる。ここは値段が割高だが、ある事情からここが良いという話になったのだ。


「いらっしゃいませ、何名様ですか?」


「9人と猫が6匹、狐と狸が1匹づつです」


「多いですねぇ、テーブルくっ付けますから、こちらへどうぞ」


 この喫茶店はペットOKの店で、(いさお)が前みたいに猫たちを田舎から連れて来てたからここにした。猫たちはどうしても東京に着いて来ると聞かなかったようである。


「オモチ、マフ子、ギドラ、テブクロと福ポン、静かにしてるんだぞ」


「なゃ~」


「にゃ……」


「にゃん、にゃん、にゃん」


「きゅ~」「ゆんっ」


 誠治がそう言うとにゃー子が訳して伝える、ここに居る猫たちは灰川家の言う事を良く聞く子達だから心配ないだろう。


 しかし人間の言葉が完全に理解できる訳ではなく、にゃー子が訳しても『そういうニュアンス』みたいな伝わり方だったり、そもそも言う事を聞かない時もあったりするから面倒な時もある。


「す、すごいですっ! 灰川さんの言う事っ、猫ちゃんたち完全に聞いてます!」


「凄いだろ愛純ちゃん、俺のこと見直したか~?」


「はいっ、灰川さんって猫と同じレベルってことなんですねっ! 見直しました!」


「どういう意味だよそりゃ! こんにゃろ!」


 そんなやり取りをしてから最初にそれぞれに自己紹介をしていく、ここに居る人達は互いに面識が無かったり薄かったりする状態だ。


「株式会社シャイニングゲート代表取締役の渡辺です、灰川さんには仕事で大変にお世話になっております」


「配信企業のハッピーリレー社長の花田 雄吾です。同じく灰川さんには助けられてます」


「これはどうも、誠治の父の功です。花田社長には少し前に会いましたよね? 息子が世話になってます」


「誠治お兄ちゃんの妹の灰川 砂遊(さゆ)ですよ~、好きな物はアニメとゲームですぜぇ~」


「ハイカワさんのスポーツ仲間のジャックです、よろしく」


「ハイカワの、えーと…トモダチ?のアリエルですっ」


「あ、えっと…朋絵って言います、灰川さんのアパートの2階に住んでます…」


乃木塚(のぎづか) 愛純です、灰川さんが入院してた病院に入院してた事がありますっ」


 それぞれ力が抜けてたり緊張したりしながら、嘘ついたり、思い付きの事を言ったりしつつ自己紹介が終わった。


 朋絵と愛純はとりあえず嘘は言ってないが、元ライクスペース所属者というのは言い難いようで今は口にしてない。


 ジャックとアリエルには霊能力者な事とかは言わないように頼み、にゃー子が猫叉の事なんかも黙っておくよう頼んでおいた。


「それで灰川さん、ここに来たのは良いけど何を話せば良いのかな?」


「え? 何ってそりゃ…え? 俺が行こうって言った訳じゃないですよ渡辺社長」


「確かに場の流れでここに来たような感じだったな、まあ良いじゃないか。お代は私が持つから好きに話そう、私も猫とかは嫌いではないしね」


「良いんですか花田社長、ゴチになりまぁす!」


「まずは注文しよう、ドリンクでもフードでも好きに注文してくれたまえ」


 先に注文する事にして、それぞれがドリンクなどを注文していくが。


「ねえハイカワ、パフェって食べ物なのっ? インテリアじゃなかったのっ?」


「おう、甘いデザートって感じだな。クリームとかチョコとか使っててな、ソフトアイスとかも入ってるぞ。イギリスじゃ有名じゃないのか?」


「そうなんだねっ、美味しそう! ボクこれが良いなっ、チョコレイトパフェ!あとアールグレイも欲しいっ!」


「もちろん構わんよ。店員さん、チョコパフェもお願いできるかね?」


「ジャックさんも紅茶にします? 俺はアイスティーで」


「俺はプロテインがあれば有難いが、無かったらコーラを頼む」


