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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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164話 Vtuberに良さげな物件を探そう!

 灰川と桜と滝織(たきおり)キオンは、ほぼ同時に不動産屋から出てガッカリする。桜は入居を断られ、滝織は更新が出来なかったのだ。


 特に滝織はマンションに不備があってすぐにでも入居先を見つけなければならないらしく、本来なら代替物件を用意されそうなものだが紹介は無かったようだ。契約の関係とか聞こえたが、詳しい事は分からない。


 滝織は以前に灰川がライクスペースの事務所に行った際に、霊能力を使って住んでる場所が良くない事を伝えた人物だ。(31話)


「じゃあ行くか桜、幾つか不動産屋を回ってみよう」


「うん~、灰川さんお願いね~」


「うぅ……どうしよう…っ、早く次の入居先を見つけなきゃっ…」 


 灰川は近くで落ち込みながら焦ってる滝織に構わず次に行こうとしたが、流石に気になってしまう。桜は滝織とは面識がないから声を掛けようとはしてない。


「ごめん桜、ちょっとだけ待ってて…はぁ…」


「分かったよ~」


 灰川は滝織の方に数歩で到着して話し掛けた。完全スルーだと角が立つから、一応の声掛けのつもりだ。


「こんにちは滝織さん、少しお話が聞こえましたが災難でしたね、じゃあそういう事で」


「ちょっ! マジの一応の声掛けじゃん! それ完全スルーと変わんないですよ!」


「いや…だって嫌われてるの知ってますし」


「どうしたの灰川さん~? その人は誰~?」


 声が聞こえて桜も話に入って来た。そのまま互いに自己紹介をして自分たちが染谷川小路、滝織キオンだと名乗り合った。


 お互いに外見の事や年齢の事は他言無用、これは鉄の(おきて)らしく絶対に誰かに行ったりしないと約束し合う。会社が違ってもそこは絶対だそうだ。


 滝織は小路が目が見えない事は予想してたらしく、姿を見ても驚いたりはしない。小路は滝織の事は知ってたようだが、そこまで知ってるという訳でもないようだった。


「滝織先輩も物件探しですか~? 私と同じですね~」


「染谷川さんも部屋探しですか? 私も早いとこ探さなきゃいけなくって、明日までには探さないと…」


 滝織は高校2年で年齢的にもVtuber歴でも小路より上なのだが、登録者数では小路のかなり下という位置付けになってる。これは会社の知名度や面白さ、運も含めた様々な事が要因だろう。


 滝織の登録者数は最高で88万人だったが、今は80万人を割ってしまってる。これは配信の面白さや配信時間、動画の投稿頻度の低下などで減り始め、そこから焦って落ち着きを欠いた心でSNSに書き込みしたら炎上した事などが原因みたいだ。


「小路ちゃん、良かったらタメ語で話して良いよ? 私もそうさせてもらいたいかも」


「あ、分かったよ~、滝織先輩~」


「250万人越えの人に敬語使わせたなんて知られたら、また炎上しちゃうだろうしさっ、あははっ」 


 笑いながら言ってるが炎上して視聴者登録が下がった事が相当に精神に来てるようで、心なしか表情も曇ってる。


 配信では元気寄りのお気楽キャラみたいな感じだが、最近は配信で時折に出て来る悪い意味での毒気や、SNSに投稿する文章から過去にあった悪い事や嫌だったことを、非常に悪い意味で引きずる性格だと視聴者に伝わってる節がある。


「良かったら滝織先輩も私たちと一緒に探してみる~? 配信者は物件探しは難しいらしいから~」


「え? あ~…でもな~…」


 滝織は灰川をチラっと見てどうするべきか迷う。正直に言えば焦ってるから少しでも情報が欲しいし、既に先程の不動産屋で別の物件の紹介も断られたばかりだから先行きが不安だ。


「滝織さん、良い物件が見つかると良いですね、じゃあまた何処かで」


「ちょ! あ~もう!一緒に探して下さいお願いしますよぉ! マジで明日までに見つけないと家なしになっちゃうんですって!」


「でも前にトラブってますし、俺が居るの嫌でしょう?」


「こっちはそんなこと言ってる場合じゃないんですって!マジお願いします! あと灰川さんも普通に話してもらえると助かります!凄い人って噂を凄い聞くんで!」


 灰川は最近はシャイニングゲートとハッピーリレーの陰の立役者みたいな感じで名前が広がり始めており、ライクスペースもフェスの時に別の会社から話が聞こえて来たそうだ。


 それもあって人事部の前園や滝織は灰川への考えを改め、あの時に自陣営に引き込めなかったのを悔やんだという経緯があったりする。大企業の大型案件を引っ張って、芸能界進出の梯子(はしご)役にもなってると聞いたらそうもなるだろう。


