表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/333

175話 暗い0番スタジオ

 暗い地下を2人の霊能者がゆく、濁った空気、淀んだ霊気、ただ歩くだけで陰鬱なものが染み込むかのような空間だった。


「放送設備室はこんなもんで良いですね、時間が経てばマシになると思います」


「ありがとうございます灰川さん、やはり私とは効果のほどが違いますね」


 灰川は地下1階で悪念の濃かった放送設備室で経文を読み、清酒や手製の浄霊香を焚いて祓いを一旦済ませた。


 地獄顕現型空間は一気に祓ったり雑に除霊すると別の怪異、牢獄化というモノに派生する事が多く、迂闊に祓えないのだ。


 祓い方としては悪念が濃い場所を徐々に祓っていき、溜まった怨念を少しづつ薄めて、それらが無くなるまで根気よく続けていくしかない。


 しかし祓う力が弱かったり場所が広かったりすると悪念が集まるスピードの方が勝ってしまい、祓おうにも祓えないという事態になる。


 かと言って放っておけば誰かの精神をおかしくさせたり、悪霊が誰かを害したりする事もあるから放置も良くない。封印もいつかは効果が無くなる。それがサイトウが直面してた問題だったのだ。


 だが灰川レベルの力になると一度に祓える量が多く十分に対応が出来る。一応は一回で祓える方法もあるのだが、そちらは霊能力の強弱に関わらず難しいので無理だと判断した。


「私もトイレや廊下、他の部屋にお札を貼ったり浄霊ライトを設置してきました」


「後はラジオスタジオですか、あそこは嫌な気配が凄いですね…」


「はい、B1階での怪現象の遭遇したという話は、ラジオスタジオが一番多いですから」


 地下1階で残ってる場所は後は1か所だが、そこが最も嫌な気配が強く気が重くなる。


 灰川は霊能者だが普段は霊が見えないよう制御しているし、そもそも霊力が強い灰川には向こうから寄ってくる事が少ない。


 だから幽霊を見ると怖いと思うし、剥き出しの怨念や感情が目に見えるのは普通に怖いと思う。


 祓う事は出来るが、それとこれとは違うし、そもそも強制的に祓うより納得の上で在るべき場所に行って欲しいと思ってる。


「こっちですね、ライトが無かったら怖くて歩けませんて」


「私もですよ、出来るなら照明を生かしてて欲しかったって思ってますから」


 西B区画の中は非常口や防火装置の非常灯しか光源が無く、地下だから街灯の明かりも入って来ないため暗い。


 サイトウは何度か中に入ってるが国家超常対処局の局員であっても怖いと思ってるらしく、性格的にも見た感じも彼は普通の40歳くらいの男性だから不自然ではない。


 バイオレンスな事にも対応できる秘密機関の人間で性格的に少し変わってる部分もあるが、別に暴力的な人間という訳ではなく、精神的には普通の家庭持ちの男性なのだ。 


「見えました、あそこがラジオスタジオだった所です」


「あ~、なんかテレビとかでこんな感じの場所を見たことありますね」


 ライトを向けた先に大きめのドアがあり、中に入ると副調整室で、そこからオンエアスタジオの中も見えるという形になっていた。よくテレビやドラマで見るような形のラジオスタジオである。


「ここもヒドい濁りですよ…何人もの悪念と怨念が集まってます」  


「はい、このラジオスタジオは昔は主力ラジオ番組の放送に使ってまして、色んな人がジョッキーやパーソナリティとして来てました」


 ラジオとはテレビが普及してない時代の最もポピュラーだったコンテンツで、今でもファンは多いし、車なんかで聞いてる人も少なくない。


 音楽番組がテレビより多めで、ラジオ放送では曲に込められた背景や歌手の面白い情報などが聞ける事とかもあったり、現代のダウンロードサービスとは一味違った楽しみ方が出来る。


 ニュースや交通情報などもあるし、トーク番組や視聴者から募集した大喜利なんかの企画もあったりして、昔はラジオから人気が出て有名になった芸能人なんかも沢山いたのだ。


「ラジオも良いですよね、間島の爺さんが1日中聞いてたなぁ」


「でもテレビにお株を奪われ、ネットにお株を奪われ、今はマイナーコンテンツになってしまった感がありますね」


 それでも人気お笑い芸人や歌手、声優などもラジオパーソナリティとして活躍しており、まだまだお役御免にはさせてもらえなさそうだ。


 ちなみにラジオ放送は無言や無音になる事が法律で許されてない。もし規定秒数以上の無言を出した場合は電波異常などを疑わせる放送事故となり、総務省に届け出なければならない。この部分では『黙ったら社会的責任に問われる』という、配信者とは比べ物にならないくらい厳しい責任を負ってる。


