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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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144話 雑務は忙しい


 配信企業ライクスペース、正式な名前は株式会社ライクスペース・UBIG(ユービッグ)だ。


 配信企業としては多数の男女問わない配信者が所属しており、Vtuberも男女が所属してる。配信の風土としては割と男女でも絡みがあり、特に性差の隔たりなどを気にせず楽しめる視聴者がファンになる箱という特徴がある。


 IT企業のUBIGという会社が親会社で資本を出しており、その力もあって配信業界で確固たる地位を築いた配信企業である。


「モデムが赤信号って事でしたけど、コンセント抜けてますね。電源無くてもしばらくはランプが光るタイプみたいっすよ」 


「あっ、本当だ! 誰か足でも引っ掛けたんですかね」


「モデムなんて普段は確認しないでしょうしね、イベントだとたまにあると思いますよ」


 初歩的なミスだったようで早くも解決してしまい、ライクスペースのルームを出ようとする。視線がキツイし灰川は実質的にライクスペースの敵みたいなものだ、長居する理由は無い。


 適当にフォローを入れつつ戻ろうとすると、愛純に話し掛けられた。


「灰川さん、シャイニングゲートとハッピーリレーのフェス配信が凄い話題になってますよ? おかげでこっちは視聴者さん取られてイライラですっ、くすくすっ」


「そうなの? そういやフェス始まってからどっちのブースにもルームにも行ってないんだよなぁ」


「じゃあ灰川さんはどっちからも仲間外れなんですねっ、ぼっちコンサルタントですね~」 


「あのねぇ愛純ちゃん、雑務も大事な仕事なの、これをしないとお客さんが配信を見れなくなるし、Vtuberが配信も出来なくなるんだから」


 イベントは各種スタッフが居ないと成立しない、一人一人が大事な戦力なのだ。イベント会場で走り回ってる人が会社の重役なんて事も普通にあるし、雑務担当が社長なんて事だってある。


 個々人が選り好みせず仕事をしてファンを楽しませて満足させて無事に帰らせる、それがどんなに難しい事かはイベントスタッフをやってみないと分からない部分が多いだろう。


「イベント出演者にはたまにスタッフに怒鳴り散らしたり偉そうにしたりする人が居るけど、そういうのは裏で話があっという間に広がるから愛純ちゃんも気を付けなよ」


「そうなんですか? 悪い噂が広がっちゃうとどうなっちゃうんですか?」


「フェスが始まってから既に一人がサボテンの餌食になってるよ、トゲまみれになってリタイアだね」


「その人なにがあったんですかっ!?」


 悪い噂が広まれば仕事の声も掛かりにくくなるし、何かあった時に守ってくれる存在は少なくなる。今はVtuberだってスキャンダルを狙われる可能性がある時代だ、外面は良くしないと早々に消える事になりかねない。


「あっ、そろそろ準備をしないといけないので失礼しますねっ、灰川さんもお仕事がんばって下さいっ、あと薙夢フワリは良い子で才能の塊だって言いふらしておいて下さいねっ」


「ありがとう愛純ちゃん、そっちもフェス配信頑張ってね。ホールに出たらライクスペースの大注目新人Vtuber薙夢フワリの配信が始まりまーす!って大声で言っておくよ」


「なんか恥ずかしいけどお願いします! 私は5分くらいしか出番をもらえなかったので、一人でも多く見て欲しいです! 30分後に出ますから」


 愛純は病弱だった頃がある事など感じさせない元気さだ、今はVtuberとしての活動に夢中なのだろう。しかし性格は少し煽り属性が強くなってる感じがする、そこが可愛いのだが行き過ぎないよう周囲が(たしな)めてあげなければならないだろう。


 そんなこんなで愛純と会話して終わったが、実はライクスペースは配信企業として苦戦してる現状がある。視聴者離れが発生しており、滝織キオン以外も登録者数が減少してるという状況だ。


