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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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207話 由奈とお出掛け

 OBTテレビから帰って来た後、パソコンを点けて配信でもするかな~とか考えたが、昨日も配信したし疲れてたので止めた。


 誰か配信してないかな~と考えて動画サイトを見るが、三ツ橋エリスたちは今日は流石に配信はしておらず、染谷川小路やルルエルちゃんも配信は終わった後だ。


 最近は配信見るのも時間が取りにくい、仕方ないが少し残念な気持ちもある。


 皆は順調にVtuberとして良い道を歩んでる、視聴者は増えてるし仕事もテレビ番組や大手企業CMなど良質なものが来てる。  


 エリスは登録者が100万人を超えてからも順調で、登録者数は目に見えた動きはないものの、同時視聴者が最高で20000人になった事があった。


 ミナミは登録者数は82万人だがグッズの売れ行きが良いらしく、平均収入は上がってるらしい。


 ツバサは登録者数は10万人になりスタッフ達からバズの気配がすると囁かれ、ルルエルちゃんは小学4年生としては破格の登録者数である8万人を有してる。


 ナツハは業界ナンバー1の座を403万人の登録者数で独走し、ここからの更なる活躍が約束されてる。


 れもんは300万人の登録者を持ちつつテレビ仕事への熱量も高い、ファン達も活躍に盛り上がってる。


 小路は250万人の登録数を固持しつつ、配信に力を入れていくという姿勢をファンにも話し、配信界隈からの信頼度と好感が上がった。


「明日は由奈と出掛ける日だな、駅前で待ち合わせてから出掛けるんだったな、もう寝るかぁ」


 今日に番組収録が終わり、明日に約束していた由奈とのお出掛けがある。


 最初に会った頃はあんなに生意気な子だったのに、今は強く慕ってくれて嬉しく思う。灰川としても由奈を可愛く思っており、明日に疲れを残して情けない姿を見せないよう早寝するのだった。




 翌日の朝になり起きて準備してると、スマホにメッセージの着信が来た。由奈の母の貴子からだった。



メッセージ・飛車原 貴子


 今日は由奈の事をよろしくお願いします

 灰川さんとデートだって昨日から

 とても楽しみにしてましたから



「ははっ、本当に嬉しいもんだなぁ、分かりました、ちゃんと無事に過ごせるよう気を付けますっと」


 無難で失礼の無いようメッセージを返信し、由奈を家に無事送り届けるまでがお出掛けだと肝に銘じる。その直後にまたメッセージが来る。



メッセージ・飛車原 貴子


 お外で由奈ちゃんに特別な教育をする時

 は、言う事をしっかり聞くようにいっぱ

 い優しくして大人しくさせてあげてから

 がお勧めですよ~、ふふふっ♪



「貴子さんは今日も平常営業だなぁ、それじゃヤベェ奴じゃないかよ、まったく」


 この程度のメッセージとかじゃ驚かなくなってる自分が何か怖い、そんな事を思いながら灰川はアパートを出て駅に向かったのだった。




 待ち合わせの時間の30分前に駅に着く、由奈を待たせる訳にはいかないし、やっぱり先に来てあげたいと思ったから早く家を出たのだ。


 流石にまだ由奈は来ておらず、とりあえず待ち合わせ場所の駅前のパン屋の前の近くに立って由奈の到着を待つ。


 家が近いのだから普通に迎えに行こうと最初は思ったのだが、由奈くらいの年の子は待ち合わせとかに憧れる年齢でもあり、言う通りに待ち合わせという事にしたのだ。


 少し待つと通りの向こうから由奈が歩いて来るのが見える、ツインテールヘアだから非常に分かりやすい。それを見て由奈がパン屋の前に着いたタイミングで灰川もパン屋の前に行く。


「おはよう由奈、待たせたか?」


「おはよう誠治! いま来たところよ!」


 元気よく笑顔で挨拶する由奈は、今日は袖がしっかりある黒を基調としたワンピーススカートのファッションだ。ラフだけどお洒落な感じがあり、なんか凄くよく似合ってる。


 しかも昨日に超凄い美容サロンに行ったばかりなので、髪の毛も肌も凄くピカピカしてる。このレベルだと普通に人目を引きそうで、スカウトとかが来そうだが、身長とか雰囲気から小学生モデルとして声を掛けられそうな気がする。