 他にも『ネットじゃないラジオを自分もやってみたい!』と思ったからって、ネット配信と同じ気分で個人が勝手に電波を使ってラジオをやった場合は放送法に触れてしまい、割とシャレにならない罪状が付く事になる。これをやらかした人は結構居たりする。


「ここはささっとやっちゃいますか、霊の気配もありませんし」


「そうですね、私も浄霊のお香を焚きますので」


 灰川が札を貼りつつサイトウがお香を焚き、副調整室とラジオスタジオの中を祓っていく。その間にサイトウが雑談がてらに話をしてきた。


「このラジオスタジオでは、人気ラジオ番組だった“今夜こそナイトタイム”という番組をやってたんです」


「自分は聞いたこと無いですね、俺の家のラジオはあんまり音が入りませんでしたから」


 ラジオは電波が悪いと聞けない事も多く、田舎とかだと少し聞きにくかったという事情がある。そうでなくとも灰川が生まれた時にはラジオの時代は終わっていた。


「こんナイは30年くらい前の番組ですからね、人気があったラジオ番組だったんですが、最後は打ち切りになってしまったんです」


 かつて人気番組だった今夜こそナイトタイムは売れ始めた芸能人などがMCを務め、笑える話を元に様々な展開を見せる良い番組だった。


 しかしMCを務めてた芸人が当時に話題となった投資の宣伝をしたら、少しして投資詐欺だった事が判明し、それが問題となって打ち切りとなったのだ。


「次のMCの芸人にも依頼の声を掛けてたそうなんですが、話は流れて…、っ……空気が重くなってきましたね」 


「死んだ人とかは居ないけど、チャンスを潰された人達の恨みが集まってるという事ですか…」


 番組が打ち切りになったとはいえ所詮は黄金時代、出演やMCの話が流れた芸能人たちも他の仕事で食いつないだり、名を上げたりした人は多かったらしい。


 しかし『もし出てればもっと名を上げられた』『あんな事さえ無ければ』という念が集まり、それが増幅されて非常に重い空気になってる。


 お札を貼ってお香を焚いて、経文などを読んで濁りと念を鎮めていくが1回では祓いきれないからそこそこにしてラジオスタジオを後にした。


 番組の打ち切りは思わぬ所から発生する事があるんだと知り、灰川は皆にも注意を払うよう伝えなければと感じる。




「地下2階はテレビスタジオが2つですね、中型くらいのハコが2つあります」


「あと楽屋とかもあるんですね、悪念も1階より濃くなってるみたいですね」


 地下1階はトイレの一件以外は霊気の濁りと悪念が強く集まってる以外の事は無かった。


 しかし地下2階は更に嫌な感じが濃く、気味の悪さが増している。それでも0番スタジオの中の怖さにも慣れて来て、心を乱さずに進めてる。これには灰川が事前に掛けた陽呪術の効果も大きいだろう。


 この階の問題のある場所は旧スタジオ2つと楽屋が3部屋で、階段に近い場所から順に巡ってお祓いをしていった。


「B2-2スタジオではアイドルの杉浦和シノエを見たという話が多数上がったんです。彼女はこのスタジオでの収録が多かったものですから」


「スギシノって愛称で呼ばれてた子ですよね、悲劇のアイドルって話で有名な…」


「はい、西B区画が稼働してる時期から、閉鎖してからもしばらく活躍してましたが…病気であえなく」


 杉浦和シノエ、彼女はアイドルとして活躍しつつ24歳の若さでこの世を去った。死因は心筋梗塞で、過労によるストレスや過密スケジュールによる極度の生活の乱れからだったという話だ。


 幼い頃から歌とダンスの厳しいレッスンに耐え、才能もあってアイドルとして大成功を収めた。ファンも多く、CDを出せばヒット、スキャンダルも浮上せず、ファンサービスも上手かった。


