表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

183/333

183話 MID7 vs 免罪符のヴァンパイア

 サイトウからもらったカメラはVtuberを自動でバーチャライズして、3Dモデルに変換して撮影できるカメラだった。


 しかも背景や車などの動く物、コップの水や観葉植物の葉まで仮想映像化処理をして、Vtuberが何をしても不自然にならないという優れ物だった。


「凄い! コバコと桔梗が動き回っても全く問題ないじゃないか!」


「すげぇ! ドブの水までバーチャルっぽく写るなコレ! オレ欲しいって!」


「うおっ! 通行人とかは写らない削除モードと、通行人はモブ顔にバーチャル処理されて写る機能とかある!」


「衣装を変えられるモードもあるみたいですね、凄い気がします」


 雲竜(うんりゅう)コバコと飛鳥馬(あすま) 桔梗(ききょう)のVtuberモデルはシャイニングゲートが作った物ではなく、アバター販売サイトやモデルメイカーで作った金の掛かってないモデルだ。


 それでも衣装はしっかり動き、その動きも可愛さを引き立てるような動きに処理されてる。表情なども凄く変わって生き生きしてるし、これが恒常的に使えたらVtuber配信は大幅に活動の裾野(すその)が広がりそうだ。


 その性能に驚きつつシャイニングゲートに向かってる。渡辺社長が正規Vtuberで試したい事があるそうで急ぎ足で向かう、話し掛けても返事が来ない程にカメラの機能を調べる事に熱中してた。


 少し歩いたら到着してエレベーターに乗ってシャイニングゲートの事務所がある上層階に向かい、受付に居た人に話し掛けた。


「相田さん! Vtuberは居ますかっ?」


「ええっ…? Vtuber会社の社長がそんなこと聞いてくると思わなかった…まぁ、居るんじゃないですかね、Vtuberの会社なんだし…。ちょっと入所チェック見ます」


 シャイニングゲートは受付を通る際にチェックがあり、誰が事務所に居るか把握してる。しかし今の受付の人は交代したばかりで、誰がいるか分からなかったようだ。


「居ないですね、Vtuberに詳しい人ならいっぱい居ますけど? 後ろの2人もVtuberだし、灰川さんは違いますけど」


「なんでVtuberの会社にVtuberが居ないんだぁっ、おかしいだろうっ、どうなってるんだ!」


「アンタの会社でしょ…配信事務所も今は誰も居ないですね、ちょっと離れたスロット屋に行けばティアルさんが居るかもですけど」


 渡辺社長はパソコンの時と同じように興奮状態だ、少し放っておけば元に戻るだろう。


「あっ、5分くらい前に赤木箱シャルゥさんとケンプス、サイクローさんが事務所から退出してますね。電話して戻ってきて~~……」


「分かった! ありがとう相田さん!」


「ちょ、渡辺社長! 追い掛けるんすか!? 電話した方がっ」


 結局はそのまま話を聞かずに渡辺社長は向かってしまい、灰川たち3人も追うようにして着いて行く羽目になった。あのカメラは灰川の物だから、放って置くわけにはいかない。




 その頃、事務所から出た赤木箱シャルゥとケンプス・サイクローは駅に向かって歩いてた。


 赤木箱シャルゥの本名は紅弓(べにゆみ) 華符花(かふか)、高校1年生の所属者で視聴者登録は80万人のシャイニングゲートの中堅に位置するVtuberだ。


 ケンプス・サイクローは本名が鈴井(すずい) 優子(ゆうこ)、高校2年生で年齢的にはシャルゥの先輩だがデビューは同期である。視聴者登録は71万人で、これまた中堅である。


「ゆーちゃん、後で配信だよね? 今日って何やるの?」


「ちょ! 華符花っ、今日はコラボ配信でしょうが!? アルスナーバトル3やるんでしょうが!?」


「ええっっ? 明日じゃなかったっけっ!?」 


 2人は非常に仲が良く、コラボ配信なども頻繁に行い、ファン達の間でも仲の良さは周知されてる。2人同時推しのファンも多く、ファンアートなども2人揃って描かれてる事が多い。