 ここらで一手を打たないと坂道形式でファンが減っていく可能性がある、愛純に頑張れと心の中でもエールを送り灰川はルームを後にした。




『サワヤカ男子のブースのステージモニターが故障しました!』


『ピロティブースに客が増えて来たので、スタッフ増員お願いします!』


『B通路が混み過ぎです! 入場制限かけて下さい!』


 インカムで次々と要望や報告が飛び交いスタッフ達が動き回る、もう昼時間だが今日は休んでる暇も無いような感じだ。想定してたより客が多く、トラブルも多い。仕方ない事だが忙し過ぎだ。


「グッズ11点で合計23100円になります、袋は通常と会場限定紙袋500円、どちらにされますか?」


「限定紙袋でお願いします!」


「あとシャイニングゲートのグッズを5000円以上お買い上げのお客様には特典として~~……」 


 灰川は企業物販コーナーに回されていた。売り場にもレジにも長蛇の列が並び、レジを通して会計を済ませてく。


 バーコードレジだから少し楽だが客を捌く速度は電卓使ってるのと大差は無い、しかし手動レジよりはマシだ。あれは後に打ち間違いから金額合わせが大変な事になったりする。

 

 今使ってるのも金銭の受け取りと釣銭は自分たちでやってるから、きっと後からレジ内部計算金額と実際金額の違いが出て苦労する事になるだろう。


「雑務スタッフさん、ありがとうございました!」

 

 会計スタッフが少しの間だけ抜けなければならなかったので灰川が代わってたが、それが済んで次の場所に呼ばれる。


「おい! ハッピーリレーのグッズの在庫が無いかルームに行って聞いて来い! 凄い勢いで売れちまったよ!」


「ハッピーリレーのVtuberグッズは売り切れでーす! 後日にネット販売があるかもしれないので、そちらでお求めくださーい!」


「何でこんなに早く売り切れるんだよ! もっと用意しとけよハピレ! あのライブ見てファンになった奴ら多すぎだろ!」


 ハッピーリレーの事で何か揉めてるようだったが、灰川は次の場所に行かなければいけないため物販を後にした。


 


「はぁはぁ…スタッフでーす、何か用でしょうかぁ…?」


「うわっ、灰川さんじゃないですか? 凄い疲れた顔してますよ」


「あれ?千田さん? ここってシャイゲのルームなんですか?」


「そうですよ、ナツハさん達Vtuberは自社スタジオからの参加だから居ないですけどね。あ、来てもらって悪いんですが解決しちゃいました」 


 何かあって呼ばれたようだが既に解決してたらしく、来て早々にお役御免となった。


 シャイニングゲートの出演者は本業事務所のスタジオから参加してるようで、現地にはナツハたちは来ていない。昨日は音響やモニターの写りの確認に来てたという事だった。


「顔色悪いですよ灰川さん、やっぱ忙しいんですか?」 


「忙しいのもあるけど、昨日に歩き回って考えまくったのが響いてるっすね…正直に言うとかなりキツイっす…」


「昨日の竜胆れもんさんの件ですか、ありがとうございました。おかげで今は順調に進んでます」


 フェス前日に竜胆れもんが行方不明になり灰川が父や猫叉のにゃー子の力を借りて解決した、その疲れが今更になって襲ってきたのだ。


 体がダルくて重いし、時折に眠くなる。慣れない胡桃名(くるみな)流の浄霊術を使ったのも割と精神を消耗したようで、今日は体の動きが全体的に良くない。


 それは他の企業スタッフも似たような感じで、運営の要になるスタッフも前日の準備疲れを引きずってるの人がそこそこ居るようだった。その余波が灰川のような下っ端に来て忙しさが増しており、目の前の仕事でいっぱいになってしまってる。


