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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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214話 聖剣エネルギー、その場凌ぎ!

 駆逐艦の中では怪現象が発生してるようなのだが、ジャックもアリエルもMID7や本国との問題解決のためのやり取りや、聖剣に関する相談に忙しくて手が回り切らないそうなのだ。


 脅威度は低い怪現象と見られてるが、駆逐艦の中で怖い現象が発生したら危険であり、早期の解決を求められてる。


 聖剣の事もあるため手は充分に向けられないが完全に放置してる訳ではなく、悪魔祓いの聖水などを使ったりしてる。しかし効果は上がってないらしい。


「どんな事が起ってるんだ? 総員退艦となるとタダ事じゃないだろう」


「ああ、総員退艦命令を出す時は、艦内で“悪魔を見た”と言う奴が10人に達した時という条件で艦長に頼んだが……少し怪しい部分もあってな…」


 少し含みのある言い方だ。ジャックは落ち着きを保ってるがアリエルは精神的に追い込まれてるようで、パワー消費を抑えたくて実質的に聖剣も使えないから戦力にならない。


 隊長格であるジャックは落ち着いてるとはいえ体は一つである、本国との連絡で忙しい身では超常現象への対抗はままならない。


 ちなみにアーヴァス家には聖剣が窮地に陥ってる事は伝えてないらしく、アリエルが帰国できない事も言ってないそうだ。色々な事情があるのだろう。


「俺が協力するのは良いが、誠治に危険が及ばないように頼むぞ。国超局はMID7との公式な請負は今は出来ないからな、俺も今回は個人として請け負ってやるよ、料金は5000円だ」


「あ、俺は8000円でお願いします、単発仕事だと少し高めに設定してるんで」


「じゃあ俺も8000円にするっての! ややこしいな!」


 そんなこんなで灰川もタナカもジャックからの依頼を受ける事にして、無人になった駆逐艦の中でアリエルを一人にする訳にもいかず4人で行動する。


 一応は灰川は普段は本業の仕事があり、霊能力関連の仕事はほとんど受けてない事もタナカが説明する。


 今回のような事は特例だが自分も灰川も経費や、負傷した場合の治療費などは別払いとかの事もしっかり説明してくれて、灰川よりもコンサルタントとかに向いてそうだ。


 国家超常対処局は国外の仕事に関しては色々な面倒事があるそうで、今回に関わる場合は個人依頼として請け負うよう言われたらしい。集団に属すると色々な面倒があるのだろう。


「ああ、そうだ。少し聖剣を貸してくれますか?」


「はい、まだ何か調べる事がありますか?」


「いや、見回りに行く前に少しパワーを充填しておきます。さっき廊下に出てた時に準備はしてたので」


「ええっ? ここで出来るんですかっ!?」


「むんっ!! よし、出来た」


 先程に(あらかじ)め変換して用意していた霊力を聖剣ファースに注ぎ込むと、少しだがパワーが回復した。およそ残り5%から12%になったくらいの回復量だが、ジャックとアリエルは開いた口が塞がらない。


 五行思想における木、火、土、金、水の気の充填、西洋四元素思想における正八面体の風のオーラ元素の充填、エーテル思想における活力体エネルギーも注いだ。


 これらは高度な霊能技術であり、一人の人間がこんなに沢山の霊力変換が出来るなんて考えても無かった。


 一つの種類の同じ思想体系の霊力変換ですら普通は厳しいのに、異なった思想における霊力変換をものの数分で行った灰川の霊能技量の高さ、それは歴戦のMID7の者ですら夢か幻かと思ってしまう光景だった。


 しかも灰川が普段は抑えてる霊力を充填の際に開放した時、凄まじいパワーを感じた。この霊力はハッキリ言って聖剣の所持者と同等と感じたのだが、実は灰川はこれでも加減した状態だ。


「す…すごい…! 本当にファースにエネルギーが充填されてる…っ! ミスターハイカワ…何者なんですかっ…? ボクはこんな事が出来る人が居るなんて考えた事もなかった!」


「五行思想における基本の気も、西洋思想の霊力エネルギーも変換出来るのか……まるで霊力変換アダプターとでも言うような技術だ…」


「フィルターがないならフィルターを作っちまえば良いって訳か、やり方は分かっても俺には無理だな。誠治のオリジナル技術と言っても良いだろうな」


「褒めてくれて嬉しいっすけど、使い所が無いんすよねぇ…スポーツ陽呪術で霊力変換は使うけど、他ではほとんど使わないし」


 見る者が見れば凄いと分かる技術なのだが使い所が無いのだ。霊能力が無い人には何も感じ取れないし、熟練の霊能者であっても『何の役に立つの?』と思う人が多い。


 ジャックとアリエルだって、今回のような事態が無ければ役に立つ場面は無かったと感じただろう。技術や物資など必要に駆られなければ、ありがたみも凄さの本質も良く分からないものだ。


