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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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135話 凄い奴のフリして2人を選べ! 1

 リアルもネットも時代の移り変わりは早い、少し前まではyour-tuberが持ち上げられ大流行したが、今は事情が少し変わってしまってる。


 広告収入の利益率低下や収益化剥奪の増加により、単一のプラットフォームに依存する危険性の声が大きくなった。サイバー攻撃や人的ミスでサイト使用不能なんて事も考えられる。


 依存の形は金銭収入だけではない、宣伝や売名の場としての広報依存なども挙げられる。シャイニングゲートは動画サイトに手綱を握られてる状況から脱却したい、そう考えて新たな境地への挑戦をしようとしてる。


 新たな事を試すには資金も必要だし伝手も要る、しかも既に芸能界への挑戦に失敗した過去があり、今度こそは盤石な準備をするために渡辺社長は動く。


「皆さん講義で何度も教えられ注意喚起されてると思いますが、正規デビューに当たってのメリット、デメリットなどを~~……」


 渡辺社長がアカデミー生に説明をしていく、金銭の支払い契約についての事や、問題行動をした者や過去の問題行動等が発覚した場合は処分が下ること、そして何よりデビューした場合は人生が大きく変わってしまう可能性がある事も口にする。


 文字通りに人生が変わってしまうのだ、契約形態は複数あるが基本的にはVtuber本人の話題性が上がるにつれて報酬は大きくなる、人気が出れば動きが制限される事もあるかも知れないと伝える。


「有名になればなるほど発言や行動に責任が生じます、その責任を取るのは大部分が自身だと強く自覚して下さい」


 「「はい!」」


「今回のデビューは灰川顧問の特殊な人脈が元で決まった事です、もし問題行動や発言などがあれば灰川さんを始めとした多くの人に多大な迷惑が掛かります。その意味は分かりますか?」 


 またしても「はい!」という声が起こる、この言葉は釘を刺すような意味合いだが、知っててもらわなければならない事だ。


 企業配信者は個人配信者と違って自分の力だけで有名になる訳じゃない、配信環境を整えてくれるスタッフが居て、宣伝や広報をしてくれる職員が居て、人脈や伝手を使って後押ししてくれる人が居て成り立つものだ。


 それを『自分の努力と才覚だけで名が売れた』と勘違いし、スタッフや業界関係者に高圧的な態度を取って総スカンを喰らって引退した配信者も居たそうだ。そうなってもらっては会社が困る、それまで投資してきた費用や時間がまるで無駄になるのだ。


 渡辺社長は様々な注意をする、アカデミー生たちは何度も聞いたであろう基本的な事や、そういう所に気を付ければ良いのか!と思ってしまうような事まで様々だ。灰川が何かを注意喚起するような余地など無い文言だった。


 やがて灰川にマイクが渡され前に立たされる、今から自分が選んだ者が人生が変わってしまう事に若干の恐怖心を感じた。




「皆さん、改めまして灰川誠二と言います。まずは皆さん、お忙しい中で急に呼び出してしまいすいません」


 「「よろしくお願いします!!」」


 前に出て軽く挨拶をするとアカデミー生たちの真剣な眼差しで気圧されそうになる、それは正に『念』と言える物だ。


 降って湧いた美味しい話に、絶対に自分が勝つ!必ず選ばれてみせる!逃がす訳ねぇだろ!という思いが満ち、その気迫に灰川は気圧されそうになる。


 アカデミー生たちの本気さを改めて知り、精神が退き気味になりながらも灰川は呼吸を整え相対する。アカデミー生は97人、年代は中学生から成人女性と幅が広いが、その誰しもが灰川を真剣な目で注目してる。


 一挙手一投足を見逃すまい、コイツに認められるにはどうしたら良い、どうやったら選ばれるのか、そんな視線が灰川に集中していた。


「じゃあ最初に、デビューに立候補したいって人は居ますか?」


「えっ? は、はい!立候補します!」 


「そ、そりゃ立候補しますよっ! 私だって立候補します!」


「逆に立候補しない人は居ませんよっ、灰川先生!」


 灰川の言葉にアカデミー生たちは驚く、何となく聞いてみただけだが場の空気が変になっただけだった。


「すいません、今のは冗談です。本当の選出方法は今から話しますが……実は既に選出は始まってます」


 「「!!?」」


 この言葉にアカデミー生たちは驚く、ついでに横に控えてる渡辺社長も「えっ?」という顔をする。


(ヤベェ…やっちまった、それっぽいこと言って場を持たそうと思ったけど失敗だった!)


