203話 呪いと魔法少女デッキの脅威
スタジオではnew Age stardomの収録リハーサルが行われており、スタッフも演者も真面目に取り組んでる。
司会回しのドラグンガールズの2人は脚本に沿いつつVtuber達のキャラを立て、Vtuber達はまだ慣れないながらも脚本に沿って動いてく。
番組の構成は3Dモデルと2Dモデルを使ってVtuberという媒体や出演者の紹介をしていくという、初回に相応しい内容である。この構成ならVtuberをほとんど知らない人にも分かりやすいだろう。
上手くやれてる、声の調子が最高、身嗜みを最高の整えた事により、普段の配信の時よりテンションも良い感じで確かな手応えを感じてた。
ディレクターからの指示に従い、3D撮影のナツハとれもんの絡みを普段より近くして親密感を出す。エリスとミナミの説明トークでの目線をカメラに向けさせ、ツバサは出番の時には最高に明るく生意気に演出する。
ドラグンガールズの2人から話を振られた時は予め用意しておいたVtuber配信の裏話をして、既存ファンに『この番組を見ればもっとVtuberの事を知れる!』という印象を持たせる。
番組構成は最初から良かったし、スタッフが思ってた以上に5人の準備や事前練習も整ってた。初回はそこまで喋る部分は多くないのもあって、かなり順調にリハーサルは進んでる。
「この感じが本番でも出せれば視聴率は期待できるよね、れもんはどう思う?」
「ナツハ先輩の調子次第でもう少し全体が良くなりそうっすよ、自分ももうちょっとエリスちゃん達を引き立てるムーブがスムーズに出来れば良いんですけど」
ナツハは放送3か月以内の視聴率を同時間帯番組の中で平均3位以内を取る事が目標で、れもんは半年以内にシャイニングゲート全体の視聴者数を500万人底上げする事が目標だ。
そのためには番組打ち切りなんてさせる訳にはいかないし、今以上に番組収録に慣れて結果を出せるようにならなければいけない。何よりも初回でコケるなんて問題外だ。
「エリスちゃんは2D出演の時にスタジオをもっと意識した目線が欲しい、ミナミちゃんは声の抑揚がもう少し欲しいよ」
「はい、分かりました」
「抑揚ですね、ではこんな感じだと~~……」
「ツバサちゃんは自己紹介でもう少しゆっくり喋ろうね」
「分かったわ! 教えてくれてありがとう、三原さん!」
ディレクターの指示を聞きつつ音声スタッフなどのアドバイスを聞き、どんどん事が進んでいく。スタッフ達も5人が指示やアドバイスを素直に聞いてくれるから仕事がしやすい。
「社長さん方、あの子達は言う事を聞いてくれて良い子達ですね、ああいう子達だとこっちも良い番組を作ろうって熱が入っちゃいますよ」
「ありがとうございます村越D、絶対に良い番組を作って下さいね」
「エリス君もミナミ君も今日はキャラが立ってます、灰川君に任せて良かった」
社長達も雰囲気の良さを感じ取って気分は上々、予想より良い収録が出来そうだと感じてる所に富川Pから電話が入った。
『すいません、少し良いでしょうか?』
「富川P? どうされました? 灰川さんは交渉は終わってないんですね」
『実は少し厄介な事になってまして、局の取締役の人達の厄介ごとを灰川さんに解決してもらおうという話になってしまいまして~~……』
「「え?」」
スタジオに富川プロデューサーが入ってきて、事情をかなりボカしながら説明する。
灰川が上層部にトラブル防止のため2社の所属者に他社の男が近づかないよう工作してくれと頼みに行ったら、取締役の一人が重大な問題を抱えてる事が判明、その解決に当たってると話す。
それが解決されれば即座に2社の所属者が安全に渡り歩けるよう手配されると伝えた。実際には解決されなくても手配はさせる算段だが、それは分かってるだろうし面倒なので言わない。
「なるほど、分かりました。恩は売っておいた方が損は無さそうですしね」
「恩や義理など感じないような精神性の奴も多い業界ですが、灰川君が自分から動くのだから心配はしないさ。渡辺社長、私たちはここで出来る事をしましょう」