「服似合ってるな、靴もローファーショートブーツで可愛さアップだな」


「ありがとう誠治! 褒めてくれて嬉しいわっ、誠治はお仕事みたいな服装なのね」


「そう見えるんならまだまだお子様だな~、これはスマートカジュアルって言って、大人のオシャレのファッションなのさ」


 灰川の服装はノーネクタイにダークトーンの薄手のスーツジャケット、シャツもカジュアルな物を着用して仕事感が少ないファッションだ。10代と20代ではお洒落のタイプも違ってくる。


「たしかに普段と違うわねっ、いつもよりカッコよく見えて来たわ!」  


「けっこう良いだろ、俺が変な服で由奈に恥ずかしい思いさせる訳にいかねぇからな」


「ふふっ、すごく嬉しいわよ! じゃあ行きましょう!」


 こんな何気ない会話で由奈は満面の笑みになってる、それが凄く可愛くて心が穏やかになるような感覚が灰川に広がる。


 自分みたいな冴えない男を格好良いと言って慕ってくれる由奈が、なんだかとても愛らしく感じるのだ。この元気な笑顔がこれからも続くようサポートしようと強く思うのと同時に、ここからの予定に思いを馳せる。


「両国で良いんだよな? 池袋とか渋谷に出掛けたいって言われると思ってたぞ」


「渋谷はいっぱい行ってるし、池袋は誠治が行っても楽しくないかもって思ったの」


「そんな事ないぞ、由奈が行きたい所に行くのが一番だ」


「じゃあ問題ないわ! 両国とかの場所って行った事がなかったから、行ってみたいって思ってたわっ」


 東京生まれ東京育ちだからって全ての街に行く訳じゃない、由奈はまだ13才だし行った事の無い場所も色々あるようなのだ。


「お相撲さんの手形とかあるのよねっ? そういうの見てみたいっ」


「ははっ、じゃあ行ってみるか。荷物持つからよ、このバッグ少し重いけど何入ってるんだ?」


「お昼ご飯を作って来たのっ、後で一緒に食べるわよ!」


「おおっ、めっちゃ嬉しいんだが! 俺、ちょっと涙出そうになってるぞ」


 自分とのお出掛けを楽しみにしてくれてた上に、手作りのお弁当まで用意してくれる。今までこんな経験が無かった灰川としては控えめに言っても感動ものだ。


 そのまま電車に乗って両国まで行くが、その間も会話が途切れる事は無かった。由奈はVtuberなんてやるだけあって、凄くお喋りな子である。


 休日の電車は空いており簡単に席に座れた。周りの席に人も居ないので由奈はウキウキ気分で灰川に話し掛けてる。


「誠治は中学校の頃って、どんな子だったのかしらっ?」


「どんなって言われてもなぁ、学校生活はマジで普通としか言いようがないんだよなぁ。霊能力の修行はしてたけど」


「誠治は彼女さんは居たのっ? 今は居ないの知ってるけど」


「それは秘密だな~、でもモテた試しはないぞ」


「そうなのね! でも今は私にモテてるわよっ、光栄に思ってほしいわ!」


 由奈はとても好奇心旺盛だ、配信のために色んな事を知って生かそうとするし、そうでなくとも興味のある事は自分から進んで調べる性格なのだ。


 学校の成績はあまり良くないようだが歴史や現代文は好きなようで、割と詳しい部分があったりする。


 灰川はそんな由奈に自分の事をいっぱい聞かれるが、正直に言って学生時代は普通すぎて面白い話がない。


 彼女の話題が出たが、灰川はこれまでに彼女という存在が出来た試しがない。見た目も普通で性格も目立つ所が無く、集団生活の中では埋もれてしまうタイプなのだ。


 中学の頃は彼女がどうとかは興味はあったが勇気がなかった、高校は男子校、大学時代は気付いたら終わってたみたいな感じだ。過去の恋愛遍歴は市乃たちからも聞かれた事はあったのだが、一律でこの返し方をしてる。