 まさに人気者になるべくしてなったアイドル、当時の青少年の理想の体現者の一人だった。しかも自身が受け取る報酬の1割を必ず募金団体に寄付していたという聖人っぷりである。


 彼女が亡くなった報道がされた時は多くのファンが涙を流し、彼女の慈善活動を知った有名歌手が彼女の夢だったドームや武道館で追悼のチャリティーコンサートを開き、様々な所に利益が寄付された。


 今でも海外には彼女の募金や追悼コンサートの寄付を感謝してる人が居て、日本の中にも老人ホームや児童福祉施設に彼女が寄付した物が使われてたりしてる。


「スギシノが亡くなったと聞いた時、私は泣きましたよ。テレビ局でも泣いてる人が多数居ましたから」


「そうですか…絶頂期に亡くなった本人はどれほど悔しかったか…、居たたまれない話ですね…」


 人は必ずしも死に時を選べない、人生の絶頂期に居る者が突然に亡くなる事だってある。


 例え健康に生きてる人ですら交通事故などの不運で急な別れになってしまう事だってあるのだ。


「どれ程の悲しみと悔しさの念を持ってるか分かりません、この空間の濁りで増幅もされてるでしょう」


「それがこのスタジオですか、中に入りましょう」


 地下2階の各部屋にお札やお香を置いて祓い、杉浦和シノエの幽霊の目撃談があるスタジオの厚い防音ドアを開いた。


 そのドアの向こうには暗い中に広めの空間があり、非常口と火災報知設備の光が小さく光ってる。


 ライトを中に向けても誰も居るはずもなく、かつては全国の視聴者に面白い番組を届けるために、多くの芸能人やスタッフが昼夜を問わず頑張っていたスタジオ跡地があるだけだった。


 だが灰川とサイトウの眼には見えている。スタジオの中央で下を俯き立っている女性の念、強い悲しみと悔しさに(さいな)まれながら立ち尽くすしか(すべ)がない存在が見えている。


 幽霊の見え方は霊能者によって違い、肉眼で見える人や、肉眼では見えてないが脳の中に強いイメージとして見えてるような見え方など様々だ。


 灰川は肉眼では見えず脳の中に幽霊の存在が再生されるような見え方であり、これが怖いと思う心を助長してるのかもしれない。それでも今はサイトウも居るから平静で居られる。


「サイトウさん、俺がお経を上げますから、お札とお香をお願いします」


「分かりました…スギシノさんが少しでも安らげるよう、お願いします…」


 サイトウは杉浦和シノエのファンだった、濁りによって悪念を強められた今の彼女の姿は辛いものがあるのだろう。青春時代に憧れた人が悲しみと悔しさに捕らわれた霊になってしまうのは辛いはずだ。


「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度……~~」 


「…………」


 ただ涙を流し続けるしか出来ない彼女のせめてもの安らぎために、灰川は仏教における最も一般的な般若心経を唱える。


 陽の霊力を経文に乗せ、一定の速度を崩さず、習った通りに浄霊と安らぎの祈りを、そして杉浦和シノエが生きた事で多くの人が楽しい時間と煌びやかな世界への憧れを持てたことに感謝の意を捧げ唱えた。


 このスタジオに来るまでにも地下2階で幽霊を見たし、サイトウから話を聞かされた。



 俳優の字谷空也、下積みを経て若手のハンサム俳優として活躍していたが、事務所が彼の稼ぎのほとんどを持って行く契約にされてた事に気付けなかった。


 売れてからも収入は変わらず馬車馬のように働かされ過労死したが、表面上は病死にされてしまったという噂が流れてる。


 字谷はB2階の大部屋楽屋で悪霊となっており、芸能界に関わる者全てを憎むようになってしまってる。生前は優しく柔和な笑顔が似合うイケメンだったが、今は憎悪の悪念に染まり顔は黒いモヤが掛かって見えない。彼の顔を見てしまった芸能関係者は呪われるだろう。



 女性歌手の白林スアン、綺麗な歌声で多くのファンを魅了したが、彼女が売れ出して西B区画に呼ばれたくらいの時に事務所のベテラン営業職の人が退職させられてしまった。


 事務所の社長の愛人の友達とかいう人が営業に就き、良い仕事の獲得も期待できず、ギャラの交渉も失敗が続き、彼女の話題性もその内に消えた。


 白林スアンは亡くなってはいないし今も歌手を続けてるのだが、流行った時の波を活かせなかった事務所を強く怨んでおり、事務所を移籍した今も生霊となってB2ー1スタジオに居る。



