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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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148話 お寺に行こう!

 フェスが終わった翌日、灰川はしっかりと休んで夕方から夕食に行ったりしつつ疲れとストレスを発散させた。


 その日はフェスが終わった次の日という事もあり、Vtuber達は感謝配信やメンバーシップコンテンツの更新などをして、忙しくネット活動をしてる。


 特にハッピーリレーは反響も大きく話題になったため、この機を逃すまいとフェス出演者たちは動画投稿や配信に精を出してる。シャイニングゲートも似たような感じだ。


「よっし、配信するかぁ!」


 灰川はしっかり休んだ事によって体力を回復し、自分も配信するぞ!という気持ちになっていた。


「やっぱナツハが言ってたように得意分野で配信した方が良さそうだな! ならこれが良いよな!」


 前に視聴者を伸ばしたいなら得意分野の配信をした方が良いとナツハに助言された、ナンバーワンVtuberからの有難いお言葉だが、至って普通の助言でもある。


「今日のメニューは怪談配信だなぁ、たまにはまったりと語るとするかぁ」


 ナツハには怪談配信なら得意だろうと言われ、提案に沿って内容を決めた。灰川は怪談なら結構な数の話を知っており、そこそこ語りも出来る。


「じゃあ灰川メビウスの怪談配信、始まるぜ! 今夜はリスナー震えっぱなしにしてやるぜ!」


 さっそく怪談配信を始めるが、多少は語れるからと言って無名の配信者の所に視聴者なんて来るのか?という問題がある。


 その問題を解消するためにナツハは灰川に夏季限定でオープンしてる配信カフェの『ハッピーゲート』で配信しろと言ってたのだが、その肝心な部分を忘れて自宅での配信を始めてしまった。



 

  すべり台


 ある公園で両親と幼い娘の3人家族が遊んでて、父親が娘が走り回る姿を動画撮影した。至って普通だが幸せな家族の日常の1コマだ。 


 家に帰ってその動画を見てみると、元気に走り回る娘の後ろの滑り台に妙なものが映っていた。


「なあ、こんな女の子居たか?」


「居なかったと思うけど、気付かなかったのかな」


 動画を見てると変な事に気が付いた、後ろの女の子が滑り台で遊び始める。普通に滑り降りてるのだが、下まで滑ったと思ったら動画を編集したかのように上に戻っており、また滑り降りる。


 自分たちの娘は走り回ってるが特に変わった所が見られない、しかし滑り台の女の子は何度も滑っては一瞬で上に戻り、何度も何度も滑り降りる。


 繰り返される奇妙な映像、合成映像なんかじゃない、心霊映像か…?と夫婦が口にした瞬間だった。女の子が滑り台の途中でピタっと止まりカメラの方を向く、まるで自分たちをジっと見るかのような感じだ。


 気味が悪くなり動画を削除して家族で神社にお参りして、特に何事も無かったのだが夫が近所の人に聞いた話だと、あの公園に滑り台なんか無いと言われてしまった。


 あの子はいったい誰だったのか、滑り台は何だったのか、未だに何も分かってはいないらしい。 




「やっぱ誰も来ねぇな~、何が悪いんだろ?」


 無名の配信者が怪談を話したって誰かが来るような事は無かった、市乃たちも今日は忙しいらしく灰川の配信に顔は見せてない。


「まぁ良いや、ゲームやろう! やっぱアマチュアが怪談やってもダメだな!」


 好きな事してるだけの配信だし、視聴者を楽しませるという努力も気概も無いのだから人が来る訳もない。


 とりあえず普段のような面白みのないゲーム配信に切り替わる。配信の一貫性も無く一線級のストリーマーたちの助言なども全く活かせない、配信者のダメな見本みたいな奴なのは変わって無かった。


 人間性が配信に向いてない、何故かネット活動になると性格が極端に短絡的になる。まるで車に乗ったら性格が変わる人みたいなレベルだ。


 配信というのは総じて男は視聴者が伸びにくいとされる事が多い、無名の男なら尚更だ。灰川の配信に誰かが来る来て居付く可能性など非常に低い。


「うげっ、また当てられた! なんで居場所がバレるんだよ!?」


 いつものように大して上手くもないFPSゲームをプレイして一人で喋ってると、市乃からSNSメッセージが届いた。



神坂 市乃


 誰も来ない配信やってないでさ

 お願い聞いてよー

 


「えっ? なんで俺が配信してるの知ってんだ? あっ、視聴者が一人来てるなぁ」 


 よく見ると視聴者が来ており、直後にコメント欄に書き込みが来た。


『牛丼ちゃん:電話しても良い?』


「ああ良いぞ、どうせ誰も配信に来てねぇしな」


 市乃は最近は灰川のパソコンを欲しがってたが、ちゃんと事情を説明して断ったら諦めてくれた。しかし灰川としては2つあるから1個くらい手放しても良いかなとか思い始めてる。


