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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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123話 良い感じのパソコン


「新しいパソコン来たけど、こっちに届いちゃったかぁ」


 灰川はコンサルタント事務所で仕事をしてた所、タナカが属する国家超常対処局から怪人N討伐のお(れい)のパソコンが届いたのである。


「思ったよりデカいなぁ、ちょっと動作確認してから~…」


「灰川さーん、入るよー」


 箱から出して正常に動くかどうか確認しようとした所、市乃が事務所に入って来た。


「宅配便来てたんだ、大きい箱だねー」


「何かあったのか?」


「うん、ちょっと緊急でパソコン買わなきゃいけないからさー、灰川さんに着いて来てもらいたいなって」


 市乃は昨日にパソコンが壊れてしまい、急いで買わなければならない状態だ。スマホでネット通販とも考えたようだが、こういう時に限って良さげな物が売り切ればかりだったらしい。


「事務所には灰川さんが良いって言ったら着いて来てもらえって言われたから大丈夫だよー、着いて来てくれるよねっ?」


「まあ仕事もとりあえずは大丈夫だし、そういうのも仕事の一つだから大丈夫だけどよ」


 灰川の仕事はシャイニングゲートとハッピーリレーのストリーマーの下支えのような物で、こういう付き添いや雑用も立派な仕事だ。


「買いたいパソコンは決まってんの?」


「そういうの詳しく分かんないだよね、スペックは会社から言われるんだけどさ、そこの辺りも灰川さんに見て欲しいかなーなんて」


「俺もそんな詳しくねぇぞ、Vtuberやったことないし、プロの配信者のパソコンの性能とか分からんし」


「まあ良いや、行こうか灰川さんっ」 


 市乃は100万人Vtuberになったがパソコンに詳しい訳では無く、灰川もそこまで詳しくはない。それでも2人あわせて最低限くらいの知識はあるから、取りあえず行く事にする。分からない事があったら史菜あたりに電話をしよう。




 灰川と市乃は渋谷の街を大型家電量販店に向かって歩いていた。家電やIT機器と言ったら秋葉原だが、最近は渋谷も若者のネット進出の増加によりスマホやタブレットはもちろん、パソコン関連に力を入れてる店は多い。


「そういえば佳那美ちゃんがもしかしたら子役で俳優デビューするかもって聞いたんだけど、本当なの灰川さん?」


「俺はジュニアアイドルとしてデビューとか考えてるって木島さん聞いたけど、まだ噂か考え初め程度くらいに考えといた方が良いぞ」


 佳那美ことルルエルちゃんはVtuber講習の時に演技講師を呼んで小学生数人で講義を受けたそうなのだが、かなり良い感じの演技で気に入られたらしい。


 それが業界内で少し話が広がったらしく、芸能関係の人が配信を見て演技で何らかのドラマなどに出て貰う事は出来ないか?という相談がハッピーリレーに来たが、まだ決定ではない。


 灰川は仕事をしてる中で企業案件がお流れになってしまうケースは割とあるのだと実感した、依頼会社の都合だったり締め切りの都合だったり、配信者の都合と理由は様々だ。それでも配信企業は案件に応えるよう極力頑張ってる。


「そうなんだ、あ、ここだねー」


「おお、結構広いし色々あるな」


 繁華街の大型家電量販店のパソコン売り場に着く、ここはPCや周辺機器にかなり力を入れており、ネットのレビューも良い感じの店だった。


 店内は夏休み中の渋谷の大型店という事もあって客はそこそこ居る、明るい店内のあちこちで若い人たちが商品を見て回っていた。 


「これなんか良いんじゃないか? 性能良さそうだぞ」


「うーん、どうなんだろ、ネットだとVtuber配信に最適なパソコンとかの説明もあったんだけどさー」


 三ツ橋エリスは100万人登録を越えるVtuberだ、パソコンにだってそれなりのスペックが要求される。


 複雑な3Dモデルを滑らかに遅延なく動かせるは最低限として求められる。表情の細かな表現や髪の毛の揺れ、特にエリスの3Dモデルは金髪だから輝きなどにも(こだわ)りがあるそうで、基本スペックはかなり高い物が必要らしい。


