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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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209話 灰川と由奈の怪談

  喋る筈ないのに


 昭和初期の農村で少年期を過ごしたCさんは、まだ小学生だった頃に親戚の90歳で大往生した人の葬儀に田舎に行った。


 故人は安らかに眠るように旅立ったし、家族たちも悲しみながらも良い幕の閉じ方だったと語り、そんなに暗くならずにお通夜が執り行われたそうだ。


 親戚一同が生前にお世話になったねとか、こんなに生きて立派だと別れの言葉を掛け、つつがなく進んでいったのだが。


「ノブオが来るぞ」


 通夜が行われてる親戚の家の奥、誰も居ない筈の廊下から故人の声がした。その声は親戚や弔問客が聞いており、あまりの驚きからパニックになりかけたらしい。


 暗がりになってる廊下の奥に男衆や家の人が行き、何人もの人で確認したのだが誰も居なかった。親戚も家族も弔問客も故人の声で聞こえたから、聞き間違いではなかった。


 故人の家族も親戚もノブオという人物に心当たりはなく、謎が残ったままになる。


 その後は葬儀も無事に終わったのだが、ノブオが来るという言葉の意味が分からない。やはり故人の声に聞こえたのも聞き間違いだったという事になり、Cさんも両親と一緒に地元へ帰った。


 ここから先はCさんは人づてに聞いた話になるが、その一件があった田舎の村で少ししてから奇妙な噂が流れるようになったらしい。


 家の中に誰か居る気がするという人、家の井戸から男の声がしたという人、家の2階から音がするようになったという人、そんな話が囁かれるようになった。


 村の人達が思い浮かべるのは、やはりノブオという名前だ。ここは寺の住職を呼んでお経を読んでもらおうという事になり、お坊さんが来て実行したのだが効果がなかった。


 結局その村は、あの時の声は故人が不吉なモノが来るという事を知らせてくれたのだろうという話で纏まり、今の村から少し離れた場所に村を移して住む事になったそうだ。


 Cさんはそう語ったのだが、実は葬儀の時に誰にも言ってなかった事があると付け加える。


 廊下から故人の声がして親戚の人達が見に行った時、Cさんにはあるモノが見えていた。通夜の広間で故人が安置されてる枕元に、いつの間にか黒い影のような男が居たのが見えてたそうだ。