 大人の店に行った事もあったのだが、そこでも相手から『良い人なのは分かるけどモテなさそう』と正直に言われ、その性質は子供の頃から変わってない。


 つまり男のモテ属性であるヤンキー系とか陽キャ系ではなく、普段からオシャレに気を使う訳でもない、普通のモブみたいな属性なのだ。


「俺はクラスとかでも目立たなかったけど、由奈はクラスで目立ってそうだな。かなり喋るし」


「私のクラスは誰が目立ってるとか、あまりないわ。女子だと早恵美ちゃんが少し目立ってるわねっ」


「男子で好きな奴とか居ないのか? カッコイイ男子も居るだろ」


「学校の男子からは誠治みたいな良い香りがしないわ、最初に誠治に近寄った時は何でこんなに良い香りがするのか分からなかったわ」


 由奈は霊嗅覚を持った霊能力者であり、灰川のような良い香りがする人は会った事がないそうだ。最初に会った時から良い香りがしたそうだが、あの時は虫の居所が悪くて普段以上に生意気な事を言ってしまったらしい。


 由奈が言うには良い香りの男性ランキング1位は圧倒的に灰川で、2位が父親の学志、3位は2人の祖父だそうだ。


 母親の貴子が言うには灰川と由奈の相性は絶対にこれ以上は望めないというくらい良く、灰川と一緒に居れば由奈は絶対に不幸になんかならないと言い切れる程と聞かされた。


 貴子も夫の学志と同じくらい相性が良く、何としてでもゲットするために年齢差と手段を考慮しない猛アタックで仕留めたのだと聞いた。


「霊嗅覚か、不思議だよな。俺も習得しようと思って頑張ってるんだけどよ、上手く行かないんだよな~」


「そうなの? 誠治でも霊能力で出来ない事があるのねっ、だったら霊嗅覚が必要な時はいつでも言いなさい、私が力になるわ!」


「ありがとうな由奈、でもまだ諦めてないぞ。もうちょっと修行すりゃ良い感じに使えるようになるかもだ」


 強い霊能力があるが決して万能ではなく、何でもかんでも出来る訳じゃない。春川 桜の瞳術眼を模した時は上手く行ったが、霊嗅覚は勝手が違い難儀してる。


「もし誠治が霊嗅覚が使えるようになったら、私からどんな香りするのかしらっ?」


「想像が付かないんだよなぁ、由奈が前に呪われた時に言った水が焦げた匂いとか、マジで分からんて」


 こういう時は『良い香りがしそう』とかが無難な答えなのだろうが、オカルトの話だったので真面目な考えを言ってしまう。


「私は誠治から色んな香りがするわよっ、今は綿アメのお花畑で焼き鳥を食べてるような感じの香りがするっ!」


「それって良い匂いなのか!? 確かに今朝は残ってた焼き鳥食べたけど!」


「焼き鳥の匂いは本当の匂いだったのね! 気付かなかったわ、わははっ!」


 なんだか由奈も表現が独特な時がある、綿アメの花畑の香りなんて分からないし、自分からそんな香りがしてるのかニワカには信じられない。


 けれど由奈が言ってるのだからそうなのだろう、どんな香りが霊嗅覚を通して伝わってるか知らないが、良い香りだと言ってもらえると嬉しい気持ちになる。


 朝日が昇る電車に揺られ、年の差ある仲良しの2人が行く。由奈は楽しそうにツインテールを揺らし、灰川はそんな由奈を見て温かな気持ちになりながら両国へ行くのだった。




 両国は駅からして他とは違うのが見た目から分かる場所、壁には歴代横綱の大写真が並び、駅看板には相撲関係やちゃんこ屋の名前が並んでる。


 国技館がある相撲の総本山の街であり、そこかしこに力士の像や写真、土俵を模したモニュメントなどが町中にある場所である。