『そちらはお願いします、私は引き続き灰川さんの方に着いてサポートを続けますので』
社長達もVtuber達も今は特に人手に困っておらず、灰川が居たって何もする事が無いので問題なく話は通る。それに灰川の事は信頼してる。
エリス達は新番組と新境地への挑戦に全力を向け、社長達はサポートやスタッフ達への細かな要望などを伝えて集中しており、今は他に気を向ける余地はない。
一方で灰川は到着した和藤の息子から驚きの情報を聞いていた。
「え……? 世界25位…? 聞いてないんだけど……」
OBTテレビ近くの公園で和藤の息子の才知と合流し、事情をボカしつつ説明してTCGお祓いを実践しようと思ってたのだが、事情が変わってしまった。
既に灰川たちは近くのカードショップでTCGを購入し、出来レースのお祓いデッキを構築してた。しかし本人の念が籠ったデッキが存在してる事が発覚して使えなくなってしまったのだ。
晴れた日の公園でOBTテレビ上層部の3人のオジサンと富川P、そして灰川が呆気に取られてしまう。空ではカラスが鳴いていた。
「あの…灰川さん、どうします…?」
「と…富川P…、アテが外れました……」
才知の顔には素人でも見えかねない色濃い死相が出てる、これを除去しなければならないのに予定が狂った。
スタジオへの電話が終わった富川Pに話すが、やはり他に良い解決策が見つからない。なんで親子なのに息子が世界ランカーなのを知らないんだとか言いたくなるが、そういう家庭なのだと納得するしかない。
「あの、どうしたんですか? 俺が鏡が紫色に見えてるのと関係あるって話みたいですけど」
才知には健康面での死相、末梢循環系の不全を示す皮膚色の変化や、食欲の異常低下による皮下脂肪減少での肌の濁りなどは無い。
しかし霊的な死相、顔が簾がかったような見え方をする現象、顔が黒いような紫のような印象を受ける見え方が出てる。
「才知君だったよね? 鏡を見た時に紫に見えるって言ってたけど、他には何か変な事とか無い?」
「あとは鏡を見たら奥の方で男の人が笑ってる?みたいな感じの映像が頭の中で流れるって感じですかね、なんか気味悪いんですよね」
「そっか、じゃあ今夜に君は死ぬって言われて信じれる?」
「え…? 死ぬって、俺がですか?」
この言葉に才知は動揺を見せるが、同時に何か合点がいったような表情を見せた。
「俺の知り合いに事故で死んだ奴が居るんすけど…道端の占い師から同じような事を言われたって聞いたの思い出しました…」
更に才知には思い当たる話があり、何故か今朝からどんなに明るい場所に居ても暗い場所に居るような感じがするとか、閉まったドアの向こうに誰かが居るような感じがするとか、そんな話も出始めた。
それらは死が近づいた事による無意識的不安感の増幅、呪いが発動した事による霊感の上昇といった現象で、これはもう灰川から見たら完全アウトの状態だ。
「和藤さん…息子さんが世界ランカーだって知らなかった理由は聞きません…、ですがこれで大幅にお祓いの成功率は下がりました…」
「あ、あの、才知は本当に…死ぬんですか…? やはり簡単には信じられないと言いますか…」
和藤取締役社長は今も完全には信じてない、こんな事をオカルトに関係してこなかった人間に信じろと言う方が無理のある話だ。
灰川としては霊力に任せて無理矢理に祓うという選択肢は取れない、今回は力任せにやっても無意味なのだ。どうしても今回は繊細な霊力操作と儀式を踏んだ祓いが必要になる。
その条件を短時間で満たすためにTCGに霊力を込めて、疑似的なお祓いの儀式にするという方法を取ろうとした。しかし本人が魂と念を込めて作ったデッキが既に存在するため、出来レースのデッキに本人の念を込められない。
別のTCGを使うのも念が籠らないから無理、正道のお祓いだとタイムリミットに間に合わない、他の方法も考えるが思いつかない。
