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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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178話 3人でデパートに

 灰川は事務所で仕事をしつつ、灰川を通してやって来る2社への企業案件やOBTテレビからの電話対応をしたりして、あっという間に約束の時間になる。


 その頃にはしっかり仕事も終わり、後は市乃と来苑を待つだけだ。今日は2人のデパートでの買い物に付き添うという約束なのだ。


 市乃には昨日に来苑が一緒に行くと伝えてあり許可も取ってるし、銀座への行き方やデパートの場所も調べたから抜かりはない。


「灰川さーん、お待たせっ」


「おう市乃、まだ来苑が来てないから少し待ってような」


「どうだー、市乃ちゃんの制服カワイイだろー? ドキってしたー?」 


「今の夏服ってそんな感じなのか、涼しそうで良いな」


 市乃の夏服は膝辺りまでの長さの紺色のスカートに半袖のブラウスYシャツ、その上にスカートよりは薄い色の青と紺色の中間色のアウターベストと、涼しさもありシャツの透けブラ防止もあって中々に機能的だ。


 見た感じも可愛さもありながら動きやすさも感じられ、オーソドックスなデザインながら着用者の個性や可愛さも引き立つ良い夏制服だった。


 靴は女子高生が良く履くタイプのローファーシューズで靴下は白のハイソックス、いかにも女子高生という感じの出で立ちである。


 胸が大きめの市乃でも不自然になる事なく、健康的で整ったデザインだ。市乃はまだ1年生であり、完全には小慣れてない感じの制服生地もなんだか可愛らしい。


「灰川さんの初放課後制服デートだねー? しかも来苑先輩も来るから両手に花のモテモテ野郎だしっ、あははっ」


「これが高校時代だったらなぁ、もう大学まで卒業しちまってるからな~」


 高校時代は男子校だったから、こういう事には縁がなかった。部活なんかも入ってなかったし、実家の農家の手伝いもあったし、陽呪術の修練もあったから灰川の青春は割と簡素な時間だったのだ。