「この話は解決はせず、今もどこかの山奥の廃村に何かが居るのかも知れません。もし廃村に肝試しなんかに行く時は、黒い影にご注意下さい」


 廃村怪談も昔からの定番で、そこには廃村になった理由などに纏わる怪談も多い。もちろん廃村に行った人が散々な目に遭う怖い話が一番の定番だろう。 


「昔に杉沢村とか犬鳴き村とかテレビでやってたな、あの頃が懐かしいぜ」 


「良かったぜ灰の字さん! 参加してくれてありがとなぁ!」


 灰川の話し方は中々に堂に入っており、そこそこに聞き応えのある話になっていた。声の抑揚なんかも上手い感じに出来たなと心の中で自賛する。


 話す中で扇子や手ぬぐいなども使って緊張感を演出するなど、落語家の真似事みたいな事もした。これは田舎の落語好きの爺さんに教わった。


 そういった演出もあって観客は割と灰川の話に引き込まれ、悪い雰囲気や退屈な空気を作らずに終われたのだった。


「地域外からの参加ありがとうございます、景品をどうぞ」


「ありがとうございます、俺も楽しかったですよ」


 灰川の話は審査員から平均8点をもらい、無事にポストカードとポスターをもらう事が出来た。


 高座から降りて景品をもらうと次が出番である由奈がこちらに歩いて来ており、少し会話を交わす。


「誠治ってやっぱり怖い話が上手ねっ! 私もあんな風に上手に話してみせるわっ、見てなさいっ。ふふんっ」


「怖い話だけは昔から好きだからよ、それなりに話せるんだよな。由奈の怖い話も楽しみに聞かせてもらうからな」 


 もうポスターももらってしまったから当初の目的は果たしたが、由奈は灰川に負けずに良い話が出来るよう頑張ると言う。


「それとねっ、誠治より良い点数が取れたら、ご褒美も欲しいっ」


「おっ、やる気だなぁ。もちろん良いぞ、俺より良い点とったら好きな物でも欲しいものでもやるよ」


「言ったわねっ、約束よ? 絶対に勝つから待ってなさいっ、わははっ」


 由奈は高座に上がり、正座をして背筋を伸ばして前を見る。黒を基調としながらも可愛いワンピースの服装は、人前に出ても遜色のない装いだ。


 座布団席の人達は高座に居る子が10万人登録を持つVtuberだという事は知らない、それを知ってるのはこの場では灰川だけ。しかし何か観客たちは感じ取ってる。


 昨日に最高の美容サロンに行ったばかりで、最高の容姿に整えられた由奈はお人形のように可愛らしく人目を引く。それもあって観客たちは早くも高座に目を注意深く向けていた。


 こうやって見るとやっぱり小さいなとか思ったりするが、そんな由奈からは緊張感などはあまり感じられない。やはりVtuberとして“話す”ことに慣れてるからかもしれない。


「こんにちはっ、灰の字と飛び入り参加させてもらったツインテちゃんよ! 今日は怖い話を披露させてもらうわっ」


 「「!!」」


 由奈が一言目の挨拶の言葉を喋った瞬間、怪談会の寺の本堂内の観客たちにゾワっとした鳥肌が立った。 


 高座に座るツインテちゃんの声が怖かった訳じゃない。むしろ愛嬌があって通りの良い声で、聞いてるだけで笑顔になれて元気がもらえるような可愛い声だ。


 声を聞いて鳥肌が立つ意味が分からない、ツインテちゃんの声からは悪意とかなんて1mmだって感じない。座布団席に居る人達は『偶然だろ』程度に考えて聞き手としての調子を整えた。


「ご参加ありがとう、嬢ちゃん! 若ぇ子が高座に上がってくれて嬉しいねぇ!」


「ツインテちゃんってのはアレかい? 髪形から名前を取ったかね?」


「そうよっ、似合ってるでしょっ? ふふんっ」


「声が良いねぇ! 元気で明るい! ウチの孫娘も大きくなったらツインテちゃんみたいになってくれって思うねぇ!」


 地元の人達が由奈を適宜に褒めて緊張しないよう計らってくれる、堅苦しい空気だったら話し辛いだろうというお気持ちだ。


 それもあって由奈も座席も緊張感が解れる、囃し立ててくれる地元のオジサン3名はそういう役回りを頼まれてるのだろう。


 しかし聞きに徹してる座布団席の人達は、由奈が喋るたびに気持ちが浮くような引っ張られるような、聞いていて凄く気持ちが晴れやかに心地よくなれる感覚に染まっていく。


 由奈の声は実は相当に魅力が強い声で、ちゃんと声を張って話した場合は聞く人を凄く惹き付ける声なのだ。


 まだまだお子様ボイスだが、既に最高の声になる事が分かる声色であり、まだ“女性”とは言えない年齢の“女の子”の声の良さが詰まってる。


 そんな魅力的な声を持った由奈が高座に上がり、Vtuber配信とは違った形の話を聞かせる意識を強くしっかり持ちながら話す。それは由奈の声の良さを底上げしていた。


「ここに居る皆は怖い話は好きよねっ? じゃなきゃこんな会に参加しないわねっ」


「おうよっ、怪談はもちろん落語も講談も聞くぜ! 俺ら下町者は(はなし)が好きだからなぁ」


「ツインテちゃんも、その年で怪談話の高座に上がろうなんてシャレてるね! 度胸があるってもんだ」


 怪談会に参加しようなんて人達だ、やっぱり大なり小なり怖い話に興味がある。


 地域の人達は高座に上がってくれたツインテちゃんに感謝しつつ、良い感じに合いの手言葉を入れてくれる。こうして場の緊張感も消えて、由奈が自分のペースで話せる場が整った。