 とにかくこれで灰川が聖剣への霊力の補充が出来る事が証明され、懐疑的だったジャックとアリエルの信用を得る事が出来た。2人は灰川の霊能力が技量も霊力量も凄まじいのだと、ここで理解してくれた。


「Thank you! Mr Haikawa! The firth is filled with spiritual energy! This should be good for a week now!」


「???」


「誠治、アリエルさんはこう言ってるぞ、ありがとう、ミスターハイカワ、ファースに霊力が充填されてる、これで1週間は大丈夫だ」


「ああっ! ゴメンなさい! とにかくありがとうミスターハイカワっ! すごいやっ!」


「どういたしまして、とりあえずは船の怪現象の解決に向かいましょう」


「ご協力感謝する、ミスターハイカワ、タナカ」


 一時的な聖剣へのエネルギー充填も終わり、それぞれ鞄や聖剣の入ったケースなどを持って艦の中を歩いて調べてく。乗務員の見た悪魔とやらの正体を見極めるため4人とも霊能力は発動済みだ。


 アリエルもファースにエネルギーが補充された事で元気を少し取り戻し、4人で悪魔の目撃箇所を精査するために動き出す。




 駆逐艦とは高速で海を高速で巡行して戦ったり、空母を護衛したり、敵を追ったりする船だ。相手は同じ船のみならず、航空機や潜水艦なども含まれる。存在自体が力強く、スピードも火力も凄い海の猛獣だ。


 47型ガルホエール級駆逐艦アロナックも同じであり、多様な作戦に対応できて乗員は最小限のストレスで長期乗船も可能、フィットネスルームなどの施設もあるという快適性がある艦だ。


 もちろん火力も防御も優れており巡洋艦には劣るものの、海上、海中、上空への探知力だって最新鋭。複数の艦対空と艦対艦ミサイルシステム、デッキ搭載型魚雷発射管、112mm単装砲や他機銃、近接目標への各種バルカンシステム。それらを使う運用系統や指揮システムも優秀だ。


 最大で250㎞の探知可能で同時追尾数1000という多目的高性能レーダー、弾道ミサイル迎撃プラットフォームとしての機能、更には作戦に応じて追加機能を搭載できる拡張性も残してあり、現代の凄い駆逐艦なのだと説明される。


 これらの機能は乗組員の整備や点検によって維持され、いつ命令が下っても良いように待機してる。即応体制、それこそが駆逐艦が強い艦である最大の要因だ。


 そんな中での総員退艦命令、これは余程の事であると同時に艦内の危険を察知してるという事で、秘密機関が動くほどの事態だという確信があるという事だ。そもそも外国人であるタナカと灰川が乗り込めてる時点で普通じゃない状況なのだ。


「でも誰も居ない戦艦って意外と不気味っすね、狭くて管とか通ってる廊下の奥から誰かが覗いてるような気がして来るっていうか…」


「や、やめて下さいよミスターハイカワ! ボクはそんなの見えてません!」


「俺も見えてないけどさ…実は幽霊とか見えた時よりも、居るかもて思っちゃうと怖く感じるタイプなんだよね。特にこういう狭い空間がつづいてると怖さが増すっていうかさ…」