「灰川さんの学校の制服ってどんなんだったの? ちょっと見てみたいかもっ」


「別に普通の学ランだったぞ、髪形とかも普通だったし」


「つまんないなー、簡単にイメージ出来ちゃうよー」


 そんな話をしてるとインターホンが鳴り、来苑も到着した。


「こんにちはっ、遅くなりましたぁ!」


「おう、いらっしゃ…」


「こんにちは来苑先輩、準備はできて…」


 少し時間に遅れて焦って走って来たのか、来苑は息を切らしてる。とりあえず息を落ち着かせてから出発しようと思ったのだが。


「うわぁ…来苑先輩の制服、すっごいカワイイっ!」


「確かにちょっと変わった感じだなぁ、ボーイッシュな来苑のイメージと違うけど、凄く良いデザインだ」


「えっ? 自分の制服ですかっ?」 


 来苑の制服はスカートも襟などもクリームホワイトの夏服だった。夏服だがブラウスシャツの上に長袖のセーラーブレザーを着てる。


 なんだか凄く清楚で綺麗だが、可愛さもあって良いデザインの制服に見える。元気な性格でボーイッシュな見た目の来苑が着ると、意外性もあって可愛く見える。


 ローファーシューズもホワイトでリボンは薄い赤色、ハイソックスも白だから全体的にホワイトが強い制服なのだ。


「夏服だけど長袖なんだな、白だからそんなに暑くないのかぁ」


「~~! じ、自分は夏でもっ、長袖の方が良いかな~って思ってるんでっ!」


「長袖タイプの夏服も今は多いよ灰川さん、来苑先輩の制服カワイイなー、どこの学校なんですかっ?」


「自分は文京学詠館の高等部っす、実家からも通える距離だけどVtuber活動のために今は一人暮らしなんだ市乃ちゃん」


「文京学詠館って幼稚園から大学までエレベーター式の学校ですかっ!? すごいっ!」


「そんなに頭良い学校じゃないし、スポーツも盛んって訳じゃないっすよ」


 文京学詠館は幼稚舎から音楽に力を入れてる学校であり、来苑は昔から通ってるそうだ。


 制服も独特で結構な人気があり、この制服を着て音楽コンクールなどに出ても遜色がないようにデザインされてる。


「しかし本当に可愛いな、来苑に似合ってるし、少しイメージと違ったけど良い意味で裏切られたって感じだな」


「ぅぅ…なんだか灰川さんにそう言われると、凄い嬉しいけど照れるっすね…。かわいいって言ってくれて、ありがとうございます」


 こんな制服を着てたら男子の注目を集めそうだとか思うが、同じ高校に通ってる男子なら見慣れてるだろうし、高校の多い東京ならそんなに目立つ事もないのかもしれない。


「市乃ちゃんの制服もかわいいっすよっ、セーラーと標準制服の良いとこ取りって感じだねっ」


「ありがとうございますっ、来苑先輩の制服イイなー、白の制服ってこんな感じなんだー」


 お互いの制服を褒めつつ灰川は準備を整えた。


 2人とも容姿も可愛いし、学校帰りの制服姿も似合ってる。まさに青春の一幕という感じだが、灰川としては普段と同じスーツだし、気分的にも普段とそんなに変わりはない。


 これが高校生時代だったら心躍ったのかもしれないが、今となっては青春って年でもないし、これも仕事の一環くらいに思ってるから気持ちもいつもと同じである。


「じゃあ行くか、銀座まで1時間かかるかどうかって感じだな」


「うんっ、灰川さん荷物持ちよろしくねー。頑張ってくれたら、ちょっとくらいお触りしても良いよー? あははっ」


「そんなことせんわっ、それじゃ痴漢じゃねぇか」


「市乃ちゃんでチカンの練習ができるよーに、荷物持ち頑張ろー!」


「そんな練習聞いたこともねぇよ、ほら行くぞ」


「なんだかスゴイ会話っすね、えへへっ」 


 そんなこんなで2人を連れて駅に向かい、電車に乗って目的地の銀座駅に向かう事にした。




「けっこう人が多いなぁ、これじゃ電車に座れなそうだ」 


「そうっすね、今の時間は帰りの学生とか渋谷に遊びに来る人が多い時間っすからね」


「通学で電車は使わないんだけど、もし使ってたら朝とか凄いんだろーなー」


 4時過ぎの渋谷駅は高校生や中学生でゴッタ返して騒がしく、電車が次々と到着しては多くの人が降りていく。


 その中に乗り込むと、人が多く降りる故に席は意外と空いており市乃と来苑を座らせる事に成功した。


 灰川は2人の前に立って電車に揺られ、乗り換えしたりして、しばらくしてから銀座に到着する。


「銀座かぁ、仕事で来た事はあるけどプライベートで来た事は殆どないんだよな」


「私もだよー、銀座って大人の街って感じだし、何かあっても渋谷で済ませられちゃうし」


「自分もっすね、家族で来た事はあるけど、友達とかと来た事はないっす」


 デパート自体は渋谷にもあるのだが、市乃がどうせなら銀座のデパートに行きたいと言って来る事になった。


 地下鉄の駅から出ると高級感の漂う銀座の街並みが広がっており、まだ明るいが夏の終わりを感じさせる日差しに照らされていた。


 歴史ある和洋の劇場、高級そうな飲食店、高級ブランドのテナントの入ったビル、格式高い楽器を売ってる楽器店、様々な『高級』が揃ってる街だ。


 街灯なんかもレトロモダンな風格があり、歩道なんかも綺麗で整ってる。まさに大人な雰囲気を感じさせる街で、道行く人も高級感と清潔感がある気がする。


 ホテルやギャラリーなんかも多く、今は高級サウナなんかもあり裕福な層が好んで来る理由も分かる気がする。芸能人なんかはお忍びで来る人も多いし、秘密を厳守する店が多いのも特色だ。