「無明尽乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無智亦無得……~~」


「………」


 夢に届いたのに更なる夢には届かなかった、その道の途中で終わってしまった悲しみはどれ程だっただろう。


 夢の道に歩み、叶ったがそれ以前の契約に問題があり使い潰されてしまった憎しみはどんな濃さだろうか。


 夢に届く実力はあったのに環境が悪く、道を閉ざされてしまった悔しさはどんな大きさなのか。


 灰川には想像する事しか出来ないが、きっと想像を遥かに超える感情になる。欲しい本が買えなかったとか、そんな小さな目的が叶わなかっただけで人によっては大きな悔しさを味わう物だ。


 彼らのように人生を懸けて向かった目標に届かなかった悔しさや悲しみは、きっと本人にしか理解できない質の念になる。


 経文を読み、仏の心を説き、ただ安寧を願う事しか出来ない。強引に散らす事は出来る、しかしそれをすれば別の怪異に成り果てる。


 地獄から抜け出そうとしても別の地獄に行くだけ…何の解決にもなりはしない。まるでここに集まってる念たちが味わった苦難そのものだ。


「サイトウさん、今回はここまでです。3階に行きましょう」


「はい、スギシノさんは少しでも安らいだでしょうか?」


「少しですが、恐らくは」


「それなら良かったです、ここに居る念が安らげるよう、私たちで頑張りましょう」


 杉浦和シノエを始めとした霊や念も今は少しは落ち着いたが、これから何度かここに通わなければならないだろう。


 この場所で灰川は『夢を追う者を支える者こそしっかりしなければならない』と改めて感じた。縁の下の力が無ければ道は続かず、例え目立たなくとも大事な役目なのだと思い知る。


 2階に居たのはスケジュール管理を無茶な状態で進めた事務所の犠牲になったアイドル、悪意ある契約によって人生どころか命を壊された俳優、事務所と営業者の怠慢により波に乗れなかった歌手の生霊が居た。


 これらは彼らを支える人達が悪質だったか、思慮や努力が足りなかった、見通しが甘かった等を改善出来てれば防げたかもしれない事態だ。


 一人の人間が輝いてカリスマになるには多くの人の努力の積み上げが必須で、それを(おろそ)かにしたり無下にしたら何も成功はしない。


 輝こうとする者に大きな覚悟と努力が必要なように、支える者達だって覚悟と努力が必要なのだ。




 地下3階に到着し、ここも非常に濃い悪念と怨念が渦巻いてる。霊も普通に居るし、ポルターガイスト現象も普通に発生してる。


 地下3階は大型スタジオと楽屋などがあり、ここのスタジオではテレビ局スタッフが、存在しないテレビ番組の収録を見たという話がある。


 ライトに照らされたスタジオの中は不気味だが、今はそのような怪奇現象は発生してない。もしあったとしても対応する手段は幾らでもあるのだ。


 不気味で怖い事には変わりないが、ここもお経を上げてお香を焚き、お札などを貼って対処していく。


「それにしても灰川さん、2人の男が地獄と名の付いた場所を回ってると、なんだかダンテの神曲・地獄編みたいですね」 


「あ~確かに言われてみれば。ここが地下ってのもそれっぽいですね」 


 ダンテの神曲・地獄編は詩人のダンテと彼が憧れた詩人のウェルギリウスが地獄を旅する物語だ。


 暗い森を抜けて地獄の門をくぐり、数々の人の罪や悪性と向き合い、地獄の最下層を目指すというのが物語の本筋である。  


「神曲に比べると地味で見所の薄い旅ですけどね、はははっ」


「そうっすね~、幽霊は怖いけど本当の地獄って訳じゃありませんしね」 


 霊能者の仕事なんて基本は地味で見所のないものだし、今回も幽霊と遭遇はすれど2人とも霊能者で、呪いなどに対する耐性があるから基本は何も起きない。


 話にすれば面白いけど体験としてはつまらないなんて事はいっぱいあるし、灰川とサイトウにとっては幽霊を見て怖いとか悲しいとかの感情はあっても、特別な事という感情はない。


 もし一人だったら怖さは激増してただろうが、2人となると感情的には楽になるものだ。今の所はお祓いも上手く行ってるし、これを何回か続けていけばしっかりと祓いきる事が出来るだろう。