 それぞれに花田社長にお礼を言うが、ここに来たのは場の流れであり大きな目的は無い。 


 社長2人は昨日の話を少しだけ煮詰めるために灰川の所に来たが、それは後でも構わないのである。


「そういえば灰川さんの妹さん、砂遊さんだったよね? ぶりっつ・ばすたーに居たって話だけど、凄いじゃないか。Vネームは何て名前だったの?」


「うしししっ…天下のシャイゲさんの社長さんに言われるとは嬉しいですよぉ、Vでは丑獅子(うししし)イオスって名前でしたぁ」


「おお! 1年で20万登録になった丑獅子イオス君だったのか! 灰川君の妹さんだとは知らなかった」


「花田社長、俺も知りませんでした…あの笑い声がキモイVtuberは砂遊だったのか…」


「そうだぞお兄ちゃんよ~、声で気付かなかったのか~? うしししっ」


 誠治もそのVは見た事があり、笑い声とかオタクっぽい配信内容だったのを覚えてる。しかし頭の中の砂遊の声と違いがあり、全く気付けなかった。


 配信内容は尖ってたが、今は配信者もVtuberも飽和してるご時世、1年で登録者20万人というのは凄い事だ。それだけ変な求心力がある配信が出来てたという事だろう。


「そういや砂遊って何しに来たの? 学校休んでまで来たんだよな?」


「そーだよお兄ちゃ! シャイゲさんとハピレさんと一緒に仕事してるとか聞いてなかったべよぉ! なして教えてくれなかったべやぁ!」


「田舎弁が出てるぞ砂遊ー、だってお前ってSNSとか送っても既読無視するし、電話も出ねぇじゃん。嫌われてんのかと思って連絡しなかったんだよ」


「うぉ兄ちゃんのこと嫌いになるかー! 返事のメッセージ打つのとか面倒だし、電話とか誰相手でも緊張するからヤなだけなんだって~!」


 砂遊はVtuberやってた時は疲れもあってメッセージを返さなかったり、電話は昔にオカルト絡みで凄く怖い思いをしており苦手なのだ。


 それもあって疎遠になってたが、砂遊は兄が嫌いになった訳ではないとの事だ。ただ別に話とかしなくても生活できるからしなかっただけらしい。


 砂遊が東京まで着いて来た理由は、自分をシャイゲかハピレに拾い上げてもらえないか相談に来たようだ。


「お前なぁ…まぁ丁度良いか」


「うしししっ、よろしくねお兄ちゃん」 


 コネ採用とか恥ずかしくないのか?と今の砂遊に聞いたとしても、『身近にコネがあるのに使わない方が恥ずかしい!』とか返って来そうで怖い。


 それにコネ採用して欲しそうな人物が他に2人居る、そっちに飛び火しないように立ち回るのも重要だ。


「花田社長、渡辺社長、砂遊と愛純ちゃんと朋絵さん、どうですか? 実は愛純ちゃんと朋絵さんも元ライクスペースのVなんです」


「灰川さんが前に言ってた人達かっ、この前の事件は災難だったね」


「い、いえっ、……はい…」


 誠治はライクスペースの所属者と付き合いがあった事は言っており、2社がライクスペースの人間に接触禁止令を出した後も2人は例外として認めてもらってた。もちろん内部情報などは言わない事が前提だった。


「残念だけど、シャイニングゲートは応募を今は締め切ってる状態でね、今は採用は出来ないんだ」


「ハッピーリレーも今は所属者を増やせない状態でね、スタッフも手一杯な状態なんだ。分かってくれるかね」


「そうですよね…シャイニングゲートさんもハッピーリレーさんもテレビ進出があるし、忙しいですよね…」


「うう~~…やっぱり世の中そんなに上手く行く訳ないですよね、灰川さんのコネ程度じゃダメでしたか~…」


「お兄ちゃん頼りないなぁ、東京まで来て損しちゃったよぉ、秋葉原行って帰るかな~」


 やはりというか断られる、そう簡単に事が運ぶわけがない。2社とも別会社に所属してた人は避ける傾向にあり、そもそも今は大事な時期なので新人募集は実質的にしてない状態だ。