和藤親子もまだ完全には信じておらず、任せてもらえるか不安があるが、意外な人物から援護が発生した。
「和藤、灰川さんが仰ってる事は多分本当だ…」
「会長…? なぜそう言えるんでしょうか」
「俺が昔にディレクターをやってた番組で、オカルト究明サンデーって番組を覚えてるか?」
「あ、そう言えば深谷 健司って名前は…!!」
灰川にはOBTテレビ代表取締役会長の深谷の名前に見覚えがあった、昔にレンタルで見たオカルト番組のディレクターの名前だったのだ。
深谷は1流大学を出た後にOBTテレビに入社、その後は現場組から今の地位にまで伸し上がった人物である。
そんな彼は今まで様々な番組に携わって来たのだが、その中にはオカルトブーム時代に制作した局番組で、オカルト界隈では伝説の番組の一つとして数えられてる『オカルト究明サンデー』もある。
この番組は心霊、UFO、超能力など種類を問わず様々なオカルトに積極的にアプローチ、中には過激な取材や実証ロケもあったイケイケの番組だった。
「究明サンデーで問題になった回の一つでよ…手相、人相の占いの真相を暴けってのがあったんだけどな…。灰川さんが言ってんの、あの時の占い師の主婦と同じだ」
深谷会長は番組ディレクターの一人として様々なオカルトに突撃したが、その中には忘れられない物も幾つかあるらしい。その一つが灰川の言ってる事と類似しており、彼自身にも才知はソレに当てはまってるように見えると語る。
オカルト究明サンデーの問題回
当時、番組ディレクターだった深谷は占い師は詐欺じゃないのかという疑念の究明のため、ある占い師の取材と実証ロケにスタッフを連れて出掛けていた。
取材する占い師は都内在住の人物で、主婦の傍らに占い業をしてる女性のF氏、見た感じは普通の人だった。
彼女は自分の店は持たずに道端で机を出して占いをする路上占い師で、腕も良くて顧客も結構居る人物である。何人も当たって取材を受けてくれたのは彼女だけだった。
「Fさん、我々の事を占ってくれますか? その結果で占いは当たるかどうか判断していくという形になりますんで」
「占うまでもないねぇ、カメラマンさんは2週間後にお兄さんが亡くなるよ、音声さんは3日後に高熱で寝込むことになる。これらは仕方ないさ、病気とかは避けられんから」
結果から言うとこれは当たったそうで、カメラマンの兄は持病が突然に悪化して亡くなり、音声スタッフは潜伏期間が長いウイルスに感染してて寝込んでしまった。
「でもタレントの2人はマズいね、顔に縦線が入って紫色と黒の死相が出てるよ。恐ろしい霊を怒らせるような事をしたね、私にはどうにも出来んから強い霊媒師の所に行きなさい」
この回に出演してたコンビタレントは数日前に、他局の番組ロケで何かの石碑を倒してしまったらしい。その事が原因かと思われたが2人は実はオカルトなど信じておらず、その時は怖い!とか言いながら何もしなかった。
しかし番組が放映されてから数週間後、コンビの片方が行方不明になった。
もう1人は収録後に怖くなって地元の神社でお祓いを受けて何事も無かったが、お祓いを断った相方が言ってた事が忘れられなかったと語る。
アパートに一人暮らしなのにトイレの中からノックする音が聞こえた、ドアの向こうにいつも気配を感じるようになった、擦りガラスの向こうに誰か居る。そんな霊感が強くなったかのような事を言ってたそうだ。
「この話はDVDになった時は消されてるし、ネットでは有名だが…」
「映像が出回ってない回のやつですか、俺は見たことがないですが、本物の霊能占い師だったみたいですね」
どうやら深谷会長には弱いながらも霊能力があるらしく、その時のタレントにも実は占い師が言ってた相がおぼろげに見えてたそうなのだ。
それ以外にも当時の心霊番組でトラウマになるような事があったり、0番スタジオが本当に手が付けられない場所になってるのも、何となく分かってたが怖くて見ないようにしてたそうだ。
「そんな…本当にそんな事がある訳が…」