 それに加えてゲームなども大量にやるから容量も必要であり、高負荷ゲームをしながら配信がスムーズに可能というスペックも必要とされる。


「自作パソコンは出来ないだろうしな、俺も出来ねぇ」


「あっ、これはどうかな? うーん…ちょっとダメかー」


「買った時にカスタム注文も出来るっぽいな、値段は上がるけどよ」


 色々と見ていくが一発で納得できる性能の物が見当たらない、スペック不足だったり、良さげに見えるがネットのレビューを見ると排熱に難アリと書かれてたり、スペック良いけど壊れやすいとか書かれてたり、一長一短という感じだ。


「他の店も見てみるか?」


「そうしよっかな、なるべく今日で決めちゃいたいし」


 結局は他の店も見て良いのがあったら即決という事にした。




「外暑いねー、歩いてるだけで汗出て来ちゃうよー」


「ほんとだなぁ、今年も暑いからイベントの時とか気を付けるんだぞ」


 今日も日本全国で真夏日、汗は出るわ日差しは熱いわで歩くだけでも嫌になる気温だ。しかし渋谷の街は休まない、そこかしこに小学生から大学生、社会人の若者がショッピングや街歩きを楽しんでる。むしろ夏で暑いからこそ活動的になれるのかもしれない。


「そういや予算はいくらぐらいなんだ?」 


「金額は決めてないよ、とにかく配信がスムーズに出来るのが最優先!」


 パソコンは上を見たらキリがないと言われる商品だ、用途別でも欲しいスペックの内容が変わって来るし、物によっては1000万円だって超えるパソコンすらある。


 エリスが必要なのはデュアルモニター対応で処理速度も速く、様々なゲームが問題なく動いて配信に一切の支障をきたさない性能だ。こうなるとそこそこ限られてしまうだろう。


 良いのが見つかるまではハッピーリレーの配信ルームを使うという方法もあるが、配信の度に事務所まで来るのはキツイし疲れる。


「ここなら良いのあるかもな」


「ビビっと来るのあれば良いんだけどなー」


 2件目を回り良さげな物がなく、そしてパソコン専門店に足を運んだ時に衝撃的な話を聞かされてしまった。



「お客様がお望みのスペックのパソコンは現状では何処も用意するのは難しいと思います」


「えっ!?」


「何でですか?」



 灰川が聞くと店員は、今はパソコン製品が飛ぶように売れてるらしく、高性能な物はパソコンも部品もガンガンと売り切れになってるらしいのだ。


 国際経済的な理由とか、海外客に売れてるとか聞かされたが、とにかく三ツ橋エリスの使用に耐えられる性能のパソコンは手に入らないし、いつ買えるようになるか分からないと言われてしまった。


 確かに思い返してみると、家電量販店のパソコンコーナーも高性能な物は軒並み売れてしまってた気がする。


「どうしよう!? パソコンないVtuberとかシャレにならないよっ!」


「Vtuber、パソコン無ければただの人、って感じだなぁ」


「ムカつく! でもそうかも!」


 歩いて灰川事務所に向かいながら焦りは募る、市乃は追い詰められた状況だ。パソコンがないと配信は出来ないし、会社の配信ルームだって今の時期は常に開いてるとは限らない。特に枝豆ボンバー!やボルボルが、エアコンが涼しいからという理由で会社に来て1日中配信してる事とかある。


「焦っても仕方ねぇって、秋葉原とか行けばあるかも知れねぇしよ」


「うん…、でも早めに欲しいなー、2時間以内くらいに」


「焦ってるな~」


 そんな話をしてる間に事務所に到着して、市乃も中に入れて涼む。エアコンを点けて涼しい風を浴び、一気に汗が引いてく感覚が気持ち良い。


「あっ、そういや俺もパソコンの確認しようとしてたんだった!」


「えっ? 灰川さんパソコン買ったんだ」


「買ったんじゃなくて仕事の関係で(もら)ったんだけどな、まあ少しは良い感じのパソコンらしいぞ」


 タナカから高性能なパソコンを送ると言われてたから灰川は少し期待してる、もっともプロのVtuberの使用に耐えられるような性能じゃないのは予想済みだ。恐らく素人としてはそれなりに良い感じの物を送ってくれたのだろう。