「灰川さん少しここで休んでって下さいよ、顔色マズイですから。どうせあんまりシャイゲのルームは人居ないし」


「そうさせてもらいますよ…喉乾いたぁ~」


 椅子に座って一息つく、近くのパソコンに目を向けるとシャイニングゲートのオンラインライブの配信と、会場オフラインライブの映像が同時に流れていた。


 会場では2Dリアルタイム映像を流して、オンラインライブでは3D映像をリアルタイム処理して立体映像化した物を流すという方法だ。オンラインライブも鑑賞はチケットライセンス制であり、そこからも収益が取れる。


 シャイニングゲートは事前販売ネットチケットは5万枚ほど売れている、これはまだ少ない方であり、シャイニングゲート単独でのライブイベントなら事前準備も更に念入りになるため10万枚以上が売れるのだ。


 オンラインライブには観客数の制限が無い、もちろんサーバーなどは問題になるが実質的にはチケット枚数制限のないライブなのである。



『こんにちわー! 赤木箱(あかきばこ)シャルゥだよぉー! ドスケベの皆さんお待たせしたねーー!』


 シャイニングゲート所属のVtuber、赤木箱シャルゥがいきなり変な事を言いながら出てくる。赤い髪のキャラモデルで笑顔が可愛らしい造形だ。


 会場カメラではファン達が一斉に「ワァーー!」と盛り上がり、オンライン画面ではコメントが滝のように流れていく。


 この赤木箱シャルゥのせいで以前にナツハと小路がセンシティブ配信をする事になり、その事もあって灰川は名前をよく覚えてる。


 視聴者登録数80万人でシャイニングゲートでは中堅ランクのような位置づけだ、熱心なファンも多くメンバーシップ加入者も多くて名前も割と知られてる。


『シャルゥ! 今日はあんまり変なこと言わないでよね!? 今日は変なネタ禁止!』


『言わないよケンプスちゃん! ナツハ先輩と小路ちゃんの制服姿のおパンツが見たいとか、れもんさんが泣くまでお尻を揉みしだきたいとかっ、ロズさんの胸に挟まりながら優雅な午後を過ごしたいとか、絶対に言わない!』


『言ってんじゃないの! ファンの人達もドン引き…してないね! むしろ喜んでる!』


『ケンプスちゃんが口を付けた水のペットボトルが凄い甘かったとか言わないよっ! すんごい甘かった!ごちそうさまでした!』


『あの水飲んだのお前かー!全部無くなってて焦ったわよ! あと私の味を想像させるような事を言うなー!』


 赤木箱シャルゥと仲の良いケンプス・サイクローというVtuberが一緒に出演しており、センシティブになるかならないかのラインの話をしながら笑いを取っている。


 視聴者や観客からも好評でシャルゥの明るいエロポンコツな性格や、ケンプスのツッコミ受難キャラが面白い感じだ。


 3Dオンラインライブも良い感じだ、普段のライブ2Dとは違った立体的な映像だから見栄えが違う。まさに生きてるかのような臨場感がある映像でファンも満足の内容だ。


「ナツハさんとか上位陣は午後のトリを務めるから出番はまだなんですよね、この調子だと灰川さんも見れるか分かんないですね」 


雲竜(うんりゅう)コバコちゃんとか飛鳥馬(あすま) 桔梗(ききょう)さんのデビュー発表は終わったんですか?」


「そっちも午後ですね、まだ時間がありますよ」


 シャイニングゲートは順調に進んでるようで問題は特に無さそうだ、強いて言うなら会場にファンが詰めかけており、客を回さなければいけない事態になってるそうで今は整理券などで対策してるらしい。


 このフェスは席チケット制ではなく入場チケット制だ、会場に入ってしまえばどの配信を見るのも自由というのが売りのイベントであり、それを貫くために様々な努力がされてるのだ。


「うわぁ…ハッピーリレーから呼び出し掛かっちゃいました、行って来ます」


「あんまり休めませんでしたね、倒れないように気を付けて下さいね、スタッフも熱中症にやられた人が出たみたいっすから」


 シャイニングゲートのルームを後にする、ナツハと小路は自社スタジオからの出演で、現地では会わなかったが仕方ないだろう。Vtuberのライブイベントは生身での出演では無いから、現地に来なくても成立する強みがある。