「2社は今は所属者を募集してないけど、ちょうど所属者を募集してる所があるんじゃないかな灰川さん?」


「そうだな、考えてみても良いんじゃないかね? ライクスペースもぶりっつ・ばすたーさんも、Vの所属者は誰も粒ぞろいだったぞ灰川君」


「え? それって……」


 その言葉が意味するところはつまり、という考えに至った時だった。



「ふわぁ~~、パフェって美味しい~! もぐもぐっ、こんなの初めてだよっ。くふふっ」


 「「!!?」」



 話に着いて行けないアリエルがパフェを口にして笑顔になった瞬間だった。


 喫茶アウド村の店内に花が咲いたかのように、パァっと光が差したような感覚を全員が感じる。


 アリエルの笑顔が眩しく、可愛く、凄く愛嬌があり、声も透き通りながら体を抜けるようで、老若男女関係なく五感を惹きつけられるような感覚がしたのだ。


「ふおお~~、アリエル君かわいいなぁ~~、目が離せないくらい可愛いぞぉ~! こんなイケショタ見た事ない!うししっ」


「い、今…まるでお花畑の中で深呼吸したみたいな気分になりました…っ!」


「なに今の感覚っ…!? 体と脳があの子のことを見て、声を聞けって命令してきたような感じだったんだけどっ…!」


 砂遊、愛純、朋絵の3人が驚きの声を上げる。アリエルの存在感に目と耳を集中せざるを得ない程の何かを感じたのだ。


 これが聖剣の加護を受ける資格者であるアリエル本来の魅力の力であった。アリエルは聖剣の加護が霊力や剣術に向かない代わりに、他の部分に割り当てられてしまってる担い手である。


 容姿、魅力、美声、雰囲気、運、各種の才覚、その他もろもろに秀でた才ある人間として生まれて育ち、それは生涯に渡って消える事は無い。


 これは聖剣が『この者になら加護を与えても問題ない』『この者にこそ加護を与えたい』と感じて与える物であり、決して自分の意志でどうにかなるものではない。故にありがたくもあり迷惑な時もある。 


「確かに凄かったな、マジかって思っちまったよ」


「誠治もそう思ったか? こりゃ霊力がどうとか以前の奴だな、人を惹きつける力ってのが元から凄いみてぇだ」


 灰川親子も驚く、功は心の中で『この子は将来は100人の女を愛に狂わせる可能性があるぞ』なんて思うほど、アリエルから“魅力や人の目を引く”といった才能を感じた。


 聖剣の加護はあくまでバフ、しかも割合バフのような物であるらしく、元の数値が低かったら上昇も低くなる。アリエルは元から高いそれらの素質が天井値近くまで上げられてるのだ。


 その値は現時点でプロのカリスマ俳優とかスーパーアイドルみたいな感じであり、もはや存在してるだけで人々の癒しになるような状態なのである。


 つまりアリエルは『元から魅力のバケモノ』であるという事で、MID7の人達はアリエルの魅力に心を融かされないよう対処するため、サイコセラピーを受ける羽目にすらなってる。


