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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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156話 打ち合わせとお台場散歩

 指定された部屋に灰川と空羽は入り、椅子に座って番組プロデューサーを待つ。ここに来るまで2人は驚く物を多数見る事となった。


 まず設備も人の数も桁が全く違うという事で、分かってた事だが驚いたのだ。


 建物の広さは配信業界ナンバーワンのシャイニングゲートの何十倍、職員の数は何百倍、しかもOBTテレビの施設はこの本局以外にも全国にある。


 2つめは出入りしてる関係会社の数が違い過ぎる事で、番組制作会社、映像制作会社、番組のセットを作る外部企業、電波関係の会社、数え上げたらキリがない。


 3つめは出演者たちの本気度で、廊下を通って来る時に凄い声や反応を体感した。


「私、ちょっと…甘く見てたかも」


「俺もだよ…なんだよあの絶叫と絶望の声は…」


 予想を超えるヤバイ世界、ハッピーリレーやシャイニングゲートでも似たような光景はあるようだが、明らかに段違いの感情だった。


 芸能とは長い歴史を誇る世界であり、そこに飛び込んで名を上げれば世界的スターだって夢ではない可能性が出てくる世界だ。


 ネット配信とは歴史が違う、参入資本が違う、認知度が違う場所である。動画サイトで凄い有名な配信者でも、テレビに出たら大多数は『コイツ誰?』と言われるが、テレビで有名な人なら多くの人が顔や名前を知ってる。


 ここでは配信界の知名度もVtuber界の有名度も意味を成さない、勝てる奴が勝ち、成り上がれる奴が成り上がる場所だ。ネットの世界もそれは変わらないが、こちらは更にシビアな世界という事だ。


 芸能界は確かに厳しい世界なのだろうが、その厳しさは恐らく思っていた形と違う面の厳しさもある。


 有能で面白い奴が上に行けるのは確かなのだろうが、○○ディレクター、プロデューサーに嫌われたらお終いとか、チャンスは2度と来ないとか、そういう厳しさもあるようだ。


「こんにちは、new Age stardomプロデューサーの富川です」


「シャイニングゲートの外部顧問の灰川誠二です、よろしくお願いします」


「シャイニングゲート所属の自由鷹ナツハです。どうぞよろしく」

  

 打ち合わせルームに入ってきたプロデューサーと無難な挨拶を交わす、名刺なんかも交換してそのまま話し合いになった。


「いや~、お忙しい中わざわざ来局させてしまい、申し訳ないですね」


「いえ、こちらこそお時間を取らせてしまい、すいません」


 そこから番組の説明を受ける。ネットで人気の多数の人を呼んで何かについて議論したり、バラエティー企画をやって視聴者に楽しんで貰う番組だと聞かされる。 


 メンバーは人気の配信者やVtuberに動画投稿者、SNSのインフルエンサーとかネットアイドルなども声を掛けて出演が決まってるらしい。


 出演NGの者や顔出しNGの者も居るが、今はネットの有名人など幾らでも居る。声を掛ければ是非出たいという返答の方が多いそうだ。


「あとは会社さんなどの番組構成をお伝えして許可をもらって、こちらで面白く編集して放送しますので」


 監督となるディレクターや番組構成作家なども良い所を押さえ、よほど変な事が無い限りは悪くない番組が作れる形を整えてると富川プロデューサーは言う。


「しかし皆さんはお若いのに、随分とご活躍のようで。特に灰川さんは私の上司の営業局長や編成局長が是非お会いしたいと言ってましてね」 


「そうなんですか、では今度に局長さん達のお時間が空いてる時にでも」


「自由鷹さんも人気が凄いようですね、ところで灰川さんは~~……」


 番組の概要や構成なんかを聞き、スポンサーも簡単に付いた事や話はスムーズに進んだこと、予算も想定の3倍以上も取れたことを聞かされた。


 これは完全に四楓院家の手が回ったという事で、スポンサーは四楓院の息が掛かった所が即OKを出したのが伺え、プロデューサーとしては拍子抜けするくらい資金調達が簡単だったという事だ。