「和藤、お前もテレビ局に入ってから信じられないような話とか、嘘みたいな噂が本当だったなんて経験は腐るほどしてきただろ…? お前はオカルト部門に居た事はなかったから仕方ないかもしれんが」
「私も実は専務取締役になってから局員の要望や訴えを聞きましたが、3階倉庫に幽霊が出るとか、警備員の申し送りに不可解な事が書かれてると報告が上がって来る事がありますよ…」
テレビ局とは全国の様々な情報が集まる場所であり、一般人では知りようもない情報も多く集まる。オカルトも例外ではないらしく、様々な念や物品が集まる性質上、局内でも心霊現象は多数が報告されるようだ。
段々と信憑性が上がってくる、一般人が入れない神社、灰川の聞いた話、テレビ局で過去にあった出来事との類似、取締役会長も見えるほど濃い死相、才知自身が感じてる普段との違い、どうにも思い過ごしとは考え難い状況になってる。
「俺…死ぬのか…? なんかさっきから頭の中に出口のない部屋に紫色の鏡がある映像みたいなの流れてる…俺、死ぬの…?」
才知の顔が青ざめる、本人が最もその気配を感じてるようで、ただ事ではない雰囲気が広まってる。
「とにかく、神社がどうとか呪いが本当かどうかは置いておきましょう。才知君、まずは俺とバトルしようか? これで俺が勝てれば何の問題もないんだし」
「わ、分かりました…っ!」
このお祓い方式は呪いを受けた側よりも祓いをする側の方の立ち回りが重要となる。呪いを解く事に適したデッキに霊力を込め、ゲーム自体にも霊力を込めてゲームを展開する。
呪い被害者の念が籠ったデッキを形代に見立て、掛けられた呪い自体にも効果を及ぼすという方式だ。そのため被害者のデッキ自体は何でも良い。
しかし既に魂が籠ったデッキがある場合は他に魂や念は込められない、少なくとも本家デッキ以上の念など込められないのだ。
ならば本家デッキを打ち負かせば良い、それに出来レースならどんなにデッキが強かろうが勝てるのだから問題ないと判断する。要は勝ててお祓いが出来れば良いだけだ、何もガチ勝負する必要はない。
「自分のデッキを使えば良いんですね、じゃあバトル開始ってことで…」
「おうよ、生命ポイントを削れば勝ちだから、効果とかは発動しないでよ。才知君は俺のサンドバックになってボコボコにされてりゃ良いからさ」
「なんか嫌な言い方ですね…ドローしますよ、ターンエンドで」
カードゲームで負ける方法なんて簡単だ、負けるまで何もしなければ良いだけである。フィールドに何も出さず、手札からも何も発動せず、黙って相手が殴って来るのを待てば良い。
話が決まってるなら早い、灰川としては後は目の前の色男、裕福な家庭に生まれて頭も良くてスポーツも出来そうな高身長のイケメンを一方的に打ち負かせば良いだけだ。
予算は5万円なんて言ったが、実際に掛かった金額は3万円くらいで、効果を調べながらお祓いに適したカードでデッキを組んだ。強さは度外視である。
「俺のターンだな、ドロー、地上戦闘フィールドに“鎧武者のジン”を出して700ダメージのダイレクトアタック、手札から~…」
ベンチ席のテーブルにカードを淡々と展開し、最初から決まってる勝ち負けに向かってゲームを進める。
灰川は才知が何だか凄く気に入らない、頭脳にも体にも恵まれて、見るからに小学校の頃からモテモテで、彼女とか居なかった期間が無さそうな奴が見てて嫌になるのだ。
人の10分の1の努力でモテてそうな人間、カッコイイと言われ続けて卑屈になるような出来事など一切なかった陽キャ、誰かしらイジメてそうなカースト上位グループのトップとかに居る奴、そういうのが凄い苦手である。
モテない男の僻みではあるが、話が合わないし、性格も合わない。ハッピーリレー配信者のボルボルみたいな気楽さがないというか、まさに『上位種』みたいな感じがして昔から嫌である。
(こういう奴ってTCGが趣味とか言ってもキモがられないのがムカツクんだよ! TCGが好きって言ってもカッコイイとか、私もやってみようかなとか言われんだろ!)
