18話 みんなでオフ会 2
カフェの個室に入り食事をして、その後はお茶やジュースを飲みつつお喋りが始まる。内容は主にVtuberに関する事だ。
○○のVtuberが話題だとか、最近は個人勢も勢力を伸ばしてきてるとか、どのVtuberが面白いとか、彼女たちはリサーチを欠かしていないらしい。
「でもさー、ここからどうやって登録者を伸ばせば良いんだろーね」
「私もいつも考えてますよ、名案は浮かびませんが」
市乃と史菜が悩みを言う、これだけ有名になっても安心は出来ないとの事だ。
「やっぱり宣伝と話題性をしっかり保つのは重要ですよね、宣伝してもらえる立場を維持するといいますか」
「企業勢だから宣伝はしっかりしてるけど、ハッピーリレーさんはウチと比べると宣伝が弱い感じもするかも」
「ですよねっ! ハピレは決まった所にしか広告出さないし、宣伝の新規開拓が甘いっていう感じしますよねっ」
企業に属する配信者は個人と比べて宣伝は非常に強い、最近はVtuberの配信企業も増えてる。企業であれば宣伝も集客力も個人配信者より上だ。近年の配信ブームに乗っかり起業する人が増え、時には個人勢が稼げるようになった結果として配信企業になったりしてる。
「個人でやってる人の宣伝はSNSとか配信者掲示板とか、あと最近はVtuberの宣伝ができるVR空間とかも活用する人が増えてるらしいよ、企業のぶりっつ・ばすたーさんが力を入れてるみたい」
「個人勢ですか、以前は趣味でやられてる方が多かったようですが、今は本気でやってるプロ同然の方も多いですよね」
「ライバルがどんどん増えてるよねー、少し前は数えるくらいの登録者だった人が、一回バズって三日で登録者10万人になったなんて話も聞いたし」
個人勢を舐めて掛かる事は絶対に出来ない、面白くて上質な配信をする人は個人であっても着実に伸びて来る。Vtuberか否かに関わらず登録者100万人の個人勢もチラホラ居るのだ。
ライバルはVtuberと配信者だけではない、プロの芸能人、プロゲーマー、歌手、その他全ての配信者や動画投稿者がライバルみたいな物だ。立ってる場所は動画サイトであり、大きい意味では土俵は同じだ。
「私も最近は他の話題の配信者と時間が被ると、同時視聴者が減ったりする時があるよ、それを見るとこのままだと危ないなって思う時があるの」
そう語ったのは空羽だ、人気ナンバーワンVtuberではあるが、それは同時に最もその立場を狙われる存在でもあるという事だ。かくいうエリスやミナミも狙ってるに決まってる。
「私は前はナツハ先輩の時間に被せて配信してましたよー、今も被る事多いですけど、意外とどっちも見てるって人も多いみたいですね」
「エリスちゃんとミナミちゃんの事は私も意識してたよ、面白い子が出てきて視聴者さんが取られるかもって、シャイニングゲートで会議になった事もあったんだから」
「恐れ入ります、ナツハ先輩の配信はよく見させて貰って勉強させて頂いています」
お互いにライバル視していたようで、市乃と史菜は自由鷹ナツハを憧れて尊敬しつつも目標として、空羽は二人を自分に追いついて来る脅威と考えていたらしい。
良い所は学んで自分の力にしつつ、それぞれ互いの配信や活躍を楽しみに見ていた部分も多くあるようだ。理想的な見やり方だろう。
会社の方針に付いていくだけでは登録者は増えない、それは配信者の面白さが強い事が前提条件なのだ。三ツ橋エリスや北川ミナミ、自由鷹ナツハだってそこを疎かにしては先が無いだろう事は理解してる。
「私は配信始めたての時にチャンネル登録者さんとSNSのフォロワーさんが、寝て起きたら一気に増えてた夢を見た事あるよ、目が覚めたら夢かってなったけどね」
「私もありますよ空羽先輩! 朝起きて配信ホーム画面を見たら、登録者が3倍に!っていう夢見ました!」
「同じ夢を私も見ました、凄く嬉しかったけど夢から覚めたら残念ってなりまして。でも正夢なんじゃないかって思って確認したら、全然増えてなかったという事がありました」
配信に関わらずネットで何らかの活動をしてる人は、似たような体験をしてる人が多いかもしれない。
自分のコンテンツが大ウケしてファンが増える、配信視聴者やチャンネル登録者が一夜にして爆増、自分が有名人に紹介されるなどして有名に、そんな悪夢とも良い夢ともつかない物を見て、朝起きてガッカリする。
your-tube、tika toka、towitch、それ以外の場でも一気に話題が沸騰して人気者に!という夢は現代にありがちな夢で、ネットサクセスストーリーを夢みる人達は非常に多い時代だ。
