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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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137話 イベント前の一大事

 「灰川さん! あのパソコン貸して!!」


 三ツ橋エリスがライブ3Dでのイベント配信が出来なくなると聞いて、慌てて灰川の所に入って来たのだった。


 灰川の仕事で受け取ったパソコンは現在2台とも部屋の隅に置かれて使われてない。仕事のデータを移すのとか、セットアップが面倒だったから放って置かれてる状態だ。


「灰川君、すまないのだが、例のパソコンを貸してもらえないだろうか? どうしても今回ばかりは失敗できない」


「社長まで…専門的な機材とか技術が必要なんですよね? あのパソコンで出来るんですか…?」


 そこが疑問だ、2日後に迫ったフェスで使用できる下地があるのか灰川には分からない。3Dライブ映像を合成できるのか、PCのキャパシティーは足りてるのか、専門的な部分が灰川には浅い部分すら分からないのである。


 業者には何か月も前から依頼してたそうだが、どうにも出来ない問題が発生したようで灰川の所に来たと言う。


「以前に見た時に3D合成ソフトやVtuberの配信に必要な機能は、専門的なアプリケーションも含めて確認してる。是非に使わせて欲しい」


「そうなんですか、でも何かあった時に俺の責任になるのもなぁ…」


「心配し過ぎだよっ! 3Dオンラインライブが楽しみって言ってくれる視聴者さんが多いから、絶対にやりたいのっ」

 

 どうやらミナミも同じような心情らしく、どうにか出来ないかスタッフ達に混ざって調べてる際中らしい。


 ハッピーリレーの配信者は皆が必死だ、看板Vtuberが2人しか居ない状況では会社的にはマズイ。今はITの仕事を請け負って稼いでるが、それだってエリスやミナミの名前があるからで、配信企業としては良い状況とは言えないだろう。


 そういう企業にとってフェスやイベントでファンを掴む事は大事だし、既存のファンを離さないためにも特別な催しをしなければならない。ファンがいつまでもファンで居てくれる訳じゃない、シビアな世界で生き残るには話題性のあるものを発信し続けなければならないのだ。


「まぁいいや、もちろん使って良いですよ、でも不具合とかあっても文句言わないで下さいね」


「ありがとう灰川君、この礼は必ずさせてもらう」


「灰川さんありがとー! 早くセットアップしなきゃ!」


 大急ぎでパソコンを運び出してハッピーリレー事務所まで2台とも持って行った、片方だけだと何かあった時に不安だろうから、灰川がどっちも持って行った方が良いと勧めたのだ。


 事務所内には灰川が一人だけとなり、既に時刻は夕方で仕事時間は終了間際だ。今日の分の仕事は終わってるから、帰宅の準備をする。


 Vtuberたちは明後日のために今も忙しく準備をしてる、スタッフ達もトラブルのために夜通しで作業する人も居るらしい。何かを手伝ってあげたい気持ちも灰川にはあるが、何も出来ないから帰る事にした。




 渋谷駅へ向かう途中の帰り道、灰川は思い立ってVフェスの会場を下見に行く事に決めた。何となく気になったのだ。


 会場になるのはフォレストガーデン・渋谷という所で、30階建てのビルで建物内面積は600坪、ガーデン部分等を合わせた総敷地面積は3000㎡超という大型ビルである。


 2階までがイベントホールとして借りる事が出来て、後はオフィスビル、地下は駐車場という複合大型イベントホールだ。


 4000名収容可能のイベントホール(収容人数と来場者数は違うものです)、ピロティ(屋根設備がある屋外部分のこと)やガーデンなどの屋外部分も含めれば収容人数は7000越え、駅から徒歩10分と少しという立地にある。


「ここがフォレストガーデンか、デカイなぁ~」


 現地に着くと会場の大きさに驚かされる、灰川はここに来たのは初めてだった。ガーデン部分やイベントホールは会場設営中だが資材運搬などは終わってるようで、今は搬入を終えて明日にセッティングという形だ。


