132話 小規模オカルト展覧会
「よし! 配信するかぁ!」
最近は色々あって配信が出来てない、ナツハに勧められたハッピーゲートでの配信も混み過ぎてて出来て無いし、アパートでの配信も疎かだ。これでは配信者としてビッグになれない。
そもそも最近は色々な事が重なり過ぎた、タナカから貰ったパソコン騒動もあったが今は会社が忙しくて話は保留状態だ。エリスもハッピーリレーから一時的にパソコンを借りて自宅で配信が出来るようになってる。しかしまだエリスも社長も灰川のパソコンを諦めきれてないようだ。
「今日はコレだな! 昨日発売の新作ゲーム、パフェメイカー!」
今日の灰川配信のメニューはパフェの会社が作った本格派パフェ創作ゲーム『パフェメイカー』だ。1000種類以上ある素材や自由度の高い盛り付けをして、パフェ屋さんに来たお客を満足させるというゲームだ。
お客は一般客や子供、美食家に至るまで来店して満足度が点数になるという感じだ。ネット対戦ででポイント勝負や隣に出店して競うなんて事も出来るゲームだが、灰川が見た時点での売れたゲーム本数は7本だった。
「まずはクリームを選ぶのか、やっぱ普通のクリームだな!あとフルーツとか甘さのレベルを決めて~~……」
配信を始めて1時間くらい経過する、特に誰も来ないまま時間が過ぎてたが。
『コロン;灰川さん、こんばんわ!』
「おっ、コロンさん久しぶり、今日はパフェメイカーってゲームやってるぜ!」
『コロン;パフェ作るゲームなの? 面白そうかも!』
「そうだろ、そうだろ? これが奥が深くて自由度が高いけど、やりがいが全く無いってゲームでさ、女の子向けなのかね」
このゲームの対象は明らかに女の子向けであり、成人男性がやる感じのゲームではない。
『コロン;私やってみたいかも! 配信でやってみよっかな』
「配信でやる時は気を付けた方が良いかもね~、これ視聴者が見てると暇だからトークとかで楽しませないといけない感じになるかも」
『コロン;そうなんだ、でも可愛いパフェ作ってみたいよ』
最近の佳那美ことルルエルちゃんは配信の方向性が割と決まって来た、元気で可愛く、ナチュラルな子供っぽさが視聴者の心を和ませる配信の雰囲気が板に付いている。
子供の視聴者も多く、同年代の子の流行やキッズファッションにも詳しいから、その点で他の配信者には無い特色や良い意味での幼さが作用して話題性を徐々に伸ばしてる。
『コロン;そろそろお休みの時間だから、おやすみ灰川さん。明日のミュートレがんばんなくちゃ』
「おやすみコロンさん、明日も頑張ってな~」
ミュートレというのはミュージックトレーニングの事で、近くに開催されるVフェスと呼ばれる企業勢個人勢問わずVtuberが集まって開かれるイベントに向けたトレーニングだ。フェスに出演するには様々な条件があるが、企業所属のVtuberなら大体は出場できるはずだ。
各配信企業がブースを出して限定グッズ販売や、特設ステージを設けてVtuberが歌ったりダンスしたり、他にもコントやトークショー等をしたりする界隈では大きなイベントである。
「このゲーム面白くねぇな…完全に男向けじゃねぇや、次のゲームしよっと」
次に起動したゲームは大人気のFPSゲームだ、新規視聴者が来なかったのはニッチ過ぎるゲームが悪かった!とか責任転嫁して、慣れたゲームをし始める。
しかし人気コンテンツだと次は有名配信者の影に埋もれて無名配信者の所には人が来にくい、それでもたまに誰かしら見に来る事があるから、それを期待しつつゲームを楽しむ。
しばらくやってるとチームの2人がやられてしまい、復活不能時間になって孤軍奮闘する羽目になってしまった。しかも弾薬を使い果たしてしまい、武器の無い丸腰状態だ。
「やべぇよ…やべぇよ…! あとちょっとでチャンピオン取れんのに…! 意地でも負けねぇぞ!」
他のチームが敗退したのは運が良かったからに過ぎないのだが、今は残り2チームと絶好のチャンスである。しかし遠くから確認した所、敵チームは3名が残っており装備も充実、勝てそうな見込みはゼロに近い。
「ここからが配信者の腕の見せ所だな! 丸腰で勝って伝説作ってやるよ!そんで動画出して視聴者爆増だ! やってやるってぇの!」
気合を入れて覚悟を決める、これに成功したらFPS動画を出して大バズりして視聴者は一気に3万人越え!そこからは波に乗ってウハウハの配信者生活だとか思ってドキドキしてる。これを捕らぬ狸の皮算用と言う。