「情けない霊能力者ですね、ボクの方が大人な気がしてきますよ」


 そんな会話をアリエルとしてると、タナカから注意が入る。


「誠治、アリエルさんはMID7の所属者だ。年下とはいえ敬語を使った方が良いぞ」


「あ、そうっすねタナカさん、依頼者なんだし軽口はマズいっすよね」


 灰川は国家超常対処局の所属ではないから、本来ならタナカから注意されるいわれはない。しかし依頼者に普通語で話すのはイカンと思って改めようとする。


「気にしないでくれタナカ、我々はジャパンほど形式を気にしない、俺も普通に喋ってるんだ、むしろ普通に喋ってくれた方が気が楽で良い」


「そうか、じゃあそうさせてもらおう誠治、よろしくなアリエル君」


「はい、よろしくミスタータナカ、ミスターハイカワ」


「俺にもミスターは付けなくて良いよ、よろしくジャックさん、アリエル君」


 こうして少しばかり打ち解けつつ艦内を回って異常を探す、その中でジャックから駆逐艦アロナックの艦内説明をある程度受けて行った。


 ジャックは海軍に居た経験があり、アロナックの同型艦で生活した事があったらしい。




「ここは食堂だ、意外と広いだろう? 昔の駆逐艦を知ってる軍人からは広すぎて落ち着かないなんて話を聞いたくらいだ」


「乗組員の憩いの場だな、軍人に食事は大切だからな。立派な食堂で素晴らしいと思うぞ」


 警戒や感知をしつつ艦内の食堂を見ると、タナカが感心したように食堂の良さを褒めた。


「船酔いしたら地獄っすね…食事の匂いを嗅いだだけでぶっ倒れるんじゃないすか…?」


「海軍の軍人や海兵隊員が船酔いなんてするわけないよハイカワ! ボクだって船酔いはっ……したことあるかも…」


「アリエルは前に任務で乗った船で盛大に船酔いしたな、聖剣も酔ったんじゃないかってレベルだったな」


 海軍の熟練船乗りでも稀に船酔いする人が出るらしく、嵐などに遭遇した時は慣れでは乗り切れない揺れが来るため危険だそうだ。


 船が前後に揺れるピッチング揺れ、左右に揺れるローリング揺れ、上下動のヒーヴィング揺れ、急速落下のフォーリング、船首に波が叩き付けて揺れるパンチング。

 