 灰川はヘトヘトになりながらも次はハッピーリレーの配信ルームに向かう、こちらは現地でパソコンを使用してライブイベントをする方式なので見知った顔が居るかもしれない。 




「破幡木ツバサのグッズ完売です! 駄目です!ネット販売の通常グッズも売り切れました! 視聴者の勢いが止まりません!」


「ルルエルちゃんの視聴者登録増大! SNSの登録者も同様です! グッズは用意分は売り切れです!」


「3Dライブ配信の視聴者数が12万人を突破! 現在のVtuberライブの視聴者数はハッピーリレー公式チャンネルが業界2位です! サーバーはパンク寸前です!」


「ルナウサギちゃんとウィレムちゃんの登録者も上がってます、っていうかハッピーリレーのフェス出演者が軒並み上がってます!」 


 ハッピーリレーのルームは凄い事になっていた、配信ルームとスタッフルームに分かれて作業をしてるのだが、スタッフルームは騒ぎになっていた。


「ど、どうしたんすか皆さん!? なんですかこの騒ぎ!?」


「灰川さんっ、ハピレのフェス配信が凄い反響なんですよ! 視聴者登録もどんどん上がってますし、グッズも全部売り切れました!」


 フェス配信で大いに盛り上がり、視聴者獲得とグッズ販売が大成功を収めてるようだった。もはや勢いは止まらず波は大きくなるばかりだ。


「灰川君! おかげさまでフェスの3Dライブは大成功だ! SNSでは話題に上がりっぱなしだぞ!」


「社長、それなら良かったです。俺も裏方仕事に精を出してる甲斐があるってもんですよ」


 ハッピーリレーの配信は灰川がもらったパソコンを使ってオフラインライブとオンラインライブをしてる。


 そのパソコンはVtuber配信に特化した凄まじい性能を誇るマシンであり、Vtuberの魅力を今までにない程に引き出すパソコンなのだ。


 独自のアプリケーションで構成されつつ現行の機器との互換性もあり、表情や動きのパターンの最適化と再構成によって素晴らしい配信映像が作れる。


 決して表世界には出回らないマシンであり、今のイベント配信を見てる人達は驚きと共にハッピーリレーVtuberのファンになって行ってるのだ。


「しかし問題もあるんだ、あまりに話題になり過ぎて出演者たちのメンタルが緊張で削られ気味だ。少しばかり配信ルームと控室に行って緊張してる子を(なだ)めてあげて欲しい」


「わ、分かりました。でも上手く行くかどうか保証できないですからね」


 ハッピーリレーにはエリスやミナミ達以外にもVtuberは在籍してるが、全員が緊急時に強いメンタルを持ってる訳では無い。このようなリアルタイムイベントに慣れてない者も多数いる。


 ここで失敗してしまったら立ち直れないくらいのメンタルダメージを受けるかも知れない、そうなったら今後の活動にも支障をきたすだろう。


 花田社長は過去の失敗から所属ストリーマーのメンタルを守ってサポートする事の大切さを学んだ、そのために灰川をハッピーリレーに引き入れようとしてたくらいだ。灰川はハッピーリレーではマネージャー業務もしており、こういった事も仕事の一つである。


 今は会社にとっても所属するVtuberにとっても大事な時だ、こういう時に役立ってこその役目である。灰川はイベントスタッフの業務を止めてハッピーリレーの業務に入る、元からそういう条件で運営スタッフに貸し出されてた人員だから問題は無い。 


 しかし今は少し間が悪かったかもしれない、灰川はイベント雑務と昨日の竜胆れもん捜索で疲れており、昼ご飯も食べてないから腹も空き、少し頭が回ってない状態だ。


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