ちなみに灰川のFPSでのプレイヤーネームはデフォルトネームの英数字の羅列であり、ネームを見て配信に来る人は居ない。プレイヤーネームを配信者名にすると荒らしやプレイへの苦情コメントが来たりすると聞いて止めてるのだ。だが普通なら配信者ネームにして視聴者を誘導した方が人は来るだろう。
プレイモードはフリーマッチ、階級の差が無いマッチングで強いプレイヤーがゴロゴロ居るマッチ方法だ。
「行くぜぇ!行くんだぜ! 奇跡起こしてやるよぉ!」
灰川が丸腰のまま敵陣に突っ込んでいく、武器を持ってない事に気が付いた敵は何だ?と思って攻撃してこない。
そして灰川は見落としていたが、敵のプレイヤーの名前がそれぞれ『薔薇咲ロズ・シャイゲ配信中!』『薙夢フワリ@ライスペ新人Vtuber』『耳可愛ニャン子❤にゃんにゃん』になってた所は気付かなかった。
「ボロ負けした…チクショウ! HPミリで囲まれて周り地雷だらけにされてタイムアップて! 普通に負けるより精神ダメージでかいわ!」
すぐにゲームを切ってふて寝する、だが収穫はあった。なんと視聴者登録が一人増えたのだ、もちろんスパムアカウントである。
「明日は前から予定してた博覧会だなぁ…、まぁ良いや寝よう」
灰川が布団に入ってる間、シャイニングゲートのスポーツに詳しいVtuberの薔薇咲ロズ、ライクスペースの優しいメスガキVtuber薙夢フワリ、個人Vtuberの耳可愛ニャン子はSNSでプチバズりしていた。
灰川とFPSで対戦した3人だがマッチングしたのは全くの偶然であり、試合中通話こそ無かったが対戦は非常に盛り上がってたのだ。しかも勝ち方が敵が一人で丸腰で突っ込んでくるという勝ち方で話題になり、それぞれ視聴者登録が1000人くらい伸びた。灰川は恩恵ナシ。
それぞれが勝った時に発した言葉もまとめられて切り抜かれ、その動画も人気になってる。
『ええっ!? この人なんにも装備しないで突っ込んで来た! ハットトリックでも狙ってる!?』
『腕前にスッゴイ自信あるんですね~♪ HP減らしてから地雷を置いてっ、くすくすっ! 動けなくされちゃった気分はどうですか~? 弱わ弱わさんっ♪』
『コイツなに考えて突っ込んできたにゃん!? でもオイシイ切り抜き所ありがとうにゃんっ♪』
こんな感じになってた事は灰川は露知らず、畳の上に敷いた布団の中でグッスリ寝るのであった。
「ふぁ~~…なんかイヤな夢見たような気がするなぁ…、まぁ良いか、起きよう!」
今日は灰川が少し前から予定してた博覧会に行く日である、シャイニングゲートもハッピーリレーもイベント準備で忙しいが、灰川はそういう専門的な事は手伝えない。
忙しい中で休むのは少し申し訳ない気もするが最近は色々あって疲れてたし、大きな仕事も引っ張って来たのだから許されるだろう。
朝の準備をして外に出る、本日に灰川が行く場所は東京の東の方にある下町だ。そこで『霊能オカルト展』という小さな展示会をしており、興味を引かれて行く事にしたのだ。
今どきはオカルト関連の展示会なんて珍しいし、ネットで小さな告知しかしてなかったのも気になってた。こういう所には掘り出し物の面白い怪談とかがあるかもしれない。
目的地の駅に到着して改札を出る、そこは何てことはない下町だ。大きな通りもあるし商店街もある、住み心地やアクセスも悪く無さそうだけど、賃貸料とかは安い感じの庶民の街といった感じで灰川にとっては落ち着く感じの場所だ。
スマホで場所を検索しながら商店街を抜けた先にある場所に向かう、地下鉄の駅からそこそこ離れた立地が良いとは言えない場所にある小さな市民センターだ。
その中のイベントスペースで展示会が開かれており、入場料の300円を支払って展示室に入る。中には灰川以外に人が5人程居るだけで、お世辞にも流行ってるとは言い難い風体である。
「思ってたよりショボい…」
口をついてそんな言葉が出てしまったが誰にも聞かれなかったようである。
展示物もショボい、呪いの品と銘打った物が展示してあるが灰川が見た所は呪いは掛かってないし念も感じられない。呪術の方法を記した本なんかもあるが昭和に流行った荒唐無稽なオカルト本だ。
他にも最近にネットで集めて来たであろう怪談とか、昔に流行った都市伝説とかの説明が少しあるだけで、完全にハズレの展示会だったのだ。しかし