「ハイカワっ、ジャパンにはこんなに美味しいものがあるんだねっ! ボクもっと食べてみたいなっ」


「ダメだぞアリエル君、これ以上食ったら夕ご飯が食べれなくなっちゃうだろ」


「ハイカワ、ママみたいなこと言うんだねっ! なんだか面白いやっ、くふふっ」


 場の空気がアリエルに集中する、甘くて美味しいものを食べて、普段は抑えてるであろう無邪気な笑い方も魅力的に周囲に響く。


 それを見て聞いて黙ってられなくなったのは2社の社長達だ。


「アリエル君、すまないんだが少しだけハッピーリレーの事務所に来てみないかね? 歌や演技、ダンスなんかに興味はないだろうか?」


「えっ? music?acting? ボクが?」


「凄い逸材だ…男の子じゃなくて年齢がもう少し上だったらなぁ…」


 花田社長はアリエルのあまりの存在感や雰囲気を感じ取り、即座にその才覚の確認をしたいと思い立つ。


「君はミュージシャンや俳優の才能があるかも知れない、それを確かめさせて欲しい」


 渡辺社長は誰にも聞こえない声でアリエルの年齢や性別がシャイニングゲートに沿わない事を惜しむ。


 当初は花田社長も渡辺社長もアリエルを愛嬌のある子だなとは思えど、特に気に掛ける事は無かった。しかし今は違った、アリエルが普通の才覚の子ではないと気付かされてしまった。


 もう素通りは出来ない、芸能の一種の世界で日々を生きる社長たちは、その才を目にしてただ逃がすのは耐えがたい事だった。


 花田社長は数年の配信事務所経営を通して学んだ事があり、その一つは芸能界で生きるのに必要な才能とVtuberや配信で名を上げる才能は別の種類ではないかという、実感的な考えだった。


 しかしアリエルからは、そのどちらの才能も非常に高く感じる。それが一瞬で分からせられたのだ。


「えっと…ジャック隊長、どうすれば…」


「アリエル、ここから先どうするか、これからは自分で全てを決めるんだ。もう試練は始まってるぞ」


「……!」


 既に試練は始まってる、ここから先の事はアリエルは自分で決めて自分の意志で進まなければならない。


 道路を右に行くのか左に行くのか、何処に行くのか、何をするのか、これからは全てを自身で決めなければいけない。


 今までの生活とは違った事であり、その実感が今になってアリエルを覆った。自由とは楽しい事だが同時に怖いこと、何を決めて、何をして、何が起こるかは全て自分次第、その実感が急速に沸き立つ。


「アリエル、ここに居る皆さんは、そういう事を自分で決めて歩いてる人達なんだ。お前にもそういう風に立派に自分の道を行けるよう、両親からも一族からも期待されてるぞ」


「………!」


「もちろん何もかも一人じゃない、困ったらハイカワさんを頼れとタナカは言った。それと知らない場所では、自分の力になってくれる人と手を取り合うのも大事なことだぞ」


 右も左も分からない異国の地、そういう場所では信用できる人や頼れる人を探さなければならない。それを探すのも自分の力ではあるが、それをいきなり9才の子にやらせるのは酷だ。


 ここに居るのは全員が時には成功したり失敗したりして生きてる人達だ、それは今まで『選ぶ』という事が少なかったアリエルとは、全く違う生き方をして来たという事である。


「これからは失敗する事もあるだろう、それはもう誰かのせいには出来ない」


「……うん…!」


 ジャックはMID7の隊長格でアリエルの上司ではあるが、兄のような親戚のおじさんのような気持でこの子を見てる。


 ここに居る人達は信用に値するかどうか、人生経験が豊富な大人でないと分からない事を教えてあげるのは構わない筈だ。ジャックはここに居る者達は信用に値する人たちだと判断した。


 それなりに名の知られた会社の社長として社会的地位がある人達、家族と仲の良い自営業の灰川、目標に向かおうという目をしてる子達、そういう人達は信用できるとジャックは今までの経験から知っている。


