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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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158話 警護を付けた意味

 灰川は10人以上も居るボディーガードの中から3人程を選ばなければならないが、1人だけ四楓院家の要望で新人ボディーガードが修行を兼ねて付けられる。


 全員がイケメンとか美女というか、強さへの自負があるといった相貌(そうぼう)だ。その中から霊視して男性2人と女性1人を選び、直後に新人入隊者と思われる人が入室してきた。


 それから男性の主任が着いて合計で5人の護衛が付く事となる。


 初めての経験なのでどうすれば良いのか分からなかったが、基本的には好きに動いてくれて構わないと教えられた。


 少し話を聞くと新人の1人以外は全て四楓院家の最高レベルの護衛のプロだそうで、腕や経験は政府機関の熟練上位SPと並ぶか、それ以上の者達らしい。


「皆さん、よろしくお願いします」 


「はい、何かあったらお任せください」


 主任に行き先などを告げて計画を立ててもらい、その間に英明と陣伍が話し掛けて来る。


「灰川さん、勝手に護衛を付けさせるなど身勝手と思われるかも知れませんが、芸能界に進出するのであればこういった事に慣れて頂きたいのです」


「それは自分が命を狙われるとかって意味でしょうか?」


「それもありますな、しかしそれ以上に力を見せるという行為や、自分は誰と関係があるのかを示す重要性などを分かって貰いたいのですぞ」


 2人には芸能界はとても危険な世界でもあると語られる。暴力団や裏社会の人間と関係のある者は未だに多く、表沙汰にならない脅迫や暴力事件、薬物事件や卑猥な要求など悪質な行いが後を絶たないそうだ。


「誰でも入れる世界でなく、大きな金が動く輝かしい業界ですが、その分だけ闇も濃い場所なのですよ」


「表に出ない勢力争いも日常茶飯事ですぞ、素晴らしい人間も多く居る世界ですが、ロクでもない人間もそれ以上に多い世界ですな」


 芸能界は欲望と権力争いの世界だと聞かされ、陣伍や英明が今も強く警戒してる事に灰川は内心で驚いてる。


 スキャンダルや圧力行為は当たり前のように起こり、今日の有名人が明日は落ちぶれてるかもしれない世界。


 あの超有名人が裏ではとんでもない事をしてたなんて話は珍しくもない話だし、権力だけで全てを操れるような世界でもないのだと聞かされる。


 陣伍と英明が人の欲望の怖さについて、権力に溺れた人間の残酷さについて教えられる。そういった存在から仲間を守るためにも、力を見せる事を恐れるなと語られる。


「もちろん市乃ちゃんを始めとして、灰川先生の息の掛かった2社は我々が後ろ盾として守りますが…人の欲望とは時には盾を越えて来る事もあります」


 英明が言うには芸能界は半端な覚悟で挑めばあっという間に飲み込まれたり、人の性格を変えてしまう世界だと語る。


 中には人を虐げたりするのが好きな奴、様々な意味で搾取しようと企てる連中が多いのだとも言われた。リークも裏切りもSNS晒しも何でもありの世界で、界隈の警察機構と呼べる存在が無いから実質的に無法地帯だ。


「灰川先生、四楓院がお守りしますが、それは何かが起こらない事を保証できるという意味とは取らないで欲しいのですぞ。何かが起こった時には誰かが傷つくことになりますな、そうならないために普段から気を付ける事です」


 むしろ何かしらは起こると考えておけと陣伍は言う、その場合は誰かが酷い心の傷を負う可能性だってあるのだ。


 そうならないために『俺達には大きな後ろ盾があるぞ!』と示しておけと2人は言っており、その一つが今回の護衛を付けるという事に繋がったのだと説明を受けた。


 実は既に2社の芸能界入りを察知してる奴らから『食えそうな奴ら』と目を付けられてる節があるらしく、そういう連中への牽制の意味がある。


 ならば今じゃなくても良いとも思ったが、本格進出の前である今だからこそ意味があるかとも思う。2社には四楓院が着いてるから、手出しするなと触れ回るという意味だ。


 恐らくは四楓院家は所々に2社の関係者である灰川に、四楓院の最高レベルの護衛を付けたと漏らすのだろう。


「後のことは車の中で三檜(みひのき)から聞いて下さい、準備が整ったようですので」


「これからもよろしくお願いします、困った時には是非とも頼らせて頂きます!」


「灰川先生、八重香を助けて頂いた恩は忘れておりませぬぞ。それに四楓院グループも2社の動きに乗って色々とさせて頂くつもりですからな」 


 灰川は礼を言って怪現象の解決に赴く、陣伍も英明も仕事が詰まってるらしく会合はここまでとなった。




「では発車します、シートベルトはよろしいですか?」


「はい、お願いします」


 黒塗りの高級車に乗せられ、後ろからも頑丈そうな車が着いて来る。2台編成での動きとなり、後ろの車には運転手と護衛が乗っている。


 灰川の乗る車には運転手と助手席には新人護衛、後部座席には護衛警備主任である三檜が座ってる。三檜は身長が190cmはあろうかという40代前半くらいの男で、見るからに強そうで厳つい頼りになる人という感じだ。 