「こうして、こーして、こう! よし出来た!」


「けっこう大きいねー、どんな感じなんだろ?」


「初スイッチオン! 俺の新しいパソコンちゃんの初起動だぜ!」 


 ウキウキしながら灰川はパソコンを起動する、やっぱり新しい機器は男の心をくすぐる物だ。


「お、起動早いな、SSDなんだろうけど、それにしたって早い!」


「1秒くらいで起動しちゃった!」


 起動させてから少し弄ってみる、試しにネットに繋いで動画とか見るがノータイムで再生される。ディスプレイモニターも付いて来ており、4K動画も8K動画もノータイム再生、シークバーを動かしてもノータイムで視聴できる。


「おおっ、良い感じだな!」


「8K動画もノータイムなの!?」


「色々とアプリケーションが入ってるな、Vtuber会社の関係者って事で気を利かしてくれたんかな」


「あっ、私が使ってるライブ2Dソフトとか3Dソフトも入ってるよ、このパソコンで動くのかな?」  


「ちょっと試してみるか、ネットから適当に3Dモデルをダウンロードして~…」 


「何これ!? かなり重い3Dデータがクリックと同時にダウンロード完了したよっ!?」 


 市乃が驚いてるが灰川は『最近のはそういう感じなんだろ』みたいに思ってて驚きはしない、テクノロジーの進化に一々驚いてたら今の時代はカッコ悪いとか考えてる。


「おお! 試しに100人くらいの3Dモデル動かしても問題なしかぁ、最近のパソコンは凄いなぁ!」


「…………」


 アプリケーションの下の方には遅延0,000という表示が出てる、タスクマネージャーを開いてみるとCPU、メモリ、GPU使用率は0,1%以下、試しにネットワーク再生してみても全く負荷が掛かってない。


「は、灰川さん! ちょっと触らせてくれない!? ちょっとだけで良いから!」


「お、おう、良いけどよ、なんでそんな驚いてるんだか」


 市乃は大容量USBをパソコンに差して三ツ橋エリスの2D3Dモデルのデータを灰川のパソコンにコピーする、そこから市乃は自分の分身とも言えるエリスを動かし始めた。


「おお、良く動くな、プロのパソコンには及ばないだろうけどよ」


「…………」


 画面の中のエリスはダンスをしてる、動きも良いし遅延は変わらずゼロだ。カクつくことも無いし、まるで生きてるかのようですらある。


 このダンスはエリスのチャンネルでも公開してあり再生数は300万以上だ、動画で見るより良い感じがする。


「あっ、ウェブカメラとマイクもある、じゃあカメラを起動させてモデルと同期させて~~……」


「おいおい、勝手に触って壊すなよ?」


「こんにちわっ、三ツ橋エリスだよー! 今日は新しいパソコンで配信しちゃうよー」


 市乃が配信の感じで喋ってニコやかに楽し気な表情になる、画面には配信で見るような三ツ橋エリスの映像が映っていた。


「おお!動くじゃねぇか、このパソコンあったら俺もVtuberになれちゃうかもなっ!」


「…………」


 三ツ橋エリスの配信3Dモデルを動かしてみると、細やかな動きや仕草、表情の機微、全て問題なく動作してる。むしろいつもの配信で見るより良い感じにすら見える。 



 エリスは驚いていた、灰川が誰かから貰ったというパソコンは確かに高性能なのだが、余りにもVtuber配信に適してると感じたのだ。


 ネットワーク遅延は何をやってもゼロ、ダウンロードは爆速を越えたノータイム、高性能スペックを要求されるゲームより遥かに重くなるであろう100近い3Dモデルを同時に激しく、別々の動きをさせても負荷はゼロでグラフィックボードすら使わないレベル、凄まじい性能だ。


 これはつまり、何をやっても問題なく作動するし、何をやっても負荷が無いという事だ。パソコン専門店で最高のパソコンに最高の部品を載せたって、ここまでの物に仕上がるかは疑問だ。


 全てが相互に悪影響を及ぼさず、最高の性能を遺憾なく発揮し、パソコンという名の芸術品とすら言えるレベルだと感じる。市乃はVtuberだから配信に適したパソコンを見る目はあるし、そうでなくとも最高の品だと感じる出来だ。 


 何より驚いたのは配信の画面にして試しにVtuber配信画面を起動して動いた時だった、見慣れたはずの三ツ橋エリスの配信3Dモデルを見て驚愕した。姿形は同じなのに全く違うのだ!