「じゃあ行くか、銀座アストーラで良いんだよな?」


「うんっ、灰川さんのオススメのデパートなんだよねっ? じゃあそこが良いな」


「灰川さんのお勧めのお店なんですか!? じゃあ灰川さんが好きな感じの服とかがあるんすかね……それとも、う~ん…」


「どうしたんだ来苑? 銀座アストーラは地域では若い女性向け商品に一番強いデパートだからな、服も色々と見れるぞ」


 何やら呻ってた来苑も連れて一行は進み、銀座の街を歩きながら目的のデパートに向かう。


 道行く人は大人の男女やビジネスマン、高校生は数えるくらいしか居ない。その中の2人の高校生を連れて銀座の街を歩いてく。


「灰川さん、どうかなー? 制服姿の女子高生2人と放課後デート楽しんでくれてるー? あははっ」


「おう、市乃と一緒に出掛けると楽しいしな、そういや前に買えなかったチョコでも買ってくか?」


「灰川さん気が利くねー、一緒に居ると楽しいって言うのはポイント高いよっ、前にお出掛けした時のこと覚えててくれたのもだよっ」


 市乃は軽い感じで話し掛けて来て、元気な声でからかったり笑顔になったり感情豊かだ。


 だが市乃は心の中で灰川に『一緒に居ると楽しい』と言われたとき、とても嬉しい感情が胸の辺りに広がって、少しだけ顔が赤くなりそうになってしまった。


「もちろん来苑も一緒に居ると楽しいぞ、それにしても本当に制服が可愛いな。来苑に凄い似合ってるし、銀座の街に来ても全く恥ずかしくないデザインなのが凄いよな」


「そ、そうっすかっ? えへへ…普段はV配信の時以外あんまり可愛いって言われないっすから、すごい照れるっすね…」


「あー、来苑先輩が顔赤くしてるっ、さては灰川さんのこと好きになっちゃったんですか? あははっ」 


「おいおい市乃、そんな訳ねぇだろ、ナンバー2のVが俺なんか好きになるかよ」


 市乃がふざけてそんな事を言い、灰川も適度にツッコミを入れ、後は来苑が『お金持ってなさそうだし、年が離れてるっすからね~』とか『すいません!ストライクゾーンから出ちゃってるっす!』とか言えば流れは終わりなのだが。


「好っ…しゅきってっ…! そ、そんな…あゎ、ぁゎゎ…っ! え、えっとっ…そのぉ…っ! ぁぅぅ~…っ」


「来苑先輩っ?」


「どうしたんだ来苑、そこは灰川みたいなバカを好きになる訳ないっすよ~とか言うべき所だぞ?」


 普段はボーイッシュな印象がある来苑が俯きながら顔を真っ赤にしており、灰川と市乃からは見えないが彼女の表情は完全に年相応の女の子の表情になっている。


 来苑は灰川への気持ちを自覚してるが、その気持ちの大きさまでは測れておらず、自覚と気持ちの大きさへの無自覚との中で戸惑いを感じつつ気持ちが増幅していた。


 しかし持ち前の元気さとVtuberで(つちか)った感情の制御で平静を取り戻し、いつも通りの元気で明るい性格に戻った。


「銀座って馴染みの無い街ですけど、綺麗で雰囲気も良い所っすね。こういう街がモデルのゲームとか配信してみたいな~」


「それ良いかもですねっ! 銀座が舞台のゲームとかないのかな」


「銀座が舞台かぁ、推理ゲームとか何かあるかもな」


 そうこうしてる内に目的の銀座アストーラデパートに到着し、まずは外から建物の外観を見てみた。


 表通りに面した正面入口からしてショッピングモールのような大衆を標的とした店と違い、風格ある装飾がされて綺麗さが違う。


 飾りから照明に至るまで計算されてるかのような雰囲気で、モダン性と格式が相まった上のランクの店だというのが分かる。


 更には正面入口から歩道まで屋根が伸びており、雨が降ってる時でも買い物客が車まで濡れないように作られてる。客によっては運転手付きの車とかある人も居るだろう。


「入り口からして違うよなぁ、建物は新しい筈なのに歴史を感じるっつーのか」


「やっぱ大人な店だよね、一人じゃ来れないよ」


「自分も家族とは来てたんですけど、高校生だと一人じゃ来にくいっすよね。あ、でも制服着てる子も居るっすよ」


 高級な商品を売ってる百貨店だが、富裕層の子だって居るしおかしな事はない。芸能活動をしてる子も、親とかマネージャーと買い物に来たりするようだ。


 市乃たちのように放課後に来たのか制服姿の子も居るし、私服姿の同年代の子と見える者達も入店してる。


「じゃあ入るか、このデパートは若い女性向けの商品が多いから、良い物が見つかると思うぞ。要望があったら店員に聞けば大体は分かるし、オーダーメイドとかも受け付けてるからよ」


「そうなんだ、オーダーメイドかぁ、私もついにそんなお店に来れるようになっちゃったかー」


「でもオーダーメイドは高くて時間も掛かるっすよ、服の採寸とかもあるし」


 なんだか来苑はオーダーメイドには抵抗感があるようだが、確かに時間も掛かりそうだし、出来る事なら販売品を買った方が良いと思うのは灰川が庶民だからなのかもしれない。


「まあ良いや、とりあえず入ろうぜ」


 そんなこんなで銀座アストーラ店内に入り、階層案内などを見て歩いていく。15階建ての広い建物で、あちこちに世界的有名ブランドの服やバッグの店などが入り、屋上には庭園まで構えてる。