もっとも彼女たちは既にネットの勝ち組、サクセスしてる側だ。それでも今以上を常に求めてトップを夢見てるのだから、そこは一般人と変わらない。
空羽にしたってネットではトップの勝ち組だが、テレビなどの場ではまだまだ勝ち組とは言い難い、彼女も追いかけられる側でもあり、追う側でもあるのはエリス達と変わらないのだ。
なかなか聞けない人気配信者の会話が面白いが、その傍らではネットの負け組に属する男が……。
「食い過ぎた……動けねぇ…」
「あはははっ! 灰川さんお腹でてるっ! あははっ!」
「「………」」
灰川が奢りと聞いて調子に乗って食いまくり、腹が苦しくなってる最中だった。意地汚い男である。
「食べ過ぎだよ灰川さん、懲りないねー」
「お前らと違って俺は貧乏なんだよ、食える時に食っとくのさ」
「灰川さん、お腹が減ったらいつでもご連絡くださいね♪」
霊能力で過剰な金儲けをする強欲さは無いが、奢りと聞いたら遠慮するプライドもないのが灰川だ。今回も腹が膨れて大満足である。
「灰川さんはどう思う? 最近のVtuberの事とかさ」
企業勢に個人勢と様々なVtuberが居るが、灰川が言った言葉は意外な物だった。
「俺あんまりVtuber知らないんだよな、配信やってるから有名どころは流石に分かるけどよ、配信見た事あるVtuberだってそんなに数いないな、勉強中って感じだ」
「そ、そうなの灰川さんっ!? 私たちの配信見た事ないのっ!?」
「いや、会う前からエリスもミナミのも切り抜き動画とかは見てたよ。会った後には配信見たしさ、ナツハは配信を見た事あるけど面白かった、でも3分くらいで戻ったぞ」
「さ…3分…。私の配信つまんなかった…??」
「いや、当時は仕事してたから寝たんだと思う、そこは覚えてないけど」
「私の配信はご覧になられましたよね? コメントを下さってましたし」
「やっぱコメント気付いてたんだ、すげぇな。ミナミの配信も面白かったぞ」
今の灰川の言葉は聞き捨てならない、彼女たちは灰川がVtuberのことをある程度は知ってると勝手に思ってた。自分たちに関わってるのだから知ってると考えてしまっていたのだ。
「じゃあ今度から私たちの配信も見に来てよー! コメント拾うからさー」
「私も灰川さんのコメントを是非拾いたいです! 面白いコメントに決まってますから!」
「じゃあ私も灰川さんのコメント楽しみにしてるね」
「いやダメだろ! コメント欄からファンが俺の配信に来てお前らのサブアカ特定なんてなったらどうすんだ! 俺もサブアカ作れば良いのか!」
こうして灰川もサブアカウントを作って皆の配信にコメントをするハメになってしまった、少し不安だが本人たちが望むのだから仕方ない。
「灰川さーん、私の配信にもコメントしてねっ! 私が笑いすぎないコメントが良いなっ」
「佳那美ちゃんは何書いても笑うでしょ、今から心配だよ」
皆の配信は面白い、性に合わないと感じたミナミの配信ですら灰川には普通に聞き通せる配信なのだから凄い話だ。
「それで来週の事なんだけど、ウチら本当に大丈夫かな?」
「他の企業さんのテコ入れを見ると、私も不安になってしまいます…」
来週は法改正で未成年の企業系配信者が増える見込みがある、大型連休も重なってるから話題性は増すばかりだ。それを機に各社が目玉となる取り組みを行って自社の話題作りをしてファンを増やそうという算段なのだ。
どの会社も凄い催しを企画してる、新人Vtuberを一挙投入や、新しいCGモデルや楽曲の発表、アイドルユニット発足、有名声優とコラボ、どれを見ても遜色ない力の入れようだ。
しかしハッピーリレーはホラー配信開始と新人Vtuberが一人デビューという、明らかに他の企業より弱い内容である。
「シャイニングゲートは新人Vtuberが10人デビューで、初日にお披露目イベントがあるよ」
「凄いですよねシャイゲさんの企画、最初聞いた時ビックリしましたもん」
新人が10人も一気にデビューすると互いのファンを食い合ってしまわないのかという疑問もあるが、そこは何かしら考えられてるらしい。
ハッピーリレーの予想としては、まず話題性を第一に考えた戦略で、新規のファンを増やすための試みだとしてる。
「ハピレさんのホラー企画も会社の人たちは、思い切って新機軸の客層を広げようって策だといってたけど、たぶんそうなんだろうね」
「その策が良い方に転ぶ確率は低めだろうな、なんにせよエリスとミナミに懸かってるって感じかね」