 富川プロデューサーは四楓院のことは知らないように見えるが、局長という人達は知ってるように聞こえた。そこから灰川に気を付けろという通達でも出てるのかも知れない。


 今回の番組は局内制作らしく番組制作会社に依頼はしないそうで、テレビ局の持つスタジオで収録がされるらしい。放送時間は未定だが、ゴールデンタイムから大きく外れない時間を押さえる努力をしてるようだ。


 構成作家も簡単に抑える事が出来たらしく、スタッフも局から楽に回してくれて至れり尽くせりの状況だと語られた。


 その後は少し雑談を交えて、お台場でロケを予定してる場所等を聞き、手土産を渡されて打ち合わせは終わりとなった。


 


「予想はしてたけど…ありゃマズイな…」


「うん、良い状況じゃないね」


 テレビ局から出てレインボーブリッジが見えるお台場の公園のベンチに座って話し込む、綺麗な青空と景色の良い眺めと裏腹に2人の心は焦りがある。


「あのプロデューサーさん、私やVtuberのことなんて気にも留めて無かったね。ずっと灰川さんのことばかり気にしてたよ」


「ああ…Vtuberの番組を作りたいとか、ネットの有名人を広めたいとか考えてる訳じゃなかったよな。それどころか…」


「うん…出来る事なら灰川さん以外に関わりたくないって感じだった」


 先程の話し合いでは言葉を交わし合う中で腹の探り合いがされていた、その中で2人が見出したプロデューサー、そしてメディア業界からのネット配信界の評価は。


「関わってもメリットが無いけど、不機嫌にさせたら面倒な奴らって思われてる感じだろうな」


「眼中にないって感じだったね、界隈ごと嫌ってる人が普通に多いって感じなのかも…」


 ネット配信の有名人と関わって嫌な目に遭った業界人も多いのだと判断した、しかも関わって双方にメリットが余りにも無さ過ぎることが伺える会話だったのだ。


 よくSNSとかでメディア関係者から嫌な目に遭わされたという声を聞くが、それは向こうだって同じな筈で、業界関係者、非関係者を問わず嫌な目に遭わされてるのが予想できる。だから簡単には人を信用しないだろう。


「ありゃどこかで腹割って話さないと、無難で文句は付けられないけど、面白みも薄い番組を作られる可能性が高いぞ」 


「そうだね、面倒事を避けましたっていうのが前に出た番組になっちゃうと思う」


 最近のネットの動画や配信の事情を見るに、プロが率先して配信者や動画投稿者に関わりたいと思えない形が出来てしまってるのだと灰川は感じた。


 素人考えでも今のままじゃ凡庸かつ見所の少ない物が出来上がると感じており、流石に危機感を抱いた。


「ちゃんと話をするまでは憶測だけで動くのは危ないな」 


「もう少し深い話をしたかったけど、それが出来るほど信頼関係がなかったしね」


 打ち合わせなんて銘打っていたが、本当の意味での打ち合わせが成立する段階の関係性ではなかった。確かにスケジュールの調整とか番組の概要などは分かったが、それだけだ。


 こういう事がしたい、あの番組のような感じにして欲しいみたいな事も言ったが、恐らくその要望は通る。それは形だけ要望を叶えたもので、面倒を避けなければならない責任者の都合上、無難で普通の出来になる。


 無難なのが悪いという意味ではなく、大きく勝負すべき所で無難な物を出したら意味がないという考えだ。


 今のままでは出演者やスタッフの心が籠らない作品が出来る可能性が高く、表面上は笑いや面白みがある物になる。だが30分もすれば誰が何やってたか覚えてない、忖度(そんたく)と遠慮に(まみ)れた薄っぺらな番組になるだろう。