「おーい! ちょっと待ってくれー!」


「え?社長? どうしたんですか?」


「あっ!この人って灰川さんって人ですよね社長、シャイニングゲートの赤木箱シャルゥだよっ、よろしくです灰川さん」


「ちょっと待ってくれよ社長! オレらを無視すんなって!」


「はぁ…はぁ…、久しぶりに走りましたぁ~…」


 何だかんだと騒がしいが、取りあえずはそれぞれに軽く自己紹介したり、渡辺社長を落ち着かせたりして場の収まりを付けた。



「紅弓、鈴井、ちょっとカメラで撮影させてもらえないかっ? 仕事に使ったりとかのものじゃないんだが、頼みたいんだ」


 近くの小さな公園に入って話をする。昼過ぎの公園には子連れの親子が2組ほど居たが、特に問題なく話す事が出来た。


「これがVの撮影に役立つカメラですか? 普通のハンディカメラに見えますけど」


「ふ~ん、まあ細かいこと気にしないで撮ってもらお~よ、ゆーちゃん」


「別に良いですけど…意味わかんないかも…」


 Vtuberは一応はスマホなどのカメラを使って配信も出来るが、そんな感じではなさそうだと2人は思う。


 3Dモデル配信や3D撮影だと専用の機材が必要だし、何も無い場所でいきなり生身で撮影する意味が分からなかった。


「えーとっ、何すれば良いですかっ? ちょっとダンスするとか?」


「ダンスはちょっと…今スカートですし」


「じゃあ華符花はダンスで優子は適当に歩くなりして欲しいな」 


 そうして2人はダンスしたり歩いたりして動画に収まり、カメラの性能検証を進めた。




「すっごいっ! 社長っ、これどこで買えるのっ!? 私も買いたいっ!絶対欲しいっ!」


「これって…シャルゥとケンプスになってる…! 普通に撮っただけに見えるのにっ…!」


 動画を確認すると赤木箱シャルゥがダンスをして、ケンプス・サイクローが歩いてる動画になった。


 もちろん背景も最適化されており、衣装は2人の私服のズボンやスカートからVtuber衣装になってる。表情や身振りの動きも完璧にVtuberモデルで再現されており、テキトーなダンスと普通の歩行なのに様になってる。


 全てがプロの映像作家が作ったものの質と遜色ないどころか、少し上くらいに見えるレベルだ。


 もしこの映像を通常の手段で作ろうとしたら、どのくらいの金と時間が掛かるのか……。


「灰川さんよー、これ何処で売ってんだって? オレも気になるぜ?」


「えっっ? これ灰川さんが持ってる物なんですか? どこで売ってるんです?」


 コバコが灰川の持ち物だと言うとケンプス・サイクローこと鈴井優子が反応した。


 シャルケンプの2人には今まで面識が無かったし、特に用もなかったから接点は無かったが、ここに来て持ち物を介して興味を持たれた。


「いや、これは依頼を受けて報酬としてもらった物なんですよ。市販品じゃないですね」


「そうなのっ? そっかー、売ってないってさ、ゆーちゃん」


「あの、普通に話して頂いて良いですよ、ナツハ先輩たちと普通に話してる人に敬語使わせたってなったら、皆から何言われるか……」


「え、ああ、じゃあ普通に話すよ。2社の所属者さんには初対面は普通に敬語だからさ、気を使わせてごめんね」


 カメラは売り物ではないし、サイトウからは『誰が作ったかは黙っててください』と言われてる。秘密機関の所属者だから、これ以上の名前の広がりは避けたいのだろう。


「でもこのカメラスゴイよね、これがあったら動画撮影とか色んな事が出来るよ、私も欲しいなぁー」


「しかもこれ、今着てる服とかもVtuber衣装化できるみたいだし…撮影モードとかライブモードとか色々あるっ…!」


 外での撮影やスタジオでの撮影、普段使いにも出来そうだし隙のないスペックだ。


 このカメラがあれば手軽に屋外での動画撮影が出来る、パッと思いついたアイデアを即座に実行に移せる、ゲームや雑談や歌など以外の配信や動画に手が伸ばせるようになるだろう。