 様々なタイプの揺れが屈強な船乗りたちの酔いを誘うのだ。それらを防止するには遠くを見たりとか、ガムを噛んでリフレッシュなどが良いらしい。


「ここは廊下だが、配電盤で作業してた乗組員が悪魔を見たと騒いでたらしい」


「乗員の階級や役職を聞いても意味なさそうだな、全員がほとんどの作業が出来るんだしな」


 軍船の乗組員はクロストレーニングを受けて様々な作業に対応できるようにしており、誰が欠けても船の戦力を維持できるよう全員が船の作業のスペシャリストなのだ。


 整備活動、消火活動、武器訓練、乗員たちは一連の作業を習い、訓練を行ってる。



「ここはシャワールームだ、男女で時間によって使える時間が違ってな、ここで悪魔を見たと言ったのは女性乗組員だ」


「ボクも使わせてもらってるけど、狭くて使いにくいよね」


「いや、アリエル君、俺が乗った事がある船はもっと狭かったぞ」


 タナカも傭兵時代に船のシャワーを使った事があるそうだが、その時の船と比べると広いらしい。子供で背も体も小さいというのに、このシャワーが狭いというのは贅沢だ。


 シャワールームは3つの半個室シャワーがあり、どれも調べたが特に変なモノは感じなかった。


「こういう船のシャワーって、サスペンスホラーだと誰かしら犠牲になるイメージあるっすよね」


「俺も分かる気がするなハイカワさん、鼻歌を歌いながら頭を洗ってる時に後ろから……みたいな感じだろう?」


「ジャック隊長!止めて下さいよ! ボクはそういう怖いのキライなんですからね!」


 どうやらジャックはサスペンスが好きなようで、ホラー要素が混ざってる作品も好きらしい。


 アリエルは剣を持ってるが、そういう系統には耐性が無いらしい。子供でサスペンスが好きというのもどうかと思うし、普通だと思う。


 その後も悪魔が出たという話がある場所を見て行く、艦橋操舵室、動力制御室、機関室、複数の廊下、色々見たが何も見つけられなかった。




「艦橋は凄かったな、意味わからんボタンとレバーがいっぱいだったぞ」


「動力制御室も凄かったっすね! 意味わからないボタンとレバーがいっぱいだったし!」


「ボクも機関室を初めて見たけど、意味わかんないボタンとレバーがいっぱいだった!」


「お前らなぁ…タナカまで…」


 タナカは軍事船に乗った事はあるが操艦に関わった事は無いそうで、アロナックの設備を見ても用途などは分からない。


 灰川は言うまでもなく分からないし、アリエルも駆逐艦に寄宿してるが当然ながら操艦には関わってないから分からない。


 駆逐艦の中はとにかくゴチャゴチャしており、廊下にも配線が纏められたものや、何かのパイプが壁中に走ってる。それらの99%は素人には何の意味があるのか分からない。


 この構図は先程に灰川がやった霊力変換での聖剣へのパワー充填に似てる。どんなに凄い物でもパっと見ただけでは、ソレの凄さとか大事さが一目では分からないものなのだ。


「最後はネットルームだな、ここは船員がインターネットをパソコンで楽しめる部屋だ」


「パソコン3台ですか、混雑しそうですね」


 広いとは言えない部屋にノートパソコンが3台、海の上でもネットが繋がるようになってるそうだ。


 だがここも特に変な気配はなく、問題は無さそうだった。


「あ、ちょっと使わせてもらって良いっすか?」


「艦の指揮系統ネットワークからは外されてるから構わないが、どうしたんだハイカワさん」


「この機会にちょっと皆の登録者数を水増しさせてもらっちゃお~っと! オラオラぁ!」


「ハイカワって、何だか仕事の時とそうでない時の性格が少し違うんだね」


 灰川は他国の海軍のパソコンにハッピーリレーとシャイニングゲートのVtuberを登録していく、もちろん全員は出来ないから見知った数名ずつだけだ。


「おいおい…まぁ、海軍には多国語が出来る奴も多いって聞くし、もしかしたら誰か見るかもな」


「見てくれりゃ御の字っすね、共通アカウントに登録っと! あとは誰かしら個人アカで登録してくれりゃ更に御の字!」


「オンノジ? ハイカワ、それってどういう日本語なの?」


「サンキューベリマッチって感じの日本語だぞ~、あんまり使わないけどなっ」 


 手早く登録をして用を済ませる、なんだか緊張感が無いが何の気配も無いし、かなり強い霊能力者が揃ってるから今は不安はない。


 既に4人の空気は『本当に悪魔なんて居るのか?』という懐疑的な感じになっており、緊迫感は薄まってる。


 そもそも悪魔なんて本当に居たら、絶対に気配は隠せないそうだ。そのくらい強い気配があるとジャックは言っおり、アロナックの艦内に悪魔が居る可能性は限りなく低いそうだ。


 悪魔を見たというのは乗組員の勘違いで、恐らくはそこそこ強いゴーストを霊感が多少ある者が見えてしまったのだろうという考えを4人とも持っていた。


 それならば焦る必要はない、灰川が御札でも渡せば良いし、ジャックとアリエルが西洋の魔除けのお守りであるアミュレットか、魔除けの紋章でも描いて隠して設置すれば良いだけだ。


「えっ!? コレってなにっ!? カワイイっ、すごいっ!」


「アリエル君、知らないの? これはVtuberって奴でさ~~……」


「Vtuber? ジャパンにはそんなのあるのっ!?」


「日本っていうか今は割と世界中に広まってるよ、イラストモデルを動かして配信とか動画とかやったりするのさ」


 アリエルはVtuberの事を知らなかったようで、初めて目にしたようだ。凄くカワイイと目をキラキラさせて見入ってる。


 やっぱり男の子だから、可愛い女の子のモデルのVtuberは気持ちを惹かれるんだろうと灰川は思う。


 灰川とアリエルは何か波長が合うというか、少し話したら割とすぐ普通に話せる間柄になった。これは灰川の精神年齢が低いという事なのか?


「すごいっ! インターネットってこんなの見れるんだ! かわいいなぁ~、キラキラしてるよっ!」


「そうだろ、そうだろ~? 皆すげぇんだぜ、日本で大人気だ!」


 アリエルは今までの教育が勉学や聖剣の修練に厳しく当てられてたようで、インターネット自体に(うと)かった。


 もちろんネットの存在は知ってたし使った事もあるようなのだが、アリエルが使うネット端末は厳しいチャイルドロックが掛かってたようで、個人での自由度は非常に低かったようなのだ。


 家の方針であり、あまり小さな頃からネットに触れさせ過ぎるのは良くないという判断なのは想像がつく。聖剣の担い手がネット中毒にでもなったら家としては大変だろう。


 そんな家の子がインターネットの世界の一端に触れてしまった、そしてアリエルにとってVtuberという存在は衝撃的な物だった。


 可愛くキラキラした人が意志を持って話す、この光景は今まで勉学や聖剣一辺倒で生活してきたアリエルにとって、人生でも指折りのショッキングな出会いだったのだ。


「アリエル君、誠治はこのVtuberに関連した仕事をしてるぞ。Vtuberはやってないがな」


「ええっ!? ハイカワは、こんなアイドルみたいな人達の関係者なのっ!? スーツもくたびれてるし、そんな気配が全然ないよっ!」


「余計なお世話じゃい! 本当だっつーの!」


「はははっ、少しは元気になったなアリエル、こんなに笑ったり驚いたりしてるのは久々に見たな」


 アリエルは最近は聖剣の事や帰国不可能になってる件で精神を消耗しており、すっかり元気を失くしていたそうだ。 


 まだ母国に戻る算段は付いてないものの、聖剣のパワー充填の目途も付いて、実際に少しパワーが充填されて少し心にゆとりが生まれた。


 ここの所は駆逐艦の中で生活という慣れない環境で、乗組員に会ってしまった時は奇異の目で見られて疲れもあったらしい。乗組員にはジャックとアリエルの素性は軍関係者か何か、それなりの理由を付けた上で詮索しないよう戒厳令が敷かれてる。