「それに家から言われたこと、日本に居る間に何かを成し遂げろという試練にも繋がるかも知れないぞ、どうするかはお前次第だ。良いか?強くなるんだ」


「……!」


 ここから先は全て自分次第だとジャックは言う、そして目的を見失わず進めとも釘を刺す。


 強くなれ、アリエルがかねてから言われて来た言葉だ。その言葉には様々な意味が込められてるのを、何となく感じ取った。


 強さとは何か?剣が強い、体が強い、心が強い、権力が強い、財力が強い、それらが意味する事は何か。


 それは生きる力であり、道を進む力であり、世の中の悪意や理不尽に負けない力なのだと心の何処かでアリエルは直感する。


 弱いままでは何かに振り回されてばかりになる、弱いままでは自分の道は歩けない、悪意に屈して卑屈になったり自分の意見を言えないようになってしまうかもしれない。


 そうならないためには自分というモノを強くしなければならない、自分が自分であるために必要なもの、それが強さだと感じる。


 今までは誰かの言う事を聞いていれば良かった、しかしこれからは違う。


 この試練は何かを成し遂げる事が本質なんじゃない!心や気持ちが正しく強くなる事が本質なんだとアリエルは見抜いた。


「ボクやってみたい! 歌とお芝居、あとダンスもやってみたい! 前にインターネットで歌とかダンスの映像を見たよっ、すごかった! Vtuberも興味あるっ」


 強くなるにはどうするべきか?まずは色々な事を試して知って、色々な人と出会う事だろう。それだけで色々な体験や知識が吸収できるのだ。


 そして自分に何があって何が無いのか、自分に何が適してて何が向いてないのか、そういう事だって分かる。


 己を知り、人間を知り、社会を知る。そこから得たもので強くなれ、それがアーヴァス家がアリエルに課した本当の試練なのだ。


 聖剣の担い手としてはアリエルはハッキリ言って欠陥がある、しかしその加護は人のため世のために役に立つ。もっとも欠陥と言っても聖剣使いとしてはという話であり、霊能者としては破格の力を有してるのは言うまでもない。


「ジャック、ボクやってみるよっ。ジャパンでボクが何を出来るのか試してみるっ」


「ああ、存分に試せよアリエル、強くなれ。俺はもう行かなければならない、荷物はハイカワさんの事務所に急遽で送ってもらうよう手配した」


「えっ??」


「住処も何も自分で決めるんだ、出来る出来ないじゃなく、やらなければならない事だ」


 ジャックは突然の帰国命令が出て、今から空港に向かわなければならなくなった。本国で厄介な怪異が発生したのである。


「そんなっ…ううんっ…! ボクやるよっ…! 父さんと母さんに、ボクがどんな活躍が出来るか期待しててって伝えてねっ」


「ああ、まずは手始めに、ここに居る奴らの度肝を抜いてやれ。お前なら出来る」


 そう言って励まし、ジャックは灰川に少しの説明をしてから抜けて行った。しかし説明は圧倒的に不足しており、後で灰川は困る事になるかもしれない。


 ひとまずはジャックとはお別れになり、アリエルは一人で日本で生活せざるを得なくなった。心細さも感じてるが、それ以上に『やってやる!』という気持ちになってる。


 そしてアリエルは、この場が自分にとって大事な正念場だと感じてる。それは聖剣の加護の直感なのかは分からない。


 ここのパフォーマンスの出来次第で今後の自分の先行きが大幅に変わるのを感じてる、ここが自分が日本で何を出来るかが決まる時だ。


 アリエルには様々な才覚が元からある、そんな者が人生が懸かると言っても過言ではない状況に立たされた。


 その剣術などを除いた才覚に加えて才気と言えるものも加わり、現代芸能に挑戦する。どうなるかはまだ分からない。



 