 しかし今の滝織にとってはそこはどうでも良い話で、即座に新居を決めないと生活が立ち行かなくなる。


「じゃあ車のとこに行くか、滝織さんも着いて来てね」


「分かりました、車があったんですね」


「小路、はいよ」 


「ん~、ありがと~灰川さん~」


「歩行介助程度でお礼は要らんて小路、あ、悪い反対の腕にするわ、そっちだと小路が車道側になっちまう」


「こっちかな~? 灰川さんの腕は握りやすいな~、むふふ~」


 灰川は桜の呼び方を小路に変え、そのまま小路を介助しながら車に向かおうと思ったが。


「あ~ゴメン、私の本名は男道(おとこみち) 朋絵(ともえ)だからさ、名前で呼んで良いからね小路ちゃん、灰川さんも苗字では絶対に呼ばないで、絶対にですよ」


「教えてくれてありがと~、私は春川桜だよ、朋絵先輩よろしくね~」


「灰川誠二だよ、気軽に呼んでや」


 滝織こと朋絵は小路の事を気遣って名前を名乗ったのだと灰川は気付く、ただでさえ盲目の噂が流れてて公言はまだしてない小路が、路上で白杖を持ちながら小路と呼ばれたら誰かに気付かれる恐れがある。


 それを危惧して名乗ってくれた事に感謝しつつ自分たちも本名を名乗ったが、朋絵としては逆に外で本名の苗字を呼ばれたくないらしい。


 性格の反りは自分とは合わないかも知れないが、滝織キオンこと朋絵は悪い子じゃないのかもと灰川は思うのだった。


 朋絵は年齢は少し前に誕生日を迎えて17歳になり、身長は空羽より少し低い157cmといった平均くらいだろう。体形は普通で胸は平均よりは少し大きめに見えるが、身長153cmの小路と同じくらいだ。


 ちなみに小路は本人が身長より小さく見える雰囲気があるため、相対的に胸が大きく見えるという特性があったりする。


 朋絵は少し強気そうな顔で、肩ぐらいまでの髪の毛を茶髪に染めてる事もあって、灰川としては容姿に気を使ってるんだなという印象を持った。


「じゃあ次行こうぜ次っ、配信者とかVtuberだって受け入れる物件くらいあるって!」


「そうだよね~、きっとここより良い物件が見つかるよ~」


「うんうん、ここは二度と使わないっての!頭来たし!」


 そんな事を言いながら次の不動産屋を目指し、メンバーは3人に増えて移動したのだった。




「お客様の要望に叶う物件はウチではちょっと…」


 「「「………」」」


 次の不動産屋は立地条件の時点で(つまづ)いてしまった。朋絵も桜と相談してネットで調べて渋谷区のマンションに強い不動産屋を選んで来たのだが、要望に叶う物件が全て埋まってたのだ。


 そのまま車に戻ってエアコンを点けながら作戦会議&グチが始まった。


「まさか希望地域はVtuberとか配信者とかYour-tuberの大量生息地域だなんてなぁ…」


「頭来るんだけど! みんな出てけっての! 滝織キオンに物件を譲れぇ!」


「う~…どうしよ~…」


 渋谷区は芸能人や金持ちから一般人まで人気の場所であり、最近はネット動画投稿者にも人気がある地域だそうで、防音がしっかりしてる希望圏内の物件は埋まってた。


 他にもキャバクラ嬢やホスト、IT企業の社長とかも多いらしく、渋谷区は東京23区の住民平均年収の順位が第3位という地域なのだ。


 渋谷区に住むというのは立地条件の良さだけではなく、渋谷区に住んでいるというステイタスが得られる強みもある。配信者などにすれば渋谷区に住んでるというだけで人気が出たりする事も充分に有り得るのだ。