 ジャックはともかくアリエルは聖剣の家系の出で特殊な教育を受けて来たとあって、実はあまり人と話す事が得意じゃなく、年齢もあって今の環境は非常にストレスになってたようなのだ。


 灰川は今は年下の子達と話す事も多く、大学の教育学部に居た時に子供との接し方もある程度は教わった。本人の性格も子供を相手にするのが向いてるようで、アリエルも割と灰川には普通に話せてる。


「ハイカワはどんな仕事をしてるのっ? この人たちに関係あるんだよねっ?」


「おっ、興味津々だな~。俺はVtuberの予定を調整したり、色んな仕事をVtuberの会社に紹介したりする仕事をしてるんだよ、恐れ入ったか~」


「Vtuberの人達は予定を自分で組めないの? どんな仕事の紹介してるのっ? ボクが知らない事がいっぱいありそうだっ」


 知らない事を知るのは楽しい事で、アリエルは自分の知らない世界を知って驚いてる。今はインターネットやVtuberに凄く興味を引かれてる。


「どうやら悪魔と思われた何かはハイカワさんの霊力に驚いたか何かで、艦から去って行ったようだな。本国と関りのある場所に向かった可能性もあるが、判断は付かんな」


「誠治の霊力に臆したか、それとも策を変えたのか分からんが注意は払っておけよシャック、国家超常対処局でも注意はしておく」


 悪魔を過剰に恐れた結果として、総員退艦命令という過剰な処置をしてしまったのだろうか?


 もしくは今の状況では都合が悪いなどの判断が出来る怪異か何かなのか?


 いずれにせよ現時点で謎の存在は目標は達成したという事と判断し、結果としてはこちらの敗北になるだろう。だが挽回の目途は付いてるのだから、取り返しの付かない敗北ではない。


 物事は常に勝ち続けるなんて事は不可能だ、ジャックは今回は怪異を祓い切れない事を見越し、聖剣の力が失われるという最悪の事態を回避するために動いたのだ。


 つまり駆逐艦の中に居た何かはジャックの聖剣への視線逸らしと、アリエルに聖剣の力を無駄に消耗させるための罠。


 それと恐らくはアロナックの艦長かその上の奴は、聖剣を有する他家の政治圧力に負けて、ファースに更にエネルギー消耗をさせるため退艦命令を出したと判断する。灰川の霊気放出で異常存在が退却したのは予想外だった。


「また違う場所で何かが発生するかも知れないな、ヨーロッパ系列の大使館か日本にあるEU外資企業か…先手を打つのも難しそうだ」


「すまないタナカ、ジャパンには散々に迷惑を掛けてしまうな…大きな借りを作ってばかりで心苦しい。本部が埋め合わせは考えておくはずだ」


 他国の機関に借りを作ってでも聖剣の力を失う訳にはいかない、その目標を達成したジャックはやはり優秀な人物だ。もし失えば怪異への対抗手段や他組織や水面下の有力者への交渉カードが、100年失われるのと同じ事なのだ。


 全てを達成しようとギャンブルに出るのではなく、物事の重要度を考慮して取捨選択をする。大きなな見た目に似合わず慎重に進むタイプの指揮官らしい。


「慎重なのは良いが、俺達には思惑や事の運びの予測は話してもらいたかったがな」


「それもすまない、だが不確実な予測でしかないから、先入観などは持ってもらいたくなかったんだ。俺は過去にそれで取り返しの付かない失敗をしたからな…」


 人間とは色々だ、ジャックは状況から判断する予測力が高いが、それが元で先入観が生まれて、結果ありきで行動して大きな失敗をしてるらしい。


 最近も別の超常存在を免罪符のヴァンパイアのデコイと勘違いし、やはり失敗を生んでる。この件に関与してる奴は余程にMID7の情報を正確に捉え、上手く活用してるようだ。