 バーチャルと現実の壁を更に薄くできるツールであり、それを一早く使えるメリットは凄まじく大きいだろう。しかしこういった物は変な使い方も可能だ。


「これってもしかして、やろうと思えばVtuber同士の濃厚接触とかもリアルに撮影できたりしませんか?」


 「「!!」」


「おいおい桔梗さん、そんなスケベな使い方はねぇだろ。未成年も居るんだから、もっと健全にだね~~……」 


 もし今より3D撮影が楽に出来るようになった場合、そのような方向性を取る人なんかも出て来るかも知れない。こういうテクノロジーの発達は必ず副産物をもたらす。


 誰でも気軽に美少女に変身できるようになった世界のスケベ動画、その動画は本当に美女の映像ですか?……本当は美女のガワの下ではオジサン同士が…


「なんか変な想像しちまった…そっちの趣味はないってのに…。せめてこのカメラでVtuberのドラマを撮るとか、ホラー映画を撮るとか、そういう方向で行こうよ」


「シャイゲでガチスケベはダメだろ灰川さんよ~?」


「俺が言った訳じゃねぇっての! 言ったの桔梗さんだっての!」


 そんな脱線しそうになる話を無理やり断ち切り、元の話題に戻ってきた。 


「そういえば灰川さんって、Vフェスでハピレさんにパソコン貸したんですよね? それが元で今もちょっとづつハピレさんが伸びてるって聞いたんですけど、本当ですか?」


「あ~、そういやそんな事あったなぁ。ハッピーリレーさんは伸びてるみたいだけど、それは実力だって」


「でも他にもジャパンドリンクのCMの仕事を取れたのは灰川さんのおかげだって聞いたし、テレビ番組とかもって」 


「私とコバコちゃんがデビュー出来たのも灰川さんの選出ですし、あの……灰川さんって何者なんですか…?」 


 ここ最近のシャイゲの企業案件がどんどん良い内容になっており、仕事の規模が大きくなり始めてる。


 それは灰川の恩恵だけでなくスタッフ達を始めとした企業努力、渡辺社長の手腕、所属者達の配信の良さなど様々な要因がある。


 しかし大きな仕事の裏に灰川の影がチラつく事があり、スタッフや所属者達からも『どういう奴なんだ?』という疑問が上がり始めてるのだ。今は謎の多い奴という認識が強く、霊能者というより外部営業委任されてる人みたいな感じの認識になりつつある。


「灰川さん、改めて自己紹介させて下さいね! 私は赤木箱シャルゥで本名は紅弓 華符花でーす! 高校1年生で、16才のJKですよー」


「私はケンプス・サイクローです。本名は鈴井 優子で高校2年生です。華符花とは幼馴染で同期デビューです」


「灰川コンサルティング事務所の灰川誠治です。よろしくシャルゥさん、ケンプス・サイクローさん」


 この2人は中堅だが根強い人気があり、特に2人の掛け合いが面白いと評判だ。


 赤木箱シャルゥは少しセンシティブな表現があるトークが得意で、ケンプス・サイクローは少し強気だが何かヘッポコな所があるのが人気である。


「今度に事務所にお邪魔して良いですかー? 色々とお喋りしてみたいですっ!」


「出来たらパソコンとかカメラとか…あと大きな会社とかの伝手なんかお聞きしたいです…!」


「ああ、うん。気軽に事務所に来てよ、お茶とかあったら出せるけど、無かったら水道水とか出すからさ」


 結局は顔合わせ程度に2人と会い、特に強い印象を残す事もなく去っていった。事務所に来るとか言ったのも社交辞令みたいな感じだろうし、特に気にしてはいない。


「なんかシャイニングゲートのVって高校生率が高くないですか? 社長の趣味です?」


「違うよ、正規デビュー者で高校生は全体の10人しか居ないよ。その内の数人に灰川さんが会っただけさ」


 シャイニングゲートの正規Vtuberは100人ほど居て、その殆どは成人女性だ。


「大人だと安定感のある配信と活動が出来て手堅いけど、学生年代だと特有の爆発力があるんだ。そこを狙っての学生年代のデビューもさせてるんだよ」


「なるほど、爆発力が上手く行って上位3人が高校生年代で固まったって事ですか」


「そうだね、ナツハは安定と爆発を高いレベルで備えた万能型で、れもんは爆発が強くて少し安定性に欠ける感じさ、小路は安定感が強めだけど爆発力もたまに見せるタイプという感じだね」


