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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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21話 生意気中学生

「あの、灰川さんでしたっけ? さっきから幽霊だの怪奇現象だの言ってるけど、ホントにそんなのあるんですか~?」


 ニヤニヤしながら講義を(さえぎ)って声を上げたのは、女子中学生Vtuberの破幡木(はばたき) ツバサという子だった。


 破幡木ツバサ、チャンネル登録者5500人の女子中学生Vtuberで、生意気かつ自信家な性格が人気のVtuber配信者だ。配信の中で自信をへし折られて半泣きになる姿が可愛いと話題になってる。ハッピーリレーには才能を期待されて入所したらしい。


 だが数字を見ると状況は(かんば)しくないようだ、今いるVtuber達の中でも登録者数は最下位から2番目である。


「ないよ、はい、じゃあ講義を続けます」


「ちょ!おまっ!」


 テキトーに流して講義を続けようとしたが駄目だった。 


「ないよ、じゃないっての! あるって言っとけ~!」


「だって信じてないでしょ? 何言っても無駄じゃん」


「それを信じさせるのがアンタの仕事でしょーが!」


 ツバサは思い切りに食って掛かる、テキトーにあしらわれた事が気に食わなかったのだろう。 


「じゃあ何すれば信じるの? まあ破幡木(はばたき)さんが思いつきそうなのは大体無理だけど、人間を浮かせろとか宝くじの番号当てろとか」


「そんなん言わないわよ! バカにしてんの!?」


「うん」


「むっきぃーー!」


 灰川には本気で相対する気なんて無い、こういう輩は真面目に相手をすると自分が優位なんだと勘違いしてつけ上がる。ようするに子供という事だ。


「私が昔飼ってたハムスターに会いたいわ、霊を呼び出して会わせて」


「飼ってたハムスターって、お前さんの肩に乗ってる小さい悪霊か? 安物のひまわりの種買いやがって!って恨んでるぞ」


「そんなわけ無いでしょ! 良いヒマワリの種買ってたわよ! このエセ霊能者!」


 どうせ何やっても信じないのだから面白おかしくおちょくってると、周りが段々と笑いを堪えた声を上げ始める。


「ちょっと灰川さん! 講義が進まないから、いい加減にして下さいよっ! ツバサちゃんもだよ!」


 「「すいません…」」


 エリスが注意して灰川と破幡木が押し黙る、その後は講義が進んで行き、最後の質問タイムになった。




「幽霊や呪いって本当にあるんですか?」


 真面目な感じでそう聞いてきたのはVtuberの降野(ふるの) (アメ)で、登録者は3万人だ。


 ハッピーリレーのVtuberは引き抜きや離脱によってエリスとミナミ以外の上位陣は抜けてしまい、今はチャンネル登録者が比較的少ない者たちしか居ない。


 ここに居る者達は女子の中高生のVtuberだが、それを公言してる者は少ないし、明かしたところで配信の技術が上がる訳でもない。若さだけでフォロワーが増えるほど甘い世界じゃない。


「あると自分は思ってます、見えたり感じたりする事があるので」


 無難な受け答えだが、こういう答えしかないのも事実だ。霊能者は幽霊の存在を絶対証明する手段はないのだ。


「灰川先生は私たちが幽霊に取り憑かれた時とかは、お祓いとかはしてくれますか?」


「はい、それも仕事の内です。出来る限りの事はするつもりです」


「視聴者さんに害が及ぶような、霊障でしたっけ?そういう危険はどのくらいありますか?」


「ほぼゼロですね、今の所のハッピーリレーの企画でそういった危険のあるものはありませんね」


 質問をさばいていき、全ての質問に答えた。無難だが問題の無い受け答えだったろう。


 今回はどうやったら視聴者が増えるか?という質問は無かった、それを聞くのは意外と勇気が要るし、自分で考える事が一番なのは変わらない。


「ふんっ! ウソつくのは終わったかしら? サ・ギ・師さん?」


「おう終わったぞ、ハ・マ・サ・キさん」


「ハマサキじゃないわよ! 破幡木(はばたき)よ!」


 灰川に随分と突っかかってくる、おちょくられた事がよっぽど気に食わなかったのだろう。


「じゃあこの辺で講義は終わります、一人以外ご清聴ありがとうございました」


「その一人って誰よ!? アタシじゃないでしょう…あ、待て!」


 こうして2回目の講義も終わり、今日の仕事が終わった。




 その後は受講者たちは、それぞれ親交を深めるために喋り合ったりする時間に突入する。さっきの生意気な破幡木 ツバサは配信があるのか早々に帰ってしまった。


「エリスちゃん、今度コラボ配信して! お願い!」


「うん、今度一緒に配信しようねっ、ルナちゃん」


「最近ミナミちゃんの配信すごく面白い! 参考にしてるよ」 


「ありがとうございます、神谷先輩、私の方こそ参考にさせてもらってます」


 エリスとミナミの所には人だかりが出来ている、あの二人は別格のフォロワーが居るから、みんなが寄ってくるのだろう。


 そうでなくともあの二人には配信における才覚が感じられる、底辺とはいえ灰川も配信者だからそれが分かるのだ。あの子達なら尚更のはずだ。


 他の場所でも受講者たちだ互いのSNSの連絡先を交換してたり、配信についての極意などを話し合ってる。みんなこの世界で上に行くために必死なのだ。


 灰川はホールを後にし休憩ルームに向かう、本来なら帰っても良いのだが、講義の前にエリスとミナミに待っててくれるよう頼まれたからだ。




「灰川さん、ゴメンお待たせっ」


「頼みを聞いて下さり、ありがとうございます」


 少しすると二人が来て、頼みは何なのか灰川が聞く。また霊能力関係の事かと少し身構えてたが、それは違った。


「今日の配信はミナミと時間が(かぶ)るんだけどさ、灰川さんに私たちの配信見てもらって、感想聞かせて欲しいの」


「どちらが面白いとかではなく、どうすれば良くなるとか、灰川さんから見た感想を聞かせてもらい参考にしたいんです」


 二人は至って真面目な表情だ、この質問に灰川はどうするべきか迷う。自分の意見や助言で二人の配信に悪い変化が出たら嫌だと思ったからだ。


 一回目の講義の時に受講者たちに自分の意見を言ったが、それはホラー配信限定の物であり、会った事も無い人たちだから深くは考えないだろうと思ったのだ、さっきは言わば軽いアドバイスで済まされる話だ。