 1階を進むと指輪やネックレスなどの装飾品のテナントや高級雑貨のテナントなどが入っており、どれもこれも一般的な商品の値段と比べると0の数が1つか2つ上。


 店内の造りも凄く、高級なウッド材を使った滑らかな光沢のある壁や床、照明器具も高級感のあるシャンデリア電灯、そこら中にある商品棚のショーケースは磨き上げられ凄まじく綺麗だ。


 通路の幅も広くバリアフリーも行き届いており、桜も誘えばよかったなんて灰川は思ってしまう。地価が高い場所だというのに通路が広いのは、物を売ろうという魂胆が透けて見えず、とても気品があるように感じられた。


 計算された美しさ、貧相な部分がこれっぽっちも無い装飾、シックタイプの照明なのに暗さを感じさせず高級さが感じられる灯り、まさに金持ちの大人の空間である。


 店が商品を引き立て、商品が店の高級さを引き立てる。それなのにブルジョワ的な(いや)らしさを感じさせず、お客が買い物を楽しめるよう、店内から販売員に至るまで計算されてるかのようだ。


「わぁー、やっぱ上品だねー」


「凄いよね、やっぱ特別な空間って感じがするっす」


「綺麗だからって無断で写真とか撮るんじゃないぞ、こういう所は写真とか撮影禁止ってのが相場だからな」


 デパート店内の写真などはネットを探しても極端に少なく、意外と見つからないものだ。ブランド性の維持や高級感の維持のため、今でも写真撮影は基本的にはお断りである。


「なんか制服で入るの恥ずかしくなってきたかも、来苑先輩の制服だと良い感じしますけど」


「そんなことないよ市乃ちゃん、めちゃ可愛いから安心するっすよ」


「そうだぞ市乃、それに俺が百貨店で清掃員やってた時も高校生年代は制服で来る子も多かったし、不自然な事はないぞ」


 灰川は過去にブラック企業を辞めた後、短期間だがデパートで清掃員をやっていた。銀座アストーラより2つくらい格が落ちるデパートだったが、そこでも高校生が来る事はあったのだ。


「実際に働いてた灰川さんが言うなら大丈夫だよねっ、じゃあ気にしない事にしよっと!」


「そうしとけって、あれ? そういや市乃って何が買いたくて来たんだ?」


 ここで灰川は市乃が何のためにデパートに来たかったのか聞いてなかったのを思い出した。


「これからテレビ局とか行くようになるんだし、ギフト用でも何個か買っておこーかなって思ってさ」


「!! じ、自分そういうの全然考えて無かったっす! どうしようっ!」


 市乃はテレビの関係者へブランドタオルなどのプレゼントをして顔覚えを良くする算段だったようだ。しかしそれだと流石に値段が張ってしまう。


 来苑はそういう事は考えてなかったらしく、市乃の言葉を聞いて焦ってしまう。ナンバー2Vtuberだが、そういう方面の事は気が回らない性格なのだ。


「おお、なるほどな。でもデパートのギフトだと高校生からもらうのは気が引ける人が多いぞ」


「だよねー、高校生がデパートの商品ってちょっと高いし、スタッフさん全員の分を買ったら結構な値段になるって調べたら分かっちゃってさ」

 

「まぁ、そうだよな。関係者へのプレゼントだったら、もっと安い物じゃないと気を使わせちまうからな」 


 稼いでるとはいえデパートのギフトは高校生が買うような値段ではなく、もらう側としても普通は気が引ける値段だ。少なくとも大勢に初めて渡すような値段の品ではない。


 1000円台のギフトタオルなんかもあるが、それでも高校生からのプレゼントとしては高級デパートの品はもらいにくい気がする。 


「やっぱスウィーツギフトとか持って行こうって思ってさ、今日はデパートを見て楽しんじゃおーって思ったんだよねっ」


「それが良いだろうな、稼ぎはあるんだから買いたい服とかあったら買えば良いさ」


「自分…全然そういうことに気が回らなかったっす…、市乃ちゃんを見習いますよ」 


「来苑も気にすんなって、そもそもハッピーリレーとシャイニングゲートから演者をよろしくって土産は出るだろうしな」


 本来なら高校生が気にするような事ではないが、芸能界や役者の世界では現場への土産品は心証を上げるためにも大事な時があるらしい。


 ある役者はお金がない時でも必ず収録には土産を持って行き、そのおかげで途中で死んで退場する筈の役だったのが脚本が変わり、作中で生き延びて最後まで出演したなんて話もある。