 その性質を3人は配信界を見渡しても高いレベルを有してるという事であり、やはり才能があるという事だ。


「シャルゥとケンプスも良い線を行ってるし、登録者が80万人と71万人は充分に凄い数字だけど、やっぱり上位陣には埋もれてる感じかな」


「でもシャルゥ先輩もケンプス先輩もファンの皆さんの支持は高いですよ、SNSでも人気ですし」


「そうだね、シャルゥのイラストの腕も良いし、ケンプスのピアノの腕も大したものだと思う。でも個々の爆発力が足りてないんだ」


 爆発力は運だと言うのは簡単だが、上位陣は爆発的な伸びを何度も起こしてるし、それを上手く利用して立ち回ってきた。やはり運だけの要素ではなく、本人の性質とかがあっての物らしい。


 そこが2人の弱点だと社長は語るが、数字は出てるし爆発がどうのこうの言ってもしょうがない話だ。まだ2人はこれからという年代であり、刹那的な事を言っても仕方ない。


 シャイニングゲートの上位陣は上位3名を除いて後は成人女性であり、安定感とキャラクターを生かした活動をしてる。やはり爆発力も安定力も大事なようだ。


「僕としてはVtuberも商業として見たなら、儲けの仕組みや集客の仕組みを作らなきゃいけないと思う。同じように自分が爆発できる環境を自分で作れるかも大事なんだ」


「難しい世界っすね…どんなに周りが頑張ったって、結局は本人次第ですもんね」


 周りが応援してくれる環境や関係性を構築できるか、視聴者を集める仕組みを作れるか、人気や名前を使って儲けを出す構造を作れるか、本人も支援スタッフもやる事はいっぱいだ。


 面白い配信が出来るのに視聴者が集まらない人も多いし、名前が売れてるのに金に困ってる人も中には居るだろう。どれが欠けても問題なのに、どれも難しいことばっかりだ。ビジネスは難しいんだと痛感する。


「ところで灰川さん、このカメラを少し貸してくれないかい? もう少し調べてみたいんだ。もちろん撮影した動画を勝手に使ったり関係者以外に見せたりしないと約束する」


「別に良いですけど壊さないで下さいよ?」


「ってか何処で手に入るのか教えてくれよなー、オレも欲しいって! 金ないけど!」


 結局はパソコンに続いてカメラはまたしても借すことになり、性能の検証は渡辺社長がやってくれる事になった。


 どうせ灰川じゃ使い道がないし、調べたいなら好きにしてもらうのが一番だ。サイトウからも何に使っても構わないと聞いてるから問題ない。


「じゃあ解散って事で、コバコも桔梗さんもデビュー準備頑張ってな」


「おう! 今から腕が鳴るぜ!楽しみにしててくれよな!」


「はい、まずモデルが出来上がったらSNSとチャンネル開設ですね。紹介動画とかも~~……」


「このカメラは何としても解析しなければ…どんな技術でこんなマネを可能にしてるんだ…!?」


 それぞれの思惑を抱えながら解散となり、灰川は自宅に帰ってコバコと桔梗は2人で帰る。渡辺社長はいそいそと会社に戻ってカメラを弄ってみるらしい。


 灰川は今日で新たに2人のシャイニングゲートのVtuberに会ったが、色々あったせいかそこまで印象には残らなかった。


 今までもシャイニングゲートのVtuberにはナツハを始めとした数人にしか会っておらず、灰川としても仕事は別だが、そこまでVtuber本人に会いたいと思ってる訳でもない。


 だが赤木箱シャルゥとケンプス・サイクローは、何かを悩んでた感じがしていたとも灰川は思う。


 彼女たちはジャパンドリンクのCM選出から漏れてしまい、その事を気にしてるとも言われてる。他にもVフェスでは良い感じに雰囲気を作れたが、夏休み時のシャイニングゲート単体のイベントでミスをしたという情報もあって、少し活動で上手く行ってない感じがあるのだ。


 もっともCMについては新規デビューのコバコと桔梗は例外だが、上位陣優先と事務所内で告知されてた。そこは仕方ないだろうし、会社間の都合とかもある。


 だが灰川の情報を割と詳しく集めようとしてる素振りがあったり、伝手を聞こうとしたり何かを考えてるような気もした。


「まぁ、気にしてもしゃあねぇか、帰ろっと」 


 こうして仕事は終わって灰川は自宅に向かう。


 少し騒がしいだけで何か劇的な事がある日では無かったが、日常なんてこういうものだろう。


 明日はしっかり休んで、今日の代休はどこかで入れようとか思いつつ、帰ったら配信でもしようかな~なんて考えるのだった。






 その日、欧州のとある国の秘密機関、MID7は騒乱の最中にあった。


 Military&Intelligence&daemonの意味の軍事・情報・悪魔の名が示す通り、魔に属する危険な者の情報を集め、討伐するという表には絶対に名前が出ない秘密機関である。