 こういった大型のイベントホールを貸し切るのは多額の資金が必要になる。灰川の予想では全館貸し切りで一日当たり500万越え、それが会場設営や撤収作業もあるからイベント日だけ借りる訳では無い。Vフェスのために借りる期間は3日間で、フェス開催は1日だけである。


 しかも会場設営だって無料じゃない、業者を呼んで安全基準を満たした設営をしなきゃいけないし、レンタルステージや大型ディスプレイの使用料も掛かるし映像、音響、照明などの各種機材も同じで車両費も掛かる。電気代もバカにならないし人件費も高い。


 他にも企画費、広告宣伝費、会場人件費、製作物出費、その他の出費も数え切れない。もう湯水のごとく出費が重なるのだ。守らなければいけない規則や法もあるし、大型イベントなので警備員なども配置しなければならない。これでイベントがコケようものなら主催者側は目も当てられない事になる。


 今回は多数の会社や個人が協賛して実施するイベントであり、1社が費用を請け負う訳じゃない。共同開催会社が資金を出し合い、参加する個人Vtuberからも参加費を取る。


 このようにして資金面を工面しつつ、利益とファンサービスを同時に満たして知名度や話題性を稼ぐという目的に進むのが開催者側が持つイベントの存在意義である。このイベントはVtuber事務所が多い渋谷で開く事に拘ったイベントであり、規模としては大きいが最大という訳では無い。


「ガーデン部分もホール内もフェス会場か、ファンの動員数はどんくらいになるんだろうな~」


 施設内には入れないが外の部分は入って見回せる、2日後にはここは来場者でいっぱいになるのだろう。


「ん? あれって…」


 フォートレスガーデン渋谷の敷地の中に見覚えのある姿が見えた、確認しようと思い近づいてみると灰川が前に会った人物だった。


「来見野さん? 明後日のための下見に来たの?」


「えっ? あっ、灰川さんっ? こんなとこで奇遇っすねっ、あははっ」


 会場に来てたのはシャイニングゲートVtuber第2位の竜胆(りんどう)れもん、本名は来見野(くるみの) 来苑(らいえ)だった。 


 ショートカットの高校2年生であり、本人も3Dモデルも活発でボーイッシュな印象のある子だ。ちなみに胸は小さい。


「ああゴメン、邪魔だよね。じゃあそう言う事で」


「えっ、あ、ちょっと待って下さい灰川さんっ」


 竜胆は顔出しはしてないとはいえ有名人だ、あまり異性と居るのは良くないかもしれないし、そんなに親しい仲でもないから離れようとした。


「灰川さん、なんかここって変な感じとかしないっすか?」


「ここが? スゲェ良い場所だと思うけど、俺もこんな場所で配信者として出演してみてぇな~」


「えっ?? 灰川さんって配信してるんですかっっ?興味ある! って、そうじゃなくて霊感的な部分でってことっす!」


「霊感で? ん~、何も感じないよ、俺は感知が苦手だからなぁ」


 灰川は霊能力は強いのだが感知力が並の霊能者を下回るレベルだ、呪いなどは目で見えるのだが視力に依存するため遠くまで見えないし、遮蔽物があると見えない事が多い等の制限が強い。


 来見野と以前に会った時に霊能力があると言ってたのを灰川は思い出した、霊視で見た感じではそこまで強い霊能力ではなさそうだったが、感知が鋭いタイプなのかと思い何かを感じ取ったのか聞いてみた。


「何も無さそうですかっ、だったら大丈夫っす! あははっ」


「とりあえず、もう帰った方が良いよ、そろそろ夜になるし一人じゃ危ない」 


「大丈夫っす、今日はシャイゲの配信事務所に泊まるんで」


「そっか、送ってこうか?」 


「タクシー使うんで大丈夫っすよ、じゃあまた明後日にでも、灰川さん」


 こうして竜胆れもんはタクシーを拾って配信事務所に向かい、灰川も帰宅する事にした。その前にちゃんと霊能力を使って視たりもしたが、感知が苦手な上に疲れてたから何も感じられず、特に気にもせずに帰ったのだった。