 由奈はここから枕話に入った。これは自分の前に高座に上がった灰川含む複数の人達から学んだ作法であり方法で、前置きを置いた方が自分も話しやすいと判断してのトーク進行だ。


「昔から学校には怪談が付き物よねっ、理科室の人体模型が動くとか、どこかの教室に幽霊が出るとかっ」


 学校の怪談は定番ネタ、大体の人は学校という場所は想像しやすいし、学校で不思議な体験をした人なんかも多いから興味も引きやすい。


「もちろん今の時代も学校には怖い話があるわっ、学校に通ってる私が言うんだから間違いないわよ」 


 明るく表情をコロコロ変えながら喋る由奈の話は、聞いてて何だか楽しい気分になる。灰川はいつもそう感じてるが、今は怪談会に参加してる人達みんながそれを感じてる。


 由奈が言うには今も学校には怖い話があるらしく、やっぱり昔から変わらない定番の学校怪談が今も語られてるらしい。


 音楽室の音楽家の肖像画が呪ってくるとか、トイレの3番目のドアに幽霊が居るとか、そういった昔ながらのネタを由奈は得意げに話す。


 学校の怪談は昔と比べて数が少ないし下火なのは否めない、塾に通う子が多くなって放課後に残る子供が少なくなったとか、子供向け心霊番組も無いしテレビを見なくなったとか理由は様々だ。


 それでも完全には無くなったりしない、やっぱり怖い話が好きな子は凄く好きだし、オカルトに興味を持つ子は今だって多数いる。


「でも今の学校の怖い話は昔と違うって先生が言ってたわ、前に学校の廊下で先生が話してるのを盗み聞きしちゃったの」


 声の色がスっと変わり、由奈の声に釣られて客席の雰囲気も変わる。綺麗な声や通りの良い声は場の雰囲気すら簡単に変えてしまう事があるようだ。




  今時の児童怪談

 