「ちょっと考えとかなきゃな、プロデューサーさん以外とも話して、シャイニングゲートとかとも話して」


「私もそうしたいな、あのままじゃテレビに出る意味がなくなっちゃう」


 テレビに出る事がゴールじゃない、そこを足掛かりにして先に進むのが目的だ。


 そのためには制作に関わる責任者などの不信感なのか忖度感なのかを薄めないといけない、そうしなければ面白くて心に残るような物は作れない筈だ。


 恐らくあのプロデューサーは灰川の事を知る上司から『決して失礼なく、面白い物を作れ』とか言われてる。いわば板挟みの状態だろうが、こちらが歩み寄れば制限は軽くなる。


 しかしどうやって歩み寄るか、そこを失敗して関係が悪化、もしくは下に見られる事があっては付け込まれる。この場合の下に見られるというのは『つまんねぇ奴ら』と判断されるという事だ。


「芸能界を完全に甘く見てたな、それに自分らがどう見られてるかとか考えてもなかったぞ」


「前に失敗した時に考えを改めたと思ってたんだけど、もう一回考え直さなくちゃいけないかな」 


「とりあえず今ここで考えても仕方ないな、もう少し頭が落ち着いてから考えるさ」 


 急ぎではあるが焦ったら良い事はない、今はメディア業界の複雑さや業界人の本気度や立ち回りの難しさに打ちのめされてる状態だ。こんな心で何かを考えたって良いアイデアなんて浮かばない。


 仕事というのは良くも悪くも人の心が大きく関わる、ましてや人を楽しませるエンターテインメントには心や信頼というのは重要な位置づけになるだろう。


「じゃあ帰るか、夜には配信あるんだろ?」


「ううん、今日は打ち合わせが長引いたらいけないからって、会社から配信は休めって言われてたんだ。灰川さんは?」


「俺も今日は予定は詰まってないな、こっちも打ち合わせが長引いたらって感じで、午後の予定はこれ一本だったし」 


 今日は2人とも予定は入れておらず、特にする事もない。厳密に言えば空羽は色々とやる事はあるだろうし、灰川もハッピーリレーの仕事が残ってたりするが、今すぐやらなきゃいけない仕事ではなかった。


「じゃあ少しお台場散歩とかどうかな? 来たの久しぶりだし、ロケに使うかもしれない場所も見ておきたいしね」


「俺から誘おうと思ってたのに先越されちまったな、ちょうど歩きたい気分だったし見回りしてこうぜ」


「ふふっ、お誘いしたの私だけど、それならエスコートお願いね、灰川さん」


 基本的にマネージャーやスタッフは外部の者であっても所属者を自分から誘ってはいけないが、誘いを受けたら応じて良い事になっている。それは空羽も分かってるから自分から誘ったのだ。


 それでも灰川は誘ってくれた空羽に格好付かない思いをさせないために、自分から誘うつもりだったと口に出す。たまに見せるそういう大人な一面にも惹かれたのかなと、空羽はしみじみと感じる。


 一方で灰川はテレビ局を出る前に寄ったトイレで、職員がしてた会話を思い出していた。


『富川さんがさ、ネット配信者を集めて撮影する番組のPになったらしいな』


『うわマジか! アイツらって排除癖あるから嫌なんだよな、ちょっとでも気に入らない事あると炎上させて騒ぎにするしよ』


『俺も前に関わったけど得る物が何も無かったよ、あの業界は関係性も経済圏も閉じ過ぎだよな。マジで自分らの金しか考えてないって感じでよ』


『アイツらテレビ向きじゃないんだよな、つまんねぇし。こっちと要求されるモノが違い過ぎるから似てるけど別の世界だよ』


 このような会話を聞いたのだが、流石に空羽には言わない事にする。


 つまんねぇというのはテレビマン目線での話だろう。ネット動画投稿者は基本的に少人数で短時間で動画を作らなくてはならず、ほとんどの動画はプロが金を掛けて作る映像作品には及ばない。プロの映像を分析込みで見飽きてる連中からしたら、さぞつまらなく見えるだろう。


 その他様々な齟齬とすれ違いを埋められれば活路が開ける、灰川はそう感じた。どんな世界でも勝手な事を言う奴は居るものだが、その勝手な言い分こそ大勢の不満が詰まってる事も多いものだ。




「そういやお台場って港区だと思ってたけど、港区と江東区と品川区の3区に別れてるんだな」


「そうみたいだね、私も知らなかったな。海だから港区って思っちゃってた」

 