 実はさっきから灰川は頭が回ってない、2人の人物の人生を変えてしまう重圧や、アカデミー生たちの正規Vtuberデビューに懸ける思いの強さに気圧されて、どうやって選び出すか良い案が思いつかない。


 しかし壇上に立って黙ってる訳にもいかない、渡辺社長は神妙な顔をしながら黙って灰川の動向を見守ってるだけだ。


「32番の机のメンバーさん、前へ来て下さい」


「はいっ!」


 ここで灰川が1名のアカデミー生を前に呼ぶ、その瞬間にホール内がザワついた。1名はもう決めたのか!?そんな緊迫感だ。


(と、とりあえず呼んじゃったけど、ここからどうすりゃ良いんだ!?)


 何となく頭に浮かんだ数字の机番号の人を呼んだが、そこから先を考えてない。何を考えようとしても頭が真っ白だ、とりあえずは当たり障りのない事をしようと考える。


「まずはVtuber名と登録数を1の位まで教えてください、あと自身のセールスポイントを詳細に語って下さい」


「は、はい! 私は塩谷(しおたに)ソルです! 登録者数は1821人で、配信では視聴者の皆さんに丁寧な塩対応が面白いと人気ですっ」


「塩対応なのに丁寧なんだ…」


 視聴者から新鮮な対応がウケてる、ゲーム配信での面白い発言でコメントが増加するなど、塩谷は語る。それを聞きながら灰川は頭を働かせる。


 もうそれっぽい事を言いながら乗り切るしかない!どうせ誰が誰なのかも分からないし、宣伝や案件で売り出す事が決まってるのだから選んだ子が売れるのは確定なのだ。


 誰を選んでもアカデミー生が行く結果は同じ、しかし灰川は違う。ここでいい加減に選んだ事や、自信なく選んだことがバレれば自身の沽券に関わるし、選ばれた者も何の根拠も無しに選ばれたとあっては立つ瀬がない。


 誰かを引っ張り上げる役目の者は、迂闊に本心を見せれば相手も自身も死なせる事になる。昔にドラマで聞いたセリフが頭に浮かぶ、ここは絶対に本心を悟られてはいけない。


「以上が私のセールスポイントです! 合格にしてもらえますか!?」


「ありがとうございます、まだデビュー者は決定してませんが、選考の一助にさせてもらいます。次に8番の方、前へ来てもらえますか?」


「はいっ、よろしくお願いいたします!」


 その後も何名かテキトーに番号を選んで前に来てもらって自己紹介やアピールをしてもらう。灰川はちゃんと聞いてはいるが、時間稼ぎの意味合いが強いため心の向きは別方向だ。


「クロ・ブラウスです。登録者数は4021人で、配信では落ち着く声と反応の可愛さが良いとよく言われます」


「な、な、ナノ・テクノですっっ! ぜ、ぜ、絶対にデビューしたいって思ってますっ! は、配信は3205人でっ! と、登録者さんはゲ、ゲームが上手いですっっ!」


画狼(がろう) ヨロイです。質問応答配信でバズって登録者が先程5000人を越えました、聞き取りやすい声と知識量を活かした配信が得意です」


 10名くらいのアピールを聞いたが、まだ全ての事は決まらない。それでも色々考えて灰川の方針だけは『ここはもう自信満々を(よそお)って突き進むしかない!』と決まった。


 これは自分がアカデミー生を選ぶ場じゃない、自分がアカデミー生やシャイニングゲートのスタッフから品定めを受ける場なのだ!と感じる。現にさっきからスタッフがホールに少しづつ増えて来て動向を見ており、そちらも灰川に視線が向き気味なのは気のせいじゃないだろう。


 スタッフだってアカデミー生と関わる事があり、推してるアカデミー生も居たりするだろう。場合によっては灰川がスタッフからの不興を買う事にもなりかねない、そうなれば自分の先行きは雲が差す。