 死の手紙という怖い話があるそうだ。小学校の教頭先生が廊下で話してた現代版の不幸の手紙、その教頭先生は前に居た小学校で生徒から聞いたらしい。


 ある生徒が学校の机の中に黒い封筒に入った手紙を受け取った、中に入ってる紙には『これを受け取ったら必ず死ぬ』と書かれてたそうだ。


 この話は手紙を受け取った生徒が死ぬという結末なのだが、教頭先生は不思議に思う。助かる手段が無いじゃないかという点である。


 昔に流行った不幸の手紙は3枚を書いて他の人に渡せば不幸にならずに済むとか、もらった手紙を他の学校の生徒に渡すなどで被害を回避できたという話があったのだ。


 他にも入ったら家族ごと苦しんで死ぬ呪いの教室とか、出会ってしまったら一生に渡って取り憑かれて不幸になる幽霊など、今時の子供の怪談は何か容赦がない。


 昔は口裂け女に会ったらポマードと3回唱えれば逃げられるとか、何かしらの被害の回避手段があったが、今は無い怪談が多い。


 その中で教師たちが本気で問題にした怪談話があったようで、ある小学校の出来事だったそうなのだが……。




「それはねっ……」


 会場の人達が由奈の話に引き込まれてる、よく通る声が臨場感を上げ、綺麗な響きのある声色がジワジワと精神に侵食してくるような怖さがあった。


 綺麗で可愛らしい声だけど、どこかクセのある由奈の声は怪談に適していた。寺の本堂の空気に涼しさが混ざる。ここからが怖い部分となった時に。


「この話はここでお終いよっ! 残念だけど、あの時は教頭先生が仕事でどっか行っちゃって続きが聞けなかったわ!」


 まさかの尻切れ話、ここから良い所という部分で話が切れてしまった。


「おいおい、そりゃないぜツインテちゃん! でも今時の子供の怪談は容赦がないってか、怖いもんだねぇ!」


「不幸の手紙かぁ、昔は下駄箱に入っててラブレターと勘違いしちまって浮かれた時があったもんだ!」


「色々な今時の学校の怪談が聞けて楽しかったぜツインテちゃん! 高座に上がってくれてありがとうよ!」


 由奈の話は尻切れだったが、それまでに語った現代の容赦ない系の学校怪談は非常に話が上手く、この場に居る大人たちをゾワゾワと怪談の世界に引き込んだ。


 Vtuberで鍛えられたトーク術で今の子供たちの怖い話を分かりやすく、かつ怖さを持って話す事が出来ていた。


 幽霊や得体の知れない化け物に対する子供が抱く怖さや無力さ、どうにも解決策がない呪いに対する絶望感など、由奈は声の抑揚などでも表現したのだ。


「凄く良かった、ツインテちゃん9点!」 


「私は10点あげちゃうわ~」


「俺は9点あげるぞ! また来年も来てくれぃ!」


 灰川は怪談で由奈に見事に負けたが、とりたてて悔しいという気持ちはない。話の内容はともかく話の技量では完全に負けてたのだ、やっぱり話すという点については声も才能も情熱も物が違う。


 由奈は一礼して高座から下り、景品のポストカードとポスターをもらった。立派な戦利品だ。


「誠治、景品もらったわよっ! ポイントも誠治より高かったわねっ! わははっ」


「負けちまったかぁ、由奈の怪談良かったぞ。凄い面白かったし興味深かったな」


 現代を生きる中学生の怪談、時代を反映した内容なのだろう。殺伐としてるが、そういう時代なのだと感じ入るしかない。


 子供の世界は大人の世界を映す鏡、その子供たちの間で殺伐とした話が広がりやすい環境というならば、今の時代は精神的に窮屈で厳しい時代なのだろう。


 由奈の怪談を聞いて灰川は一層に皆をサポートしなければなと感じる、こんな時代だからこそ子供も大人も助け合う気持ちが大切だ。


 そんな時代だから日常の癒しとなるVtuberや配信者が増えてるのかもしれない、厳しい現実だからこそ輝く存在に憧れる気持ちが大きくなるのかもしれない。


 それはきっと良い事だ、憧れも夢も厳しさを乗り越える糧になる。誰かの輝きは厳しい今を生きる人の灯台になる。由奈もそんな存在の一人なのだ。


「ねぇ、さっきのツインテちゃんって子、すっごい可愛くて良い声じゃなかった?」


「だよね、私もそう思ったって。配信とかVtuberとかやったら絶対に人気出そうって思ったよね」


 そんな声が座布団席から聞こえてくるが、灰川に勝って浮かれてる由奈には聞こえてないようだ。


「じゃあ誠治、お出掛けの続きねっ。私が勝ったんだからご褒美もらうわよっ!」


「おう、もちろんだ。何でも言ってくれよな」


 その後は景品ももらったので怪談会から抜け、由奈とのお出掛けの続きになる。だが座布団席の幕間で3人の若い女性客の雑談は続いてた。


「凄い良い声だったよね、あの声聞いてたら年齢とか関係なく好きになっちゃいそうな気がするんだけど」


「なにそれ~? 冬美は考え過ぎだって、でもちょっと分かる!」


「ツインテちゃんは明るくて元気な子って感じだったけど、なんかそういう所ありそうな感じする。私もそう思った」


 世の中には“好きになった人に好かれる事が出来る”ということがナチュラルに出来る人が居る、その人に好かれたら相手もその人の事を好きになってしまい、結果的にお互いに思い合うようになるという性質の人だ。


 好きになった人にしか見せない一面、好きになった人にしかしない大胆な行動、好きになった人の言う事は素直に聞くという、そういった方向で好意を伝えて特別な感情を持たせる性質。


 彼女たちは女の勘とでもいうべきもので、ツインテちゃんからその性質を感じ取った。


 普段は無邪気で明るい天真爛漫な子、少し生意気だけど大好きな人の言う事は素直に聞く子、その人を振り向かせるために色んな事が出来ちゃう子、そういう気配を色濃く感じたようだ。