 店を出てハッピーリレーに向かう途中でも変わった出来事があった、それは灰川に関する事だった。


「オモチ、通行の邪魔になるから脇に寄れよ。マフ子、今は暑いから俺には尻尾マフラーしなくて良いぞ~」


「なゃ~」


「にゃ……」


 灰川がそう言うとにゃー子が小さく「にゃん」と声を出し、2匹が言われた通りに動く。


「おっ、ついでだからアリエル君、マフ子の尻尾マフラー体験しとく? 気持ち良いんだぜ?」


「ええっ! 良いの! やってほしいなっ」


「マフ子、アリエル君に尻尾マフラーな」


「にゃーん……にゃ…」


「ふわぁぁ~~! 本当にやってくれた! ハイカワの家のネコすごいっ! 尻尾が気持ちいいなぁ~」


「ははは、そうだろ? テブクロ、福ポン、危ないからあんまりイチャつくなよ~、ギドラもだぞ」 


「きゅ」「ゆん」


「にゃ、にゃ、にゃ」


 この光景は事情を知らない社長2人には凄い事に見える、しかも砂遊と功の言う事もしっかり聞くし、とても賢い猫たちに見えていた。


「うしししっ、歩いてる人達が猫ども見てるねぇ~、特にオモチはデッカイから目を引いてるぞ~」


「なゃ~~」


「テブクロと福ポンも目を引いてるな、東京の奴らは狐も狸も珍しいか」


「狐と狸が仲良くしてるってのも目を引くのかもな、父ちゃんもテブクロと福ポン以外だと仲の良い狐と狸って見た事ないべ?」


 灰川家の言う事をしっかりと動物たちが聞いて安全に歩く、その光景は社長達に新たな何かを思い付かせそうになる。


「ギドラ、愛純ちゃんに俺の事からかったお仕置きしてやれ~、3匹でよじ登りの刑だっ」


「にゃ~、にゃ~、にゃ~」


「わ~~!すっごい! フワフワが体を支配してます! ペットシャンプーの良い香りですよ!」


「朋絵さんには巨大猫の肉球アタックだ! 手を出すとオモチは肉球触らせてくれるよ」


「なゃ~~、にゃん~」


「本当だ!この子って頭が凄く良いの!? 肉球が餅みたいだからオモチって名前なの!?」


 誠治としては道すがらに皆を楽しませようとしての事だったが、アリエルも愛純も朋絵も大喜びで、一連の事を見てた社長達も本気で驚いてる。もちろん事前に動物は怖くないかとかは聞いておいた。


 しかも灰川はトイレしたくなったら合図しろよな~、なんて言ってる。そこまでこの動物たちは出来るのか!?と社長達はさらに驚かされてる。


 功と砂遊も変わらず着いて来ており、砂遊に至っては『隙あらば自分を売り込もう』とか考えてた。


「花田社長、これって…凄く…」


「そうですね渡辺社長、これは特異的といっても過言じゃないでしょう」


 芸能界には動物タレントという種別があり、CMやドラマ、映画や場合によっては劇などに用いられる動物の役者とでもいう存在だ。


 だが動物タレントでもらえる金額は少ない、しかし今は『モノはやりよう』の時代でもある。


 そこに加えて社長達は愛純と朋絵を見る、元々は滝織キオンという最盛期は80万人に登録者を誇ったVtuberと、独特な煽りで優しさと甘さを感じさせる変なメスガキキャラが板に付いてる子。


 取扱注意だが1年で20万の登録者を勝ち取った灰川の妹の砂遊、そして今から見させてもらうアリエルという男の子の底力。


 花田社長は特にアリエルという子からは佳那美と同等か、それ以上の何かを感じる。見過ごして通り過ぎる事が出来ないくらいの何かだ。


 佳那美は近い内に灰川の事務所が総合芸能事務所の仕事もするようになった場合、そちらに移籍する事になっている。その方が受けれる仕事の自由度が格段に上がるからだ。


 もしかしたら今日、これからの道筋が決まるかも知れない。


 特別な小学生の2人と独特な元企業所属Vtuberたち、霊能力の影響か何かは知らないが異常なレベルで言う事を聞く賢い動物たち、場合によっては何かが決まる。


 その何かを決めるため測らせてもらう、ビジネスはいつだって真剣勝負だ。その場やチャンスがいつ来るかは分からない、今がチャンスの時かもしれないのだ。


 どのように見極めるか、勧誘の文句、もし見込み通りだったら逃がしたくない、そんな事を社長は考えつつ一行はハッピーリレーのトレーニングルームに行く。


 世の中の物事やビジネスというのは並行して幾つもの事が動き、幾つもの事が判断される。それが今も展開されてるというだけのことだ。


 しかし今、それぞれの判断や決断次第でこれからの先行きが大きく変わる可能性がある。そういう人生の分かれ目は思いがけず、ふっと訪れるものなのかもしれない。

誤字報告して下さる方々、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