 当然ながら相撲部屋も多くあり、名門相撲部屋があちこちにあり、街を歩いてたら運が良ければ力士を見れるかもしれないという街だ。


 交通アクセスも良く治安も良好で、住みよい下町という側面もある地域だ。


「わ~! あっちこっちに相撲の物が飾ってあるわねっ! 誠治っ、横綱の手形があるわっ!」


「でっかいなぁ、俺の手の2周りはデカイぞ」


「私の手の2倍くらいあるっ、握手したら手が包まれちゃいそうねっ!」


 駅構内から既に相撲の匂いが感じ取れる街、ちゃんこ屋を始めとした飲食店も多く、有名な寺や歴史を学べる博物館などもある。


「とりあえず歩いてみるか、博物館は今は改装工事中か」


「博物館以外にも街に色々あるみたいよっ、歴史がある街みたい」


 両国には飢饉や震災戦災で亡くなった人達を弔う寺があったり、忠臣蔵の舞台となった場所がある等、歴史好きな人にも嬉しい街だ。


 そんな街に由奈と一緒に繰り出し、あれこれと見て行く。


「葛飾北斎の美術館があるのね、葛飾区じゃなくて墨田区にあるの知らなかったわ!」


「昔は葛飾区は無くて葛飾郡っていう今より広い地域だったみたいだな、墨田区も葛飾郡だったみたいだから不自然じゃないっぽいな」


 浮世絵の偉人、葛飾北斎は今の墨田区の生まれだったようだが、昔は葛飾郡という地名で纏められてたらしい。そこの生まれだから葛飾という性を名乗ってたのだという説がある。


「勝海舟の生誕の地の史跡公園があるぞ、刀の刺さった椅子がカッコイイなぁ」


「ドラマで見たことあるわ! 坂本龍馬と仲が良かった人ね!」


「座って写真撮ろうぜ! 幕末好きには無視できないスポットだろうな」 


 勝海舟は様々な交渉を経て江戸城無血開城を成し遂げた人の中核の一人で、その名前は今も語り継がれる幕末志士だ。


 そんな勝海舟の生誕の地には記念公園があり、ちょっとした写真スポットにもなってる。刀が脇に差さった椅子に座れば気分は幕末、激動の時代の風を感じられるかもしれない。


「花火の資料館があるわ! 見てみたい!」


「うおおっ! 花火の30号玉ってこんなに大きいのか!バランスボールよりデカいなっ!」


「花火って厄除けとかの意味もあるのねっ、勉強になるわ」


 午前中に両国のあちこちを回り、新たな知識や歴史を由奈と灰川は吸収していく。灰川としても色んな事を新鮮な目で楽しく見る由奈と一緒に居るのは楽しい。


 道端で力士の手形が集められたモニュメントを見つけた時は、性懲りもなく手の大きさ比べをしたりして一緒に笑う。


 小さな神社を見つけた時は中に入って賽銭を入れ、Vtuberとしてもっと視聴者さんが増えますようにとか、由奈のお願いが叶いますようになんてお願いして、由奈が凄く嬉しそうな表情を見せてくれたりした。


 そうこうしてる内に昼くらいの時間になり、近くにある公園広場のテーブル席で由奈が作ってくれたランチを広げる。


「美味しそうだな、頂きます」


「今日は全部一人で作ったわ、ハンバーグが自信ありよっ」


「うん美味い! ハンバーグも卵焼きも美味しいぞ、ありがとうなっ」


「どういたしましてよっ、おにぎりも具沢山にしたわ」


 由奈は中学2年生にして結構な料理の腕前で、ハンバーグも卵焼きもとても美味しかった。


 他にも煮物や炒め野菜なども入っており、手間暇かけて作ってくれたのが分かる。それが何よりも嬉しいのだ、これなら例えどんな味だったとしても美味しいと思える自信が灰川にはある。