 それは悪い事では無いし、誰しもそういう面はあるだろう。しかしさっきの子はソレらをする時は、結構な破壊力を伴ったアピールになると3人の意見が合致した。




 灰川と由奈は隅田川沿いの遊歩道テラスに来て散歩を楽しむ、川から反射する日光がなんとも心地よい散歩道だ。


「ポストカードとポスターありがとうな由奈、大事に保存させてもらうぜ」


「ふふんっ、喜んでくれて何よりだわ! 頑張った甲斐があるってものねっ!」


 約束通りに怪談会の景品をもらい、灰川は観賞用と保存用を手に入れた事を嬉しく思う。


「そんで褒美って何が欲しいんだ? 遠慮なく言ってくれよな~」


「誠治に勝ったご褒美は後で発表するわっ、覚悟しときなさいっ! うふふっ」


「随分もったいぶるじゃん、なんか気になって来たぞ」


 そんな話をしつつ川沿いの散歩を楽しむが、やっぱりすれ違う人達の視線が由奈に行ってるのが分かる。


 ツインテールヘアが川からの反射光を受けてキラキラと輝き、肌が卵や餅のように綺麗で、笑うだけで周囲が明るくなるような美少女に仕上がってる。


 声も良く通って人の耳を惹きつけるし、服装も由奈に似合ってて可愛さの引き立てと調和があり、そういった部分でも今の由奈は人目を引いた。


 今の由奈は『よく見ると可愛い』から『誰が見ても可愛い』の状態になっており、特に男女関係なく目を向けられる。


「なんか今日の由奈、めっちゃ人から見られるよな。いつもこんな感じなの?」


 灰川は由奈と2人でガッツリお出掛けするのはこれが初めてで、由奈は普段からこんな感じで暮らしてるのかと思ってしまう。


「そんなことないわよ、昨日にすごい美容サロンに行ったからだと思うわ! あそこに連れてってくれてありがとう、誠治!」


「おうよ、まあ俺の伝手って訳じゃなくて知り合いの人に頼んで行けたって感じだけどな」


「今日は市乃先輩たちも同じような感じで、色んな人から見られてるってメッセージ来たわよ!」


 由奈が言うには市乃や空羽もコンビニに行った時とか、会社に行った時に所属者からいつも以上に見られたそうだ。


 しかも最近は近しい人達から皆は『なんか最近、凄く可愛くなった』と言われる事が多いらしい。


「やっぱり恋する乙女は可愛くなるのねっ! 私も可愛くなってるかしらっ?」


「ははっ、そうかそうか、由奈も可愛くなってるぞ」


 流石に灰川としても皆のそういった心の向きが何処を向いてるのか予測は付く、特に史菜と由奈からは結構な直接的好意を伝えられてるし、先日の空羽との会話も流石に気付いてる。


 市乃と来苑と桜に関しては未知数だと感じてる所はあるが、ともかくとして思春期の一時の気の迷いくらいに考えてるから、そこまで問題視はしてない。


 住む世界が違うのだから勘違いするなと肝に銘じて過ごしてる。自分と彼女たちではとても釣り合わないし、年齢の差もあるのだ。


「ちょっとベンチで休むか、自販機もあるし丁度良いな。由奈は緑茶で良いか?」


「私の好きな飲み物覚えててくれたのねっ、ありがとう誠治!」


「一応はマネージャー見習い補佐だからな。ほら、怪談会お疲れ様だぞ」


 しばらく歩いてから休みを取る、動き回る時は疲れる前に休むのが良い。灰川は過去の経験からそういう部分には気が回り、市乃たちからも『灰川さんと一緒だと疲れにくい』と少し評判だ。