 エリスとミナミは少し違ってくる、会って間もないとはいえ、それなりの信頼関係が出来てしまってる。


「まあ良いけどさ、俺が何言っても強く真に受けるなよ? 掲示板の落書き程度に思ってくれるってんなら良いぞ」


「それで良いよっ、私たちってさ、誰かから生の意見を貰える機会って少ないんだ。特にほとんど配信を見てない人から聞けることなんて、まずないの」 


「ありがとうございます灰川さん、こういう機会は本当に少ない…というか初めてなので、是非お聞かせください」


 二人が言うには配信の感想を得られる機会というのは(まれ)だそうだ、聞く機会があっても「良かったよ!」とか「凄く楽しかった」という(むね)の言葉しか聞けないらしい。


 仮に意見を言われても、ネットの意見なら真に受けるなと会社の人達や先輩たちから強く教えられたらしい。そこは灰川も完全同意である。 


 ハッピーリレーの人に聞いても「そのままで良い」「結果が伴ってるんだから変わる必要ない」と、保守的な意見しか得られないそうだ。


「会社の人たちの意見も理解できるな、今だって人気は上位なんだから無理に変わる必要はないと思うけど」


「それじゃダメなんだよ! 私はもっと上を目指したい、そのためには変わるんじゃなくて、もっと面白く視聴者さんを惹きつけられなきゃいけないの!」


「そうです! 私たちは面白い配信を、皆さんに楽しんで貰える配信をしたいんです!」


 凄い情熱だ、やはり思春期の情動というのは強い力になる。人によってはこの力を勉強に向けて一流大学へ絶対合格すると勉強する。ある高校生は部活動にこの情熱を向けて全国大会へのチケットにする。


 それと同じ強い情熱を二人は配信に向けてるのだ、これなら灰川が何を言っても過度に真に受ける事はないだろう。


「わかったよ、その代わり厳し目の意見言ってやるからな~、覚悟しとけ大人気Vtuberども!」


「~~! 望む所だよ灰川さんっ、辛口な意見とアドバイス期待してるねっ」


「お願いしますね灰川さんっ、どんな意見でも容赦なくお聞かせください!」


 二人は俄然(がぜん)ヤル気を出し気合が入る、今日の配信は良い感じになりそうだなと灰川が思ってると。



「それアタシも参加させてもらうわっ! 負けないんだからっ!」



 休憩ルームで話してた灰川たちの後ろにいつの間にか立っていた少女。


 黒髪のツインテールヘアーに勝ち気で生意気そうな顔、小学生並みの小っちゃい身長に中学校の標準制服に身を包んだ少女、ハッピーリレーのVtuber破幡木(はばたき)ツバサの姿がそこにあった。


「あっち行け、しっしっ」


「詐欺師~! なによその態度~! アタシだって三ツ橋エリスと北川ミナミに並ぶ凄いVtuberだって見せてあげるんだから!」


 うっとうしそうに灰川は破幡木をあしらうが、やっぱり食って掛かってくる。


「ツバサちゃん、配信には予定の時間があるよね? 合わないと思うから無理じゃないかな?」


 ミナミが大人な対応を見せる、どうやら優しいミナミでも今回は邪魔されたくないらしい。


「ミナミ先輩、そこは大丈夫よっ、アタシも配信時間が被ってるから!」


 時間の問題はクリアしてしまった、ここで諦めさせる作戦は失敗だ。


「でも灰川さんが良いって言うかどうかは」


「良いわよねっ? アタシの配信を見て意見まで出来るなんて(うらや)ましいくらいよっ、ふふんっ」


「何言ってんだコイツ…」


 自信たっぷりな様子でいるが、灰川としては受けるつもりは無い。またテキトーにおちょくって帰らせるかと思ったら、これまたいつの間にか居た人事部の木島さんが割って入って来た。


「お願いできませんか灰川さん、この子は才能はあるけど伸び悩んでいて、ハッピーリレーから契約を切られちゃう寸前なんです」


「ふんっ! 才能のカタマリとはアタシのことよ、三ツ橋エリスにも北川ミナミにも負けな…え? アタシ契約きられちゃうの…?」


「ツバサちゃん、こんなに可愛いのに見放されるなんて間違ってますっ! 灰川さんっ、建設的な意見をツバサちゃんにしてあげてくださいっ、お願いしますっ!」


「ふわ~~! 抱きつくな~!ナデナデするな~!」


 木島さんは破幡木に抱き着いて撫でまわしてる、どうやら木島さんの推しはこの子のようだ。


「木島さんがそう言うなら…エリスとミナミもそれで良いか?」


「ま、まあ、灰川さんが良いなら」


「3人の配信を同時に見て意見が言えるなんてっ、やっぱり灰川さんは凄いですっ!」


 ミナミは変な勘違いをしてるがツッコミはしない、こうして灰川は3人の配信を同時に視聴して意見とアドバイスをしなくてはならなくなった。


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