 看板を見て色々と情報を集めつつ歩いてく、最初の目的地はカルチャーシティお台場という大型ショッピング施設だ。


 凄まじい数の店がテナントとして入り、買い物客はもちろん、観光客も大勢が訪れる場所である。イベントスペースなどもあるため、歌手やアイドルがステージをしたりする事もある賑やかな場所だ。


 今日もカップルや家族連れ、外国人観光客や団体旅行客で大いに賑わってる。その中に灰川と眼鏡と帽子で少し地味な印象に抑えた空羽が一緒に歩く。


「あっ、灰川さん、寄りたい所があるんだけど良いかな? スポーツショップなんだけど」


「スポーツ? 空羽って何かやってんの?」


「う~ん、特別に何かやってるって訳じゃないけど、体型維持と健康のためにジョギングしたりトレーニングしたりしてるよ」


「マジか、やっぱそういう所に気を付けてんだなぁ」


 このプロポーションの良さやレベルの高い容姿は、美容や健康に気を付けて生活してるからなんだと改めて感心しながらスポーツショップのテナントに入った。


 2人でショップの中に入ると思ってたより3倍は広くて少し驚く、流石は巨大ショッピングモールだ。店内を歩いてアレコレと見回ってく。


 空羽が向かったのはスポーツウェア売り場で、ジャージやアウタージャケット等が売ってる棚だ。


「これ良いかも、私に似合うと思う?」


「似合うと思うぞ、ってか空羽なら何を着ても似合うと思うぞ」 


「ふふっ、ありがとう灰川さん」


 スタイルが良くて美人なら余程の物じゃない限り似合う。空羽は正にそれで、高校生ながらに周囲の目を引かずには居られない容姿だ。今だって変装してるが、時折に空羽を見る目が向けられるのが分かる。