 そんな場所だから不動産屋や大家からすれば、焦って居住者を探す必要はなく、大家とかも大体は金持ちだから入居者を多少は断っても懐は痛まない。


「ちょっとネットで調べたけど、動画活動者は嫌がる不動産業者は多いっぽいなぁ。結構書き込みあるわ」


「みたいですね…うわっ、tuberこんな事したの…? マジ有り得ないでしょ…」


「さっきのお店の人も、動画勢お断りって感じだったね~」


「動画視聴者の目が肥えて、求められる動画の内容が過激化してるのも原因の一つなんだろうな。モラルの低い投稿者も多いらしいし」 


 2件目に行った不動産屋では立地に合う場所が無かったのが原因だが、動画サイト活動者ですと言ったら歓迎ムードが消えたのが分かった。


 渋谷の不動産屋という事もあって、ネット活動者の賃貸客は何度も応対してるのだろう。今や渋谷はITの街になりつつあり、実際にハッピーリレーやシャイニングゲート、その他の配信企業も軒を連ねて事務所がある。


 それに付随して配信者やVtuberや動画活動者も企業勢を中心に集まっており、個人勢も名のある人は住みたい街に挙げる人も多い。しかし中には変な奴も来るし、そういう連中は目立つから業者も自然と敬遠するようになった。


「動画投稿者を入居させたら、騒ぎすぎてその階が全部空き部屋になったって書き込みあるよ、最悪っしょ! 桜ちゃんも私もこんな事しないっての!」


「さっきの不動産屋さんは、防音が良い場所は少し残ってたけど~、場所が遠かったね~」


 配信者に限らず立地は重要で、職場や学校に通える範囲か、治安はどうなのか、近所に厄介な人は居ないか等、見るべき所は多い。


 配信者で生計を立ててる者はネット環境だって重要だし、今の時世でもネットが弱い集合住宅なんかは割とあったりする。


「おっ、この不動産屋なんか良いんじゃないか? ネット活動者の入居者の多さだけは自信アリ、防音、ネット環境などには問題なし物件多数だってさ」


「灰川さん良い所見つけるの上手じゃん! あ、上手ですね!」


「はっはっは! そうだろ! あと別に無理して丁寧語じゃなくても良いよ朋絵さん」


「動物可の物件はあるかな~、あったら良いな~」


 その不動産屋のページには配信者とかには良さそうな謳い文句が書かれてるが、物件情報は少ないので見に行くしか無いだろう。


 配信者や動画活動者を敬遠する不動産屋もあるが、逆にそこにビジネスチャンスを見出して集客する所だってある。スキマ産業というのは、どんな所にだってあるものだ。


 ストリーマーに物件を紹介すれば不動産屋の良い宣伝になったりする事もあるし、決して悪い事だけではない。運が良ければ他の動画活動仲間も紹介してもらえる可能性だってある。


 灰川たちもネットで配信者歓迎の物件は幾つか見つけたが、どれも立地が合わないという部分で選択肢から外れてたのだ。さっそく車を出してその不動産屋に向かう事にした。




「そういや朋絵さん、ライクスペースさんって良い感じで行ってるの? あと愛純ちゃんは元気にやってる?」


「フワリちゃんはまぁ、地道にブレイクとバズを狙って活動って感じですね、あとライスペも普通って感じですかね」


 灰川が会話のつなぎ的に運転中に話を切り出したが、至って無難な返事が返って来ただけだった。部外者なんだし普通にこういう対応になるだろう。


 しかし業界に流れてる信憑性の高い噂では、最近のライクスペースは少し雰囲気が悪いという。会社からの配信者への締め付けが強いとか、配信者の炎上が続いてるとか、他にも結構な話が聞こえてくるのだ。


「そういえば、ライスペのロアルさんが炎上してたね~、あとウォークンチャンネルの人達も~」


「うっ…まぁ、最近はちょっと続いてるかな。私もSNSで炎上したから人のこと言えないけど」


 ライクスペースはハッピーリレーと同じように、男性でも女性でも所属できる配信企業だ。ハッピーリレーと違うのは男性Vtuberも所属してるという部分だろう。


 炎上理由は人それぞれだが、ライクスペースは以前から所属配信者の男女関係の問題が取り沙汰されたり、男性配信者が視聴者とオフで性の乱れな事をしてたりと問題が多かった。