「さて、配信するか」


 今日も疲れてるが夏休み期間の視聴者登録の増加が見込める時間は続いてる、少しでも配信をして有名になるチャンスを掴むべく灰川のような底辺配信者も頑張ってるのだ。


「はいどうも! 今日はアクションゲームやっていくぜ!」


 今日も配信画面を開いてゲーム配信をしていく、そこそこ有名なアクションゲームをプレイしていくと30分を過ぎた辺りでコメントがあった。


『柑橘系;灰川さん、こんにちわっす!』


「ん? こんにちは、初見さん?」


 灰川の配信は視聴者もコメントもほぼ無い、今も視聴者数は1人という数字が表示されてる。


『柑橘系;自分はさっきリアルで会った、あの子っすよ』


「このコメントの感じって、まさかRさん!?」


『柑橘系;イニシャルで言ったらLっすけど、正解っす!』


 コメント主は竜胆れもんだ、どうやらナツハに配信者名とチャンネルを聞いたらしく、わざわざ配信に来てくれたのだ。


「ありがとうね柑橘系さん、俺なんかの配信見に来てくれて」


『柑橘系;そんなことないっすよ、どんな配信してるのか気になったっすから!』


 竜胆れもんは登録者300万人超の大人気Vtuberだ、シャイニングゲート2位のVtuberという事もあって忙しい身であり、今日だってフェスの打ち合わせや配信、SNS活動で忙しかった事だろう。


「こんなトコに来てて大丈夫なの? 仕事忙しいでしょ」


『柑橘系;大丈夫っす! やれって言われてた事は済ませたっすから』


 シャイニングゲートの上位Vtuberは投稿動画などの制作は会社が大部分を請け負ってくれるらしい、ナツハは動画への拘りもあって自分で作る事もあるそうなのだが、小路は身体的な理由から全て会社任せで、竜胆も会社に9割頼んでるらしい。


 今は仕事は済ませたようで息抜きに配信に来てくれたらしい、明日もフェスのリハもあるが緊張は少なそうだ。そもそもVtuber全体で見ても超上位だから、今さらフェスくらいで緊張などしないのかもしれない。


『柑橘系;そういえば灰川さん、明後日は会場に来るんすか??』


「ん? そりゃ流石に手伝いに行かなきゃいけないって、何かしら仕事あるだろうし」


『柑橘系;そうっすよね、分かりました! また来るっすね!』


 そうコメントを残し……この数時間後、竜胆れもんは行方不明となった。




「灰川さん、れもんの捜索を頼みたい。もちろん警察に相談して会社でも探してるんだが…」


 灰川は朝方から電話を受けて竜胆れもんが失踪したと聞き、灰川事務所に渡辺社長が来て詳しい話を聞いた。


 配信者事務所から夜中に外出したのは玄関監視カメラに映ってたそうなのだが、自宅には戻っておらず、実家に問い合わせても戻ってないと言われたらしい。警察にも相談してる際中だが、行方知れずになって1日も経過してないから緊急性は低いと判断されてしまいそうな雰囲気がある。


 竜胆れもんは昨日に灰川の配信にコメントしたのが最後の消息でありSNSなどにも投稿はない、配信のコメントや昨日にVフェスの会場であるフォレストガーデン・渋谷で交わした会話なども覚えてる限りは細かく話した。


「れもんは何も言わず姿を消す子じゃない、それに会場に変な感じがすると言ってたのも気になるんだ。もしかしたらフォレストガーデン・渋谷に行って、何かに巻き込まれたのかも知れない…」


 スマホのGPS機能も動作してないらしく、本当に行方不明状態らしい。家族も心配しており、騒ぎは大きくなりつつある。ナツハを始めとしたVtuberやスタッフも情報を交換して心当たりを考えてるらしい。


 このまま竜胆が姿を消したままだったらフェスには穴が開く事になるし、そうでなくとも会社のスタッフやVtuber仲間たちは心配に決まってる。もちろん灰川だって心配だし、ファン達だって明日のフェスで竜胆れもんの姿が見えなかったら心配するだろう。