『こんばんわー灰川さん』


「おう、どうしたよ? 今日と明日は休みだから仕事の頼みは受け付けないぞ」


『知ってるよ、フェスは裏方作業ありがとっ、私たちのライブ見れなかったの残念だったねー』


 配信を切って電話を始める、どうやら急ぎの用事ではないようで声は普通だ。さっそく何の用なのか聞くと行きたい場所があるらしく、その相談だった。


『前に本家で会った流信和尚さんて居たよねっ? 流信和尚さんのお寺の流信雲寺のカフェで美味しそーな和風パフェあるんだよねっ』


「えっ、そうなのか? まぁ今どきは寺カフェとか神社の境内で飲食店とか珍しくもないか」


 現代は寺や神社の中にカフェなどがあることも珍しくはなく、スピリチュアルグルメなんて言われて少し話題になったりする事もあるらしい。


 流信和尚とは以前に四楓院家で会った霊能和尚で、割と立派な構えの寺の住職をしてる人だ。別れ際にいつか寺に来ると良いと言われてたのを思い出す。


『灰川さんが良かったら明日に行ってみないかなー?って思ってさ、そのお誘いだよっ』


「おう、じゃあ行ってみっか! 寺は電車とか使って渋谷から行けるな、じゃあ明日な」


 市乃からの誘いで流信雲寺に行く事になり、明日は朝から気晴らしも兼ねて出掛ける事にする。


 今はVフェスが終わったばかりで配信なども忙しいのかも知れないが、こういう時間も配信者には大事なのだろう。むしろこういう時間を如何にして作れるかが、配信界で生き残れるか重要になって来るのかも知れない。




 翌日になり朝の渋谷駅で待ち合わせをして、特に遅刻する事も無く市乃と会った。


「じゃあ行くか、流信和尚も居たら挨拶くらいはしたいな」


「うんっ、でも忙しかったりしたら無理かもだねー」


 時期的には今は寺社仏閣はかき入れ時の時期だ、お盆が終わったとはいえ後始末やお彼岸の準備もあるかも知れない。それに寺は葬儀の仕事はいつ来るか分からないから忙しい時はいつになるかは運次第みたいな所もある。


「そういや一緒に行くのが俺なんかで良かったのか? パフェ目当てだったら史菜とか、学校の友達と行くってのもアリだったろ」


「だって灰川さんと一緒の知り合いだし、灰川さんと出掛けるの楽しいしね」


「マジか、そりゃありがたいな。実は友達いないのかと思ったぜ」


「友達めっちゃ居るし! 灰川さんこそ友達いないじゃん!」


「うげぇ! このVtuberめっちゃイタイとこ突いて来るぅ!」


 灰川には友人は普通に居るが近くに住んでないだけだ、しかし成人してからは仲の良い友人などはあまり出来ないのも事実である。


 最近はハッピーリレーの男性配信者のボルボル等と仲が良いが、友達とも言えないくらいの関係でもある。どこから友達と言って良いのか曖昧だから判断しづらい。


「灰川さんってさ、空羽先輩はともかく、小路ちゃんとか由奈ちゃん、史菜とか女の子として見たりしないのー?」


「唐突だな、どうしたんだよ?」


「だって皆すごいカワイイじゃん、こんな子達に囲まれてたら男の人なら少しくらいイイナって思ったりしない?」


「思ったりはするけどよ、みんな高校生とか中学生じゃねぇか、そういう目で見るのは早いっての」


 確かにみんな可愛らしい子達だと灰川は思うが、手を付けて良い年齢の子じゃない。配信活動をしてる子達でもあるから迂闊に近寄れないし、良い結果が待ってるかも非常に怪しい。


「その割に私とは一緒に出掛けてくれるんだね~? 灰川さんのタイプって私みたいな子なのかな~?」 


「好みのタイプなんて好きになった人次第だろ、俺も美人で優しい人と出会いてぇなぁ」


「隣に居るよー、美人で可愛くて優しい人っ」


「優しいって所が少しだけ引っ掛かるな、まぁ気長に待とうかね」


「ムカつく!」


 美人と可愛いという所は否定せず、そのまま雑談しながら電車は進む。やがて東京都の外れの方の駅に到着して2人は下車した。




 静かな住宅街といった街だが商店街などもあるし駅前は割と栄えてる、ちょっとオシャレな服飾店や古くて趣のある喫茶店などがあり落ち着いた街に見える。


「お、ここだな、駅から近いんだな」


「お寺けっこう大きいねー、この街も来たこと無かったけど史菜が好きそうな気がするかも」


 流信雲寺は駅から歩いて2分程の所にありすぐに見つかった、都会としては境内も広くて立派な寺で檀家も相応の数が居そうである。


 宗派名や寺の名前が書かれた門があって、大きめの本堂があり、お守りやお(ふだ)などが販売されてる売店のお堂などがある。まさに普通に想像する寺という感じだ。


 門を入って少し行った所には市乃のお目当てのカフェがある、近年に建てられた綺麗で小さな建物で、少し流行りに乗ってカフェを出してみたという感じがする。近所の檀家さんや参拝客の憩いの場などになってるのだろう。