 そこを含めて楽しめるタイプの視聴者が集まって来る配信企業であり、シャイニングゲートなどの企業と違って少し王道を外れた雰囲気が人気なのだ。


 しかし最近は上位配信者が個人勢に転向したり、本気でモラルの低い配信者が問題を起こしたり、その社風に当てられた配信者の性格が徐々に変な方向に行ってたりと、不安要素が多くなってる。


 不安は的中しかけており、視聴者離れが始まってる状況だ。滝織キオンも今は以前より登録者を8万人以上も減らしており、配信や動画を見に来たりしてメンバーシップにも加入してくれるアクティブ登録者は減り続けてる。


「はぁ…最近ツイてないことばっかり…、家も無くなるし炎上するし、会社の雰囲気も悪いし…」


「元気出して朋絵先輩~、きっと良い事あるよ~」


「桜ちゃんは優しくてかわいいなぁ~、一緒に居ると癒されるって言われない? 私すっごく癒されるんだけど」


「むふふ~、褒めてくれてありがと~、朋絵先輩も優しいね~」


 後部座席でそんなホンワカしたやり取りがされてるが、灰川は気を付けて運転しながらも朋絵に言葉を発した。


「朋絵さん、あれから部屋は変えてなかったでしょ? 植木鉢も置かなかったようだね」


「っ!! ちょ、何ですかイキナリ! 幽霊とか妖怪とか信じてないんですけど!」


 朋絵はオカルト否定派のようで、この方面への関心は持ってないに等しい。むしろ何か嫌悪感を持ってるような気さえする。


「まず聞きなって、朋絵さんは引っ越すんだからソレは良いんだけどさ、取りあえず人事部の前園さんに、入所する配信者さん達の下調べは入念にやった方が良いって伝えといてくれないかな?」


「ちょっと失礼ですよ! 他の会社の方針に口を出すなんて!」


 灰川と朋絵は基本的に反りが合わない性格のようで、灰川が何か凄いツテを持ってると知っても朋絵は言葉を荒げて抗議する。


 世の中にはどうしても仲良くなれないタイプの人は居るもので、灰川にとっては朋絵がそのタイプだったというだけだ。


 朋絵も基本は桜を気遣った言動が出来るなど悪い子ではないのだが、どうしても灰川とは性格が合わないらしい。恐らくは初対面の時の事が無くても、こんな感じになってただろうと思う。


「そんな怒んないでよ、この話は終わりっ。不動産屋に行こうぜ、明日までに物件探さなきゃいけないんでしょ?」


「まぁ…そうです…。すいません、声を荒くして…」


「朋絵先輩、落ち着こ~? きっと良い家見つかるから、イライラしなくて大丈夫だよ~」


「ごめんね桜ちゃん…私、最近は色々あって疲れてるんだと思う…。灰川さんもホントすいません…。」 


「全然気にしてないよ、ハッピーリレーとシャイニングゲートのじゃじゃ馬はもっとスゲーんだから、はははっ」


「ぷっ…! 何ですかそれ、ちょっと気になるかも」


 朋絵が焦りなどからイライラが出てしまったようだが、灰川は気にせず車を走らせる。思春期は色々あるんだし、こういう日もあるだろう。


 それに女性特有の体調が悪くなる日が必ずあったりするのだから、そういった体調面で仕方ない時もあるのだ。もちろん灰川は朋絵が体調悪い周期なのかどうかは知らない。


(でもライクスペース、ちょっとヤバくないか…? 愛純ちゃんも居るから心配だし、今度マジで何か理由付けて行ってみるかな…)


 灰川は仕事の関係でライクスペースの事務所が入ってるビルの前を通る事があり、少し前にビルから出て来た人から嫌な気配を微かに感じた。


 それと朋絵からも悪い気が感じられるし、自分が近くに居るだけでは祓えてない事からも、結構な強さの悪念か邪気が関係してると思った。


 その元は恐らくは人の恨みか何かだろうとは感じるが、直接の本人じゃないであろう朋絵にも影響が出てる事から、相当なものだと予測できる。


 だからさっきのように事務所に入所させる人は、人事部でしっかり調べた方が良いと言ったのだ。 




「よし到着だ! 桜も朋絵さんも良い物件があると良いなっ!」


「そうだね~、3度目の正直って言うもんね~」


「うぅ…ホント切羽詰まってるから、マジで決めたいっ…!」


 近くの駐車場に停め、桜に腕を掴んでもらいながら安全を優先して不動産屋に到着する。その道中も朋絵は桜が後ろから来た注意不足の通行人などにぶつかられないよう、少し後ろを歩いて安全を図ってくれた。