 表情の動きに柔らかさが宿ってる、表情から今まで以上に感情の機微が読み取れる、声が透き通るような質になってる。全てが今まで使っていたパソコンの遥か上の謎の性能、Vtuberのために作られたとしか思えないパソコンだ。


 さっきから市乃の感覚にビビっと来た回数は数えれないくらいだ、衝撃的な出会いであり、即座に灰川に向き直った。



「灰川さん! これ何処で買ったのっ!?」


「え、いや、だから貰い物だって、なんでそんなに驚いてんだよ?」


「誰から貰ったのっ!? すぐにその人紹介して!」


「お、おい! 落ち着けって!」


 真面目な顔でそんな事を言ってくる物だから、灰川は驚いて身じろぎしてしまった。


「それは秘密なんだよ、絶対に言う事は出来ない。だから聞き出すのは諦めてくれ」


 このパソコンは国家超常対処局という秘密機関から貰った品である、怪人Nを倒したお礼の品だ。それを説明する訳にはいかないから、正直に『言えない』の一点張りで通した。


 興奮気味の市乃をどうにか説き伏せて落ち着かせると、次は灰川が予想してなかった言葉を息を荒げながら言った。



「灰川さん! このパソコン売って!」


「やだよ! 良い感じのパソコンって今は全国で売り切れじゃんかよ!」



 このパソコンに関して灰川は実は以前に電話でタナカから概要を聞いていた、しかし深夜に寝てる際中に掛かって来たものだから全く内容を覚えてなかった。


 タナカは灰川がVtuberに関係した仕事をしてるのは知ってたが、実はVtuberやパソコンに詳しくなく知ってる事は少なかったのだ。元々は彼は外国で傭兵をしてから、裏社会で闇霊能者になったという経歴があり、そういう物には(うと)かった。


 だが怪人Nの討伐の際にNに攫われてしまった後に救出したタナカの部下が、凄腕のハッカーであり世界有数のパソコン知識を持ってる人材で、Vtuberにも詳しい人物だった。


 その彼が灰川に強く恩義を感じて、礼の品として渡す物がパソコンだと知り、自分と凄腕ハッカー仲間が持ちうる最高の技術と知識を詰め込んだパソコンを用意しようと決めた。


 しかしVtuberやパソコンの事などをよく知らないタナカが部下に話した所、灰川がVtuberだと勘違いしてしまい、彼は世界最高のVtuber配信が可能なパソコンを作り上げる事を目的としてコレを組み上げた。


 3D2Dライブソフトアプリケーションは彼が既存ソフトと互換性を持たせつつ、1からプログラミングして超大幅に改良されてる。


 空間黄金律や表情の芸術的動作の解析機能、本人の動きの精細な投射をしつつ不自然さや動きのノイズをキャンセル、その他にも数え切れないくらいのVtuberにとって夢のような機能が載せられてる。


 つまり3Dモデルを最大限に生かしつつ可愛さや格好良さ、感情表現を芸術の域に昇華し、あらゆる魅力を最大以上にすら引き出すものになってるのだ。


 性能面ももちろん(こだわ)った、というか製作者の彼はPCを組んでる内にだんだん楽しくなって来て、あらゆる部分に一切の妥協なく組み上げてしまった。 


 0,01秒のズレすらないノータイム動作は基本、各機材が悪影響を与えないよう部品の素材構成分子レベルで最高の相性の機材、Vtuber配信ソフトやライブ3D2Dソフトには高性能サポートアプリケーションに更に、サポートAIを付けて最高以上の動作を実現させてる。


 もちろんカメラも最高の物を改造した物で、動作モニタリングの正確さは映像関係のプロも驚くレベル。マイクはノイズなど心配する必要がなく、単なる溜息(ためいき)ですら魅力を感じてしまうレベルの性能に改造されてる。


 ここにあるのは世界に一台しかない最高のVtuber配信パソコン、パソコン技術者が裸足で逃げ出すレベルの逸品に仕上がっていた。現代の技術では量産不可能な物である。


 製作者のコンセプトは1000年使えるVtuberパソコンだ、その性能の一端(いったん)に市乃は触れてしまった。しかし灰川は普通のちょっと良いパソコンくらいに思ってる。


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[一言] 宝の持ち腐れってこういうことよねwww
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