 昨日は収録だったのに、今日は朝に起きてお弁当を作ってくれた。そんな由奈にとても大きな感謝の気持ちが湧く。


 こんな子だからVtuberという成功は厳しい世界でもめげずにやって行けてるのかと感じる、中学2年生で登録者10万人なんて凄い事だ。


 そんな凄くて根は誰よりも優しい子に慕われてるのは、灰川としては凄くありがたくて誇らしい気持ちになれた。




 ランチが終わり片付けをしてから腹ごなしでもしようと、両国にある観覧自由の庭園を散歩する事にした。


 その庭園は質の良い玉砂利が遊歩道に敷かれた日本庭園で、多くの木々が植えられた緑豊かな場所、大きな池もある綺麗な落ち着ける市民開放庭園である。


 小さな庭園橋や灯篭(とうろう)もあり、庭園として見応えがあって散歩にも最適な場所だ。そんな落ち着いた場所の園内を歩きながら会話は続く。


「誠治はお弁当で何が一番美味しかったかしらっ? これからの参考に聞かせて欲しいわっ」


「全部凄く美味しかったけど、やっぱ卵焼きかなぁ、でもハンバーグも同率1位にしたいくらい美味しかったしな~」


「うふふっ、じゃあ今度は卵焼きとハンバーグを多めにして作るわっ、美味しいって言ってくれてすごく嬉しいわね!」


 隣を歩く由奈のツインテールが嬉しさに反応するかのように揺れるのが可愛らしい、凄い美容サロンに行ったばかりで全体が輝くような容姿なのも相まって、Vtuberというよりジュニアアイドルの女の子と一緒に歩いてるような気分だ。


 街を歩いてる時でも由奈に目を引かれる人が居たり、小学校4年生くらいの男の子がジーっと由奈を見てたりした。由奈は身長が140cmちょっとくらいしかないので同学年だと思われたのかも知れない。


 もし芸能事務所が多い地域を歩いてたら、本当にスカウトされてた可能性がある。今の由奈はそのくらい可愛い。


「そういえば昨日の収録って上手く行ったんだよな、放送ではどんな感じになってるんだろうな」


「ディレクターさんが良い感じに編集してくれるって言ってたわ、カットする部分も多いけど悪く思わないでって話もされたわねっ」


 Vtuber配信や動画サイトへの動画投稿とは違いがある世界だ、カットなど存在しない配信はもちろん、自分で好きに作ったり編集に注文を付けられる投稿動画とは全く違うのだ。


 テレビ番組だと好きなように編集など出来ないし、ネット配信よりも出演者の段取りやチームワークも大事そうで、出演者同士の仲の良さなども関係してくるだろう。


 普通のテレビ番組でも有名人のトークはノーカット、売れてない若手芸人などのトークは面白かろうが全カットなんて事は珍しくないそうだ。


 テレビ番組は面白さも重要だが、同じくらいに視聴率も大事だ。そして必ずしも面白い番組が長続きする訳ではないらしい。


「でも由奈たちなら成功するさ、俺も後押しするぞ。こう見えても少しづつ業界にコネとか出来てきてるしな」


「そうなのねっ、私たちも面白い番組にして視聴者さんを呼び込めるよう、いっぱいガンバろうって話したわ。次だってガンバる!」


 空羽たちは色々と慣れない事もあって収録にかなり疲れたようだが、由奈は出番が少なかったから疲れはそこまでではなかったようだ。


 普段の配信と違って周囲に多数のスタッフが居るし、完全に自由にやれる環境じゃない。その上でVtuberという媒体の魅力や面白さを伝えるというのは、慣れない今は完全には無理だろう。


 時には10回の配信より1回の収録の方が疲れる事もあるだろうし、大事な局面に向けてメンタルや体力の調整だって必要になる。そういう所に2社は踏み出したのだ。


「なんだかそう聞くと、相撲取りの人達と似てる部分あるな。10回の練習試合より1回の本番土俵の方が体力を遥かに使うんだってさ」


「そうなのっ? でも分かる気がするわっ!」


 力士も優れた肉体を持つ者達の中から、選ばれ限られた者しか番付に乗れない世界だ。そこから10両以上の関取と言われる力士、それ以上の幕内力士になるには大きな苦難と努力が必要不可欠。


 そんな屈強な力士たちは土俵に上がったら全体力、全神経を取組の一番に注いで相撲を取る。その集中力は誰にも負けない程に厚くて強固なものだろう。


 由奈や市乃たちも普段の配信だって頑張ってるが、何かにつけて『失敗できない配信、動画』の局面に当たるらしい。


 バズった時の次の配信、金を掛けたプロモーションの動画を出す時、普段より視聴者が多く見込める日など、失敗できない局面があるそうだ。


 もちろん普段の調子が出せず失敗する時もあるが、失敗を引きずらずに次に神経を向ける。なんだか力士と少し似た精神があるような気がした。


「そういう所の裏で支えてくれる誠治とスタッフさん達に凄く感謝してるわっ、誠治も所属者に電話とかする時、その人の生活に合わせてやり取りしてくれるって皆が言ってるのよ」