「灰川さんにも懸かってるよ! ホラーアドバイザーなんだから!」
「そりゃそうだ、俺も頑張らないとな~、バイトだから危機感はないけど」
来週は大型連休という事もあり、界隈の盛り上がりは今から凄い事になっている。今までは小学生から高校生の企業系配信者は深夜帯の配信は法律上で不可能だった。
それが解禁されるとあって配信界隈は有名な面白い個人の小学生から高校生のVtuberや配信者を囲い始め、それが来週に放出される。もちろん全員が全員という訳では無いが、業界やファンの期待は高まってる。
「Vtuberだけじゃなくて、普通の配信者さんとかプロゲーマーの人達とかも勢力を伸ばしてるし、ライクスペースみたいに海外ファンを意識してる所も出てきてるね、私も頑張らないとすぐ話題に上がらなくなっちゃうよ」
「自由鷹ナツハの澄風先輩でもそう思うくらい、今の業界の流れは読めないんですね…私も今以上に頑張らなければっ、灰川さんのように…!」
「ミナミ~、俺は別に頑張ってないぞ~」
「うう~…来週がもっと不安になって来たよっ、小学生でもすごい配信できるって見せてやるっ!」
「私だって負けないよっ、史菜にも空羽先輩よりも話題になってやるんだからー」
こうして様々な情報交換がなされ、楽しくお喋りして、時には真面目に話したりして時間は過ぎていく。
しばらく面白おかしく話してると、話題が灰川の事になってしまった。
「そういえば灰川さんって霊能力でどんな事できるの? 除霊とか呪いを解いたりとか以外に」
「ん? そうだな、受験の合格祈願とか、仕事の成功祈願とか、そういうプラス方面の事だな。一応は人を呪ったりも出来るけど、そっちは受け付けてねぇぞ」
「それって効果あるの? 受験とか勉強次第じゃん」
「受験で全力出せるかどうかは別の話だろ? 灰川家の陽呪術はそういった場面で全力を出せるように体のオーラを活性化させたり、プラスのエネルギーを注ぐことが得意なんだよ」
大事な場面で全力を出せるというのは重要な事だ、大事な所で期待以上の力を発揮できれば成果は自ずと付いて来る。もちろん本人の努力や自制心は不可欠だし、上手くいくかどうかは保証できない。
「エリスかミナミが必要だってならやるけどよ、効果はやるまで分からんし、やらなくても登録者いっぱいなんだから別にやんなくても」
「今度お願いね灰川さんっ、試してみたいしね、灰川さんの実力が分かっちゃうかもー」
「はぁ、良いけどよ…今度な、今度」
「私もお願いしたいです灰川さんっ」
「私も試してみたいかも、機会があったら絶対お願いね」
今試すような事じゃないから、これは保留だ。彼女たちが全力中の全力を出したらどうなるのか。
その後も会話は続いた、あれこれ話して午後の5時を回った所で解散となる。別れの挨拶を交わしつつ次も必ず会おうと市乃と史菜と佳那美が空羽に掛け合い快く了承し、今日の所はお別れとなる。
来週はハッピーリレーもシャイニングゲートもかき入れ時だ、忙しくなるだろう。それを良い結果で乗り越えるための秘密の会合のような物だった。
小学生の佳那美は市乃と史菜が送って行き、空羽はタクシーで帰り、灰川は電車で帰宅したのだった。
灰川は帰宅してパソコンを付ける、今日はエリス達の配信は無く灰川も昨日から徹夜で配信したり出掛けたりしたから、流石に疲れて配信する気は起きない。
だが寝る前に少しエリス達の切り抜きや、その他のVtuberの配信や動画を見てみる事にした。
「みんな面白れぇな~、ゲームやっても雑談しても良い、ハプニングがあっても面白いしな」
配信で稼いでる人達の配信は別格だ、灰川が同じ事をしようと思っても出来ない。一人で喋っても面白い、複数人で喋っても面白い、声が聞き取りやすく耳に入りやすい。
トークの内容も個性的かつ不快な内容は一切なく、配信に適した話術で喋ってる事が分かる。
それらは視聴者を楽しませる配信を心がけてると同時に、それが自然に出来てる証拠だ。最初から配信に適した才を持った人たち、それが灰川が今見てる者達だった。
見れば見るほど面白くて引き込まれる、ガチ恋勢という配信者やVtuberに本気で恋してしまう人達が居るのも納得だ。そういう人達は昭和のアイドルブームの時から多くいた事は聞いている。
その日は流石に疲れが出てしまい布団に入る、もう少し他人の配信を見て勉強してみようと考えながら眠りに付いた。
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