「おっ、小さいけど金剛力士像があるぞ、石像だな」


「こんごーりきしって、なんか聞いた事あるかもっ」


「寺院の門に配置される2体の像だな、口を開いた阿形(あぎょう)像と口を閉じた吽形(うんぎょう)像があるぞ」


 金剛力士像は寺を守る像として置かれ、日本各地の寺の門に置かれてる。有名な所で言えば浅草寺や法隆寺だろう。


 流信雲寺の金剛力士像はお地蔵様と同じくらいの大きさで、石像だから簡略化もされてるが立派にお寺を守ってくれてるらしい。置かれて年数も経ってるようだが、ちゃんと磨かれて大切にされてるようだ。


「せっかくだから販売所も見てみよーよ、面白い物とかあるかもっ」


「寺の売店に面白い物は期待しない方が良いぞ~、大体はお守りとかお札とかつまらん物しか無いからよ」


 寺社仏閣の境内にある売店にある物は大体は相場が決まってる、お守りやお札、おみくじとかだろう。後はストラップとかキーホルダーとかだろうか。


「つまらん物しか無くて悪かったのう、元気そうで何よりですな灰川(うじ)、神坂(じょう)


「えっ? あっ、流信和尚! いやっ、つまらん物ってのは言葉のアヤって奴で~~」


「久しぶりです和尚さん、八重香(やえか)ちゃんの時はありがとうございましたっ」


 2人のすぐ後ろに流信和尚が居たらしく、軽い感じで挨拶してくれた。


 流信和尚は50代くらいの壮齢の男性で、高い霊能力を持ってる人だ。住職として寺に詰めており、今も何かの業務が一段落した所のようだった。


「今日はお2人で来られたのですかな?」


「はい、流信和尚に挨拶と、ついでに境内のカフェにお邪魔しようかなと思いまして」


「すっごく立派なお寺ですね、渋谷からは離れてるけど良い場所だなって思いますよー」


「そうでしたか、まだカフェが開く時間までは余裕がありますのでな、お茶でもお出ししましょう。ちょうど質の良い緑茶が手に入った所でしてな」  


「良いんですか、ありがとうございます」 


 灰川と市乃は本堂の建物の横にある檀家の待合室のような場所に通された、葬儀や法事などで使われる部屋で、寺には割と普通にある場所だ。




「灰川さんと神坂さんはお調子は如何でしたかな?」


「調子はまずまずですね、仕事もやっと慣れて来たって感じです」


「私は調子良いですよー、学校は夏休みですけど配信は凄く上手く行ってますし」


 落ち着いた表情で世間話を始める、灰川は配信企業のコンサルタント名目の事務所を2社の社長の協力のもと立ち上げて生活してる事、市乃はVtuberが最近は良い感じに波に乗れて登録数が100万に届いた事などを話した。


 流信和尚は最近はお盆時という事もあって寝る暇もない程に忙しかったそうだが、今はやっと落ち着いて来たそうだ。現代はお盆の前後にお参りや法事をする人も多く、昔より人々の信仰心は下がってるのに忙しい期間は長くなりがちらしい。


「ふむ、私はブイチューバーというのを詳しくは知りませんがな、以前に神坂さんが四楓院家の屋敷でやってたやつですな」


「そうですよ、3Dモデルを使って配信して視聴者を楽しませるエンターテイナーって感じですね、流行の配信スタイルです」


「最近だとお寺の和尚さんとかが配信やってたりしますよ、私もちょっと見たけど難しい話してて付いていけなかったなー」


 Vtuberは今は多くの人がやって市民権を得た配信スタイルだが、一定の年齢から上の層にはまだまだ浸透してるとは言い難い。やはり歴史の浅さはどうやっても拭いきれないものだ。


 その後も寺にあるカフェは親戚が開いてる店なのだとか、流信雲寺は江戸時代から続く寺だとか聞いて頷いたりする。流信和尚はあの後も四楓院家の屋敷に行って祈祷や読経などを続けており、怨念は少しづつ収まりを見せてるそうだ。


 灰川や市乃もあの後に色々あったとか話してると時間はあっという間に過ぎて行き、カフェの開店時間となっていた。


「拙僧のお勧めは抹茶コーヒーと精進カレーですぞ、他にも色々とありますから、ゆっくり休んで食を楽しんでいって下され」


「はい、お茶美味しかったです。ねっ、灰川さんっ」


「おう、そうだな。お茶凄い良かったです。ちゃんと入れると緑茶って甘くなるんですね」


「ははは、それは何より」


 こうしてお茶を御馳走になり流信和尚と別れて境内のカフェに赴く、どうやら今から法事とかの寺業務があるらしく忙しいらしい。


 そんな中でも時間を取ってくれた事に感謝しつつ店内に入った。



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