 こういう時の疲れは後から来る事もある。楽しい時は疲れに気付かず動けるが、その反動は後から襲ってきて配信活動などに影響を及ぼす。


 由奈も皆も夢中で目標や上に向かう性質があり、自分の疲れに気付かなかったり、不調に目を向けない所がある。その結果として史菜は以前にスランプになった。


 それらの事から学んで灰川は皆を注意深く見て、自分と居る時は疲労のコントロールの大事さを分かってもらえるよう努めてる。口でも休みや休憩の重要さは言ってるのだが、やはりというか夢中になると皆は忘れてしまうのだ。


「誠治って私が疲れちゃう前に休みを取ってくれてるのねっ、そういう優しい所が大好きよっ」


「おおっ、気付いてくれたかぁ、ありがたいな。でも今回は俺が疲れそうだったから休んだんだぞ」


「ふふんっ、そういうことにしといてあげるっ。いつも私たちのこと気遣ってくれてありがとうっ」


 由奈のこういう所が癒される、こういった部分は由奈が様々な事を考えながら配信活動をしてきた賜物なのだ。


 由奈は凋落(ちょうらく)した後のハッピーリレーにVtuberとして入所した子であり、実質的に所属企業の看板の名前では視聴者をほぼ掴めなかった時期のVtuberだ。


 最初に会った時は灰川はそういう事は分からなかった。自分に突っかかって来た子、業界5位企業所属なのに視聴者登録が少ない子、そんな風に見てた。


 だが自分で視聴者を5000人も掴むのは並々ならぬ努力が必要、その努力や試行錯誤をしてきた事を知る今は由奈を尊敬する気持ちが強くある。


 考えや気持ちを喋りや声の雰囲気で視聴者に伝えるにはどうしたら良いか、視聴者をイラつかせないゲームプレイはどのようにすべきか、そういった配信者に必要な事を必死に考え実践してる。もちろん出来てない時も多々あるが。


 破幡木ツバサはとにかく視聴者を大事にする、コメント欄をその他大勢としてではなく、コメントの一つ一つを1人の人間として見てる。その姿勢は視聴者にも伝わり、今の人気に繋がってるのだ。


 そういった努力が今の勘の良さや、人の思いやりに気付ける心を作って来たのだろう。


 中学2年生であっても、それまでに歩んできた生き方の道や環境によって、性格や物事の見方が人によって大きく変わるものだ。由奈はそれが今の明るい優しさに繋がってる。


「これで生意気さが少し収まればな~」


「何か言ったかしらっ? 誠治から少し失礼な香りがするわっ!」


「なんも言ってないぞっ! 由奈はカワイイなぁって言っただけだ!」


「当たり前よっ! わっはっはっ!」


 2人でお茶を飲みながら休憩しつつ、学校の事とか配信の事とか話して笑い合う。


 灰川の配信に誰も来ないことをネタにして笑いあったり、学校の技術工作の授業でノコギリを使ったら盛大に筋肉痛になったとか。


 破幡木ツバサの配信でアンチが湧いたけど今は完全にファンになってくれたとか、そんな話を楽しく語り合いながら休憩した。


 普段は来ない場所の非日常感、隅田川のほとりの気持ちの良い風、晴れた空、とても気持ちの良いお喋り休憩だ。


「そうだ誠治っ、そろそろご褒美に何が良いか言うわねっ」


「お、そうだった。何が良いんだ? テブクロと福ポンを連れてこいとかは無理だかんな~」


「分かってるわよっ、テブクロと福ポンにすごく会いたいけど、今はガマンするっ」


 由奈にたいそう懐いてる狐と狸は今は連れて来れない、あの2匹の動画や写真は今もたまに送ってもらっており、由奈は家でテブクロと福ポンが仲良く遊んでる姿を見て癒されてるそうだ。


「誠治にお願いしたい事はねっ、」

 いつもの事ですが、ここからどうするのか全く決めてません、どうすりゃ良いんだろう……

 欲しい物、やりたい事、行きたい場所、皆に利のある要求、とか考えてますが、ギャグにしろシリアスやホラーにしろ、どうするか迷ってます。

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