「改めてよろしくお願いします、灰川誠二と言います」


「三檜 剣栄(けんえい)です、灰川先生、よろしくお願いします」


「運転手兼警備の三檜 雄造です、よろしくお願いします灰川先生」


「護衛部門新人の三梅(みうめ) 早奈美(さなみ)です」


 運転手は30代くらいで非常に丁寧な運転である事が灰川にすら分かり、しかも警備や護衛も担当してるらしいが、今回は運転手という役回りだ。


 新人護衛は若い女性で20代?という感じがするくらい若く、10代にすら見える。一応は警備業務は18歳以上ならなれるが。


「まずは灰川先生、こちらをどうぞ」


「なんですかコレ?」


 隣に座る三檜から豆粒くらいの黒い何かを渡された、それが何なのか灰川には分からない。


「先生の自宅と事務所に侵入しようとしてた者が持っていた盗聴器です」


「えっ!??」


「陣伍総会長から灰川先生が首を縦に振れば、すぐにでも自宅と事務所の鍵などを変えてセキュリティを万全にしますが、どうなさいますか? もちろんお代は四楓院が持ちます」


「お、お願いします…」


「まずは灰川先生には認識を改めて頂きたいのです。既に渦中に飛び込んだのですから」 


 三檜が言うには灰川は既に名前が水面下で広がってきており、それに伴って嗅ぎ回ろうとする連中や、早めに弱みを握ろうとする連中も出て来てるそうなのだ。


「金持ちや有名人が豪華なマンションや豪邸に住むのは、セキュリティがしっかりしてるからという理由もあるんです。こういった事が起らないように」 


「は、はい…っ」


「今の所は灰川先生を狙っただけのようですが、放って置けば2社の方々の所にも同じような手合いが行ってたかもしれません。そういった事をさせないための示威行動も必要なのですよ」 


「花田社長と渡辺社長に相談してみます…っ」


 エリスやミナミやナツハはセキュリティがしっかりしてる所に住んでるし、家族と住んでる人や登録者が少ない者にはこういった事は起こらないと聞かされる。


 灰川はセキュリティなど全く無いようなアパートに住んでるから、簡単に目を付けられたのだろうと語った。部屋から何かを盗まれでもしない限り、盗聴器などは大体は気付けない。


「成り上がろう、勝って上に行こうとすれば付け狙う者や敵が出て来るのです。四楓院の力も万能ではないのですよ」


 四楓院家は各業界上層部や上流階級には名が知れてるが、それ以外は知らない者が圧倒的多数で、そのスタンスはこれからも崩すことが無いだろう。


 いかに強い権力を持ってもこういった事は起こるし、全てが全て完璧に思い通りに事が運ぶわけではないと言われた。流石の灰川も危機感が生まれる。


「今回の護衛は灰川先生に我々の事を知ってもらうという意味もあります、今後はセキュリティに関しては気軽に四楓院にご相談下さい」


「わ…分かりましたっ、でもいったい誰が盗聴器なんて…」


「実行犯は命じた奴の事など知りません、我々も尻尾は掴めませんでした」


 これからは意識を変えて行かないと危険だと察する。四楓院と関わったからこんな事が発生したと言えるかもしれないが、関わらなければ現在のような仕事は出来てなかっただろう。