 その不動産屋はネットの評判は星3つと何とも言えない評価が下されてたが、今のご時世はネットの評価など工作されてるのが普通だから当てにはならない。


 裏路地にある不動産屋で大きな店ではないが、ネットの告知情報だけを見るとちょっとは期待できそうな感じがする。


「こんにちは、今って物件相談は良いですか?」


「いらっしゃいませ、もちろん良いですよ。どんな物件が希望ですか?」


 40代くらいの男性店主といった感じの人が応対に出てきて、灰川たちは相談者用のテーブルに座らされて話を始める。


 灰川は一応、先日に知り合った四楓院グループの護衛部門の三檜に電話を掛けて、この不動産会社は裏社会と繋がりがないか聞いておいた。不動産屋は昔から裏社会との関係が噂される業界だ。


 結果は裏社会との繋がりは無くて顧客の情報も洩れたりしない安心できる不動産屋だけど、何か知らないが油断は出来ない不動産屋だという情報を手に入れた。安心できるけど油断ならないって何だ?


「条件は○○で○○で、場所の圏内はこんな感じで、配信者に向いたネット環境も強い物件が良いんですけど」


「私は○○で○○で、話を聞いてたら私もちょっと、動物を飼ってみたくなったかも」


「目の見えない人でも安心して暮らせる所が良いです~、あとそれと~~……」


 3人そろってベラベラと条件や希望を喋り、店主は慣れた感じで希望を纏めて物件をピックアップしていった。


 流石にネットで配信者に適した物件に自信アリみたいな事を言ってるだけあって、Vtuberですと言っても嫌がったりする事なく、むしろ歓迎ムードだ。


「良い不動産屋さんだね~、こんな良いお店を見つけてくれる灰川さんは、やり手のマネージャーさんだ~」


「そうだろ? 桜は人を見る目があるなぁ、でへへっ」


「うぅ…お願いだから一軒だけでも見つかって欲しい…! ペットは今は我慢しても良いからっ…!」


 それぞれに反応を示しながら物件が出て来るのを待つと、店主が遂に3人に部屋を提示してきた。


「お客さんの条件ですと、ウチで紹介できるのは10件だけですねぇ。どうします?」


 「「「10件!!?」」」


 3人そろって驚きの声を上げてしまった。


 先の不動産屋2件は散々な結果に終わったから、こんな数が一気に出て来た事に驚きを隠せなかったのだ。


「じゅ、10っ件って選り取り見取りじゃん! やったぁ!」


「凄いね朋絵先輩~、これなら決められそうだよ~」


「桜ちゃんもやったじゃん! 良い所が見つかるよっ!」


 喜びを分かち合う2人だが、10件の内の2件はバリアフリーが良くないらしく、桜は除外した方が良さそうだと言われた。それでも8件もあるから誤差でしかない。


「内見って今から出来ますか? 朋絵さんも内見は絶対にしておいた方が良いよ」


「そうですよね、入った後で後悔したくないし」


 もちろん桜も内見に連れて行く、これは両親が提示した条件の一つなのだ。


「大丈夫ですよ、今から行きますか? 立地条件の場所も近いですし」


「お願いします、どんな物件なのか少しお話し頂けますか?」


 まずはサラっとでも話を聞いてから見に行くのが良いだろう、そんな軽い気持ちで居たら。


「1件目の内見は鏡を絶対に持ち込んではいけない部屋と、洗面所の明かりを絶対に消してはいけない部屋、どっちにします?」


 「「「ん?」」」


 何やら店主が妙な事を言ってきた、この不動産屋の広告は『ネット活動者の入居者の多さだけ(・・)は自信アリ、防音、ネット環境などには(・・)問題なし物件多数』という少し引っ掛かる宣伝文句がついていた。


 店の名前は『ワケアリー不動産』という名前で、何やら訳アリ物件を紹介する頻度が高い感じがする名前だ。


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― 新着の感想 ―
灰川がいればただの安い物件だな!ヨシ!
事故物件か幽霊屋敷オンリーww
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