 正規所属者は20名に満たず、日本の国家超常対処局よりは規模は大きいが、やはり小規模な集団だ。


 彼らの受け持つ任務は重く、大きな責任が付きまとうが功績は絶対に表に出ない。今回も失敗は許されない任務だったが、敵との交戦により昨日の時点で既に3名の戦死者が出てる。


 しかし空港近くの地下施設に潜伏してた所を突き止め、12名という今動かせる全人員で魔に属する者に対する完全武装をして包囲に成功したのだ。


 銃火器を持ってボディアーマー等で武装した筋骨隆々の歴戦の兵士、ローブを纏って強いオーラを放つ聖職者、聖なる剣と呼べる聖呪物を持つ資格を有した現代の聖勇者、そんなプロ達が揃ってる。


 逆に言えば、そんな連中を集めなければならない程の事態が発生したという事で、その原因を包囲してるのだ。


「…………」


「…………」


「…………」


 無言で足音を立てず包囲を狭めるが、既に敵からは察知されてるだろう。しかし敵の退路は断っており、逃がす事はない。


 仕留める役目は3名だけで、後の人員は周囲を固めて標的を逃がさないよう配置してある。この3人の組み合わせが最も攻撃力が高く、混乱なく動けるというのも大きな理由だ。


 防御装備も整っており、全員の装備や衣服は霊的な防御も物理的な防御も充分だ。後は狩るだけ……それを実行するため最小限の動きで包囲を狭め、効果的なタイミングを図ってアタックへと突入する。


  ズドドドッッ!!!


 スタングレネードを投げ入れてから、超常存在に対する弾を込めた機関銃が音を立てる。


「邪悪なるヴァンパイアよ! 神の名のもとに滅ぶがいい!!」


 まだ20代半ばくらいの聖職者が非常に高濃度の聖霊力を込めた聖水を超常存在に向けて振り掛ける。この方法は悪魔祓いだろうが悪霊祓いだろうが効果を発揮し、吸血鬼に対しても非常に高い効果がある。


 この聖職者はローマの秘密機関から認定された悪魔祓い師で、今まで公私問わず魔に属する者を狩ってきた実績があり、この国の秘密機関であるMID7にも籍を置いてる。


 フランスのオルレアンの噂と言われてきた『客が消えるブティック』の怪異が実際に発生してしまい、それを祓って囚われていた人たちを救い出した。


「弾倉交換完了、聖水で敵の動きが鈍ったぞ! 今だ!」


 大きな機関銃を構えた30代後半の男は軍から実績、成績ともに申し分なしと推薦されMID7に入局し、何体もの危険な超常存在を倒してきた。


 奇襲、狙撃、爆破、銃撃、力技とも言える方法で超常存在と言える者達を倒し、ゾンビ、危険ヴァンパイア、多数の実体存在型怪異を討伐してる。


 中でも『ストーンヘンジの4次元パスポート事件』は彼が居なかったら解決して無かったと、局内でも英雄視されるに至ってる。


「ヴァンパイアよ! 聖剣の露と消えよ!! はぁぁっ!」


 10代と思われる人物がソレに自身の最も信頼する武器を振り下ろす。その剣は古い物ではなく現代に作られた品だが、聖剣の力が宿されており彼にしか使えない。


 聖剣の現在の担い手で、その剣の超常存在に対しての強さは国が認める所である。もちろんMID7に所属しており、未来を嘱望されてる身だ。


 少し前に発生した怪異『魔女狩りの城』では霊能力を有した多数の少女たちを助け、その際に救護者から顔を見られてしまい、美男子なこともあって多数の魔女の子達から居場所を探されてる。