イケメン無罪、自分には縁のない言葉が当てはまりそうな奴、それが才知である。さっさと倒してスタジオに戻ろうと思ったら。
「手札から魔術スペルカードの“魔法少女の誓い”発動、鎧武者のジンの攻撃ダメージを3倍にして受け、敵軍プレイヤーの手札を3枚ハンデスします」
「え?」
ハンデスとは相手の手札を廃棄させる事を言い、これをされたら行動が制限されて戦術の組み立てを修正しなければならなくなる。
才知が発動したのは敵の攻撃を任意に倍化させて生命ポイントにダメージを受け、倍化した分だけ敵の手札を廃棄させる効果があるカードだった。
「魔術スペルカードを使用した事により手札から“3年生の夢見原 ナナ”を地上後衛フィールドにセット、夢見原ナナの効果により~~……」
「ちょ!ちょっと待てって! 話が違うだろ!この試合は俺の勝ちって話が付いてたはずだ!」
なんと才知が取り決めと違う行動をしてきて、灰川は姑息な悪役みたいな事を言いながら止めようとする。
しかし才知は何故かそのままカードを展開していき、地上後衛フィールドに『変身前のリコーダー・プリンセス』が揃えてしまった。
リコーダー・プリンセスとは子供に音楽の楽しさや素敵さを教える人気の魔法少女アニメ番組、『魔法のメロディ少女・プリコーダーズ』で聖なる力に選ばれた主要3人のキャラクターの事である。
ある偶然から小学3年生の女の子達3名のリコーダーに魔法の力が宿ってしまい、世界征服を目論む悪の組織と戦う女の子達の物語だ。今は2期になっており、キャラ達の学年は一つ上がってる。
「ナナとリンネとアリシアが揃った事により効果発動、デッキから魔術スペルカード“宿題忘れの居残り授業”をサーチして使用、特殊効果により変身能力を使用して~~……」
「これ呪いに操られてるぞ! 才知君!しっかりしてくれ!」
「3人が変身モード“プリコーダーズ”になった事により効果発動、各自の攻撃力を3倍にして3回攻撃、鎧武者のジンをプリコーダー・ピンクで撃破後にダイレクトアタック」
「うげぇ~! 負けたぁ~!」
灰川はお祓いをメインにしたデッキを組んでおり、敵の効果の阻害や戦術展開の妨害なども考慮してないデッキだった。まともに戦って勝てるような代物じゃなく、たったの2ターンで負けてしまった。
「おい才知! 負けなさいと言っただろう!なんで勝つんだ!」
「な、なんで俺が勝って……」
「解呪されないよう呪いに操られてます、やはりバトルで勝つのは最低条件だよな…」
これで呪いを疑う者は完全に居なくなり、焦りの色が雰囲気に現れる。富川Pも方策を考えて国家超常対処局にも連絡を取ったのだが、有効打となりそうな情報は得られなかった。
「ど、どうすれば良いんだ! このままじゃ才知はっ…!!」
「どうすりゃ良いんだよっ…! 俺は負ける気だったのにっ、勝っちまってるなんてっっ…!!」
和藤親子の焦りは強く、カードバトルの最中は意思が働かずに勝利に最適な行動をしてしまう事も発覚した。記憶は保ったままだから、完全に乗っ取られてる訳ではなさそうである。
「落ち着いて下さい和藤取締役社長! お祓い効果を保ったまま勝てれば呪いは消える事が実証されたようなもんです! すぐにデッキを組みなおして再戦しますよ!」
「俺も確信が持てました! 多少の事は霊力でカバーしますから、早いとこ行動に移りましょう!」
他のお祓い法は見つからないが、このお祓い法は今の紫鏡の呪いに非常に効果が高い事が霊視などを通して分かった。あとはタイムリミットに間に合うかどうかだ。