 これが並の霊能者だったら10人以上で何年掛かり、何十年がかりだっただろうが灰川はそれよりも遥かに早く済ませられる霊力を有してる。


「この大型スタジオもどうやって祓ったら良いのか悩んでましたが、流石は灰川さん。見事な力です」


「褒めたって何も出ませんって、しっかしサイトウさんの準備の良さは凄いですねぇ」


「ありがとうございます、そろそろお札も貼り終わりで…うわぁ!!」


「どうしたんですか!?」


 スタジオ内にある使われなくなった物などを置いてる棚にお札を貼ってたサイトウが、いきなり落ちて来た荷物に驚いて声を上げてしまった。


「ポルターガイストっすか、驚かせてくれますよねホント」


「まったく趣味が悪い…ん? なんだこれ?」


 棚から落ちた箱の中から何かの本が出て来たが、表に出た瞬間に強い怨念と悪念を発し始めた。


 しかし2人とも霊能者だしサイトウは灰川に陽呪術を掛けてもらって耐性がアップしており、それに動じる事は無い。


 呪物や曰く付きの物は保管されてる状態だと何も感じないが、人目に触れたり取り出されたりすると途端に邪念なんかを発し始める物があり、これはその類の物だった。


「芸能界裏地獄白書だ…発行取り止めになった本ですよ…」


「誰かがしまい込んで忘れてたんですかね、売ったら良い金になりそうだけど悪念がなぁ~」


 サイトウが言うには、その本は過去に様々な芸能人が業界の闇を語った内容が本にされた物らしいが、どうやら本当の事が書かれ過ぎてて発行禁止の圧力を掛けられて消えた本だそうだ。


 10年ほど前に作られた本らしく、ここが完全に閉じられた時期と一致してる。その辺りにテレビ局が入手した書籍がこの場所に運び込まれ、放置されてたのだろう。


「空気の濁りが強くなりましたね…」


「悪念というか恨みの念も強くなったっすね…これを読んで真実を少しでも知って欲しいという事なんでしょうか…?」


 まるで0番スタジオという空間そのものが『読め』と命令してるかのような雰囲気で、空気がどんどん重くなってくる。


 これを読まなければ自分たちの怨念は決して晴れる事は無い、真実を知ってもらわなければ死んでも死にきれない。そんな感情が伝わってくるようだった。


「…灰川さん、読みましょう。それが供養になるのであれば仕方ないです」


「そうですね、影響を受けないよう陽呪術を重ね掛けしておきますよ」


 灰川は元から掛けていた陽呪術の清浄(しょうじょう)明潔(めいけつ)、精神の均衡を保って心霊的な効果で精神を汚染されなくするための陽呪術を念のために重ね掛けして、サイトウと自分を強固に守った。


 霊的な影響は防げるが発行禁止にされた本に何が書かれてるのか少し怖い。


 サイトウは長年に渡って業界におり、裏の話やゴシップ、スキャンダルの話も知ってる。しかし全てを知ってる訳じゃないし、真相を知らないまま終わった話だっていっぱいある。


 ありがちなゴシップは耳に入って来やすいが、本当にヤバイ話は信憑性がなかったり、ごく一部にしか流れなかったりという裏事情があるそうだ。 


 実際にサイトウも『実は広めて欲しい話』は口の軽い奴に話して噂を広げさせるなんて事もするらしく、他の人達もそうなのだろうという事だ。


 2人はライトで照らしながら本のページを開く。真っ暗な場所でいい年こいた男がコソコソしてるのは泥棒みたいな感じだが仕方ないだろう。


「…………」


「うゎ……っ」


 発行禁止にされた芸能界裏地獄白書の中には、目を疑うようなエゲつない話が『これでもか!』というくらい載せられている。


 輝かしい世界の裏の地獄、イジメ問題、事務所圧力、パワハラ、セクハラ、直接的な性問題、薬物、暴力、反社との繋がり~~……無法地帯みたいな話やドロドロした話がアホかというくらい出て来た。


 この話を書くにあたって芸能界の話を調べたりしてますが、暴力描写、残酷描写、性描写ナシ作品で書ける事は非常に少なそうで困ってます。

 信憑性の高い話だけでも怖すぎる内容ばっかりでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