 この場を使って自分の立ち位置を確立しなければならない、コイツはタダ者じゃない、灰川という奴は利益をくれる奴だ、社長が道楽で子飼いしてる奴じゃないとアカデミー生とスタッフに強く示さなければ、自身の立場が無くなってしまう。


 人の人生を変えてしまう?思い上がるな!アカデミー生たちはそのために来てるんだよ!むしろ追い詰められてるのは自分だろうが!と強く思う。自分は自営業だ、それは勝った負けたの世界に身を置いてるという事で、負けたら終わりなんだと自覚が湧く。


「皆さん、先程に渡辺社長からCM出演と広告とVstyleの表紙モデルの起用を知らされたと思いますが、今回のデビューにおける恩恵を付け足したいと思っています。もちろん渡辺社長と選出者本人の許可が降りればですが」


「えっ…それって…?」


「な、何だろっ…!」


「まだ何かあるのっ!? 絶対に負けられないじゃん!」


 灰川は腹を決めた、もう他人の(ふんどし)を借りる真似でも何でも良い、ここで『有用な奴』と思わせなければいけない。信用を勝ち取れなければ負けなのだ、凄い奴のフリしてなきゃ終わるのは自分だ!


「全国ネットのOBTテレビで企画進行中のテレビ番組、仮タイトル`new Age stardom`の出演者推薦を灰川コンサルティング事務所からさせて頂きたいと思ってます」


 「「!!」」


 これは少し前に灰川コンサルティング事務所に電話が来た話で、新たに作るテレビ番組にVtuberを出したいという申し出だった。渡辺社長や花田社長にも話は来てるらしく、既にエリスやミナミ、ナツハ等は出演枠組みに推薦するつもりらしい。


 灰川には明らかに四楓院絡みでの打診だったが、ここは利用させてもらう。灰川は覚悟を決めたのだ、この業界で自営業でやってく以上は力を見せる必要があるが……それ以前に業界が萎んでしまえば自分が道連れになるのだ、それを少しでも避けるためにも使える物は使う!


 Vtuber業界は産業としてはまだ弱い枠組みだ、そこを盛り上げていかなければ自分だって沈んでしまう。


 自身が欲に塗れなければ大丈夫な筈だ、これはあくまで業界やコミュニティにおける自分の立ち位置を守るため、あとついでに電話してきたプロデューサーさんが何かの呪いを受けてたから調査のため、そんな言い訳を心の中でしながら必死に平静を装う。


「今回の選出においては妥協は一切許されません、配信におけるトーク術、視聴者への求心力、関係者からの覚えの良さ、全てを揃えてるか揃える素養があると判断した人を選ばせてもらいます」


 これはハッピーリレーの花田社長が言ってた事で、あらゆる素養が持った人が配信者の理想だけど、そんな奴はそうそう居ないと話して笑ってたのだ。その理想像を引用してそのまま喋る。


 ではそのような人をどのように短時間で少ない情報で見抜けば良いのか?そんな方法は無いから見抜いたフリ(・・・・・・)をするしかない。そもそも自身がヘッポコ配信者のくせに、誰かを選ぶ資格があるかも怪しい物だ。


「テレビ番組に推薦って…もし合格しなくたって推薦されたってだけで名前が広がるよ!」


「メイン出演じゃないだろうけどっ、凄い事だよ!」


「灰川顧問に気に入られるのがデビューの近道だったんだ…」


「勝つぞ…! 絶対に選ばれてやる…!」


 人生の転機は待ってくれない事は彼女たちは知ってる筈だし、四楓院家との関りが人生の転機になった灰川だって同じだ。人間は誰しも誰かしらの人生に関わり影響を及ぼす、それを恐れていてはエンターテインメント業界ではやっていけない。  


 アカデミー生たちは色めき立つ、自分たちが憧れたシンデレラストーリーへの道がそこにある。大企業のCM出演、都市部での看板広告、アニメーションPV作成、ドラマ出演の可能性、どれか一つ取っても大きな躍進が期待できる案件、都合が良すぎると言っても過言じゃない事態だ。