 「「「…………」」」


 人型だったソレが崩れ落ちる。仲間を3名も手に掛けた存在を倒した……筈だった。 


「!!! やられた!人形だ! コイツはデコイだぞ!」


「そんな……では本体は…」


「すぐに本部へ連絡して日本の支部局に連絡を入れさせろ! 既に日本に入ってる可能性が高い…っ」


 指揮官である機関銃の男が叫び、後方に控えてた仲間が即座に連絡を入れる。


 (おとり)を生み出した存在は悪辣で狡猾だった。能力も高く放っておけば不死とも言えるほどに強く、個体弱点も解析できてない。


 その正体は上位のヴァンパイアで太陽などの吸血鬼の弱点への耐性が高く、ヴァンパイアキラー・ブラッドという血を飲んでも死なないという強さがある。身体能力や精神構造も人間のソレではない。


 そして奴が持つ特性こそが問題だった。


「幸福のヴァンパイア……放っておいたらどんな被害が出るか…」


 幸せなのは良い事だ、誰だってそう思うだろう。しかし誰が幸せになっても同じ事が言えるだろうか?


 かつて連続殺人鬼が居た。彼は何人もの罪なき人々を殺害し、現場には手掛かりも多くあったのだが遂に捕まる事なく人生を終えた。

 

 犯人の正体は1人の男で普通に生活をしながら殺人を行い、幸せな家庭を持ち、商売で成功して裕福な人生を送った。


 この男の被害者の家族は終ぞ捕まらなかった犯人に対し、強い憎しみを感じたまま人生を終えている。



 ある時に巨額の詐欺事件が発生し、幾つもの会社や一般人、富裕層に至るまで騙され、多くの人が破産したり自害する事を余儀なくされた。


 その犯行グループのトップは有力政治家や司法機関幹部に賄賂を渡し、裁判の進行を遅らせてる間に海外に金を持って逃げ、豪華な邸宅や食事、多くの美女に囲まれ悠々自適な人生を送った。


 ある国に独裁者が居た。国民を弾圧し、搾取し、逆らう者は家族親類を含めて処刑した。しかし独裁者は幸せな生涯を送り、満足の行く人生を送った。


 彼らに共通する事は『ある吸血鬼に血を吸われた』という事だと判明しており、その吸血鬼は悪しき精神を持った人間の血を好む。


 そして血を吸った悪しき精神を持った人間に強大な運勢を与える事が可能で、それによって生み出された不幸になる人間を笑うのが何よりも楽しいという存在だった。


 その吸血鬼はいつしか幸福のヴァンパイアと呼ばれるようになったが、本当は正式な名前がある。


 indulgence(インダルジェンス) Vampire(ヴァンパイア)、免罪符のヴァンパイアと呼ばれる存在だ。


 それは既に日本に住処の目星を付けており、事前に眷属(けんぞく)を使って調べられている。その眷属は既に国家超常対処局のタナカとサイトウによって刈り取られてるが、遂に本体が来てしまった。




「Vtubers? distributors? This is all the rage now, sounds interesting. ...... haha..」 

〔Vtuber?配信者? 今はこんなのが流行ってるのか、面白そうだな……クククっ…〕


 10年以上にも渡る眠りから覚めた吸血鬼は、日本の東京の路地裏で絡んで来た数名のチンピラのスマホを使って情報を集めていた。 


 足元には血を吸われて倒れてる不良たちが居て、死んではいないが立ち上がる事も出来ない程度に失血してる。


 この邪悪なヴァンパイアは自身に危害を加えようとされない限りは命は奪わないし、気に入った者にしか運を与えない。この不良たちはヴァンパイアの眼鏡には叶わなかったようだ。


 そんな路地裏に1人の男が危険な存在を感じて立ち行ってくる、その男は……。


「オ前ハヴァンパイアデスネー! 邪悪ナ気配ガシテマース!」


「Oh, well... what I did to you, I forgot to remove the signs.」

〔おやおや…私としたことが気配を消すのを忘れてたな〕


「放ッテオケマセーン! ブッ飛バシマース!」


 彼の名はチャン・ヨシカワ、日系のアジア人でキックボクサーとして日本で活動する格闘家だ。


 そしてチャンは『悪霊キックボクサー』という肩書で活動をする霊能者でもある。


1話の文字数がまた多くなり過ぎてますね、気を付けようと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
初めまして。 ケンプス・サイクローさんて水平飛行してきそうな名前ですね。ホラー映画にでてきそう。
悪霊キックボクサージミーに出番ちょこちょこありますよねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