「あ、でもこっちも良いんじゃないか? このジャケットなら運動後に肩が冷えなさそうだぞ」


「男の人ってファッションでも機能性を見るよね、私はファッション性重視しちゃうな」 


「運動で着るなら機能性も見た方が良いって、でも運動の度合いにもよるし、似合う物を着るってのが運動の楽しみに繋がる事もあるかぁ」


 ここの所の灰川は短絡的な思考を脱却しようとして色々な考え方をするようになった。そうすることで見える物もあるが、逆に考え過ぎて縛られる事もあって難儀してる。


「どっちも買っちゃおうかな、灰川さんが似合うって言ってくれたしね」


「荷物持ちが居るんだから買いたい物はいろいろ買っちゃえよ、通販じゃ味わえない楽しみがあるしな」


「あははっ、荷物持ち買って出てくれてありがとう。せっかくだし甘えさせてもらっちゃうね」


 荷物くらいなら普通に持てるし灰川としては構わない、だが流石に財布役は出来ない。稼ぎは空羽は遥かに灰川を凌いでるのだ。


 スポーツショップで買い物を済ませて少し歩く、その道中でロケの許可が降りてる店なんかも見てると、次は灰川が気になる物を見つけた。


「おおっ、この筆は立派だなぁ」


「えっ? 筆? 灰川さんって書道とかやるの?」


「書道はやってないけど、お(ふだ)とかたまに書いたりしてるだろ? あれって筆で書いてるんだよ」


「あっ、そうなんだね。あのお札って灰川さんが書いてた物なんだ…」


 灰川は幼少の頃から筆の使い方は教え込まれており、普段はそんなに字は上手くないが筆でお札を書く時はスラスラと綺麗に書く。


 お札を製作してる所は知り合いでは史菜くらいしか見られた事が無く、空羽はどこかで売ってる物に霊力とかを込めてるのかと勘違いしていた。


「もし良かったら、普段お世話になってるお(れい)にプレゼントするよ?」


「いや、良い筆だけど穂首と軸の交わりが霊能活動向きじゃないな。それに買ってもらうなんて悪くて出来ねぇって」


「そっか、プレゼントしてあげたかったな。灰川さんが使ってる筆って、どんな物なの」


「筆の毛部分がにゃー子の冬毛」


「!!? 今度しっかり見せて欲しいな、オモチの筆はあるの? 私もにゃー子ちゃんとオモチの筆が欲しいな、一本何十万円? 今すぐ買いたいなっ」


 そんな衝撃的な話も織り交ぜながらショッピングを楽しみ、外に出たのだった。




 その後は外に出てロケ地の候補を見て回って行く。


 お台場に敷かれた人工砂浜からは海を挟んだ高層ビルやレインボーブリッジの景色が広がり、眺めがとても良い。


 体感型アート施設は混雑してて中には入らなかったが、パンフレットには幻想的で美しい光を使った空間アートが様々な映像を撮れそうだと感じた。


 科学博物館は様々な学びと視覚的な面白さが溢れ、子供がワクワクしそうな番組が作れそうな感じがする。


「色々回っちゃったね、灰川さんと一緒に歩くの楽しかったな」 


「おいおい、そんなこと言ったら男は勘違いしちまうぞ。ほどほどにしとけよな~」


「ふふっ、灰川さんなら勘違いしてもらっても良いんだよ? その方が嬉しいかも」


「なんだそりゃ? まぁ良いか、そろそろ帰るか。もう6時近いしな」


 気付けば既に夕方で、砂浜が見える公園のベンチに2人で腰掛けてる。日が傾き始め、海が懐かしさを感じさせるような赤色に染まり始める。


 灰川も久々のお台場や海の風景を見て気分が晴れたし、空羽と一緒に居ると安らぐのと同時に気力も湧いてくるような気がした。それに美人で可愛い子と一緒に居て悪い気はしない、今だって夕日がセミロングの髪に照らされて美しく映えている。


 問題は山積みだがどうにかする、空羽たちの助けになりたい、そんな気持ちがどうにも湧き上がってくるのだ。


 それは彼女たちが努力してるから、才能があるから、可能性を感じさせるから、理由は様々だ。自分たちの未来をそれぞれに切り開こうと進む姿は、大人になって現実に打ちのめされた灰川に何か熱い心を呼び戻すかのような感銘を与え続けてる。


 そんな灰川の気持ちとは裏腹に、空羽は彼に対して特別な感情を持ってしまった事を自覚してる。


 灰川の短所も知ってる、今から新しい世界に挑戦する自分がそんな事にかまけてる暇は無い、そもそも自分がそんな気持ちを異性に抱くのは望ましくない、それは重々に承知してる。それでも止めようがない、むしろ止めようとすれば膨れ上がる。


 しかし前提として灰川がそういう感情を自分たちに持ってない事を知っていて、それが悔しい感情に繋がって、とても複雑な状況と心情だ。それらの感情はチラ見せしつつも上手く隠してる。


 これがもし自分が有名ストリーマーではなかったら、遠慮せずにガンガン当たってく戦法も躊躇わなかったかもしれない。しかし現実はそうではなく、そもそも配信企業に入って無ければ出会ってなかった。


「灰川さん、OBTテレビからもらったお土産のディナーチケットあるよ。せっかくだし使っちゃわないかな?」


「え? なんか高級そうな店の名前だなぁ、でも今から芸能界に漕ぎ出そうってのに、男と居るの見られたりしたらよ…」


「まだ漕ぎ出してないし今更だよ、こんなにいっぱい一緒に歩いたんだから。気にしてくれてありがとう」


「まぁ大丈夫か、次に来た時に時間があるか分からんしな。俺もたまには高級なもん食いたいしな!」


 こうして空羽と灰川は夕景から夜景に変わりつつあるお台場で食事をする事になった。


 もちろん灰川は高級で本格的な店に入ったことが無く、そういう店の知識は皆無である。

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― 新着の感想 ―
そりゃ事情を知ってる人からしたら勘気に触れたらキャリアどころか人生ごとめちゃくちゃになってもおかしくないから無難で間違いのない内容に仕上げようとするでしょうね。 気持ちで言ったら裏音楽作らされた芸術家…
テレビ番組とネット配信じゃターゲットもニーズも違うからね。
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