「あ、でもお祓いの相談とかは無理ですね、そっちは灰川先生が絶対に上ですから」


「は、はい、それは…まぁ…」


「早奈美、前を見て異常がないか目を配っておけ、気を抜くんじゃない」 


「はいっ、すいませんっ」


 助手席に座ってた三梅早奈美が冗談っぽく言ってきたが、すぐに注意されて前を向く。警護とかも実は色々と目を配る場所が多くて忙しいのだと実感した。


 慣れない送迎や警護が付いて居たたまれない気持ちにもなるが、とりあえずは目先に集中しようと気を改める。


「指定の場所に到着しました、中央区の東です」


「ありがとうございます」


 目的地に到着して下ろしてもらい、ここからは足で調査に行くが、当然ながら護衛も一緒に着いてくる事となった。


 主任の三檜は灰川と一緒に動くが、他の4名は少し離れた位置を歩く。警備は服装が同じ感じのスーツだから少し目立つが仕方ない。


 そんな状態で歩くからVIPにでもなった気分で落ち着かない、しかし先程に盗聴器なんか見せられたから今は身の安全という意味では落ち着く気分になれた。


 守ってくれる人が居るという安心感、何かあっても頼れる人が居るという安心感、直接的な身体の安心をくれる存在というのは、こんなにも頼もしいものなのかと有難い気持ちになる。


 もしかしたら今まで既に自分に密偵とかが近くで見てたのかと思うと怖くなるが、今は大丈夫な筈だ。そもそも密偵が自分に付いてたとして、相当に暇させただろうと思うと少し笑えて来る。


 実際にはそういった動きを察知した英明が、そういう連中を排除してくれてたのだが灰川はそれは知らない。


「ところで灰川先生、今から向かう場所に何かあるんでしょうか?」


「はい、中央区は江戸の範囲に含まれてましたから、今から行くのは関係あるかも知れない場所なんです」


 今回の依頼は江戸時代の落語に出てきた内容に関する怪現象で、落語の中では江戸の町人が何処かに迷い込んでしまう事が話の始まりとなる。


 江戸では町人は江戸城の東に住む者が多く、町人地は今の中央区や台東区と千代田区の一部という感じだったのだ。そこを考慮して噺の内容を詰めて行くと、何処に原因となった場所があるのかは搾れてくる。


 江戸時代は徒歩移動が基本であり、城下町だった範囲は狭いのだ。大体は8㎞四方もない範囲が江戸だったとされている。しかし意外な事に何処から何処までが江戸城下だったかは、幕府からも決められてなかったという実情もあったりする。


 時代関連なら落語家の方が詳しい人が多いだろうが、オカルトのこと、しかも裏のオカルトのこととなれば知ってる人は限られてしまう。


「なるほど…時代や歴史とオカルトに明るくなければ出来ない見方ですね」


「そうかも知れませんが、自分は小さい頃からオカルト的なことを教えられてきましたから、それが役立ってるだけですよ」


「私は以前は心霊とかオカルトは否定してたのですが、八重香ちゃんがあのような事になって以来は信じざるを得なくなりました。その節は本当にありがとうございました」


「いえいえ、自分だって八重香ちゃんを助けようって思いましたから」 


 どうやら八重香は四楓院では、まだ『ちゃん』付けで呼ばれてるようだ。その内にお嬢様とか呼ばれるようになったりするんだろうか?なんて考えると少し微笑ましい。


 護衛の人達も八重香の騒ぎの時に様々な体験をしたらしく、体調を崩したり幻覚が見えたり、幽霊を見た者も居て対処も出来ず、八重香を助ける事も出来ず参ってたそうだ。


 しかし屋敷で灰川が陽呪術を使った際に即座に回復したりして、自分たちも医者も学者もどうしようもなかった現象を灰川が解決し、そこから『コイツは本物だ!』と考えるようになったそうだ。


「でもやっぱ、オカルトは否定派の人が多いですよね。芸能界とかは信じる人が多いって聞いてたけど、少し自信が持てないですよ」


「私は仕事柄で芸能界の方の話も聞いたりしますが、オカルトの話は割と聞いたりしますよ。幽霊だけでなく宇宙人の話とかもありますがね」


「宇宙人は管轄外ですかねぇ~、全く知らない訳じゃないですけど」


「オカルトの素人の私でも幽霊と宇宙人は、ちょっと違うかなと思うくらいですしね。はははっ」


「ですよねぇ~! あっはっはっ!」


 そんな話をしながら目的地に向かう、190cmを越える男と一緒に歩くのは安心感が違う!なんて思いながらも、灰川は霊能力で辺りを探っていた。

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⎯⎯⎯⎯灰川の乗る車には運転手と助手席には新人護衛、後部座席には護衛警備主任である三檜が座ってる。三檜は身長が190cmはあろうかという40代前半くらいの男で、見るからに強そうで厳つい頼りになる人とい…
>これからは意識を変えて行かないと危険  護法童子とか式神とか霊能者以外に対処不可能な存在が使えたら好かったけど、術の系統的に妖怪に守ってもらうとかしか物理的な防衛手段がなさそうだからなあ。  呪…
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