「成島さん、最近は怪異が多くなってませんか? この前に夜道に霊が出るって除霊依頼を受けて見に行ったら、牢獄道路の怪異でしたよ」
「牢獄道路ですか、厄介な物を押し付けられましたね。私も似たような経緯でお祓いに行ったら人間釣堀の怪異でした。私では無理だと断りましたがね」
近くで話をしてた壮齢の男性2人の話が聞こえて来て灰川は驚いた、彼らが話してた内容は灰川も知ってる怪異だったのだ。
驚いた様子をしてる事に気付かれ、男性2人が灰川に話し掛けて来る。
「ここは初めてかね? 強い霊力を持ってるから私はてっきり、君は祓い屋をやってるのかと思ったが」
「あ、はい、こんにちは」
「この展覧会は年に一回、霊能者が情報交換するために開かれてるものなんだよ、もし一般の人が来たら変な話はしないけどね」
全く知らない情報だった、灰川はネットの小さな記事でこの展覧会を知ったのだが、霊能者が集まってくる場所だなんて知らなかった。どうやら昔は霊能者に知られた会合だったようだが、今は変わってしまったらしい。
「今は霊能者なんて少なくなったし、インターネットで面白おかしく語られるだけの物になりつつあるがね」
「この会も来る人はすっかり少なくなってしまったよ、昔は遠い所から来て貴重な情報をくれる人なんかも居たんだが」
霊能の世界も今は変わってしまった、本当に霊能力を持ってる人は少なくなって来てるようで、今は詐欺やカルトといった扱いになってきてる。
動画サイトでは心霊スポット行ってみた動画とかが持て囃され、偽物霊能者が変なこと言ってるチャンネルとか、本物の霊能者がクッソつまらないゲーム配信してたりとか散々だと語る。
「これも時代なんだろうな、君のような若手を育てたり見つけようとしてこなかった我々の責任でもあるがね」
「今の時代を否定する訳では無いが、私らのような年代には少し付いていけん時代だよ」
「分かる気がします、オカルトを商売に使うのを悪いとは言いませんが、程度や限度はあると自分も思いますから」
お祓いなどを金銭で請け負う人たちは、ある意味ではオカルトで金儲けをしてるという事にもなる。灰川だって今はその一人だ。
だがその良し悪しを論じても仕方ない、金が無ければ今の時代は生きて行けないし、副業で無償霊能者なんてやったら周囲から気味悪がられるだろう。たとえ秘密にしたって、いずれはバレる。
「ところで最近は怪異の発生が多いって聞こえましたが、本当ですか? いや、心当たりはあるんですけど」
「明らかに増えてるなぁ、昔は私が居た場所では年に1回も発生して無かったが、今年は既に2件発生してる。今も継続して祓っとるよ」
「都市部だと増えすぎてるくらいだ、被害者も増えてるし未熟な霊能者が怪異に飲まれるケースも発生してる」
男性2人はかなり昔から霊能活動をやってるらしく、1人は地方在住、もう一人は東京郊外在住だそうだ。
「しかも最近は新手の怪異、新時代の怪異とも言うべきモノも多くてな、未完成状態であっても手探りで解決法を探さなければならん」
その後も話をして情報交換をしていく、灰川も怪人Nや闇部屋の情報を話しても構わない部分で話し、向こうに居た3人の霊能者も交えて色んな話を聞いた。
最近は明らかに怪異や怪現象の発生率が高くなっており、根本的な原因は不明だが、時代や人の心が今までに無い形になってきてるからではないか?という仮説も聞いた。
長引く不況、格差社会、利己的精神の台頭、ネットに蔓延する詐欺やデマなどの悪意ある情報、その他様々な要因で良くない念が多くなり、そのせいで怪異が増えてると考える霊能者も多いらしい。もちろん真の原因なんて誰にも分からない。
怪異の形も様々らしく、6人でどのような怪異に遭遇したか、どのように対処したか、どのように逃げたか等を情報交換しつつ意見交換もする。
鬼火墓
江戸時代に発見された怪異で、誰も作ってないはずの墓が突然に現れる現象怪異。生贄信仰があった場所が発端という説があるが真偽は不明。
墓石に自分、もしくは家族や知人などの名前が刻まれてあり、その名前の人物に、非常に重い疫病、重大な金銭的損失、非常に悪い意味での生活環境の変化などが発生し、死亡してしまう場合もある。
お経などが効くため祓うのは比較的に簡単だが現れる場所が決まっておらず、お祓いが出来る人が鬼火墓に会うかどうかは偶然性が高くなる。