 他にもバラエティ番組の収録にお土産を持って行くようにしたら呼ばれる回数が上がり、視聴者にも名が知れるようになった芸人とかも居るそうだ。


 やはり現場での印象や好感という要素はとても大事らしく、お土産でも品によって『コイツ分かってるな…』と思わせる選び方だったり、アピールの場でもあるらしい。


 持って来なくても有名になる人は居るが、有名になった後でも必ず土産を持ってくる人なんかも居て、かなり意見は分かれるだろう。


「とりあえず店内を見てみるか? 俺が居ない方が良いなら、どっか行ってるけどよ」


「そんなことないですって! 灰川さんも一緒の方が良いっす!」


「私も灰川さんが一緒の方が良いなー、荷物持ってくれる人が居なくなっちゃうしっ」


 そんなやり取りをしながら店内を見たりする。


「そーいえばさっ、なんか上の階の方で絵とかの展示販売してるらしーよ、覚えてたら後で見に行こうよ」


「そういや前に市乃と美術館に行ったな、あの時は感動の後に怖さがあって楽しかっただろ?」


「呪いの絵だよね、良い話かと思ったのに、とんだどんでん返しだったよ」


「市乃ちゃん、灰川さんと美術館に行ったんだ、楽しそうっすねっ」


「それが灰川さんヒドいんですよ来苑先輩っ! 呪いの絵だって行ってたら~~……」


 ちょっと前の思い出話に花を咲かせたり、笑い話として来苑に話したりしながら色んな品やブランドのテナントを見て行く。


 制服姿の2人を見てると灰川も何だか少し高校時代の事を思い出してしまう気持ちだ。


 学ランの感触が気に入ったにゃー子に制服を寝床がわりにされてしまったり、妹の砂遊が川に落ちて学ランで飛び込んで助けたら次の日までに乾かなかったり、ロクな思い出が無い!


 友達も居たから遊んだりもしたが、今は連絡もまばらになってしまった。青春を共に過ごしたアイツらは元気でやってるのだろうか?なんだかノスタルジックな気分になってくる。


「灰川さんっ、3階に良い店があるみたいだよっ」


「ニューブランドとかもあるみたいだよ市乃ちゃん、5階みたいっす」


「まぁ、ゆっくり見て回ろうや、夜の9時くらいまでやってるみたいだし、明日は休みだしな」


 灰川は閉店まで2人が迷う事を覚悟しており、心の準備は万端だ。一応のマネージャーみたいなものも一緒だから2人が補導される事も無いだろうし、声を掛けられたら説明する準備も出来てる。


 2人も普段の忙しさから解放され、今はショッピングを楽しんでる。そんな中で市乃と来苑が灰川に聞こえないようにヒソヒソと話をしていた。


「ねぇねぇ来苑先輩っ、灰川さんのこと一緒にちょっぴりからかっちゃいませんかっ?」


「からかっちゃうって何するの? あんまり困らせたりするような事は~…」


「○○とか~、○○な事とかしてビックリさせちゃおーって思ってますよ。制服着てるし、ちょうど良いかなーなんてっ、あははっ」


「~~!」

 

 市乃の提案を聞くと来苑は顔を赤らめ、市乃に先んじられるのを黙って見てる訳にもいかず頷いたのだった。




 それと同じくらいの時間に13階の美術販売ギャラリーでは、展示される作品のレイアウトの確認が販売員たちや学芸員によって行われてる。


「部長、ラフォード作の“閉じた壁”ですが、レイアウトに変更はありませんか?」


「変更なしで続行だな、展示ウィンドウも汚れはないし、閉店まで変えない方が良いだろう」


 ギャラリーでは絵画などの美術品が置かれて販売されており、富裕層が買ったりしてる。


 しかし芸術品の中にはオカルト的な効果を持つ物があったりして、美術館などに収蔵されてる作品以外にもそういった物はある。


 デパートはお祓いして作品を販売する事もあるが、いま展示してる『閉じた壁』という作品は特に曰くがある訳でもなく、お祓いやオカルト鑑定などはしてなかった。


 仮にオカルト鑑定をしても何も見つからなかっただろうし、お祓いをしても悪意なき微細な念は祓えなかったと思う。つまり閉じた壁という作品は『隠れ呪物』とでも言うような性質を持っていた。


 その性質が何人もの客に鑑賞されて念が溜まった事により、先ほどにある効果(・・・・)を持った作品になってしまった。その事に気付いてる者はまだ居ない。


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