 周囲で見てるスタッフたちもザワつき始める、あのコンサルタント名目で関わってる奴は何者なのか、どれほど強いコネクションを持ってるのか、灰川を見る目が変わって行く。


 人生を変えるならここだ!というアカデミー生たちの思惑と、人生を安定軌道に乗せるならここしかない!という灰川の思惑が完全に合致した。


 灰川は「さあ俺はどうやって取り(つくろ)う!?」と心の中で汗を流すが、やはりここは自分の得意分野で勝負するしかないと考える。もはや灰川の中ではVtuber選出ではなくアカデミー生たちと自分との闘いみたいな事になってる。


「今から皆さんに、一つの怖い話を聞いてもらい、その後に1分間で感想文を書いてもらいます。その内容によって選出者を決めます」


 「「はいっ! ……えっ??」」


 まさかの選出法だ、ここに来て怖い話を聞かされるとは誰も思ってなかった。しかし渡辺社長は横で真面目な感じで見てるし、スタッフたちも何か考えがあるのだろうと思って見守ってる。


 灰川はスタッフの人に声を掛けコピー用紙を人数分持って来てもらい、アカデミー生たちに配ってもらう。


「感想文は1分以内であれば何を書いても自由です、面白かった、怖かった、つまらなかった。または、ここをこうした方が良い等の意見も自由です。ですが何を書けば良いのかは吟味して下さい、そこが大事ですので」


 何を書いても自由と灰川は言う、内容は感想文だけでなく指摘文章や苦情、何でもアリと付け加えた。


「質問を良いでしょうか灰川顧問っ、感想文に1分は短いと思うんですが」


「確かに短いですが、配信の時は視聴者の心を掴むために1分なんて掛けていられません。そのためには核心を付いた考え方や、何をすれば良いのか瞬時に判断できなければいけません」


「は、はいっ! 分かりましたっ、ありがとうございます!」


 実際には感想文を読む時間も掛かるから1分にしただけだ、5分も10分も書かせたら文章が長くなって読む時間が非常に長くなる。テキトーにそれらしい事を言ったら納得してくれた、もし深くまで突っ込まれてたら危なかったかもしれない。


「感想文なんて高校出てから書いてないんだけど…」


「前にナツハ先輩が配信でやってた感じのやつかぁ」


「怖い話って苦手だけどっ、負けらんないっての!」


 アカデミー生たちは自身の行く先が怪談に左右されるなど思っておらず、どうすれば良いのか分かってない者が多い。しかしそれは灰川も同じで、思わせぶりな文言を並び立ててるがどうすれば良いのか分かってない。


「わ、私っ…さっきアピールに呼ばれなかったっ…! ど、どうしようっ…!」


「どう書けばデビュー出来んだよぉ…、小説も論文もいっぱい読んでるけどよぉ…」


「人生懸かった感想文かぁ…もっと学校の読書感想文、真面目に書けば良かったなぁ…」


 アピールに呼ばれず不安になる者、感想文が不得意な者、自分を奮い立たせる者、それぞれに戦に臨む。


 灰川としては自分の立つ瀬を確保するのに尽力してる際中だ、まずは自分がいっぱいいっぱいだと気付かれないように振舞わなきゃいけない。


「怪談が苦手とか、興味無い分野だと言う人も居るかと思われますが、苦手や興味無いという部分をどのように活かすかも重要です」


 もう思わせぶり連発だ、それっぽい事を言いまくって関心を稼ぐ。まさか壇上に立つスーツ着た男が何も考えずに喋ってるなんて誰も思ってないだろう。時間も惜しいので灰川は少し咳払いをして怪談を話し始める。


「これは以前に本当にあった話なんですが~~…」


 灰川が本腰を入れて怪談を話し始めた、声の質が変わり『聴かせるための声』になる。灰川の雰囲気が変わった事を察してアカデミー生たちは耳を集中させた。


 それっぽい事を言いながら場を乗り切る事にはしたが、怪談においては真面目に話す。遂に本格的な選出会が始まったのだった。 



最近は少し投稿頻度が落ちてますが、宇宙戦艦ヤ〇トのリメイクアニメを見てるせいです。凄い面白いです。

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