富川Pと灰川が現状を打破するために即座に動こうと親子に強く言う。
「和藤! さっき話した行方不明になったタレントは、自分の意志で行動してなかった形跡があると聞かされたんだ! このままじゃマズイ!早く動くぞ!」
「社長、状況証拠が揃い過ぎてます。即座に動かないと才知君は危険です、呪いや怪奇現象は本当にあると認めましょう!」
異常事態を目の辺りにした現場は焦りの空気に包まれるが、とにかく動くしか解決策はない。和藤以外の取締役の2人も事の重大さに気が付いて、仕事をキャンセルして協力する事を確約した。
「和藤さん、才知君を助けますよ! TCGショップに行ってデッキを組みなおします!」
「わ…分かりましたっ…、才知を助けて下さいっ…!お願いします…!」
「俺っ…流石にまだ死にたくないっ…! なんか死ぬっていう感覚が凄い分かるようになってきた…っ!」
どうやら呪いの被害者は死の自覚が出るようで、それが迫ってる事に恐怖する羽目になるようだ。
「大丈夫だ!任せとけっての! 効果記述とお祓い効果の多少の差異は霊力でカバーする!必ず生きて夜を越すぞ!」
才知のようなタイプの奴は苦手だが、呪いに掛かってるとなれば助ける以外の選択肢はない。助ける相手に好きも嫌いもない、ましてや命の危機に晒されており、自分に助ける手段があるならば見捨てるなんて出来っこない。
例え才知がどのような人間であっても見捨てる理由にはならない、死んで良いとも思わない。助けるか否かを選ぶ権利はあっても、見捨てれば一生の後悔を背負う事になる。そんなのは御免だ。
「ですが灰川さん、霊力で多少の融通は聞くとはいえ、どうやって勝てるデッキを組むかですね…」
「そこなんですよね…世界に通用するデッキっすもんね…」
小さな声で富川Pと言葉を交わし、ここからどうすれば良いか考える。カード知識も少ないから才知に教えてもらいつつ何て事も考える。
勝たなければならないのは事実だが、現状では非常に難しい。デッキに隙が無く攻防自在で、今のデッキでの勝利は不可能なのだ。
才知のデッキ編成を知ったとて『お祓い』という縛りがある灰川では、一方的な個人対策デッキであるメタデッキを組む事も難しい。特に厄介なのはカードの原作再現効果の数々だ。
ワールド・ブレイブ・リンクはオリジナルカードと版権作品カードが混在するTCGで、非常に様々なユニットカードや魔術スペルカード、策略カードが存在する。
そして先程に牙を剥いたデッキのカード、魔法少女アニメ『プリコーダーズ』が原作で使う数々の魔法を再現したカードや効果が厄介でたまらない。
主人公である夢見原ナナ(プリコーダー・ピンク)が原作アニメで使用する技、変身アイテム兼攻撃装備であるマジカルリコーダーに、未知の物質によって刃を形成し剣状の武器に変化させ、敵対者に必殺斬撃を加える『プリティ・リコーダー・エッジ』の必殺技カード効果。
音野峰リンネ(プリコーダー・ブルー)の必殺技、マジカルリコーダーから華やかな指向性爆発破壊エネルギー榴弾を放ち、敵のみを爆発四散させて悪のエネルギーを浄化する『プリティ・リコーダー・ボンバー』の再現破壊効果。
海外からの転校生であるアリシア・ミルキース(プリコーダー・ホワイト)の能力、マジカルリコーダーを吹いて防御障壁を形成したり、味方の分身体を形成して攪乱したり、その他にもバフやデバフを行う『プリティ・リコーダー・コンサート』の支援効果。
どれも厄介だが、攻略しなくてはならないのはこれだけではない。才知のデッキはマジックガール&ヒーローズ、魔法少女以外にも倒すべきカードが存在してる。