「分かりました、全力で探します。まずは少しでも手掛かりが欲しいです」


「ありがとう灰川さん、フォレストガーデンの方には僕から会社の代理人が視察に行くと言って中に入れるよう計らうよ」


 こういう場合は身近な人や行動パターンを知ってる人が探した方が見つかる場合が多い。ただの行き違いで行方知れずになってたという肩透かしパターンもあるが、それが最も望ましいだろう。


 だが今は重要なイベントの前日で、行方知れずになるのは許されない時間である。そんな時に行方が分からなくなった以上は、何かが起こった可能性は普通よりは高くなる。


 この事はハッピーリレーには正式には知らせてないが、来見野と面識のある花田社長と市乃には話して心当たりが無いか聞いたそうだ。市乃も面識はあるが一回会っただけであり、やはり居所などは知らないらしい。


 あまり騒ぎを大きくしないために情報の聞き出し方も穏やかな内容に変えてあり、緊急かも知れない事を知ってるのはスタッフとナツハくらいだそうだ。


「そういえば前にナツハから灰川さんがダウジングで人探しを成功させたと聞いたんだけど、それはどうだい?」


「無理ですね、範囲が特定できないし俺だと時間が掛かり過ぎます。前と違ってフォレストガーデンを見た時も土地の境界は安定してたし、実はそんなに都合の良い物でも無いです」


「そうか…分かったよ」


 ダウジングはナツハに学校の生徒を捜索依頼された時に使ったが、あまり広くない3階建ての校舎の範囲でも凄く時間が掛かったのだ。しかもダウジングで捜査はしたが、被害者が居る場所の候補は学校の敷地内だけで何個か出てしらみつぶし方式で探したのだ。


 もし今回もダウジングで探したら何個の候補地が出るか分かったものじゃない。フォートレスガーデン・渋谷に居るんだとしても、境界の安定してる広大な敷地の30階建てビルなんて、100や200の候補場所が出てしまうだろう。しかも候補場所を出すまでに1週間は掛かるし、疲れや地脈の相性等の要因で安定性を欠く結果になる可能性も高い。


「今回は少し分が悪い捜査になりそうですよ…まだ情報が少なすぎますって…」


「そうだね…本人から電話が来て、すれ違いでしたっていうオチが一番なんだが…」


 その後も渡辺社長のスマホに話を知るスタッフから続々と情報が送られてくる、灰川もすぐにフォレストガーデン・渋谷に向かうのではなく、少し情報を聞いてから向かう事にした。


 ほとんどは手掛かりにならない情報だ、れもんちゃんは前に上野駅で買い物したって言ってたとか、以前は配信事務所には近寄ろうともしなかったとか、そんな情報だ。直接の手掛かりにはならないが貴重な情報である。


 今はフェス前日であり、出演するVtuber達は会場での機材設置が済み次第に台本リハーサルなどもあるから忙しい。スタッフ達もなるべく探したり情報を集めたりしてるが完全に自由にはやれない、自由に探し回れるのは実質的に灰川だけだ。渡辺社長もすぐに外せない仕事の時間が来てしまう。



「おう誠治、お前の事務所とやらを見に来てやったぞ。にゃー子どもも一緒だ」


「にゃ~、にゃ~~ん」



 突然に入って来た人物は誠治が良く知る人物、父親の灰川 (いさお)とにゃー子だった。


 功はスマホで息子に農業エンジニアの講習会で東京に出てる事を伝えていたつもりだったが、実際は送れておらず伝わって無かった。


 事務所の住所は知ってたから来てみたが、電話もされてない誠治にとってはいきなりの訪問であり驚かされる。


「父ちゃん!? なんで東京に居んの!?」


「エンジニア講習会でな、あと東京に行くって言ったら、にゃー子と他の猫どもも来たがってよ」


「どうもお世話になってます、シャイニングゲート代表の渡辺です」


「こっちこそバカ息子が世話になってるようで、よろしくお願いします。灰川 功です」


 いきなりの灰川の父が来た事に渡辺社長は驚くが手短に挨拶を交わす、誠治としては父に意見を貰おうと考える。


 最近は上手いこと話が作れず良い文章が書けてませんが、まぁその内に良くなるだろ!って精神で書き続けます。

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