専業霊能者の久賀田が田舎町の家の除霊依頼を受けて民家に向かった所、父親が川の土手に昨日まで無かった墓を発見した事が判明、墓は既に消えており根本解決に至ってないが今も依頼者のお祓いは続けてる。
死刑幻覚
1892年に外国の霊能力持ち精神科医が発見した精神影響型怪異、発生原因や条件は分からないが、当時に連続殺人で逮捕された死刑囚の刑執行時に悪魔が現れたという真偽不明の情報がある。
この怪異に襲われた者は幸福な気持ちになった時に必ず、自分や大切な人が死刑になる情景が頭の中に濃く浮かび、一切の幸せが不幸に塗り替えられてしまう。高い確率で重度の鬱病を発症し、最悪の人生を送る事となる。
祓う事が非常に難しく、この怪異が発現したら祓うまでに10年は掛かってしまい、その間に鬱病が進行してしまうのは避けられない。だが発現初期に対処すれば抑える事は不可能ではない。
OL霊能者の田野川が友人の知り合いが何か変だという話を聞き、本人に会ったところ死刑幻覚怪異の初期だと判明。教会に行って十字架と聖水と聖書を購入させ、田野川が西洋式の祓いをして怪異を抑えた。
虚ろ家
住んだ者が必ず不幸になる家、家族の不仲や虐待行為が日常となり、最終的には悪霊の集合体により一家の魂が喰われてしまう。事故物件に稀に発現する怪異であるが一軒家にしか発現しない。
祓うためには家と家族を呪う悪霊集合体との直接対決が必要になり、負けた場合は除霊者も命を奪われてしまう。強い霊能力と精神力が必要になるため、請け負える霊能者は限られる。
悪霊キックボクサーのチャン・ヨシカワがトレーニング合宿の自主ランニング中に、呪いが最大状態となってる虚ろ家に出くわす。外には辛うじて祖母から逃げさせられた男子児童が、一人泣きながら家族を呼んでいた。
チャンは迷わず凄まじい悪念を発してる家に突入し悪霊を発見、ランニングによってウォームアップは済んでたが苦戦を強いられる。しかし最後は真空とび膝蹴りと烈風右ストレートによって勝利、一家を無事に救い出した。次の週から男子児童はキックボクシングを習い始めた。
「こんなに怪異が頻発してるなんて、確かに普通じゃないですね」
「これも時代なのかも知れませんね、完成怪異に対抗できる人は年々減ってるのに…」
「そもそも時代が変わる速度が速すぎるよなぁ、今は霊能力一本で食ってける時代じゃないし」
どんな怪異が発生しても解決できる事は限られるし、そもそも金銭が支払われる事が少ないから得が無い。霊能者と言っても社会生活もあるし、無益な事や割に合わない事は本音を言えばしたくない。
修行も積まなきゃいけないし、危険な目に遭う事もある。なのに奇人変人扱いされて当然だし、祓ったからといって怪異被害者が幸せになれるかどうかは別問題、不幸が続いてると言われ恨まれる事もある。廃れるのも理解も納得もしてる、とにかく得をしないのだ。
「まぁ、私は時代遅れの後ろ指刺され者で構わんよ。人が不幸になる所を放っては置けん」
「今はこんな小さな市民センターで会合代わりの展覧会を開いてるが、昔はもう少し良い場所で開いてたんじゃぞ」
「僕モ止メマセーン! 悪霊モ怨念モブッ飛バシマース! コノ前ノ女ノ子に憑イテタ怨霊ニハ負ケテシマイマシタガ、他ノ人ガ祓ッテクレタソーデス!」
それぞれに情報交換をして解散となった。 有益な情報を貰えてありがたい限りだ。ここに居た人達は相当に強い霊力を持ってる人達だ、怪異の強さにも大きく左右されるとはいえ、完成怪異に対処できる強さを持った人は限られる。
展覧室には灰川以外は誰も居なくなってしまったが、せっかくだからと展示物を見て他に誰か来ないか待ってみる。
「そろそろ帰るかな、誰も来ないし」
展示物は特に見るべき物は無かった、元から霊能者の会合場所みたく使われてたようだから、展示物には一切の力を入れてなかったのだろう。良い物を集める資金も無さそうだし。
受付の人はこの会合を開いてる霊能者の弟子らしく、秘密は守られるようである。一応は展示室内は写真撮影や録音は禁止のようだった。
灰川は展示室を出て帰ろうと思った所、意外な人物と会う。
「え? 藤枝さん?」
「……? ………灰川さん…?」
そこに居たのは以前に四楓院八重香のお祓いの時に会った霊能少女、藤枝朱鷺美だった。
相変わらず前髪が長く、以前は片目しか隠れて無かったが今は両目が前髪で隠れてる。