 由奈は物事のサポートがどれだけ重要なのか、先輩所属者のVtuberから教わった事があるらしい。


 今のハッピーリレーのスタッフは個人を見てサポートしてくれてる、所属者の暇な時間や睡眠を妨げない時間に連絡を取り、生活ペースや日常のクセや個人のリズムを乱さないよう仕事を組んでくれたり、それは灰川も花田社長から強く教わった事だった。


 稼げるようになった所属者の中には天狗になって、サポートするスタッフを『金だけ持ってく連中』みたいに見てた奴も居たそうだが、その態度が見えた所属者には事業部の中本部長が叱ったりもしてるそうだ。


 中本部長は厳しい人だがブラック時代には所属者の側に立った人で信頼があり、世話になった所属者も多く、言う事を聞かない所属者でも中本部長の話だけは聞く者が多い。


 実際にはハッピーリレー運営と所属者の溝はまだまだ深い、ブラック時代の事を考えると仕方ないだろう。


 ハッピーリレーは映像制作編集会社という側面もあるから、職員が全て配信関係の仕事に関わってる訳ではなく、そういった所からも現場と運営で認識の齟齬や溝があるのだ。


 由奈はそれでもハッピーリレーに入って良かったと言う、忙しい中で自分たちをサポートして、自分では出来ない事を代わりにやってくれる人達に感謝してる。


「そう思ってもらえて嬉しいよ、夜中に起きて電話しなきゃいけない人も居るしな。これで役立たずなんて思われてたら浮かばれねぇって」


「今日は私も誠治も嬉しいこといっぱいねっ! 私も誠治とお出掛けできて嬉しいわよっ!」


「言ってくれるじゃん由奈~、俺も楽しいぞ~、はははっ」


 都会の中の緑溢れる庭園を歩きながら、笑顔いっぱいで2人で歩く。とても癒される時間だ、皆と関われて良かった、心からそう思える。


 辛いことや予想外な事もいっぱいあったが、やっぱり今が楽しい。皆の支えになりたいと思えるが、やっぱり心の何処かで『皆のような配信者になってみたい』という気持ちもある。


 両国での歴史散歩は何だか心休まる伸び伸びとした時間だった。元気いっぱいな由奈と歩いて笑い、早起きして作ってくれたお弁当を食べて心も体も満たされた。


 この街は何だか良いオーラがある、魔を祓うとされる力士たちが縁起の良い相撲に勤しむ街だからだろうか?

 

 日夜を問わず強さに向けて歩み続ける相撲取り、名を上げようと自分たちの道を行く配信者たち、そこに何かシンパシーを感じつつ楽しい思い出が2人の間に出来たのだった。




「そろそろ行くか、浅草にも行きたいんだろ?」


「そうねっ、お寺とか商店街とか見てみたいわ! 川の横の遊歩道も歩いてみたい!」


「おう、とことん付き合うぜ、でも疲れたら遠慮なく言うんだぞ」


 次の行き先はすぐに行ける場所である浅草だ、様々な観光名所や個性的な店がある街だ。 


 浅草のような街では催し物があったりする事もあり、色々な楽しい事が開かれてたりする街でもある。


 由奈は灰川と一緒に居る時間が凄く楽しいが、その一方で灰川の事を非常に強く慕ってる。


 母親の貴子は自分の生い立ちもあって由奈が灰川に何をしようと、その逆も大らかに見守る気持ちがあり、それは由奈と灰川の相性は最高だと知ってるからこその気持ちだろう。この事は由奈も知ってる。


 それどころか貴子は由奈に、夫の心を射止めるために何をしたのかも、それとなく伝えてる。そういう家庭なのだ。


 最近の由奈は灰川と凄く進んだ仲になりたいと本気で思ってる。


 由奈は最近に同級生の早恵美と美緒が付き合い始めてから仲が進展して、前より進んだ関係、中学2年生の由奈が興味ある事をしちゃってる仲になった事をそれとなく聞いた。


 しかも放課後の教室に忘れ物を取りに来た時に2人の会話を聞いてしまい、今度はもっと凄いことしようねなんて話してるのも聞こえてしまったのだ。


 私も誠治とあんな感じの仲になりたい!とか思ってる。

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