 そういう事もあってジャックは自分の予測を今はあまり話さないようにして、全体での話し合いで出た結論を尊重するスタイルになってる。


 口が上手い奴は間違った情報や考えでも、他者に伝える時に無意識的に真実味を持たせてしまう、彼が正にそのタイプのようだ。情報工作向きの思考なのだろうが、性格は指揮官タイプという感じだ。


「国家超常対処局もそうなんだが、人手が足りんからな…指揮官に最適な霊能者なんてそうそう居ないしな…、はぁ~…」


「過剰に暗い奴、ひどい面倒くさがり、他人への配慮がまるで足りない奴とかが隊に居てな…これでも俺はMID7で最も指揮官適性があると判断されてるんだよ…。まぁ、他の奴よりはマシってだけだろうな…」


「ボクはジャック隊長が最適だと思います! 他の人達は指揮官には向いて無いと思います…本当に本気で…」


「霊能者って変なの多いっすよね…口数少ないとか、すげぇ怒りっぽいとか、極端な人が多いんすよね…。人のこと言えねぇけど…」


 最後は駆逐艦の中で組織や霊能者へのグチが始まる、やはりそれぞれに思う所はあり、心の中に隠してるストレスなんかもあるのだ。


 常に最適解を選んでミスをせず、何の欠点も無い人間なんて限られる。4人は強い霊力を持ってるが、別に完全無欠の人間ではない。


 完全無欠の戦闘艦を目指した船の中で、完全無欠の奴になりてぇな~とか言いながら、聖剣のパワー充填のために灰川の所に行く予定を組んで今日は終わったのだった。


 流石に今日は行けないとの事で、灰川としても仕事で疲れてるから今日は遠慮したかったから丁度良い。




「誠治、今回も助かった。いつも色々と頼んじまって悪いな」


「良いんすよ、俺としても聖剣なんて興味あったし、着いて来るって決めたのは俺なんすから」


「そう言ってもらえると助かるな、今日は俺が奢るぜ。焼き肉が良いか?寿司が良いか?」


「マジすか! じゃあ焼き寿司に行きましょうよ!」


「焼き寿司!? なんだそれ!?」


 タナカが運転する車の中で今夜の夕食の話をしつつ、さっきの件についての話になった。


「向こうのゴタゴタが俺達に影響するかもな、アリエル君は本国に帰れないようだし、困った事にならなければ良いんだが」


「あんま考えない方が良いっすよ、嫌な事って考えたら本当になっちまうって言うじゃないすか」


「まぁな、考えた所で仕方ないしな」


 海の向こうの事なんて考えても仕方ない、出来る事をやるだけ、頼まれた事で出来る事なら引き受けるだけ、2人のそのスタンスは変わらない。


「ところでよ、アリエル君は随分とVtuberに衝撃を受けてたみたいだったな、絶賛しながらディスプレイに穴が開きそうな勢いで注目してたよな」


「そうでしたね、ネットとか触って来なかった子みたいっすけど、Vtuberに凄い心魅かれてたっすね」


 聖剣の担い手であるアリエルは駆逐艦アロナックのネットルームでVtuberを初めて見て、凄く良い印象を持って短時間だが夢中で見てた。


 アリエルのスマホはチャイルドロックが厳しく、動画サイトなどは見れないようになってると聞いた。


「あの年代の男の子は色んな物に興味を引かれるもんだからな、俺も子供の頃はそうだったしな」


「そうっすよね、それにしてもアリエル君、可愛い子でしたね。子役で映画に出てるとか言われたって信じちゃいそうっすよ」


「聖剣の担い手は容姿も良くなる加護とかあるのかもな、だとしたら俺も聖剣が欲しいな。どっかに俺に合う聖剣売ってねぇかな」


「もしその効果があって噂が広まったら、買いに来る俳優とか居そうっすよね、はははっ」


「あの子も役者スカウトでも来そうだもんな、将来は滅茶苦茶なハンサムになるんだろうよ。羨ましいぜ」


 そんな話をしながら10才の男の子に嫉妬する灰川とタナカだった。


 一方その頃のアリエルは駆逐艦の自室の中で、さっき見たVtuberという人達の事が頭から抜けず、今夜もクマのぬいぐるみのフォーラをぎゅっとしながら、眠れぬ夜を過ごすのだった。

 遂に1話で1万文字を超えちゃいました……ギリギリ大丈夫だと思ったのに…。

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― 新着の感想 ―
アリエル君(仮)落ちたか 当然、共用アカウントに灰川メビウスの登録もしているのですよね していなかったら笑うけどw
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